二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~
セイルとユリアの大冒険 1
≪強き二人≫
仄暗く藍色のゴーレム、“ケルベロスストライカー”と対峙したセイルとクラーク。 2対4本の腕には、鈍く錆た剣が握られていた。 骨の剣では無い。 金属の剣だ。 顔は暗い藍色の骸骨だが、頭には二本の太めな角が生えていて、オールバックの髪の様に後ろへと伸びている。 恐らく、頭部を守る為の物か。 空洞の瞳の中は、暗黒のエネルギーで満たされ。 眼球の様な赤い光が浮んでいる。 骨の身体の高さは、クラークと余り変わらないが。 肋骨に絡まる様にして、黒く細いチェーンの様な物がこのモンスターの上半身をびっしり覆って。 見た目には、鎧を着ている様な印象を受けた。
「行くぞっ!!!」
「おうっ!!!」
対峙する2人の斜め脇では、掛け声を上げたマガルと。 それに応じたボンドスを中心に、ヘルズファイターとの戦いが既に始まり出した。 早くも、囲んだイクシオ・マガル・ボンドス・エルキュールの面々の中で、動きの鈍いエルキュールがヘルズファイターに標的にされかかって。 ボンドスやマガルが焦っている。
(強いな・・。 何処までも静かだ・・・)
背中に冷や汗を流すクラークは、戦う声が湧き上がる横を見れない。 目の前のゴーレムが、シッカリと此方を見ている。 何か、小石ほどの物音でもゴーレムと自分達の間に落ちたなら。 この緊張の幕が破られて戦いが始まるだろう。 2人並ぶセイルとクラークとゴーレムとの間には、他を寄せ付けぬ緊張が走っていた。
エルキュールに斬り掛かったヘルズファイター。 その攻撃を受け止めたエルキュールは、黒きゴーレムの剣捌きが早い事に驚きながら。 受け止めた剣を押されまいと必死に支えた。 背の高いヘルズファイターに対しては、セレイド以外では誰もが見上げる形で戦う事を求められる。 至近戦で戦うと成ると。 その上から振り下ろされる剣の重みは相当だ。
「こらあっ!!!」
ボンドスが、黒いヘルズファイターの頭を一撃せんと脇から斬り掛かるも。 ヘルズファイターはエルキュールに向けた剣でエルキュールをいなして突き飛ばし、ボンドス攻撃を左右の手の剣で受け返して斬り込んで来る。
マガルが加勢にとばかりに斬り込むが、剣で受け止められて弾き返される。
「そらっ、そらっ、そらっ!!!」
イクシオが、鞭で骨の身体を打ち付けても、全くダメージを受けた様子は無く。 足に鞭を絡ませても、ヘルズファイターはイクシオなど物ともせずして逆に引き摺ろうとする始末。
「うおおっいっ」
イクシオは、倒れそうに成って鞭を緩めて解く。
「魔想の力よ、我が敵を緊縛する蔦となれ」
キーラが、皆の離れた隙を見つけて補助の魔法を遣って動きを止めようとした。 だが、ヘルズファイターに絡まった魔法の紐だが。 縛る様に動かせられない。 幻惑呪術の適正が薄いキーラでは、自由に紐を動かす為には、相手が弱ければ弱いほど抵抗も少なくすんなり縛れるのだろうが。 このヘルズファイターは、そんな一筋縄で行く相手でもなかった。
「このっ!!!」
エルキュールが右から。
「おらあっ!!!」
ボンドスが左から。
「うぬっ!!!」
マガルが正面から。
三方から斬り込んだ。
だが、ヘルズファイターは、左右の剣でエルキュールとボンドスを受け止めて。 正面から来るマガルには蹴りを繰り出して動きを制してしまう。 マガルの動きが止まると、受け止めた左右の2人の武器を押し返す。 そして、狂人的に勝ち名乗りの様な仕草を見せて身体を背伸びさせて、キーラの絡めた魔法の紐すらも打ち消した。
「ああっ」
魔法に抵抗されて、維持していたキーラの集中が切れてしまい。 全身から脱力する感覚を覚えてキーラはヨロめいた。
「キーラッ!!!! 大丈夫っ?!!!」
剣を弾き返されて後退したエルキュールが、パッと振り返ってキーラを見る。
「チッ!! なんてヤツだっ!!! 魔法を抵抗して掻き消しやがったゼッ」
こんなに強く魔法を掻き消すのを始めて見たイクシオは、魔法生物が魔法に対して高い抵抗能力を持っているのだと初めて認識した。
ボンドスは。 途中までは互角に戦っていたとは云え、こんなに強いゴーレムを一人で倒したセイルに脱帽したくなる。
「良くあの若いのは一人で戦えたモンだぜッ!!! こっちは5人がかりだってのによっ!!!」
息の上がるエルキュールは、痛む肩を庇う様に見てから。
「やっぱり、クラークさんがリーダーと認めるだけ有るわ・・。 今更ながら、偉そうにした自分がなっさけない・・」
離れた場所にて、なんとか立てる様に成ったエルザが。 真っ青の顔で、繭を顰めて。
