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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
29/222

third episode

                冒険者探偵ウィリアム 3部








朝。 海面温度と、冷たい風で毎朝霧が発生するマーケット・ハーナスの首都フェキサフォン・アーシュエル。 他の地域に比べて、霧の為に全体的に仕事に向かう労働者達の行動は遅めに為る。 朝の早い田舎などに比べたら、随分と違うだろう。 


ウィリアムとスティールが、二人して先に宿を出る。 アクトルやロイム達は、昨日と同じ行動だ。


「ふぁ~・・・」


大欠伸をするスティールは、ウィリアムを宿前の路上で見返し。


「んで? 俺を連れて行く所なんざ~何処だい? 女か?」


冗談で言ったつもりなのだが・・。


「ええ。 そうです」


と、ウィリアム。


ステイールは、キョトンとして。


「え? マジ?」


ウィリアムは、霧の中に歩き出して。


「ダレイ氏の愛人とやらに逢いに行くんですよ」


一緒に歩き出したスティールは、納得してから。


「でも、ミレーヌの姉さんはいいのか?」


ウィリアムは、至って冷静に。


「ええ。 昨日一日掛けて。 その女性の住まいと行き着けの店などを押さえたそうです。 ですから、今日の午後には捕まるでしょう。 参考人としてね」


「ウィリアムちゃん、捕まる人間に・・・捕まる前に話を聞きに行くの?」


「一々捕まるのを待ってるなんて・・。 それに、まだミレーヌさんにも耳に入れたくない事を聞きたい物でね。 少し、逃げ回って貰いたい所ですから」


スティールは、ウィリアムが態とダレイ氏の愛人を逃がすと解った。


(おいおい・・、コイツ・・。 事件を解決する為なら、どんな手でも使う気かよ・・・。 負けた)


ウィリアムは、サレトンから聞き出した愛人の朝の居所を聞いていた。 ダレイは、愛人を何人か囲っていたらしいが。 中でも中年の金髪女性をお気に入りにしていたとか。 昨日の時点で、2人は身柄を確保されたとミレーヌが言っていた。 だが、その金髪女性は、完全に夜を生活圏にしている女で。 中々逃げるのが上手く、夜の街中で逃げられたとか。


大通りから、階段を降りて。 段々に広がる街を降りて行くウィリアムとスティール。


スティールは、少しづつ霧が晴れる中で。 街に働きに向う人々と擦れ違ったりする階段の上で。 ウィリアムに思ったままに聞いた。


「お前、潜伏先なんか解るのか?」


「と云うか。 港に行き、それから自分の店に向って前日の売り上げを取り。 そして、直ぐに女性と会える・・。 こんな朝っぱらから客を泊める宿は中々・・。 ですが、朝まで空けている店なら、今頃閉めますよね~」


スティールは、直ぐに気付いて。


「飲み屋か・・」


「多分。 もう一つ階段を降りた段の街中には、商店街と飲み屋街が混同しているそうです。 それから、ダレイ氏が肝いりで酒を卸す個人名義に、“マドラーズ・ステゥール”と云う名が在りました。 ポルスさんなどに聞きましたが、ダレイ氏が直接酒を卸している個人は居ないそうです」


「でも・・・“マドラーズ”って、カクテールなんかに付く混ぜ棒だろ? “ステゥール”って、ストゥールの訛りだろうが・・・。 あ、・・・店の名前か?」


ウィリアムは、流石にこうゆう事は理解の早いスティールに微笑み返し。


「多分。 女性を秘密裏に囲う為に、個人名義に偽った深夜専用の飲み屋をやらせているのでは?」


スティールは、直ぐに納得。


「お前、紙切れ一枚で其処まで読むか・・・。 それ、可能性高いぜ」


今日は、随分と空に雲が多い。 街が、霧と曇りで少し暗かった。 港まで残り2つの段の街を残す手前の段で、ウィリアムはスティールを伴って西側に向かう。 


街中を歩き始めた最初は、個人経営の大型市場や、専門商売のお店が開店準備を始めていて、働き手が掃除をしたり、品物を並べたりと店頭は何処も忙しい雰囲気に包まれている。


