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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
44/222

ポリア特別編サード・上編

ポリア特別編:悲しみの古都オールドシティ






                ≪地下に広がる巨大神殿≫






倒壊した神殿が残る敷地内で、レンガ敷きの通りを崩落の衝撃で切り裂いたと思われる割れ目から、視界の悪い暗闇の地下に降りたポリア。 暗いながら広い空間が四方に広がっているのを、小石から放たれる光が闇に吸い込まれる感じでなんとなく解った。 


ただ、やはり歴史的な悲劇が在った場所だ。 降りた瞬間、暗く闇が広がる間の空気が何処と無く異質だと感じられる。


(不気味だわ。 丸で、滞った空気の流れと一緒に、時間の流れまで止まっていた様な雰囲気・・・。 人も生き物も棲めない場所って、こんなカンジなのかしら?)


シ~ンと静まり返る闇。 極夜が手伝う薄暗い暗闇の中に入る感覚が、こんなにも異質とはポリアも驚きだった。


「・・・」


辺りを見回すポリアの背後にヘルダーも降りてきた。


ポリアは、辺りを見ながら。


「ヘルダー、降りる人の安全を。 私は、辺りを警戒するわ」


ヘルダーは、静かに頷き。 ロープの伸びる上を見て合図を送った。


アランが調査隊としては先陣を切って降りる。


その時、ショーターが見張りに残す役人二人にロープの安全と維持を命じている。


さて、アラン・マルヴェリータ・スコット・システィアナ・ゲイラーと降りる始める中。 ポリアは、床に描かれた絵を見て怪訝な様子を見せる。


(何これ、悪魔みたいな絵が・・・)


光で照らしながら床を見ると、そこには強力な魔法を唱える怪物の絵が・・・。 人に対して唱えている訳では無さそうだが。 一際高く築かれた祭壇の上で、赤黒い夕闇の中、地割れや突風を伴う大魔法を唱える怪物が居るのだ。 高く掲げた杖に宿る魔法と、術者の怪物を中心に迸る青白きオーラがいかずちの如く。 魔法で起きる強風に揺さぶられる大木が、今にも折れそうな様子である。


「ふ~。 流石に寒いのお~」


アランが降りて言葉と共に白い息を長く吐き。 ポリアの光を頼りに向かって来る。


ポリアは、アランを見ずに。


「アラン先生・・、この床の絵は・・・悪魔ですか?」


「ん?」


ポリアの傍に来たアランは、怪物の絵を見て。


「おおっ、これはアスタロッテの絵じゃな」


「“アスタロッテ”?」


言葉を反芻したポリアの前に出たアランは、床に少し屈んで絵を観察しながら。


「超魔法時代は、神々より究極の魔道師が絶大なる栄光を得た。 その時代の魔術師の一人で、悪魔の力を吸収し、怪物と変わり果てたのがアスタロッテじゃ。 元々が大魔法遣いなのに、さらに上級の悪魔の力を手に入れた為に怪物の姿に成ってしまったらしいのぉ。 だが、正気は失って居らず、そのまま200年以上は最強の魔術師として君臨し続けたとか」


聴くポリアは、もはや姿はモンスターだと思いながら、一抹の嫌悪感を覚える。


「そこまでして・・・力を?」


「うむ。 このアスタロッテと云う人物は、何でも不遇の幼少を送り。 更には、貴族に対して異常な偏見と嫌悪を持って居たとか。 その筋の学者に由ると、恋人を奪われたと云う推測が在るそうじゃ。 だから、あの昔でも権力を牛耳る貴族社会を嫌って隠遁生活をしていたらしい。 そして、数々の研究の末に様々な大魔法を生み出したと云われる。 ま、文献が少なく、それ以上は解らないがの」


