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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
41/222

ポリア特別編サード・上編

ポリア特別編:悲しみの古都オールドシティ





                 ≪記憶を持つ人≫






寒い明け方の様な昼前。 オッペンハイマー氏の屋敷を後にしたポリア達。 今夜は、オッペンハイマー氏の家に泊まる事に成ったので、誰もが荷は軽い。


庭を歩く一同の前。 案内を買って出たフロマーが、何処か嬉しそうに。


「いやいや~おったまげたね~。 ポリアンヌお嬢様が冒険者・・、しかもチームが有名に成り出してるだなんてまぁ~」 


40半ばを過ぎるフロマーだが、気性は温厚で子供の様なあどけなさが残る。 ポリアの話し掛ける態度が優しげで、返すフロマーは慕い従う様子だ。 古い付き合いが有ると見て取れた。


さて、オッペンハイマー氏の屋敷をグルリと道なりに半周して、裏手に伸びる太めの通りを少し行くと、開けた場所で子供達がワイワイしながら雪の人形を作ったり、積もった雪で迷路を作ったりして遊んでいる。 


「ん?」


雪が足元に積もる。 雪が溶けていないのに、ゲイラーは気付いた。


「あ、此処は雪が溶けて無いな」


と、言った先で。


「わわわ~、スベッスベ~」


システィアナが、踏み固められた雪の上を滑って遊び出す。


フロマーが、笑いながら。


「滑って転んだら危ないよ」


と、言う中。 ポリアが、ゲイラーに。


「此処って雪が無くなると解るけど、芝生の公園なの。 この真下には水路は通って無いから、溶けないわ」


「ナルホドなあ」


雪で人型を作った子供達は、絵の具なども持ち出して雪に色づけして遊んでいる。 遠くから見るゲイラーやイルガなどは懐かしいと思えた。


その公園を抜けて、また石で出来た家が犇く細い通りを抜けて行くと。 丸い屋根をした塔型の家が、周りよりポンと上に突き抜けているのが見える。


フロマーは、その家を指差して。


「アレだがや」


ポリアは、吐く息白くマントのフードを少し上げて建物を見る。


「あらら~、学者のアランってキノコ先生の事なのね・・・」


イルガは、ポリアの後ろから。


「お知り合いですか?」


「ううん。 でも、凄い有名な人よ。 物知りで、住んでる家がキノコみたいだから“キノコ先生”って言われてる人。 ガッコの先生もしてるみたいで、周りの家の人が良く噂話してたなぁ~」


フロマーは、ウンウン頷き。


「そんだ~、お亡くなりに為ったヨーゼフ様も、よ~く勉強を請うた先生様だぁ」


白い厚手のロングコートを纏い、白い毛の付いた丸型の帽子を被るマルヴェリータが、ポリアに寄って。


「“ヨーゼフ”って・・お祖父様?」


「そ。 叔父さんが結婚して此処に完全移住で移って。 後から遊びに来て此処を気に入った御祖父ちゃんが、勝手に叔父さんの家の隣に住み出しちゃったの。 大きなお屋敷も構えず、叔父さんの屋敷の裏手に小さい家作ってね。 毎年、冬か夏には、私がその屋敷に遊びに行ってた・・・。 剣が得意で、ウチの父にも引けを取らなかったわ」


フロマーは、ニコニコ笑いながら。


「ポリアンヌお嬢様は、よぉ~んぐヨーゼフ様に剣術の稽古付けられてはぁ、お屋敷の庭で掛け声お出しに為られてますたなぁ~。 汗一杯掻いて、お食事も男の子並みに食べてました」


「ウフフ、叔父さんの家の調理長さんの御飯って、スッゴク美味しいモンね。 動いてお腹空いたら、尚更美味しいわよ」


誰の目から見ても、ポリアの記憶の中に、この古都は大切な一部分を刻んでいる様だ。 


マルヴェリータは、ポリアが少し成長したのだと知る。 Kと会う以前のポリアなら、貴族に関わる全てを毛嫌いして、尚且つ自分の素性に関わる全てを隠そうとしていた。 今のポリアは、何かを吹っ切ったのだろうと思えた。


さて、間近で見るその建物は、本当に少し胴体の曲がったキノコの様で。


「ニョッキニョキ~家が生えたぁ~」


と、システィアナがはしゃぐほどに形が似ていた。


皆と笑い合うフロマーが、その家の木の扉をドンドン叩き。


「センセ~、フロマーです。 お話が在りまして、中に入っていいですか?」


ゲイラーは、家の周りに雪が一段二段を高く積もっているのを見て。


(一応は雪下ろししてんのか・・・、ど~やってやってるんだろう?)