だが、次第に通りに並ぶ店の様相が飲食店や飲み屋などに変わると、雰囲気がガラリと変わってきた。 人気が無いのが先ず。 その内、黒い建物の飲み屋が密集する外れに来ると、荷車が無造作に置かれていたり木箱が店前に積まれていたり。 明かりを落として無人となった店ばかりが道の左右に並ぶ。


「寂れた飲み屋街まんま・・だな」


と、辺りを見回しながらスティール。


解り切っているウィリアムは、サラリと。


「夜に成れば、息を吹き返す仮死状態って所ですよ」


「んだ」


その店の並びの中で、一回り小さい古めかしい飲み屋の看板が、“マドラーズ・ステゥール”だった。 ウィリアムは、静かに入り口のガラスドアを触って鍵が掛かっているのを確かめると、スティールと共に裏口に回る。 飲み屋のこうゆう場所は、裏口はゴミゴミしている物だが。 この店はしっかりと掃除されていた。


ウィリアムは、裏側のドアを軽く触れて回す。 確かに、鍵が掛かっているのだが・・・。


「んあ・・・」


スティールは、ウィリアムがドアに張り付いて何かしたらドアが開いたのに驚いて口を開ける。


苦笑いのウィリアムは、


「このドア、鍵がいい加減なんです。 古い鍵だがら、ドアの端を持ち上げてずらすと外れるんですよ。 今時、この扉の鍵は田舎の家ぐらいですから」


「な・・・何で・・知ってんだよ・・」


「色々ですよ」


小声のやり取りも此処まで。 ウィリアムは、ドアを開いてそっと中に入る。 中は、飲み屋のカウンター内の奥の炊事場だ。 水瓶が有ったり、ワインボトルやウィスキーの銘柄が木箱やセラーに納められている。


「・・・」


そっと中に入って行くと・・・、カウンターの内側に出た。


スティールは、カウンターの外側真ん中で、ストゥールに坐って寝ている中年女性を見た。 ウィスキーグラスをカウンターに倒れさせ、寝息を立てる女性は化粧の派手な顔だ。 確かに、妖艶な色艶が有り、出っ張った胸は視線を誘う。 黒いタイトなワンピースは丈が短く、膝など殆ど丸見えであった。


「・・・」


鼻で溜め息を出すスティールに代わって、ウィリアムは倒れたウィスキーの入っていたグラスを起こし取ると。 炊事場に戻って水を汲む。 そして、戻って来るといきなり女性の前にドンと置いた。


「あああっ」


何事かと驚き、飛び起きる様に眼を覚ました女性。


スティールは、その遣り方が強引なので、呆れた顔をウィリアムに向ける。


「ウィリアムちゃん、レディには優しく」


「忘れてましたよ。 師匠」


と、素っ気の無いウィリアム。


金髪の中年女性は、知らない二人組みの男の出現に恐れて震え出す。


「なっ、何よっ。 アンタ達はッ?!!!」


こうゆう時、ウィリアムは容赦無い。


「失礼。 実は、ダレイ氏が殺されましてね」


いきなり、単刀直入に事をぶつける。


「あっ・・えっ? な・・どうゆう事?」


女性は、パニックに陥った。 金で繋がる愛人でも、“死んだ”と聞いて動揺する所は当然だろう。 


スティールは、水の入ったグラスを女性に差し出す。


「水。 先ず、落ち着いてくれ。 俺達は、話に来ただけだ。 別に役人に突き出す気は無い」


厚ぼったい唇をして、白い化粧の女性は・・少しアイシャドゥを崩しながら水の入ったコップを受け取った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ウィリアム。 アレで良かったンかい?」


