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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
24/222

third episode

                 冒険者探偵ウィリアム 3部







初夏の日差しが、燦燦と街道を照り付ける。 疎らに木々が広がる草原の中に、大きな蛇が畝食った様な街道が延々と延びていた。


「ふはぁ~・・・、あちぃ~」


青いローブを纏った魔法遣いの青年ロイムは、左手に杖を持ち。 右手の甲で汗の噴出す額を拭う。 もう20歳を過ぎるロイムだが。 その童顔は16・7くらいにしか見えない。 可愛らしい綺麗な顔立ちの青年である。


ロイムの横には、黒い上着に黒い皮のズボンをスタイリッシュに着こなす男性が歩く。 伸びた長い髪に、ニヒルな印象の漂う渋みが浮んだ顔は、夜の女性に好かれそうな感じだ。 腰に巻いた青い布はマントだろうか。 軽そうな黒い金属の上半身鎧を着て、左の腰には長剣の柄が見えている。 剣士スティールは、軽やかに汗ばむ前髪を掻き上げた。


「フッ、・・・鎧が太陽で燃えてるよ・・・」


と、言った次の瞬間に顔をアホの様にバカらしく崩して。


「うおおおおおおおーーーっ!!!! あっつーーーーーいっ!!!!!」


スティールの後ろを歩く白いローブを纏った女性は、自身も額に汗を浮べながら苦笑し。


「鎧が黒いですからね。 尚更、熱くなりますわ」


赤髪の僧侶クローリアは、大人びた美しい顔を微笑ませている。 まだ20過ぎなのに、その色香は熟れ始めた女性の物で。 丸みの有るスレンダーな肉体は、肉感の良さを窺わせる。 一人で歩いていると、遊びで男性に声を掛けられる事も多く。 飲み屋などには一人で入りたがらない淑女である。 ただ、過去に傷を持ち何処とない陰りも併せ持った女性だった。


そのクローリアの脇で。 身の丈2メートルは余裕で超えそうな大男が、顔面を汗まみれにして色黒い顔を顰めて居る。


「おい・・、ウィリアム。 俺の後ろに居るのは、日差し除けか?」


唸る様に言った大男の背中に背負う戦斧は、美しい金属の光沢を湛える大きな大戦斧だ。 対象に円を画く様な刃が付いていて。 何かで毎日磨いているのかピカピカしている。 彼は、戦士アクトル。 勇猛にして、大戦斧を扱わせたらかなりの腕だ。 スティールとは同郷の幼馴染である。 天涯孤独に成ったので、スティールと二人で冒険者に成ったが・・・。 ウィリアムと出合って、様々な出来事に関わり冒険を謳歌している。 


その、アクトルの後ろには、やや白い灰色の髪がクセを持って飛んでいる若者がニコニコしている。 知的で利発そうな印象を受ける青年は、皮の上半身鎧に、腰周りにはサイドポケットをベルトで固定していた。 武器の類は、右脇の腰に備わった万能短剣。 コイツは、肉を切ったり何かを裂いたりする日用品で。 戦闘用では決して無い。 


ウィリアム。 それが彼の名前だ。


「いやいや~。 アクトルさんを利用している訳ではありませんよ~。 ラビンさんとお話しているだけです」


ウィリアムは、旅人風の姿をした初老の男性と並んで歩いている。 白い薄いマントに、麦藁帽子を被った初老の男性は。 日焼けした黒い顔を前のアクトルに向けて。


「いや~スミマセンな~。 年寄りには、日差しは堪えるモノですんで」


のんびりと一人旅をしているこのラビンと言う男性。 2日前の夜に、街道の仮眠場にて毒蛇の群れに出くわした夜に知り合った。 皺の入る顔は痩せこけていて、白髪の多い髪は短くキツイ天然パーマが入る。 何処か飄々とした人物であり。 ウィリアムとの相性がいいのか急に仲良く成った。 何でも、ラビン氏もマーケット・ハーナスの首都に向うらしく。 それならと、一緒に旅をしている。


