third episode
冒険者探偵ウィリアム 3部
「ケウトさん・・・、貴方って人は・・・」
下世話な話から、意気投合の笑いを上げたローウェルとケウトの耳に、逮捕されて外に居るはずの無いエレンの声が聞こえたのは、驚愕の一撃だっただろう。
ソファーに腰掛けたローウェルとケウトは、カーテンの方に身体を向けて立ち上がり。
「誰だっ?!」
「誰か居るのかっ?!!」
と、声を揃えた。
カーテンを捲り、エレンとミレーヌが姿を見せる。
「あ゛っ・・・エ・エレンっ?!!」
驚くケウトの衝撃的な顔は、今までに見ない彼の姿だ。
凶暴な睨み目を見せるローウェルは、ミレーヌが一緒に居るのを見て。
「エレン・・・、それにミレーヌ」
ミレーヌは、サーベルを引き抜き。
「エレンに疑いが掛かる事件だったけど、何か裏が有りそうだったから少しデマを流したのよ。 今までの話、前部聞かせて貰ったわ」
と、勝ち誇る笑みを見せる。 もう、施設に応援を呼びに行かせたし、残る配下の数人がローウェル邸の前後の門を封鎖している頃だろう。
ローウェルは、ワナワナと口元を震わせて。
「謀ったかっ、メスネコがっ!!!」
ローウェルの前にミレーヌ、ケウトの前にエレンが対峙する形で。 先にエレンが、ケウトを悔しい涙目で見つめて。
「信じてたのに・・・お父さんの事も貴方の事も前部・・・信じてたのに・・・」
すると、ケウトは感情を爆発させた。
「うぅぅ・・煩いっ、煩いんだよっ!!!!!! お前の父親もっ!!!! ダレイのクソ爺もっ!!!! 俺の夢を滅茶苦茶にしやがってっ!! 俺は・・・ダレイの下でどれだけ虐げられたかっ、20年前のあの時だってっ、今までだってそうさっ!!!! もう嫌だっ、俺は自由に成るっ!!! 自由になって、生きたい様に生きるんだっ!!!!!」
だが、エレンはケウトに怯まなかった。
「そんなの勝手だわっ。 御祖父ちゃんに弱みを握られても・・・公にして軽い罪を受ければこんな事までしなくて良かったのに・・・」
ケウトが、唇を噛む時。 エレンの後ろにチャンドとコルレオが険しい顔を見せてスティール達と共に現れた。
「あ゛っ、・・・おっお前達っ!!」
チャンドとコルレオは、エレンの後ろに控える形で進んだ。
ローウェルは、ケウトに。
「コイツ等かっ?! お前の僕は?」
慌てふためき始めたケウトは、上ずった声で。
「おっおいお前達っ、エレンを人質にしろっ!! こっちに連れて来るんだっ!!!」
だが、二人は動かなかった。
ローウェルの脇にて身構える大男は、甲冑のオブジェが持つ鉞を手にした。 モンスターの中に居る、オークと云う怪物に似た顔の男だ。
どうやらケウトは、御者の老人と二人で来たらしい。 老人は、ケウトの後ろで震え縮んでいる。
痺れ焦れたケウトは、動かない二人を見て。
「チャンドっ!! 放蕩の果てに母親が大病を患うまで冒険者で遊んでたのはお前だろうっ?!! そのお前を雇い、いい給料を出してやった恩を思い出せっ!!! コルレオっ、罪人の娘を妻にしてこの地に流れて来たのを俺が拾った恩は忘れたかっ?!!」
二人は、グぐっと唇を噛んで俯く。
スティールは、エレンの脇に出て。
「オッサン、どっちに付く? アンタ等の筋を通せばいい。 悔いの無い方を選びなよ」
アクトルは、ローウェルの脇に居る大男から視線を外さない。
先に、チャンドが苦しい口調で。
「俺は・・・、俺はケウト様に恩が有る・・・」
ケウトが、その言葉に焦りの笑いを浮かべて。
「そっそうだろう・・そうだろうとも・・・。 さ、エレンを連れて・・・」
と、言う言葉をチャンドは遮り。
「ウルサイっ!!!」
「なっ」
驚くケウト。
チャンドは、ケウトを見据えて。