スティールは、街中で人ごみがごった返す道をウィリアムと歩く。


「ま、勝手に。 あの人は、事件には関係無く。 不正に関係有るんです。 捕まるか、出頭するか・・。 お任せしましょう。 俺が、エレンさんに出会うまでに捕まらなければいい話ですからね。 少し悩んで頂ければ、それはそれで十分かと」


「冷たいのぉ~・・、お主は」


「温度はどうでもいい話ですよ。 俺は、仕事をしているだけです」


「ブリザードじゃ・・、このお若いのにはブリザードが・・・」


と、嘆く素振りのスティール。


だが、ウィリアムは澄ます。


「ですが。 情報はそれなりに良い物が・・」


スティールは、周りが人ごみの手前。 大声で言わないが。


「そうなのか? あのオネ~サンが何時頃からジサマの女に成っただの。 昔の女の話だの、俺には全く情報と思えなかったがねぇ~」


ウィリアムは黙り、スティールの問いかけに曖昧な返事のみを返し。 うろつく様にのらくらと歩き、二人は殺人の起こった店に向う道の前に来た。


ウィリアムは、通りの前の角で立ち止まると。


「スティールさん。 では、此処で別れましょうか」


スティールは、ウィリアムと一緒に行くのは不味いと解っているだけに。


「ああ。 全く、事件の手伝いってのは、面倒が多くてウザ~いね。 ま、仕方無いが・・。 処で、ウィリアム」


「はい?」


ステイールは、少し真顔で。


「ジサマの愛人の話、少しロイム達には黙って於こうか? いずれは、解る話だろうがよ」


すると、ウィリアムはスティールを真っ直ぐに見返した。 周りで歩く人も居る手前、声のトーンを下げて。


「こっちに、来て下さい」


と、言って。 ウィリアムは、店に向う道では無く。 飲食店の角に向う。


「・・・」


スティールも、その後ろに従った。


ウィリアムは、スティールと肩を並べ。 霧がだいぶ晴れた中で、港の湾を腕組みで見つめる。


「スティールさんは、口が硬いので言いますが・・・。 ダレイ氏は、あの愛人達を作り出したのは、大体5年前と言ってましたよね?」


スティールも、壁に肩を預けて小声話をする為にウィリアムに身を近づけ。 先程のダレイ氏の愛人の話を思い出す。


「ああ・・、確か・・・」


“その前は、ダレイの旦那は間近に女が居たそうよ。 だから、夜は不自由しなかったって・・。 でも、色々事情が変わって・・。 その相手が触れなくなって・・、仕方無いからアタシとかを囲い始めたみたいよ”


「って、言ってたなぁ」


「はい。 近い所・・・夜に不自由しない・・・。 ダレイ氏の間近には、確かに一人居ますよ。 ダレイ氏の好きそうな女性が・・」


誰かハッと気付いたスティールは、一気に険しい面持ちでウィリアムを見て。


「お・・お前、それって・・・」


驚くスティールに、感情を消した表情で頷くウィリアムは。


「ジョーンズさんとテーラーさん夫妻が雇われたのも、大体5年前だそうです。 ダレイ氏が、その以前に日雇いで来ていた夫婦を気に入らずに追い出した事が原因でして。 元々ジョーンズさんとテーラーさん夫妻は、ダレイ氏に店を乗っ取られて土地を転売されたんですよ。 行く所が無いので、お慰みの様に雇われたんだそうで」


話の内容に、スティールは沸々と顔に怒りを表し。


「クズ野郎がぁ・・・。 死んで当然だな」


と、吐き捨てる様に言った直後。 ウィリアムに驚きを含む顔で迫り。


「ウィリアム・・・、まさかよ。 その・・、エレンとか云う孫娘って、“孫”じゃないんじゃないか?」


すると、ウィリアムは瞑目して俯く。


「話の総合としては、悪く無い推測です。 スティールさんは、見ていないので・・・彼女を。 ですが、エレンさんは明らかにそれでは生まれませんね」


スティールは、ウィリアムの言う意味が解らず。


「どうゆう事だ?」


目を開いたウィリアムは、上目遣いにスティールを見て間を空けた後に。


「独特の瞳、特有の唇、顔の雰囲気・・・。 エッセンスが食い違っています。 俺が今言えるの、此処までですね」


スティールの前をゆっくりと歩き出すウィリアム。


(エッセンスが食い違う? 生まれない? んじゃ・・・? 意味が解ンねぇよっ!!!)