さて、先頭を行く二人は・・。


気の抜けた顔を、照り付ける太陽に向けたスティールは。


「ロイム先生、水くれ」


チビチビと飲んでいたロイムは、まだ昼下がりで水場までは長いのにと思い。


「嫌です。 スティールさんだって朝にたっぷりと汲んだじゃ有りませんか」


両サイドの腰にぶら下った水袋を萎ませているスティールは、ギリリとロイムを細めで睨み。


「鎧がアチ~から、直ぐに喉が乾くんだよっ!!! 腑抜けの魔法遣い様にはわかるめぇ~に」


ロイムは、最近色々と修羅場に行き当たり。 少しづつ強く成り始めて居るのか、プイっと横を向いて。


「ど~せ“腑抜け”ですよぉ~だっ!!! 腑抜けは、お水がいっぱい必要なんです~。 絶対に上げませんよ~だっ!!」


スティールは、クワっと目くじらを立てて怒り出し。


「おんどれコノ野郎ぉ~、アハメイルじゃ~女3人相手に遊び回ってた絶倫エロガキがっ!!!」


言われたロイムも、怒った顔でスティールを見て。


「好きで成った訳じゃナイよおおっ!!!! 最初は、自分がその気だったクセにっ!!!! ウィリアムと二人で、助けた女性の所にバックレてた変態に言われたく無いよっ!!!!」


スティールは、歯軋りをして。


「なにおおお~、この生意気なガキンちょがあああっ!!!」


その二人の喧嘩を、止める素振りも見せないクローリアは、引き攣った笑顔で。


「また・・・ですか・・。 今日で・・何日目?」


横で、必要な事以外にエネルギーを使いたくないアクトルは、完全に二人を見ずに。


「4日目だな」


ジュリーの事件を終えたウィリアムは、休む間も無くして旅立った。 アハメイルに居たくなかった。


アクトルは何も言わないが。 クローリアやロイムが旅出てから良く口にするのは。


“ウィリアムとスティールさんって、仲が良くなったね”


である。 何気にウィリアムにライバル意識を見せたスティールだが。 あのジェリーの一件以来はいい仲間に成った。 スティールは、人には見せぬが。 心ではウィリアムに感謝しているのであろう。 ジェリーは死んだ。 だが、安らかに・・心残しを減らして死んだジェリーの最後の笑顔を、スティールは忘れていない。


激しく掴み合ってお互いの顔を引っ張り合う二人を見たウィリアムは、ラビン氏と二人で大笑いし。 擦れ違う馬車の御者に見られてもお構いなしだった。


さて、世界で最も大きく、人口の多いフラストマド大王国の交易大都市アハメイル。 そして、商業で成り立つ商業国家マーケット・ハーナスの首都ヘキサフォン・アーシュエルは、幅広い整備の行き届いた街道で繋がっている。 この馬車で4日。 徒歩で8日から10日の間の道のりは、お互いの両国の兵隊や傭兵が巡回する警備区域。 目立った強盗事件や盗賊の被害は少なく。 安全な道だ。 


しかも、途中にブルジョミンと言う国境交易都市も有り。 旅人には旅のし易い道の一つだった。 ただ、夏場に入ると毒虫や毒蛇の被害は多く。 寝る時に虫除け・蛇避けの香を焚くのは必要らしい。


少し乾燥する草原に、疎らに広がる木々が街道の周辺の様子だが。 時折腹を空かせた黒ライオンや疣ハイエナがうろつく事も有るらしく。 身を守る物や、数人で固まって旅する様にと呼び掛けられるのもこの時期らしい。


これから夏本番と云う季節の中で、喧嘩するロイムとスティールを持つウィリアムのチームは益々と暑苦しい限りだ。


この日の夜は、国境交易都市のブルジョミンに到着した一行。 スティールは、宿の手配も中途半端に、パブに飲みに消え。 残りの5人で東屋と成っている木造レストランにて楽しく食事した。 夏でも、魔法を使用する特別なアイテムの御蔭で、冷たく食物を保存できるこの最近。 レストランでは、随分と季節の物を長く客に提供出来る様に成ったらしい。 一昔は、痛んだ物でも、火を通して客に出していたが。 最近ではそんな店も少なくなって来て、味がいい。 


だが、次の日。 旅立ってから夕方。 雨が訪れてからは、首都ヘキサフォン・アーシュエルまでの間は断続的な雨と曇りの連続で。 スッキリしない旅は、丸々5日を掛けたノンビリ旅に成ってしまった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




