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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
45/222

ポリア特別編サード・上編

ポリア特別編:悲しみの古都オールドシティ





                    ≪隠されし扉≫







ポリアは、アランに囁いた。


(先生・・・あの石像には、何か仕掛けが在るのではありませんか?)


アランは、そう云われてポリアを見る。


「“仕掛け”・・・のお。 どうして、そう思うんじゃ?」


アランが小声ながらに聞き返して来る。 ポリアは、アランの脇で石像を見上げて。


「いえ。 今の罠なんですが、この場所には不釣合いです。 只の神殿で、石像を盗むのは考えられ難い事。 その石像に、態々宝石の様な魔力の篭った水晶を埋め込んで罠を仕掛けるだなんて・・・。 何か秘密が在って、その秘密を探る者に罠の恐怖を与える仕掛けなのではと思って・・・」


「ふむぅ」


アランは、ポリアの言葉に可能性は在ると考えた。 こんな石像など骨董としての価値を見出せるのは、年数的からしても今頃に為っての事。 罠が仕掛けられたのは何時頃か解らないが、仕掛けたのが超魔法時代だとするなら、ポリアの言う通りに些か不自然と云える。


ポリアの言葉を逸早く信じたオッペンハイマーは、ポリアとアランの間を抜けて石像に近付き出しながら。


「調べてみましょう」


こうして、罠を発動させた石像を調べる事に。


一方、地上部では・・・。


「後で都市部に連行して、ショーター様から直々に取り調べて貰う。 お前達、盗賊だったら縛り首だぞっ!」


3人の曲者を捕まえた役人二人は、ポリア達が降りた亀裂近くの所に3人の曲者を縛り付けて座らせて言う。 ダグラスとイルガの御蔭だが、明らかに曲者達を見下ろす役人達は、さも自分達が掴まえたかの様な素振りだ。


ダグラスは、覆面を剥がされた男達を腕組みで見ている。 ロープの縛られた石柱の近くで、イルガと並んで遠目に。


(オッサン、あの捕まった3人・・・どう思う?)


イルガは、少し警戒を強めて辺りの気配を伺いながら。


(ウム。 お主にヤられたあの二人は、人相も態度も悪いし何処かのゴロツキか、盗賊かも知れん。 だが、わしに気絶させられた男は、身じろぎもしないで黙っとる。 度胸も据わっとるしの、見た所・・・冒険者か・・・主従持ちの用人の様な印象じゃな)


ダグラスは、そのイルガの言葉を聴いて。


(そうか・・・。 確かに、あの俺と話した時のあの男・・・、冒険者の剣士にしてはど~にも腕が無さ過ぎると思えた。 だが、動きに無駄が在る訳では無いし、話してて一角の人物とも見れたんだよな~。 そうか、貴族や商人の用人か)


(いや、まだそうと決まった訳ではあるまい。 わしは、見て思ったままを申したまでだ。 とにかく、掴まえた以上は役人に任せよう)


(ああ」


冷たい路面に座らされた捕まった曲者3人。 ブルブルと震えて、役人に許しを請う二人の手下の様な曲者に対し。 ダグラスと対峙して話し合ったあの男は、ピクリと身動ぎもしないで座っている。 


ダグラスは、遠目から瞑目して動かないその男を見つめた。 男は、後ろに撫で付けた髪型で、細面の中年。 垢染みた様子も無く、身を崩して人の道を踏み外したという雰囲気が感じられない男性だった。 ダグラスには、この人物が盗賊とは思えなかった。 確かに、イルガの言う通り。 貴族や商人の執事でもやっていそうな用人の様な雰囲気が在る。 知性の漂うインテリ肌の人物に見えるのだ。


(もし、イルガのオッサンの言う通りだとしたら・・・、雇い主は誰だろう。 いや、そもそもゴロツキみたいなのを雇って、何でこんな所に出て来たんだ? 見た所、此処で住んでいる様な印象も無いし・・・。 気に為るな・・・)


ダグラスは、その場違いな場所に場違いな人物が居る事に直感的な違和感を覚えた。 だが、今回はアランとオッペンハイマーと云う主導人物が居る上に、面倒なスコットとショーターと云う役人まで居る。 下手に動く事は出来ないし、捕まった者達の事に首を突っ込める筋合いでも無い。