湯気の出ている水路は、敷地から外に出た所。 そこまで雪を運ぶのが億劫で放置しているのだろうが。 周りに積もった雪の高さは、自分より倍近くに高く壁の様に成っていて、隣の家や仕切りの石垣など見えない。 あんなキノコの傘みたいな屋根を、一体どうやって・・・。 大きな疑問だった、


フロマーが戸を叩いて声を掛けてから直ぐ。


「ちょいと待ってくれ」


皺枯れた感じのする老人の声が帰って来た。 ガタゴトと音がして、木の扉が開くと・・。


「おお、フロマー。 元気そうだな、オッペンハイマーの用事か・・・・ん?」


フロマーに親しげに語り出すのは、黒いローブを纏った老人だった。 剥げ頭に皺が見える結構な年齢の老人が、直ぐにポリアを見た。 


フロマーは、穏やかな口調で。


「センセ~もお変わり無く。 主とセンセ~の護衛をしてくれる冒険者の人達連れて来たンす」


すると、老人の顔が鋭い視線を持つ表情に変わり。


「ほう・・・」


と、ポリア達を見た。 そして、全員を見回してから、フロマーに。


「若い者が多いな、最近の若い冒険者は欲が多くてイカン。 直ぐにお宝がどうの、金がどうの言う。 こいつ等は信用出来るのか? 私もオッペンハイマーも、大して大金を出す提示はしてないハズだがな?」


フロマーは、笑って。


「センセ~、この方達は大丈夫だよ~」


「フム、どうしてそう言い切れる?」


そこに、ポリアが。


「私が、オッペンハイマー叔父さんの姪だからです」


と。


老人は、ポリアを見て。


「・・・、君が?」


「はい。 昔、貴方に歴史学の教えを請うたヨーゼフは、我が祖父。 そして、オッペンハイマーは、叔父。 私は、ポリアと申します。 正式には、ポリアンヌリュファールですが、長いのでポリアと呼んで下さい」


「なぁっ・・・ま・まさか・・・」


老人は、目を見張ってポリアに驚く。


フロマーも。


「センセ~、嘘じゃ無いがよ。 このお人は、本当にポリアンヌ様だよ」


老人は、ポリア達を中に招き入れた。 家の中は、膨大な本と物品の巣窟で。 窓の前以外の壁全て、上の最上階まで全て本棚。 しかも、びっしりと様々な本が仕舞われている。 


「ひや~、凄い本の量・・・」


驚くポリアやマルヴェリータ。


本を読む習慣がまだ根付かないゲイラーは、気を無くして。


「読むのに一生掛かりそうな量だな」


イルガとヘルダーは、その全てに感心している。


ダグラスが、腕組みして黙ってポリアと老人の様子を見ていた。


アランと云う学者は、幾段か降るだけの階段で中央に陥没する様なリビングに降り。 椅子やらソファーに皆を坐らせ、紅茶の用意をしながらに。


「で? どうして、今日に私の所に来たのだ? 明日に行くと言うなら、フロマーだけでも良かっただろうに」


ポリアは、直ぐに切り返し。


「何度も現場に行って知っているのなら、明日行く場所の雰囲気やモンスターの事を教えて下さい。 もし、用意が不足なら今日中に用意します」


ポリアを見たアランは、ガラスの丸いティーポットに網の目の丸い金属に入った茶葉を沈めて。


「フム。 良い心掛けだ。 なるほど、お宝目当ての冒険者だったとしても、利口な部類だな。 しかし、オッペンハイマーに聞かず、私に聞くとは面白い」


「叔父様は、机上の学者。 でも、貴方は違う。 昔に祖父が、貴方の冒険談を私にしてくれてたわ。 一人でも山奥に分け入り、猛獣やモンスターを切り抜けて身体に記憶を刻んでるって・・・。 生きた情報ほど確かな物は無いし、その方が情報として意味が在ると思うの。 だから、此処に」


アランは、暖炉の上に掛けられた薬缶を持ち、ティーポットにお湯を注ぎながら不敵に笑う。


ダグラスは、それが気に入らず。


「何か、ヘンか?」


「いや、若いのに似合わない成熟さだと・・・な。 昔・・・そうさな~、5年近く前か。 私が在る遺跡を調査するに当たって雇った冒険者の男とそっくりな言い回しだから・・・、ちと、な」


直ぐに何かにピンと来たゲイラーが、同じ感じを覚えるポリアと見合ってから。


「一人か?」


紅茶の茶葉が入った丸い網の目の鉄球を動かすアランは、大きく一つ頷き。


「ああ、名前が無く。 “P”(パーフェクト)と云うコードネームで呼ばれた男よ。 強く、悪魔の化身の様な男だった」


ポリア達は、ギョっと眼を見開いた。


「ケッ・・ケイだわ」


アランに、Kの事をモーレツに語ったポリア。 もっとKの昔が知りたかったから、更にポリアは当時の事をアランに尋ねる。


紅茶を運んだアランは、ポリアに。


「なるほど。 でも、これ以上は聞かぬ方がいい。 彼の生き様は・・・、あの頃の彼の生き様は手本に為らぬ。 それに、お主とあの男の間には仕切りが在る。 何処かで、生きる人生の道行く中で出会えども、一緒に添う道には為らぬよ」


