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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
33/222

third episode

                冒険者探偵ウィリアム 3部







(スっ・スティールさぁ~ん)


ロイムは、住宅街の中に囲まれた林の公園の木の陰に隠れて居た。 視界の中では、スティールが大きな屋敷の周囲を一回りしようと歩いている。


ロイムがスティールと尾行した男は、大きな屋敷が高い塀に囲まれて犇く屋敷群の中の一角に在る邸宅に消えて行った。 


今、夕日に変わる日差しがロイムの頭上に木漏れ日の様に暗く差し込んでいる。 屋敷群を区画に切る道は、馬車ばかりの往来で人の歩く姿は中々見掛けない。 時々、買い物帰りのメイドや、散歩をする身形の良い紳士が従者と通るが。 明らかにスティールはその者達とは異質な存在だ。 


だが、スティールはのんびりとした雰囲気で屋敷の周りを回って、ロイムの居る公園を大回りしてこっそりと公園の敷地内に戻って来た。


スティールは、真顔でロイムの脇に来ると。


「ロイム。 お前、一人で戻れるか?」


「え゛っ?!」


「アークやウィリアムに知らせないといけね~べさ。 俺は、此処で動きを見張る。 お前は、戻ってアークに知らせろ。 夜にはウィリアムも戻るだろうから、それまで見張ってる」


ロイムは、スティールが何時ものふざけた様子では無いのに頷くしか無かった。


「う・うん・・・」


スティールは、木の陰から屋敷を見て。


「あの屋敷、外から見ても高い木に囲まれて中が解らねぇ。 ちぃ~っと気味悪いぜ」


怯える様子のロイムは、杖を握って。


「気を・・・付けてよぉ・・・」


スティールは、横目に心配するロイムを見ると。


「女以外に言われたたか無いセリフだな」


と、薄く笑った。


・・・・。


この頃、港では荷物を抑えたウィリアムとエレンが、ヴィオレ等船員が見守る中で木箱を開けて見た。 エレンは、店に並ぶのに輸入のリストに名前の記載が全く無いワインが木屑を乾燥させた中に埋められているのを見て密輸の実態を確信した。 木箱に詰められたワインはどれも高級な銘柄で在るにも関わらず、輸入記載の無い物ばかりだ。


夕日に染まるウィリアムは、その一本を手に取り。


「コレはまさか・・・、出荷前のワインですか?」


と、ワインの瓶を睨む。


ヴィオレは、ウィリアムに近寄り。


「どうゆう意味だ?」


ウィリアムは、ワインボトルを備に観察しながら。


「ワインとは、そのワイン工房で作られるプライドその物なんです。 出荷する時は、生産者が自分の顔とも云うべき焼印を押したラベルを貼ったり、自分の家の紋章をラベルに書き込みます。 ですが、このワインにはその“顔”が無い・・・。 生産者の手の内の誰かが秘密裏に横流しした物か・・・。 あるいは、盗品の可能性が有りますね」


仕入れ方も違法なら、仕入れた物も正規の商品では無いと云う。 エレンもヴィオレも、顔が強張ってそれ以上の声が出なかった。


ウィリアムは、次々と木箱を開いて中を検める。 内戦で全ての国と国交を保てず断絶状態の国から、赤い岩塩やら民芸工芸品が横流しで渡って来たと思われる品ばかり。 そして、中には輸入には特別な許可の必要な魔法道具なども・・・。


「取引先が解らない品ばかりですね・・・。 この店にも陳列されない品々は、何処に行くはずだったのか・・・、大掛かりな捜査が必要ですよ。 この品々の嫁ぎ先を探すのにはね」


其処に。


「おいコラっ!!!」


いきなり、細い声で男の奇声の様な声が上がる。 一同、声の方に振り返ると、ガリガリに痩せたタレ眼で背の低い初老染みた男が、黒いマントに身を包む何者か二人を引き連れて向って来ていた。