「遅い・・っての・・・・」
だが、見ているユリアは、杖を本当に杖代わりにして。
「でも・・セイル達は・動かないね」
エルザも、対峙しているだけと思うから。
「ほ・・ホント・・ね」
しかし、見ているセレイドは、やはり戦士として見れるのだろう。
「違う。 もう、戦っているぞ」
ユリアもエルザも、顔に緊張の汗を流すセレイドを見る。
セレイドは、セイル・クラークとケルベロスストライカーを見て。
「斬りあう間合いの手前で・・両者が・・実力を秘めて睨み合っているのだ・・。 あああ・・・あの2人も強いが・・。 ケルベロスストライカーと云うモンスターもなんと強い・・・。 丸で、剣の匠の様な気配がする。 モンスターなのに・・信じられない」
ユリアとエルザは、派手に動かない二人とゴーレムが、静かに戦っていると聞いて驚きだ。
(セイル・・・)
強引に冒険に連れ出した自分だが。 まさか、セイルがこんなにも強いとは知らなかった。
そして、セイルとクラークが各々武器を構えた。
セレイドは、目を細めて。
「動く・・・」
エルザとユリアは、息を飲んで2人を見守った。
いきなりケルベロスストライカーが2人に斬り掛かった。 一気に肉薄し、左右の2本づつの剣を同時に振り込んだ。
「ぬぅっ!!!」
セイルは、左側の斬り込みの下を受け払ってから、上の剣をギリギリで受け止める。 背丈が無い分だけ二振りの剣同時を受け止められなかったのだろう。
「うぐう」
クラークは、右の斬り込まれた剣二振りを槍で下段を、スピアーで上段を受け止めた。 凄い剣筋の鋭さを見せるケルベロスストライカー。
セイルは、打ち払った左下段の剣がまた動いたのを見て、受け止めていた剣を受け流しに噛み合いを外し。 下段の薙ぎ払いを打ち返す。 ケルベロスストライカーは、右の両腕で、グイグイ力を込めてクラークと押し合いをしながら、左の腕ではセイルを狙う。
セイルが、もしその身を引いたなら、4本の腕の剣がクラークを襲うだろう。 この戦いは、コンビネーションも要求される様だ。
クラークとの押し合いに見切りを付けたケルベロスストライカー(以下ストライカーと省略)は、クラークの飛び退きに合わせて右脇に退いたセイルを確認。
“来い”
とばかりに、歯を噛み鳴らして剣を構えた。
「・・・」
「・・・」
お互いに見合ったセイルとクラーク。 先にセイルが頷くと、クラークは大きく頷き返した。
先に動いたのはセイル。 ストライカーに俊足で走り込み、一気に頭を斬ろうと掬いに斬り上げるも。 剣を受け止められて、残る3本の剣で斬り返されて、屈み・掻い潜って横に逃げる。 其処に、クラークが突進して、隙を突こうと顔を狙うのだが・・。 素早い連続の突きも受け返される。
(今だっ)
セイルは、脇からストライカーに高々と飛び込んで、頭蓋骨を砕こうと剣を振り下ろす。 しかし、これもストライカーの右上手の剣に受け止められた。
「うおっ」
クラークが、ストライカーの下からのカチ上げを喰らって槍ごと後退した時。 ストライカーはセイルを殺すべく回し斬りに転じて背後に右下腕の剣と左上腕の剣を水平に振り回す。
「セイル殿っ!!!」
クラークが声を上げる時、同時にセイルの。
「うりゃっ!!!!!」
と、云う掛け声が。 見れば、空中で身を丸めたセイルは、左上腕の剣をかわし。 次に迫り来る右下腕の剣の斬り付けの自身の剣を防ぎに当てながら、その剣の刀身を足場に後方へと逃れる。
「す・・・すご・・・」
驚きの声を出すシェイド。 アヘアヘと床にヘバったサハギニーも、
「や・・やるねえ~・・」
セイルは、床に背中から着地して2回転。 手も付かずして立ち上がる。
「・・・・」
セイルの目と、ストライカーの目がガッチリ噛み合った。
≪時間との戦い≫
外は、もう夕暮れだった。 子供達の帰りを必死で祈る母親達が、寺院に集まっていたり。
斡旋所は、この日はもう閉鎖されて。 中では、主と父親達が会話も無い暗がりの裏部屋で冷めた紅茶をテーブルに残している。
封鎖区画の奥の門を潜ったポリア達は、モンスターとの戦いを逃れて、それぞれのチームの生き残った者達の寄せ集めに出会う。 瀕死の者が数人居て、手当てに負われてしまった。
その関係者達の中で、事態に直面し事実を知るセイル達は、何時復活するとも解らない“ノーライフロード”と呼ばれた怪物に怯えつつ戦いを繰り広げていた。
ヘルズファイターと戦う5人は、連戦の疲れが出始めて大苦戦している。 もう、単騎で十数合斬り合ったマガルは肩で息をし。 死に物狂いの斬り込みで、ヘルズファイターの肋骨を5・6本斬ったエルキュールは、剣で突き飛ばされた上に広間の縁に背中を打ち付けて気絶してしまった。 セレイドが、エルザの元までエルキュールを引っ張って行く。
