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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
31/222

third episode

                 冒険者探偵ウィリアム 3部






昼を迎える頃。 役人の詰める施設のミレーヌの私室に於いて。 2日泊り込んだミレーヌが眠たい顔でデスクを前にしている。 


紫の蝶と葡萄畑の絵が描かれた壁に囲まれるミレーヌの私室は、大部屋と言っていい広さが有り。 黒い高さの有るソファーの様なチェアーに座るミレーヌは、書類の山積したデスクを前にして。


「読むのメンドー、口答で説明して~」


と。


デスクの前に、報告の為に来た初老の役人がミレーヌを察し。


「いいですよ。 では、報告を纏めて言います」


「ん~」


紅茶の湯気が、詰まれた書類の間から立ち上っていた。


報告とは、今朝までに深く調べた関係者の過去である。


先ず、ジョーンズとテーラーの夫婦。 代々小さな青果店を営んできた家で。 5年ほど前にジョーンズの店をダレイが金銭で取得。 家ごと追われた二人は、ダレイに拾われる形で住み込む事に。 だが、ダレイはジョーンズの土地の権利を買収するに当って、長年ジョーンズの店に野菜を卸していた所に圧力を掛けたらしい。 ダレイに弱みを握られていたのか、結局は野菜の卸値を上げて借金を作らせてダレイは店を奪った。


ミレーヌは、其処までで。


「ヒドイわね・・。 お金の汚い使い道だけはよ~く知ってることで・・・」


次に、サレトンである。 元々冒険者のサレトンだが。 身を崩してバクチと酒で荒くれ者に落ちる。 サレトンが、ある時飲み屋で働く女を巡って別の商人の男と喧嘩をし。 相手を半殺しにして罪に問われたとか。 実は、そこを救ったのがダレイであり。 サレトンの好きだった飲み屋の女とは、今や5年近く前からダレイの愛人に成っている。


ミレーヌは、ポカ~ンとして。


「ハァ? 昨日の取り調べの供述と違うじゃない・・・」


初老の役人は、手に持つ書類を見て。


「嘘では無い様です。 ダレイ氏は、その強引で汚い遣り方から方々で恨みを買い。 命を狙われた事も何度か・・。 恐らく、その辺を摩り替えて供述した様ですな」


ミレーヌは、眉間に皺を寄せて。


「取調べで嘘は嘘、供述と事実が食い違うなんて怪しい限りね。 事件の供述も怪しく思えるわ」


「確かに」


初老の役人は、先に移った。


次は、ポルスと云う老僕と下働きの若者。 下働きの若者は、流浪の孤児だったらしく、流れ着いたこの街でダレイに拾われて殆ど無償に近い状態で働かされていたとか。 ポルスは、ダレイの父親の頃に仕え始めた男だ。 店の主がダレイに代わると、本人の尻拭いの為に軽犯罪の罪で投獄された事も有れば、機嫌の悪いダレイに酷く殴られた事もしばしばだったらしい。 片目と片足を悪くしている原因が、ダレイの暴力だった。


ミレーヌは、遣る瀬無い話に。


「涙がでそうな話の集まるお店みたいね。 でも、ポルスってオジイチャンは、何で其処まで被害者ダレイみたいな男に仕えたのかしら・・」


「はい。 何でも、ダレイ氏の父親は心の広い人だったらしく。 ポルスがまだ若かれし頃に、母一人子一人の家庭で母親が病に倒れて日々の生活も立ち行かなく為ったらしいのですが。 そのポルスを見て雇ったのが、ダレイ氏の父親だと云います」


ミレーヌは、恩返しもし過ぎだと思い。


「はあ~、その事を恩に着て、命懸けじゃない?」


「ですな。 ですが、ポルスの忠義はそれだけではありません」


「へ~」


「ポルスも、ダレイ氏の下を逃げ出しそうな事が度々有ったそうで。 ですが、ダレイ氏が金ずくで愛人にした酒場の歌姫が、今の孫娘エレンの父親に当るシェルハを宿したのが最大の忠義の大本らしいですね」