生暖かい南風が吹く。 天候は、雲の多い晴れ。 空を鳥が飛んでいる。


「まあ、凄い行列ですわ」


クローリアは、街道がレンガ敷きに変わる頃には、長々と荷馬車が行列を成して遅々と動かない様子を目の当たりにして驚いた。 ラビン氏を加えた一行は、ブルジョミンを発って6日目の朝遅くにこの光景に当った訳だ。


ウィリアムも、初めて見る光景だ。


「噂に聞いてたけど、流石だなぁ~」


レンガ敷きに街道が変わるのは、首都ヘキサフォン・アーシュエルに近い証拠であり。 マーケット・ハーナスの町や村は、国の南側から国土中央までに、首都を中心として扇状に点在している。 北側は森と沼地と草原が入り乱れて広がる大自然地帯なのだ。 大体、近隣の村や町は、首都から離れても3日程ぐらいまでの場所に在る。 だから、他国から来る荷馬車と、毎日出荷される荷馬車がこうして渋滞するのだそうな。


アクトルは、過去に数度この光景を見ている。


「何時見ても動かない行列だな~。 酷い時は、コレが深夜近くまで続くらしいゼ?」


スティールは、前髪を掻き上げて。


「確か、年の暮れ間際に行われる祭りの時は。 祭りが始まる3日前から、人や荷馬車の行列が絶える事は無くなるそうだ」


ウィリアムとロイムは一緒の口調で、スティールのその薀蓄の後に続けて。


『ベットで、女が教えてくれたよ』


スティールは、格好付けてそのセリフを云う筈だったのに先を越されてしまい。 シメを言えないままに硬直した。


「クックック・・・」


苦笑いで笑いを堪えるクローリア。


「アホウ。 底が浅い」


と、冷めたアクトル。


「あはははは、キメ台詞を奪われましたなぁ」


他人のラビンにまで笑われたスティールは、額に青筋を浮べ。


「お前等・・・俺のキメを取るなよ・・・」


ウィリアムは、前を向いて並ぶ荷馬車の脇を通りつつ。 石を刳り貫いたトンネルが等間隔に隙間を見せて繋がる道を歩きながら。


「だって、もう聞き飽きました」


ロイムは、杖を地面に付けて。


「底があっさ~い」


スティールは、怒りを含めたニヤケ顔でロイムを見ると。


「おめえ・・、若い女みたいな言い方するんじゃねえよぉぉ・・」


生じ可愛いロイムは、時々女の子の様に見れる。 それがまた可愛いから、スティールは癪に障る。


「フン」


そっぽを向いたロイムを見下すアクトルは、クローリアに寄って。


「なあ、アイツさ。 最近、なんつか~・・。 物怖じしなくなって来たな」


だが、毒虫を見ては大声を上げてアクトルに飛び付き。 毒蛇の群れを見てはお漏らししたロイムを見ているクローリアは、その見解にはイマイチである。


「そ・・そうでしょうか・・。 スティールさんに、慣れて来ただけかと・・・」


二人の目の前で、飛び掛ろうとするスティールを、杖で牽制するロイムが真剣に睨み合って歩いていた。


首都のヘキサフォン・アーシュエルは、【六角の理想郷】と云う意味があるらしい。 国的は新しい国だが、世界に置ける経済的な影響力は強い。 


ウィリアムに窘められて、大人しく成った二人だが。 荷馬車の列を追い越してゆく冒険者や旅人は目立つ。 中には、家族連れも見えるし。 随分と大所帯の冒険者達の一団も見かけた。 荷馬車に紛れて、渋滞に巻き込まれた乗用の馬車から人が出て来ている光景も。


