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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
212/222

第三部:新たなる暫しの冒険。 2

        第二章


 【権力を持つ者が臭いものに使う蓋は、所詮の処で弱者と云う犠牲】


〔その3.この時期に行っては成らぬ場所〕



時として、在る出来事が新たな冒険の扉を開く。 いきなりの間合いにて、Kが鋭い声を上げた。 Kの咄嗟に発した声に、斡旋所に居る全ての者が身震いをしたほど。


新たなる冒険への扉が、今の一声で開いた。


さて、Kの声にビックリしたのは、当然にステュアート達。 それから、ヒソヒソ話をして居た、ミラ、ミシェル、ミルダの三姉妹。


それから、店内に散って四人ばかり居る冒険者達と、彼等に紅茶のお代わりを出した下働きの少女もそうだ。


鋭い声を発したKは、二階へ上がる階段に入った三姉妹へ更に。


「おいっ、今、ミラ達が言ったのは本当か?」


と、問う。


一方、Kがミラへ問い掛けた事で、三姉妹は自分達のした話を聴かれたと悟った。


ミシェルは、ミラと見合ってから。


「やだっ、今のが聴こえたの?」


と、三姉妹が三様に驚く。


愚痴を零して居たセシルは、びっくりして腰を浮かせたエルレーンと見合い。


「何? なんか聴こえた?」


「さぁ~、私は何も…」


事態を理解する事が出来ない者が多い中。 Kは、階段を降りて姿を見せた三姉妹に、珍しく声音を真面目に変えて。


「今の時期に、北の山間に空く洞窟に行ったら、よっぽどの腕が無ければ死ぬぞ。 以前からあの一帯は、彷徨い込んだ者が幾度と行方不明に成ってただろうが…」


と、苦言を呈す。


そのKの言葉に、行ってはいけない理由の存在を感じ取ったミラ。


「貴方っ、まっまさかっ、り・理由を知ってるの?」


其処で、ミシェルが。


「ミラ、ちょっと待って」


と、妹に注意する。


ミシェルは、戸惑うミラに見返された後。


「其処の、カウンター席のあなた達、悪いけど二階に上がって」


と、云うではないか。


然し、ステュアート達は、二階は上級依頼のみを扱う場所と知るだけに。


真っ先に、セシルが人一倍に驚いた顔をして。


「え゛っ! 上に上がってイイの?」


続いて、エルレーンも驚き。


「ウソぉ…」


と、それ以上の言葉が無い。


だが、立ち上がるKは、


「ステュアート、行くぞ。 この話、誰彼に聞かれる訳にはイカないらしい」


雰囲気のガラッと変わったKの声で、震え上がったステュアート。 即座にすくっと立ち上がった。


同じく立ち上がったオーファーは、その威厳やら威圧感を含むKの声音に。


(片鱗が見えたのか? うっすら、ケイさんが怖い…)


と、荷物を持った。


非常に珍しい事だが。 斡旋所が昼過ぎに閉められた。 他の冒険者達を返し、手伝いの少女まで返したのだ。 鍵を掛け、閉鎖された斡旋所。 一体、何が起こったのか。


二階に、色の付いた硝子が特徴的な、“グラスランプ”により灯りが灯る。 二階は、宿屋の大部屋(八人~十四・五人が寝る)ほどの広さで。 主が入る北側に配置されたカウンターに向かって、三列の長い木造のテーブルと椅子の組み合わせが在るのみ。 壁際には、棚やら小物が置かれていて。 学者や魔術師の庵と喩えられる雰囲気が漂う。 緑色の壁紙と、花の絵が朗らかさを与えていた。


だが、その二階にて。 カウンターの内側では無く、冒険者達や客が座る木造テーブルに就いたミラ達三姉妹。 Kやステュアート達も、三姉妹と向かい合う形で、丸いクッションに近い椅子に腰掛けた。


先ず、長女のミシェルが。


「貴方、北の洞窟の何を知っているの?」


と、Kへ尋ねるのに対して。


Kは、鋭い眼をして口を開くと。


「それ以前の問題だ。 主を任されたお宅等が居ながらに、何であの北の岩山一帯に人を入れるんだ? 俺は、アンタ等の前任者と成っていたロベイラとは、それこそ腐れ縁の様な顔見知りだったが。 “雨の多いこの時期に人を入れては絶対にいけない”、と取り決めした事を聴いたぞ」


こう言いながら三姉妹を睨み付けた。


ステュアートも、オーファーなども、Kが睨み付けた意味が解らなかった。


さて、Kの話を聴いたミシェルは、何処か怖がりながらKを見返して。


「私達は、前任者からその引き継ぎはしてるの。 でも、理由は教えて貰って無いわ」


其処へ、ミラも。


「ねえ、理由を知ってるなら、詳しい話しを教えてくれない? 実は、或る依頼から洞窟付近へ、調査に行った冒険者達が何チームも居て。 一番最近で行ったチームですら、もう十日近くも経ってるのに、誰一人として戻ってないの」


続いて、低音域の声が魅力的なミルダも。


「その前に行った兵隊さん達は、20日以上も…」


一体、何人が洞窟に向かったのか。 話を聞けば聞くほどに、


“事態が悪化している”


こう察したKは、三姉妹を厳しい目で見て。


「・・無理だ。 恐らく、行った全員が既に死んでる」


と、こう言うではないか。


その場に居た全員が、素早くKを見た。


真っ先に身を乗り出すミラが、テーブルに手を着いて。


「ねえっ?! 死んでるって、ど・どうゆう事?」


先ほど貰った紅茶のグラスの残りを、今に呷ったK。 グラスを空にして、テーブルの上に置けば。 そのグラスを見つめながら。


「いいか。 昔から言われているが。 この国を囲う山脈地帯でも、特に東側の溝帯寄りと北東の岩山は、昔から危険と言われる。 それは何故か、お宅等は知ってるか?」


尋ね返されたミラは、思い出しながら戸惑い。


「え、えぇ…。 この国の東側には、モンスターの温床と成る溝帯が在るし。 北に在る山脈を越えると悪魔の生まれ出る地、〔ダロダト平原〕が在るから、そうでしょ?」


その通りと、Kは鋭く頷く。


「そうだ。 神々の加護を得た人々と悪魔の戦った激戦地の一つ、ダロダト。 その広さだけで、この北の大陸の五分の一を超えると言われ。 ダロダトの東側には、広大な平原を。 その西側には、永久凍土と云う二面を持ち。 今も、大きさは縮小されながら、未だ開けられたままに成っている魔界との通行口が空いている」


「ひゃ~、魔界と繋がってるのぉっ? モンスターがわんさか居るっ訳ぇっ?」


聞いた昔話では、“人の住めない土地”・・と伝わる事を思い出したセシル。 処が、その実態は、モンスターに支配されているとは…。


其処へ、


「その通りらしい」


と、オーファーは頷いては、更に。


「ダロダト大地は、人の支配が及ばない、モンスターの世界。 何重もの強力な結界が、その大地を部分部分で囲う様に張られている。 だが、その結界も万全ではないのだ」


オーファーの説明に、Kも続く。


「俗に言う〔イヴィルゲート〕、〔ファンタムゲェイト〕、〔デモンズゲート〕など、その通称は色々と呼ばれる“悪魔の穴”だが。 広大且つ千差万別の顔を持つダロダト平原には、その穴が幾つも存在し。 そのどれもが、最小限しか開いちゃいないがな。 その扉を潜って、魔界のモンスターや一部の悪魔が、時々こっちに這い出て来る」


こう言った。


彼が言ったモンスターの〔悪魔〕とは、モンスターの中でも特に恐ろしい部類で在る。  元は神と同じ紀元を持つといい伝わり。 その性格は悪意に染まり。 神の加護を得た人々が戦いに勝ってから以後も、人間の世界に来ては悪事を働きかけたり。 国を滅ぼそうとしたりしたと云う。


噂や他人の冒険談義でしか、その存在を聞いた事が無いエルレーンは、目を見開き。


「“悪魔”って、そんな所から来るの?」


「ま、悪魔の召喚には、幾つかの方法が在る。 だが、それはこの際にいい」


呪術の世界で、悪魔の召喚についての情報の全ては、禁忌となるだけに。 Kは、その辺りの事に触れるを避けた。


「このクルスラーゲを囲う山脈の中でも、北に横たわる山脈ってのはな。 今の話に出たダロダト平原からは、山脈続きで存在する連山の南端に成る。 だから、あの岩山地帯には鉱石が多く眠っているのに、炭鉱も無ければ人里すら無い」


と、話を本筋に戻した。


其処に、またミシェルも加わり。


「でも、北の山脈地帯には、魔物が入って来れない様に結界が張って有る筈だわ」


その言う様子は、Kと互いの間に挟むテーブルに身を乗り出しそうな・・、そんな態度も窺わせた。


“Kの話と自分の認識には、大きな溝が在る”


と、態度は口調が示していた。


だが、その態度に含まれる‘楽観視’を嫌うが如く、Kは横を向いて。


「全く、甘いっ」


と、鋭く言葉を吐いた。


その鋭い言葉に、三姉妹とステュアート達がビクッとする。


然しながら、これは皆の共通認識だ。


“結界が有る限り、このクルスラーゲの国は、危険なダロダト平原を北にしていても絶対に安全だ”


と、皆が思っていた。


黙った三姉妹へ顔を戻したKは、姉妹を並べ見て、厳しい表情をするままに。


「いいか。 このクルスラーゲに張られた結界ってのは、国内西側の教皇王が住む〔皇都クリアフロレンス〕が中心なんだ。 領地全域が中心じゃ無い、覚えておけ」


この話を聞いて三姉妹の中でも、長女のミシェルが衝撃を受ける。


「そんな・・、どっ、どうして、そんな風に?」


姉の後に、ミラも続き。


「この辺りには、結界の力が及んで無いの?」


尋ねられたKは、この三姉妹の‘結界’についての全ての知識が、全く以ていい加減だと察した。


「お宅等は姉妹揃って、世界でも‘それ’と知られた魔術師だろうが。 魔法学院を出ているクセして、全く知識が薄っぺらいな。 歴史的に、元々は敵対に近い中立都市だったバベッタなんぞに、そんな大した結界を張るか」


「‘敵対’?」


「‘中立都市’?」


「ケイ、な・何を言ってるの?」


ミラ達三姉妹は、Kの言って居る意味が益々解らない、と。 そんな顔を並べるのだ。


その三姉妹の顔を見るKは、


「おいおい、御宅らも冒険者時代には、顔の良さと魔力の強さから名前の売れたチームを率いたンだろうが。 結界について、歴史的な何の知識も無いのか? この街だけじゃなく、皇都にも、他の国だって行ってたんだろう?」


語りからして呆れてしまう。


然し、K以外の誰もが、彼の言う意味を理解する事が出来ない。


その皆の出す空気を察して、Kは。


「ふぅ…、もういい。 何で人を遣ったかは、もう聴かん。 とにかく、いいか。 もう誰も、北の岩山へは行かすな。 被害は、解った時点で最小限にしろ」


と、忠告した。


そしてこれ以上は、Kの踏み込む領域でもなかった。


だが、ミシェルはKに。


「貴方・・、何が人を行方不明にしてるのか。 もしかして、わ・解る・・の?」


と、逆に踏み込んで来る。


面倒臭い、と思うKだが。


「大方、あの岩場に生息するモンスターのどれか・・、だろうよ。 厄介なモンスターばっかり潜むのに、知らずに行かせるなんざ、何を考えてやがるンだかな」


「貴方には、そのモンスターが何か、解る?」


無知もいい処の質問の連続に、Kも答えるのが馬鹿らしくなり。


「当たり前だ。 この国の古い文献を皇都のクリアフロレンス辺りで調べれば、それぐらい全て解るはず。 全く、最近の冒険者は、文献や本を深く読むのを嫌う。 古い文字やら固有名詞を使うから、解読するのに労力は必要だが。 細かい情報は、昔から在るってのに…。 横着ばかりしてるから、知らずに危険へ至るんだ」


苦い感情を目と言葉に滲ませるK。


ミシェルは、Kに縋るように前に身を出して。


「教えてっ?!! なっ・何が居るの?」


Kは、ミシェルを脇目に見返し。


「それを知って、一体どうする?」


するとミシェルは、涙声で絞り出す様に。


「帰って来ないチームのユレトンは・・わ、私達の甥なのよ…。 た・助けて・・お願いっ」


この展開は、マルタンでの出来事と同じだ。 そう思うKは、上を見た。


(おいおい、コレじゃ~ポリアの時と同じだろうがっ)


ポリア達を率いて行方不明と成った冒険者達を助けた流れと、全くの同じだが…。


「ふぅ・・おそらく、軍隊を丸々潰せるってならば、洞穴に向かったと云う話からして、だ。 十中八九、〔デプスアオカース〕だろうよ」


と、云うK。


その話に、ミルダが食いつく。


「それってっ、どんなモンスターなの? どうして、そのモンスターだと?!」


この先の流れが読めて来るKは、何処か覚めていきながら。


「ヤツの名前は、古代語で“深みある貪欲”、と云う意味だ。 体長は、一番デカい個体で大人の男の四、いや五倍ほど。 体高も二倍強と、大きいの蛙のモンスターだ」


語られる大きさか想像すると、ちょっとした大きな部屋並みと皆が理解し。


ステュアートは、今居るこの部屋に入っている想像をしながら。


「デっ・カ、デカいですね…」


「あぁ、確かにデカいぞ。 然も、肉食でな。 集団を形成する割に言語は無いが、頭はかなり良い」


興味を惹かれたセシルは、横から割って入る様に。


「ネェ、そんなモンスターが、何で兵隊さんと鉢合わせすんの?」


「それが、このモンスターは、よ。 自分の身体を通す幅で、深い穴を岩場に掘る。 然も、岩山に生息する動物が入って来そうな場所に、ポッカリと入り口を開けるのさ」


ステュアートは、


「岩山に穴を空けるなんて、凄い力ですね」


と、感心すらした。


「奴らは、集団で一カ所に潜む生活形態で。 穴は巣穴で在ると同時に、誘い込む罠でも在る」


「穴が・・ですか?」


「そうだ。 奴らの狩りは、非常に独特だ。 穴に誘い込むのは、無論の事だが罠へ嵌めるため」


「‘罠’って、落とし穴とか、迷路ですか?」


「いや、そうゆう罠じゃ無い。 “デプスアオカース”は、その身体に特殊な茸の菌糸を付着させていてな。 洞穴の入り口から然程の奥まで行かない所に、強烈な催眠効果の在る茸を生やす」


キノコ嫌いのセシルは、誰よりも嫌な顔をして。


「ウゲェ~、茸を生やすなんて、気持ちワルゥ~」


すると、見た目が気持ち悪いことを知るのか。 Kも同調する様に頷く。


「確かに、イイ光景ではネェな。 然も、この茸ってのが、青く毒々しい色で。 大雨が降ったり、濃い霧で水気を多く感じると、催眠性の強い毒の胞子を撒き散らす」


其処まで聞いたセシルは、何となく想像が出来て。


「まさか、雨宿りで穴に入った獲物や人は、その茸の胞子で眠っちゃうの?」


Kは、ゆっくり頷き。


「そうだ。 デプスアオカースは、嗅覚が異常に発達している。 深い深い穴の奥底からでも、獲物の匂いを嗅ぎ分けて出てくる。 後は、眠る獲物を見付け次第に、パクッと丸呑みだ」


セシルとステュアートは、二人同時に青ざめて。


「ヒィ~~っ!」


理由を皆が理解した処で、Kは三姉妹を見返し。


「何の理由で行ったかは知らないが。 相手にするモンスターが何なのかも知らずに、北の岩場に開く穴に入ってよ。 これだけ日数を空けてるならば、生きてる訳が無い。 山に行ったのが10日前なら、生き残った奴等は生還して来れる。 ‘帰って来ない’って事は、絶望的と思え」