「どああっ!!」
エルキュールを庇って近付いていたイクシオがもんどりうった。 イクシオとヘルズファイターの間に透かさず入ったボンドスは、額・頬・腕に薄い切傷を見せて血を流している。
「大丈夫かっ?!! リーダーっ?!!」
マガルと同時に斬り込んだボンドスが、声だけ飛ばす。
イクシオは、身体半身だけ持ち上げて。
「ああ・・・でも・・鞭がもう使えない」
幾度とファイターの動きを抑止するのに絡ませた鞭が、随分と短くなるまで斬られてしまった。
この時、渾身の斬り返しで。
「そりゃあああっ!!!」
ヘルズファイターの左手首を斬り落としたマガル。
ボンドスは、両手の斧で受け止めるヘルズファイターの右腕の剣を全力で押し返し。
「上等だっ!!! 後は、俺等で倒すっ!!!!! うおおおおおおおーーーーーっ!!!!」
勝機を見出したとばかりに、黒いゴーレムであるヘルズファイターに襲い掛かった。
だが。
キーラは、ハッと何かに気付いてイクシオに駆け寄った。
「イクシオさんっ、あ・・悪魔が居ませんっ」
「なにィ~っ」
キーラと2人で、奥の石橋や空中を見回すのだが・・・。 何処にもギャリスパが見当たらない。
其処に、精霊達の加護を受けてなんとか動ける様になったユリアが来る。
「ねえっ、悪魔が今・・・奥に消えたよっ」
キーラとイクシオは、互いに見合って奥の石橋に向かって急ぎ始める。
「セイルっ!!! ギャリスパが奥に消えたゼっ!!!」
イクシオは、走り出しながらセイルに言った。
その時、セイルが逆に。
「危ないっ、イクシオさんっ!!!!」
イクシオは、ハッとした。 視界の中で、ストライカーが跳躍し。 自分の行く手を塞ぐ様に立ちはだかったのだから。
「うおあああああっ」
立ち止まるイクシオに目掛けて、ストライカーが剣を振り向ける。
「うがあああっ!!!!!」
右肩をザックリと斬られたイクシオ。
「あっ!!!!」
見ているセレイドやエルザ達は勿論、ユリアやキーラも声を出した。
其処に、セイルとクラークが突撃してきて、クラークがストライカーの左側から槍とスピアーで串刺し突きと打ち払いを見舞ってイクシオへの追撃を阻み。 セイルが高く跳躍して隙の見えた右上腕の腕に斬り込んだ。
「イクシオさんっ!!!」
キーラが、後から来たユリアと一緒に出血夥しいイクシオを引っ張り離す。
セレイドは、遂にヘルズファイターの頭蓋骨をボンドスが打ち壊したのを見て。 斬られたイクシオを救うべく広間にヨロめきながらも走り出した。
「イクシオさんっ、気をしっかりっ!!!!」
キーラが、引き摺りながら声を掛ける。
「うあ・・・あああ・・・」
イクシオは、意識は有る。 右肩を抑えながら、テンガロンハットを落としたオールバックの髪を乱して頷き返した。
「イクシオっ、大丈夫かッ!!!」
野太いセレイドの声がイクシオに届いた。
「終りだあああああああっ!!!!!!!!!!」
マガルが、半壊して尚も動こうとするヘルズファイターの顔半分を、大きく振り被った剣を叩き降ろしながら吼えた。 唸りを聞かせた剣が、半壊の頭蓋骨を粉々に砕く。 ボンドスは、終わったと思ってその場に崩れた。
セイルは、この時にストライカーの右上腕の剣を魔法を込めて斬り落としていた。 小規模の炸裂が巻き起こり、斬られた剣を持つ腕は炸裂の衝撃で広間の縁を越えて消える。
クラークも、左腕の剣撃を打ちかわして、セイルの後退に合わせて間合いを作った。
ストライカーは、一度斬られた右腕を見て。 それから2人を見て構え直す。
セイルが、先に。
「悪魔が・・居なくなりましたね」
クラークも、短く。
「うむ」
2人は、身体の彼方此方に衣服を切り裂かれて血を滲ませていた。 極度の緊張の中で、紙一重の攻防を繰り広げている。 研ぎ澄まされた感性は、余計な物事に気を向ける事は無い。
クラークが、
「下を受け止める」
と、言えば。
セイルも、
「了解、狙います」
と、返すだけ。
先に、セイルはストライカーに走り込む。 ストライカーと、一騎で打ち合い始めた。 右下腕の斬り払いを受け流し、左上腕の斬り込みを半身でかわす。 左下腕の斬り上げを受け止めた時、背後からクラークの咆哮が湧き上がる。
ストライカーと見詰め合ったセイルの顔に、不敵な笑みが零れた。 セイルは、後ろに高く跳躍した。
ストライカーの視界に、突如として突撃して来るクラークが見えた。
「うおおおおおーーーーっ!!!!」
突撃したクラークの槍を、ストライカーは左下腕で右に受け流す形で受け止める。 擦れる古びた剣と槍の勢いで、ストライカーはズズッと後ろに引き摺られた。
