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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
35/222

third episode

                冒険者探偵ウィリアム 3部








ウィリアムは、役人の若き副隊長と一般役人数名に混じってラザロの住処に向った。 木枠の荷馬車に乗り込んだウィリアムに、ブラウンゴールドの髪を逆立てる服隊長の若者が近寄って。


「君は、僕と似た年頃だろう? 良く、ミレーヌ様に気に入られたな」


と、不思議がった顔をする。


ウィリアムには、女性も何も無い。 ただ、事件を片付けて、仕事を終わらせたいだけだと言う。


「ふ~ん」


一緒に乗り込んだ年上の役人達と若い副隊長は見合って不思議がった。


ミレーヌと云う人物は、見た目や金や家柄に拘らない実力主義の傾向がある。 副隊長に任命されているのは、剣術などが卓越した捕り物役で。 隊長に任命するのは、思慮や人生経験の深い人物ばかり。 冤罪を許さず、証拠や物証・証言の収集には徹底した捜査をする人物を隊長に任命している。 ミレーヌが、他の事件を各隊長に任せて今回の事件に向うのは、やはり事件が複雑怪奇だからだろう。


港の手前の街には、貸し倉庫や船員達が使う船員部落がある。 住処の無い船員達が集団で生活していて。 雰囲気が暗く通りが散かった狭い区域に、数階建ての木造倉庫の様な建物が乱立する場所だ。 この奥の廃棄小屋にラザロは隠れ住んでいた。 


木樽や木箱が道端に溢れ帰り、馬車も通れない狭さで伸びる。 副隊長の若い役人を先頭に、ウィリアムは影が差す街の下町に踏み込んだ。


「・・・」


服を干す屈強な体格の男が役人を睨む。 建物前で竈の様に石を並べて火を熾し。 魚を炙る老いた男性がこちらを見て来た。


「何時来ても、いい視線の無い場所だ」


と、副隊長の男は訝しげる。


だが、ウィリアムにするなら、この場所こそ街の闇であり。 街の真逆を表す場所だと理解していた。


建物が並び、道を日陰にする。


疲れた雰囲気の中年女性が、子供を連れて擦れ違った。 


「此処だ」


副隊長の若者は、二階部分から上の家屋が半壊している建物の前に着いた。


一人の中年役人が、そのオンボロを見上げて。


「不正で結構金が手に入ってたのになぁ。 何でまた、こんな所に・・」


すると、ウィリアムが入り口に向かいながら。


「あのラザロって方は世間も知ってます。 不正の手先で目立つ生活してたら、いざって時に見つかり易い。 住処なんて、寝る場所有れば十分なんですよ。 金はあるから、遊んだり飲んだり外ですればいい。 此処は、塒です」


と、中に。


役人達は、暗部の人の心を理解しているウィリアムの物言いに、ポカンとして動けなかった。


さて、薄暗い中に踏み込んだウィリアム。 もう、天井の梁が崩れ、壁の一部も崩壊している。 床も腐って、踏み抜きそうだ。


(此処じゃない。 生活反応が見れない)


足の踏み場を選びながら、暗い中を見回す。


「お~い、暗いだろう?」


副隊長の若者が入って来て言う。


「それより、二階より上処か。 此処も人の住める場所では有りませんよ」


「えっ?! 騙されたのか?」


ウィリアムは、サラッと。


「どうでしょうか」


「でっでもっ・うわあっ!!!」


驚いて踏み込んだから、副隊長の若者は床を踏み抜いたのである。


「大丈夫ですかっ?!!」


声掛けた役人達。


ウィリアムは、微かに香る腐臭を嗅ぐ。


(干した魚の腐った匂い・・・。 何処かに、地下へ行く所がないかな?)