と、言い切った。


然し、悲壮感を顔に出したミラは、それでも希望を求めてK縋る。


「なっ、何か、ちちっ、ち・小さくてもいいから、可能性は・・・無い、の?」


「さぁ、な」


「崖崩れとかっ、なっ、何等かの不慮の事故とかで、帰って来れない・・とか…」


ミラの意見に、Kは涼やかな顔で首を左右に動かす。


「そんな事ならば、尚更に無理だ。 上手い具合に川にでも落っこちて、船に拾われたってならば・・生きてる可能性も、な」


「ふっ、‘船’ですってっ?! 川の上流なら、もっと内陸部の北部に行かないと…」


驚くミラに、細めた視線を向けたKは。


「今の話は、そっちの希望に合わせた話だ。 俺の予想からして、それはほぼ絶対に無い」


絶望感に打ちのめされたミラは、ガクリと俯く。


一方、ミルダが代わって。


「でも、怪我をして動けない可能性も在るわっ。 逃げ切れたならば、まだ生きてる可能性は捨て切れないっ」


と、問うて来る。


それでも、Kの表情はドライだ。


「知らねぇから、甘い事も考えられんだよ。 デプスアオカースは、血や弱った生き物の匂いなんかに、異常なまで敏感で執着するンだ。 獲物に対する獰猛さ、執着心、貪欲さは、下手なモンスターより上だぞ」


「でもっ、洞窟から離れれば、けっ・け、結界がっ…」


「ふぅ・・全く、考え方が甘くて仕方ネェ。 夜なら、奴等も平気で外に出れる。 何にせよ、此処最近は雨続き。 湿り気の充満した山は、他のモンスターの行動も促すから、更に恐ろしく危険だ」


生存を完全否定された次女ミルダ。 だが、それでも蒼褪めた顔で。


「姉さん、ミラ、私が助けに行くわ。 私の夫の・・弟だもの」


捨て身で助けに行くと云う話に、Kの脳裏には…。


(全く、これじゃ流れが最悪だ。 諦めることを知らないンじゃ、主なんざ遣れるかよ)


と、馬鹿らしく成る。


処が、真剣な顔で聞いていたステュアートが、突然の如くKに寄って。


「ケイさんっ、見てみぬフリは出来ませんっ!!!!」


と、詰め寄った。


ステュアートを見ることもしないKは、悪い読みがそのまま現実に成って行く、と。


(や~っぱりな)


思うだけして、げんなりした。


今のこの場所には、ポリア達と居た時の、マルタンの斡旋所と同様に。 サーウェルス達を救出すると決めた時と、全く同じ雰囲気が充満している。


然し、ミルダは、ステュアートに向かって。


「気持ちは、スゴく嬉しいけど。 非常に危険なモンスター相手なら、貴方達みたいな駆け出しじゃ死ぬかも…。 私一人で、貴方達の面倒なんて見切れないから、足手纏いは要らないわ」


丸で全てを解って居る風に言うではないか。


遣り取りを聞くKからすると。


“危険性が解ってるなら、先ずはお前が行くのを止めれ。 バカ”


これを、ミルダに言いたい。


然し、本人が悲壮感をまる出して云うのだ。 覚悟の上なのだろう。


主に言われた手前から、黙るステュアート。


だが、感情的になりやすいセシルが。


「幾らミルダが強いからって、一人で行くなんて自殺行為だよっ」


と、無謀過ぎると言い。


セシルの隣に座るエルレーンも、ミルダへ。


「セシルの云う通り、主だからって生意気を言わないで。 二年もブランク抱えて、貴女以外の誰と行くのよ。 冒険者を捜す依頼なら、一人では請けれない。 そのくらいの事は、主をする貴女も知ってるでしょ? 行方不明者の捜索は、依頼があれば仕事として成立するわ。 一人じゃ無理、協力すべきよ」


この意見に、ミルダも咄嗟の言い返しが出来ない。 斡旋所の主が私情を挟んで仕事に同行したり、身勝手に主の仕事を放棄するのは、冒険者協力会の規定に反する。


また其処へ、静かなるままにオーファーも。


「今、このケイ殿が北の洞窟やモンスターに対する情報を言うまで、主等の貴女方は何も知らず。 その事情を調べもせずに、気付かなかった。 ならば、今の“リスター・ザ・ウィッチ”は、このケイさん以下・・でしょうな」


と。


三姉妹は、確かにその通りだ、と押し黙る。


三姉妹を黙らせたオーファーは、更に続け。


「そんなケイさんの居る我々を足手纏い扱いして、助けに行かれるとは…。 フッ、魔女達も堕ちたものだ」


蔑まれた三姉妹は、揃ってオーファーを見た。


然し、オーファーは恐れる事も無く、まだ話を続けて。


「私は、リーダーに従うのみ。 “助けに行け”、と仕事を請ければ、行くのみ」


と、覚悟を添える。


そんなオーファーへ、Kは呆れた口調にて。


「ほっ、面構えより、意外と冷静に辛口だの」


と、言う。


それでもオーファーは、微笑して頷いた。


普通に、冷静に成って思えば、


“確かに、一人では手に余る”


と、感じたミルダ。


だから、Kに。


「もし、戦う事に成るなら、私達で・・勝てる?」


このミルダの話を聞いたKは、軽く頭を掻いて。


「あのな。 “相手は狡猾だ”、とさっきも言ったろ? 奴等は、怪我した者のみを狙うなら、人間の前にも出て来るだろうが。 普通の者が怪我人の傍にいるだけで、隙を窺う周到さを持つ」


その判断力を知り、セシルはビックリ。


「モンスターにしては、随分と慎重なんだねぇ」


「そうだ。 それに、行方不明者を捜すなら、巣穴の奥に行く事は絶対条件。 群れる習性のデプスアオカースだ。 巣穴の最深部に近づけば、住処となる穴の大きさは、戦う事も考えて広い空間を確保してる」


ミルダは、目を鋭く凝らせ。


「‘空間’? どうして、高がモンスターよ」


「お前達、モンスターの知性を知らないのか。 いいか、‘戦うなら’じゃなく、戦うんだよ。 助けに行くならば、確実に戦う事に成る。 人間が群れる習性は、向こうも知ってるぞ」


と、言い切る。


既に、あらゆる場合の想像が出来ているらしいK。 セシルは、そんな彼に目を見張り。


「ケイ、随分と詳しいじゃない。 もしかしたら、戦った事が在るの?」


面倒臭いと言いたげなKは、少し不貞腐れた態度で。


「フン。 戦わないで、奴らの巣穴の奥が解るかよ。 何年か前、或る突発の依頼で仕方なくだが、奴らの穴に入って戦った」


‘戦った’、そう聞いたセシルとエルレーンは、


「うわっ」


「経験者だ」


と、見合う。


経験者と解ったミルダは、Kに。


「お願い、力を貸して」


と、声で迫った。


此処でKは、ミルダを見ずに。


「俺は、リーダーでは無い。 頼むなら、相手が違うだろ」


思いを弾かれた形のミルダは、ステュアートを見る。


そして、頷くステュアート。


其処へ、誰もが異論を出さない。 その事が、次の展開の全てを示していた。


さて、ミシェルが捜索を仕事にすると成れば。 Kは、先ずとばかりに席を立ち。


「行くと決まったならば、とにかく準備をしっかりやってくれ。 今に降る雨は、明日の昼前には上がるだろう。 出発は、それからでいい。 俺は、夜まで別に行動するから。 昨日と同じ宿で、ステュアート達は待機しててくれ」


と、仕切る様に言うではないか。


この話を聞くミルダは、思いっきり強く立ち上がると。


「そんな悠長なっ!! 一刻を争うのにっ?!!」


と、噛み付いた。


だが、流石に・・と云うか。 経験が、豊富と云う域を超越するKで在る。 周りの緊張感を余所に、寧ろのんびりと。


「悪いがな、騒ぐのが数日ばかり遅過ぎる。 今の現状を例えるならば、暴風雨で大洪水が襲ってきた後と同じ。 天災の二次災害が襲ってきて、何日も経過して様な頃合いなのに。 知った今更だからって焦って動いて、無駄な無理してど~するんだ。 今夜の夜は、雷雨で夜営も無理だぞ」


と、忠告する。


自然魔法遣いのオーファーは、Kを見て頷く。


「素晴らしい、鋭い読みですな。 風、雨脚、温度を感じ読むからに、これからが雨の本番。 急いで動いても、確かに直ぐ足止め喰らいますな」


天候を察する玄人から援護を貰ったKは、ミルダを諭すため。


「いいか、助ける相手が目前に居て、現状の全て把握が出来てるってなら、無理も、焦りも、いいだろう。 だが、事実が何も見えてないのに、死体掘りが死体に成る行為は、酷く詰まらん。 冒険者をやってたなら、それぐらいはお宅でも解るだろう? 有名に成ったアンタ等まで、世話を焼かすな」


と、冷静な判断を再度促した。


正論から言い返す事が出来ず、不満を顔から噴き出させるミルダ。


だが、姉の事を心配するミラには、雨が強く成るかどうかより疑問が在る。 だから、Kに。


「それで、貴方は夜まで何処に?」


斡旋所の側面を覗ける、丸く小さい窓。 其処から、雨の降る外を見たKは。


「決まってる、必要な対策さ」


「“対策”?」


「毒が問題なら、先ずは解毒剤を作らないとなぁ。 助けに行く俺等の分と、助けに行くならば生存者を一応は見込んだ予備も幾らか必要。 だが、薬の原料はちぃっと高いから、値切りを仕込まないと」


「つっ・作れるの? 今夜中に?」


Kは、歩き出しながら。


「〔エクリサー〕や〔エリクサー〕よりは、お手軽だ」


と、下に向かう階段へ出て行く。


「いえっ?!!」


伝説の妙薬とその擬似薬を挙げられて、驚いた声を発したセシル。


だが、Kを見たのは、全員だ。



そして、雨の外に出て行ったK。


丸い小窓からKが消えるまで見るステュアートは、尊敬すらする様子で。


「やっぱり、ケイさんって凄い人なんだぁ~。 あんなに色々と薬を作れるなんて…。 ハァ、リーダーを替わって貰いたい」


と、弱音を吐く。


セシルは、パッとステュアート見て。


「な~に言ってのよっ」


その弱気な背中を叩いた。


「あ゛痛っ!」


痛がるステュアートに、セシルはにじり寄って。


「気合入れろッ!! 新チームの大仕事だよっ!!」


セシルの勢いに驚いたステュアートは、ガクガク頷く。


その場立ったオーファーは、Kの行った階段を見ながら。


「だが、素晴らしい読みだ。 事態から行動までを見据え、算段が全くブレてない。 更に、自然魔法遣いと同じ域で、天候の読みが出来るのですね。 今まで黙ってたのは、私の事を考えて…ですかね。 一緒に仕事が出来るのは、感謝すべきかな」


と、独り言を呟く。


そんなオーファーへ、ミラが。


「本当に、今夜は雷雨なの?」


“まだ疑っているのか”


困ったオーファーは、悪戯っぽく笑って返すと。


「賭けてもいいですよ。 当たったら、キスでもしてくれますか?」


からかわれて返されたミラは、ムッとした顔で。


「バカっ!!! こんな時に不謹慎ねっ!!!!」


と、そっぽを向く。


エルレーンやセシルからも、‘不謹慎’と言わんばかりに非難の眼差しを貰うオーファーは、苦笑いであった。 正直、本当に冗談のつもりで言ったのだ。


ステュアートは、ミルダと明日の昼に落ち合う事で合意し。 斡旋所を夕方前に出た。


そして、その夜遅くだ。 昨夜と同じ宿に泊まった、ステュアート達。


部屋で、黒い下着姿のまま窓の前に立つセシルは、暗い空に轟音を上げて走る雷を見る。


「うはっ、マジっスか?」


宿屋の窓の外は、大雨もいい所。 もし、慌てて旅立っていたら、今頃は野宿どころでは無い。 岩山は地面が固い為に、雨は濁流と成りやすいから、助けに行く予定が遭難する恐れも在った。


セシルと同じ部屋のエルレーンは、ピンクの下着姿でベットに座り。 窓を見る黒い下着姿のセシルを見て。


「ねぇ、あのさ。 ケイって、本当に凄い冒険者かな?」


窓から離れたセシルは、ベットに飛び込んでから寝そべるままに、エルレーンを見返すと。


「経験が豊富なのは、確かだよね。 天候も当てたし、薬師としての腕も、あの通り確かみたいだし」


エルレーンは、前のめりでセシルに寄って。


「戦いは、どうかしら。 病気してた・・って言うし、アタシ達の方が上・・・だよね?」


「さぁ~、どうかな。 もしかしたら、同じぐらいだったりして」


と、二人してあれこれ話ては笑うのだった。


その頃。 最上階と成る男三人の部屋では。


‐ ピチャン、ピチャン、ピチャン…。 ‐


天井から落下する水滴を見るKは、窓の前に寝ていながら。


「宿に泊まって、雨漏りとはなぁ・・。 今日は、水難の卦でも有ったか?」


と、誰に言うともなく言えば。


オーファーは、困った顔で寝ながら。


「スマン。 安さに釣られて、つい・・飛びついた」


一方のステュアートは、完全にベットに潜り。


「スミマセ~ン。 僕が安い部屋って言いました~」


部屋の入り口、右奥、Kのベットの目の前と、あちこちに形が少し歪んだ金バケツが置いてある。 あちこちで雨漏りする部屋は、湿気でジメジメしていた。


「仕方無い、覚悟を決めて寝るか」


と、諦めたKは言った。


その後、


“Kは寝たのか”


と、ステュアートはそろそろと顔を出す。


寝返ったオーファーも、気になってKを見るが。 ステュアートに、視線を移して。


「寝る」


と。


ステュアートも、一人で起きるのは嫌で。 また、上掛けの薄い布タオルを頭から被った。


ステュアート達は、明日に備えて寝る。


処が、その同じ頃。 斡旋所では、ちょっとした事件が起こっていたのだが。 K以外は、その事態を予想すらしていなかった。


         ★


雷鳴が轟き、土砂降りと成る夜の外から雨でずぶ濡れと為ったミルダが、斡旋所に戻って来た。


「姉さんっ」


慌てて出迎えたミラは、用意して居たタオルを渡して。


「姉さんっ、言った通りでしょっ? あの‘ケイ’って冒険者は、そこらに居る駆け出しで、只単に年季を経ただけの冒険者とは違うわっ」


一方、荷物も明らかに軽く、黒いローブにマントを羽織ったミルダは、髪の毛をぐっしょりさせて。


「た・偶々・・天気が・あ・当たった・・・だけよ」


ガチガチと震える唇は、血色を無くさせていて。 冷えた身体は、標高の高いこの辺りの晩に来る冷え込みを、人一倍に強く感じる筈だ。


“このままでは身体を壊す”


と、ミルダを裸にし、毛布を渡して暖炉の前に座らせるミラは。


「姉さん、良く聴いて。 これは、ミシェル姉さんに言ってないけどね。 多分、溝帯を横断して巨大鰐を殲滅したのは、恐らく彼よ」


ミラの意見に、ミルダは思わず振り向いた。


「まっ・さかっ」


濡れたローブをタライに入れたミラは、姉の横に来て座ると。 つい昨日までの事を全て話す。


“溝帯に棲む巨大鰐は、砂塵を巻き上げて獲物の視界を奪うそうな。 詰まり、衣服に砂塵が着く者こそ、あの凄業をやって退けた者。 溝帯を抜け出して一番に近い街は、このバベッタのみ。 バベッタを訪れた冒険者で、衣服に砂塵を着けたのはKのみだ”


次に。


“Kの依頼に対する慣れ方は、有名に為った冒険者のそれに当てはまる。 あらゆる依頼をこなせるなど、今の有名な冒険者チームを集めたとしても、どれだけの数が同じ事を出来るか解らない”


そして、


“最近、急に台頭したポリアのチーム。 町での女性失踪事件、〔グランディス・レイヴン〕の救出依頼を成功させた。 だが、あの悪魔の山、魔性の森を抜けるのには、あの一帯に過去から何度も入った経験が必要だ。 選ぶ捜索の道、モンスターやら危険な病気を媒介する虫などに対する知識と。 万が一にも病気に為った時の対処。 然し、これまでの仕事を窺い見て、ポリア、ゲイラー、フェレックの率いるチームに、そんな知識を持つ者は居ない。 だが、Kならば当てはまる。”


そして、ミラが一番に気になった事が有る。 それは、ポリア達の事だ。


「それからね、姉さん。 あのポリアって云うチームが、最初に〔黒革の本〕にチーム名を書かれたのは、オガートって町の女性失踪事件の解決なんだけど。 其処で…。」


“町の奥の森に潜んで居た、強力な亡霊が支配する根城を潰した”