だが、ダグラスは気に為った。 不自然・・・それだけでは言い表せぬ不協和音の様な胸騒ぎがしたのである。





                      ★




「ほぉ~、流石に冒険者として名が売れ出したチームだけあるわいさ」


喜んで言うアラン。 備に調べたオッペンハイマーが石像の裏に隠されたレバーを見つけ。 そのレバーを押し込む事で、対と成っていた魔法使い風の石像が動いて地下道が現れたのに驚いて見せたのだ。


ポリアは、喜ぶよりも寧ろ不気味と思えて。


「先生、こんな所に隠し通路とは・・・不思議な感じがしますが。 此処は、只の寺院ではないのですか?」


「ふむ・・・。 寺院とは表の顔で、裏では人身売買や盗品の取引が行われるのは今でも在る事。 此処は、只の寺院では無さそうだの~。 じゃが、全ては実証たる発見から推察するのが基本。 とにかく、中に行ってみよう」


「解りました」


見ていたショーターは、気の付いたスコットを支えながら。


(冒険者風情と言えど、今回は侮れん・・・。 まさか、本当に見つけるとはな・・・)


ショーターの目は、ポリアに向いていた。


ポリアは、仲間と話し合いながら、同じ隊列の並びで先行することを決めた。


現れた通路は、幅が狭い。 アランとポリア二人が並んでギリギリだろう。 魔法に掛かったスコットがフラフラしていて、ショーターか役人の支え無しでは歩行が遅い。


ポリアは、ショーターに。


「館長さんを連れて行くかどうかは貴方が決めて。 狭い通路で、足手纏いが道を塞ぐ可能性も有るから、慎重に話し合ってね」


と、言っておいてから。 アランに。


「先生、では、行きます」


「うむ」


アランも、スコットとショーターを見て。


「世話の焼ける御仁じゃ。 だが、自分の判断はしっかりせいよ」


と、ポリアの後ろに続く。


見ているショーターは、周りに立つ役人二人に。


「館長を頼む。 俺は、先を見てくる。 自分で歩ける様に・・・」


と、ショーターが言っている時に、スコットは青白い顔をショーターに向けて。


「ええぃ、ウルサイっ。 早く行けっ・・・。 わ・・私は、少し休んでから行く」


と。


ショーターは、この期に及んで良くも空意地が出るものだと呆れながら。


「解りました。 では、先に行きます。 くれぐれも、足手纏いに為らぬ様に休んでください。 見つけた物は、持ち帰ります故に」


冷や汗を掻いて床に座ったスコットは、ショーターを見上げて。


「しっかり見張れよ。 あの冒険者達をなっ」


ショーターは、頷くだけだった。


結局、スコットは一人で残ると言うので、連れて来た兵士を一人残し。 ショーターは、残りの二人の兵士を連れてポリアの後を追い始めた。


さて。 大きな石のブロックを積み上げて作られた通路の壁は、黒く鈍い光を湛える。 踏み込んだポリア達の足音だけが、暗い闇に木霊し。 光の小石から放たれる光が、鈍く先を数歩ぶんだけ照らしている。


ポリアは、歩調をゆっくりにして、上下左右に気を配りながら歩いて行くと・・・。


「開けてる・・・」


一段低い間に踏み込むと同時に、左右の壁が見えなく為って閉鎖感が無くなった。 ポリアの後から踏み込んだアランは、足の下に積もった埃の絨毯が有ると感じながら。


「フム。 此処は、何じゃろうか。 埃が体積している以上、外部からの進入が他にも可能なのかも知れない。 此処まで来る時の回廊には、埃は少なかった。 どれ、調べよう」


と、言う。


ポリアは、足元に光を向ける。 確かに、埃が堆積していた。 床一面を覆うくらいである。


其処へ、次々とオッペンハイマーや他の皆が踏み込み。 そして、ゲイラーが一番最後に入って来て。


「何だか、空気が淀んでる感じするゼ」


マルヴェリータとシスティアナは、オッペンハイマーに着いて動く。


埃を確認したポリアへ、アランが辺りを調べながらにこう言った。


「埃とは、意外に情報を齎す物なんじゃよ。 普通、埃は何処にでも貯まる。 それは、空気に埃が含まれていて、風で運ばれるからじゃ。 ワシは、数多くの遺跡や洞窟を見回ってきた。 この埃は、様々な物を訴え掛けてくる物なんじゃよ」


ポリアやヘルダーは、埃を見る。


アランは、壁際に光を向けて。


「例えば、先ず埃を生むのが蜘蛛の巣じゃ。 空気に含まれる埃を受け止めて、時期に重さで落ちる。 じゃが、蜘蛛とて生き物。 食べ物の無い所には入って来ん。 蜘蛛の巣が有る様ならば、ワシ等が進んだ道以外に道が有る可能性が有る。 例えば、壁の損傷、隠し通路、窓、空気穴などな。 蜘蛛が侵入出来て、尚に餌も侵入するから蜘蛛も居付く」