ミレーヌは、カクンと頷いて。


「はぁ・・・、何で?」


「はい。 このシェルハと云う人物の母親は、歌も美貌も際立って居ましてな。 子守をする母親の子守唄を庭先で聴くポルスが目撃されていました」


「あ~、秘かに慕ってたのねぇ~」


ミレーヌも、女としてこうゆう話は嫌いでは無い。


初老の役人も頷き。


「らしいです。 して、その歌姫は後に金で別の商人に売られたそうです」


人身売買を商業の取引にしたという話に、女のミレーヌは目つきを鋭くして。


「強引に愛人にしたのに、金で売った訳?」


同じ女。 男の横暴には、人一倍正義感を燃やすミレーヌは、聞き捨てなら無い話だ。


「はい。 ですが、その時。 どうやらポルスはシェルハの行く末を母親から託された様です。 そして、このシェルハと云う人物は、父親のダレイとは違って若い頃から才気に溢れて商才も有ったとか。 思うに、今までポルスが孫娘エレンに仕えているのも、その時の事と。 ダレイ氏も何れは死ぬ訳ですから、跡を継ぐシェルハやエレンに期待を掛けて居たのでは?」


ミレーヌも、その意見には同意出来た。


「50年以上もねぇ・・・。 受けた恩と・・知った慕情と・・・微かな希望・・・。 あの酷い環境の中で、必死だったのね・・」


ミレーヌは、感傷的に為りながらも。 疑いも持った。 そうならば、尚更殺しの動機も強まる。


初老の男は、ミレーヌに一歩近付き。


「ミレーヌ様」


「ん?」


顔を向けたミレーヌは、初老の役人の顔色が優れないのに気付いた。


「どうしたの?」


「ええ・・・、実はですね・・・」


最後の報告は、ミレーヌにも一番衝撃的だった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ウィリアムとエレンは、ケウトの指揮下で尾行の眼を潜り抜けた。 ケウトが、二台の馬車を用意して。 一代目の馬車を表に停めて、姿形の良く似せた使用人を使ってエレンとウィリアムを乗せる様に振舞った。 車体に阻まれて、二人を確認出来ない追跡者は、走り出した馬車を尾行し始めた。 


だが、ウィリアムとエレンは別の荷馬車で裏手から空の木箱に潜って港に向って行った。


ウィリアムは、ケウトに。


“自分達が行った後に、役人のミレーヌさんと云う方に使いを出して下さい。 エレンさんと、船の中を確かめると・・”


と、云った。


ケウトは、それを快く承知する。 


ウィリアムは、“エレンの店に行けば、役人が居るから直ぐだ”と付け加えて、馬車の荷台に隠れて行った。


木箱に囲まれた荷馬車の荷台の奥で、ウィリアムとエレンは並んで筵を被り隠れている。


「ま~るで逃亡者ですね~」


と、言うウィリアムを見たエレンは、まだ涙の潤いを残した目を向けて。


「はい・・・、少し緊張でドキドキしています・・・」


ウィリアムは、思い出した様に。


「あ・・、そう言えば・・・」


見られたエレンは、何か在るのかと思い。


「はい?」


「いえ。 その・・、エレンさんの婚約者とは何方ですか? ダレイ氏とは、親しい方の様ですが」


すると、エレンの顔は急激に曇る。 どうやら、望んでの婚約では無いのが浮き彫りに為ったと云う顔つきだ。


「・・ローウェルさんと云う方です・・。 貴族のご出身で、ホーチト王国から移住して来たとか・・。 祖父は、羽振りの良いローウェルさんを気に入り、私と結婚させようと・・」


「と、云う事は・・、そのローウェル氏が婿に成ると云うんですか?」


エレンは、首を左右に振り。


「私がローウェルさんの妻に入り。 祖父は、利権を合併して自分が支配すると・・・言ってました。 ローウェルさんの店は、借り店舗で。 再来年には、その期限が切れるらしいんです。 ですから、私はローウェルに嫁ぎ・・、子供を多く産めと・・」