唸るスティールは、ウィリアムが離れて消えるまで、曇り空の低い所を流れる千切れ雲を見上げて考えた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 

「おう。 遅かったじゃないか」


スティールは、もうそろそろ昼に近いと云う時にアクトル達が事件の有った店を見張る為に潜伏している喫茶店に入った。


「ああ~。 美味そうなオネ~サンを喰い損なったよ」


ぶっきら棒に云うスティールは、2日目で店員にジロジロ見られる事も気にしてない様子で、ドッカリと黒い背凭れの高い椅子に座った。


観葉植物の仕切りと、客の通り道の通路の御蔭で周りとは少し離れる窓側の席だ。 スティールは声こそ大きくしないが。 何処か虫の居所が悪そうな雰囲気で在る。


アクトルが、大した事も無いんだろうと何食わぬ顔で。


「どうした? ウィリアムに何か云われたのか?」


「バッカ、そんなんで怒るか」


ロイムは、口を尖らせて。


「でも、怒ってるぅ」


すると、スティールはロイムに襲い掛かり。 ロイムの頭をくしゃくしゃに。


「うわわわっ」


慌てるロイムに、スティールはニヤニヤして。


「クソジジイが金で女とイイ事出来てるのがムカついてんだよっ!! ロイムっ、仕事終わったらキャバレー行くからなぁーーっ!!!」


「いやややああああ・・」


クローリアとアクトルは、様子がおかしいスティールに困惑であった。


さて、その頃にウィリアムはと云うと。 店の中に入り、エレンと居間で会っていた。 


クリーム色のカーテンが、少し開かれた窓から入る海風に靡いている。 広い間取りの居間には、細く波打ったデザインのランプスタンドが3本配置され。 中央には柔らかそうなソファーベッドが対象にテーブルを挟んで置かれていた。


「やはり、今日は店は開けられませんね」


ウィリアムが、ソファーの右に座る。


「はい・・。 母も気分を悪くして床に伏せて居ますし。 まだ・・、祖父の葬儀も出来ませんから・・」


対応するのは、エレンだ。 白いブラウスに、黒いスカートを穿いている。 ウィリアムと対象の左のソファーに、ポルスを共に座る。 部屋の隅には、紅茶などのもてなしの用意を集めた手押しの台車が有り。 脇には、テーラーが控えていた。


ウィリアムは、見回してサレトンやジョーンズなどの姿見えない事に気付いた様に。


「他の方々は?」


エレンは、ウィリアムが役人の手先だと思ってか、丁寧な言い方で。


「サレトンさんは、地下の部屋でお休みです。 祖父が死んで、遣る事も無いと・・。 ジョーンズとタンデは、もう一方の店に手伝いに・・・」


語るエレンの顔は、暗く沈みきっている。 


脇で黙るポルスは、ウィリアムに警戒心を剥き出している顔で睨み付けている。


紅茶を一口付けたウィリアムに、エレンが。


「あの・・、まだ何か御用でしょうか?」


問うエレン。


ウィリアムは、その彼女の顔を見ると。


「今日一日。 私に付き合って下さい」


いきなり過ぎる申し出だった。


「えっ?!」


驚くエレンとポルス。 離れた所では、テーラーも驚いている。


ウィリアムは、紅茶のカップを置き。


「事件の他に、別の店の事や船の事について現場で色々とお尋ねしたいんです。 ミレーヌさんの許可も取って有ります。 貴女は、もう店の主だ。 ダレイ氏が死んだ今、貴女に同行して貰いたいんですよ」