ポリアは、身体を駆け巡る熱い思いを手に握り締める。


マルヴェリータは、ポリアの背に手を置いてから。


「では、明日に行く場所は、どんな所なのですか?」


一人掛けの揺れる椅子に座ったアランは、紅茶の中にハチミツの砂糖漬けを入れながら。


「ウム。 明日に行くのは、崩壊市街地の南側。 居住区の所だ」


ダグラスは、呆れた様子を見せて。


「おいおい、人の住んでた所に重要な物が在るのか?」


と、尋ねる。


「フン、かもしれんじゃろ?」


と、鼻で笑い返すアラン。


ポリアは、Kの事が頭から抜け切らないままのモヤモヤしたまま。


「ダグラス、私達は雇い主に指図する権限無いのよ。 第一、住居の中にも古い神殿や寺院が在る場所なんて一杯在るわ」


アランは、皺の多い顔を不敵に綻ばせ。


「その通り。 君達のリーダーは、学ぶ事に敏い。 いい、リーダーだ」


と、言って紅茶を飲む。


詰まらない限りだとダグラスは横を向く。


ゲイラーは、最近口数が少なくなり。 どうもチームから外れるダグラスが気に為った。


(コイツ・・最近どうした?)


さて。 アランは、ポリアに顔を向けて話を続ける。


「私の長年の研究で、やっと昔の崩壊市街地の全体像が判って来た。 明日に行くのは、居住区にある神殿だ。 超魔法の時代、神殿や宗教の寺院は居住区や市街地の郊外に創られていた。 どうやら、魔法の力が強大に成るに遵って、信仰心や信心深さが失われて行った結果だと思う」


ポリアは、深く頷いて。


「そこを調べるんですね?」


「うむ。 だが、今回は、初めて私が自分で居住区に赴いて見つけた神殿でね。 地上部の崩壊が相当に激しい。 地下に入る道すらまだ判ってないから、入り込む場が見つからずに終わる可能性もある。 それに、冒険者の中や街のゴロツキの中には盗掘団と関係の深い者も居る。 初めての発見と成る遺跡ほど宝物なども在る可能性が高いから、襲われる危険も・・・高い」


この事は、ポリア達には前にも在った。 盗賊は、古代の宝物を探してハイエナの様に嗅ぎつけてくる。 戦う事に関しては、時として金銭をチラつかせて冒険者を雇う者も居れば。 冒険者を仲間に引き込んで、盗賊団に加え込んでしまう事もあるのだ。


過去に遺跡発掘の旅で、強盗団に襲われた上に。 帰りに、別の調査隊の一団が襲われる場に出くわした事か在った。 宝が有ると噂に上る場所ほど、襲われる危険性も増すのである。


アランは、更に。


「今回の発掘には、文献以外の宝物を求む博物館の研究者が同行する。 そっちは、役人の護衛付きだが、オッペンハイマーは私の事を案じて来てくれる。 私はもう老いて思い残しは少ないが、オッペンハイマーには死んで欲しく無い。 だから、信用の出来る冒険者を雇ってみたらと勧めたのだ。 ま、こんな綺麗な姪御が一緒なら、オッペンハイマーも云う事無いだろうがな」


立っているフロマーが、苦笑いを浮かべて。


「それが文句ばっかりですよぉ~。 心配で仕方無いみたいですから」


するとアランは、無関心そうな顔をして鼻先で笑い。


「フン。 一番心配なのは、何の心得も無いオッペンハイマーだわい。 魔法は使えても、発動させたのは何十年前だか・・・。 駆け出しの冒険者以下だよ」


ゲイラーは、魔法遣いと聞いていたオッペンハイマーがそんなのだとは思わなかったので。


「は? マジですか?」


全く情けない限りだと云わんばかりに頷いたアランは、ポリアに。


「さて。 明日行く場所は、崩壊市街地でも一番近い場所。 その場で寝泊りするとしたら、地下に入る場所を見つけて何らかの宝物でも出たら・・の話だ。 行くのは、明日と明後日の2日。 必要な物は、旅の道具よりも遺跡に踏み込んだ時の用意と、盗賊や悪党に襲われた時の備えだろうな。 正直、明日から護衛に来る役人の長は、元兵隊の役職をしていた腕に覚え有る人物だし、然程の苦労は無いと思っている」


ポリアやマルヴェリータは、それを聞いて一応の安心を得た。


だが、アランはポリアをマジマジと見て。


「“華麗なる皇女”様、だが油断はしないでくれ給え」


ポリアは、元からそのつもり。


「ええ、解ってるわ。 気は抜かない、役人ほど賄賂に近い仕事も無いしね」


「うん。 だが、その外にも気を許すな」


「え?」


ポリア達全員が、怪訝な眼差しでアランを見る。


アランは、紅茶を一度口に含んでから。


「・・・良いか。 人の心には“欲”がある。 その欲は、意欲でもあり強欲でもある。 気持ちを何処に注ぐかに由って、欲の形が変わる。 今、此処で聞く我々、明日に同行する皆、誰かが欲の注ぐ先を間違えるとも限らない。 いざ宝を目の前にして、驚くほどに豹変した者も見た事がある」