ポリアやヘルダーが、後ろから来たゲイラーと共に上を軽く見回すが、蜘蛛の巣などは見当たらなかった。


「無いぜ。 センセーよ」


と、ゲイラーが言えば。


アランは、床の埃を屈んでは掴み。


「次に。 埃自体を見るのも重要じゃ。 蜘蛛の巣に付着して落ちた埃は、色が変色して纏まりが見れる。 逆に白っぽい埃は、もう分解されきった物。 例えば、木や紙なども朽ち切って分解されると白っぽくなる事がある。 埃は、風の無い場所では、人なり生き物が動かないと広がらないのも特徴じゃ」


ポリアは、埃を足で触る内に埃の高さが違う事に気づく。 微々たる違いだが、光を当てると確かに積もり方に小さな高低差が。 直ぐに、アランに向いて。


「先生、埃の積もり方に高低差が在るのは?」


「フム。 弱い風が吹いていたのか。 水が流れていたとか。 他には、蛇の通り道も高低差が出来る事が有る。 洞窟などに住む蛇の種類には、団体で生息し。 仲間の通った道を後から辿る習性を持つのも居るからの」


だが、ポリアはその埃の堆積の仕方が気に為った。 場所場所で、小さな山を作る様に積もっている。 


(上?)


ポリアは、光を上に向けて天井に抜ける闇の空間をマジマジと見た。 すると・・・。


「あっ」


小さく声を上げて身動ぎをしたポリアに、ゲイラーが近寄り。


「どうした? 何か在ったか?」


その様子に、アランやマルヴェリータ等もポリアに向く。


ポリアは、暗闇の宙に走る黒い帯を指差して。


「あ・アレっ」


皆、光が僅かに照らし出す物体を見て、言葉を無くした。


其処に、遅れてやって来たショーターと兵士二人が到着して。


「お、此処は開けてるな。 おい、何か在ったか?」


ポリアは、ショーターに向いて。


「此処・・・拷問部屋みたいよ」


ポリアの方に近寄ったショーターは、その足をピタリと止めた。






              ≪神殿の暗部は、異質な暗闇に包まれる≫






外でロープを見張るダグラスとイルガは、兵士達のイジメを止めて疲れていた。 


ロープを見張る兵士二人は、縛られて動けない曲者3人に優越感を覚え。 尋問紛いに槍で突いたり、頭を叩くなどする。 フラストマド大王国は、行き過ぎた取調べはご法度に為っている。 以前に、ポリアがその現場を見て押さえきれず、イルガと二人で偉い何者かを頼って役人を裁いた事もある。


ダグラスは、曲者3人を雪の吹き付けない場所へと移動させた。 崩壊の在った建物の中でも、形の残る軒下に3人を移動させてから、イルガの元に戻り。


「役人とか兵士ってのは、何ともいけ好かないな。 全く、大人のする事か?」


と、イルガにムカついた心情を小声で言う。


対するイルガは、ダグラスに怒られてフテ腐れた態度を仕草で表現している兵士二人を見つめて。


「一方的な状況では、本人の持つ様々な顔が現れるものだ。 特に、権力の中に身を置く者ほどその傾向は千差万別。 止めた御主もその本質を現し、向こうも同じ事よ。 ま、御主のした事に間違いは無い。 お嬢様が残っていても、同じ事を言われて止めるだろう。 人を思った行動に対し、相手がどう応えるかはそれぞれだが。 道を外した応えは自分を滅ぼすのみ。 とにかく今は、お嬢様達が戻るのを待つのが仕事よ」


その話を聞くダグラスは、イルガのポリアに対する忠誠心が並大抵では無いと思える。


「オッサンのポリアに対する姿勢も随分だと思うゼ。 良く疲れないな?」


するとイルガは、フッと顔を綻ばせる。


「最初は、お嬢様を何時説得して戻って貰うか考えて居った。 だがな・・・。 ケイに出会い、羽ばたき始めたお嬢様は、どんどん強くなる。 そして、ワシも若かれし頃に抱いた冒険者としての夢を、今に為って満たされるとは思わなんだよ」