更に、クラークがスピアーでストライカーの顔を目掛けて串刺しに。 ストライカーは、右下腕で左へ逸らす様にその攻撃を受け止めて、両者の武器が折り重なる様にお互いの肉薄した間に集まった。 当然、がら空きのクラークの身体へ、ストライカーの左上腕の剣が振り込まれる筈・・・。
いや、其処にはまたクラークの背後から飛び込んで来たセイルが居る。 ガキンと鈍い音を響かせて、クラークの頭上でセイルの剣とストライカーの剣が噛み合った。
完全に、ストライカーの視線がセイルに移った一瞬に、クラークは一気にストライカーを押し込みに掛かり。 負けじと押し止ろうとしたストライカーに先んじて、両手の武器を返して槍とスピアーを捻り込む様にストライカーの肋骨へと差し込んだ。
其処へ、ストライカーの脇に着地したセイルが、目に紫のオーラを浮かべてストライカーの左上腕・下腕の付け根に当る脇に狙いを定めて飛び込む。
「唸れっ!!!! 魔法の波動よおっ!!!!!!」
セイルの掛け声が、波動の様に当たりに響き渡る時。 セイルの剣に纏わり付いた青白い光が燃え上がる炎の様に湧き上がった。
もう限界のクラークは、ここぞとばかりに力を込めて槍とスピアーの揺さぶりからの突き上げる。 グイグイと捻り込まれる槍とスピアーで、ストライカーの一番下の肋骨が罅割れ、鎖の様な黒い糸が千切れ弾けた。 ストライカーは、とにかく煩いクラークを殺そうと、グッと一歩下がって槍とスピアーを払い除け、残る3本の剣を振り上げた。
セイルの声に、気絶しているエルキュールと怪我の治療に専念していたセレイド以外が戦いを見ていた。 飛び掛って振り上げるセイルの剣が、燃え上がる様な魔法のオーラを倍以上に伸ばして槍の様で在った。 クラークに剣が振り下ろされる前に、ストライカーを脇から唐竹割に斬ったセイルの剣。
「殺ったか・・・」
クラークは、身を離してピタリと止まったストライカーを見る。
セイルは、
「はあ・はあ・はあ・は・・・」
剣に纏わせた魔法のオーラを消した瞬間に、凄い荒い息を全身でし出して。 ヨロめいて後退しながら床に崩れる。
「セイルっ!!!!」
ユリアが、ビックリして走り出す。
固まったストライカーの様子を、塵に変わったヘルズファイターの間近で膝を折って動けなくなっているマガルも見ていた。
先に、斬り裂かれたストライカーの後ろが床に崩れる。 そして、その上に、倒れる様にしてストライカーの正面側が倒れ込んだ。 甲高い音を上げて、3本の古びた剣が床に散らばり。 ケルベロスストライカーは、ゆっくりと塵に変わって行く。
「た・・たお・・たおせ・・た・・・」
ユリアに看られながら、セイルは呟く。
クラークは、セイルが全力を出し切ったのを見届けた。 手から離れたセイルの使った剣・・・、ケルベロスストライカーを斬った逆方向に刀身が歪んでいる。 剣は、耐え切れなかったのだ。 セイルの魔法のオーラが、剣の変わりに成り。 セイルの集中力が、それを成した。 全身から、疲労の脱力感を覚えて、フラ付きそうなクラークは・・。
(凄い逸材だ・・。 何が何でも、生き抜かなければ・・・先を見る)
と、決意を新たにする。
その時、ユリアやセイルは勿論。 キーラや、エルザまでもがビクンとしてそれぞれに虚空を見た。
急に回復の手を止めたセレイドに、這って近付いて来たボンドスが。
「おっ、おいっ」
しかし、急激に汗を顔中に溢れさすセレイドは、身震いする手を見つめて。
「ダメだ・・・。 目覚めた・・・」
と、呟いた。
≪復活の不死王≫
「ポリアっ!!!!」
「ひィィィ~っ」
突然、マルヴェリータとシスティアナが声を上げる。
「わっ」
暗闇の中、光を放つ水晶のみの灯りだけと成った雪降る迷路の中で、ポリアは2人の声に驚いた。
「なっ、何よっ」
と、振り返って言うポリアに、カミーラが。
「リーダーっ、大変だっ」
と、叫ぶ。
ポリアが、辺りを見れば。 助けた冒険者達の幾人かと。 合同チームで連れてきた僧侶2人が異常に怯えた反応を見せている。
「何・・・何か居るの?」
ポリアは、進もうとする先の道の闇に顔を向けた。
マルヴェリータが、ポリアの脇に来て肩を掴む。
「ポ・・ポリア・・・。 モ・・モンスター・・・モンスターよ・・」
ポリアは、システィアナがゲイラーに抱き付いて離れなくなっているのを見て。
「そんなに凄いモンスター? “ジェノサイスホロウ”や“デュラハーン・ロード”みたいな?」
と、マルヴェリータに問い返す。
急に強張った顔で、蒼褪めるマルヴェリータは首を左右に振って。
「も・・もっと上・・・昔に戦った・・・悪魔みたいな・・」
ポリアは、Kと別れてから初めて自分がリーダーで受けた合同チームの仕事を思い出す。
(まさか・・・また強力な悪魔?)