「……って云う記述が在るの」


「それが・・どうしたの?」


「姉さんっ、私達の経験を思い出して。 数々の不死モンスターを生み出して、巨大な城一つを結界に閉じ込めるなんて強力な亡霊なんかっ。 その辺の駆け出しが、相手を出来る訳なんか無いわ。 誰か、このチームを導いた者が居るのよ」


「みち・びいた?」


「そう。 この事件で、町の“町史”って云う役職を代行した息子と、その護衛用人が罪に問われた。 だけど、この護衛用人って、あの‘流れ狼’をしていた悪名高いガロンよ?」


「え・・あ、え゛っ?!」


やはり、殺されたガロンは、有名な者だったらしい。 ミラも、ミルダも、彼の名前を知っていた。


ミルダの傍らに立つミラは、沸いているお湯で温かいミルクティーを作り始め。


「その町を治める役人の護衛用人に納まってたガロンだけどね。 噂だと、その町史を代行していた息子に手を貸して、殺人に手を染めたりしてたみたい。 だけれど、捕まる前に町から逃亡したらしいの」


「逃げっ、逃げた・・って?」


ミルダは、まだ冒険者をしていた頃のガロンを知っていた。


冒険者協力会から、お訊ね者寸前の扱いを受けていた彼。 然し、ある時は、悪党らしい鋭敏な勘から危機を察して、殺人を調べる役人の追求が来る前に逃げ出したり。


またある時は、別の結成したてのチームを誘い、依頼を請け自分一人だけの生還の後。 主に、死亡したチームのことを尋ねられても、知らぬ存ぜぬを突き通し報酬をせしめた後。 亡くなった冒険者とは知り合いと云う、別のチームと諍いの末に刃傷沙汰を起こして。 その直後、その街から逃げた。


あのガロンは、そんな風にして生きた冒険者。 一度でも逃げ出せば、絶対に捕まらず逃げおうせる渋とさが有った。


「ミラ。 あのガロンが逃げたならっ、何時か必ず復讐に戻るわ…」


ガロンの噂を知るだけに、ミルダもガロンの悪意が牙を向くと察する。


それは、ミラとて解り得る。 だが、その話には続きが有る。


「えぇ。 姉さん、その心配は解るわ。 でも、ホーチト王国の溝帯付近に在る国境の街で、ガロンは何者かに殺害されたって…」


「ミラ、それって本当に? あのガロンが、逃げたのに・・殺されたの?」


あんな人間が、逃げた先で殺されるとは…。 殺伐とした人生で、鋭く凶暴な剣の腕を身に付けたガロン。 そうでなくては、他人を犠牲にするとしても、様々な依頼をこなせる訳は無い。 自分と同じく、凶悪なお訊ね者を狩る賞金稼ぎとしても、ガロンは名が知れた事も在るのだから。


でも、ミラは既に確認を取った。 ミシェルより問い合わせて貰い、絶対的な確認でガロンは死んだと。 ホーチト王国の政府からの発表を知る。


「ミルダ姉さん、事実よ」


「で、でも、あのガロンよ? 身替わりとか・・」


ミルダの心配に、ミラは首を振って答える。


「あのね、姉さん。 ガロンの遺体を、その街の港で発見したのも。 溝帯で巨大鰐が殲滅されているのを確認したのも。 実は、〔スカイスクレイバー〕なの」


「まさかっ、アルベルトのチームが・・、そう」


脱力する様に、ガロンの死を納得するミルダ。 “スカイスクレイバー”のチームならば、誰でも信用する。 彼らは、現役に動くチームの最高峰に居るのだ。


さて、マグカップに暖かい紅茶と羊乳を入れて、ミルクティーを作ったミラ。 それを姉に渡したミラは、姉に更なる情報を言う。


「だけどね、姉さん。 問題は、此処からよ」


飲みかけたミルダだが、ミラの態度が神妙と云うか。 更に真剣に成ったと感じる。


「な、何が?」


「昨日、こっちに流れて来た、或るチームが居るの」


「誰?」


「ガロンの死体が発見されて、尚且つ、巨大鰐の殲滅を確認した斡旋所の在った街から来たチームよ。 若い女性が多いチームだけど、その一人が妙なことを言ったわ」


「‘妙’な・・こと?」


「そう。 斡旋所に来たアルベルトは、依頼を受けるより先に。 ガロンについて、しつこい程に聴き回っていたって。 そして、ガロンを殺した者には、恩賞が出るから捜して欲しいと…」


この話には、ミルダも違和感を感じる。


「どうして、アルベルトが其処まで? 彼は、只の発見者でしょ?」


然し、ミラの顔はいよいよ戦う時の真剣そのもので。


「その後よ。 溝帯の巨大鰐の掃討依頼を、アルベルト達が請けたのは。 だけれど、戻って報告をしたアルベルトは、ガロンを殺した者を捜す様に、斡旋所の主へ再度言ったって。 巨大鰐を退治したのは、ガロンを始末した者と同一人物だって」


「え? ・・本当に?」


ミラの話に、ミルダは想像を掻き立てられる。


(剣の腕を天才として皆に称されるアルベルトが、ガロンを殺した者に執着する理由・・。 溝帯に向かい、巨大鰐を殲滅した者に固執する…)


ミルクティーを見つめて、物思いに耽る姉に。 ミラも、先にこう成った自分と同じだ、と思いながら。


「姉さん、その・・街から冒険者が云うにはね」


「ん?」


「ホーチト王国の国境の街で、彼女は両方のアルベルトを見たそうよ」


「両方・・。 ガロンが死んだ時と、溝帯から帰った後のこと?」


「えぇ。 そして、その溝帯から帰った時の様子を見た後。 夜、真夜中に近い頃。 偶然だけど、格式高い飲食店から出て来たアルベルトが、珍しく泥酔していて…」


“どうやったらっ、私は・・あの域に達せるっ!? あの斬り口は・・、もはや神の域だっ! 私や・・あのリオンでも、死ぬまで掛かったって、至る事の出来ぬ腕ぞっ! 必死にっ、此処まで登って来たのにっ! あの二大剣士より遥か上が居るなどっ!! くっ、何処だっ! ガロンを殺した者はっ、何処に居るのだっ!!”


「・・こう言ってたそうなの」


ミラの話で、ミルダも視線が固まる。 その様子を聴くだけでも、朧気に何が起こったのか、想像が付く。


(ま・まさか、あのアルベルトが・・・絶望したの?)


この意味、この感覚は、まだ若い駆け出しの頃の冒険者には、一度は通る道と言える。


このミラやミルダとて、理解が行く。


例えば、熟練の魔法遣いならば、他の者が使用した魔法の威力をも。 使用されて時間が経過しても、その場に行けば朧気に解る。 破壊された痕跡は、目視で知り得る情報だが。 使用された魔法が強力で有れば有るほどに、魔力の波動が其処に蟠る。 その魔力の微かな蟠りすら、魔法の威力や魔力の制御を知る見えない爪痕に成るのだ。


詰まりそれは、剣士としての彼も同じ事。 倒された相手、倒し方、斬り口を視れば、それが如何なる力量の者が遣ったか、即座に感じ取れる。


(まさか、あのアルベルトが絶望する程の腕・・。 生ける伝説と成った〔二大剣士〕を超えるって、そんな冒険者なんか存在するのっ?)


姉のミルダに湧く疑問は、ミラには手に取る様に解る。


だから…。


「姉さん。 薬の知識や調合の力量、モンスターについての深い知識、世界各国やその地域の知識。 冒険者としての経験や慣れ方を総合すると、あのケイって・・徒者じゃ無いわ」


「・・・ん」


悔しいことだが、ミルダは認めたく無いだけで。 Kには、確かに一流の冒険者としての知識や経験や見識が備わる。 そんな者が、一人で流れて駆け出しの面倒を見ているのが、理解に苦しい。 普通、冒険者の誰もが実力を磨いても、長年組んだチームですら世界最高の高みに突き抜けられず。 限界を感じて辞めたり、バラバラに成って違う形を求める。


それなのに、あのKの生き方。 遣り方は、そうゆう高みすら嘲笑うかの様な、飄々とした自由さが窺えた。


理解しても、受け入れ難いと黙るミルダ。


一方、もう理解して受け入れたミラは、姉の肩に手を置いて。


「姉さん。 それに、夕方前のオーファーが云う通り。 私達は、二年も冒険者の仕事から離れてる。 あの事が、大事ならば。 捜しに行った姉さんが死んでしまったら、何の意味も無くなるの」


「ミラ…」


この姉妹、この冒険者の行方不明事件について、何か知って居る様だ。


いや、思えば昼過ぎの話し合いにて、〔兵隊〕がどうの、と言っていた。 Kは、斡旋所の主の仕事に差し障るとして、その話に突っ込んでも、直ぐに退いたが。 一体どうして何チームも冒険者達が、この違和感を覚える捜索の依頼を受けて向かったのか…。


闇に潜む疑問が、在る。


ミラは、その事も在るからだろうか。


「姉さん。 姉さんを生かせる可能性が在るのは、何処かのチームじゃない。 あのケイよ」


二人して話す其処に、


「嗚呼っ、ミルダっ! 戻ってたのねっ!」


長女のミシェルが、雨具どころか衣服もびしょびしょにして戻る。


ケイやステュアート達を信用せずに、隙を見て飛び出して消えたミルダ。 そのミルダを捜しに、人手を借りてまで捜索していたミシェルだった。


先に戻ったミルダは、手間を掛けさせたミシェルへ。


「姉さん、先走ってごめんなさい。 濡れて、頭も冷えたわ」


妹の謝罪を貰ったミシェルは、近くの店から借りた人手に金を渡す。 手間を掛けさせた礼金だった。


そして、三姉妹は深夜まで話し合う。 そして、気持ちを一つにした…。




     〔その4.捜索へ…。〕



一夜が明けて、雨は小降りに為った。 それが昼間に近くなれば、空を埋め尽くしていた暗雲にヒビ割れが生じ。 光が差し込む様に成って来る。


雨が止もうと云う頃。 斡旋所にて、ミルダと合流したステュアート達。


三姉妹が揃うカウンターに立つミルダ。


一方、そんな彼女を斜に構えてチラ見たKは、


「どうやら、踏み留まったらしいな。 昨夜の雨は、よほど冷たかったか?」


と、せせら笑いを見せて云う。


(え゛っ?)


行動を読まれたと察したミルダは、Kの眼力に恐ろしさすら覚える。


だが今は、それを問い質す猶予は無い。 ミルダは、ステュアート達に。


「先ずは、行く前に一つ注文を付けるわ。 街を出るまで、役人に声を掛けられても、絶対に目的を他言しないこと。 北東の山中に、モンスター退治に行くとするわ」


これには、セシルも、エルレーンも、ステュアートも驚くし。 オーファーは、眉を顰めた。


然し、Kだけは。


「ナルホド。 元々の調査依頼の出所が、この街の政府からって訳だ。 色々と、権力も暗躍しているらしい」


こう呟いては外へ歩き始めるではないか。


Kの返しに驚く、三姉妹の面々。


その三姉妹の反応からステュアート達も、この仕事に至る事態には、何か裏が在ると認識する。


そして、その読みが当たって居る事が、直ぐに解った。


バベッタの北門は、スタムスト自治国の国境都市に繋がる街道と直結に繋がる。


Kと三姉妹の様子からスッキリしない出立と成ったステュアート達だが。 その北門を出ようとした時に、門の見張りに立つ衛兵が槍を横にして。


「お前達、止まれ」


と、ステュアート達を止めた。


K以外のステュアート達四人が、各々に驚いた。 何故ならば、今も人馬が門を行き交い。 冒険者やら旅人も、普通に出入りする最中だからだ。


門番をする衛兵から見られたミルダは、


「何か?」


と、自ら前へ。


止めた衛兵も、ミルダに近寄り。


「貴女は、確か斡旋所の主をする三姉妹の一人では?」


「そうよ。 何か、問題でも?」


「問題と云うか、何故に街の外へ?」


明らかに、ミルダの動向を窺っている。


その様子を見たKは、内心に。


(主として働く三姉妹の人相描きが、全ての門に回ってやがる。 美人だから解りやすいが、こりゃあ権力の方も力を入れてるぞ)


と、何かの蠢きを察した。


さて、検問に引っ掛かった形のミルダ。 然し、この事も予めに予測が出来ていたのか。


「北東の岩山で、新たにモンスターの動向が確認されたの。 その退治の依頼を請けたのが、この通りに結成し立ての駆け出しでね。 補助と監視で、私が出向く事に為った訳よ」


説明を聞いた衛兵は、ステュアート達をジロジロと見るや。


「確かに、知らない顔ばかりだな」


と、納得する。


斡旋所の時より態度の悪いミルダは、ウンザリするとばかりに。 鋭く蔑む視線をステュアートやセシルに向けて。


「最近、斡旋所に来るのは、こんな駆け出しばかりでね。 面倒を見るこっちも、色々と大変よ」


何処か、吐き捨てる様な物言いをしては。 次に、腕組みして衛兵を見る。


「街道付近の岩山に出るモンスター退治ならば、先ずは兵士が討伐行動をして欲しいわ。 鮫鷹の500ぐらいなら、兵士の方で訓練がてらに退治して頂戴」


と、注文まで付け返す。


然し、“鮫鷹の500”とすれば、それは兵士にすると訓練では無い。 “命懸けの掃討作戦”に成る数だ。


衛兵は、その数に驚いたのか。 急に槍を立てて道を譲ると。


「いっ、今。 兵士は仕事が多く、その数の鮫鷹を相手に訓練とは行かぬ。 モンスター退治、頑張ってくれ。 この数日、鮫鷹の目撃例は確かに激増した。 冒険者よ、頼むぞ」


こうして質問が終わった。


この経過を見たKは…。


(あの薄汚い冒険者共を始末するのに、鮫鷹に任せたが…。 まさか、言い訳に使えるとは、運の巡り合わせだゼ。 だが、確かに始末は付けないと、な…)


さて、兵士の聴取を切り抜け街の外に出た6人。


セシルは、街から離れて直ぐに。


「駆け出しの集まりで、悪かったわねっ」


と、イヤミを返す。


言い訳に利用されたと解っても、やはり一言は言いたいらしい。


だが、黙るミルダへ、オーファーが。


「それより。 この調査をして、主の其方は大丈夫なのですか?」


ステュアート、セシル、エルレーンは、意味深な物言いをしたオーファーと。 彼の話で顔を背けたミルダを交互に見た。


処が、其処にKが。


「その辺の経緯は、後でいい」


全員が、Kに視線を寄せる。


ミルダは、冒険者達の消えた現場を知らないだけに。


「で、どうやって行くの?」


先頭を行くKは、自分が道案内と云う事で。


「目的の地域が、デプスアオカースの群生地ならば。 此処から直接、真っ直ぐに山へ入るより、形としては迂回に成るがな。 街道をこのまま行って、真横から西に向かう形で岩山に入った方が、二日半から三日で到着が出来る」


と。


「街道を行くのね?」


「そうだ。 それにその方が、雑用も済ませられるからな。 一石二鳥だ」


「えっ?」


何事かと、反応するミルダだが。


振り向きもしないKで。


「おいおい、お宅はまかりなりにも斡旋所の主だろうが。 スタムストから続く街道沿いや地下道付近で、モンスターの群とはちいっと面倒な話だろう?」


Kの魂胆を察するミルダは、


「もしかして、噂の鮫鷹を倒すの?」


と、尋ねれば。


「当たり前だ。 アンタが街を出る口実にモンスターを利用して、その後に誰もモンスターを倒して無いんじゃ~嘘がバレる」


然し、それでは道草を食う事で。 退治する過程で疲れたり怪我をしては、本末転倒と思い。


「道の途中だからって、鮫鷹なんか相手に向かって行ったら、近道も近道に成らないわっ」


と、ミルダが怒る。


一方、Kは耳を軽く弄り。


「此方から行くんじゃ無ぇ。 向こうから来させるんだ」


この理解の出来ないKの話は、ミルダをイライラさせた。


だが…。


或る花の花粉で、酷い死臭に似た臭いを放つものが在る。 それを集めた物は本来、モンスターが居そうな処の山奥に撒いて。 モンスターの嗅覚を臭いで誤魔化す為の商品だ。


それを用意していたKは、その花粉の入った瓶の蓋を開けっ放しにし。


「こうすりゃ、鮫鷹が俺を襲う。 悪いがな。 アンタの嘘が早々にバレると、斡旋所に居る二人が危ないぞ」


こう言われたミルダは、ドキッとして息を呑む。


(まっ、まさか、もう秘密が・・)