下から吹いてくる匂いに、ウィリアムは地下を捜した。 奥の二階へ上がる階段の裏側に、石で出来た地下へ向う階段が有ったのである。


「奥です。 地下に降りる階段が有りますよ」


と、声を出してから、その地下へ向う階段を降りるウィリアム。 暗殺闘武の基礎には、暗視も含まれる。 闇夜に慣れ、月明かりや星明りにも頼らずして物を見る。 幸い、此処は木の壁の隙間から陽の光が差し込んで来るから、見易い方だ。


「えっ?! あっ、わわわ解ったっ!!!」


副隊長の声を聞いたウィリアムは、一人先に地下へと足を踏み入れた。 ワインや、乾物などを貯蔵する石で出来た地下倉庫である。 床には埃が溜まり、外気の暖かさとは明らかに違ったひんやりとした冷たい空気が垂れ込めていた。


ウィリアムは、腰のサイドポケットから火付けの時に使う綿を取り出し。 石の壁に寄って、鉄の具足で蹴り火花を出した。 飛び上がる火花を一つまみの綿で受け止め、すぐさまに吹きながら間の中央にぶら下がったランプへ。 流石に慣れた動きで、明かりを点けた。


ランプの油は切れておらず、熾きたランプの火は明るい。 劣化してない証であり、生活反応が見える。 


「さて」


部屋を見回したウィリアム。 奥には、古いソファーが汚く土間の床に置いてあり。 上には、汚れた薄い毛布一枚が。 階段近くの水瓶には、まだ飲める新しい水が残り。 その脇には、空き瓶のワイン瓶やウイスキーの瓶が転がっていた。 部屋の北西方面には、汚い机が置かれ、上には紙や喰い散らかした物が掃除もされずに残される。 蠅が、煩く飛んでいた。


「おおっ、ランプが点いてる」


松明を手にした副隊長の若者が、地下に怯えた足取りで降りて来た。 踏み抜いたのが怖かったのだろう。


ウィリアムは、机の引き出しを開けていて。


「此処に、色々と書類が突っ込んでありますよ。 コレ、届け先のリストと、受け取る金額の帳簿です。 ラザロは、届けるのみと言ってましたが。 もしかすると、納期に遅れた商人へ取り立ての集金をする方もやっていたのかも知れませんよ」


副隊長の若者は、部屋を見回して。


「此処が、住処・・・」


と、疑りを見せる。


ウィリアムは、半身で副隊長の若者を見ると。


「気に入りませんか?」


副隊長の若者は、憮然として汚い地下を見回して。


「人の生活する場では無い」


お坊ちゃんを相手にしていると思うウィリアムは、次々と指を指しながら。


「劣化の少ない油の入ったランプ、腐ってない水瓶の水、腐り掛けの食べ残し、酒の匂いの残る酒瓶、どれも生活していた証ですよ」


副隊長の若者は、蠅が飛ぶテーブルを見て。


「良くこんな場所に住めるモンだ。 腹の腐ったヤツってのは、生活も腐るのかね」


ウィリアムは、それ以上返す言葉も無いので書類に目を落した。 紙には、各品を納める店の名前と納品のリストなのだが。 中には本人の名前の様な店名が書き記され。 偽名かもしれないと思う。 そして、更に・・・。


(ん?)


ウィリアムは、店の名前も何も書かれていない欄が在るのに気付く。


(納められているのは・・・、西の赤い岩塩と・・果実酒。 そして、果実酒から作る数種のビネガス(酢)か・・・。 他は、・・・)


その納品先のみ、他に名前や店名の記載の無い欄は無い。 納品されている品物を見るウィリアムは、ハッとある事に気付き。


「や・・・やっぱり」


と、呟いた。


「ん? 何が、“やっぱり”なんだ?」


副隊長の若者が、ウィリアムの持つ紙を除いて聞いてくる。


ウィリアムは、その紙を渡し。


「いえ。 それより、早く詰め所に戻りましょう。 ラザロに、もう一度取り調べをして、店名のハッキリしない店を割り出し。 この納品先の事情聴取をしないと」


「あっ、あああ。 そっ・そうか。 随分と多いなぁ~、これは大変だ」


リストを見る副隊長の若者は、そのビッシリと書き込まれた店のリストにボヤく。


だが、ウィリアムは何か考えに耽った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





夕方。 陽が暮れる空が雲で覆われ。 今にも雨が振りそうな頃。 ウィリアムが、ミレーヌの館へと一足先に戻って来た。 ミレーヌの執事に出迎えられて、2階へと行く。 ミレーヌに貸して貰った部屋で、皆に今日の成果を語るウィリアム。