ヴィオレが、その男に向って。


「ラザロ。 何しに戻って来た?」


エレンは、初めて見る“ラザロ”と云う男に驚いた。 本当に、見た事も無い不気味な背むし男だ。


ラザロと云う男は、ウィリアムの前で開かれた木箱を見るなり。 血相を変えて。


「ヴィオレっ!!! 貴様ぁっ!! 旦那が言った掟を忘れたかっ?!!!」


すると、ヴィオレはエレンの前に立ち。


「生憎だな。 ダレイの旦那は死んだ。 今は、このエレンお嬢様が全ての相続人だ」


と、言う。


エレンも、ヴィオレに。


「彼方が・・、ラザロさんですか?」


と、背の曲がった小男を見る。


ラザロは、ヴィオレとエレンを睨み見て。


「フザケルなっ。 旦那が死んでも使命は変わらない。 さあっ、其処を退いて木箱を渡せっ!!!」


エレンは、グッと拳を握り。


「密輸をしていたのは知ってるんですかっ?!! もう直ぐ、役人さんがいらっしゃいます。 それまで、この荷物は渡しませんよ」


エレンの話に、ラザロはギロギロと動く眼をエレンに向けて。


「フンっ。 密輸? 何の事だ? 私は、ダレイの旦那と契約して仕事を一緒にしていただけだ。 密輸など事実は何処にも無いっ。 ゴミの娘が、ダレイの旦那が死んだからって粋がるなっ!!!!! さあ、積荷を渡して貰うぞっ」


小男の後ろに居る二人の男が、マントの前面を開いた。 片方は皮の鎧に、長剣を差していて。 もう一方の人物は、片手の手斧と鉈を改良したマチェットアクスと云う武器を左右の腰にぶら下げている。


武器を見た船員やエレンに緊張の同様が広がる中で、ヴィオレは堂々として腕組みし。


「ラザロ、力ずくでも持って行くのには意味があるのか? もう、役人には手配済みだ。 問題を起こせば、お前はお尋ねだぞ」


すると、ラザロと云う小男はニヤニヤ笑い。


「俺の荷物を取り返すだけだっ、何のいわれが有ろう事かよ。 高々下級の使いッ走りの役人にビビる俺じゃねぇ」


エレンも、ヴィオレも、船員達も、一気に膨張する緊張で無言に。


其処に、ウィリアムが音も無くエレンの前に進み出た。


「“高々下級・・・”ですか。 一度でも外に出たら、誰であろうと許可証明の証が無いと商業用港には入れないハズ。 なのに、彼方方は入って来た・・・、入り口の役人さんとは随分と仲が宜しいようですね」


ラザロは、穏やかに言うウィリアムを睨み。


「テメエ、何だ?」


だが、ウィリアムはラザロの後ろ少し離れた先に馬車が停まっているのを見て。


(積み込んで逃げる気ですか。 そう上手く行きますかね)


と、周囲を把握しながら。 ラザロに視線を動かして、


「残念ながら、もう密輸の事実は押収された輸入品のリストや決算の報告書などで役人も知り。 内々に捜査して動いています。 今日来るのは下級でも、明日や明後日以降はもっと上の役人が調べます。 その人達を納得させるだけの権力を御持ちとか?」


すると、ラザロはウィリアムを睨む眼を鋭くして。


「おまえぇ・・・、無駄話をして時間を稼ぐ気かぁっ?!!」


ウィリアムは、ヴィオレの前に出ると涼しい顔をして。


「いえ。 此処に入るのに役人さんの免除が効くなら、何処でも効くのかと興味が湧いただけですよ。 それに、積荷が疚しくない物なら、役人の取調べを受けて晴れてご自分の物に為さった方が懸命だと思いますが・・・、如何です?」


ラザロは、ウィリアムが役人が来るまで時間稼ぎをする事に徹しているのに業を煮やした。


「こぉのクソ野郎がぁぁっ!!!! 構わなねぇっ!!! 殺してでも奪えっ!!!!」


声が湧き上がった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「何ですってっ?! 中に通したぁ? ダレイ氏の船の営業許可から積荷移動許可の証もエレンって言う娘が持ってたでしょ? 何で、同じ船の乗組員だからって許可無く中に入れた訳?」