自分を含めた三姉妹がまだひた隠しにする、“或る秘密”。 こんな風に尻拭いされると、全て明るみに成って居るのでは・・、と不安に成る。


強張る顔のミルダへ、顔半分を見せたKが。


「落ち着け。 まだ、何も解らねぇよ。 只、兵士が動く様なヘマは、するべきじゃ無いって話だ」


と、一人で皆より先行する。


どうして、そんなに何でも解って居るのか。 このKと云う人物に、疑問と恐怖を覚えたミルダ。


だが、Kの読みは、意外と正しい。 街を出る言い訳に、街道沿いのモンスターを挙げて於いて。 そのまま何もしないで山に向かえば、その情報は何れ門番の衛兵に伝わるハズだからだ。


このバベッタの街の北門から続く街道を、そのまま延々四日、北北東に行けば。 巨大な一枚岩に入る亀裂の或る場所から、長い長い地下道に入ることが出来る。 この地下道とは、スタムスト自治国とクルスラーゲを地続きで行き交う事が出来る唯一の道だ。


この地下道とは、まだ民主制スタムスト自治国が建国する前より在る。


だが、クルスラーゲがこの地下道を管理する様に成ったのは、世界が貴族至上主義より脱し始めた頃。 今は結界が張られ、洞窟内の安全は確保されている。 然し、それ以前は、世界でも屈指の危険な街道で在り。 


“強盗やらモンスターの危険から、冒険者を必ず護衛に付ける必要が有る”


と、商人の間で言われ続けていた。


また、この地下道に繋がる両国内を通る街道は、道と野原の区別が付けられているぐらいで。 未だ舗装の整備が進まないのは、スタムスト自治国側に抜け出したとしても。 その道を利用するのは、村より規模の小さい集落や少数部族。 他、スタムスト自治国が統治しない、貴族至上主義が支配する中立都市国家が利用する為だったからだ。


然し、漸く安全が確保されて来た今。 双方の国に住む国境都市付近の集落からは、稼ぎを求めて物資、人馬が動く。 北東から東側の溝帯付近、真北に位置する岩山連山を避けて、少数部族の人々は集落を築いて来た。


今、世界は人口が増えているし。 商業の流通は、都市を栄えさせて金を生む。 バベッタの街から南の海まで、河の流れに沿った街の発展が目覚ましいのも。 この人や物の動きが活発と成ったからで有る。 本来、元の国の発展のみ目を向けて来た両国だが。 経済の発展が右肩上がりの為に、その無視も出来なくなり。 両国も、この街道の管理に力を入れ始めている。


然し、その洞窟までの道には毎年、スタムスト自治国側、クルスラーゲ側の双方の国から、“モンスター退治”の依頼が斡旋所にて作られている。 その理由は、東の溝帯側、西の山岳側から来るモンスターの目撃例やら、襲われた被害例も後を絶たない為。


そう、もうこの街道は、放ったらかされた場所では無い。 そしてミルダは、この街道に現れるモンスターを、外に出る為のダシに使った。 一方のKは、悪しき冒険者を始末させる為に、やはりモンスターを利用した。 このモンスターが街道の罪無き人に影響を与えれば、様々な意味で支障が出る。


“丁度いい。 後始末は、自分がする”


Kは、言わずしてこう決めたのだ。


さて、これはKも全く預かり知らぬ事なのだが。 実は、鮫鷹が飛来する原因の実態は、別の処に有る。 今、溝帯内部では、増えに増えた鮫鷹を狙い。 大型の飛竜や肉食昆虫系のモンスターが増えている。


Kが巨大鰐を始末した為、その死骸へ群がる大部分の群れが有る一方。 他の餌を探し求めて、溝帯内部から外側に飛び出す群れが増えているのだ。


ま、面倒な理屈は、この辺りにしよう。


Kの本領からすると、それは小さな一部だろうが。 ステュアート達やミルダなど、皆は見る。 街道から東の溝帯方向に道を逸れ、岩肌が露出する岩山沿いにて。 皆より少し離れた先で、集団を組み飛来する鮫鷹の群を、短剣を抜く手も見せずに撃ち落として行くKの手練を…。


後から鮫鷹に駆け寄ったステュアート達は、見たことも無い力で、スッパリと切断された鮫鷹の群を見て。


先ず、ステュアートが。


「うわわっ、凄い斬れ痕。 これ、剣で斬ってるの?」


鮫鷹の身体の断面は、見事なまでに歪みや乱れが無く。 刃物を使って切った断面より、格段に美しい。


セシルは、鮫鷹の落ちた辺りとKの居た距離から、直接的に斬って無いと。


「チョー離れてるのに、ぬぅわんで斬れる?」


と、疑問を投げた。


それには、Kを凝視するエルレーンが。


「もしかして、さ。 超凄い腕の戦士や剣士だけが遣えるって云う、〔バトルオーラ〕を遣ってるんじゃない?」


「ばっ、“バトルオーラ”っ!!」


オーファーとミルダが、同時に驚き。


先にオーファーが、Kの行く方を見て。


「やはり、溝帯に大発生した巨大鰐を退治したのは、ケイさんか…」


その後、ミルダが続けて。


「何で、一人なのよ・・。 彼方此方で、駆け出しの面倒や尻拭いを遣る必要なんて、無い・・じゃない」


と、敗北から来る脱力感に襲われた。


時が過ぎて、昼下がり。


次第に、見ているだけが悔しく成るステュアートやオーファーは、その討伐行動に参加するも。


「おい、山に入る前から怪我するなよ。 身体を馴らすのは、明日でもいいぞ」


と、Kは乾いた意見を出すのみ。


それでもステュアートは、鎖の先に付いた分銅を上手く使い。 投げつける鎖で鮫鷹を絡め、引きずり落としてからトドメを入れる。


一方、オーファーは…。


杖を構えた体勢から、集中して瞑目すると。


「天を駆け、空を巡る風の力よ。 我が意志に応え、意のままに駆ける渦となれっ」


と、強く、大きく、下から振り上げた。


オーファーの詠唱と動きに合わせ、目に見える形で風が集まり。 空中に、人より高い旋風が生み出された。


「むっ、行けっ!」


更に飛来する鮫鷹の群れへ、オーファーは杖を押し出した。 旋風は、伸縮してミミズの様な動きにて、鮫鷹の群れへ突っ込んでは、次々とその渦に巻き込んで倒す。


見ていたKは、


「なるほど。 集中して、良く出来ている」


と、簡潔に誉めた。


離れた場所からそれを見ていたセシルは、


「ぬ゛っ! 遣るな、ハゲ。 よし、アタシも…」


と、武器に手を伸ばそうとするが。


Kは、一度もセシル達を見て居ないのに。


「セシルっ、エルレーンっ、戦闘は道すがらだっ。 ミルダと一緒に、辺りのオーラを窺い。 近付く様なら潰せっ。 無用に立ち止まって、鮫鷹を集めるなっ。 今日の目的はっ、この先に在る夜営拠点だぞっ」


と。


遣る気に成ったのに、その気を削がれる様な話。


「うぬぬっ、アタシだってぇぇぇ…」


悶々とさせられるセシル。


一方、先にKから誉められたオーファーは、その旋風の魔法を維持させると。 鮫鷹の血の臭いを嗅ぎ付けてか。 根や葉を遣って丘の向こうから歩いて来た肉食植物の大型株に、その魔法を突っ込ませる。 激しい渦に巻き込まれ、大男の倍以上は在る茎も、ギザギザの棘を無数に持つ穴の様な黒い花も、有らぬ方向へ千切られ解体された。


「ふぅ、ふぅ、ふぅぅ…」


魔法が消えて、呼吸を整えるオーファー。


だが、


「行くぞ」


直ぐに歩き始めるK。


オーファーも、ステュアートも、同じく続く。


そして、夕方までには、通行人に見られない所で。 大量の鮫鷹を始末したK達。


粗方を始末したKは、途中で疲れた男二人を下がらせた中で。


「これだけ遣れば、次の依頼が来るまでは大丈夫だろう」


と、目処を着けた。


さて、星が瞬き始める夜の入り。 夜営をするべく、公共に開かれた東屋の様な、庇の着いた建物へ来たステュアート達。 100人ぐらいは余裕で集まれそうな広さの、石のタイル張りされた床と。 雨風を防ぐ意味の、木造の低い壁と天井を覆う庇が在るだけの建物。


また、この夜営施設の裏には、簡素な竃が石で造られ。 旅の最中に立ち寄った者が、好き勝手に利用する。


先に着いて、竃に枯れ木を入れるKに。 後から追っ付いたセシルが。


「ちょっとっ、千は超えてるよっ」


鮫鷹の死骸の数を言っているらしい。


だが、干し肉をナイフで削ぐKは、炙る用意をしながら。


「一流に成りたいならば、鮫鷹の千や二千に驚くな。 ‘超’の付く危険な場所に行けば、万単位の鮫鷹を相手にするぐらいのモンスターと、昼夜を問わずに相手せにゃ成らん」


「まっ、ままま…」


単位に驚くセシル。


その後から来たミルダは、


「ねぇ、何で一人で彷徨ってるの? その腕なら、あのスカイスクレイバーだって…」


「フン。 そんな話、今に言う事か? 明日っからは、お前たちにも戦わせるぞ。 遊ばせる為に、連れて来た訳じゃないからな」


腕の格差が解ると主をするミルダでも、Kに強い事を言うのは、正直なところで躊躇う。 やはり実力の差は、奇妙な上下関係を生むものだ。


さて、庇の下と成るタイル張りの一角には、早く来た冒険者が箒で掃いたりし。 寝る為の場所を確保したりする。


変則的に横へと長い造りをする夜営施設。 その隅っこにて、肉を焼いて持って来たKが食事を始めた。 周りに居るセシルやステュアートは、喋らないKに反応して押し黙る。


処が、そんな彼らの周りでは、後から来た商人の一行が入って来て。 ガリガリに痩せた中年男性が、折り畳み式の椅子を広げてから。


「旦那様」


と、立派な体格の初老男性へ言う。


腰には長剣を佩いて、衣服は旅に実用的な厚手の上着と云う。 その立派な体格の初老男性は、


「どうした、マッツォ」


と、椅子へ腰掛けた。


ガリガリの中年男性は、古くとも洗い晒しの作業用衣服を正しながら。


「いえ、ね。 街道の外れに、鮫鷹の群が死んでたじゃないですか」


「うむ、何処かの冒険者チームが、退治の依頼でも請けたのだろうよ。 私が怪我をしている最中だから、有り難いことだ」


と、大柄な初老男性は、自身の左腕をさすった。


一方、同意見と云う痩せた中年男性は、背中の荷を下ろしながら。


「ですね。 売りに行く羊も、今回は一頭も襲われずに、此処まで来れましたし。 幸運でしたね」


「そうだ、そうだ。 マッツォ、この様子だと今回は、不足も無く全て売れるだろう」


「はい、嬉しいことです」


「そうなれば、多くは無いがな。 お前にも、多少は駄賃を水増し出来よう」


「有り難いことです。 では、値が下がらない様に、羊の面倒を看て来ます」


「あぁ、頼む。 それからな、マッツォ。 自分の食事も、疎かにするな。 お前は、元から食が細い。 長く歩く地下道では、羊よりお前の身体が心配だよ」


「下男の事までお気遣い下さり、有り難う御座います」


こんなひそひそ話が起こったり。


また、旅芸人の一座が集まれば。 陽気な音楽を奏でながら、モンスターが倒され、旅の安全を願う歌が唄われる。


続々と夜営施設に集まる旅人。 その話題は、少数の鮫鷹が群がっていた、無数の鮫鷹やモンスターの死骸の事。 その話を聞きつけて、スタムスト自治国から来た旅人が。


「ちょっと、一緒していいですか…」


と、その話の輪へ入る。


そして、この話題についての極めつけは。 後から来た十人を超える大所帯の冒険者達が、食事をし始めながら。


「ねぇ、さっきの冒険者達の話、本当かなぁ」


と、若く髪の長い女性の剣士が言うと。


その隣に居る、長身で槍を傍らに置き、重装備を外したばかりの色黒男が。


「そんなの、只の噂に決まってる。 溝帯の大鰐を殲滅する腕前の冒険者なら、俺達が知らない訳がないさ」


と、応えた。


然し、また別の女性僧侶が。


「ですが、あのスカイスクレイバーのアルベルト様が、血相を変えて捜していたとか…」


そんな話が、延々と妄想や想像を交えて話合われて居る。


夜営拠点を利用する者は、各々にカンテラやランプに灯りを入れて、それを天井に在るフックにぶら下げ。 拠点内が煌々と成る環境を作り出し。 近況やら噂やらを話し合う。


それを黙って聞くK以外は、


(目の前に、どっちも遣った本人が居るって…)


と、思う。


だが、Kは。


(この依頼が終わるまで、余計な事を言うんじゃネェぞ。 この仕事は、噂一つも命取りに成る可能性を孕む。 衛兵が、美人とは云えミルダを見知ってるなんて、誰かの差し金で人相描きが回ってるとしか思えない。 お前らの虚栄心を満たす為に、俺はモンスターを潰してる訳じゃ~ないぞ)


と、釘を刺した。


エルレーンとセシルは、この時のKの声が怖いと、何度も素早く頷き返した。


そして・・。


噂好きな二人だが、余計なことを喋らない様にと。


「ねぇ、君達さぁ」


隣に来た美顔の吟遊詩人の語り掛けに、素っ気ない対応をしてしまう一面も…。


Kの主導で事が進むと感じるミルダは、


“既に、自分達姉妹の隠す秘密が、この包帯男にバレてしまったのではないか”


と、内心に焦った。


そして、賑わう拠点内で。 他者との交流も当たり障りなくするオーファーは、まだ若さ故にソワソワして居るステュアートへ。


(ステュアートよ。 ケイさんの云う通りに、口には気を付けた方が良い。 主の三姉妹は、まだ何か大きな事を隠して居ると思う)


と、一つ助言をした。


頷いて返すステュアートは、


“本物の一流冒険者とは。 こうして察し読み抜くものなのか”


と、驚くばかりに。


(ねぇ、オーファー。 ケイさんには、もしかして千里眼の能力でも在るのかな)


(さぁ、どうだか。 然し、瞬時に物事を見抜く眼力は、人並みを遥かに外れて居ると思う)


Kと云う人物の底知れない能力に、ステュアート達も、ミルダも、脱帽と云う処だ。


また、Kから釘を刺された手前、他者とどう関わって良いやら悩む皆だが…。


遅れて到着した行商人の老人が、竃の残り火を遣って水を沸かし始めてから。 暇なのか、話をすべく東屋の外側から身を入れて。


「あの、ちょっと宜しいか」


と、Kに声を掛ける。


「ん? 爺さん、何か有ったか?」


Kたるや、その自然体にて相手にも構えず応え。


「いや~儂は、スタムストの方から来たんじゃが。 道すがらに聴けばこっちの街道には、モンスターが多く見られたと云う噂を聞いてな。 アンタら、バベッタの方から来たなら、何ぞ情報でも有るかいの」