ポリアは、自力で高みを目指す以外に気持ちは動かない。


「何だか、可哀想な人ですね」


「かもな」


その時。


「おいっ、物品などには手を触れるなよ」


と、スコットの声がする。


降りていきなりの言い草に、アランはほとほと呆れてスコットを見る。 そして、ポリアに顔を向けずして。


「アヤツなら、同じ事をしそうじゃ。 ま、下級の悪魔の力を受け入れる器すらも無い奴じゃろうが」


小声のボヤキを聴いたポリアは、苦笑を返すだけだった。


さて。 ポリアは、ゲイラーが降りた所で穴の上を見上げた。


「イルガ」


「は、何でしょう」


降りる様子を見せていたイルガを上に見上げて呼んだポリアは。


「そのまま。 ロープの守りに加わって。 それから、ダグラスを呼んで」


「は、解りました」


スコットや降りたショーターなども見ている中で。


「ポリア、呼んだか?」


穴の入り口に姿を見せたダグラス。


ポリアは、ダグラスを確認後。


「ダグラス、イルガと上に残って」


と、云った後。 右手の二指で目を示し、左手でクルクルと円を描く。


見たダグラスは、頷きを見せて。


「そうゆう事か。 了解。 何か在ったら、叫ぶ」


「お願い。 もし、危ない場合は、役人の人やイルガと一緒に中に降りて」


「おう」


意味の解らない行動を嫌うショーターは、ポリアに寄り。


「何の真似だ?」


ポリアは、アランの横に移動しながら。


「見張りよ」


ショーターは、役人二人も上に残したのだ。


「我々の手勢が残った」


ポリアは、仲間の隊列確認をしながら。


「私のチームでは、私とダグラスとヘルダーがスカウト能力を見に付けてるの。 感知と捜索の技能なら、ダグラスは鋭い。 ここは、野党や危ない連中の隠れ家も在るんでしょ? ダグラスなら、盗賊が来ても見抜ける可能性が高いわ。 物音を立てない盗賊なんかを相手にする訓練をしてるの?」


こう言われたショーターは、返す言葉が無い。


盗賊などを相手にする時、一番危ないのはこうした遺跡を調査してる時。 盗賊は、先に入った者を見つけると包囲して待ち伏せする。 探してる時が、相手に有利な時間を与える。 


ポリアは、今まで何度も襲われてそれを知った。 ヘルダーがスカウトの技能を持っていて、その知識をポリアとダグラスが学んだのだ。 元々から感性の鋭いダグラスは、スカウトの技能を理解するのが早く、耳や目などもいいから上達も早かった。


ポリアは、状況で仲間の力を上手く使う。 イルガを残したのは、役人を守る意味も在る。 そして、イルガと云う人物は、ポリアの意思をよく理解した行動を選択する。 


ポリアは、アランの後ろにオッペンハイマーを置き。 自分がアランと平行し。 オッペンハイマーの後ろと横にマルヴェリータとシスティアナを来させて、ヘルダーとゲイラーに左右を守らせた。 


「アラン先生、どちらから?」


余計な指示の要らないポリアに喜ぶアランは。


「先ずは、奥。 此処が何か、それから調べる」


「解りました」


一方、ショーターは、残る役人でスコットを囲んだ。 そして、自分が先頭に成り、ポリア達の後を着いてゆく。


だが、ポリア達は辺りに気を配りながらも、前を見ながら落ち着いているのに対し。 ショーター以外の役人達は、何処と無く怯えている素振りで挙動がおかしい。 果たして、有事が起こったら使い物に為るのか疑問である。


さて。 光の小石を持つポリアを先頭に、アランと歩いて行くと。 どうやら、此処は本当に寺院か神殿の様な場所で在ると判り出した。 床に描かれた絵もそうだが、行き止まりまで行けば、壁には神々の姿が描かれていたりする。 只、ポリアやマルヴェリータは、アランと一緒に壁が直線状の広がりでは無く曲がっているのを見て。 此処は円形の場所ではないかと推察。 壁の延びるままに歩けば、天井が崩れて落下物が体積する部分も在るが。 楕円形の間だと解った。 


そして、この広間の北側と東側には、女神“アテネ=セリティウス”の像と、海神“ヨルビジョニス”の像が在り。 西側には、闇の神“ニュルハグルス”。 南には、美の女神“アフロディスディー”と云うエロチックな像が石造で安置されていた。