鋭い視線を向け、ミレーヌが港の入り口に居る役人に問いを投げ掛ける。


しどろもどろで役人は言い訳したが、一番守られていなければ為らない所だ。 ミレーヌは見逃す気は無いと言い置いて、怒って馬車を門の中に通して港に向った。


夕陽も暮れ出した頃。 ウィリアムの待つ港の船着場に向ったミレーヌは、人だかりが出来ていると云う御者の話に驚く。 そして、ウィリアムに腕や足の骨を折られて蹲る冒険者崩れの男二人と、ウィリアムに捕まってもがくラザロを見る事に成った。


ウィリアムとエレンに寄ったミレーヌは、エレンから詳細な報告を聞いてラザロが交した売買の証書などを受け取り。 ウィリアムから軽い説明を受ける。


「ええっ、密輸品が20箱もをぉ?」 


量と品を見たミレーヌは、困った顔で。


「あの店と別店に置いてある疑わしい品って、ほんの一握りじゃない。 残りの流された店を探すの大変だわ~」


ミレーヌが港に来たのを聞いて、港を巡回警備する別の役人組織の巡回班も来た。 捜査は、基本は管轄外でも管轄を跨ぐ場合でも事件の出元を捜査する役人に一括捜査権が与えられている。 ミレーヌは、手際よく来た役人達に指揮を出し。 ウィリアム・エレン・ヴィオレを事情聴取で連れて行く事にし。 船と現場保存を巡回役人に任せ。 ラザロが積荷を持ち去るのに使う予定だった荷馬車に疑わしい積荷を載せて一緒に押収するとした。


さて、ケウトに命令を預かった二人のコルレオとチャンドも一緒に連れて行くとエレンはミレーヌに言って。 連行されるラザロと雇われた冒険者の二人は荷馬車で運ばれる事に。


港を離れた馬車が、斜めの坂道をゆっくりと走っている。 


ミレーヌの馬車は、座席が車内で前の向かい合う二席と。 大人数乗せられるシートの席と分かれていた。 その個別の向かい合う席とシートも壁で隔てられる。 後ろの黒いシートに坐るのはエレン他、皆。 だが、ミレーヌとウィリアムは個別の向かい合ったシートに座っている。 覗き小窓は付いているから、エレンや皆はウィリアムとミレーヌを見る事は出来る。 だが、走る馬車の音と、二人が声のトーンを落として話するので、何を会話しているのかは聞き取りずらく。 見ているのみしか出来なかった。


馬車専用の通りが、折り重なる生地の様になってなだらかな坂道を作る。 荷馬車は水路を使うが、人用の馬車は、東側の迂回の道に回るかしかない。 必要最低限の窓しか付けない馬車の中は薄暗く。 ミレーヌは、ウィリアムの顔が影差している様に見えている。


「ふうん。 エレンって娘を助ける気なのね。 その、ケウトって云う人のお願い聞いた訳だぁ」


ミレーヌは、少し釈然としていない言い方でウィリアムを見る。 ウィリアムが、エレンを少しでも救済しようとしているのが、腑に落ちないらしい。 ケウトの昔話を聞いて、ミレーヌとてエレンをどん底まで落す気には成らないが。 ウィリアムがそんなに生っぽい人間に見えなかったのだ。


床を見下すウィリアムは、足を組んで揺れる馬車に揺らされながら。


「俺は、必要な罪と罰は分けたいだけです。 全ての大元の元凶であるダレイ氏は死んだんです。 裁かれるべき人が裁かれ、苦しんだ人には最低限の救済は有って然るべきかと・・・」


ミレーヌは、薄く微笑んで。


「いっが~い」


「何とでも・・・。 ですが、問題はこれからですよ。 一気に、犯人の可能性である人が増えた」


ウィリアムも、ミレーヌから調査の報告を聞いて、一応は家族を含めた全員を疑う事にするミレーヌには賛同する表現をとった。


「ホ~ント、大変だわ。 ・・あ、それから。 あのダレイってオジイチャン、生まれっからの悪人かもよ」


ウィリアムは、ケウトもダレイの過去に暗い部分が在ると云っていただけに。


「ほう、生まれながらの悪人ですか」


ミレーヌは、調査で聞けた話に随分と古い話が幾つか有った。 話してくれたのは、ダレイの元々家が有った旧商店街の年寄りだそうな。


ダレイの親であるサムハイトと云う人物は、素晴らしく人間の錬れた人物だったらしい。 生涯妻は一人だったし、恵まれない孤児を養う事もしていたそうだ。 だが、一つ問題が有ったのが。 子供が出来なかった事だ。 其処で、自分の弟で大きな商人の執事として働く男性の子供を引き取った。 それが、ダレイなのだ。