「なるほど。 貴族の名前を手に入れる道具に為って、子供を産んでダレイ氏の跡取りを作れと云う訳ですか・・。 悪どい遣り方のダレイ氏では、幾ら商業で設けても国の政治には入れない。 エレンさんを貴族に嫁がせる事で名前を手に入れ、箔を付けようとでもしてたんでしょうね」


エレンは、揺れる馬車の中で俯き。


「祖父は、政治に加わりもっとお金を儲けたいと言っていました・・・。 所詮、祖父には全てが道具でしか無いんです」


つまりは。 貴族の名前など、この国では名誉でしかない。 だが、ダレイは、商業の力を持っている。 エレンをローウェルと云う貴族に嫁がせ、その名前を継がせる。 その子供は、貴族の名前で在り。 ダレイ氏の傀儡の道具になる訳だ。 エレンでも、ローウェルでも無く。 その子供をダレイ氏が養子にして、店などを継がせ。 ローウェルと云う貴族の名前をフル活用して方々に養子を売り込んで権力の中枢である政治の一員に加わろうと画策している事に成る。


ウィリアムは、呆れた顔ながら。


(聞く話にあるダレイ氏の知恵にしては出来過ぎですね。 恐らく、誰か入れ知恵してる者が居る様な気がして来ましたなぁ~)


ウィリアムは、そんな事を考えながら。 


「エレンさん。 失礼ですが、そのローウェルさんと云う方はどんな性格なんですかね?」 


聞かれると尚更嫌な事でも思い出すのか、エレンの顔行きは曇る一方で。


「あまり・・・、いい方とは言えません。 女性に意地汚く、お金に媚を・・・。 去年、婚約の話を持ちかけられて、祖父と色々話し合っていたみたいで・・。 時々、私や母をも家に招待しようとします。 社交辞令といいますか、母は祖父の命令が在るのかローウェルさんのお屋敷に何度か行ってますよ。 でも、私は行く気に成らなくて・・・」


ウィリアムは、エレンの母親ルイスが行っていると聞いて少し不思議に成った。


「ほう。 今まで、ルイスさんはそうゆう意味で出かける事は在ったんですか?」


エレンは、否定の素振りを見せて。


「いいえ・・」


エレンが言うに。 ルイスと云う母親は掴み処が解らない母親だと云うのだ。 祖父の命令は良く聞くが、仕事は全く出来ず。 エレンが小さい頃。 夜中にトイレに起きたら祖父と一緒に居るのを何度も見かけたらしい。 何故か、汗を掻いていたり。 時には、不自然に夜食の用意をしていたり。


ウィリアムは、それには黙った。 もう、見えていた事実だ。


(やっぱりか・・)


だが、ウィリアムはもう一つ疑問が有り。 それをエレンにぶつけると・・・、エレンもその質問に対しては、ウィリアム同様に不思議に思っていたらしい。


ウィリアムの脳裏に、ある一つの仮想が浮んだ・・。


昼下がりの午後。 二人を乗せた馬車は、港近くの倉庫に向った。 ケウトの指示で、船の到着の有無を確かめてから船に二人を近づけようと云う計らいだった。


海岸部の東側、海水をそのまま巨大な建物の中にまで引き込んだドック施設が立ち並ぶ裏手は、石で出来た四角く高い倉庫が密集する。 その一つで、ケウトの借り受ける倉庫に着いた馬車から、ウィリアムとエレンが筵を退けて入った。


倉庫の中は、チーズ貯蔵庫とワイン貯蔵庫が主で。 二人が建物の中に入ると、乳製品の香りが海の香りを纏って立ち込めていた。


ウィリアムは、見上げる棚に大量に置かれたチーズを見て。


「ほう。 この国特産のシリーチーズですね。 ワインに良く合う」


と、眼を煌かせた。


エレンは、悲しみを心に隠す様に笑い。


「良くご存知ですね」


冷たい海風が特徴のこの国では、塩分を吸い込んだ風を纏うチーズが有名である。 朝晩の湿気と、日中の潮風が、冬から初夏までに格別なチーズを作る。 部屋の温度を上げない様に、吹き込む風を細い穴の窓を通して強くさせ。 チーズの隙間に通す事で、腐らせずして醗酵させるのだとか。