顔の皺を歪ませてウィリアムを睨むポルス。


エレンは、少し間を置いてから。


「解りました。 ご一緒致します」


ポルスは、慌てて自分も行くと言い出すが。 ウィリアムが役人の付き添い無しで連れ出せるのは一人までだと云うと。 エレンは、ポルスを押し留めて一人でウィリアムに着いて行くと言った。


ウィリアムとエレンが、二人揃って店の前に出た。


「あ、ウィリアムだ」


ロイムが、窓縁に隠れて言う。


「ん?」


見たアクトルは、赤いゆったりとしたベールを幾重にも巻いた様な上着に、白い半袖のブラウスの襟元を首周りに見せる印象的な美人女性と連れ立って居るウィリアムを見て。


「オ~ンナかよ」


ロイムの頭を押し退けてエレンを見るスティールは、


「アレが、孫娘のエレンだろ? くはぁ~、美人じゃね~か。 ちっと彫が深くて、鼻が高い・・。 うぬぬぬぬ・・・ウィリアムめぇ・・・」


と、悔しがる顔を。


クローリアは、呆れ果てた顔で。


「あの・・、目的は違いますと・・」


だが、スティールは内心に。


(なんか・・、目つきも唇も死んだジサマに全く似てねぇ~・・。 エッセンス・・・そうゆう事か)


ウィリアムの言いたかった意味が、少しづつ理解出来始めたのである。


「歩いて行くぞ」


アクトルが、海側の方に向ってエレンと歩いて行くウィリアムを見送る。


クローリアが、往来の人を見て。


「何処かに怪しい人は居るのでしょうか・・・」


と、真剣な眼差しを向けた。


皆に見送られるウィリアムは、エレンを連れて歩き出すと直ぐに。


(殺気混じりの尾行が付きましたね。 やっぱり、誰かに見張られているのは間違い無い・・・。 事件絡みか知りませんが、影が居るんですね。 誰だか・・・)


と、思いながら道なりに歩いて行く。 


店の周りでは、未だに往来の人の中で立ち話をして閉まっている店を指差す人々が居る。 その顔は、死者を悼み偲ぶ色は微塵も無い。 寧ろ、いい気味だと嘲笑っている様な人すら居たほどだ。


エレンを見送る往来の人の顔も、千差万別だった。


さて。 エレンと肩を並べて歩くウィリアムは、大通りまで出ると。


「何処か・・」


いきなり喋ったウィリアムに、驚いたエレンはハッと彼を見て。


「え? 何ですか?!」


ウィリアムは、通りの左右を見て。


「いえね。 何処か、二人きりで静かに話せる場所は無いかと・・・」


此処でウィリアムはエレンを見て。


「知りませんか? 何処か? 正直、初めて来た日が、ダレイ氏の死んだ頃でして。 まだ、この街の事良く解らないんですよ」


エレンは、何がなんだかと云う雰囲気の顔で。


「私と二人きりに為って、一体どうしようと・・・」


「それは、為ってから・・。 ま、見て貰いたい物も有れば、お聞きしたい事も幾つか」


エレンは、ウィリアムの心を推し量ろうとしても無理な事だった。 咄嗟に考えた事は、自分の身の安全を守れる場所に行こうと・・。


「あの・・、私の父の友人が・・・レストランを経営してまして・・」


ウィリアムは、エレンを見て。


「其処なら、静かに話せると?」


「はい・・、個室も有りますし・・」


「ま、人払いが出来る場所ならば、何処でもいいですがね。 では、お任せします」


ウィリアムは、以外に素直に従う。


(一体・・・どうゆう意味かしら・・)