ラザロの取調べは手短で、ラザロは観念しているので素直だった。 あの、名前が記載されていない店は知らないらしいが。 他の店は全て知っていた。 そして、サレトンも逮捕され、不正の事について厳しい取調べを受けていたと云う。


スティールは、ローウェルが慌しく馬車で出て行った事を言う。


ウィリアムは、苦笑して。


「凄い剣幕で役所に怒鳴り込んで来たそうですよ」


“エレンは何処だっ?!!! 私の妻と成るエレンだぞっ!!!! 嘘っぱちの嫌疑など掛けて、後で恥を知る事に成るぞっ!!!!”


「と、怒鳴り散らして、帰って行ったそうです」


もう、起きているエレンは、それを聞いて俯く。


「どうして・・・嘘と言えるのでしょうか・・・。 私が一番怪しいのに・・・」


エレンに、皆が振り向いた。 


エレンと云う人物は、祖父の横暴の御蔭か気持ちの強さと冷静さが鍛えられた女性だった。 ローウェルが怒鳴り込んだ事に有り難さを覚えず、冷静にこうゆう判断が出来るのは女性ながら素晴らしい。


ウィリアムは、エレンと云う人物を認めて。


「エレンさん、見張りを続けて下さい。 ローウェルが戻って無い以上、何処かに行った可能性が有ります。 お店には役人が張り付いて居ますが、他に行ったのでは調べ様が有りませんが。 逆に、あの屋敷に誰かが来る可能性も有ります。 ですから、尚更見張りが必要です」


ケウトの指示でエレンを守るチャンドとコルレオに挟まれたエレンは、頷いてソファーから立ち上がる。 エレンは、何か覚悟がもう出来ている様子だった。 優雅なフックハンガーにミレーヌから借り受けたベールを掛け、物陰を作りローウェルの屋敷を見張るエレンは、必死さと悲壮感が混同している。 スティールなどが見ても、彼女は全身全霊で本気だった。


休憩すべくウィリアムは、仲間を連れて同じ階の近くの部屋に移動した。 クローリアとロイムは、エレンに付き合うと部屋に残った。 皆が寝たり休むのに遣う簡易ベットやソファーが配される部屋で、ウィリアムは少し休むとソファーに横に成った。


スティールやアクトルも休憩とベットやソファーに寝転がる。


ランプも点けない部屋だ、暗い。 その中で、スティールが唐突の様に。


「ウィリアム・・・、何処まで解った?」


すると、ウィリアムは瞑目したままに。


「8割・・・程ですかね」


アクトルは、殆ど解っているんだと思って目を開く。


だが、スティールは目を瞑ったままに。


「あのエレンって娘・・・最悪まで堕ちるのか?」


「さぁ・・・。 ミレーヌさんの判断や、この先の事件の経過によって千差万別ですかね」


スティールは、薄目を開いた。


「お前は、どうしたい?」


すると、ウィリアムは少しの沈黙を溜めてから。


「最悪は見たく無いですね」


スティールは、それを聞いて目を瞑り薄く笑った。 ・・・、それだけだった。


ウィリアムが戻ってから、更に夜も暮れてからミレーヌが戻った。 もう、外は雨と成り。 土砂降りの雨音が屋敷を濡らす。


「あ~ん、もう。 ビショビショよぉ~」


ミレーヌは、ウィリアム達がまだ食事をしていないと聞いて、一緒にしようと呼んだ。 見張りにアクトルとロイムが残り。 皆はミレーヌの屋敷の食堂に呼ばれた。


長いテーブルには、テーブルクロスが敷かれて。 貴族の様な食事の風景を思わせる場所である。 髪の毛を濡らしたミレーヌが、タオルで拭きながら着替えて来た。 ピンクのナイトドレスを着たミレーヌは女らしい。