と、尋ねて来る。


処が…。 Kと来ると。


「良くは知らんが、多くの鮫鷹を潰した奴らが居ると、さ」


と、全くの他人ごと。


爺さんは、乾燥させた野菜を砕いて混ぜたものが入る、使い古した麻袋を片手にして。


「あれま、そら~有り難いね。 こりゃいい事を聞いた」


竃に戻る老爺に対して、呆れた顔のセシルが。


「タヌキだねぇ~」


と、Kを見た。


その後、夜が耽ると共に、一人・・また一人と寝出せば。 それに気を遣って、皆が次第にランプやらカンテラの火を落とす。


東屋に人が来る様子は、真夜中まで続くが。 K達は夜半までに全員が寝付いたのだった。


さて、次の日の早朝。


良く晴れた夜を過ごしたステュアート一行だが。 朝方に成って、濃い霧が辺り一面を包んだ。 その霧に紛れる様にしてステュアート達は、Kに促されて出立する。


久しぶりの旅で、ミルダなどは筋肉痛と成る処だが。 昨夜にKから渡された緩和薬の効果は、本人も驚くほどに身体を軽くする。


然し、今日はいよいよ山へ入る。 街道から西へ逸れて、荒れ地の岩場へと入る頃。


「うひぃ~、まだ朝方だよぉ~~~」


眠そうな顔をするセシルが、足場が安定しない岩場にて、霧で見えにくい中に文句を言う。


先頭を歩くKは、歩く速さはゆっくりとしながらも。


「グ~スカピ~スカと、デッカい鼾を掻いてた奴が。 一番に寝不足ぶるとはな」


大の字に寝て、オーファーとエルレーンを魘させた張本人だが。


「ウソ言わないでよ゛っ」


苛立つセシルだが、後ろからオーファーが。


「微かな地響きがしていたのは、確かだぞ。 然も、私の顔に拳を置いていた…」


「え゛っ?」


全く知らないセシル。


処が、昨日の真夜中に。


ステュアート達から一番離れた場所に寝ていた旅芸人が、セシルの鼾に身を起こし。


“何処かに、象の様なモンスターが居ないか? 微かに、地響きがするんだが…”


と、不安を言っていた。


恥ずかしく為ったセシルは、ステュアートに向いて。


「ちょっとっ、少しは対処しなさいよっ」


「え゛っ、僕ぅ?」


「仲間でしょっ、リーダーでしょっ?」


「え゛っ、え゛ーーーっ!」


責められるステュアートは、一人で困る。


其処へ、エルレーンから。


「今だからぶっちゃけちゃうけど。 鼻を摘んでも、頬を引っ張っても、鼾が止まなかったわ。 ケイは、‘蹴っ飛ばせ’って、ハッキリ言ってたけどね~」


「ぬぁ~にぃぃぃ」


セシルは、怒りの眼差しでKを見る。


だが、Kは素知らぬ顔で。


「ンなら次からは、鼾の出所を皆に教えてやるか。 どうせ寝てやがるからな、一発や二発は殴れるぞ」


この話の後に、無言ながら何故か、拳を鳴らすオーファー。


それに気付くセシルは、今にも噛み付きそうな目や態度にて、拳を鳴らした訳を聴いた。


無視をするオーファーは、ゴツゴツとした顔に似た風景の岩場を行きつつ。 Kの後を着いて行く。


そんな事をしながら歩いて行くうちに、陽も上がり次第に、霧も晴れて行く。 何時の間にか爽やかな青空の下、生える植物も固有のものばかりが目立つ、そんな岩場が辺りに見える。


先を歩くKは、行く手の右側の岩壁の上より、ブーンと云う羽音が来た瞬間、手にする棒切れ一つ軽くヒュッと振った。


後を行くミルダとエルレーンの前に、バサッと何かが落ちる。


「わっ」


と、驚くエルレーンと。


「な゛にっ?」


咄嗟の反射からステッキ状の杖を構えたミルダ。


二人の前を行くステュアートも驚き、後ろへと振り返る。


固い岩盤が剥き出しの地面に落ちたのは、十歳ほどの子供と変わらない甲虫だ。 赤茶けた外郭の甲羅や手足、ずんぐりとした丸い身体つきは、コガネムシやカナブンみたいな印象である。 然しその口には、ギザギザした牙が並んでいた。


前を右に曲がって行くKは、岩場の中に下って消えながら。


「そいつは、この辺りで要注意な肉食昆虫だ。 モンスターと交配した混合種で、肉なら生死を問わず食らう。 魔術師が三人も居て、気付くのか遅いぞ」


と、説明をする。


ステュアートは、鎖鎌の留め金を外し。


「もう此処も危険なんだ」


と、Kの後を追う。


エルレーンも、剣の留め金を外して。


「よし」


と、気合いを入れ直した。


セシルやオーファーも、油断は禁物と緊張感を持った。


だが、既に人の気配が全く無い山地。 人も動物も見当たらない場所は、モンスターの生息地と云う事なのだ。


朝の間に、奥地に踏み込むことどれほどか。 四方を見上げられる窪地の日陰にくれば、山野を駆け回る草食の四つ脚の鳥類〔マギャロ〕の群に出くわす。


もう北西方面へ切り込むように進むKは、岩場の一角から染み出す水場を教え。


「そら、今の内に水でも補給しろ」


水に飛び付くセシルやエルレーン。 ブランクの在るミルダも、後に続く。


斜面の岩場に群るマギャロは、一斉にK達を見下ろして来た。 この岩場では、K達人間の方が部外者だった。


Kは、そのマギャロを眺めて居る。


そのKの脇に来たステュアートは、


「マギャロだ。 飛べないけど、山岳地帯も素早く走れる鳥ですよね」


と、その変わった鳥類を見る。


地面色の瘤を頭にボコボコと持つ、蝙蝠が歩く様な姿の鳥がマギャロ。 食べる植物により、その体色が変わる鳥としても知られ。 この山地に居るマギャロは、赤い皮膚をする。 白黒の羽が生えるのは、背中と首筋と腕のみ。


ガブガブと飲むセシルなどとは違って、水を軽く含むのみ・・と云うKは、此方を-aa-マギャロの群を見て。


「あのマギャロが居る限り、モンスターに因る街道を行く人の被害も、限定的なものだろうな」


「あ、なるほど」


「これだけ繁殖してるって事は、この辺りのモンスターが与える影響は少ないってことだ。 だが、俺らが行く先は、もっと危険な場所だぞ」


「はい、気を引き締めます」


こう返事したステュアートは、水を補給しようと水場に行った。


マギャロに見られ、またマギャロを見るKの元に。


「あれが、マギャロですか…」


次にオーファーが来て、Kと並ぶと。


「山地の此方側にしか居ない種らしいので、見るのは初めてです」


と、マギャロを観察する。


「流石に、溝帯側じゃ~マギャロも食い尽くされる。 神聖皇国クルスラーゲの山沿いは、結界やら人の手が入るからな。 マギャロも殖えやすいんだろうさ」


「なるほど」


それから、雑談も少しして。


「そろそろ行くぞ」


と、Kが出発を促す。


北西へ急斜面を登るのだが。 間近まで近寄ってもマギャロは逃げないで、苔や小さい草を一生懸命に啄む。


その急斜面の中ほどにて、ゼーハー言って斜面を登るセシルが。


「涼しいカオしてぇ・・、エサ・・パクついてんじゃ・・な゛いわよ」


と、不細工なマギャロを睨む。


一方、傾斜の度合いが強い斜面ながら、普通に歩く姿で登るKは。


「お前より穏やかで、モンスターと人の間に入る素晴らしい動物だ。 怒って煩いばかりのお前より、百倍は可愛いぞ」


「ひゃっ、百倍ぃぃっ?!」


驚くセシルだが。


先を這う様に行くエルレーンが。


「私も、ご・五倍く、くらいは……」


そして、ステュアートの後ろに居るオーファーが、ボソッと言う。


「千…」


それが聞こえたセシル。


「このぉエロハゲぇっ! 魔法で撃ってモンスターのエサにしてやろうかぁぁっ」


怒鳴るセシルの周りから、マギャロまで引いた。


自然の温厚な動物に引かれたセシルを見て、疲れて居るミルダすら。


「フッ」


と、失笑する。


“皆に嫌われた”


と察したセシルは、マギャロを睨み付け。


「帰りはぁ、お前等はとっ捕まえて乗り物だからな~~」


と、恨み節を吐いた。


さて、その斜面を登りきると。 岩場の山肌が剥き出しに広がった、標高も高く成った峰に上がる。 昨日の昼下がりから好天が、今日まで続き。 照り返しの強い岩場では、暑いくらいの陽気で。 赤茶けた岩場が熱を持ち、北風の中でも動くと汗ばむほど。


その峰を伝う様に歩いて、太陽が真上に上がった。 転がる岩が大きく成ると、影に成る処でKが。


「休憩だ。 ゆっくり休め」


と、皆を休ませる。


黒いローブ姿のミルダは、息も絶え絶えと云う様子のまま。


「ね・ぇ・・あ・・後…」


と、Kを見る。


斜に立って見返すKは。


「ヘバるお前ら次第だ。 早く行けば、モンスターとの戦闘を含めても、夕暮れ前には着く」


久しぶりに歩くミルダを含めて、エルレーンとセシルも、只歩く訳では無いからか。 呼吸が乱れて疲労感が見て解る。 座って具足の紐を緩めるエルレーンやセシル。


だが、汗を掻いて息は乱れても、整うのが早いステュアートは。


「ケイさん。 僕等は、直接に洞窟へ向かって居るんですか?」


だが、早速と人間の臭いを嗅ぎ付けて来た肉食甲虫を、小石を蹴ってぶつけるだけで倒すK。


「いや、この山に冒険者が入るならば、必ず向かうべき場所が在る」


「“必ず向かうべき場所”・・ですか?」


「あぁ。 其処はな、元は山岳警備をしていた兵隊の駐屯地で。 今は、山に入った者が拠点とする場所に成っている。 俺達も其処を拠点にして、行方不明者を捜す」


「なるほど」


「つ~か、其処の状況を視れば、何が起こったのか大体が解るさ」


「う~ん、経験ってスゴいなぁ~」


「だが、此処からはこうした大岩が多く。 山の中へ下りと成る分だけに、周りは岩壁ばかりと成る。 環境が厳しい分、特定の危険な生物やらモンスターが生息するぞ。 岩場の影、曲がり道の先、岩の上、見えない部分に気を張れ」


「はい」


「エルレーンは、魔力の才能が別に特化していそうだから、感知は使えないだろう。 然し、セシルとオーファーは、普通に感じられるのだから、彼等を活用しろ」


「あ、解りました」


理解したステュアートと、話に出されたオーファーが見合った。


Kとステュアートは、もはや兄弟分か師弟みたいなものだ。 エルレーンは、その相性の良さそうな二人に、呆れた視線を送る。


同じ様に感じるセシルは、オーファーも含めた男達だけが息が合っているみたいで、何となく妬ける。


(う゛ぅ。 ワタシはマギャロ以下ぁ…)


さて、休憩を挟んでから峰の先へと降りると。 岩と岩の壁に挟まれる、細い道らしき斜面に出た。


岩壁は高く、長身のオーファーの三倍以上は在るだろうか。


そのなだらかな下り斜面を前にして、Kは言う。


「さぁ、此処からはモンスターが当たり前に居るぞ。 戦う準備は、万端か?」


岩壁に挟まれた斜面の道は、人が二人も並べば、もう誰もすれ違えない幅である。


セシルは、ステュアートの後ろから斜面の道を見て。


「な~んも居ないじゃない」


と、暢気なことを言うが。


棒切れを擡げたKは、岩の壁を見ながら。


「モンスターをいち早く察知するのは、魔法を遣える者の役目。 モンスター特有の生命波動や殺気を感じる為に、あらゆる工夫をするもんだ」


と、諭す。


斜面の道やら岩壁を見るオーファー。


「何となく、居るのは解るが・・見えぬ。 これは、擬態だろうか」


するとKは、壁の一部を指指して。


「そうだ。 岩場で擬態して獲物を待つ、〔インビジバルアレコ〕と云う亀が居る」


緩い冒険講義は無駄と思うミルダが、ステッキを構えて。


「何処っ?!!」


と、遣る気を見せた。


だが、ミルダの前に立ち阻むK。


「待った。 アンタは、出張るな」


ミルダは、キリっとKを睨む。 丸で、下に見られていると感じたのだ。


だが、辺りを見ながらKは言う。


「焦るなよ。 大体、こんな細い道で魔法を遣ったら、岩が割れて落ちる。 この岩は意外とモロい。 戦い方も見極めなければ、労力をかけ過ぎる。 帰りまで、そうゆう事も含めて後先の全てを考えろ」


「じゃあっ、どうしろとっ?」


余裕のKの境地など程遠いと、ジレるミルダ。


だが、岩壁右の少し先、影の一部分を棒切れで差すK。


「俺の差す先に潜む、擬態した“インビジバルアレコ”が解るか?」


皆、其処に目を向けるも。


セシルは、


「う゛~ん、岩に含まれてる大地の力が強くて、ハッキリとは…」


と、困るし。


エルレーンは、


「私は、全然ダメ。 ぼんやりし過ぎてて、解んない」


と、諦めてしまう。


だが、オーファーは目を凝らして岩壁を見詰め。


「ケイさん。 もしかして、あのポッカリとムラを生む様にして、大地のオーラが抜けている場所が?」


“コツが解ったか”、と頷いたK。


「モンスターの擬態は、その種類も様々ならば、遣り方も様々。 この岩場に潜むインビジバルアレコは、出したり吸い込ませる遣り方で、光の屈折を変える油を出し。 潜む時は、手足も、首や尻尾も甲羅に引っ込めるからな。 モンスターを探す感覚としてのオーラ感知をしても、感知し難い。 然し…」


語りを途中で止めつつ、皆をジェスチャーでその場に留めさせる一方。 自分一人で、その棒切れで差した場所に歩いて行く。


そして、Kがその差した場所の真下に来た瞬間だ。


「あ゛っ」


立ち止まった皆、一斉に声を出す。 その岩壁の薄暗い一部が、グニャグニャと歪んで、蠢く何かが空中に跳ねたのだ。


その様子を見上げていたKだが…。


また、ステュアート達は、


「うわっ」


と、声を出す。



その何かに飛び付かれる手前で、Kがフワリと消えたのだ。


皆、


“目の錯覚か”


と、目を凝らす時。


「ほれ、この通りだ」


消えたと思ったKは、飛び付かれた‘何か’を左足で踏みつけて居て。


「今ならば、このもがくモンスターのオーラも感じられるだろう?」


オーファーやミルダを見返した。


「詰まり、モンスターのオーラだけでは無く。 不自然に、自然のオーラが抜けたり、歪む場所も・・怪しい訳ですな」


オーファーが云わんとする意味を理解した処で、Kは頷きながら。


「そうだ。 能力の応用は、遣り方次第で如何様にも広がる。 それも出来て、初めて‘いっちょ前’だぞ」


二人の会話の間に、擬態していた何かが姿を現した。 黄土色と云うか、乾いた粘土質の土に似た色の亀で在る。


頭や手足を伸び縮みさせる亀に、セシルは近付いて見て。


「おっかない目に、凶暴そうな口してるぅぅ…」


エルレーンも近付くと、


「弱点は、この首?」


と、Kへ聞くと。


何とか噛み付こうとするインビジバルアレコを、余裕でガッシリ踏みつけて居るKは。


「甲羅は石の様に固いが、腹は柔らかい。 武器で狙うならば、エルレーンの言う通りに首か腹だ」


こう教えたKは、既に武器を手にしているステュアートを、セシルとエルレーンの間から見上げて。


「ステュアート、行くぞ。 こいつを始末しろ」


Kに言われてハッとしたステュアートは、


「どうぞっ」


と、身構えた。


そのタイミングに合わせてKは、インビジバルアレコを小さく跳ね上げ。 その尻尾の辺りを蹴り上げる。


セシルとエルレーンが目を見張り、インビジバルアレコの行方を追えば…。


「せいっ!」


真上から落とした様に、裏側を見せて落ちて来たインビジバルアレコを。 伸び上がる様に斬り上げたステュアートは、手応えを感じて血を払った。


石の斜面に転がるインビジバルアレコの甲羅の乾いた音で、戦いの火蓋は切って落とされる。


Kは、踵を返して斜面の先を見る。


「ステュアート、エルレーン、俺が出すモンスターを始末しろ。 セシル、二人の援護に回れ。 オーファー、ミルダと二人で、周りに気を配りながら待機だ」


聞き取り安い、端切れ良い言い方でこう言い切るKは、緩やかに前へ走り始める。


皆、Kの指令に身構えた。


「あっ」


誰より早く動き出すステュアートは、Kの顔が出っ張った岩の壁に近づいた時。 岩の表面がグニャリと歪み、動く何かがKの顔に襲い掛かったのを見た。 


「まだ居るっ」


と、剣を引き抜くエルレーン。


その横を、


「エルレーン、行こうっ!!」


言いながらステュアートは、その物体に走った。


「あっ、待って!」


ステュアートの反応の良さに、エルレーンも慌てて動く。


先を行くKは、新たな一匹目のインビジバルアレコを躱して。 其処から数歩先、岩影の一部に潜むインビジバルアレコが動く場所まで来ると。 噛み付こうとする動きを読んでいたかの如く、低い体勢へ屈んでから、ポーンと前に飛ぶ。