エレンは、冒険者と云う流れ者のウィリアムが何を考え、どうして自分に接近して来たのか理解に苦しんだ。


ウィリアムはエレンに付き添われる様な感じで、また段々の街並みを降る為に階段を降りた。 


港まで広がる段の街並みを見下し。 ウィリアムは、


「随分と段々に成ってますよね。 荷物を運ぶのに苦労しそうな・・・」


「あ・・。 いえ、港から地下水路の運搬通路が有りますわ。 その段に合わせた高さに水車で上げ下げしているリフトが有ります」


「あ~、なるほど。 見てからに多い段数ですからね。 労力は少なくする方がコストも掛からない」


エレンは、ウィリアムが商人の様な言い方をするのが気に為り。


「まぁ、損益に敏い言い方ですね」


と、作り笑いで話を繋いでみた。


ウィリアムは、当たり前の事だと思いながらも、エレンの機嫌を損ねる気も無いだけに。


「まぁ、小さな頃から街で働いてましたから・・・」


エレンは、ウィリアムと云う人物を知ろうと思い。 直ぐに、


「此処では有りませんでしょう?」


「ええ。 コンコース島です」


「まぁ、そんな遠い所から・・・」


「冒険者に成りましたからね。 仕事を求めて移動してれば・・、こんな物かも知れません」


事も無げに言うウィリアムは、街並みを見回しながら風に吹かれて心地よいと感じていた。


そんなウィリアムに、エレンは興味を覚えた。


さて。 ダレイ氏の愛人の店が在った段まで降りず。 港まで6・7段の街並みを残してエレンは東側の道に入る。 飲食店が数多く立ち並ぶ街並みで。 白い白亜の城の様な店や、モダンな木造の館を思わせる店。 丸で、結婚式を挙げるチャペルの様な店など、外観に拘った店が多い。


ウィリアムには、店の佇まいで値段が推し量れるだけに。


「高級レストランばかりですね・・。 何処も高そうだ・・」


頷くエレンは、往来の日傘を差して紳士淑女が歩くのを見て。


「此処は、諸外国から来る貴族やお金持ち、他は商人や文化人などが外食をする店が多い場所ですね。 所々には、内装に似合った宿も有ります。 この段の上下に広がる店は、ブランド物の小物や衣服、宝石、香水、家具などを揃えた店が多く並びます」


「なるほど・・」


ウィリアムは、自分とエレンが場違いな客に見える周りに納得であった。 エレンは、金持ちの娘だが、その姿は“街娘”的で。 飾りッ気の無い姿は、有る意味真にシンプルである。 睫が長く、印象的な顔と独特の光の反射を魅せる瞳には、寧ろこのシンプルさが似合っている。


「此処です」


エレンは、ウィリアムを連れて白いモダンな館の前に立ち止まった。


「ほう。 綺麗な店構えですね」


通りとの境に作られた鉄格子の柵と門。 その先には、歩いて渡る石の通りが、芝生の絨毯を縫う様に延びていて。 街を仕切る段を背に建てられた5階建ての白い館は、窓に藤や小さい水仙を飾る。 大きな店構えの屋敷を、直射日光から守る木々は、楠の木だった。


敷地に入るエレンは、着いて来るウィリアムに。


「私は、祖父の小間使いの様な者ですが。 父の親友で、この店のオーナーであるケウトさんは、私を良くこの店に招待して下さいます。 “本物の味を知る事も、商人には大切な教養だ”と・・」


「確かに、味や風味を知らない者が料理を作れないと一緒ですね。 お客に薦める商品の良し悪しを知る事も、確かに必要な事ですよ」


エレンは、そう返してくれたウィリアムを半身になって見て。


「思ったよりは、ご理解の有る方ですね」


と、微笑む。


ウィリアムは、スマートに澄まし。


「事実や現実を否定する程特別な力は在りませんから」


急に冷めたウィリアムに、エレンは肩を竦めて苦笑する。


大きな教会風の合わせ扉の前に立つエレンは、直ぐに扉を引き開いて中に顔を覗かせる。


「済みません。 誰かいらっしゃいますか?」


宿の受付カウンターの様な一角が在り、その奥の戸の無い入り口から白い礼服に身を包んだ40前後の男性が現れる。 ウィリアムより頭一つは背が高く、オールバックに整えられた髪や口髭を見る限り。 礼儀や行動を弁えた紳士と見て取れた。