アランは、神々を祭る神殿だと解ると。


「ふむ、不思議だな。 最近では、信仰の薄い神々ばかりだ。 アフロディスティーが唯一か。 フィリアーナや、自然神はどうしたのだろう・・」


ポリアは、南の石造の脇に回廊を見つけ。


「奥では在りませんか? 此処は、倒壊している階段を見ても幅広い用意が在ります。 誰でも踏み込める場所だったとして、昔の記憶を留める何かが在るとするなら、奥かも」


「うむ。 かも知れん。 だが、この様な多神神殿は初めて見る。 もしかしたら、一つの神に対しての神殿を築く事を控えていたのかも知れん。 昔の情勢を考えるなら、神々への信仰が薄らいでいただろうから。 この新興都市には、信仰は余計なモノだったのかも知れないな。 何せ、神殿の床には、あの“アスタロッテ”の絵が在るんじゃからの」


オッペンハイマーは、興奮気味で紙の束に何かを書いている。 学者らしい行動だ。


だが、代わって博物館館長のスコットは、これらの石像を見ても詰まらなそうな顔をし。


「おいおい、石像などどうでもいい。 宝物は何処だ?」


と、アランとポリアに言うのだ。


アランとポリアが、その業つくな言い草に呆れ、彼を一瞥する時。


マルヴェリータは、冷ややかな目を布の隙間から覗かせて。


「あら。 博物館の責任者なら、この様な石仏や壁の絵にこの床の絵など最高の宝物では? お金に成るか成らないかだけを考えて来てるの?」


するとスコットは、目元のみを現すマルヴェリータにギラリとした目を返し。 目と目を合わせると。


「実情も知らぬ阿呆が、この俺に口答えか? 博物館の目玉に、こんな石造が役立つかっ!。 金目に成る物が、誰もが見たいものだ。 冒険者風情がっ、偉そうに何を云うっ!!」


ポリアは、直ぐに。


「マルタ、余計な御喋りは後よ」


マルヴェリータは、相手が議論をするに値しない人物と理解し。


「ごめん」


と、ポリアに返す。


だが、ポリア達に対するスコットの暴言に、オッペンハイマーは興奮気味と変わり。


「スコットっ。 きっ君には、この石造や床の絵の意味が解らないのかっ?! 誰もが推論以上の枠を超えて説明出来なかった歴史を現すかも知れないんだぞっ。 研究者たる学者の末席に席を置く君や僕が、金銭に重きを置くなど研究と云う行為に不純を齎すっ!! その為に来たと云うなら、先に勝手に行って探したらいいっ!! だが、フロイム統治には、君の事を抗議しておくよっ!!」


生粋のお坊ちゃん育ちのオッペンハイマーながら、その怒りの様子は本気と思える。


するとスコットは、憤然としながらも黙った。 顔には、何か逆らい切れぬ事情が伺えるもどかしい様子に似た苦渋が滲む。


(あら、黙ったわ)


と、小声でマルヴェリータ。


アランが、小声で。


(あれでもオッペンハイマーは、この街の最高位の侯爵じゃ。 しかも、学問の最高顧問や都市の統治も歴任した序列高き位じゃからの。 役職上で男爵を貰ったスコットとは、家柄が格段に違う。 現統治者のフロイムは、オッペンハイマーの親友で、正義感の強い男。 スコットも、邪な心で調査に来たと云われたら睨まれる)


ポリアは、弱弱しいが一本気な所を持つ叔父を見て微笑んだ。 人として純粋な叔父が、可愛くも頼もしきにも思えたのだ。





                       ★




さて。 ポリア達が捜索する最中。 地上部も方に目を向けると・・・。


イルガは、ロープを縛った太い石柱の元を微動だにせず。 見張りに残った役人二人は、寒くて足踏みしながら辺りを見回していた。


ダグラスは、崩壊した神殿の周りを歩いていた。 瓦礫と雪ばかりと思うが。 


(誰か前に来たな・・・。 アランの爺さんの足にしちゃデカい)


別の崩壊した建物の裏手の物陰。 風で集められた雪が踏まれて固まっていた。 鉄の具足に多い足跡が、踏み固められた雪にクッキリと残っていた。 枠が出来上がっているので、見つけて枠の上に吹き付けられた雪を払えば足跡が見える。


更に。 瓦礫の隙間に、人が通れそうな隙間を幾つか見つけたダグラス。 そこを調べれば、引っ掛けて切り裂けた衣服の布が残っている。 手にとって見れば、雪も着いていなければ、凍ってしまいそうな湿り気も無い。 古びた布では有るが、朽ち果てているとも思いずらい。 手に残る埃には、人の臭いが・・・。 