スティールが、ミレーヌに寄り。


「美しい・・・、世界に二つと無い美しさだ」


ミレーヌも、にこやかに笑い。


「アホは嫌い」


スティールは、げんなりしてウィリアムの元に戻って来た。


ささやかな食事が始まり、蝋燭の明かりが灯る食台の上で会話が始まる。 ミレーヌは、一日不正の操作に奔走した。 ダレイの手下でラザロの証言が在る事を理由に、疑わしい役人達の事情聴取をしようとするも。 汚職をした部下が居たと云う事に抵抗を持つ役職持ちの偉いさんが引渡しを渋る。 ミレーヌは、過去の貸し借りや徹底捜査で追及の斬り込みを他に広げるとまで脅しを掛けて頷かせたのである。


ウィリアムは、ミレーヌが見た目以上に強い役人だと思って笑みを零す。


さて、サレトンも捕まって直ぐに厳しい取調べで口を割り出した。 


「あのサレトンって男、思った以上にワルだわ~。 ダレイのオジイチャンの威光を笠に着て、強請りの類もやってたみたい。 密輸品の取引を決める密会には必ず同席してて、契約を交した相手の顔は全て知ってたわ。 明日から、密会に利用した店の聞き込みで、不正に加担した役人の割り出しだわね。 すっ~ごく忙しく成るわ。 あ~、またお肌が荒れるぅ~」


スティールは、エレンの事を犯人にした効き目が凄いと話を振ると。 ミレーヌも、エレンを見て気の毒な顔をして。


「ホ~ント、凄いわ。 ローウェル以外に、彼女のお父さんの知り合いが一杯来たらしいわ。 ダレイのオジイチャンの商人仲間ってのも来たわ~。 アレは、殆ど不正商売の相手みたいね。 ウィリアム君の言う通り、エレンの逮捕で事件が動き出したわよぉぉ」


ウィリアムは、肉をナイフで刺し。


「これから、一気に動きますよ。 犯人は、エレンさんが逮捕される決定打が無いと思っていたのに、逮捕されて慌てるハズ。 これから数日のゴタゴタに紛れて次の手を打ちます。 その時が、全ての決着の好機。 ミレーヌさん」


「ん? なぁ~に?」


「もしかしたら、の為に。 役人さんを手配出来ますか?」


ミレーヌの顔が、スぅ~っと真顔に変わる。 その様子に、支給をする執事やメイドが動きを止める。 スティールやクローリアもウィリアムに釘付けに成った。


「何か、起るの?」


ミレーヌが、しっかりした声で聞き返すと。 ウィリアムは、肉を口に入れて頷き。 噛んで飲み込んだ後に。


「ローウェルさんの帰りが遅い。 エレンさんの事で、動いている可能性が。 俺の考えが正しいなら、犯人が次に打つ手は一つ」


エレンが、ウィリアムを見て。


「何ですかっ?」


と、答えを急ぐと。 ウィリアムは、急激に緊張の増すこの場の一同を見てから、エレンを見て。


「エレンさんの早期解放を狙いますよ。 その為に、誰か身代わりを用意しますね。 生きた身代わりか・・・、死んだ身代わりかは、・・・解りませんがね」


皆の間を沈黙が支配する。


ミレーヌは、話が話しなだけに執事の老人以外を退室させた。 


場に、関係者のみが残ると。 ミレーヌは、ウィリアムに。


「身代わりの心当たりは? 解るなら、その人をマークするわ」


しかし、ウィリアムは皿の料理を空にして、口をナプキンで拭きながら。


「いえいえ、恐らくは役人の目に届く所には居ない人物ですよ」


スティールは、意味が解らず。


「そんなヤツ居るのか?」


「はい。 誰とは解りませんが・・・一人」


皆が解らない顔をする中、ミレーヌだけは意味が解り出す。


「ウィリアム君・・・、まさか・・・まさかっ?!」


ミレーヌが気付いたと知ったウィリアムは、紅茶のカップを手にして。


「はい。 まだ、表に出て来ていない人物・・・、それは。 恐らく、毒を造った方」


全員の顔が、“あっ”と驚いた顔に成った。 そう、エレン以外で確実に犯人と思われる者は、毒を作った本人か、毒をを使用した者のどちらか。 ウィリアムは、誰が毒を使用したか解っていると言い。 その人物は、エレン一家の中に居ると言っていた。 つまり、実行犯は泳がされて居るが、表舞台にもう立っているのだ。 その外でまだ解らないのは、毒を作った人物。


