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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
34/222

third episode

                 冒険者探偵ウィリアム 3部







アクトルとスティールは、夜の入りの闇に紛れつつも馬車の後を追って屋敷の建つ敷地へと踏み込んだ。 レンガの塀の内側には、剪定された木々が等間隔に植わっていた。 馬車を追うと、館の脇に隣接された馬小屋と納屋に馬車が停められ、御者の男が明かりの漏れる窓の前で何者かと話して居る。


「明日は、何時もの時間より少し遅くで宜しいですか?」


すると、張りのある大人びた女性の声で。


「ええ、お願い。 今日はお客も多いから、そうして」


スティールは、馬車の裏手に来て。


(間違い無い。 ミレーヌの声だ)


と、確信した。 だから、自分から声を出す。


「チョットいいか?」


突然の声に、御者と話していたミレーヌは驚いて。


「誰っ?!」


と。


だが、直ぐに。


「スティールさん・・・、ですか?」


と、ウィリアムの声が。


アクトルは、それに驚いて。


「あ? ウィリアム、お前も居るのか?」


警戒する素振りの御者の前に出たアクトルとスティールの目の前に、ウィリアムとミレーヌが進み出た。


スティールが、ウィリアムを指差し。


「オマっ・・何で居るんだよ」


と、驚けば。


ミレーヌは、スティールに腕組みして。


「彼方こそ何で私の屋敷に居る訳?」


と、少し警戒を覗かせる。


だが、ウィリアムはミレーヌの前に出て。


「お二人が居る・・・、何か有りましたか?」


スティールは、ハッと事実を思い出し。


「おう。 大有りだ」


ウィリアムは、ミレーヌに向くと。


「一緒に中で話しましょう。 とにかく、外は」


ミレーヌは、邪魔が来たと思いながら。


「いいわよぉ~。 2人も4人も変わらないし~」


その後ろから、エレンが。


「あの・・・、どうかしましたか?」


と、姿を見せる。


アクトルは、役者が揃い出したのを見て。


(あ~あ、ロイムとクローリアも連れて来れば良かったか・・・)


と、後悔をした。


ミレーヌの屋敷は、中がベージュの壁をした明るい中だった。 扉を潜って中に入れば、広いロビーを照らすシャンデリアの明かりが降り注ぎ。 二階へ上がる階段が腕を抱くように包むロビーの待合場には、初夏で使われずに休められた暖炉とソファーが見える。 部屋の四隅を見せない心遣いの鉢植えは、花の咲く品種改良された低い木々だった。