「良くある話ですね」


ウィリアムは、素っ気の無い返事一つを返す。


だが、本題は此処からだ。


さて、このダレイをサムハイトは溺愛した。 2・3歳で連れて来られたから、可愛い盛りで当然かもしれない。 しかし。 この直後に何とサムハイトの奥さんが身篭る。 結婚から18年も経った頃だとか。 だが、サムハイトは、家を継ぐのはどっちでも無く。 相応しい方だと子供を差別はしなかった。 そして、生まれたのは女の子。 成長と共に、同じ教育を施しても差は歴然と見え始める。 我儘で、我欲の強いダレイは迷惑ばかり掛け。 しかも、親には甘えるばかり。 ダレイが20歳を迎える頃、サムハイトと奥さんは実の娘に家督を継がそうと相談し合っていた。


ウィリアムは、此処で。


「なのに、ダレイ氏が跡を・・・。 そう言えば、その従兄妹でもある兄妹の方のお話は聞きませんね。 もう、他界されてるとか?」


ウィリアムが素直に聞けば、ミレーヌは嬉しそうに笑って。


「せぇ~かぁ~い」


ウィリアムは、此処で顔を引き締めて。


「話の流れから云って・・・不自然ですね。 何か有りましたか?」


ミレーヌは、少し間を置くようにして身を正す。


ウィリアムは、ミレーヌの話を待つ間も無く。


「なるほど。 その娘さんの死についても、疑問が生じていた訳ですか・・・」


「解る?」


「まあ、流れと雰囲気で・・・」


「でも、死んだのは娘さんだけじゃ無いのよ。 サムハイト一家丸ごと」


ウィリアムの視線と、ミレーヌの視線が抱き合った。


サムハイト一家は、ダレイ抜きで友人の晩餐会に呼ばれていた。 馬車で参加した帰り、急に馬が暴れて車体が横転。 馬と繋がれた馬車の留め金が外れて、馬車の車体は運悪く段々の街並みを一つ丸々転げ落ちた。 夜も晩い時間帯だったが、通行人を2人巻き添えにして、飲食店の入り口に突っ込んで壊した。


ウィリアムは、もう何度か段々の街並みを上り下りしている。 一つの段の差だけで、階段にして7・80段は有る。 それを勢い良く転げ回って建物にぶつかったら・・・。 先ず、運が無ければ即死だろう。


「ミレーヌさん。 その当時は事件としての調べはしたんですか?」


「それが。 当時、ダレイのオジイチャンが証言してたの。 事故を起こした馬車は老朽化が激しくて、近々修理に出すって・・・。 当時の捜査は、自己過失の事故で処理。 事件に成ってないわ。 只、壊れた馬車の生産者は、もう修理したって主張してたみたいね。 なのに、突然一家でこの街を離れてる。 忽然と消えたって感じだったみたいよ」


ウィリアムは、何度も頷いて


「臭いますね」


と、呟く。


ミレーヌは、鼻を摘んで態と鼻声で。


「クサイクサイよ~」


ウィリアムは、一つ間を空け。 ミレーヌと見つめ合って。


「・・、ねえミレーヌさん。 女性として、意見をお聞かせ願えませんか?」


「え? じょ・・・女性って・・・」


ミレーヌは、在らぬ期待を急激に膨らませて流し目を向ける。


だが、ウィリアムは少し思惑ぶりな視線を向けながら。


「ミレーヌさん。 もし、恋をしたとして、一番普段で変わるとしたらどの変ですか?」


「え? 恋?」


「ええ・・」


「それは・・・、まぁ~服とか髪型と・・・じゃない? 少しでも綺麗に見られたいって思いは働くと思うケド・・。 ねぇ、それって・・・誘ってる?」


ミレーヌは、艶やかな眼をウィリアムに向ける。


だが、ウィリアムは黙って何かを考えるのみ。


(ガク・・・)