ミレーヌは、料理の残る皿を空ける作業に向かいながら。


「解ったわ。 ウィリアム君を今回は信じる。 私が直々に此処に残って、役人を手配するわ」


紅茶を飲むウィリアムは、ミレーヌを見ずに。


「いいんですか? 不正の捜査もお忙しいでしょうに」


ミレーヌは、ニッコリ笑い。


「いちお~、ゆ~しゅうな部下が居ますから~ん。 ウィリアム君の推理の勇姿を見逃せないわん」


スティールは、ウィリアムがその人物にも心当たりがあるかもしれないと思う。 だが、下手に言うのはウィリアムに迷惑だと思い。 態と・・・。


「おめ~、行く先々でファンを作る気か? ああ? 羨ましいんだコラ~っ!!」


と、絡み掛かる。


紅茶を啜るウィリアムは、澄ました様子で。


「俺は、ファンだの頼んだ覚えは有りません。 なんなら、スティールさんにあげますよ」


「うおおおっ、マジ?!」


クローリアは、急激に雰囲気が変わるのに着いて行けず。 困り果てた顔付きで。


(どして・・・、そうなりますの?)


だが、ミレーヌも其処に加わって。


「チョットっ、アホのファンに成れる訳無いじゃないっ!!」


スティールは、涙目でミレーヌを見て。


「アホにも愛の手をぉぉ・・・」


ウィリアムは、カップをテーブルに置き。


「認めたし・・・」


スティールは、ウィリアムに鬼の形相を見せて。


「この際何でもイイんだよっ!! アホでもバカでもっ」


「ほう~。 大丈夫だと思いますよ。 どっちも当て嵌まりそうですしね」


ミレーヌは、大いに頷いて。


「納得」


スティールは、両手をワキワキさせて。


「お~にょ~れぇぇぇ・・・・」


執事の老人が、ミレーヌを窘めて其処を纏める。


エレンは、チャンドやコルレオと見合って驚いていたが。 ウィリアム・ミレーヌ・スティールは、内心にこれ以上此処で話すのは良くないと思っていた。 その事に気付ける者は、執事の老人のみだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






その夜中。


エレンとチャンド・コルレオが休み。 チームの中ではウィリアムとスティールとロイムが、明かりも点けない暗い部屋で見張りをしていた。 クローリアとアクトルが仮眠を別室でとっている。


スティールは、ロイムにも絡まず。 ウィリアムと窓を左右から挟む様にして見張っている。


ロイムは、静かに甘いミルクティーで休憩をしていた。


その中で、スティールは声のトーンを低くして。


「ウィリアム、犯人はあのエレンの一家の中に居てだ。 死刑・・・に成るんかね?」 


ウィリアムは、スティールが随分と遠回しな聞き方をする物だと思い。


「スティールさんにしては、ハッキリしない聞き方ですね」


スティールは、苦い微笑みを見せて。


「お前相手だぞ、ストレートに聞けないわよ~ん。 ・・・ミレーヌの姉さん」


ウィリアムは、下らなく笑う。


スティールは、その雰囲気に任せて。


「毒を使って人殺しをしたとしてだ。 殺した相手は、極悪人だろ? 社会の悪魔を殺して死刑なんて、法は其処まで酷に作ったらイケンと思う訳ですよ」


頷くウィリアムは、一瞬俯き。 直ぐに顔を窓の外に向けると。


「多分・・・、ミレーヌさんの判断が優しいなら・・・死なないと思いますよ。 エレンさんのお父さんの知人は、皆いい商売や役職持ちの役人だそうですからね。 死刑は、国に遺恨を残す形に成ります」