「二匹目だ」


後ろを振り返る事もなく、居場所だけ教える。


その後、Kを追うステュアートが、姿を現した一匹目のインビジバルアレコの甲羅の上に飛び乗ると。


「エルレーンっ、コイツは任せたっ!!!」


と、Kの行った方に大きく飛び越えて行った。


「了解っ!!!」


相手を見据えたエルレーンは、ステュアートが乗った衝撃で手足や頭を引っ込めたインビジバルアレコに走る。


ステュアートは、二匹目のインビジバルアレコへ。


エルレーンは、手前のインビジバルアレコへ。


オーファーやミルダの前に居るセシルは、いよいよ戦えると大筒の銃器を両手で構える。


さて、エルレーンは、向かったインビジバルアレコの首辺りに剣を突き刺す。 伸びかけた首の一部を薄く突いた剣の切っ先だが、その痛みでまた首を引っ込めるインビジバルアレコ。


「このっ」


ガッと片足で甲羅を抑えつけエルレーンだが。 また暴れるインビジバルアレコの力強さに。


「わっ、わ゛っ」


Kが余裕で踏みつけていた事に、二重でビックリしたエルレーン。


一方、同時に二匹目の元へと到達したステュアートは、ノソノソと動き始めた二匹目を後ろから蹴って。 反射的に引っ込めた首の所に、鎌の先を刺し込んだ。


攻めるステュアートと、攻め倦ねるエルレーン。


セシルは、その身体に似合わぬ大筒の銃器を構えると。


「エルっ、上げくれたら、アタシが撃つ!」


その声を聴いたエルレーンは、


(裏返す危険より、任せた方が楽ね)


手柄にしがみ付かず、咄嗟に判断したエルレーン。 強く二度踏みつけて、手足や頭を引っ込ませた後。


「行くよっ」


エルレーンの声が聞こえた時に、もうセシルの目が赤いオーラを纏って燃える。


「何時でもっ」


身構えたエルレーンは、インビジバルアレコの尻を蹴り上げる。 ガツッと、金属製の靴が音を上げた。


“キューーーー”


鳴き声と共に、岩色ながら擬態を解いたインビジバルアレコが、宙に持ち上がった。


そのタイミングに合わせて。


「イッケェーっ!!!」


セシルの持つ大筒の銃器が淡く青白く光り。 中でも特に強く光った銃の銃口から、‘シュパン!!’と噴射音するが起こった。


驚いたミルダの瞳の中で、青白く光る一筋の矢が、インビジバルアレコへ目掛けて飛んで行くのが映る。 その速さ、普通の弓で放つ矢より、更に上の速さだ。


“ドスっ!!!”


空気を唸らせる衝撃音と共に、光る矢はインビジバルアレコを貫いた。


「あらっ、あの固い甲羅を貫いたっ!」


見上げて驚くのは、エルレーン。 鏃は完全に貫いて、矢の中ほどまで突き刺さった所で。 ‘シュパーン!’と、魔想魔術の特有と成る炸裂が起こった。


二重の衝撃で更に高く上がったインビジバルアレコは、エルレーンとセシルの間に落下。 甲羅が割れる甲高い音を立てたと同時に、亀の本体が力を失い四肢や首の伸ばす。


一方、ステュアートも、トドメを刺して二匹目を倒した。


全部倒した、と皆は思い。 Kを見ようとしたが…。


「ん?」


オーファーが、斜面の先につい少し前まで見えていたKを見失う。


「あれ」


Kの姿を見失ったステュアートも、どうしたのか・・と思う時。


皆の視界に、左側の岩壁から落下するモノが入って来る。


そして、


「休む暇は無い。 先に進むぞ」


フワッと斜面の道に舞い降りて来たKが、先へ進む事を促して来た。


だが、岩壁より落ちて来たのは、黒いゴツゴツした肌の黒紫色をした大型の爬虫類。 ステュアートは、その丸い眼や伸びた長い舌より。


「カメレオンみたい」


と、感想を言えば。


後から来たセシルが、


「なぁ~にコイツ、気持ち悪いっ」


と、文句を言う。


オーファーと一緒に歩いて来たミルダは、その大型のカメレオンを見下ろすと。


「これは、〔バジリスク〕類の亜種、〔メロイドストンカス〕だわ」


隣に立つオーファーも、その名前を聞いて目を凝らす。


「それは、牙と背中の棘に猛毒が有ると云う、擬態の名人だった様な…」


剣で突っついたエルレーンは、‘猛毒’と聞くと慌て止め。


「ヤバッ、剣に付いちゃうよ」


セシルは、慌てるエルレーンに。


「エル、拭っておかないと、腐食するかもよ」


「うんっ、解ってる」


だが、まだ屈んで見るステュアートは、そのメロイドストンカスの頭から尾っぽまで綺麗に入る、一筋の斬り口を観察。


「でも、本当にスゴいなぁ~。 こんなキレイな斬り方、どうやっら出来るんだろう…」


“力の差は、途方も無い”


こう察したオーファーだが。


「ステュアート、先を急ごう。 目的は、討伐では無い」


「あ、うん」


立ち上がったステュアートは、Kの行く斜面を追い掛けた。


さて、その後を並んで行くセシルとエルレーンが居て。 拭いた剣を鞘に仕舞ったエルレーンが。


「セシルの銃器って、威力が高いのね。 剣より、楽そう」


「違うよ、エル。 一発一発の威力は強くても、矢を装填したり、魔法を発動させなきゃイケないからさ。 後方からじゃないと、至近戦は一発勝負になっちゃうの」


「あらら、使い勝手がピンキリね」


「本当は、もっと小型なヤツか、クロスボウで遣りたいンだけどサ。 アタシは、魔力の強弱とか具現化じゃ無くて。 詠唱と発動の部分に、普通の遣り方では合わない特性が有るみたい」


「へぇ~、私と違うのね」


「そだね~」


「じゃ、セシルのその武器の大きさって、その負の特性を補う為?」


「そ」


矢を込めて背負い直すセシル。


「重量は、軽い素材を使って減らしたけど。 発動を助ける古代語の文字を、この長さまで入れないとダメだった」


「セシル。 いっそうの事、武器に変えたら?」


「それ、アタシも考えたんだ。 でもさ、昔に馬車の事故で、利き手の指を半分粉砕させたんだよね」


「マジに?」


「マジ。 その時は、神殿に居た司祭様の魔法で、ある程度は回復したけど・・。 力は入っても、あんまり器用に動かせないんだよ。 だから、こうゆう形に成ったの」


エルレーンは、そのセシルの背中の銃器を見て。


「見た目や威力で選んだんじゃ無いんだね」


「まぁね。 つ~か、仲間以外には、言わないよ」


「はいはい」


エルレーンとセシルは、女同士でも相性は良いらしい。


その二人の姿を見るオーファーとミルダ。


ミルダは、思う。 戦力として、このチームに欠けている要素はあれど。 精神的にバランスは取れて居る・・と。 実力と経験を積むなら、様々な仕事を任せられると。


さて、Kを道案内役にして、天然の岩場の階段と言えるこの斜面の道を、何処までも奥へと向かって行く。


途中途中にて、インビジバルアレコやら肉食昆虫に襲われるのだが。 Kの補佐の元、怪我もほぼ無いままに倒して行った。


さて、行方不明者は、生きて居るのだろうか。


そして、ミルダ達三姉妹が隠す事とは…。




   〔その5.現場に到着。〕



Kを案内人にするステュアート達は、斡旋所の主をする一人ミルダを連れて。 冒険者達が消えた山奥深くへと進んでいた。


昼間より、天然の岩が作る歪で不規則な階段の様な、そんな斜面を下って行くのだが。 其処では、モンスターとの戦いが始まった。 それから、その斜面を進めば進むほどに。 遭遇するモンスターは数を増したり、種類が変わったりと。 まだ結成して間もないステュアート達を試すが如く、考えさせられる戦いを強いられた。


その戦いに時を奪われて行く様に。 次第に、陽も傾いて行く。


それでも、初夏の日暮れは、旅を急ぐ者には有り難い。 暮れそうで暮れず。 陽が赤く成るも、長く感じるほど。 確かに、その恩恵は平地ほど長く、山林は短いが……。


その間、岩の壁に挟まれた斜面を下りながら先を目指すステュアート達は、Kと云う最強無比の者の助言を受けながら。 モンスターを相手に連戦して行く。


そして、夜も間もなくと云う夕方。


やはり、山の天候は激変し易いと云う通り。 あれだけ晴れていた空が、気温の低下と共に曇って来た。 夕立すら来そうな空模様で、かなり薄暗い山中にK達は入り込んでいた。


「ね、ねぇ、ケイ。 あと、どんぐらいよぉ~」


疲れきってヘロヘロのエルレーンが、岩場の斜面より薄暗くなった平地へ降り立った。


うっすら、霧とまでいかない靄の気配が、薄暗い辺りをぼやかしている。


エルレーンの後からは、ステュアートやセシルやオーファーが続き。 二年のブランクを抱えた上に、一昨日の夜に焦って雨の中に飛び出したミルダは、鈍い筋肉痛を主に足腰を中心として全身に感じる。


疲弊した一行の前より。


「もう直ぐ其処だ」


と、Kの声がする。


ステュアート達ですら、三十匹近いモンスターを蹴散らして来たが。 前を行く黒尽くめの包帯顔の男は、一人で同等のモンスターを始末して居ながら。 その行動に疲弊した様子は、微塵も、本当に微塵も見えない。


今、一行が歩くのは、岩山の一部にスコップで山の部分を削って、ポッカリ穴を開けた様な。 切り立った岩壁に囲まれた、林らしい・・程度の木々と、柔らかい地面の在る場所だ。 更に、聞こえて来る音からして、何処か近くに小川が流れているらしい。


だが、バベッタの街ですら、やや高原と云うか、標高の高い位置に在る。 その街より北東へ伸びる街道は、なだらかに上り坂と成っている。  更に、其処から山へ入って昼間で登った。 その事実を踏まえて、ずっと斜面を下った事も踏まえると、この場所に流れる水は、急流域に成る川と思えるのだが・・。


視界を靄に塞がれ、足元から周りを警戒するオーファーやステュアートだが。 その耳に入る川の音は、せせらぎ程度と言えよう。


さて、前を行くKは、姿を暗がりの中で幽かと見せながらに。


「この聞こえる川の流れに沿って行った先に、古い山の宿場がある。 そこに行けば、何か手掛かりが在るかもしれない」


この話を聞いたセシルは、山登りの疲労が身体に徹えたのだろう。 汗で顔を濡らしながら。


「ハア、ハア、ハア~やっと休める~。 汗出るし、急に寒くなるし、風邪ひきそ~」


セシルの話で。 ほんのちょっと前から何時言おうか、と思って居たオーファーが続いて。


「うむ。 空を見るに、天候に変化の兆しが見える。 今夜からは断続的に、弱い雨の可能性があるな」


Kを目印にして歩くステュアートは、息も乱れて辿々しいままに。


「はあ、はあ、し・然し、ケイ・・さんは、あち・・こちと良く・・知って・・・ますね。 す・すご・い…」


素直な感想を絞り出す。


一方、息も乱れぬ涼やかな包帯男は、闇の中よりステュアートの話がよくも聞こえたものだ。


「ま~な~。 世界の大体は旅で歩いたし。 何せ、冒険者の生活も長いしなぁ」


その反対に、経験が豊富な筈のクセに、その全てが過去の錆と成っていそうなミルダ。 魔法の発動体であるステッキを、本当に老人が使う杖の様にして。


(そ、そんなに・余裕なら、私をたっ、助けて欲しいものだわ)


口に出せばプライドが傷付くが。 想うだけならば、解らないから自由だ。


だが、山の一部に掛かる陽も、ほんの後わずか。 Kは、以前も使った‘光の小石’を使って、松明代わりと前を照らす。 Kの上着で、高めに立てられた襟首に付いたボタンは、その光の小石を嵌めれる様に出来ていた。


セシルは、便利なモノを持っていると。


「ケイ、ア゛ダジにも、それはぁ~?」


「フン。 一粒500前後だ。 自腹で買えよ」


「ケチっ」


怒ったセシルは、ステュアートに絡む。


(文句を垂れる元気が、まだ有るとはな…)


こう思うオーファーだが、既に川の間近に来ていたことを知る。 Kの付けた魔法の光で、古木が倒れて朽ちた一部が、所々に転がるのを見知り。


(此処は・・細い木々が目立つ。 然し、倒木は、どれも・・太いな…)


その答えは、


“何処かで川が氾濫した時には、此処へ流木が流れ着くのだろう”


と云う、一つの憶測。


(大雨には、気を配らないといけないのか?)


自然を読む力の長けたオーファーは、自分の出来ることを考えた。


それから、川に近付くと、砂利の多い河原の様な地面に変わって。 そのまま歩くこと、少し。 林の隙間の少し先に、黒い影を見つけたエルレーンが。


「ね、ねぇ、あ・あ・・アレ、じゃない?」


と、言うと。


Kが、


「そうだ」


と、肯定する。


そのKに、セシルは漸く着いたと。


「ねぇっ。 一晩、い・幾らよ。 宿なんで・しょっ?」


こう言うのだが。


離れた所からKは、脇目にセシルを見返し。


「お前、何処の箱入りだ? 誰も居ないから、金なんぞ要らん」


「はああっ?!!」


想像と違ったらしく、大袈裟に驚くセシル。


「山の宿場ってのは、無料の頑丈な山小屋が有るだけだ。 勝手に泊まるのみ」


「あぶっ。 夜営の山小屋ヴァージョンなのぉっ?」


「アッタリ前だ。 こんな危なっかしい所に、誰が好き好んで住むんだよ。 洞窟やら山の向こうには、モンスターがウヨウヨしてるってのによ」


小さくとも宿が在ると思っていたらしいセシル。


「ね゛ぇっ、こんなの゛ぉを想像してたっ? ねぇっ、ねぇっ…」


周りの皆に、自分と同じ想いを求めたが。 ステュアートも、エルレーンも、流石にそれは無いとして、疲れた苦笑いしか出ない。


だが。 いざ、山小屋の建っている場所まで行ってみれば…。


「わ゛ぁっ、なっ、何コレぇっ?!!!」


大声を出すセシルに、オーファーが。


「声を抑えるんだ。 モンスターに居場所を教えることになる」


慌てて口を押さえたセシルだが…。


ミルダはよろける身体のままに、前へ出る。 其処には、ログハウス調の山小屋が、井戸を中心に少しの間隔を空けて、4棟ほど建っていた。 然し、見ればそのうち2棟が、メチャメチャに壊されている。


Kは、壊された一棟の中へ踏み込み、魔法の光でその残骸を見る。


また、ミルダもその杖に魔法の光を宿す。


光で見ると、床を支えていた太い丸太が、一部を粉々にしてヘシ折られているではないか。


Kは、壊れた丸太を注意深く見て。


「倒壊の一撃は、外側から・・だな。 この東側の外側から、内に向かって一撃を喰らい。 次に、内側から北に向かって、もう一撃。 その後は強い力か、かなり重たい何かが、建材の残骸を踏み荒らしている」


残った柱の状態や崩れ形から、この山小屋の壊れ方まで読むK。


ステュアートは、壊れた建材を触ってみて。 水分が奥まで染み込んでる事を察した。


「ケイさん。 これが壊されたのは、少なくとも僕等が行方不明の事を聞いた日より以前ですよね? この濡れ方は、相当な雨に晒されてます」


「あぁ、それは間違いない」


ミルダからすれば、助けに行くのが早ければ、と。


「やっぱりっ、あの夜に旅立ってればっ!」


ステュアートと同じく、残骸を見るエルレーンは。


「急いだって、到着は昨日よ。 あの大雨前に襲われてたら、どっち道に手遅れよ。 助けに来たのか、死にに来たのか解らない発言は、止め止め」


木造の屋根の残骸を除けながら冷静な意見を返す。


身内を捜しに来たミルダ、こんな冷静なことを言われては、感情が先走って怒鳴り散らしたくなる。 精神の集中が散って、杖に宿る魔法が途切れ掛けた。


其処へ、Kが。


「どうやら襲われたのは、一昨日の大雨より更に前だぞ。 最低でも、此処が壊されてから五日は経過してる」


と、こう言うではないか。


根拠の無い意見としか思えないミルダは、いよいよ眼が座って来る。 生じ美しいだけに、怒ると怖いほどの険が出る。 流石に、姉や妹より抜き出る分、苛烈さも在る美女らしい。