「オッサン・・・アンタ」


ダグラスは、イルガが前にも駆け出しの冒険者として生きていた事は知っていた。 一度諦めてしまった夢を、今に他人で掴んだのだ。 イルガは、ポリアを命懸けで守る気構えは誰にも負けない。 ポリアもまた、丸で絶対的な信頼で結ばれた家来と云うか、お供としてイルガを大切にして頼る。 チームの皆でも、この間に踏み込めるのはシスティアナとマルヴェリータぐらいだ。


ダグラスは、チームに入って半年以上もこの関係を見続けてきた。 ゲイラーは、簡単に出来る事では無いと関心していたし。 ヘルダーは、見習うぐらいの気合でポリアに心酔している。 ダグラスからすれば、その仲間の様子が馬鹿らしいと思える処が在る。 だが、しかし。 ゲイラーにしろ、ヘルダーにしろ、その真っ直ぐな所が逆に戦う戦士としての技量を伸ばす切っ掛けに為っている。 ダグラスは、置いて行かれた形だった。


(俺は、何処か間違っているのか? 俺は、ゲイラーやヘルダーの様には成れない。 ポリアは、其処も理解してる。 俺は、・・・・許容されてこのチームに居るだけに過ぎないんだ)


ダグラスは、表情を寂しくさせて、捕らわれた曲者を見る。




                    


                      ★





さて、暗闇の迷宮の様な神殿内部に踏み込んだポリア達。 ショーターは、天井の上に這わされた鎖を見て驚いた。


「なんだっ、あの錆びた鎖は・・・?」


ポリアは、自分の視界の先にぶら下がっている手械の付いた鎖を光で照らし。


「見て、拘束具。 吊り上げる鎖も向こうに見えるわ」


ショーターは、アランに踏み寄り。


「此処は、一体・・・?」


アランは、その黒く錆びた鎖を見上げながら。


「さあ。 人を捕らえておく所・・・には間違い無いの。 今、光の動きでチラリと見れたが、向こうに人を拷問する器具が見えた」


ゲイラーやヘルダーが、その異常な道具の存在に警戒し。 ポリアは、光を廻らせてその器具を探す。


其処へ、オッペンハイマーが興奮の声で。


「アラン殿っ、まっ・・・まさか、此処はあの・・秘密組織の塒ではっ?!」


“秘密組織”。 オッペンハイマーの口から飛び出した言葉は、皆を引き寄せるに十分だ。


だが、アランは。


「あの憶測に存在する集団か? 確認されているのは、奇妙なマークだけだ。 確証など、何処にもないのだぞ」


しかし、オッペンハイマーは、寧ろ発見したとでも言いたそうな素振りで。


「此処っ、此処で見つかるかもっ。 調べましょうっ、その為に来たのです」


だが、アランは渋い顔で頭を振り。


「いや、先ずはこの神殿の構造を少し見回ろう。 本格的な調査は、軍に此処を守って貰える様に手配してからで十分じゃ。 何日も此処に居続ける用意はしとらんし。 今回の目的は、此処が大まかな調査対象と成り得るかどうかの斥候作業じゃよ」


オッペンハイマーは、身悶えするような素振りで渋々黙る。


だが、ショーターは、アランに顔を近づけて。


「アラン殿。 その“秘密結社”とは何なのだ? 私は、軍を動かすにしても詳細な報告を求められる。 説明はして欲しいのだが」


アランは、何か非難すら滲む目でショーターを見てから、視線を外してオッペンハイマーに向けると。


「彼に説明して貰いなさい。 私は、未だに信じていないのだから」


全員の目が、オッペンハイマーに向かう。


「・・・。 ポリア、向こうに光を向けて貰っていいかな?」


オッペンハイマーは、アランが拷問器具を見つけた方向に指を向ける。


「はい」


ポリアは、光をそっちに。 アランも向け、マルヴェリータも向けた。 ショーターは、スコットの為に光の小石を置いて来たので、ポリアの横まで・・見える所まで歩く。


オッペンハイマーは、ポリアの光を向けた先に歩き出す。 そして、壁際に向かうと、埃を被った黒い何かを見て。


「ああ・・・ああああ・・・こっ・コレは・・・」


と、慌てた様子でその黒い埃を被った物に飛び付き。 大慌てで埃を払い始める。


見ていた一同は、ポリアとアランが近付くのに合わせてオッペンハイマーの近くに歩み寄った。


「ポリア、アレ・・・何?」


マルヴェリータが、耳打ちする様にポリアに言った。


ポリアは、解らずに首を振る。


オッペンハイマーが埃を払うのは、鋼鉄の箱型をした物だ。 赤茶けた錆びを表面に葺くその物体の大きさは、ポリアの背丈よりも高く。 埃が払われるに遵って解るのは、棺の様に大まかな人型の形をしていると云う事だ。