ミレーヌは、何かを期待した自分が情けなく思えた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 

「そうか・・・、スティールがな」


見張りを終えて、スティールに合流しようと思うアクトルは、店の前でロイムと会った。 もう、太陽が西の彼方に赤い光を残すのみ。 街中を行く通行人は少なくなり、エレンの店の前に立って居た役人が店の中に消えていた。


ロイムは、もう暗く為った辺りを見て。


「合流するのはいいけど。 ウィリアムには何か残さなくていいかな?」


アクトルは、クローリアとロイムを見下して。


「いや、合流するのは俺だけでいいだろう。 金の事も有るが、荷物も残してるし、今夜一杯宿を開けるのも悪い。 ロイムとクローリアは、宿に戻ってウィリアムを待ってていい。 俺はスティールに会って、どうするか聞いて来る」


こうして二手に別れる事に。


日が暮れて、夜が訪れた頃。 アクトルはスティールが潜む公園の森に着いた。 街の道には街灯が整備されている同様、住宅街でも金持ちが多そうな邸宅が並ぶ辺りも、曲がり角にキチンとした街灯が整備されている。


アクトルは心得たもので、公園に回り込む様にして侵入した。 ロイムから聞いた館の外観を確かめてから、周りを確かめて。


林に入ると、闇の中から。


「誰だ?」


と、スティールの低い声。


「俺だ」


「何だ、アークか」


スティールは、ベンチや草花が花壇を広げる近くの太い木の陰から姿を見せる。


アクトルは、スティールに寄って。


「どうだ?」


スティールも、木の隙間から見える屋敷を見て。


「変わり無い。 白い外観の、5階建てした塀や庭木の高い館・・・、そんだけ。 尾行した男も出て来やしねえ」


アクトルは、明かりが点いた部屋も有るその屋敷をを見て。


「なるほど・・。 お前、どうする? このまま見張るのか?」


スティールは、アクトルに視線を投げると。


「野郎が只の雇われか、それとも主従持ちなのか。 少し見張っててもいいと思うぜ。 もし、明日もあの店に出掛けたら、それこそ何かあるしな」


アクトルも、屋敷を見て。


「まぁ・・・、かもな」


「あ、そういやぁ・・」


屋敷を囲む塀に、切り抜かれた空いた口の様な鉄格子の門が填まる入り口をスティールは見て。


「さっき、馬車が入って行った・・・。 外見から解るぐれぇに金の掛かってそうな馬車だったゼ」


アクトルも、現場の店の前に停まったあのストライプ模様のスーツを着た男が乗っていた馬車を思い出して。


「あぁ、俺もだ。 現場の店の前に、エレンって言ったか? 死んだ爺さんの孫の娘。 あの婚約者らしき男が乗って来た馬車が、ちょいと変わった馬車だった」


「ふ~ん」


何の気なしにスティールは受ける返事をする。 


アクトルが、変わった馬車の色を云えば、


「へ~」


アクトルが、馬車の色や馬の見事さを云えば。


「ほぉん」


と、スティールは見張りながらの生返事をした後で・・・。


(ん?)


アクトルの云う馬車と、自分の見た馬車が同じ様な気がしたスティールは、ハッと気付く。


「あ・・・、同じだ」


アクトルが。


「ん? どうした?」


と、聞くと。 


「アーク、俺が見た馬車とアークの見た馬車は同じ気がするぞ」


「あ゛? 何だと?」


声を押し殺して驚くアクトル。


だがスティールは、確信めいた頷きで。


「馬も、馬車の感じも一緒だゼ。 しかも、俺が尾行してきた野郎が中に入ったこの屋敷だ。 もしかすると、あのジサマの死んだ一件と関係有るんじゃないか?」


アクトルは、いきなりの話の展開に。


「いや、それは解らないだろう?」


スティールは、顔を本気にして。


「とにかく、ウィリアムだ。 アイツが居れば、何とか成る。 アーク、宿で待ってウィリアムが帰ったら此処を教えろよ。 アイツが来れば、何かが解る。 きっと、何かが解る」