「只今、戻ったわ」


ミレーヌが、出迎える初老の男性に一言。


白髪の頭、柔らかいカーブの眼鏡、織り目正しい黒の礼服、赤い蝶ネクタイ。 ミレーヌの家の執事は、見て解る物腰柔らかそうな男性だった。


「御帰りなさいませ、ミレーヌ様。 おやおや、今日はお客様がお在りで?」


ウィリアム・アクトル・スティール・エレン、そしてチャンドとコルレオを含めた6人の客を招き入れたミレーヌは、


「爺、今日は多めに食事を頼むわ。 少し込み入った話もしたくて、連れて来たの」


執事の男性は、微笑を返して。


「それはそれは、畏まりました」


と、頭を下げる。


ウィリアムが、


「不躾に訪問して済みません。 用が済み次第に我々は帰りますので、どうかお気遣いは」


すると、執事の男性はウィリアムを見て。


「これは、ご丁寧に。 主が持て成せと云う皆様です。 直ぐにお帰りとは御寂しい。 今宵は、此処にお泊り下さいませ。 直ぐに、メイドにご用意をさせます」


ウィリアムは、執事の男性が出来た人物だと思ったので、それ以上の言葉を出さなかった。


準備には、時間が掛かる。


ミレーヌは、先に話が在るならとロビーのソファーに皆を座らせた。


腕組みで、一人用のソファーに座ったミレーヌ。 チャンドとコルレオを共にソファーに腰掛けたエレン。 その皆の前で、立ちながら近寄ったウィリアム達が、報告をし合う。


スティールは、違法な積荷を抑えたと聞いて。


「仕事速いなぁ~。 もうかよ」


ウィリアムは、エレンを見てから。


「悲しむ間を与えないようにしたまでです。 ま、持ち出される前に荷物を抑えるのは、密輸捜査の基本ですし」


アクトルは、スティールが全て語ると思ったのか。 何も云わなかった。


さて、スティールが話しを切り出す。


聞いていたミレーヌが、エレンを見て。


「え゛っ?!! 貴女の婚約者って、隣のローウェルなの? あら~・・・ま~・・・悪趣味・・・」


と、呆れた顔をする。


エレンは、恋愛の要素は微塵も無いとばかりに。


「祖父が決めた事です・・」


と、俯く。


ウィリアムは、ミレーヌがローウェルと云う人物に面識が有りそうな感じを受けて。


「ミレーヌさん、ローウェルと云う人物は・・お知り合いで?」


すると、ミレーヌは口を尖らせて。


「知りたくも無い知り合いよっ。 数年前に引っ越してきて、いきなり私に求婚してきた変態だわ。 お金に意地汚く、権力を傘に着るし、自分以外で美人の女以外はゴミみたいに思ってるサイテーよ」


頷くウィリアムは、直ぐに。


「ミレーヌさん、エレンさんの家を見張って居た男がそのローウェルと云う人の家に行ったのは、偶然では無いかもしれませんよ」


ミレーヌは、何処か嫌々とした雰囲気で。


「多分、お金に見えてるエレンが目当てじゃないの? 事件の裁判前にローウェルがエレンと結婚すれば、家財から全てローウェルの物に成るわ。 見す見す没収される商業力と財産を放って置く様な男じゃ無いわ」


と、同情の念を込めてエレンを見る。


「・・・」


エレンも俯いて黙る。 ミレーヌの話が、正しいと思えた。


だが、ウィリアムは。


「でしたら、エレンさんや家族や誰よりもダレイ氏が死んで利益を得る人は、ローウェルと云う人じゃ有りませんか。 一番疑わしい人物ですよ」


エレンとミレーヌは、ハッとしてお互いで見合った。


ウィリアムは、エレンからダレイ氏がローウェルを利用しようと画策しているのを聞いて、その逆手を取った行動も有りうると指摘。 その上で。


「ミレーヌさん、幾つかお願いが有ります。 犯人を動かしましょう。 動けば、影も見えますし、ボロも出ます」


ミレーヌは、エレンやチャンドなどと共にウィリアムを見ながら。


「どうやって? 誰が犯人かも解らないのに・・」


すると、ウィリアムはソファーに座ってミレーヌに。


「先ず、ローウェルと云う人の屋敷を見張りましょう。 そして、エレンさんを偽って逮捕して下さい」


ミレーヌも、エレンとその脇のチャンドとコルレオも、ウィリアムに驚いた顔を向ける。 ミレーヌは、話が今一解らない。


「な・・何で?」


ウィリアムは、エレンを見ながら。


「今、時間が必要です。 不正な積荷と、あのラザロと云う人物の洗い出し。 そして、毒の出所の捜索や、犯人の捜索・・・。 ダレイ氏が何時殺されてもおかしくなかったのに、今に成って殺されたのには、最近でダレイ氏を殺さなければ成らない事情が出来た誰か・・・。 全てを踏まえると、一番身の危険な人はエレンさん」


一同の視線が、エレンに動く。


「あ・・・わっ・私・・・」


どうしていいか解らないエレンは、ウィリアムを見つめ返して混乱して居る様子。


ウィリアムは、そのままに続け。


「エレンさんを含め、今は疑わしき者ばかりが多くて、犯人を割り出せない。 なら、一番犯人に近い浴槽に入ったエレンさんを逮捕して、周りの反応を見てみるのが一番ですよ。 恐らく、ローウェルと云う人物がエレンさんの家に見張りを送り、自身でも行ってるのはエレンさんの身柄の確保・・・、もしくは、結婚の早期決着。 ダレイ氏の密輸の不正が何れはバレても、結婚してエレンさんの家の財産と商業力だけは早期に吸収したいハズ。 家にエレンさんを置いておくのは、マズイです」


スティールが、ウィリアムの背後に寄って。


「意味が解らないぞ。 どうゆう事だ?」


ウィリアムは、馬車の中でミレーヌに商業法の穴を聞いて有る一つの仮定した筋書きが出来たので、それを話した。


婚約までしているローウェルが、このまま居れば結婚前に不正の事が公になればエレンの財産から商業の全てが国に押さえられる。 しかし、有耶無耶の内に結婚して吸収してしまえば、不正に関わったのはダレイやあのラザロと云う男だが。 結婚して財産の名義が変わってしまい、人以外は罪に問えなく為る。 つまり、エレンと結婚して不正に関わる品を全て国に提出してしまえば、残った財産や店や商業力は全てエレンの夫に成るローウェルの物と為る。