システィアナは、何か怖い感覚を覚えたのか、怯え出してゲイラーの背後に隠れる。


アランは、その鋼鉄の箱型をした物の正面の腹辺りに両開き出来る取っ手が在り。 上部の頭型をした丸い箱の所に、星型のマークをしたエンブレムを見つけると。


「あぁ・・・。 これでまた、確証が持てるのか」


と、感嘆たる言葉を吐いた。 項垂れて、何か拒む様子が滲む。


ポリアは、アランが何故に嘆いたのかを疑問に思いながら。


「オッペンハイマー様、コレは一体・・・」


埃を払い落としたオッペンハイマーは、ポリアを見て。


「聞く前に、コレを見なさい」


と、その重そうな鋼鉄の取っ手を握り、扉を開こうとする。 だが、扉を開けずに重さに唸るオッペンハイマーで。 それを見たゲイラーが、非力なオッペンハイマーを見兼ねて。


「教授、俺が開こう」


と。 だが、ゲイラーの服をギュッと握ったシスティアナが居て。


「システィ? どうした?」


と、ゲイラーが止まる。


ヘルダーが人型の箱に近寄り、オッペンハイマーに力を貸した。


ーギギギィ・・・・ー


錆びた鉄の擦れる音が軋み、開かれた中を見た一同は・・・。


「コ・・・・コレはっ?」


「何よっ!! コッ・・・コレ?」


皆が驚く中。 システィアナは、ギュッと眼を瞑ってゲイラーの後ろに隠れる。


システィアナの様子と箱の中の異常さに、ゲイラーは言葉を失った。


オッペンハイマーは、箱の前に屈む。


「この器具は、“鉄の脅迫者”・・もしくは、“鉄の尋問官”と記述が残る。 過去、人と人が激しく争った戦争時代、捕虜を尋問するのに考案された拷問器具だよ」


ポリアは、そう説明されても異常だと身の毛がよだった。 その鉄の箱の中は、鋭い鉄の棘が無数に作られていて。 頭部の正面には、閉めると顔に向けて落下する棘の落し蓋までもが・・・。 こんな物の中に入れられて扉を閉められたら、体中が穴だらけに為る。


ショーターも、口に手を当てて気分を悪くしながら。


「コ・こんな物で尋問だと? 秘密吐く前に死ぬぞ・・・」


オッペンハイマーは、皆に在る推論上の昔話をし始める。


今から、凡そ300年以上前。 この大陸に、超魔法時代と云う魔法の隆盛期を迎えた時代が在った。 その時代で、何か異常な現象が起こり、時代の時間が乱れて長い天変地異が続く時代が在ったと云われる。 魔法遣い達が激減し、古代魔法を超えた超魔法の技術は殆どが消し飛んだ。 技術は、その異変を掻い潜る防御魔法の施された遺跡などのみに残り。 技術の解析は、事実上で不可能と成った。


大異変の影響か・・・。 時間が止まった不遇の時代とされる間の事は、記録的な物は何一つ残ってはいない。 その間、人がどう暮らしていたのか・・。 誰にも解らない。 ただ、今に時間が経過して、季節が巡る世界が戻った以上。 その不遇の時期は、過ぎ去ったと云う事だろう。 この時期の事は、前にKが一瞬だけアデオロシュの城へ行く途中で触れていたのと同じ事である。


さて。 


超魔法時代の頃を探る研究が始まったのは、ほんの100年ほど前からだ。 依然として、魔法学院自治州カクトノーズは、その研究に介入せず。 民間の学者や魔法使いが調べるのみの状態だ。 各国も、恐ろしき破滅の力を秘めた超魔法に介入するのを誰も推奨しない。 滅びたくないと云う暗黙の了解で、誰も推進しないのだと思われる。


所が、近年。 その調査に進展が見え出した。 アランの様な、優秀で冒険者としても調査する学者達が登場し。 国の一部で、その恐ろしさと復活の断固たる反対の為に、当時の遺物を発掘しようと動く事になった。