「ケウト様は、このローウェルなどと云う男などとは付き合わない。 俺が受けた命令は、最後までエレン様を守る事だ。 俺の恩人のケウト様は死んだ・・・、お前は、ケウト様に良く似た悪党だっ!!!」
ギョッとしたケウト。
コルレオも、その後にケウトへ顔を上げて。
「俺も、チャンドに同じ。 ケウト様は、この様な悪党では無い。 エレン様は、ケウト様の大切なご友人、最後まで守るのが俺の受けた命だ」
スティールは、この数日チャンドとコルレオがエレンと生活を共にし。 そのエレンの情け深く人思いの性格に身を触れていたのが、この行動に繋がったと思う。 エレンは、自分の傍に従い添うチャンドとコルレオの身体を幾度も心配していた。
「ぐぬぬぬぬぅ・・。 おのれっ、恩知らずめがぁぁ・・・」
唸るケウトは、何か悔しそうにエレンを睨む。
スティールは、腰の長剣を引き抜き。
「アンタ、エレンの父親を大した人物だって絶賛してたってなぁ~。 その血、エレンにも流れてるんだよ。 見方に引き入れる相手をエレンにしとけば良かったのになぁ~。 選りによって、横のそんな下衆を見込むのが見込み違いなんだよ。 アンタ、人を見る目無いゼ。 エレンの父親と、エレンを長年見て来たのにさ」
ケウトは、数歩後ろに下がる。
「ローウェルっ、どうするっ?!」
筋骨逞しい礼服の大男の後ろに着いたローウェルは、
「ダガンっ、ダガンは居るかっ?!!」
と、大声を上げる。
すると、ロビー中央の階段の側面に有るドアが開き、変わった姿の男が手勢の様な数人の男達を連れて姿を見せる。
「何だ? ババアの殺し以外に仕事をよこす気か?」
スカート状の蒼く汚れの見える服装に、皮の胸当てを装備したダガンと云う男が声を上げる。
ローウェルは、鉞を持った下僕の大男と共に下がり。
「そうだ。 コイツ等を始末して、俺と一緒に海外に逃げてくれるか? 金は出す」
面長で、浅黒い肌の長身男ダガンは、ギラギラした目を引っ下げてローウェルの脇に来た。
「逃がさないわよっ!!!」
追う形で前に出るミレーヌ。 その脇にはアクトルが居る。
鋭く細い眼が炯炯と光り、にやけた顔に残虐性が宿るダガンは、声を発したミレーヌを見る。
「ほお~、いい女だな~」
と、ミレーヌをマジマジと上から下まで舐め回す様に眺めたダガン。
胸元の見えるミレーヌは、その鋭い眼光にも身じろぎせず。
「悪党に褒められても嬉しくは無いわね。 その内、100名以上の役人が雪崩れ込んで来るわ。 それまで、大人しく縛に着いて頂戴」
ダガンは、ローウェルを見て。
「だとよ」
ローウェルは、ミレーヌを睨み。
「女は殺さず捕まえてくれ。 男は、全員殺していい。 女を人質に、港まで逃げる」
ミレーヌ・エレン・クローリアを獲物の様な眼で見るダガンは、スッとうら若いメイドも見て。
「メイドまでくれるなら、5万シフォンで手を打つが?」
ローウェルとダガンに見られた若いメイドは、怯えた顔を強張らせて震え出す。 明らかに、何か有ったのか拒絶が滲んでいた。
その時だ。 スティールが前に出て。
「フッ、笑わせるなよ。 俺等をそう簡単に倒せるなんて思ってんの? 屋敷の前も後ろも役人が門を占めて守ってる。 逃げるなんて、ムリじゃね?」
ダガンは、スティールを見て。
「なぁんだ? お前は、冒険者か」
スティールは、なるべく横柄に構えて。
「ああ、そうさ。 役人の依頼で、今回の事件の捜査を任された冒険者だよ」
「ほう~、冒険者なんざ~ヘナチョコが多いが。 ・・・、お前は中々の腕してそうだな。 どうだ、俺達の仲間に成らないか? 金も酒も女も自由だぜ?」
すると、スティールは大声で笑い出す。
「ブッ・・、ぶはははははははっ、おいおい・・・じょ~だんは顔だけにしろよッ・・・。 うははははっ、腹痛いだろうが・・・」