「・・・」


「あ・・」


お人形の様な可愛らしい女の子が、ピンクのドレスを纏っていた。 碧い目の女の子が、ロイムと目が合ってニッコリと笑う。 ロイムも、顔を赤らめてお辞儀を仕返す。


その女の子の乗った馬車を通り過ぎてから。


「ロイムく~ん」


スティールは、ロイムに絡む為に顔を見せる。


「知らないっ」


ロイムは、パッと顔を逸らす。 何故か、顔が真っ赤かである。


ウィリアムは、歩く中で荷馬車から離れて先に首都に向う冒険者達がチラホラ見えるのが気に成っていた。 だがら、ロイムに絡み出すスティールの腕を触り。


「スティールさん、聞いていいですか?」


ロイムから離れたスティール。 顔を平静に戻し。


「ん?」


「荷馬車の御者からお金を貰って離れる冒険者みたいな人が居ますが・・。 護衛ですか?」


「ああ。 馬を扱える冒険者は、以外に好まれる。 もし、御者が病気や異変に見舞われても、雇った冒険者に任せられるべ?」


「ああ・・。 毒虫とか夏風邪とか、色々有りますモンね」


「おう。 流行り病なんかが流行してる時は、馬の技術に足して薬師の技術も荷馬車の護衛に好まれるぞ。 あ~、何ならブルジョミンで請けて見れば良かったな」


頷くウィリアム。


「ですね。 また陸路でフラストマド王国に戻る時は請けましょう。 経験して損は無いです」


スティールは、アクトルと見合ってから。


「俺やアークはどっちの経験も薄いからな~。 ウィリアムを考えると、仕事の幅は広いぜ」


アクトルも、今まで護衛の仕事は傍目から見ているだけの立場だった。 だから、


「確かにな~。 最近、地道な仕事してないしな~」


と、金を受け取る護衛をして来た冒険者を見た。


他愛無い雑談交わし、一行は首都の入り口である門前に来た。 大きく壁に画かれた船の模型の様な石像が壁に立て向きで、門を入る者に後尾を向けている。 その船に丸で乗り込む様にして門が開かれ、トンネルが続く。


ウィリアムは、その面白い門を見て微笑んだ。


「“渡る先に世界が有る。 未知を求めて船旅は始まった”。 オルボレンノの詩の一説の様ですね」


ウィリアムが何を言い出したのか解らずに、ポカ~ンとするチームの皆。 なのに、ラビン氏だけはウィリアムの脇に来て。 先に門に入る人々を見ながら。


「教養があるの~。 マーケット・ハーナスの国を作るべくして船旅に望んだ商人オルボレンノの詩を知っとるとは」


ウィリアムは、門の船の石像を見上げて。


「確か、オルボレンノと云う人は、自由な商売が出来ずに貴族が利権を独占する社会を嫌い。 誰の土地でもない未開の土地を目指して旅に出たんですよね。 そして、西の大陸や東の大陸を歩いて、遂にこの地に辿り着いた」


ラビン氏は、何時ものさばけた雰囲気では無く。 幾分気持ちを込めた瞳で門を見上げ。


「そうじゃ。 貴族の支配の無い。 新たな国を作ると此処に船を停めて。 まだ未開の森林を切り開いて村を作った。 彼は、村を作って死んだが。 その子供達に意志は託されて、貴族の専横から逃れて来た商人の拠り所と成ったその村は、何時しか町と成り。 そして、都市と成り。 フラストマド大王国の聡明王ブリュナーに認められて国として独立した」


感慨深く語り合う二人の世界に、ロイムは呆れて。


「後ででいいじゃん・・・」


アクトルは、腕を組んで。


「男のロマンだな~」


スティールは、横を向いてボソッと。


「女だらけのハーレムが作りてえ~」


クローリアは、微笑ましく思える。


「男性って、何時も夢を見ている子供の様な所がありますね」


スティールは、クローリアにいきなり近づいた。 エロい手つきで肩を掴み、流し目で・・・。


「クローリア、俺の夢をベットで聞いてくれるか?」


呆れ笑いのクローリアは、本気で杖を握り締めた。


“ゴキンっ!!!!!”


何か硬い物を殴る音が響き。 門に向って来た人々は、デカイ瘤を作って倒れている男を目撃する。


「おおお・・・ホ・・ホンキかあ・・・」


スティールが、呻くのを見ないロイムは無視して。


「ヘンタイ」


アクトルも、見る気も起きずに。


「進歩なね~な~」


ウィリアムとラビン氏は、全く眼中に入れてない様子で。 マーケット・ハーナスの歴史を感慨深く話し合う。


「なにあれ・・」


「さ~、おかしい人らしいゼ」


「陽気かしら・・・」


「まだシーズンじゃないさ」


「先駆け?」


「かも・・」


・・・・。 スティールの行く所、人目を忍ぶのは無理な様だ。


さて、そんな入り口から入ってトンネルを抜けると・・・。 外観の様相が派手に見える建物の街並みがいきなり目に飛び込んで来る。 屋敷なのに、森ををイメージした緑の塔を束ねた様な建物や。 大きな大樹をイメージした館などが見える。