アクトルは、スティールがいきなり本気に為ったのを見て。


「お前・・・凄いヤル気有るな」


スティールは、俄然ヤル気を見せて館を見張りながら。


「アイツは、事件を解決できる。 見たいんだ、アイツが活躍するのを・・・。 俺等には無い、何かをアイツは持ってる」


アクトルは、スティールが此処まで本気に為るのを始めて見た。 


「お前・・・」


スティールは、見張りをしながら。 周りにも気を遣って小声ながら。


「田舎を出て、俺達何年だよ。 アークも俺も、騙されたり、爪弾きにされたり、有名な奴等がデケぇ顔してさ。 俺達下の冒険者なんざ羽ばたき方すら知らねぇ・・・。 毎日、適当に仕事探して、命張って・・・夜の酒代に預かる・・・。 モンスターと戦ったって、人を助けたって、仕事と割り切られる」 


「スティール・・・」


アクトルは、ウィリアムに出会う前までの自分達を思い出した。 二人して腕っ節は有るが、チームに恵まれた訳じゃない。 時には、アクトルの斧を奪われそうに成った事も在るし。 時には、報酬を巡って諍いを起こした事も一度や二度では無い。 報酬を持ち逃げされた事だってある。 金が無く、街で野宿した事など数え切れない。


スティールは、真剣な顔だった。


「だが、アイツは仕事を仕事で終わらせない。 俺達が出来ない事まで踏み込める。 俺達が頭数揃えて仕事やっても踏み込めない所に、アイツは踏み込める。 俺達が、本気で思いっきり仕事しただけ、アイツは評価を付けれる。 良くも悪くもな。 アイツの活躍を支えられるなら、俺は命賭けれるさ。 今までと違うんだ。 アイツと会う前の、斡旋所で只屯する頃とは違うんだ」


アクトルは、スティールが驚く程に変わったと思う。 自分以上に冷めて、適当に為って居ると思ってたのに。 スティールが女以外で熱くなるのを、何年振りかで見た様な気がする。 いや、本来のスティールは、若い青年の頃のスティールは今の様に熱い男だった。


(本気か・・・。 ウィリアムと二人で、アハメイルの街で何が有ったかは知らないが・・・、昔のコイツが戻った訳だ。 ・・・、久しぶりだな、こんなコイツは)


アクトルは、そう思って。


「だな。 んじゃ~ウィリアムを待つわ」


「おう」


スティールが、言う。


その時、馬車の音が響いて来た。


「・・・」


二人息を殺して茂みに屈む。 だが、アクトルは街灯で馬車の側面を見ると、見た事の有る紋章が見えた。


「おいおい・・・、この馬車は・・・」


驚くアクトル。


スティールは、角を曲がって見張っている館の前の道に入る馬車とアクトルを交互に見ながら。


「どした? アーク?」


「いや・・、ホラ・・。 ミレーヌって云う女役人が乗ってた馬車とそっくりだ」


「あ゛? マジで?」


二人が見ている中で、馬車は見張る屋敷の前を通過し。 隣の屋敷に入って行った。 低いレンガ塀で囲まれた、黒い外観の落ち着いた屋敷だ。 


「アーク、行ってみんべ」


「行くのか?」


アクトルは、もし違ってたらと思って困る。


だが、スティールは立ち上がって馬車の方に木を盾にしながら向かい始めたのである。


(おいおい、ウィリアム無しでど~するんだよ)


困る顔のアクトルは、馬車がもしミレーヌの物だったとしても、面倒な事になりそうだと思って動きが鈍る思いに駆られた。

次話予告


アクトルの云う通り。 馬車はミレーヌ物であり。 馬車には、ウィリアムとエレン達が乗っていた。 スティールとアクトルの報告を受けたウィリアムは、ミレーヌに隣の家の人物を尋ねる。


次号終日後掲載予定


                                       どうも、騎龍です^^

                                       本日は、特別編とあわせて2本立てで掲載いたします^^

                                       ご愛読ありがとうございます^人^


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