(ヘルダーが言ってたな。 時間の経過した物には、埃の臭いしかしないと・・。 んん、ワイン・・いや、ビアかな。 微かだが酒の臭いが残ってるし、汗染みた埃の臭いもするな。 盗賊だろうか・・・)


ポリア達が地下に降りている。 もし盗賊とするなら、この自分達の居る場所に近づく最大のチャンスでもある。 忍び寄る事を得意とする盗賊が居るなら、その痕跡を見つける事がダグラスの出来る事。


だが、捜索を続けるダグラスの脳裏に、フッとクリスティーの香りが思い返され。 昨夜の熱い夜が思い返される。 集中が途切れ・・・。


(・・・、俺にも・・リーダーが出来るだろうか。 もし、クリスティーと組んだとして、俺にポリアの様なリーダーが・・・。 いや、いやいや・・違う。 クリスティーの望んでるのは、あんなに出来るリーダーじゃない。 ま、駆け出しの仕事なら俺でも・・・ポリア達の時と同じにやればいい。 先を考えると金が要るな。 クリスティーを少しの間、俺が養う事に為るしな)


ダグラスは、柄にも無く女に真剣に為っていた。 クリスティーとチームを組む事を想像する。 昨夜、ベットの中で約束したのだ。 久しぶりに共に過ごす女の言葉に、ダグラスは心揺らいでいた。 高みに向かう道のチームと、なりに生活の為の仕事をするチーム。 ダグラスは、疲れていたのかも知れない。 だから、クリスティーとのらりくらりチームをやって行くのが楽にイイと思えたのだ。 


気持ちを仕事に立ち返ったダグラスは、神殿を周り。 崩壊した壁や建物が瓦礫の迷路を築く中を歩いて回る。 確かに、人の生活反応が至る所に残されていた。 


アランの話では、春先の雪解けから秋の雪が降り出す季節までの半年近く。 この崩壊市街地は、暗黒街に近い様相を強めるらしい。 放浪者や浮浪者の一部が入り込んだり、事件を犯して犯人が逃げ込む事も多いとか。 だが、冬に成るとこの通り。 冬の厳しさが猛威を振るい、毛布や焚き火程度の防寒対策では、二・三日で凍死する程の冷え込みだとか。 冬に成ると、人気も消える場所だと言っていた。


(見て残る物は、酒瓶や焚き火の跡ばかりだな。 これは、放置されている雰囲気だから・・・秋前の物だな。 さっきの足跡や布の持ち主とは違う・・・か)


洞穴の様に為っている物陰や、倒壊後も口を開けて残る地下階段の隅などに、そんな生活の痕跡が残っていた。


だが、神殿周りを一周し。 ダグラスは、イルガの元に戻ろうとする時、瓦礫の物陰に人の気配を感じる。


(ん? 今・・・呼吸する音がしたな)


凍て付く風に雪を吹き付けられて、氷の壁と為る瓦礫の隙間から、ダグラスを伺う視線の気配もした。


「誰だっ?!!! 居るのは解ってる・・・」


すると・・・。 瓦礫の物陰から、黒い影がヌッと現れた。






                       ★




ダグラスが何者かの接近に気づく頃。 地下のポリア達は、地下奥の神殿内に踏み込んで居た。 


「ああ~、フィリア~ナ様・・・」


悲しげな顔のシスティアナが、所々に壊れ掛けたフィリアーナ像に祈りを捧げる。


進入した神殿の広間より二周りは狭い広間には、自愛神・自然神・暗黒神・光輝神などが安置されている。


マルヴェリータとゲイラーが、祈るシスティアナと調べるオッペンハイマーを見守っていた。


一方。 


ポリアは、アランとヘルダーを一緒に、更に奥の間に向かっていた。 後ろには、宝を探すギロギロした目のスコットと、その護衛のショーター達が居る。


そして、奥の間に踏み込んだポリアは、堂々と一際大きく立派な石像で知識神が安置され。 その左右に、魔法遣いらしきローブ姿の何者かが安置される場所に辿り着く。 間の広さこそ、先ほどのフィリアーナ像が在った広間と同じだが。 部屋を支える石柱や壁に彫り込まれた文字ルーン、そして知識神の立派さを見るに、別格の扱いだったと推察出来た。