ポリアは、仲間を信じていた。 だから・・・。


「はい。 でも、私は仲間を信じます。 今まで、幾度も生死を共にした仲間ですから」


一同、ポリアを見て頷く。 だが、ダグラスだけが何故か直ぐに俯いた。


 






                   ≪封印される記憶≫






ポリアは、学者のアランにKの事を尋ねた。 アランは、何度断っても食い下がるしつこいポリアに呆れた。 だが、Kのその真の強さを目の当たりにしたポリアは、どうしても知りたくてか剣まで見せた。


「ふむぅ・・・俄に信じられない話だな。 ブルーレイドーナは、人を忌み嫌う。 人に手を貸すなどあるものか?」


すると、ダグラスが少し顔を歪めながら。


「爺さん、それが有るんだよ。 あのリーダーが、山に巣食った魔王を倒したらしい。 だが、母親が留守中に迷子に為ってモンスターに襲われていたブルーレイドーナの子供を、リーダーは助けた。 その時に、親愛の証として逆鱗を貰ったんだとよ。 そして、リーダーは、その逆鱗をポリアにくれてやったって訳」


ポリアは、スタムスト自治国で悪魔に襲われた時、ブルーレイドーナに助けられた事まで語る。


仲間の皆は、ポリアのKに対する敬意・敬愛の念が強すぎるのを理解していた。 その時折見せる執念染みた姿は、仲間でも呆れる程である。


「どれ、剣を貸して見なさい」


アランは、ポリアに言う。 顔が半信半疑から変わっていなかった。 だが・・・ポリアの外した剣をアランが受け取ろうとした瞬間だ。 急に剣が鞘ごと青白く光り、手に取ろうとしたアランを拒絶するかの如く2度光った。


「うわっ」


「何っ?!」


驚く皆。 その中、黒いローブのフードをずらして剥げ頭を晒しその眼を見張ったアランは。


「まさか・・・、こっコレは・・“インテリジェンス・ウェポン”ではないか・・・」


同時に、ポリアの脳裏にブルーレイドーナの声が響く。


ー無駄ヨ。 ソノ剣ハ、モハヤ御主以外ヲ受ケ付ケヌー


「え? ブルーレイドーナ様・・・、この剣は私にしか持てないのですか?」


剣を見て会話するポリア。


驚くのはアランだ。 剣を納めし麗しの鞘に映るドラゴンの顔と、ポリアが見合って会話している事だ。


「あっ・・・ああああ・・・ドッドラゴン・ルーンっ(竜語)じゃあああっ!!!!!!!」


アランが大声を上げて椅子から立ち上がった。 ・・・場が落ち着くのに、少し時間が必要だった。 息を荒げたアランが、温くなった紅茶を啜って高鳴る心臓の鼓動を落ち着くのを待ったのだから・・・。


剣に映るブルーレイドーナが、ポリアに語った事。


この白銀の剣は、遣われている白銀自体が強い霊力を秘めた特別なエクサシスタ(悪魔・悪霊祓い)の力を秘めている。 時代に名前を残さない名匠が、その全身全霊を懸けて一世一代の剣を打った。 それが、この剣なのだとか。 そして、ブルーレイドーナの力の欠片を宿し、使いこなすポリアの気合が馴染み切って“霊身”を宿したと云う。 


アランは、ポリアの説明を聞いて驚き呆れた顔を剣に向けて。


「全く、あの男は何処までも奇跡を起すのぉ・・・」


ポリアは、光らなくなった自分の剣を見ながら。


「アラン先生、“霊身”とは・・・何でしょうか?」


「ほほっ、“霊身”も知らんで天下の名剣の持ち主かい。 ま、いいわい。 こんな凄い事を立て続けに見せられて、只で捨て置く訳にも行かぬ。 霊身とは、別名に“威霊”とも、“心霊”とも云われる憑き物の一種じゃ」


イルガは、霊に獲り憑かれる現象と一緒の事だと思ってポリアが心配に為った。 魔の力を宿した武具に命を奪われた逸話も残る。 もし、ポリアの身の上に危険があっては困る。


ポリアは、アランに顔を上げて。


「ゴースト・・なのですか?」


「いや、そうでは無い。 この世界に云う精霊の部類に入る。 憑き物は憑き物でも、邪悪な霊では無く、意思を持ち始めた精霊が宿ると解釈する方が自然じゃな。 持ち主の気合いやその剣に宿る力が、永きに渡る時間の中で融合し、精霊の魂を息吹にして精神を得る。 お前さんの場合、ブルーレイドーナの力が軸になり、御主の気と剣に宿る力が一気に集まって融合したんじゃろう。 もうその剣は、御主以外には持てん。 御主が死んだとしても、新たな持ち主を認識するかどうか判らん」