Kが教えてくれたレクイエムの合唱でバリアーを張る事を思い出したポリア。 システィアナを中心に僧侶を集めて、レクイエムの歌を歌って貰う事に。
計4人の僧侶で謡うレクイエム(鎮魂歌)。 そのバリアーに包まれたのを見て、マルヴェリータは背中の震えを払うかのように。
「ケイとの実践経験って、改めて凄いわね・・。知らなかったら、この雪の中で立ち往生よ」
しかし、ポリアはこのまま進んでいい物か困った。 怪我人や実力の低い者を連れて行っていい物か。
「・・・」
だが、この時にもう危機は現れていた。
セイル達の前に、眠らされた子供達がギャリスパの魔力で操られて現れた。 空中に浮ぶ様な広間の奥に向かう石橋の上。 ゆら~り、ゆら~りと揺らめく様に歩いて立ち並ぶ5人の子供達。
「みんなっ!!!!! 目を醒ましてっ!!!!!」
大声で叫ぶユリアだが。
「げひゃひゃひゃひゃ~っ。 ム~ダ・・ムダなんだよっ!!!! 俺様の魔力で操り人形に成ってるんだ。 お前等の声は耳に入らないのさ」
黒光りする小型ナイフを片手に、ギャリスパが一人の赤い厚手の服を着た女の子にナイフを向けて近付いていた。
立ち上がれないセイルは、クラークに抱えられてその様子を見る。
「や・・やっぱり・・ぜんろく・・つかったの・・し・ぱいだったかな・・」
苦渋の顔のクラークは、セイルに。
「いや、あの時を置いて倒せる時は無かったさ。 ワシも、もうフラフラだもの」
ギャリスパは、顔に勝ち誇った笑みを浮かべて。 その醜い腐乱した顔を喜びに崩した。
「さ~、もう解ってるだろ? ヤツは蘇った・・。 そう、蘇ったのさっ」
ギャリスパは、自分の後ろを小さい手で指差した。
全員の目が、ギャリスパの後ろに向かう。 黒い闇の口を開いた石橋と繋がる開かれし扉の出入り口から、何者かがヌッと姿を現した。
「う゛あああ・・・・」
嗚咽の様な奇声を上げて顔を逸らしたのは、僧侶のエルザ。
「むぐぅ・・」
何かを堪える様に蹲ったのは、セレイドだった。
「あ・・アイツが・・・」
イクシオは、声を絞り出す。 恐らく、この男が昔にこの館の主として生きていた男だと思った。
その男性は。 赤と黒のチェックのナイトローブに身を包み。 艶やかなシルクの黒いマントを流す長身の男性が其処に居る。 真っ白に色褪せた髪は、長く毛先が首元に纏わり付く様に伸び。 血色の無い顔は、死人の様に脂漏化した白過ぎる肌である。 赤々と燃え滾る瞳・・・、だが。 その見てくれの雰囲気には、何処か神々しい様な威厳も見て取れた。
ギャリスパは、背中の羽根をパタパタと忙しく動かして浮き上がる。 片手に、目を瞑ったままの少女の胸倉を掴んで。
「・・・・」
虚空を見つめて立ち尽くすその貴族風の男に、ギャリスパは少女を見せた。
「おい。 お前は、“不死皇王”として蘇ったのだ。 この俺が、お前に長年に渡って魔力を送り込んでやった御蔭だ。 さぁ、このガキの生き血を吸え。 肉を喰らえっ。 魔力を取り戻し、俺と一緒に現世へ出るんだ。 暗黒の世界を創ろうぞっ!!」
この時、セイルはユリアに。
「ユリア・・ちゃん・・え・・・」
ユリアは、パッと振り向いた。
「え?」
セイルは、疲労に気を失いそうな所を堪えながら。
「持って・き・・た・・。 絵・・・、な・・投げて・・。 アン・・ソ・・ニー・・・・さまに・・」
「あっ」
ユリアは、エルザの所に置きっ放しの自分の背負い袋を見た。 ユリアの意志は、ある程度は精霊達とはシンクロして解るのだろう。 シェイドが引っ張り出している最中だ。
「絵を、渡せばいいのね?」
「う・・うん・・。 こっ・心が・・残ってれば・・・・わ・・判る・・ハズ」
ユリアは、そっと動き出した。 クラークの後ろ側にソロソロと回り出す。
この時、シェイドが丸めた絵をなんとか引っ張り出した。
「さあっ、自分で殺せっ!!!」
ギャリスパは、貴族姿の男に少女を渡した。
「・・・」
フリルの付いた手首・襟首のシャツが、少しも色褪せていない。 美しい顔は、確かにセイルと通じて貴公子の様だ。 スカーフの様な白い布をネクタイの様に巻く首元には、この国の紋章である絵が埋め込まれたルビーのネックレスが掛かっている。 男は、渡された少女を見つめて動かない。
「どうしたっ?!」
ギャリスパは、クラーク達をチラリと見て警戒しながら焦って居る様な声を出す。 不死の皇王として蘇った男が、少女を見つめて全く動かない所為だろう。
中腰で戻るユリアの元に、シェイドが絵を重そうに持って飛んで来た。
「ん~ん~、ユ~リ~ア~・・・絵~」
丸めた絵をシェイドから受け取ったユリア。
「ありがとう・・」
小声で言って、シェイドと共にクラークの真後ろに戻る。
橋の上では、ギャリスパが苛立ちを強めて。