石像を見上げるポリアは。


「ハァ、やっぱり・・・知識の神だけは、昔では別格なのね」


横のアランも、少し寂しい頷きを見せて。


「うむ。 超魔法時代は、魔力と知識の高さが人の優劣を分けた時代じゃ。 これもまた、歴史の現れなのかも知れんの」


すると、後から来たスコットが、知識神の額に赤い宝石の様な石が光っているのを見るなり。


「おいっ、そこを退けっ!!」


と、ヘルダーとポリアの間を押し抜けるかの様に前に出て来た。


アランは、本当に無粋な男だとばかりに顔を顰める。


ポリアとヘルダーの目の前で、知識神の足元から石像に上ろうとするスコット。 その欲望剥き出しの様子を見るポリアは、来た通路の方に顔を向けたショーターに。


「見張らなくていいの?」


ショーターは、出入り口となる通路の所で立っている。 役人達は、通路に見張りの様に立った。


「見張りの必要が在るのはこっちだ」


すると、ポリアは目を細めて。


「アラ。 本物の宝石を見す見す盗られる様にしておくかしら。 此処なら、盗賊でも簡単に来れるわ。 それなのに、未だに在るなんておかしいと思わないの?」


ショーターは、顔を俄かに変える。 


アランも、横を向いて。


「ガメツイ館長も安直なら、護衛も頭が足らんな」


と。


ショーターは、役人を率いて前に出てくる。 


代わりに、ポリアとヘルダーが下がった。


其処に、後から来たマルヴェリータ達と合流する事に為る。


ショーターは、石像の腕によじ登り知識神の額に向かうスコットに、


「館長、罠も視野に入れて慎重にしてくれ」


すると、上る事にしか目の行っていないスコットは。


「フンっ、罠がっ、怖くて・・・トレジャーハンターが・・出来るかっ!!」


元々から財宝を狙うトレジャーハンターとして、冒険者もしていた事が在るらしいスコット。 アランには遠く及ばないが、それでも財宝の一つや二つは見つけた自慢を周りにしている。 確かに、こんな石像一つの罠で怯える彼でも無かった。


だが、皆の見ている中で、スコットが知識神の額の赤く透明な石に手を伸ばした時。 知識神の目を伸ばした腕で塞ぐと・・・。


マルヴェリータが、逸早く異変に気づく。


「アラン様っ、石柱の古代魔法語の文字ルーンがっ!!」


「ムっ?!」


アランの唸り声に合わせて、ポリア達も石柱を見る。


すると・・・。


「あっ」


「光ってるゼっ」


驚くポリアに、口走るゲイラー。


マルヴェリータは、その魔法に使う文字が七色に光り点滅する石柱から、魔法を発動するオーラを感知する。 思わず、アランより先に。


「館長さんっ!! 罠が在るわっ!!!」


その後を追う様に、アランもスコットに向かって。


「スコットっ!! 直ぐに降りるんじゃ!!!」


と、鋭く言う。


だが、赤い宝石まであと一伸びで届くと云うスコットは、腕を伸ばしつつ。


「うっ・ウルサイっ!! こんな時の為の・・冒険者であろう・・がああっ」


届きそうで届かないギリギリの所で、スコットは目の前の宝石にしか目が向いて居なかった。


「何を考えているんじゃっ?!!!」


怒ったアランの声が間に木霊する中で、ポリア達は周囲を警戒してチームで纏まる。 驚いて立ち竦むオッペンハイマーの腕を引っ張ったゲイラーが、ポリアとヘルダーと自分の囲む中に、システィアナとマルヴェリータと共にオッペンハイマーを居させ。


「動くなよ、教授」 


と。


「あっ、ああ・・・」


オッペンハイマーの様な者は、先生でも在り学者を兼ねる。 そうゆう者を敬って“御教授”から取った教授と云ったゲイラーの背中で、オッペンハイマーは、ガタガタと震える体を警戒させていた。