マルヴェリータは、伝説に出て来るインテリジェンス・ウェポンを目の前にして。


「やっぱり・・・この引き金を用意出来るケイって・・凄過ぎるわ」


大分に落ち着いたアラン老人は、ポリアをマジマジと見て。


「ポリアさんと云ったか」


「はい」


「実はな・・、あの男との一件は・・・その・・・色々と難しい事を含む。 お前さんを信用出来ないのでは無く、口外を禁じたのだ。 あの男も、ワシもな。 人に知られて欲しくない・・正直な所、そうゆう話も含まれる。 御主がこの先旅の中で知恵を貸して欲しいなら、幾らでもワシは手伝おう。 じゃから、あの男との話は勘弁願えんか」


「・・・」


ポリアの脳裏に、Kの過去の欠片が回想された。 ジョイスの話では、Kは恐ろしい社会の闇にも関与していたとか。 自分がその扉に触れる事は、知られたくない人の過去にも触れる事だと痛感した。


「・・・解りました。 すみません・・ご迷惑をお掛けして・・」


ポリアは、深々とソファーの上で謝った。


一人席に足を組んで座るダグラスは、冷めた横目で。


「そうだ。 人には、立ち入って欲しくない領域が有る。 リーダーの過去が正にソレ、ポリアもいい加減眼を覚ませ。 必要以上に恩恵を受けているんだからな」


ポリアは、剣を見る目を細めた。


そんな様子を見たアランは、落ち込んだポリアに。


「の、ポリアさん」


「あ、はい?」


顔を上げたポリアに、アランは笑って。


「もし、貴女がもう一度あの男に会う事が有ったら、聞いてみるといい。 もし、あの男がイイと云うなら、貴女にだけは教えてもいい」


「えっ・・本当ですか?」


「うん。 だが、これだけは覚えて欲しい。 あの男の過去に然り、これからの御主の道に然りじゃ。 全ては運命・・・過去に囚われない生き方をして欲しい。 未来とは、古い事に拘ると霞んでしまう。 今、今が何より大事。 明日は、ワシの命も預ける。 ま、眼を曇らせんでくれ」


こう言ったアランだが、ポリアに信頼と興味を持ったのも確かだった。 ポリアに、竜語の貴重さを語ったり、夕方まで過去の自分の冒険談を語り出す。 アランと云う人物は、世界を股に掛けて考古学の調査をしていただけあり、その過去の話は面白かった。 誰もがまだ知らない事ばかり。 聞く事が多すぎて、語る事も多すぎて、話が話に繋がってあっと云う間に時間が過ぎ去って行く。


曇り出した夕方、外はもう真っ暗な中。 ポリア達がアランの家を後にする際に、アランは言う。


「オッペンハイマーに言ってくれ」


“お前要らないから。 君達は、ワシの護衛をして貰う”


「・・とな」


ポリアは、家の中学者の叔父を思い。


「はい、準備はしっかりさせますよ」


と、笑えば。


「ああ、多分異常な準備をしそうじゃな。 全く咄嗟の馴れ合いで誘う言い方をしたワシもワシじゃが、ワシの心配を増やしてくれたよ。 ま、こんな美人で世界に二つと無い伝説を持ってきてくれた麗人に会えたのは、もぉんの凄い大きな収穫じゃがな。 かっかっかっ」


アランと云う人物は、真に楽しく賢い人物だった。







                  ≪迷いと云う名の誘惑≫






オッペンハイマー宅に戻った一同は、ロビーに何人分かの旅の用意が半月分ほど用意された凄い荷物の山を見る。


「な・・・なんじゃあ?」


眼を丸くするイルガ。


其処に、オッペンハイマー氏が脇の応接室の方から出て来て。


「おお、皆さんお帰り」


と、云ってからポリアを見て。


「ポリアンヌ、一応旅の用意をしたんだが。 これ以上に足らない物があるかな~? 食料は、10日ほど用意したんだが、まだ足らない気がするんだ」


(あああぁぁ・・・、アラン先生の気持ちが解るぅぅ・・・)


ポリアは、言葉も出せない程にゲンナリ。


マルヴェリータは、顔を引き攣らせて微笑み。


「ちょ・チョット・・・多いわよね。 お・オホホホ・・・・」


システァナは、小声で。


(お腹い~っぱい食べれそうですぅ~)


と、ニコニコして嬉しがる。


ポリアは、額に青筋を浮かべてシスティアナに向き直り。


(うがあーっ!!! 喰い切れるかああああっ!!!!!! 2日だぞっ、たった2日ぁっ!!!)