馬車を退かした御者と付き添いの男二人が、ウィリアムとエレンの居るチーズ貯蔵庫に入って来た。


「どうも」


「よろしくお願いします」


一人は、ノッポで気さくな笑顔の40前後と見受けれた男性。 もう一人は、口の周りに髭を生やしたガッシリとした体格の中年男性。


先に、背が高くて色白の気さくな男性が。


「私の名前は、チャンド。 ケウト様に仕える者です。 そして、こっちはコルレオ。 二人、お二人に遵ってエレン様をお守りしろとご命令を貰いました。 是非、この身を使って下さい」


ウィリアムは、二人の体つきを見て。


「ありがとうございます。 お二人は・・・、武術の心得がお在りですか?」


すると、日焼けした渋い細面をするコルレオが、少し驚いてチャンドを見る。 


一方のチャンドは、コルレオを見てから笑い。


「流石に、ケウト様のお目に適う方ですな。 観察が鋭い。 はい、我々はお互い別ですが。 若い頃は冒険者でした」


ウィリアムは、其処で質問を止めた。


コルレオが残ると。 チャンドは、港に向った。 そして、少しして船が入港しているのを確かめて来た。


ウィリアムとエレンは、港に二人の男を連れて向った。 ドックに入るのは、定期検査や超大型の貨物船や旅客船のみ。 中型の船などは、その周りに広がる船着場へ。 入港する船は何番港の何処何処と決まっている。 場所の権利を国から金で借り受けるのだ。 エレンは、祖父が死んだので権利を示すプレートアンカーを持っている。 その証明を見せて、やっと港に入れるのだ。


船着場に入る石の道に設けられたゲートを潜った後。 ウィリアムは役人が居たので、念のためにとミレーヌの名前を出した。 管理管轄は違うが、ダレイの事件はもう街中に広がっていた。 そして、ウィリアムは不正の事も匂わせて、連絡を頼んだのである。


何故、ウィリアムがケウトに頼んでこうしたのかは解らないが。 この判断は正しかった。


エレンの案内で、彼女の家が所有する中型貨物船の船着場に向うと。 何がどうしてか、全く荷馬車が来ないで積荷をどうしようか迷っている船員の集まりをを見つけた。 船員達は、船が港に着くと何をすべきか知っている。 荷の周りに固まっているなど、普通では珍しい光景なのだ。


石で出来た幅広い船着場にズラズラと並んだ船たちの中で、荷物を積み上げて周りを見ている船員の集まる場所にエレンとウィリアムが近付けば。 集まりの中から黒い生地に人魚の刺繍をし、服の所々に少し痛みの見える上着を着た屈強そうな風貌の男がエレンに向って来た。 


「エレンお嬢様、此処に来たんですか?」


「ヴィオレさん、実は・・・」


エレンは、その男にダレイ氏が殺された事を告げた。


航海士にして、船長として雇われたヴィオレは。 40歳過ぎた筋骨隆々とした海賊の長の様な威厳を持つ男だった。 モミアゲから顎に線を引いたような短い髭、両腕に彫られた“海の女妖精”(セイレーン)の刺青。 腰には、曲刀シャムシールを装備した強面である。


だが、ダレイが死んだと聴いて、ヴィオレはその場に膝間付いた。


「お嬢さん、ダンナが死んだ以上。 俺はシェルハさんの意思を受けて貴女に従う。 この身、使って下さい」


ウィリアムは、エレンの父親である“シェルハ”と云う人物の人間性を垣間見た。 ヴィオレの様な船長は、金だけでは動かない頑固者が多いのだが。 エレンに見せる姿は、敬愛の念が見え隠れしている。


エレンは、泣き捲くった赤い目を真摯な物にして向け。


「ヴィオレさん。 祖父が、不正を・・・密輸をしていたのは知ってますか?」


聞き捨てなら無い話に、ヴィオレが勢い良くエレンに顔を上げた。


「え?」


驚くヴィオレに、エレンはウィリアムから受け渡された紙を見せる。


「家の店に置いてある品物や、別店に並べられている品に、輸入の記載も売買の事実も無い物が在ります。 その品物を運んでいるのは、御祖父ちゃんが取引に使っていた船か・・。 所有してるこの二隻の船・・どちらかだと思います」