だが、皆が辺りを警戒する中で、なんと異変が起こった場所は、知識神の石像の目だった。 


手を伸ばしていたスコットは、自分の視界の知識神の顔が変化しているのに気づく。


「んっ?!! なァッ、何だああっ?!!!」


優しき顔のジョイスに似た面持ちの青年が知識の神。 時としては、博識の老人と成り。 時としては、利発そうな男子として姿を変えると云う神だが。 今、その顔は、肉食獣の如き牙を生やし。 牛か羊の様な角を生やし。 不気味に笑う狡猾そうで悪意に満ちた若い男の様な顔に変わり出す。


マルヴェリータは、こんな石像の事をジョイスから聞いた事が在った。


「いけないっ!! ミミックイミテーターだわっ!!!!」


その名前に、アランもスコットを見て大慌てで叫ぶ。


「スコットっ!!!! その宝石は罠じゃっ!!!! 早く離れろっ!!!」


だが、その時に。


「取れたっ!!!」


スコットが、宝石の様な石を手に掴んだ。 心の中で、


(やったぞっ!!! 俺のモンだっ!!!)


と。


だが、スコットは、自分の伸ばした手の甲を見て全てを疑う。


「お・・おい、こっ・ここ・・こりゃ何だ・・・。 俺のっ、俺の手が腐ってるぞっ!! わあああっ、止めろっ!!」


皮膚が見る見る爛れ、ドロドロと爛れ腐る。 皮膚や肉を食い破った蛆が、大量にニュルニュルと湧き出し始め。 手首の骨が見えた。


「えっ?!! 館長さんっ、落ち着いてっ」


ポリアは、高所でうろたえ出すスコットを宥め様と声を飛ばす。


だがスコットは、知識神の肩で恐怖に慄き出し。 宝石を落として手を掻き毟る様に暴れ出す。


「うわっ、うわああっ!!!! 俺の手がァっ!! 俺の手が腐るっ!!!!!!!」


しかし、見ている誰もがスコットの手が腐っている様には見えなかった。


ショーターは、今にも上から落ちそうなスコットを心配し、知識神の前に出て。


「館長落ち着けっ! 良く見ろっ、何とも無いぞっ!!!」


だが。 マルヴェリータは、暴れるスコットが落ちるのはもう仕方ないと思う。


「退いてっ、石像を壊すわっ!!!」


と、ポリアの前に出て、石像に近付いているショーターに云う。


ショーターは、スコットを殺す気かと思って、マルヴェリータに向く。


「正気かっ?!! 落ちたら只では済まないぞっ?!!!」


目を細め、紫のオーラを宿すマルヴェリータは、


「このままでは、館長さんは気が狂ってしまうわよ。 今なら、まだシスティが治せるわ。 怪我で済むか、気が狂って死ぬか。 どっちがいいのよ?」


「だっだがっ?!」


焦るショーターに、アランが一喝。


「論議する暇は無いっ!!! 早く石像を壊すんじゃ!!!!」


その声に、マルヴェリータは杖を振り上げる。 そして、炎を具現化する魔想魔術を唱え、大人を一飲みしそうな炎の火球を召喚し。 悪魔の如き顔に変わった石像に飛ばした。 炎がぶつかる瞬間に、マルヴェリータは。


「飛ばすわよっ」


と、云ってから。 杖を側めて。


「散ってっ!!」


と。


“ドカン!!”と云う爆発音が起こり、爆風がポリア達に飛ぶ。


「のおおおおっ!!!!」


近付き過ぎていたショーターが、爆風に驚き顔を腕で庇う。


マルヴェリータの魔法を腹部に受けた石像は、当たった場所から上半身が壊れて前に折れた。 そこに、爆発のエネルギーが突き上げる形と為り。 狂っていたスコットを、砕け散った石像の破片諸共に天井付近に舞い上げる。