ダガンは、グッと顔色を怖くして。
「貴様っ、何が可笑しい?」
スティールは、鋭い目に笑みでダガンを見ると。
「力ずくで女や金を手に入れても、凄くも何とも無い。 金は身体で動いて稼ぐ、女は心で口説く、酒は人生の憂いを暈す香水みたいなモンだ。 フッ、お前みたいな輩にこの三つを語られるなんざ~冗談にしか聴こえないね」
アクトルは、横を向いて。
「キザだな~、奥歯が痒いぞ」
その時、バンダナを巻いたダガンの手下の男が、脇に身を引いたメイドの女性を捕まえようとにじり寄った。
其処に、スティールは剣を左手に持ち替えて、右手で短剣を引き抜き様に投げ打つ。
「うわぁっ!!」
「きゃっ」
火の無いレンガ造りの暖炉の前で、メイドの腕を掴み掛かった手下の腕に短剣が刺さった。 男はその場にもんどりうって転び。 メイドの女性も、壁に沿わせた客用の椅子によろける。
スティールは、動こうとしたダガンを睨みながら。
「メイドちゃん、カーテンの方に下がってな。 もう、ローウェルじゃ飯食えないぜ」
この時、初めてメイドの女性が感情の篭る顔をスティールに向けた。
スティールは、チラリと見て。
「可愛いねぇ~、自由にしてやるから。 下がって」
と、ケウトの前に出たダガンに剣を向ける。
「アーク、ウチの大将が来る前に片付けるぜ」
アクトルも、戦斧を構えてミレーヌの前に出る。
「真打を待たないのか?」
「美味しい所、ぜ~んぶ持って行かれちまうぞ」
「それは、ちと困るな」
アクトルも、不敵に微笑む。
良い様に言われ続けたローウェルは、メイドがカーテンの方に逃げたのが気に入らなかった。 怒りに顔を歪めて、
「殺せっ、全員殺せぇぇっ!!!!!!」
ダガンが、短めのショートソードを引き抜いてスティールに襲い掛かった。 剣と剣が噛み合う音が響き渡り。 戦いの火蓋が落される。
「やっちまえっ!!!!!」
アクトルに一気に襲い掛かるダガンの手下7人だが、その豪腕から振り回される戦斧の一振りで動きを止められる。 其処に、ミレーヌとチャンド・コルレオの3人が加勢して、エレンの身をメイドの下まで引き下げたクローリアがロイムと守る。
戦いの中で、ミレーヌやコルレオ・チャンドの加勢で一気に押し返されるダガンに手下達。
「イーハン、お前も加勢しろ。 俺はケウトを連れて裏庭に行ってる。 頃合いを見て、戻って来い」
大男で、鉞を持ったモミアゲのもしゃもしゃした厳ついイーハンと云う下僕は、ローウェルの命令に勇ましく頷いてミレーヌに斬り掛かった。
スティールと斬り合うダガンは、流石に剣を遣う。 スティールの鋭い斬り込みを素早く避けて、蹴りや撲りを交えて暴力的な攻撃を繰り出す。
だが、スティールは粗方の攻撃を見切っていた。
この二人、戦い慣れているから互角に見えるが、剣術の力量はスティールの方が上である。
一方、いきなり鉞を持ったイーハンと云う大男に斬り込まれたミレーヌは、一気に後退して暖炉前に来た。 腕は互角に見えるが、その強烈な力で繰り出される鉞の重みに、ミレーヌの手が痺れたのである。
「大丈夫かっ?」
久しい戦いで、二人ずつを相手するチャンドとコルレオは余裕が無く。 アクトルも、3人をあしらいながらミレーヌを気にした。
「大丈夫よっ」
鉞を受け流して、イーハンの腰に蹴りを見舞うミレーヌはそう言うが。 蹴ってもビクともしないイーハンには梃子摺り気味だった。
その中で、エレンが自分を守るロイムとクローリアに。
「二人が逃げるわっ。 ホラっ、階段っ!!!」
ローウェルとケウトが、ケウトの連れた御者の老人と共にロビー中央の大階段を上がって行くのが見える。
魔法を人に使用したくなくて戦況を見守っていたロイムが、これに怒った。
「酷い事ばっかりしてたのに逃げないでよっ!!! あったまキターーーーっ!!!」