ミレーヌは、それは大いに可能性は在ると。


「確かに、上手く行けば・・・そうなるかもね」


スティールは、ミレーヌに膝を寄って。


「でもよ。 エレンと結婚する以上、エレンが犯人だったり、不正に関わってたら意味無いぜ?」


ミレーヌは、ウィリアムの筋書きを読み切った。 気付いたのだ。 スティールを無視して、ミレーヌはウィリアムに。


「まさか・・、最終的には彼女を殺す気?」


と、エレンを見る。


ウィリアムは、エレンを見据えて。


「エレンさんの価値は、結婚して財産を自分の元に運ぶ処まで。 誰にせよ、もしダレイ氏の財産の全てを欲したとしての殺人なら、一番必要なのがエレンさんか、ルイスさん。 用が済んだら、一番必要の無いのもこの二人・・。 目下、その事実が現実として迫るのはエレンさんです。 ローウェルと云う人物が一癖も二癖もある人物なら、尚更警戒しないと。 見す見すエレンさんを持って行かれては、困ります」


コレルオが、ウィリアムに困惑した顔で。


「飛躍のし過ぎではないか?」


チャンドも、今一理解出来ないと。


「そうだ。 第一、エレンさんをどうやって説得する? 結婚は、正式に挙げなければ為らない。 人前で挙げるなら、エレンさんを同意させる必要が有るぞ?」


ウィリアムは、薄く笑って。


「そんな事・・、簡単ですよ」


スティールは、ウィリアムの横に座って。


「どうする?」


ウィリアムは、エレンを見据えて呆れた微笑を浮かべて。


「エレンさんは、ダレイ氏とは正反対ですからね。 例えば・・・」


“俺は不正を知っている。 もし、不正をバラせば、雇われた人は全て路頭に迷うし。 君の家に暮らす家族の様な皆全てが一文無しで棄てられる。 俺と結婚すれば、店は今まで通り。 君の家に居る全員も、私が面倒見よう・・”


「・・・、なんて如何です?」


その場の全員が、ヒシャリと黙った。


ウィリアムは、一人納得の頷きを見せる。


「多分、エレンさんが捕まったとしたら、犯人は直ぐに焦り出しますよ」


アクトルは、立ち尽くしたままに。


「何で、そう言い切れる?」


ウィリアムは、今にして思い。


「これは、自分の想像ですがね。 もし、犯人がダレイ氏の財産が目当てだとしたら。 エレンさんにも、港にも、彼方此方に見張りを着けるでしょう。 もし、積荷が抑えられたと知ったら、何よりもエレンさんを欲しがります。 全てを受け継いでいるエレンさんですからね。 早くエレンさんを確保して、不正が表立つ前に相続をしたいと思うハズ。 ですが、今エレンさんは此処に居て、表向きは役人と一緒に施設に居ると思われている。 エレンさんが開放されないなら、されないだけ犯人は焦ります。 なにより、エレンさんは様々な許可の証の書類を持って来て居ますから。 エレンさん抜きでは、どうしようもありませんよ」


ウィリアムは、確信が有った様だ。 丸で、それが当たり前の様に言う。


ミレーヌは、まだ決め付けるのは早過ぎると思って。


「財産目当てとは限らないわ。 純粋に、オジイチャンを殺したかったのかも知れない」


だが、ウィリアムは。


「あんな希少な毒を使う以上、それなら犯人は事件との関わりを抹消するか。 逃げるか。 誰かに濡れ衣を着せるかのいずれかを取ります。 ですが、この街の薬を作れる人で事件に関わってる人は誰も居ない。 一人を除いてね」


スティールは、ウィリアムに詰め寄る。


「誰だ?」


ウィリアムは、エレンを見た。


「わ・・私・・ですか?」


見られて声を震わせたエレン。


ウィリアムは、足組みして上を向き。


「とにかく、ミレーヌさん。 ローウェル邸を見張る為に一室お貸し願えませんか? エレンさんも暇でしょうから、一緒にローウェル氏の館を見張って貰いましょう。 仮定捜査で役人を堂々と動かすのも下手な策ですし、内々に出来る我々だけで見張りを。 その間に、ミレーヌさんは密輸の実態と、被害者の身辺の徹底捜査をして、時間を稼ぎましょう」