「・・・」


この時、ヘルダーが走り出し。 片方の魔術師の石像前に落下するスコットに向かった。





                      ★




地上では、ダグラスは覆面をした男らしき人物3人を前にしていた。 内二人は、ダグラスを囲もうと動こうとしたので。


「問答無用で斬る」


と、ダグラスが剣に手を掛けた所で。


「待て」


動かない一人が、ダグラスと仲間の両方を見る形で言った。


ダグラスの右の瓦礫の上には、早くも声を聞き付けたイルガが槍を手に立っていた。


黒い布で目以外を覆う形で被る曲者達。


一方、鼻から下を隠す様に布を巻くダグラスが対峙する。


先ず、覆面の動かない男が。


「お前達は、何者だ? 冒険者か?」


ダグラスは、無言で黙る。


(無駄に何か言うのは、情報を与えるだけだな・・・。 ポリアを手本に、一つやって見るか)


ポリアは、何度もリーダーとして駆け引きをして来た。 その姿を見て来たダグラスも、試してみたくなった。 自分をリーダーとして考えて・・・。


ダグラスの背後に回り込もうとした一人が、


「おいっ、聞えているのかっ?」


と。


ダグラスは、あくまでも動かない男の見える鋭い目を見据えて。


「我々が何者か、お宅達が何者か。 この場所では関係の無い事だ。 邪魔すれば、斬る」


ポリアよりも強気に出たダグラス。


動かない男もまた、殺気を帯びるダグラスに嘘の無い事は悟った様だ。 だから、か。


「いいか。 此処ら辺は、我々の縄張りだ。 勝手な散策は止めて貰おう」


と。


だが、ダグラスは。


「権利を誰が証明した? 縄張り? ほう、国の許可でも貰ってるのか?」


動いた何者かの一人が、一歩前に出て。


「許可だあっ?!」


その時、ダグラスは、剣を引き抜く素振りに入り。


「どうやら夜盗の類と見た。 死体でも斡旋所に突き出せば、金に為る。 今まで、此処に来た無益な学者や冒険者を襲っていた輩だろう。 論議する必要も無いな」


ダグラスの話し合う余地の無い言い方に、先に動いた2人は身構える。


だが、動かない男は、目を細めて舌打ちする。 ダグラスの剣の力量を見切ったのだろう。 恐らく、この場に居る3人で束に為っても、ダグラスには敵わないだろう。 しかも、更にその後ろには、イルガも居る。


ダグラスは、黙る男に。


「悪いがな、今回は役人も一緒だ。 もし何か在れば、都市の役人も動かざる得ない状況に為るぞ。 お宅達、兵隊を出す騒ぎまで発展させたいか?」


すると、動いた男の一人がせせら笑う声をして。


「へっ、笑わせるな。 軍が動くかよ」

 

だが、ダグラスには無駄口だ。


「なら、試してみようか。 何でも、都市を運営する統括のご友人の依頼で来てるんだ。 動くか動かないか、お前達の目で確かめろ」


と、剣を抜き払った。


すると、動かなかった男は、一歩退いた。


「お前達、俺達の仕事を忘れたか? 戦う事は、仕事に含まれていない。 それに、この剣士に我々で太刀打ち出来るか? 力量も見量れん様では、命が幾つ在っても足らんぞ」


と、威勢ばかりいい仲間の二人に云う。


ダグラスは、その言い草が微妙に気に為った。


(“仕事”?、“戦いが含まれない”? どうゆう事だ?) 


ダグラスと対峙した覆面男は。


「長居しない方がお互いの為だぞ。 アンタが幾ら腕が達ても、こっちには大勢の仲間が居る。 その気に成れば、汚い事もして退ける。 さっさと帰るんだな」


覆面男は、そう言うと仲間を見て。


「おいっ、ずらかるぞ」


ダグラスは、此処で迷う。


(捕まえるべきか・・・。 一人捕まえれば、話は吐かせさせられそうだが・・・、敵に回すな)


その時だ。 異変を見守っていたイルガとは別に、見張りの兵士二人が退こうとしている覆面男の脇に飛び出す。


「曲者めっ、捕まえてやるっ!!」


この動きに驚いたのは、ダグラスも覆面男達も同じ。


「なっ?!! くっ、役人かっ?!!」


「おいっ」


声を掛けたダグラスの脇に回り込んだ曲者二人が、役人の様相をした者が出て来たものだから慌てて。


「うわっ、ホントに役人が居るっ!! 殺しちまおうっ」


と、ダガーを引き抜いた。


これでは、完全に戦闘に成る。


ダグラスは、仕方ないと思い。


「悪いが、役人が捕まえると云う以上は手加減出来ないぞ」


と、ダガーを引き抜いた二人に剣を正眼に構える。


「くそっ、何でこう成るっ!!」


ダグラスと対峙した覆面男は、役人二人が目の前で近過ぎるとショートソードを抜いた。 


イルガも瓦礫の上から滑り降りてくる。


「わあっ」


「こん野郎っ」


ダグラスにダガーを突き掛けて来た二人は、ダグラスに一人はかわされ、一人はダガーを持つ手を剣の柄で打たれて。 直ぐに腹部と首筋にそれぞれが柄の強襲を浴びて気絶と成る。