「うはあ・・・、スンゴイ景観だあ」


ロイムは、魔法遣いや芸術家が多く住む場所には、派手に変わった屋敷が立ち並ぶと聞いていただけに嬉しい。


レンガ敷きの大通りには、左右の端に仕切りの為の細い槍形が柵状になって大通り並びに面し。 出店が、その柵を背にして道脇のベンチの横に店を広げている。 更に、二重の柵の向こう側には、カラフルで形様々な屋敷が左右に広い庭を持って存在する。


ウィリアムも、変わった建物ばかりに目を奪われ。


「芸術区から入ったみたいですね」


ラビン氏も頷き。


「この街並みを見ると、“訪れたな”と思うよ」


このヘキサフォン・アーシュエルには、六角の各方面に出入り口の門が存在し。 この西側下の海に近い門は、最も華やかな街並みの芸術区に入る。 建築家とデザイナーが美しさと奇抜を競い。 博物館や金持ちの自宅、学校や孤児院などを作るときにその腕を振るってこう成ったとか。 このマーケット・ハーナスでは、ストリートチルドレンが居ない唯一の国だ。 孤児は、商人達の出す助成金で育てられ。 きちんと教育も受けれる。 中には、親が育児を放棄する例も在るそうだが。 それでも分隔てなく皆一緒に育つらしい。


孤児を放置すれば、犯罪の温床と成るのを理解する商人ならではらしい。 寧ろ、その孤児から偉大なる魔法遣いも生まれているし、有名な商人も。 


“希望を消す事は罪である”


初代、マーケット・ハーナスの商人王と成った者の言葉だそうな。 そうゆう精神が、この街を強力に支える力と成っている。 アクトルもクローリアもロイムも、街並みに目を奪われていた。


その時だ。 ウィリアムが、そっとクローリアの横に移動する。


「・・・」


スティールも、クローリアの後ろに移動し、横目に後ろを見た。


「あっ・・・」


みすぼらしい雰囲気の中年冒険者と見受けれる男が、クローリアに近付くのを阻まれて驚き道の向こう側へ。


「フン。 セコイ」


と、スティールがクローリアの背後からアクトルの横に移動し。


ウィリアムも、頷く。


冒険者の中には、性格が捻れてスリを覚える者や。 力ずくで女性の身体を触る輩が居る。 ウィリアムもスティールも、恐らくはそんな冒険者を多く目にしているのであろう。 急激にクローリアに近付く男の気配を感じたのだ。


本人は、全く気付かずに街並みを見ている。


さて、そんな華やかな通りを行くと。 花柄のレリーフが美しいアーチゲートを潜る。 行き止まりは、巨大な船を噴水の上に置いたモニュメントの六角形をした大公園。  草花に囲まれた公園には、幼い子供が母親と散歩に来ていたり、老いた老人達が杖を手にベンチで座って話していたり。 噴水の日陰には、相手を待つのか若者がソワソワした素振りで周りを見ていたり。


道なりに入って来て、此処に来る冒険者達は街の地図に向う者在り。 目的が在るのか、南側のゲートに向う一団や。 荷馬車に連れ添って、北東方面のゲートに向かう者達も居る。 行き止まりであるが、各方面に向かうゲートはある。 6方に分岐する交差点が、広い公園に成っているのだ。