ミレーヌは、ウィリアムに何故この根拠が在るような言い方が出来るのか理解出来なかった。 確かに、ウィリアム自身がミレーヌに語らぬ部分も多く。 エレンの父親の死の前日の行動や、風呂場に感じてる違和感などを伏せているのも在るのだろうが。 


しかし、ミレーヌと云う人物は女性でも肝が据わっている人物らしく。 細かく詮索せず、逆に微笑む。 そして、ウィリアムを見つめると。


「まぁ、信用は出来そうだし。 君と一つ屋根の下で過ごせるのも悪く無いか・・・」


ウィリアムは、済ました顔を横に向けて。


「同じ部屋なんて泊まりませんよ。 見張る部屋で、十分ですからね」


ミレーヌは、ムウ~っとぶう垂れた顔に変わり。


「いい~じゃない。 捜査で協力し合ってるんだから~」


ウィリアムは、良くもま~こうもボジティブに誘えるものだと呆れ果て。


「冗談辞めて下さいよ。 仕事にミレーヌさんとのお遊びは含まれてませんよ」


「“お遊び”? ・・・酷い・・・乙女心を玩んで・・・踏み躙るのね」


ウィリアムをジト眼で見て、急に潮らしくなるミレーヌはハンカチを噛み始める。


「・・・」


流石のウィリアムも、“それはね~だろ?”と云う顔で首を左右に振る事しか出来ない。


其処に、スティールが止せばいいのに・・・。 ミレーヌにキザな顔で流し目を向け。


「姉さん、俺なら何時でも添い寝するゼ。 明日まででも、永遠に居ても構わない」


アクトルもウィリアムも、


(いい加減にしろよ・・・)


と、ソッポを向く。


直後。


“バキィィィっ!!!!”


骨に軋む様な音が響き。


「・・・あの・・・」


驚いてエレンがスティールに声を掛けたのは、スティールの顔にめり込んだミレーヌの拳が強烈過ぎた為だろう。


アクトルは、ウィリアムに寄って。


「俺達はど~する?」


「こっちに来て下さい。 明日からは、隣の屋敷を見張りましょう。 他は、事件に直接関係有りますから。 ミレーヌさんに任せればいいと思います」


「ん。 じゃ~、呼んで来るよ」


アクトルは、ウィリアムの隣の義兄弟を見て。


「アホウ」


と、屋敷を出て行った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







ミレーヌは、客間と元ミレーヌ祖父が使っていた部屋をウィリアム達に貸してくれた。 客間は、二階のローウェル邸を見張れる位置に有り。 祖父の私室も、二階の見張れる処に有る。 廊下を数歩歩けばで直ぐに行き来出来るから、見張りには丁度いい場所だ。


ミレーヌ邸に来たロイムやクローリアも加わって、今度はローウェル邸の見張りが始まる。


なにより、エレンが見張りに意地を見せていた。 やはり、不正の事が大きく尾を引いているのであろう。 ケウトの部下で、チャンドとコルレオもエレンに付き添う様に見張って居た。 朝、市内に深い霧が立ち込める。


「エレン、少し安め。 長丁場なら、身体持たないぞ。 俺とアークで外から見張るから。 昼過ぎまでは休みな」


女に軽いスティールが、何時に無い真面目な顔で一睡もしなかったエレンに声を掛けて外に出て行く。 

エレンは、深い霧で館の見張りが出来なくなったので。 仕方無いと、別室に用意された簡易ベットに入った。 チャンドとコルレオは、ソファーに寝る。


代わって、ロイムとクローリアが、執事の老人が差し入れた食事をしてから見張りに。


だが、ウィリアムは今日も別に行動する。 ミレーヌと共に役人の働く施設に移動すると、その行動は早かった。


先ず、事情聴取の為に一晩此処に泊まっていた船長のヴィオレに面会し。 手短に説明をしてエレンが捕まった事に腹を立てて居て欲しいと頼む。 そして、船員には、事が済むまでエレンとの様子を話す事を控えて欲しいとも。 船長のヴィオレが言うのが、船員の口を封じるのには一番イイ。