一方、ショートソードを引き抜いた覆面男は、幾分戦い慣れている。 だから、訓練ばかりの役人二人とは優位に戦う。 だが、其処に走って来たイルガの槍の柄を鋭く突き込まれ。 剣を弾き飛ばされた上に、突き飛ばされる。


「うわあっ!!!!」


転倒した曲者の男の声が上がった。


「よしっ、捕まえろっ!!」


囲むだけした出来なかった役人は、氷の敷かれる瓦礫の道上に転がった覆面男を取り押さえに動く。


槍を構えてその様子を見るイルガは、ダグラスに向いて。


「捕まえて良かったのか?」


だが、ダグラスは首を竦めて。


「さあ。 役人が早まったんだ」


と。


役人二人は、三人の覆面男を捕まえた。 気を失った三人の面体を検める為に覆面を剥げば、何処にでも転がる小悪党面の男二人と、スッキリとした顔の中年男が一名。


ダグラスは、取調べもしないのにこの寒い中で顔を晒させるのは酷だと思う。 だから、三人に剥いだ覆面を口元が隠れる程度に巻いて戻した。


さて。 その頃。


「おちついてく~ださいな。 フィリアーナ様、この方のお心を鎮めて下さいませ」


システィアナが、助けられたスコットに掛けられた“狂気の幻覚”と云われる魔想魔術の幻覚呪術を解いた。


「あっ・・・」


ギョっと目を見開いたままに固まったスコットは、焦点が狂っていた目を少しずつ元に戻す。


床に座ったままのスコットを見て囲むショーターと役人。


其処から少し離れた壁際で、戻って来たシスティアナを含めて遠目に見守るポリア達。 ポリアは、スコットの落とした赤々と光る宝石の様な石を持っていて。


「これ、罠に誘き寄せるエサみたいな物かしら・・・。 見た感じ、水晶の様だけど」


マルヴェリータは、アランと共に石を覗き。


「罠に使われる魔法の魔力を閉じ込めた水晶よ。 これに手を伸ばして何者かが盗ろうすると、さっきの魔法が発動するんだわ。 多分、あの石柱が発動体ね。 今では誰も出来ないマジックモニュメント秘術の入り口の技術だわ」


アランも同意の頷きで、迷惑極まりないと云った素振りでスコットに首を回し。


「じゃな。 欲に身を染めるからじゃ」


だが、ポリアは、その手にする石を持ってショーターに。


「ショーターさん。 コレ」


自分を見たショーターに、ポリアは落ちた赤い石を投げる。


「んっ?!」


と、驚くのは、石を受け取ったショーター。


ポリアは、直ぐに。


「その石、水晶みたい。 まだ魔法を発動させる魔力を残してるみたいだし、鑑定して貰えば結構な値段するかも。 私達は、宝物に手を着ける気は無いから持ってて」


石を見て緊張するショーターは。


「大丈夫なのか? この・・赤い石は?」


マルヴェリータが手短にと。


「発動体と離れたから、もう魔法は放たないわ。 石像も壊れたし、魔法の文字を刻んだ石柱も半壊したしね」


ショーターは、もう魔法を発動しないと聞いて安心し。


「そっそうか・・・、ならば預かろう」


しかし、ポリアとアランは直ぐに別の方向に顔を向ける。 それは、マルヴェリータの壊した石像だ。




早くも地上部と地下の潜入隊で危険が起こった。 丁度、昼時。 極夜の空は、白々と寒い空を白ませて、短い一時の早朝の様な空模様をみせていた。

どうも、騎龍です^^ ご愛読ありがとうございます^人^

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