皆が見るに、オッペンハイマーは旅の何も知らない様である。


ダグラスは、呆れて頭に両手を当てて。


「アホ臭い。 軽く飲んで来るわ、俺」


と、外に出て行く。


「晩くなるなよ、明日は仕事だ」


と、ダグラスに言ったゲイラーは、ポリアの肩に手をやり。


「選別しよう。 このままじゃ、明日は馬が何頭も必要に為る」


「ううぅ、解ったぁ・・・」


落ち込みながら言うポリア。 我先にと、槍を壁に立て掛けて荷物に向って行くイルガが、オッペンハイマーに何やら言葉を掛けた。


ヘルダーは、ダグラスを見送ってからロビーに入り、腕の裾を幕って選別の手伝いに加わる。 フロマーは、全員分の食事の用意をする料理長の手伝いに回った。


さて。 降り始めた粉雪が、強くなり始めた風に舞う外に出たダグラスは、ゲイラーの言葉に対しての右手を振るだけで返す返事も無かった。 オッペンハイマー宅の敷地を抜けて、正門を潜って外に出た。 踏み固められた小道の雪が、既に氷と為っている。 青いマント状で厚手のコートを羽織っているダグラスは、少し伸びた髪を顔に掛けて俯いて歩く。


(何でだ? 何で皆は気付かない? 俺達の行動は、ポリアを中心に回っている。 ポリアの旅に付き合ってる訳じゃ無いハズだ・・・)


最近、無性にこう思うダグラス。 認められるポリア、偉人と思われるK。 その行動に一々付き合っている自分が、時間の無駄をしている様な気がする。 チームとして認められる事に違和感は無いが、ポリアだけが褒められるのが気に入らない。 その場に一緒に居る事も嫌に為って来ている。


(ポリア・・・何であのリーダーを見つめるんだ。 リーダーは、絶対に君の男には成らない相手だ。 どうしてそれが解らない? どうして別を見ない? バカみたいにリーダーの事を追いかけてるその姿が、醜く見えてしょうがないゼ・・・)


ダグラスの心の中にポリアは居る。 だが、その姿は徐々に歪んでいた・・・。 綺麗で、何処に行っても恥ずかしくないリーダー。 剣の腕も上がり始め、今ではダグラスも負ける。 時折、暇を見つけると、ポリアはゲイラーやヘルダーを相手にイルガと稽古をしている。 ダグラスはしなくなったが、ポリアは未だに真摯な部分を持ち続けている。


ダグラスは、心の中では解っていた。 ポリアの気持ちも、世間の目も。 だが、理解は出来ても、納得が出来ない。 ポリアを好きな反面、その思いを伝える事も出来ないし。 また、そのポリア自身がK以外を好意を持てる異性として見ない。 仲間としか映っていない自分、ポリアを守る処か彼女に追い抜かれた自分。 ダグラスの心は、様々な劣等感に支配されつつあった。


(下らない・・・)


大きな通りに出たダグラスは、繁華街に向って歩き出した。 少し行くと、住宅区の一角にトンネル型の小道が有り。 人が次々と路地に入って行く。 近付いてみれば、そこから酒の匂いがしてくるのに気が付いた。  家が犇く住宅街でも、その隙間の路地には屋台当の店が出る場所が有る。 此処では雪を避けて、トンネル状の路地の先に簡易的な店も出来ていた。


「・・・」


ダグラスは、酒気に誘われる様に路地に入ると、暗がりが昼間の様に明るく成っていた。 着色の入ったグラスランプの明かりを店や石の柱に掛け、様々な店が軒を連ねている。 屋台が並んでいる処も有れば、客5・6人も入れば満員の様な狭い店も有る。 どうやらこの路地の中の奥まった行き止まりは、少し広い広場の様だ。 其処に、店を出して営業しているのだろう。 喉の渇きを癒すためか、腹を満たすためか、家族連れやカップルや冒険者や労働者の仲間連れなどなど人が集まって賑わっている。 路地内に踏み込めば、店先で黄色い声を上げる若い売り子や、威勢のいい声を出す店主のいざないが聞え。 客達が思い思いに吐く騒がしい喧騒に身を包まれた。


(俺なんか・・・)


最近は金が入るとこうして一人で飲むダグラス。 スリットの深いスカートを穿いて、艶かしく腰を動かしながら客に支給をする売り子が見える、入り口に戸の無い小屋の様な店に吸い寄せられた。


雪の降る量が時間を経過するごとに心なしか増え、この路地に集まる客が数多くなる頃。 時間的には、夜の入り頃だろうか。 オッペンハイマーの家で、ダグラスを抜いた皆が食事を共にする頃でもある。


突然だった・・・。


「ねぇ、お兄さん。 冒険者?」


椅子に坐りテーブルを前にして一人呑んでいるダグラスの横に、白っぽい胸元空きのドレスを着た女性が現れた。 右手の脇に、フサフサした毛のコートの様な物を抱えている。 顔を見るに、20半ばは過ぎた大人びた女性である。


「・・、まぁな」


グラスのワインを口にしながらチラッと再度女性を見たダグラスは、腕に金銀の腕輪を幾つも着けたこの女性が夜の女っぽい雰囲気だと思う。 少し面長の顔はどこか爛れた過去を匂わせる印象で、軽く引っ掛けられそうな手軽さも感じられた。 黒髪が長く少しタレ眼がちで、鼻筋の通りの良い“イイ女”的な感じの美女だった。 