「ふ~ん。 お前、全部解ってるんと違うか~?」


ウィリアムは、口元に微笑を浮かべて。


「確証の無い部分が半分ですからね。 無闇に“解った”とは・・・言いたく無いですよ」


「そうか・・・」


スティールは、脳裏に浮ぶエレンが前の事件のジェリーに重なり。 出来る事はしてやりたい気持ちに成っていたのだ。


それから、小雨に変わった深夜は更に深けて。


「・・・」


ロイムが、椅子に座ってコクリコクリと眠たそうにしている。


徐に、ウィリアムは静寂を破り。


「スティールさん、この街に来た昼のお話を覚えてますか?」


スティールは、唐突に聞かれた事に驚いたが。 声を出す訳でも無く。 程なくの間合いで。


「仇持ちのお話か?」


瞑目して頷くウィリアムは、街灯に照らされるローウェル邸の正面門をまた眼を開いて監視しながら。


「実は・・・、俺の逃がした男性のイザコザは、チョットした事情を持っていたんです」


「仇討ちの事だろ?」


すると、ウィリアムは首を左右に・・・。


スティールは、サッパリに為って。


「全く解らなくなったぜ」


「でしょうね。 俺だって、飲み屋に勤めてなければ知り得ない話でしたから・・・」


ウィリアムは、あのジョーが来る二月前の事を口にするのだった・・・。


数年前の若いウィリアムが、あのアクトル・スティール・ロイムの3人を交えて一緒に飲んだ酒場に働きに来ていたある日だ。 見張りをしている今夜の様な小雨が降り続く夜に、変わった男二人に声を掛けられた。 空のワイン樽を外に出していると。


「おい、若い兄さん」


と、乾いた感じの男の声が。


ウィリアムは、気配で感じていたが。 声を掛けられたので雨が落ちる裏の軒下で。


「ハイ?」


振り向くと、黒い礼服を草臥れさせた初老のガリガリに痩せた男性と。 剣を腰にぶら下げた冒険者風体の中年男性が裏口に回って来ていた。


灰色のローブに身を包む冒険者風体の中年男の左腰に、剣の柄が突き出ているのをウィリアムは認識しながら、


「何か?」


目つきの鋭い冒険者風体の中年男は、ウィリアムに一歩深く歩み寄ると。


「実はな・・・とある男を探している」


と、ジョーの見た姿そのままの男性の事を聞いて来たのである。


この時、ウィリアムがジョーを知る訳も無く。 知らないで終わったのだ。


が。


ウィリアムは、ジョーを訪ねた人物の言葉に東方の大陸の訛りを感じ。 興味をそそられて時々お客にその話を隠しながら尋ねて見たのだ。 東方から来る客の中で、そのジョーがどうか知らないが、有名な仇持ちに成った男の話が聞けた。


此処まで聞いたスティールは、呆れてしまい。


「お前・・・、知ってたのか?」


ウィリアムは、窓を見ながら。


「朧気に聞いただけなんですが・・・、其処に彼を逃がした俺の理由が在ります」


「?」


スティールは、静かに黙った。


ウィリアムは、深いため息を一つして。


「あの、仮の名をジョーとした人物の仇と思われていた大使の両親は、十年しなくして死んでいました。 ですから、追っ手を差し向けているのは・・・違います」


スティールは、唖然としてしまい。


「おま・・、あ? じゃっ・じゃあ~・・・一体誰が?」


「あのジョーと恋人の間に出来た子が嫁いだのは話しましたよね?」


「おお、確か・・・第なんちゃら王子の奥様だろう?」


「ええ。 ・・・、ジョーと・・・、いえ。 カーネリアスさんの娘が、国の王族に嫁ぐに当たって、一つの条件が出ていました。 それは・・・、父親の存在の抹消・・・」


「っ?!!!」


話の内容にギョっとしたスティール。


「んじゃっ・・・刺客を差し向けたのは・・・まさか」


ウィリアムは、静かに頷く。


「カーネリアスさんのご両親と、彼の愛したご令嬢です・・・」


スティールの頭の中から、一瞬にして見張りの事が消し飛んだ。 


「・・・、こっ・恋人も・・・か?」


「交換条件だったみたいですよ。 噂では、他国の公爵家の子息を殺したカーネリアスさんの娘を堂々と国の王子の妃に出来ない・・・。 ですから、回りくどい遣り方で王子の妃に成ったお嬢さんは、別の家の養女に入り、其処から嫁いだとか。 過去の帳消しと、孫・子の罪を帳消しにする代償が、カーネリアスさんの暗殺・・・。 最初の刺客は、確かに殺した相手の一族が放った刺客だったかもしれない。 ですが、途中から根元が摩り替わっていたんです」