杖を構えると、一歩前に出て。
「魔想の力よ、根源たるその制約の開放を求む。 イメージの契約を緩めてっ、“限界突破”(オーバーフォース)」
ロイムの眼に青いオーラの力が宿り、杖からも光が溢れた。
「魔想の力は、創造と想像の力。 その力を具現化せよっ、ランス・エクスプロージョンっ!!!」
ロイムの大声が上がり、ロイムの頭上に今までに無い大きさで、青白く光る槍が現れた。 長さだけでこのロビーの天井に届くかと思われ、その太さもロイムの身体の倍以上。
クローリアは、感情の制御が出来ずに魔法が暴走してしまう事が在るのを知っているから。
「ロイムさんっ、大き過ぎっ」
だが、ロイムの眼は一点を見つめている。
「逃げるなっ!!!」
と、2階の廊下の奥に行く天井目掛け、その大きな槍を飛ばすのである。
「のあああっ?!!!」
「なんだっ?!!」
ローウェルとケウトの頭上を通り越し、2階の天井に瞬く流星の如く飛んで突き刺さった魔法の槍。
ロイムは、グッと杖を構えて集中し。
「爆発っ!!!!」
念じた瞬間、魔法の蒼く光る槍はその形を瞬時に崩壊させ始め。
“バシューーーーーーーーンっ!!!!!!”
この場の空気を揺るがす大爆音を轟かせる。
スティールは、ダガンを鋭く斬り込んで蹴飛ばしてから。 轟く崩壊の音を上げて天井を壊し、ローウェルとケウトの逃げ道を塞ぐロイムの魔法を見た。
「おおっ、センセ~ど派手だねぇ~。 俺好みだぜ、エレンを頼む」
と、態勢を立て直したダガンに斬り込む。
ダガンの手下二人を戦斧の柄で叩き伏せたアクトルは、腕に切傷を作ったチャンドを見かねて。
「オラオラオラっ!!!!」
と、振り込む斧の威圧で奥に押し込んだ。
「済まん。 久々で」
激しく動き回った息の荒いチャンド。
「いいさ。 それよか、向こうを助けて、エレンを守れ」
アクトルは、コルレオの方に顎を向けた。
「解った」
棍棒を使うコルレオは、流石に腕が鈍れど実力派。 手下一人を突き崩し、態勢優位で戦って居た。
「はぁ~、魔法膨張術って初歩なのに・・・シンド~イ」
肩で息するロイムは、二重に魔法を遣ったのである。 一気に襲ってくる精神疲労に腰を屈めて。
「疲れたぁ~、ウィリアムまだ~?」
呆れるクローリアはエレンと共に、2階へ行くことが出来ずに階段の広い踊り場で此方を睨んでくるローウェルとケウトと見合った。
この時だ、エレンは。
「え? 風?」
背中に触れてくるカーテンの動きで、後ろの閉めたはずのガラス扉が開かれているのを感じたのである。
「どうしました?」
聞くクローリアに、
「風が・・・、誰か回りこんで居ませんかっ?」
「ええっ?」
クローリアは、屋敷の中は敵陣なだけに一気に緊張の度合いを高めて。
「誰ですか? 誰か居ますの?」
と、カーテンを開いた。
ロビーのシャンデリアからの明かりが差し込む。 雨音が鮮明に聴こえて、確かに窓扉が開いていた。
「あ・・・、あそこに」
エレンは、その開かれた窓扉の所の壁際に影を見た。 丸で坐って、壁に沿う人の様な影だ。
「人・・・でしょうか?」
と、クローリアが。
「・・・」
エレンは、一つ唾を飲んで。 そろりそろりとその影に近付いた。
「どうしたの?」
ロイムが尋ねる。
「誰か・・・」
クローリアが指を指した影に、エレンが近付いた。
「あ」
細かく厳しく編み込まれた麻の繊維の袋に包まれ、床に坐る老女の顔だけが見えた。 ガリガリに痩せ扱けた顔、白髪の混じる髪は艶を失ってガサガサしている。 額や髪に幾らか雨粒を着けているが。 濡れている訳では無い。
エレンは、その老女に近寄り。 長く伸びた髪を後ろにしたボロ布の服を纏う様子を首周りに眼にしながら。
「あの・・・、大丈夫・・・ですか?」
と、声を掛けた。