此処で、ラビン氏がウィリアムの前に出た。


「ウィリアムさん、此処でお別れ致しましょうか。 行く所も在りますから」


「あ、はい。 此処までご一緒出来て嬉しかったです」


ウィリアムは、素直な笑顔を見せる。


ラビン氏も微笑み、皺の多い色黒の顔をスティールやアクトルにも向けて頭を下げ。


「皆さん、どうもありがとう」


アクトルは、背筋のしっかりしているラビンを見て。


「じゃあ、達者で」


スティールは、腕組みすると。


「残念だ。 最後に一緒に飲みたかった」


慇懃に挨拶をするクローリアやロイムと握手して、ラビンと云う老人は北東側に消えて行く。


此処で、初めてウィリアムはラビン氏の行く背中を見つめて。


「随分と不思議な人ですね。 背中に目が在る様だ・・。 誰かに狙われて居るのかな?」


ウィリアムの顔を、全員が見た。


スティールは、踏み込んで。


「どうゆう事だ?」


アクトルは、去って行くラビン氏の背中を細めた目で見て。


「犯罪者か・・?」


すると、ウィリアムは目を瞑って首を左右に。


「いえいえ。 色々ですよ。 仇持ちかも知れませんし・・、誰かに追われているのかも。 暗殺者は、その家業から足を洗ったら同じ街に長居しないと云います。 たしか、薄汚い殺し屋などの犯罪組織から逃げた人は、何時も命を狙われるとか・・。 あのラビンと云う方は、何か理由が在るんでしょうが・・・、凄く辺りの気配を察している」


言葉の最後で、ウィリアムは人ごみに消えたラビン氏の影を追った。


スティールは、消えたラビン氏の行った方を見て。 荷馬車が行き交う光景を瞳に映しながら。


「そんなモンかね」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






ヘキサフォン・アーシュエルの北。 北東と北西の境から、南西に掛けては住宅と商業地が混同する賑やかな所だ。 しかし、飲食店や宿などと云った店は、主に港に近い南東から東側に固まっている。 だが、他の都市に比べるとその明確な境は無い。  

 

また、建物が密集してもまだ人が多く居すぎる為か。 樹木の見えるのは公園や建物の庭などのみで。 行く道にすら緑は少ない。 どうやら、人工過密状態ならしい。


ウィリアム一行は、大公園から南のゲートを潜って。 港の方面への往来客と擦れ違いながら、途中の脇道へ入って北へ向かう様に東周りで街並みを散策した。 


裏路地ですら、人の通りが絶え間なく。 小ぢんまりとした専門店や、薬師・医師の開業が見えたり。 店はどれも家と一対のタイプで、別々に出来る程の土地の余裕が無いのを伺わせた。


さて、そんな緩やかな昼前。


「な~、ウィリアム」


アクトルが、コソコソ歩くボロ姿の冒険者などに目を移しながら声を掛けた。


「ハイ?」


「あ~、さっきのラビンってオッサンの事だが」


「はい」


「お前、何で何かから逃げると思うんだ?」


アクトルは、ウィリアムが暗殺闘技を使うのは、どうしてか・・・。 其処が気に成ったのである。


潮風が路地に吹き込み、何処かの店から出されたいい匂いを連れて来た。


ウィリアムは、路地の十字路で左右を見たりして飲食店か宿を探しながら。


「俺がまだ12・3歳の頃です。 良く手伝いに行っていた酒場に、新しい働き手が来ました。 たった4ヶ月だけ・・、店で働いて消えた男性です。 歳は50近い感じで・・・凄く暗い印象でした。 でも、その人の作るカクテールは・・哀愁の味わいがするホンモノでした」


仲間の皆は、ウィリアムが語り出した話に耳を奪われた。


その男性の名前は・・・仮にジョーとしておこう。 その中年の盛りも終りに近いジョーは、サッパリとした顔付きが本当に暗い男性だった。 無口で、必要な事以外は気に留めない。 だが、その作る酒の美味さに客が集まった。 身のこなしもスマートで、働く女性からも受けが良かったが。 まったく浮いた素振りは見せない男性だった。


ウィリアムは、我先から人の過去を聞かない若者で。 相手を見て付き合い方を決める。 要領がいいから、そのジョーが次に何をして欲しいか解る。 語らない分、動きを見ているだけでパターンで覚えた。 手伝うのに、会話を必要としないウィリアムとジョーは、ジョーが消える一月前には仕事では絶妙なパートナーに成っていた。 


さて、ウィリアムは毎日では無いが。 酒場に顔を出した時には、必ず店先でジョーを見送ってから帰る。 どんな日でも、異常なまでに辺りに警戒をして行くジョーが、不思議に思えたのだ。 


そして、あの日・・・。 そう、ジョーが姿を消す前の日の夜である。


その兆候は、その日に在った。


ウィリアムは、夕方に酒場に出向くと。 何時もは静かに澄ましているジョーが、妙に客へと目を配るではないか。 しかも、時折。 冒険者風の客や、少し生活の荒んだ様子の見える客、気配が不気味で何の仕事をしているのか良く解らない様な怪しい客には、失礼に囚われてもしょうがない様な視線をチラリと見せる時が・・・。