スティールは、本気で話にのめり込み。


「何で其処まで解るんだよ・・・」


「聞いた話の総合ですが。 一人、旅人で元は政務官助手をしていたご老人に色々聞けたのが大体でしたかね。 コンコース島に住み着いて、学者として毎日飲み歩きながら本を読むのが日課の人でしたが。 酒が入ると深酒ばかりで、良く俺が家まで送っていたんです。 ある夜、俺が前にその事を何となく尋ねていたのを急に思い出して・・・。 色々教えてくれました」


苦虫を噛み潰すスティールは、難しい顔をして。


「幾らなんでも、親兄弟や恋人に命を狙われるなんざ~・・・遣り切れね~べよ」


と、ロイムの手前で声を押し殺す。


ウィリアムは、窓を見つめながら。


「話の一部は俺の推測です。 ・・・、そして、これも推測なんですがね。 恐らく、大使の母国から、カーネリアスさんの母国に内々に依頼が有ったのではないかと思うんですよ・・・。 お互いの国の為、亀裂を生じさせない為に・・・彼を始末して欲しいと・・・」


聞いたスティールは、ウィリアムの言うカーネリアスと云う名前のジョーと仮名した男性に同情をした。 だが、ウィリアムに、その顔を向けると。


「お前・・・、態と逃がしたのか? その逃げてる男を?」


「ええ。 彼は事実を知らなかった・・。 聞いて驚いたのは、彼が誰に命を狙われ続けているのか理解していない処にでした。 ですから・・・、彼を・・・カーネリアスさんを逃がしたんです。 もし・・・もし彼が本当の事を知ったら、ご自分で命を絶つ気がしました。 彼は、未だに心の何処かに愛を残し、令嬢への愛を残していた。 だから、罪から逃げれる。 理由の本質と現実を知らないままに殺されたなら、彼は幸せかもしれない。 ですが、それは罪を償う事には成らない気がしました。 ですから、真実を知るまで・・・まぼろばの愛が壊れるまで逃げて居させようと思ったんです。 俺は・・・」


スティールは、真実がこんなにも過酷かと思い。


「ウィリアム・・・、お前ってヤツは・・・」


瞳を細めるウィリアムは、見張りを続けながら。


「真実の愛が貫けているなら・・・、俺も其処までは思いません。 ですが、カーネリアスさんがご令嬢を思い出して語る姿が美し過ぎました・・・。 事実は、もっと厳しいのに・・・。 現実は、其処まで甘く麗しく無いのに。 彼が、人を殺した罪より、その達成感に自惚れて居続けてる事に・・・キレたのかもしれません」


スティールは、語るウィリアムの今の心が透明に思える程に良く解った。


「お前・・・」


(憎しみの怪物に変わった大使の親や、先の未来の為に愛情をすてた皆が獣に成った中で・・・唯一変わらないその男が哀れ過ぎたのかよ・・・)


思うスティールの心の中で、ウィリアムがコンコース島で言った言葉を思い出す。 


“綺麗な幕引きなんて嫌いなんで”


この若さで、どうしてそれができるのか。 判断出来るのか。 ウィリアムの脳裏には、何かが浮んでいて。 ウィリアムの心には、何かが居座っている。 スティールは、そんな気がして為らなかった。


そして。


(コイツ・・・、なんでこんな話を? まさか・・・、犯人か誰かが同じなのか? 幻の愛に囚われているとか・・・。 ・・・あああああっ、一体何がど~成ってるっ?!!!)


頭が、混乱してきたスティール。


結局、朝まで。 エレンと交替するまで何も起らなかった。 

騎龍です^^。

                                     私的なシステム上のトラブルで、更新が遅れていましたが。 これから少しずつ再開します^^。 真に申し訳御座いません^人^               


ちと、精神的に体長不良なので、更新がゆっくりに成りますが。 更新は続けますので、ご愛読、よろしくお願い致します^人^

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