その発掘の現場にて、時折隠された部屋で発見されるのがこの拷問具。 人と人が戦争をしていたのは、超魔法時代の更に前。 その後にまで戦争を続けていたのは、一部の僅かな国のみと成っていた。 超魔法時代には、魔法で拷問をせずとも口を割らせる方法が考案されており。 拷問器具を使ったと思われる形跡が無い。 なのに、何故かこの様な拷問器具が存在するのだ。 研究者達の間で憶測や推論が幾度と無く交わされて、秘密組織の存在と否定に対する不確証の論争が続いた。


だが、在る学者が、拷問器具に彫り込まれた星型のエンブレムに注目し、一つの見解を出した。 それは、超魔法時代に魔法の隆盛と逆行する何かの一派が居たのではないか。 そして、その一派は、迫害をされて凶暴な異端集団を形成したのではないか。 恨みを持つ魔法遣いに対して、現実的な痛みを与える拷問を推奨したのではないか・・・と云う仮説である。


根拠の一つは、拷問器具と云う古風で誰にでも取り扱える器具や用具を用いてる点。 そして、必ず使う器具に掘り込まれる星型。 更に、何か異様な研究を行っていた形跡を残す事などを上げた。


オッペンハイマーは、その見解に賛同している。 何故なら、魔法は先天的な素質要素が全てであり、後天的な要素は努力と云うより魔法の研究にある。 つまり、入り口として魔力と云う先天的な素質を有さなければならない訳だ。 だが、誰にでも扱える用具や用いる事の出来る器具は、先天的な適正よりも、寧ろ後天的な努力や理解力や勤勉さが求められる。 つまり、努力と理解力を高めて知識を得れば、誰にでも仕える訳だ。


次に、オッペンハイマーが見るのは、紋章・・エンブレムだ。 超魔法時代の魔法使い達は、挙って自分オンリーの独自なエンブレムに拘り。 自分の名声と共に平民から出世すると、個人個人で独創的なエンブレムを創り家紋として誇張した風潮がある様だ。 それに対して、この拷問器具を用いる何者か達は、星型のエンブレムを唯一とし。 他に象る紋章は見られない。 つまり、思想なり信念なりに統一性が見られる。 個人主義の魔法遣い達とは、明らかに違う。


最後に、オッペンハイマーが見るのは、その秘密性だ。 魔法遣い達は、自宅や別荘に個人の研究室を持ち。 他人とは協力して研究をしない傾向がある。 若しくは、弟子を取って師弟間のみの集団を形成して研究する。 だが、この謎の秘密組織は、必ず公共の施設や地下水路などに秘密の会合場所と研究室を設けている。 幾つか発見されるその場所は、何処も似た様な場所で、煌びやかな魔法遣いの研究生活、個人主義的な研究生活とは食い違い。 何人かで纏まった組織的な研究でもしていたのではないか・・・と考えられるのだ。


オッペンハイマーは、黙るアランを見てからポリアを見る。 その顔は真剣な顔であるが。 何処か狂信的なまでに何かを信じる偏執的な強さを滲ませるもので。 ポリアは、叔父がその研究へ密かにのめり込んでいる感じを受ける。


オッペンハイマーは、黙る皆を見回して。


「また、こうして器具が見つかった。 これは、秘密裏に存在した組織を窺わせる。 神殿と云う場所は、超魔法時代には民間人か僧侶しか来なかった場所だろう。 だから、この秘密組織は、此処を隠れ蓑にしていたんだと思う」


ゲイラーは、システィアナが拷問器具を異常に恐れているのを見て。


「教授。 そのおっかない器具は、実際に使われていたのか?」


オッペンハイマーは、グッと立ち上がった。


「当たり前だ。 現に、この器具に付けられた棘は、先端の腐食が激しいし。 中の隅っこに、蝿の幼生が干からびてミイラ化した物まで残ってる。 恐らく、何らかの目的で使われてた可能性は高い。 拷問か、殺害かは解らないが」


ゲイラーは、それで納得した。


ポリアは、ヘルダーに。


「その扉閉めて。 システィが怖がってる」


ヘルダーは、頷き扉を閉めた。


終始黙るアラン。


ポリアは、アランを視界に入れた。 


(先生は、どうしたのかしら。 いきなり黙って・・・)


それがポリアにとっては、一番の不可解である。


一方、オッペンハイマーは、棺の様な鋼鉄の拷問器具に彫り込まれた星型のエンブレムを見て。


「あああ・・・現実にこの目で見る日が来るとは・・・。 間違い無い・・間違い無い・・・」


皆が、この異質な空気に言葉を繋げられなかった。

どうも、騎龍です^^。 更新が大幅に遅れて申し訳ありません^人^


 

ご愛読、ありがとうございます^人^

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