更に、ラザロの取り調べにミレーヌと向う。


灰色の石で囲まれた狭い部屋の中で、少し強引な取調べに対しても屈しないラザロは。 憔悴し始めた顔を悪魔の様に強情な表情に変えて、役人やミレーヌやウィリアムを睨む。


腕組みのミレーヌは、立っているウィリアムに近寄り。


(拷問でも吐きそうに無い顔をしてるわね)


頷くウィリアム。


(あのラザロって男、巷の裏では札付きの悪よ。 強盗、強請り、暴力事件、禁止品使用違法・・・、捕まった数だけでも両手の指以上・・・)


役人が丸一昼夜取り調べて手を焼くラザロは、勝ち誇る様に集まるミレーヌやウィリアムを見て。


「ヘンっ、次は拷問か? 苦痛でも何でもヤレっ!!!」


と、ニヤニヤとした顔で言い放つ。


「静かにしろっ!!!!」


一日取り調べて疲れた役人が、堪らずにラザロを殴りつけた。


ミレーヌは、配下の皆が疲れて居ると見て。


「ホラ、感情的に手を出しちゃだめよ」


と、皆を休ませて。 朝出て来た新しい役人と交替をさせる。


その中で。


「・・・」


にこやかに微笑むウィリアムが、ラザロの前に座った。 恐らく、スティールやアクトルなら、このウィリアムを見た時点で背筋に恐怖を覚えただろう。 無用に微笑する者では無いからだ。


役人が、半日責めて吐かせられなかったラザロ。 だが、ウィリアムは物の少しで吐かせる。 一応の見張りとして見ていたミレーヌが、その手口に驚き蒼褪めたほどだ。 殴る蹴るなどの暴力を振るう事もしないし、弱みや何かで脅す訳でもない。


ウィリアムに問い詰められて、ラザロは全てを喋った。


ラザロと死んだダレイの関係は、何と死んだエレンの父親のシェルハが海に浮んだ日に始まっていた。 ラザロは、その日の前日、人気の少ない酒場で飲み明かしていると。


“仕事をしないか?”


と、声を掛けられた。 声を掛けたのはダレイと屈強そうな大男。 この時はまだサレトンが雇われる前だから、恐らくは別の何者かだろう。


「何だ? アンタ」


そう警戒したラザロのカウンター前に、ドンと金の入った袋が置かれた。 即金で500シフォンの入った袋だった。 ダレイは、金はくれてやると言い。 更に、別途金で仕事を手伝うなら更に5000シフォン払うと。 ラザロは、いい金が出ると聞いて。


「いいゼ。 貰える物出るなら」


そのダレイの申し出を了承した。 そして、手伝わされたのは死体のシェルハを海に自殺の様に見せ掛ける事。 ラザロは、その仕事を請けた後。 死体を理由にダレイを強請る事も考えたが、ダレイは真逆にラザロを脅したのである。


「あのダンナは、俺が云うのも何だが頭おかしいゼ。 そんなに頭イイ訳じゃないがよ。 人を陥れたり、脅したり、悪い事だけは異常に賢い。 遣り方は汚い、弱みには相手が滅ぶまでつけこむ。 金に異常な執着が有るのに、悪い事だけには金は惜しまない。 天才だ、ダレイのダンナってのは、悪魔の子供だよ」


と、ラザロ。


冷めた目のウィリアムは、ラザロに役人に全て話せといい置いてミレーヌと代わった。


ラザロの供述に由ると、ダレイは裏取引の顧客は自分で探したらしくラザロは詳しい経緯を知らないらしい。 だが、金を渡して現地でラザロに積荷を渡す商人達は、必ず用心棒の様な殺し屋風の男を一人二人連れて来るとの事で。 普通の商人を相手にした裏取引では無さそうな様子だ。 持ち込んだ商品は、定期的にダレイが開く裏取引の場で取引される事もあるのだが。 今の所は売り手が決まっていて、運んだ荷物はラザロが人気の無い倉庫で仕分けして届けているとの事。


「そう。 じゃ~、そのリストを作って貰うわよ」


ミレーヌが云えば、ぶっきら棒なラザロは。


「俺のヤサをガサればリストは出て来る。 どうせ、その日暮の生活で、小屋みたいな場所だ」


ミレーヌは、直ちにラザロを連れてラザロの家のガサ入れに向う事にするのだが。


ラザロも喋ると為ったら道連れが欲しいのか。 ダレイが袖の下を回して買収した役人の事はペラペラと喋る。 出て来た名前は、ミレーヌとは別の警察役人の配下の者数名、商業の監督を行う庁の位も高い役人数名。 更に、不正に輸入を誤魔化したいが為に、嘘の申請でダレイに加担した商人など名前がボロボロと。 しかも、月一程度に面会する時、あの用心棒のサレトンなども同席していたと言う。