色っぽい女性は、寒さを凌ぐコートをテーブル脇に下ろす。 ドーム型の広場は、集まる人と様々な活気で出る熱が篭って少し暖かいから脱げたのだろう。 女性は、ダグラスに下着も着けて無い柔らかそうな胸元を見せながら、少し白い息混じりで。


「お隣、イイ?」


「ああ、構わない」


酒場に頻繁に出入りするように為ったダグラスは、最近はこの手の女性を拒まない。 単純的に、ポリアより楽に付き合えるから歓迎だ。 女性が身に付けるドレスのスカート左側は、深いスリットが膝近くまで入って眼にイイ。 スカートが切れて覗ける生足しも、豊満と云える胸も・・・。


「何か飲むかい?」


すると、女性はカクテールバーの主に。


「シルバールミス頂戴」


礼服では無いが。 黒いベストの下にセーターを着て、黒い皮のズボンを穿くちょび髭を生やした掘っ立て小屋の主は、小さく頷いてグラスを取り出した。


カウンター前3席、テーブルを囲む席7席の狭い店。 グラスランプの明かりがオレンジ色で幻想的ながら、古い黒ずんだ木目丸出しの壁や天井の店の中。 ダグラスに話しかけたこんな女性でも居ないと雰囲気が出ない。 酒を配る女性は、ピンクのツーピースだが色っぽさは後姿だけの年増だった。


カウンターで飲んでいる男性客3人は、奥のテーブル席に座るダグラスの脇に坐った女性をチラチラ見て来た。 確かに、美人の女性であるからだ。 こんな所にポリアやマルヴェリータを連れて来れば、一昼夜は注目の的だろう。


軽くワインを呷ったダグラス。 自分を見つめて来る女性に顔を向けて。


「俺に何か用か?」


すると、女性は色気の篭る目を向けて。


「実はね、私も冒険者なの。 杖は宿に置いて来たケド・・ね」


「へえ~、見えないな」


「かも。 昔、若い頃に夜の街で働いてたから。 魔法学院出るのに、少しお金借りちゃって・・・、冒険者で稼ごうと思ったら逆にヘマして借金。 返すのに手っ取り早い方法をしてたのよ」


ダグラスは、気に成らない身の上話を聞き流し。 ワインをグラスに注ぎながら。


「今は、何処かのチームに?」


運ばれてきたカクテールグラスを持った女性は、首を左右に振って。


「先日までチームだったけど、今は一人。 色々有って・・、バラけちゃった」


「ふ~ん。 そりゃ~大変だな」


生返事のダグラス。


だが、女性はダグラスを見て。


「でも、アナタは凄いわよね。 あの、“ホール・グラス”のメンバーなんでしょ?」


そう言われたダグラスは、自分を思って鼻先で笑う。


「フン。 凄いのか解らないが、一応そうだよ。 ま、チームの中ではお荷物の方かも知れないがな」


グラスに向き直った女性だが、その話にパッとダグラスをまた見て。


「あ、私は“クリスティー”。 お荷物? アナタが?」


矢継ぎ早の様に質問されてダグラスは、女性を見返して。


「“クリスティー”・・、中々綺麗な名前だな」


と、言って褒めてからワインを一口して。


「知ってるかもしれないが、俺はダグラス。 ・・・そう、お荷物。 今じゃ、チームの中で一番弱くなった。 嘘じゃ無いぜ」


すると、クリスティーと名乗った女性も前を向いて、自分のグラスを見つめる。


「私と一緒ね。 チームに不釣合い・・・」


ダグラスは、少しおどけと嘲笑を混じえた顔をクリスティーに向けて。


「君が? 俺と同じお荷物? 何かやらかしたとかかい?」


そのダグラスの言葉には、明らかに感情が篭っていた。 クリスティーに興味を惹かれて、思わず話に踏み込んだ。


クリスティーもまた、破顔してはにかみながらダグラスを見返す。


「そ。 ヘマはしないけど、思いっきり有名に成る道をグイグイ行こうとするチームに着いて行けなくて・・・」


何故か、直ぐに見つめ合った視線をぎこちなく外したクリスティーは、グラスを口に傾けてから少し声を平静に戻すと。 またグラスを見つめて、間をまどろむ様に空けながら話を繋ぎ出した。


「・・・、私・・死ぬのが怖いの。 だから、キツくて危ない仕事を率先して遣りたい方でも無いのよ。 ま、それなりに稼いで、こうして御酒飲めれば・・。 ・・正直言うと玉の輿とか・・、少し憧れちゃうかな。 無難でもいいから、女として愛されて家庭に入るなら・・・それでもいいのよ」


彼女の身の上話をダグラスは聞いていた。 今のチームじゃ、こんな弱音など吐けない。 クリスティーの姿が等身大のありのままに見えて、なんとなく聞いてて頷けた。 だからか・・。