そんなミルダを察するオーファーが。


「ケイさん。 それは、どうして解りますか?」


するとKは、柱の中で一番腐食したモノを指差すと。


「視ろ。 建っていた建材が腐って、此処にシロアリが巣喰った痕跡が在る」


その柱の前に来たオーファーは、スカスカに成って居る柱を見て。


「ですが、今は赤い蟻が・・」


「この赤い蟻は、シロアリを捕食して、その巣穴を乗っ取る種だ」


すると、一番端に向かったエルレーンが。


「うわぁ、本当。 シロアリに、赤い蟻が群がってるし…」


「この赤い蟻が、この山小屋に巣喰ったシロアリを食い尽くすまで、1日や2日では終わらん。 それに、向こうの端の割れた建材を見てみろ」


壊れた別の一角を指差したK。


皆、その方へ顔が向く。


Kの指差した場所は、壊れた山小屋の屋根が砕かれて、裏返しに成りそうなまま木に引っ掛かっている。


「密閉化された室内では決して育つことの無いシメジの一種が、既に茎を伸ばし傘まで開き始めてる。 この時期、風通しは悪く無い場所だ。 壊れて二日程度じゃ、こんな変化は起こらない」


「ふむ、なるほど」


理解したオーファーの耳に、


「ケイさんっ、これっ」


と、ステュアートの声が。


「荷物が在ったか?」


返すKに、ステュアートは頷き。


「はい。 岩塩で固めた干し肉までが、もう腐ってます」


皆がそれに集まって。 Kは、背負い袋の中身を検める。 干し肉や焼き米、乾パンなどが在った。


「保存食が、軒並み腐りだしてら・・。 それから、今日の晴天じゃなく、前の晴天も経験してるな、この荷物は」


と、Kは言う。


興味津々と云うステュアートは、


「見て、解るんですか?」


「カビを見れば、大体が解る」


「カ・・ビ? 食べるとお腹を壊す・・・あのカビですか?」


「あぁ。 普通ならば、カビが生えるのは食物からだ。 然し、この荷物のカビは、袋やら着替えの下着が先に成ってやがる」


「あ、本当だ」


見て確かめたステュアートは、確かに食料よりも、濡れた衣服にカビが生えていると察する。


ナイフを抜いたKは、腐り始めた乾燥パンや干し肉を示し。


「雨で濡れた食料から栄養が溶け出して、一緒に仕舞われていた衣服に染み込んだからだ。 この塩分が強い干し肉より先に、カビが生えるにしても、だ。 一昨日も大雨が降ったにしては、このカビの生え方は広がり過ぎてる」


こう言うと、立ち上がってミルダを見返し。


「農場で俺達が仕事をしていた頃。 此処に来た奴らは、デプスアオカースに襲われたらしい」


Kを睨み返すようなミルダ。


「どうして、モンスターが解るの?」


問われたKは、壊された柱の木の破片の一部に立って、指を東側の残骸に向ける。


「此処に、痕跡が有るからだ」


指差す方に、ミルダが杖の光を向けた時。


真っ先にセシルが。


「あっ、彼処っ。 何か光った!!」


その場所にエルレーンが近付いた。 壊されて砕けた木の一部に、ヌメヌメした七色に光る液体が…。


「なぁ~んか、ヌメってるよ」


木の破片を手にしたエルレーンが、それに破片で触れると。 ネバ~っとしていながら、プニプニとしたゼラチン質のような感触も。


後から近寄って見たオーファーは、気持ち悪いと怪訝な顔をし、その強面の表情のままKへ見返ると。


「コレは、何ですか?」


「それは、デプスアオカースの身体を保護してる、一番外側の粘液だ」


体液の一部と知ったミルダは、Kの目の前に立って、悲壮感に満ちる顔で叫び上げそうな声にして。


「まさかっ、誰かを追って・・此処までやって来た訳っ!!?」


「おそらくだが、此処まで怪我人が逃げて来たんだろう。 その血の匂いを追って、奴等が来た。 で、此処で休んでいる時に襲われた。 ま・・・そんな所だろうな」


Kの話の直後、魔法の明かりが一つ消えた。


「あ・あああ・・ユレトンっ、う・ウソよぉぉ…」


絶望したミルダの集中が切れたからだ。 泣き出すミルダに、ステュアートとオーファーが気を向けた。


それを見るKだが。 まだ粘膜を弄るセシルとエルレーンに。


「もう刺激するな」


と。


Kの一言で、突っ突くのを止めた二人。


そんな二人へ、更にKは言う。


「その粘膜の周り、付着した木との狭間には、青い粒が見えるだろう?」


セシルとエルレーンは、土台を支える柱の木に付着した粘膜の一部。 特に、木材と粘膜の狭間には、細かい青のコブが見えた。


セシルは、その辺りを指差して。


「この、青い野苺みたいなトコ?」


と、Kを見返す。


頷いて見せたKは、


「それが、奴らの身体に付着する毒キノコの芽みたいなものさ」


強い催眠作用を齎す毒キノコと知る二人は、


「ヒィっ!」


「わ゛っ」


声を出して思いっ切り飛び退いた。


離れた事を確認したKは、ミルダを照らしていた魔法の光を彼女から外して、辺りを見回した。 梟まで鳴き始めた、夜の暗闇を確認すると。


「とにかく、残った小屋のどっちかに入るぞ」


と、皆に言う。


だが、ステュアートとオーファーは、泣き出すミルダに気が行く。


ボタンより光の小石を外したKは、


「ステュアート」


と、彼を呼び。


「はい?」


自分に向いた彼へ、光が弱まる小石を投げる。


「一番規格の小さい小石は、光る持続力も短い。 それが消えるまでには、何とかしろ」


と、だけ。


そして、皆へ行動を促す為か、間近い山小屋の一つに向かって行く。


受け取った小石を見たステュアートは、泣き崩れるミルダの事を言って居るのだと察する。


同じく、そう察するオーファーだから。


「さて、我々も中へ入ろうか」


言ったオーファーは、ミルダの手放したステッキを拾い上げる。


それを見たセシルは、これまでモンスターと戦った事を思い返し。


「そうだね。 霧に成りそうだし、此処はモンスターも居るし」


と、ミルダの下ろした荷物を拾い上げる。


確かに、危険は去って無く。 寧ろ、その危険が何時に襲って来るのか解らない、と考えるエルレーンだ。


「ステュアート」


と、彼と視線を合わせ頷き合う。


言わんとする事を理解して頷き返したステュアートが、ミルダの前に。


一方、支える為に、ミルダの脇に回ったエルレーン。


エルレーンが彼女の脇を支えると、その場に膝を着いて屈むステュアート。


「さ、山小屋に入りましょう。 まだ、襲われたと云う事実が見付かっただけで、全員が死んだとは決まってません」


と、希望はまだ消えて無い事を言う。


エルレーンは、ミルダの身体を支えて立たせば。


「泣くのは、まだ後だよ。 目的が在って、こんな物騒な場所まで来たんだから。 それが終わるまでは、頑張りましょう。 最悪は、遺体を持ち帰ってあげないと…」


ステュアート達の声に、ミルダは堪える力を取り戻す。 確かに、嘆いている場合では無い。


一方、山小屋に入ったKは、直ぐに火を熾す。  古い山小屋で、竃の代わりと成る炉と云うか、囲炉裏が中心として真ん中に在る。 窓も無い室内は、十人ぐらいが泊まれる雑魚寝部屋だ。


後から入って来たステュアート達が、囲炉裏に向かう時。 入れ違いの様に部屋の隅へ向かったKは、水瓶を確かめて。


「水を汲んで来るから、火の面倒を頼むぞ」


と、その場に言う。


小分けした桶などで川の水を汲むらしい、と解ったステュアートだから。


「あ、僕も行きます。 女性も居るし、人一倍に使うかも。 それに、まだ小石は光ってます」


その色々とした気遣いを感じたKは、包帯から覗ける眼を細ませ。


「若いウチから、色々と気配りの出来るヤツめ。 もう少し大人に成ったら、今度は女が放って於かネェな」


こんな事を言うではないか。


荷物を置いたステュアートは、ヘンな話に顔を赤くさせて。


「からかうのはっ、止めて下さいっ」


と、バケツ代わりに成る転がった物を取りに動く。


ランプの油を確かめていたセシルだが。 Kにからかわれたステュアートをジトジトと睨む。


「アタシ以外は、全て‘虫’じゃ……ブツブツ」


ステュアートに気が有るセシルの陰気な独り言に、エルレーンやオーファーはビビって、見て見ぬフリをする。


そして、荷を下ろし杖やステッキを立て掛けるオーファーは、薪を片隅より持って来たりし。


水袋と云う、木や竹の水筒より膨れるものから、残りの水を使ってお湯を沸かそうとするエルレーンが居たり。


やけっぱちか、火力最大にしてランプに火を付けたセシルが、壁のフックに掛ける前にニヤニヤしている。


唯一人、黙って俯くミルダは、囲炉裏の傍にいた。


やがて、Kとステュアートが、両手にした木枠の桶と寸胴に似たバケツに水を汲んで来て。 山小屋に在る大きな水瓶へと流し込む。 長く使われた山小屋の備品など、こんな他人の忘れ物の様なものしか無い。


そして、食事に成ると。


ステュアートは、オーファーやセシルとあれこれを分け合いながら。


「ケイさん」


「ん?」


「今日、来るまでに倒したモンスターは、この山の中の種類からすると・・、ごく一部なんですか?」


乾燥した野菜と干し肉を煮たスープを飲むK。


「ん~、悪魔だの飛竜だのってのは、ある種の風来坊みたいな余所者だからな。 でもまぁ、一部は一部だ」


すると、乾燥パンをモシャモシャ噛んで居たセシルが、それを飲み込むと。


「何より、明日はデッカいケェルを蹴散らすんでしょ? もう、やけっぱち位にマジで、軒並みゼェ~ンブをぶっ飛ばす」


気合い充分なのか、嫌いなモンスター相手でヤケクソなのか。


だが、食事も終わった頃。 もう早々と寝るだけなのか、鎧を拭いたり、武器を手入れしたり、衣服の汚れを落とす皆だが。


Kは、部屋の隅に残る薪を追加して、朝まで見越す意味で火を安定させながら。


「さて、ミルダ。 そろそろ、真実を教えてくれないか?」


と、本題に斬り込む。



それまで、細々と食事をし、Kから渡された筋肉痛を緩和する薬を飲んだだけの彼女だが。 Kのその話で、顔を強ばらせた。


だが、Kに身構えるなど通用しない。


「この依頼の大元っつ~か、元凶だろうが。 何で、国に仕える兵士なんかが、この山の洞窟に来る事に成った? それから、依頼を回す際に、人選を焦った・・と、ミシェルがミラに言ったが。 何でだ?」


すると今度は、ミルダがKへとにじり因る姿と成り。


「な゛っ、何で其処まで知ってるのっ? まっ・まさか、姉さんかミラが、掟を破ったの?!」


と、とんでもなく驚く様子で問い返すではないか。


その遣り取りの様子に、びっくりして何も言えないステュアート達。


だが、安物のナイフを焼いて消毒し、布で拭うKは。


「そんな事したら、冒険者協力会から暗殺の的にされンだろうが。 タネを明かすと、俺の耳はちょいとばかり地獄耳なのさ。 少し離れたぐらいの話し声なら、唇の動きや音の響きで解る。 ま、事が事なだけに、聞いてみたのさ」


その卓越した技能を知ったセシルは、


「スゴ過ぎるぅぅ」


と、ビックリしてKから離れる。


さて、そうと知ったミルダは、もう仕事として関わっているので仕方無いと思い。


「じ・・・実は、バベッタの街を預かる、都市総括長官イスモダル様が密かに、新たな鉱石採掘場所を探していたらしいの。 側近には、都市の財源確保に・・ってね」


〔都市統括長官〕と聞いたKは、


“一気に大物が関わる話に成った”


と、感じた。


「この国では、僧侶の身分と貴族の身分が混じる、独特な階級が在るが・・。 ソイツ、相当に偉いな?」


「当然よ。 都市統括長官は、バベッタの街の最高責任者。 然も、イスモダル様の家は、中央皇都でも大家よ。 親戚筋には、中央皇都で大臣に座る者が何人も居るわ」


エルレーンは、とんでもない大物が出現したと驚き。


「ヒェェェ…」


代わって、オーファーが。


「その統括長官殿が、今にわざわざ鉱脈を探すと云うことは。 詰まりは、バベッタの財政がそれだけ逼迫している・・、と云うことなのか?」


火を見詰めるミルダは、首を左右に動かして。


「そうじゃ無いわ」


「と・・申されると?」


「イスモダル様の本音は、中央皇都へ戻りたいらしいの。 でもその為には、大金が必要みたい。 各大臣への運動費やら、この街に教皇王様を含めた権力者を招く為に…」


まだ、話が見えないと、エルレーンが。


「何の為に、そんな偉い人を招きたいの?」


「それは、自分の開発計画でバベッタの街を更に発展させて。 その政治的な手腕と政策能力を中央政府に見せ付けたいのよ…」


難しい話に、エルレーンやセシルは腕組みする。


すると、それだけの情報でも幾らか解る部分が在る、とKが。


「詰まり、自分以外の親やら親戚には、中央の大臣やら大神官の様な要職に就いたり、歴任した者が多い中。 自分だけが地方の行政長官に納まって、其処止まりに成るのは不服ってか?」


自分が直接的に口にしたくない事を要約して貰ったミルダは、


「えぇ、そうみたい」


と、苦々しく肯定する。


セシルは、生じ貴族生まれの所為か。


「策士だわ。 然も、相当な野心家ね」


ミルダも、それは間違いないと頷くのだが。


「でも、その計画を進める半年前から、数度に渡って調査兵をこの山地一帯に派遣したけど。 二ヶ月前までは、全く鉱脈なんて見つからなかった」


こう言ったミルダだが。 此処で、何やら悔やむ様な姿になり。


「なのに…」


と、瞑目して言葉を漏らす。


“その二ヶ月前に、何かが変わった”


と、オーファーは察して。


「どうしたのだ? その時、何が在った?」


囲炉裏の炎に、また目を開いて向けるミルダ。


「それまでは・・比較的に安全な、鉱脈が過去に見付かった場所。 此処よりもっと西側の辺りや、山脈に沿う街道から近い辺りを探していたの。 他人や他の警備兵に怪しまれても、“防衛演習としてモンスターを掃討する”、そんな名目を盾に出来たから…」


然しセシルは、またイマイチ話が飲み込めないと。


「ねっ、何でさ。 モンスター掃討を‘名目’にしなきゃいけないの? 鉱脈を探したいンだから、もっと大掛かりに遣ればイイじゃん」


と、疑問を呈す。


其処へ、


“話を中断するな”


と、ばかりにKが。


「バカ。 都市統括長官は、確かに街の都政を担っちゃ~居る。 だが、鉱脈発掘なんて大事業は、資源を管理する中央政府から依頼を受けてやるのが普通なんだ」


「ハァ?」


間抜けな聞き返しに、父親が大臣と云うオーファーが呆れ。


「良いか、セシル。 そのイスモダルなる長官は、私腹を肥やす為に鉱脈発掘を計画したいのだ」


こう説明されれば、流石にセシルも意味を理解した。


「う゛~わっ! 実際の目的は街の為じゃ無くて、完全に自分の為ってこと?」


「うむ。 これは、私の憶測だがな。 密かに鉱石を採掘して、他に採掘する鉱石にその採掘した鉱石の一部だけを上乗せでもする傍ら。 己の息が掛かる商人にでも、隠匿して得たした鉱石を売り捌かせるのだろう。 商人の得た利益の大半は、その長官殿に還元させられるのだろうな…」