品物の記録に眼を通すヴィオレは、


「おかしい・・・、この商品は全て船に乗せた記憶が在るものばかりだ・・」


其処に、ウィリアムが。


「仕入れを現場で担当しているのは貴方ですか?」


ヴィオレは、エレンの脇から腕組姿でそう言って来る若いウィリアムに顔を向ける。 何者か解らないヴィオレは、目つきを鋭くするも。 エレンが、直ぐに。


「役人の依頼で、御祖父ちゃんの事件を調べてくれてるウィリアムさんよ。 この人が、不正の事とか教えてくれたの。 この人の質問は、私の質問と想って応えて下さい」


頷くヴィオレは、ウィリアムを見て立ち上がり。


「いや。 現場で買うのは“ラザロ”って云う旦那の腹心さ。 今さっき、迎えの荷馬車が来てないからエレンお嬢さんの御宅に向った。 荷物を運び出すのも、主の許可が必要だからな」


ウィリアムは、俯き何かを素早く考えると。 また、ヴィオレに向いて。


「では、積荷の運搬に皆さんは関わっていない?」


ヴィオレは、後ろで船員が積み出した荷物を親指で指差し。


「今降ろしたのは、俺達がやったんだが。 あれは、俺達が運搬する。 だが、一部の荷物はラザロと旦那が連れてくる別の荷馬車が持って行くよ。 その荷物に関しては、質問も赦されない」


エレンとウィリアムの目が噛み合った。


エレンは、直ぐにヴィオレに向って。


「祖父が居ない今、私が跡継ぎです。 ヴィオレさん、その荷物を降ろして下さい。 後から、役人の方が来ます。 それまでは、誰にも見せてはいけませんよ。 もし、ラザロと云う人が来たら、私が言ったと伝えてください」


エレンは、強い眼でヴィオレに言う。


ヴィオレとて、商業の掟は幾らか知っている。 心配な顔で、エレンを見て。


「お嬢さん、それでいいのですか?」


エレンは、迷いは無かった。


「ヴィオレさん。 もう、役人の方々が内密に捜査し始めています。 隠して、罪に問われたら全てを失います。 もし、少しでも何かを残せる可能性が在るなら、今はその道を進むべきだと思います」


言い切ったエレンを見るヴィオレの顔が、曇り空の下で晴れ渡るのが見えた。


「解りました。 このヴィオレ、お嬢さんに最後まで付き合います。 例え船を失っても、またやり直せばよろしいんですから」


ヴィオレは、振り返ると手下の船員に。


「おうっ、野郎共っ!!! 積荷を全て降ろせっ!!! ダレイの旦那は死んだっ。 今は、このエレンお嬢様が主だっ!!! もう、横暴に耐える必要無ぇぞっ!!!」


こうして、ケウトの遣わしたチャンドとコルレオも手伝い。 滑車と紐で荷物を降ろす作業が始まった。 ヴィオレも心得た物で、船の横っ腹の出し入れする格納扉を開き。 今まで手の付けられなかった荷物を優先して降ろし始めたのである。


一方、ウィリアムはヴィオレから教えて貰ったラザロと云う男の私室を調べるべく、鍵の掛かった黒いドアを壊し。 この船にしては珍しい個室の客室と思える部屋を探し回った。 雑魚寝の船員、船長室で狭い床に入るヴィオレとは明らかに違う待遇である。