「なら、少し有名に成る方向でチームを組んだらどうだ? 実力が付いてくれば、金持ちとか貴族とかからの仕事を請け易く成る。 そうすれば、お目当てのお金持ちに行き当たるかも知れないゼ。 冒険者なんて、下っ端の駆け出しの仕事で生きるなら毎日遣ってないと大変だ。 宿代やら、武器・防具の手入れに金掛かる。 女だと、キレイキレイなカッコなんて冒険者やってる内は微妙だしな~。 ま、先に少し苦労して、念願成就したら安穏な生活に我慢すれば幸せに平凡に生きられる」


「・・・」


言ったダグラスと無言のクリスティーの目が、過ぎ去った会話の後も静かに噛み合った。 少し見つめ合った二人・・。 俯き加減で瞳を逸らし前に向いたクリスティーは、グラスを見つめながら。


「ねぇ、今のチームにお荷物に成るんなら、いずれはでいいから私とチーム組まない? 別に、明日とかじゃなくていいから・・・」


ダグラスは、飲み掛けたワインのグラスを止めた。 そして、脇目にクリスティーを見る。


「本気で言ってるのか?」


クリスティーは、緩やかに頷き。


「いずれ・・でいいのよ。 どうせ私は、この街か周りの周辺都市ぐらいにしか行けない駆け出しのまんまのオ・ン・ナだから・・。 何時か戻って来てくれれば、遠い先じゃないなら焙れて斡旋所に坐ってると思うし」


と、グラスを空ける。


同じくグラスを空けたダグラスは、丁度小瓶でボトルを頼んだワインが空に為ったので。


「そうか、考えておこう。 此処は、俺が奢るよ」


と、勘定を多めに置いて席を立つ。


クリスティーは、自分が気分を害させたと思ったのだ。 だがら、その場を立ち上がり、


「あっ、じゃ私も宿に戻る」


と、慌てた素振りでコートを手にする。


ダグラスとクリスティーは、その飲食店が集まる路地を抜けて大通りへ。


「あ、ごめんなさい。 悪い事言ったわよね・・、謝るわ」


フワフワの毛皮が襟首に付くホワイトグレーの毛皮のロングコートを着たクリスティーは、人目の薄くなった大通り上でダグラスに謝る。 馬車が道脇を走るのを見たダグラスは、粉からやや大きく為って降る雪を見上げると。


「勘違いしないでくれ。 明日、仕事なんだよ。 君に気分を害す訳無い」


と、少し優しくクリスティーを見て言う。


見つめ返すクリスティーは、頭から肩に掛けてフードの様に使うマフラーの様な布を巻くと。


「あ、ホントごめんなさい。 もし良かったら、朝まで一緒したくて声掛けたから・・・。 まだ晩く成らないのに飲むの辞めちゃうから、私は怒ったのかと思ったわ」


控えめに、女らしく見えるクリスティーにダグラスは男心誘われた。 


「済まない」


ダグラスの声に、首を振るクリスティー。


「いいの。 今、斡旋所に居るフリーの冒険者ってみんながっついてて・・・少し怖いから。 アナタなら、紳士に見えて無理言っちゃったわ」


肩を並べて歩き出すダグラスは、苦笑混じりに。


「俺は紳士じゃ無いゼ。 夜の女相手だって一度二度じゃ無いしな・・・。 本当に朝まで良かったのかい?」


クリスティーは、はにかみ頷く、


「無理言ってるの解ってるし。 今、アナタにお願い聞いて貰えるだけの持ち合わせなんて、私には心と体しか無いもの・・・。 チョット汚れてるケド、私の相手でいいならって・・・」


ダグラスは、気恥ずかしさを見せて俯くクリスティーが可愛く見えた。 男として、心の中の何かが首を擡げる思いに抵抗する気には成れなかった。


人間は、目の前に餌がぶら下ると寄り道をする事が多い。 禁欲とて、実現可能な目標が有って出来る。 精神的に満たされてもいないなら、時として誘惑に負けてもイイと思える。


ダグラスの脳裏に、ポリアは高嶺の花と思っていた気持ちが溢れて、目の前の手に入れ易い物が素晴らしく見えた。 だがら、口が正直な言葉を滑らせる。


「よし、じゃ~今夜は一緒に居よう」


「えっ?!」


驚く目でクリスティーはダグラスを見上げ。 そんな彼女を見返すダグラスは、


「別に仕事を放棄する訳じゃ無い。 朝まで、仲間とは別に居ればいいだけさ。 言ったろ? 俺は、“お荷物”だって」


ダグラスは、オッペンハイマーの屋敷に戻り、玄関先で不評を覚悟でゲイラーに会う。 朝には街の大きな噴水公園に居ると告げて、呼び止めるゲイラーの声も無視してクリスティーと夜の街に消えた。

どうも、騎龍です~^^                                         

ポリア編は、かなり長いので。 上・中・下に分けて行こうと思います。 間には、色々別キャラの話を加えて行きますね~^^                                                    

ご愛読、ありがとうございます^人^

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