「はい。 まだ開店では・・・。 おや、エレン様ではございませんか・・、今はダレイ様がお亡くなりに成られた大事な時期と思いますが・・・。 如何為されましたか?」


エレンの前までやって来る男性は、思慮深い顔を物静かに言う。


その男性から目を逸らし、この受付に掛けられた絵や花を生ける花瓶を見るウィリアムは。


(確かな目利きですね。 これは、精通したコーディネートだ・・・)


薄緑色の壁の色に、絵や花や花瓶は邪魔に成っていない。 


確かな目利きと、センスが問われるのが内装だ。 ただ高い品を買い揃えて置けばいいと云う物でも無い。 調和と云うバランスを取る必要が在り、その個性が出る感覚には独特の奥深さが有る。


エレンは、半身に成って紳士を見上げ、ウィリアムに右手を差し向けると。


「此方は、祖父の事件の事で役人の方にご協力しています冒険者のウィリアムさんです」


ウィリアムは、軽く一礼して。 相手も、エレンの知人なだけに深く一礼して来た。 冒険者のウィリアムに礼儀の垣間見える礼を見せる所が、エレンがこの店では大切な客だと思わせた。


エレンは、更に。


「此方のウィリアムさんが、私に込み入ったお話が有ると言うので。 何処か、個室を一つお借り出来ればと思って来ました。 ご迷惑でしょうが、少しの合間でいいのでお部屋を御貸し頂けませんか?」


すると、紳士はウィリアムを見てから、エレンを見て。


「それはそれは、では此方へ。 只今、掃除の終えた一室にご案内致します。 もう直ぐご昼食のお時間でしょうし、何かお出ししますよ」


エレンは、両手をお腹の前に組んだ淑女の礼儀を示して深く一礼をする。


「すみません。 ご迷惑をお掛け致します」


すると、紳士は微笑み。  


「なんの、ケウト様がお喜びに成られます。 主人は、エレン様をご息女の様に思われて居ますから」


紳士に連れられ、鍵状に為る廊下を奥に進んで螺旋階段を上る。 2階は、大部屋の個室が広がり。 3階は家族などの3~5人様の個室。 4階に上がれば、二人専用の個室が曇りガラスと防音効果の高い土壁の仕切りで並んであった。 各個室の前を通る廊下を行き、一番奥の部屋に二人を通す紳士。


「此方へ。 直ぐに、紅茶などをお持ちします」


エレンは、また頭を下げて。


「済みません」


と、部屋に入った。 一番奥の部屋だが、エレンは、ウィリアムが変な気が無い様な感じがして無用な素振りはしなかった。


四角いテーブルが、楠の木を見れる小窓の前に置かれ。 向かい合う様に置かれた椅子。 テーブルの上は、純白のテーブルクロスが敷かれ、中央に薔薇の一輪挿しが置かれていた。 スプーンやナイフなどが備えられ、ナプキンなども揃っている。 


開店間際だと解った。


ウィリアムは、エレンに椅子を引いて席を勧め。 坐ったエレンの前に座ると、深く溜め息一つを吐き。 ナイフや短剣も仕舞える長いポケットを持つズボンの脇ポケットから、折り畳んだ紙を取り出した。

次話予告


ウィリアムは、エレンにダレイの行っていたと思われる不正の容疑をぶつけた。 知らなかったエレンは、驚きを隠せずに泣いた・・。 そして、ウィリアムは遂に事件の核心に近づく事に成る。


次号、数日後に掲載予定


 

どうも、騎龍です^^


此処まで来て、ウィリアムの掲載割合が3割弱・・・。 大丈夫か、年末年始の特別編^^;


書いてないし^^;


クリスマスまでに終えた場合は、先ずは・・・座談会をぶっこもう・・・。 Kの部分も書いた座談会で時間を稼ぐ・・・。 


K様頼りの作者です^^;


ご愛読ありがとうございます^人^

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