「あ・・あぁぁ・・・」
弱弱しい声を出し、その弱りきった女性は声の方に顔を少し動かす。
其処に、雨の外。 テラスの所から馬の“ブルルン”と云う嘶きが・・・。
「え? 馬?」
クローリアは、エレンの声に反応して。
「エレンさん、どうしましたか?」
エレンが、外に馬が居ると言おうとした時だ。 突然、老女が震える様に動いて。
「エ・・エレン・あああ・・・エレン・エレンは・・・何処?」
と、エレンの方に弱弱しい腕を伸ばす。
この仕草に、エレンも何かを感じた。
「私の名前を・・・、もっもしかして・・・お母さん?」
エレンが、老女・・・ソレアに寄った。
「エレン・・・エレンかい?」
エレンの身体に腕が触れるソレアは、20年近く触れられなかったわが子に遂に触れたのだ。
「お母さん・・・本当にお母さんッ?!!」
エレンが、ソレアに抱き寄った。
その様子に、クローリアは驚いて。
「まぁっ、エレンさんのお母様がっ」
ロイムは、それで気付いた。
「来たっ、ウィリアムが此処に来たっ!!!」
エレンが、20年ぶりに母親との再会をした。 そんな事など知らないで、戦う皆。
戦う者が動くロビーを、階段の踊り場から見回すケウトは、蒼褪めた顔で。
「あああああ、遣られてる・・・向こうも。 こっちも。 お仕舞いだ・・・前部お仕舞いだっ!」
と、木製の格子の手摺りに寄りかかって膝を崩す。
「諦めるなっ、ダガンの様子を見計らって厨房に逃げるぞ。 運良く、イーハンが押している。 あの戦斧を遣ってるデカイ奴がそっちに加勢した時が狙い目だ」
ローウェルは、些か冷静に状況を分析していた。
だが、其処に。
「残念でしたね。 その前に、俺を相手しなければ成りません」
と、ローウェル・ケウトの背後から若い男の声がした。
「なにっ?」
驚くローウェルの声と共に、ケウトも後ろに振り向いた。
「あっ、おっ・・お前はっ?!!」
驚く声を上げたケウトは、ずぶ濡れのままに髪から雫を落すウィリアムを見た。
「知ったヤツか?」
問う、ローウェルは、装飾美しい宝剣に手を掛ける。
「ああっ、エレンと一緒に居た若造だっ。 冒険者達のリーダーだよ」
上ずった声で言うケウト。
ウィリアムは、ローウェルに近づく。 もう、御者の老人は気絶させられていた。
「おまっ、お前っ・・・」
ローウェルは、冒険者なだけに金ずくで解決しようと誘惑を掛けようとした。 だが、ウィリアムはその言葉が出る前にローウェルの下腹部を拳で突いた。
「おぶぅっ!!」
痛みに言葉を呑んだローウェル。
ウィリアムは、感情の欠片も無い冷めた目をローウェルの眼に合わせ。
「薄汚い言葉を、俺の耳に入れるな」
その言葉を言ってから、素早い動きで回し蹴りをローウェルに食らわす。
「ぎゃっ!!!」
ウィリアムの蹴りを顔面に食らったローウェルの身体が、その場で回転して踊り場の床に叩き付けられる恰好で落ち。 そのまま動かなくなった。
震えるケウトは、腰を抜かして踊り場の縁を沿う様に後退りしながら。
「おま・・お前・・・俺も疑ってたのか?」
ウィリアムは、顔を少し動かして横顔をケウトに向けると。
「最初、会った時からね」
「う・・嘘だろう?」
ケウトは、最初にエレンと来たウィリアムに、何の隙も見せていないつもりだった。
「ワイン、それと塩」
「はぁッ?」
「店のワインのメニューに、不正で仕入れてたワインが明記して有りました。 それから、魚介のスープで赤い色を出す塩の料理が。 アレは、不正で輸入されていた塩でしか作られないコンコース島発祥のスープ料理」
「あっ・・出身は・・・コンコースっ!!!!」
「塩やワインは独特の物。 輸入の段階で誤魔化せても、店のメニューで誤魔化しは利かない。 何時までも客が知らない人ばっかりだと思ってタカ括ってるからですよ」