“何か在る・・・”


ウィリアムは、そう直感した。 この時、もうウィリアムはスカウトとしての暗殺技術を見に付けて居たのだろう。 初めて、ジョーに興味をそそられて真夜中のジョーを尾行したのだ。 いや、様子の違うジョーを心配して、そうしたい衝動に襲われたと云っていいかも知れない。


その日は、曇り空で月明かりも星明りも無い蒸し暑い夜中だった。


酒場を後にしたジョー。


それを尾行するウィリアム。


ジョーが何処に住んでいるのか・・・。 ウィリアムは、何も知らない。 尾行するジョーは、先ずは港方面に向かい。 細い路地を縫う様に中央公園へと戻る。 ウィリアムは、後ろから尾行していて。 ジョーの背中に目が二つ付いているのではないかと思うほどに背後へ集中しているのを感じた。


“ホンキでも、悟られるかも・・・”


ウィリアムは、汗などあまり掻かない方なのに。 その時は、ねっとりとした油汗を額に浮かべた。 尾行に遣う神経の張り詰めた様子が、其処に出ていたのかも知れない。


さて、尾行は続き。 ジョーがスラムの入り口に差し掛かった時だ。 俄に建物の間から膨れ上がる様な殺気がジョーを取り囲む。 ウィリアムが、ハッとした瞬間。 黒尽くめの武器を手にした曲者の集まりが、四方八方からジョーに襲い掛かったのだった。


秘かに忍ばせていた短めのショートソードを、杖に仕込んでいたジョー。 闇の中で、決闘が始まった。


ジョーを襲う相手は、誰もが覆面をしている。


ウィリアムは、この相手方も殺しのプロで、腕には覚えの有りそうな一団と看破。 直ぐに、スラムの路地に落ちるゴミを拾って、隠れながらにジョーの手助けをするべく曲者達に投げ付けた。


ジョーが斬った相手は、8名に及び。 斬られて手負いに成った4名は逃げた。 その間に、2人・3人の気配は戦わずして消えている。


そして、戦いを終えた後・・・、ジョーは何者かが助太刀したのを感じていて。 


“何者だ・・。 俺を助けるのは・・”


と、小声を。


ウィリアムも、尾行処では無くなったので姿を現した。


ウィリアムの姿にジョーは驚いた。 まだ、当時のウィリアムは12・3歳の少年なのだ。 だが、ジョーはもうその時点でコンコース島から離れる決意をしていたのだろう。 ウィリアムに、礼とばかりに昔話をしてくれたとか。


ウィリアムは、此処まで語った処で。


「いい感じの宿が在りますね。 風呂と食事・・出来るみたいです」


と、低い建物の集まる変則な十字路の角に伸びた、8階建ての黒いレンガの外装をした宿屋を指差した。


凄まじくいい所で話を中断され、スティールはウィリアムににじり寄って。


「宿なんかいいからつ・づ・きっ!!!!」


ウィリアムは、ぶりっ子のように。


「お腹減ったぁ~」


スティールは、両手をワナワナさせて。


「んな言い方すんなっ!! お前は美人局して夜のベットインを伸ばす飲み屋の女かっ!!!」


アクトル・クローリア・ロイムは、スティールの引き合いが笑えない。


「・・・・」


思わず、ドヨ~ンと半笑い。


仕方なく。 いや、宿を探していたのだたからと、その宿に入って値段を聞いた。 一泊、風呂に入る自由の値段で35シフォン。 食事は、レストランにての別途料金だとか。 ウィリアムは、女性のクローリアを個室にして、残りは一部屋に。


話の続きは、食事の間でと云う事に成った。 

次話、予告。


宿に落ち着いたウィリアム一行は、ウィリアムの語る話の後に昼下がりの午後へ。 仕事を捜してみようと向うウィリアムとクローリアは、斡旋所で変わった人物と出会う。


次話、数日後掲載予定


どうも、騎龍です^^


いやはや、なんやかんやと更新が遅れて、ウィリアム編が12月に食い込んでビビっています^^; 


年末年始は、ショットガンの様に毎日更新しようかと考えてたのに・・・、大丈夫か? と、自分に言い聞かせて、ウィリアム編をぶっ飛ばして掲載して行きます^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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