「おいっ!!! なんとか反応しろよっ!!!!! さっきから何をボ~っとガキなんか見てんだぁっ?!!!」
と、ナイフを強く握り締めて怒鳴り出した。
ユリアは、完全にギャリスパが向こうに気を取られた一瞬を見計らって。 クラークの後ろから前に飛び出した。
走るユリアの足音に、ギャリスパも気付いて。
「このクゾ共っ!!!!!! 大人しく立ってろよぉっ!!!!」
と、ユリアの方に向いた。
ユリアも、丸まった絵を貴族風の男に高々と投げ付ける。
振り向くギャリスパと投げるユリアが同時で、ギャリスパが大声で怒鳴っている瞬間に絵はギャリスパの頭上を越えて行く。 絵は、貴族風の男の目の前を掠める様に放物線を画いて落下。 男の胸元に当たり、その絵を男は右手に取った。
「あ、何だぁっ?!」
投げられた絵を見て、ギャリスパは只の紙切れだと思い。 ユリア達に睨み付けて。
「テメラ等っ!!!! 忙しい所で甘く見てやればうざったく動きやがってっ!!! ガキを1匹血みどろにしねえと解んねぇかっ!!!! ああっ?!! 魔法でド頭をぶっ飛ばすぞコラぁぁっ!!!!!!!!」
だが、ギャリスパの後ろでは、男が少女を抱える手の指に紙の先を挟み。 その丸まった絵を伸ばして見てしまった。
ユリアもセイルもクラークも、男の顔に表情が現れたのを見た。 他の皆も、離れて居ながらに顔付きが少し動いたのは確認出来る。
「マリアンヌ・・・・」
絵を見つめる男の目が、途端に輝きを取り戻し。 そして、涙を浮かべる。 男の全身から、青い魔力その物のオーラが揺らめいで溢れ出す。 魔力は、人それぞれに色が在り。 強く使い込まれた魔力などは肉体の外に滲み出る事がある。
ギャリスパが、そのオーラの波動に気付いて振り向いた。
「な・なんだあ~?」
だが、見たユリアは。
「すっごい優しい波動・・・魔力・・・魔力その物だわ・・・。 死人なのに・・・闇のオーラが・・薄らいで魔力に変換されてる・・」
その意味は、エルザとセレイドを見れば解る。 強い暗黒の波動に苦しんで動けなかった二人が。 突然の様に顔を上げて立ち上がったのだから。
「何故? 何で・・・いきなり魔力に変わるの?」
エルザは、急に開放されて目を見張る。
セレイドは、動く自分の手を見て。
「おお・・・コレは」
暗黒の瘴気に中てられて、鈍って居たの身体の気怠さまで消える。 直ぐにまた屈み、イクシオの塞ぎきっていない傷を塞ぐために魔法を唱え始める。
この場で誰よりも最も驚くのはギャリスパだ。 魔物の瘴気を発していた男が、いきなり人としてのオーラを発する様になったのだから。 腐った顔を慌てさせ、だ~していいのか解らなくなってしまった。
「お・・おいおい・・、お前何を人間染みたエネルギー出してるんだよ・・。 おいっ!!!!」
だが、この時。
「う・・う~ん・・」
男の腕の中に居る少女が目を醒ましたのだ。 そして、目の中にマリアンヌの絵を入れた。
「キレイ・・・」
マジマジと見て、その目を擦り絵を見ながら呟く。
すると。 絵を見ていた男が。 いや、正気を取り戻したアンソニーが少女を見て。
「綺麗だろ? 私の唯一愛した女性だ」
と、微笑むのである。
アンソニーを見つめ出す少女。
これには、ギャリスパが猛烈に怒り出した。
「こぉんのボケナス野郎があああああっ!!!!!!!!! 早くガキの血を啜れって言ってんだよおおおっ!!!!!!!」
と、少女に近寄ってその短い手のナイフを少女の喉下に薙ぎ付けたのだった。 ギャリスパに気付いた少女は、驚きと恐怖の虜に成って動ける訳も無い。
“あっ”
と、見ていたユリア達が声を出す間は無く。 少女の喉に届く前に、ナイフの起動からアンソニーが身を引いて少女を動かしたのである。
その場の空気が、張り詰めて硬直したのは一瞬だけ。
「済まないが、コレを持っていて欲しい」
アンソニーは、少女に曲が付いた絵を預ける。
恐怖に硬直する中で、“コクン”と頷くだけの少女。
絵を渡し終えたアンソニーは、徐ろにギャリスパを鋭く見た。 赤い光を宿す目には、人としての感情が宿っており。 明らかに、不愉快を顔に浮ばせている。
「キサマ、我が屋敷に私が掛けた迷路の魔術を利用して巣窟としたのか・・・」
ギャリスパは、魔物に変えた筈の男が、はっきりと意志を持っているのに驚いた。
「あ・・あぎゃ? な・・何で意志を・・」
すると、アンソニーは魔力の蟠る右手をギャリスパに向けた。
「あっがあ・・・」
宙でギャリスパが固まった。 その手からナイフを落とし、石橋の上にナイフが落下して小気味良い音を辺りに響かせる。
「なあ゛・・・なんでぇぇ・・・」
動けず苦しむギャリスパだが・・。
アンスニーは、ギャリスパを見つめると。