「ああ・・・」
沈んだケウトをウィリアムは捨て置き。 階段の踊り場から、分の悪いミレーヌの加勢にと飛び降りた。
「ぬぅ」
モンスターに居る醜悪で豚の顔をしたオークの様な人相のイーハンは、背後に佇むウィリアムを見つけてミレーヌから視線を外す。
「ウィリアムっ、戻ったか?」
気付いたアクトルの言葉に、ウィリアムは軽く片手を上げるだけ。
「フン」
気合の一撃、最後の手下を戦斧の柄で気絶させたアクトルは、視線の鋭いウィリアムの横顔を見て。
(アイツ・・・マジじゃないか)
アクトルは、その物静かな気配のウィリアムが怒って本気に成っているのを知る。
「ウィリアム君・・・」
立て続けに斬り込みを防いで、痺れと痛みで動きの鈍ったミレーヌが心配する。 イーハンの怪力を知るだけに、自分も加勢しようと身構えた。
「待ったっ、任せろ」
と、アクトルの声がミレーヌに飛ぶ。
ミレーヌが、アクトルを見た時だ。
「うおおおおおおーーーっ!!」
咆哮を上げて歩いて間を詰めながら、ウィリアムに鉞を振り上げたイーハン。 その鉞ごと大男イーハンを見上げるウィリアム。 鉞が振り下ろされるのに合わせて、高い真上にウィリアムは回し蹴りを。
「ぐぬっ」
イーハンの鉞を持つ両腕の手首に、ウィリアムの右足がつっかえ棒の様にかみ合って二人の動きが止まった。 イーハンが、ウィリアムを押し潰そうと力を込めても、ウィリアムはビクともしない。
斜めに、横顔を見せる様なウィリアムは。
「力自慢で武器を振るってるんですか? あっさいですねぇ~・・・。 力の掛かる場所を把握すれば、貴方の力ぐらい子供と同然に出来ますよ」
「この野郎おおおおおっ!!!!」
唯一の自慢を貶されたイーハンは、鉞を引いて暴れるように振り回しながらウィリアムに襲い掛かった。
ウィリアムは、・・・・早かった。 走り込んでイーハンの懐に潜ると、捻りの利いた拳の突き上げをイーハンの胸にカチ上げた。
「っ!!!」
筋肉を鎧の様に鍛えたイーハンだったが、内部に突き抜けるような痛みを覚えて後ろにヨロめく。 そのイーハンの右に飛び出したウィリアムは、イーハンの腕を掴んで、彼の背中に飛び上がる。
「嘘ぉっ?」
思わず声を上げたミレーヌの目の前で、イーハンの腕を背中に捩じ上げたウィリアムが中腰に立っていて。 驚いた顔でウィリアムの居る背中を見ようとしたイーハンの身体が、グラリと傾きフワリとウィリアムの立つ方に浮き上がった。 クルンと宙で一回転し、うつ伏せに床へ叩き付けられるイーハンは、骨の折れる音を響かせて気絶するのだった。
暗殺闘武の真髄は、無手で相手を殺す術。 身体の全ての骨を、如何なる態勢からでも狙って砕く。
ウィリアムが、決着を着ける時。
「フンっ、はっ、仕舞いだっ!!!」
ダガンの剣を弾いて、その腹部に剣の柄で突きを入れたスティールが、ウィリアムに向く。
「華麗なる登場だこりゃ~」
ウィリアムは、気絶したイーハンの傍らに降りて。
「死人ナシ。 バッチリですね」
と、スティールに食えない笑みを向ける。
スティールも、剣を仕舞ってウィリアムを指差し。
「お前もなっ」
ミレーヌが、気絶したイーハンを見下す時。
「ミレーヌ様は中だーーーっ。 突入しろーーーっ」
役人隊の到着だった。
残る仕事は、事件の真相をミレーヌに伝えて、犯人を捕まえる事だけだ。
雨の音が響く中、すすり泣いて再開を喜ぶ親子の姿を、ウィリアムもスティールも暫しそのままにしておいた・・・。
どうも騎龍です^^
2日続けての更新に為ります^^。 ま~、もう大体は筋書きが読めてはいますでしょうが 次話が解決編になります^^; 長い文章に成る場合は、2話に分けますので、すみません^人^
ご愛読、ありがとう御座います^人^