ミレーヌは、配下の役人を事務方まで動員して方々に手配を回した。 だが、いざ行こうとしたミレーヌに、話に上がった役人の身柄取り調べに対する不満が言伝で返って来た。 


ウィリアムは、ラザロの住処のガサ入れは、自分が行くと申し出る。


ミレーヌは、自分が動かないと国の内部機関の捜査は出来ないと判断し。 ウィリアムに数名の役人を着けて行かせる事にして。 他の役人を細かく手分けさせてサレトンの身柄確保や、ラザロの話の裏取りなどに回す事にしたのである。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




    

ウィリアムとミレーヌは忙しく動き。 アクトルやスティール達はエレンと共にローウェル邸を見張る。 正直、ウィリアム以外の誰もが、ダレイの事件と不正の関連が何処まで有るのか解っていない。 しかし、その一見バラバラのパーツの様な事件は、一つに纏まり出す。


その最初は、エレンに容疑が掛かったと伝えて、サレトンを確保した処から始まった。


エレンが身柄を押さえられたと聞いて、ルイスは気を失いそうに為り。


「お嬢様はなんにも関係無がっ!!! アンタ等は何を証拠にっ!!!」


と、怒鳴るポルス。


だが、役人達はミレーヌに言われた通りにし、機械的に動いた。


ミレーヌは、ウィリアムとの話し合いで、エレンの家の船も抑える命令を出していた。 これで、エレンの身柄確保は一気に街中に広がる事に成る。 ダレイはともかく、真面目で人を大切にしてダレイの横暴からか弱い女身で使用人を守っていたエレンの確保は、近所の人々には激震に近い話だった。


エレン確保のその余波は、昼には別の所に伝わった。 ミレーヌの留守の間に、ケウトが役人施設に馬車を飛ばして掛け付ける。


「私はエレンの親しい親類の様な者だっ。 逢わせてくれっ、話ぐらいはいいだろう?」


と、留守を預かるミレーヌの腹心である初老の役人男性に詰め寄る事で悶着が起こり。


更に、ポルス以下、店を休んだ使用人達やルイスがエレンにしつこい面会を求めたりする。


そして、シェルハの親しい友人だった商人達が訪れ、エレンの身の上の詳細を尋ねに来たり。 エレンの罪の詳細を役人に縋り付く様に尋ねていた。


そして・・・。 ローウェル邸に大急ぎの馬車が駆け込んだ。


「おい、アレ」


スティールは、赤いカーテンが半分閉められた窓の所から、外を見て起きていた仲間に声を掛ける。


「どうしたんですか?」


ロイムやクローリアも、アクトルの後ろから着いて来て窓にそっと近寄る。 二階の窓から見えるローウェル邸の玄関先に、慌てた様子の何者かが出て来た。 何か鋭い声を従者に飛ばし、


「馬車だっ!!! 馬車を引けっ!!!!」


と、怒鳴り散らしている。


アクトルは、杖を振り回している男の声に。


「馬車を呼んでるな。 何処かに行く気か?」


スティールは、斜めに見下す視界の中に馬車が映るのを確認し。


「だべな~。 ホラ、お馬さんが来た」


「アレじゃ~尾行出来ないね」


と、ロイムが爪先立ちで窓に張り付いた。


アクトルは、昨日のウィリアムの話を思い出し。


「コレが、予定通りの行動ってヤツか?」


スティールは、イマイチと云う顔で。


「一応は、婚約者だし。 最高の金蔓のエレンが捕まったと成るなら動くのは当然だろうな。 だが、ウィリアムは俺等とは別の所まで読んでるみたいだし・・・。 任せるしかないだろう」


スティールの見る仲間3人は、事件が解決出来るのですら疑わしいと言う顔つきで困惑している。


だが、スティールは確信していた。


(大丈夫。 アイツを出し抜けるヤツが相手なら、証拠も残さないさ)


明けましておめでとうございます^^

                                      

新春一発目の更新です^^

                                      更新が遅れまして済みません。 年末年始を甘く見ていた自分の情けなさを痛感している所です;>;   

                                      ご愛読ありがとうございます^人^

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