「悪魔よ、しくじったな。 お主がしようとした“不死皇王降臨”の邪法は、憎しみや悪しき心に取り付かれて不死の呪いを活性化する邪術よ。 我は、己に憎しみも悪しき心も持ってこの不死を望んだのでは無いっ。 ただ、愛するマリアンヌをこの世で忘れ去られるのを嫌がってした事。 我が心に彼女が居る限り、私は不死皇王になど成れぬ。 人の心を理解出来なかったとお見受けする」
「そっ・・そげなああ・・・・」
アンソニーは、その突き出した右手を右側に移動すると。 ギャリスパも一緒に動いて、橋の縁の外に。
「悪魔殿。 失礼だが、我が国には平穏が在れば良い。 御主の様な者は要らぬ。 サラバだ」
アンソニーは、少女を軽く包む様にして抱き。 その視界を塞ぐと、右手を握り締める。
ギャリスパは、全身を何か重たい物で押し潰される感覚に襲われる。
「う゛ぎゃああああああっ!!!!!」
ユリアは、ギャリスパの顔がへシャげた所で目を逸らした。 直後、ギャリスパの断末魔の叫び声が上がって・・・。 全ては、終わった。
≪還そう・・戻ろう≫
ギャリスパが死に、子供達の魔力は解けて気を取り戻した。 丸坊主で、悪戯っ子の印象強い斡旋所の主の孫であるジーンは、ヨロヨロのセイルとボロボロのクラークに謝っていた。
「ゴメンなさい・・。 助けてくれてありがとう・・」
「帰ったら、思いっきり叱られてねぇ~。 あはははは・・・・身体イタイっす・・」
クラークに背負われるセイルは、子供達を叱るきなどま~ったく無い様子だ。
さて、アンソニーの元には、あの抱き抱えられた少女が居る。 絵を持って。
「たすけてくえてありがとう・・。 あの・・・これ・・・」
ギャリスパの事も在ってか、恐怖も残る心に残っているのが回らない呂律に見える。 だが、少女は見上げる様な長身のアンソニーに、しっかりと絵を差し出した。
死人の顔ながら、麗しき中年のアンソニーは微笑みを湛え。
「その絵は、君にあげよう。 悪戯の証だ」
少女は、ゆっくりと絵を腕に抱いて。
「・・いいの・・?」
「ああ。 これで、マリアンヌは私だけでは無く。 目にする人の心に宿る。 是非、貰って欲しい」
すると、少女はニッコリと笑って。
「ありがと」
まだ、幼き5歳の少女だが。 アンソニーはレディとして扱う様に恭しい一礼をして。
「いえいえ」
セイルを背負ったクラークが、ユリアを脇に携えてアンソニーの元に来る。
「あの~」
ユリアとセイルの声が被った。
「ん?」
アンソニーが、3人を見る。
ユリアが、先に。
「子供達は連れて帰るわ。 でも・・・アナタはどうするの?」
クラークは、モンスターには変わりの無いアンソニーを見て。
「また、此処で・・眠りに?」
アンソニーは、少し曇った顔行きで。
「外は・・・どうなっていますか?」
クラークは、森が亡者の巣窟に成っているのを語る。
少女も、怯える様に。
「モンスタ~がいっぱい」
アンソニーは、少女を見下して頷くと。 クラークに向いて。
「このまま私が留まっては、この場はモンスターを生む巨大なヘイトスポットに成ってしまう。 私も、一緒に外に出よう。 今、この国を治める王に、我が屋敷を明け渡すつもりだ」
ユリアは、屋敷中のマリアンヌの絵を思い出し。
「もう・・・あの時から200年以上経ってるわ・・・。 外は、全然変わってるかもよ」
アンソニーは、頷く。 深く、重く。
「ああ・・。 まさか、永久に眠る魔術を自分に施してしまって。 悪魔に悪用されるとは失態だ。 謝らねばな・・」
ユリアには、解らない。
「ねえ、そんなにマリアンヌ様の愛してたのに・・・何で駆け落ちとかしなかったの? いっそう、連れて何処かに行っちゃえば良かったのに・・」
アンソニーは、脇に顔を逸らし。 寂しく首を左右に振った。
「彼女は、義兄を・・・。 フランソワを支える事に命を掛けていた。 義兄は、王の器には自分でも認める程に器量の無い人だった。 武人として生きる事を望んで居たのに・・・。 義弟のアルツフォンが王に相応しいと思っていたのに・・・。 義母様も、重臣達も納得しなかった。 一本気で、不器用な義兄を、マリアンヌは・・・愛してしまった・・。 私が、そのマリアンヌの心を引き裂いてまで駆け落ちなど・・・出来なかった。 全ては、我等3兄弟の不徳の致す所だ」
ユリアは、深い深い因果が在るのだと思い。 それ以上は話せなかった。
其処に、離れた場所からイクシオが。
「王子さんよ。 地下に、あんな凄いゴーレムなんか安置して・・随分だぞ・・・アンタ」
と、憎まれ愚痴を。
アンソニーは、ハッと気付いて。
「そう言えば・・・我が先祖が作ったゴーレムの像が・・・1体も無いな」
ユリアが、ギャりスパが目覚めさせたのを語るや。