部屋を見回したウィリアムは、木のコップに飲み残された紅茶を嗅いで。


「フラストマド王国の一級茶葉ですね・・。 ワインに、飴・・・随分と羽振りいい感じで」


木の机の上に残された飴やチョコレートは、お菓子の類でも値の張る物。 それを、堂々と食べているラザロと云う男は何者だろうか。


ウィリアムは、ベットの脇にある引き出しの棚を全て抉じ開け。 中に入っていた売買証書と取引契約書を取り出してエレンに持たせた。





 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





その頃。 店を見張るアクトルとクローリアは、ミレーヌが馬車で来ているのを目撃していた。


「な~んか有ったか?」


木戸の閉まった店の前に馬車を着けたミレーヌは、辺りを一瞥してから店の裏手に回って行く。


クローリアは、忙しそうに動くミレーヌや役人を窓越しに見て。


「やはり、国の仕事とはお忙しそうですね。 もう、何日も施設に泊り掛けでしょうに・・・」


アクトルも、気楽な冒険者家業なだけに。


「んだな。 ま、月極めで安定した給金出るんだろうが。 俺達とは背負う物が違う」


「そうですね」


しかし、だ。 その少しした後。 店に頻繁に人の出入りが・・・。


先ず、来たのは店の従業員らしき中年の労働者である。 少し草臥れた感じの中年男性で、閉まっている店の表で。 見張りの役人と何やら話し合って、力を落として港方面に引き返してゆく。


アクトルは、外に出るのを考えた程で。


「立ち聞きすれば良かったかな・・・」


クローリアは、初めての見張りで良く解らず。


「さぁ・・・」


夕方に向けて傾く太陽が、建物に日差しを遮られ始める。 陽の光が、色を佩び始めた頃。 今度は、役人が走って来た。


「何か・・・血相変えてるな・・」


アクトルは、外に出ようかウズウズし始める。


「何か有ったみたいですね・・。 まさか、ウィリアムさんとエレンさんと云う方に何か・・・」


クローリアも心配に為った。


店の前には、ミレーヌまで出て来て役人達と合流し。 ミレーヌを乗せて来た馬車にミレーヌと血相を変えて来た役人。 そして、応援に店を見張る役人二人の内、一人がミレーヌと共に馬車で消えたのである。


これで終りかと思いきや。 今度は、ミレーヌの去った直後に青い車体の馬車が店の前に乗り付ける。


「また、馬車かよ」


アクトルは、何が何だかと思って見ていると。 閉まっている店の前に、白と黒いストライプのスーツを纏った身形のかなり良い男性が現れた。 整髪油で、綺麗に頭髪をオールバックにして、黄金の掴みを見せる黒いステッキを手にして居た。


アクトルは、細面ながらに鋭い眼光を見せるその中年紳士を見て。


(何モンだ? 眼の鋭さは徒者じゃないぞ・・・)


クローリアも、顔は悪く無い強気な中年男性紳士を見て。


「何か、怖そうな雰囲気のする人ですね」


と、いい人物を見る目では無かった。


馬車から降りたその紳士は、見張りの為に立っている役人に向って強気な口調で怒鳴り出す。 その声は、窓越しに声が聞こえて来る。


「おいっ!!! エレンは何処に行ったんだっ?!!! 私の妻と成る身だぞっ?!!! 昨日戻ったと聞いたのに、何で外に出さないんだっ?!!! そんな権限が在るのかぁっ?!!!! 責任者を出せっ!!!!!!」


クローリアは、エレンに婚約者が居た事を思い出す。


「ウィリアムさんが言っていた・・・婚約者の方では有りませんか?」


アクトルも、そんな話をウィリアムが言っていたと思い出し。


「ああ、そ~いやぁ」


二人は、押し問答と云うより。 一方的に怒鳴り散らして、エレンの居ない事を知ったのか。 直ぐに馬車に乗って消えて行く男を見送った。


次話、予告


事件は、一気に急展開を見せる。 港に集まるミレーヌと、ウィリアム・エレンと、ラザロ・・・。 不正の事件が暴かれる事になり。 ダレイの殺人事件は存在を薄くさせるのだが・・・。

                                     

次号、数日後掲載予定



                                      

どうも、騎龍です^^                           


年末の忙しさが大変ですね^^; なんか、書くのが疎かに為りそうなカンジです^^; 寒いし^^; 今、ストーブも暖房も無い部屋で布団に包り作成していますが。 せめて、年越し蕎麦ぐらいは食べたいと願う今日この頃です^^;                                        

では、次回もお楽しみに^^                            


ご愛読ありがとう御座います^人^



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