「ほう・・・あのゴーレム達を倒せるとは・・。 皆様は、素晴らしい冒険者達なのですね」
アンソニーは、セイルや傷付いたイクシオ達を感心の眼差しで見る。 やはり、ゴーレムはその辺のモンスターとは格が違う様だ。
セイルは、ヘラヘラした言い方で。
「死に掛けました~。 ケルベロスストライカーは、要らなかったなあ~あ~」
こうして、セイル達はアンソニーを連れて帰る事に成った。
真冬の大雪が舞降りる外に出れば、もう陽も落ちた真っ暗闇。 アンソニーは、魔想魔術と秘術の一部をマスターした魔法遣いらしく。 その右手の指に填めた水晶の指輪に灯りの魔法を宿す。
屋敷を出て噴水の所に来ると。 その敷地に掛かっていた“幻影迷走術”と、館に掛けられた魔術をを解いたアンソニー。
一同は、一面に蔦で覆われて、ボロッボロに朽ち果てた屋敷を見る。 壁は老朽化して崩れ、紋章の宝石をを使った大きなエンブレム以外が、全て朽ち果てた館と成ったのを見て。
「これが・・・本来の館の姿だったのか・・」
セレイドに担がれるイクシオは、あの素晴らしい内装の屋敷を忘れぬ様にと心に留めた。 見ている全員が、廃墟と成った館に侘しさを覚えたのは事実だった。 あの、様々な表情のマリアンヌの絵は、どうなっているのか。
さて、屋敷の外の敷地は荒れ放題の原野の様に成っていた。 そして、遂にポリア達と再会を果たす事に。 魔法の灯りに気付いた双方のチーム。 夜の大雪の中で合流した一行は街に戻るべく引き返す。
帰り道、イクシオ達と再会の喜びを迎えて、話し合うポリア達。
「はぁ~っ、凄い事に成っちゃったのね」
マントを着ながら話し合うポリアは、大方の子供達の手を繋いでセレイドと共に歩きながら話を聞いて感心とばかりに驚いてみせる。
キーラは、マルヴェリータやシスティアナに一部始終を語り。 ヘルダーとゲイラーには、ボンドスが語る。
先頭のユリア達には、アンソニーが光で前を照らしながら。 ユリアやセイルに。
「しかし、最近の冒険者達は女性が多いですね。 しかも、美しい女性が目立つ・・・。 私の頃は、男性が大半以上でした」
ユリアは、“風のポリア”と異名を取る彼女が、噂以上に美人で驚いていた。
「ホント・・。 腕が凄くて、オマケに美人って。 天は二物でも三物でも与えるのね」
クラークの背中で鼻水を啜るセイルは。
「ユリアちゃんだって、綺麗だよ~。 ・・・多分」
ユリアは、フードを被る顔の中で目を吊り上げて。
「最後が余計だコラぁ・・・」
と、杖を握り締めた。
しかし、だ。 何よりも皆が驚いたのは、森に戻って見るとモンスターが動かずに居る事だった。
アンソニーは、その状態を見て。
「急に暗黒の力が弱まって動けなくなっているだけさ。 また、数日もすれば、死体やモンスター自身の持つ力が緩やかに蟠って動き出すよ。 早くに、森の浄化が必要に成るね」
マルヴェリータやシスティアナからすれば、動く死人のアンソニーに言われるのは微妙な雰囲気だ。
カミーラなどは、アンソニーを敵視する様に睨み見る。
しかし、ポリアやセイル達はアンソニーを訝しむ所が無かった。 アンソニーに助けられて、この大雪の夜の中でもアンソニーの服の裾を持って歩く少女が居る。 それだけで十分だった。
遂に、生存者は全員で外に出れた。
アンソニーは、此処で皆と別れて王城に向かうと言い出した。
ポリアやセイルは、任せるとだけ言って子供達を連れて斡旋所に行く事に。
「バイバイ、お兄ちゃん」
離れて行くアンソニーに、子供達は素直に手を振れる。 アンソニーもまた、子供達に手を振り返したのを見て。 ユリアは切なくなる。
「貴族も商人も偉い人って偉ぶってるの多いけど。 あ~んな純粋な人もいるんだね~」
しみじみと言い。 ユリアは顔を何の気なしにセイルに向けると・・・。
「・・・」
目をウルウルさせながらアンソニーに手を振るセイルの姿が。
(コイツもか・・・)
ユリアは、此処までには成れないと思った。
次話、セイルとユリア編、一部最終話
仕事を終えた一行は。 親達に感謝されて眠りに就く。 しかし、次の日の昼前に、一同揃って、王城に呼び出された。 王と謁見する冒険者達。 アンソニーはどうなるのだろう・・。 そして、セイルとユリアの向かう道は・・。
次話、数日後掲載予定。
どうも、騎龍です^^
さて、今回は難しい戦闘内容で一部見難い部分や。 読み取れ難い部分が多いかもしれません^^;
何れ、少し後で表現を変える努力をいたします^^;
セイルとユリア編の後は、ウィリアム編をお送りします^^。 その後は、年末年始に掛けて、ポリア特別編と、座談会総集編に雪崩れ込んで行こうかと模索中です^^;
では、寒いですが皆さんお体を大切に^^
ご愛読、ありがとうございます^人^