オーファーの語りを聞いていたKは、随分と察しが深いと思い。


「流石、家柄は大臣だな。 裏側のことまで、見通せるか?」


「実際、我が自治国でも、鉱石採掘や薬草栽培の末端では、そうゆう事例が有りました」


頷き、実情を語るオーファー。


だが、セシルと似たり寄ったりの認識だったエルレーンも。


「って事は、さ。 その長官サマって、鉱脈発掘の手柄で中央に戻る気じゃなくて。 其処から生まれる利益をピンハネして、その金を使って行こうとした訳ぇ?」


Kは、短く。


「さっき、そう言ったぞ」


と、言うのだが。


腹が立ったセシルが、同じ間合いにて。


「何てヤツっ! 中央のエラい人に言わなきゃダメだっ!」


と、激しく反応するので、掻き消された。


一方、黙って聞いていたステュアートだが。 ミルダの話がまだ途中だった、と。


「ミルダさん。 それがどうして、こんな色々なモンスターの居る場所まで?」


と、話の流れを戻した。


「それは・・、2ヶ月くらい前に。 この山に薬草を採りに入った樵が、ぬかるむ斜面から少し滑落したら。 この辺りで、幾つもの洞穴を見つけたって・・。 その話を聞いた巡回警備兵が内密に、イスモダル様へ進言して来たらしいわ」


話の全体像が見えて来たと感じるオーファーは、腕組みして火を見詰める。


「ナルホド…。 川の源流域と成る西側の山間には、安全だからと集落も点在するらしい。 その集落を守る為に、バベッタから派遣された警備兵が、巡回の時にでも樵から聞いて知り。 密かにその長官とやらへ知らせたのだな。 狙いは、その統括長官からの金品か・・出世」


「聴いた話だと、両方みたい…」


驚くセシル。


「ん゛~まぁ」


同じ気持ちのエルレーンも。


「貪欲ぅ~」


だが、此処までで、全く違う先まで見透かした者が居る。 無論、Kだ。


「な~る。 それで穴を探させ、調査の為の兵を送った訳だ。 だが、今日までの経過の内容を窺うに、その派遣は一度じゃないな?」


と、ミルダへ問う。


“見透かされた”、と絶望感に負けたミルダは、ガクリと頷いて。


「よっ、よよ・4回…」


セシルとエルレーンは、また驚いては呆れて。


「え゛っ! そんなにぃ?」


「まぁ、そんなに派遣したのぉ?」


熾きと成る木炭を木の枝で弄ったKは。


「全く、情っさけない話だ。 1回目か2回目で諦めて、中央のクリアフロレンスに聖騎士と捜索部隊を要請すりゃ~いいものを」


ステュアートは、見透かしたKに。


「ケイさん、どうゆう事です? 何で、連絡をしなかったんですか?」


「大した意味は無ぇ。 失敗じゃ~遣った意味が無いだろうが。 己の面子を保つ為、自分の独断行為に対する叱責を恐れて、成果を挙げないと不味いから次々と4回も…」


「そんな・・」


「フン」


鼻を鳴らしたKは、ミルダに鋭い視線を向けて。


「だが、流石に4回も失敗すれば、自分には手に負えないと判断したンだろうさ。 後始末に困って、現状だけでも把握しようと云う考えで、冒険者にこっそり調査依頼だよ。 先ずは、テメェが調査に行けってよ」


この独り言を聞いたミルダは、Kを悔しそうに睨む。


「なっ、な・何で・・其処まで解るのっ?」


紅茶の為に白湯を作ろうとするKは、金(かね・金属)の器で水を沸かしつつ。


「そうゆう薄汚い奴等の腹ン中は、凡そで良ぉ~く解るんだよ。 これでも昔、色々あってな」


冒険者としての場数の違いを、この短い間でまざまざと見せ付けられた気分のミルダ。 床に目を移して、観念した様に心の中に仕舞った秘密を吐瀉し出す。


「い・イスモダル様は、事を隠密裏にする為にぃ・・。 高額のお金でっ、無理やりな依頼をしてきたわ。 然もっ、こっ、今月中に始末着けろとぉっ…。 最初は、無理だって・・姉と一緒に断ったんだけど…。 来月の・・きょ・教皇王様の訪問までに何とかしないと・・。 わ・私の夫の所為にして、処罰するってっ…」


他人に不手際を擦り付けると知ったセシルは、一気に感情的になって。


「そんなっ!! 丸で横暴じゃないっ!!」


と、吐き飛ばす。


処が、床に爪を立てて掻きながら、涙声で唸るようにミルダは言った。


「でっ、でもっ! 財源確保の方法を提案したのはっ、じ・実はお・夫・・なのよぉぉ。 あああっ!!!」


泣き出すミルダに、Kが確かめる様に。


「姉のミシェルだけじゃ無く。 お宅の旦那も、内政官なのか?」


ミルダは、嘆きながら頷く。


(ふ~…。 これは難しい事になるな~)


一筋縄処か、二筋か三筋は縄が必要と感じるKは、ミルダの泣く姿を見守る仲間達を見回す。 誰もが複雑な顔つきで、言葉が見つからない様だった。


だが、其処から直ぐに、Kは或ることを思いつく。


(待てよ。 だが…)


この疑問は、普通の流れで当たり前のように起こる事だと感じ。


「ちょっと待て、ミルダ。 もう一つ、尋ねたい事が有る。 その派遣で行方不明に成った兵士は、数百人は下らないだろう? 現地に住む兵士も居る筈だ。 その兵士等の家族達からは、捜索依頼が斡旋所に届いて無かったのか?」


と。


このKの質問に、ミルダはステュアート達がビックリするほどにガバッと起きて、泣くままの顔をギョッと強ばらさせた。


その顔を見たKは、何かを悟った。


「そうか、そうゆう事か…。 その長官って野郎は、お前達と云う姉妹に多額の金と脅しを与え。 その引き換え条件に、その捜索依頼の密かな揉み潰しも謀ったな?」


「あっ」


全てを見透かされてしまった、そう云う事なのだろう。


「あ・あ・・嗚呼………そんなぁぁ…」


ミルダの全身がブルブルっと震え、そのまま力抜けて前のめりに蹲る。


二人の様子を見ていたステュアート達は、ミルダがKを見れなくなった事に、その事実を見た気がする。


セシルは、震えそうな声で。


「ね、ねぇっ? 今の、マ・マジなの?」


体勢そのままのミルダは、


「うぅ…」


と、小さく頭を縦に動かした。


“事実だ”


皆が確信する。


溜め息を吐いたオーファーは、その様子を見て。


「どうやら、そのようだな・・。 然し、なんて事だ。 只の人探しが、蓋を開けると陰謀の一端に繋がって居るとは、な」


一方、こんな大事など初めてのステュアートは、経験豊富そうなKを見て。


「然し、良く色々と解りましたね。 ケイさんって、心が読めるのですか?」


と、不思議がって来る。


然し、Kは火を見ながら。


「いやいや。 数年前までは、そうゆう権力にどっぷり浸かった奴らの汚い裏側をな、色々と細部まで見て来たんだよ。 だから状況を見据えると、その頃の経験から大体を読めて来るのさ」


「うわっ。 ‘経験’って、凄いって云うか、怖いですね」


ステュアートの素直な意見は、Kにすると遠い過去の様で苦笑いする。


さて、経緯は解ったが、先の事は全くどうしようも無い、と。 Kの右側に座るエルレーンは、白い肌の顔をKに近付け。


「ねぇ、経緯は解ったけども。 これからは、どうするの? このままじゃ~仕事の成功とか、そんな話じゃ~無くなるわよね?」


セシルは、すすり泣くミルダを見ながら。


「なんか、スッゴく・・ムカつく。 権力を笠に着て、自分勝手に都合良くってさぁ…」


其処でオーファーは、セシルに片目を上げて微笑み。


「貴族出身の割には、清い事を言うではないか」


と、棘の含む言い方を。


ムッとした顔に変わるセシルは、オーファーを睨み返して。


「貴族だからって、何でも汚い奴らと同じにしないでよっ。 ガルル…」


今にも噛み付きそうな勢いを見せた。


だが、


“今は、そんな事をする時じゃ無い”


と、ステュアートは、


「ま~ま~、今は怒る時じゃないよ」


と、セシルを宥めてから。


「オーファーも、こんな時にセシルに突っかからないでよ」


リーダーに叱られたオーファーは、


「スマン」


と、直ぐに謝る。


やはり年齢差は在ったとしても、その様子は仲間としてリーダーに従った形だ。


二人のことを済ませたステュアートは、代わってKに向くと。


「ケイさん、どうにか出来ませんか? 幾ら依頼でも、今回のは少し汚過ぎますよ」


「確かに・・」


「それに、他の依頼を金と脅しで握り潰すなんて、協力会の判断無しに許可されてないでしょう?」


「当然だ。 其処には、冒険者協力会も公平性を貫いてるからな」


「これが、同じく主をしてる僕の父だったら、怒って相手に斬り掛かりますよ。 ケイさん、どうにかして、この一件を正す事は出来ませんか?」


大変な面倒事を相談されたKは、茶葉を湯に入れると。


「そ~だなぁ~。 ま、俺が聞いて掘り起こしちまったのが、今の原因だしな」


セシルは、その通りと。


「そうだよ。 で? 何か考えは?」


皆に見返されたKは、目を鋭く細めながら微笑し。


「・・方法は、有る」


と。


聞いたセシルは、四つん這いから近寄る姿で囲炉裏越しに。


「嘘っ、マジでっ?」


「あぁ」


頷き返したKは、チラッと此方を見上げて居るミルダを見返すと。


「ま~~~そ~な~。 ミルダとミシェルの旦那は、今の役職をクビに。 ミルダ達も、協力会から厳重注意か、斡旋所の主人を辞めなきゃ成らんかも知れんが。 それで収まるなら、何とか成る・・・かもな」


するとミルダは、ヨロヨロと身を上げて。


「そんなこっ・事でいいなら・・受け入れるわ。 お・教えて。 ど、どうすれば?」


其処でKは、泣き顔で乱れたミルダを見て黙る。


皆も、Kを見返した。 その場へ、紅茶の香りが包んで行く。


木のコップに紅茶を注いだKは、弱い弱い小雨が降る事を聴こえて来る音から知りながら。


「明日、二手に別れよう。 ミルダは、オーファーとセシルを連れて、明日の朝にバベッタへ引き返せ」


一同、その話に唖然としてしまう。


その中、ステュアートが。


「ケイさん、せっかく来たのに・・。 然も、3人だけですか?」


ステュアートを見るだけにしたKは、紅茶を少し啜ってから。


「オーファー」


「はい?」


「街に戻ったら、セシルを斡旋所に残し。 宿屋街の老舗で、〔ノーガタスライク〕と云う宿屋に入れ。 そして、俺が明日に渡す手紙を店主に読ませ、裏口から抜け出させて貰うんだ」


「裏口から・・抜け出すんですか?」


「街に入ったら、その長官殿の監視が入るやも知れん。 その監視を掻い潜って、或る人物と接触して貰う」


「それは、何方ですか?」


「バベッタの街の郊外で、廃れた掛けた地区の相談所に居る男だ。 ダガーの、酷く使い古したヤツに、俺の手紙を仕込んで渡せばいい。 それで、事は足りる」


「・・ケイさん。 そんな事で良いのですか?」


すると、鋭くも不敵な笑みを浮かべたKは、


「十分過ぎる」


と、だけ。


その笑みに一同は、全身を駆け抜ける純粋な恐怖すら覚えたが…。


‘戻れ’と言われたセシルは、


「でも、何でアタシもぉ? それぐらいなら、オーファーか、誰か一人で十分でしょ?」


あの、一瞬前の危険性を孕んだKは、既に消え失せて。


「ア~ホ。 お前やオーファーやミルダの魔法じゃ、洞窟内だと戦うのにも遣い処が難しい。 それに、エルレーンとステュアートは、俺の助手。 一番ヤバいのは、寧ろバベッタの斡旋所さ」


姉と妹が居る斡旋所と聞いたミルダは、


「どうゆう事っ?」


と、焦り出した。


紅茶に砂糖を入れて、変化を出そうとするKだが。


「全く、魔力はいっちょ前でも、頭の巡りはまだ主の域に無ぇなぁ・・」


と、氷砂糖を入れて。


「良く考えてみろ。 こんな大事を平気で隠蔽する奴が、全てを知る御宅の旦那やミシェルの旦那を、このままおめおめと生かすか? アンタ等のするこの仕事の後片付け次第では、証拠隠滅に両方とも殺されるぞ」


Kの読みに心当たりがあるのか、ミルダはまた手で顔を覆って呻き出す。


事態の緊急性を察するステュアートは、事が事なだけに慌ててKに。


「ケイさんっ。 それじゃ、どっちにしろミルダさんやミシェルさんの旦那さんは、口封じに殺される運命に在る・・。 そうゆう事ですか?」


“今更に気付いたのか”


そう言いたげに、顔の目元や口元を呆れさせて見せたK。


「あのな、テメェの権威失墜の火種をのうのうと残す無能なら、斡旋所なんかに証拠隠滅など依頼しないし。 脅しもしねぇ~だろう。 寧ろ、早く戻って二人の旦那を監視しないと、自分の嫁の将来を盾に自決でも迫られたら、ど~するよ」


「将来・・ですか?」


「ステュアート。 もし仮に、だ。 お前の嫁がその横に居るセシルだとして、子供等の家庭が存在するとしたら。 同じ立場で妻や子の命を引き換えに自決を迫られたら、どうする?」


「え?」


ステュアートは真面目な顔でセシルを見た。


だが、急に嫁の代理にさせられたセシルは、ビックリして顔を真っ赤に染める。


「バッ、バカ包帯男っ!! なんて引き合いにするのよッ!!」


だが、ステュアートは素直に考えて。


「愛した人を守れるなら、自殺するかもしれません。 失うぐらいなら・・自分が…」


と、想定した話を本気にして感想を述べる。


これに対してセシルは、更に真っ赤々になって。


「ババババババ・・バカっ!」


と、狼狽の極みに達する。


そんなセシルと囲炉裏を挟んだ真向かいに居るエルレーンは、セシルの様子がおかしいと半目の呆れ顔で。


「セシルってば、“例え話”だしょ? 何? まさか、本気で結婚するの?」


と、聴いた。


その瞬間。


「う゛っ!」


硬直したセシルは、ドサっと後ろに倒れて行く。


間近から見たオーファーは、転がったセシルを見て。


「若い女子おなごには、少し刺激が強すぎたか。 迷うこと無く天へ召されるように、手厚く祈る」


と、瞑目した。


然し、セシルに構わないエルレーンは、怪訝な顔をしてKへ向くと。


「ね、ケイ。 私とリーダーは、一体・・何をするの? そんな予測が付くなら、みんなで一緒に帰ればイイじゃん」


この質問にKは、紅茶を啜ってから。


「いや、確たる証拠が必要なんだ。 事を正して解決をするには、どうしても証拠が、な」


「確たる証拠?」


「詰まり、具体的に云うと、兵隊の服とか武器とか。 “モンスターの居る洞窟に行かされた”・・と云う証拠だ」


セシルが起きると、ステュアートはKに寄って。


「では、僕達が洞窟に行くのは、その為ですか」


「仕方ねぇ。 もう少しだけ、本気を出してやるよ。 デプスアオカースなんぞ、潰すだけならば俺一人で十分だが。 ‘荷物持ち’として、エルレーンとステュアートに来て貰う」


ステュアートは、二人も要するとなると、どのくらいの荷物に成るのか解らなくて。


「え゛っ、何百人もの荷物を、持ち帰るんですか?」


「ま、二人の持てる限りの物品は、な」


するとセシルは、ステュアートと一緒に行くと駄々捏ねる。


聞く気も無いKは。


「じゃ~、キモイ巨大蛙と戦って、重たい荷物を運ぶか? あ? ネバネバのネチョネチョだぞ」


と、問い返せば。


「う"っ、む゛むぅ~…」


‘ネバネバ・ネチョネチョ’の表現で、セシルは思いっ切り悩む。


一方、その表現を聞いてしまったエルレーンは、見るだけでも気持ち悪そうに、と。


「ねぇ、マジメにそんなのを持って帰るのぉ? ・・ってか、食べられた服とかって、まだ在るってどうして解るの?」


Kは、紅茶をまた一口してから。


「基本的に、デプスアオカースの摂食行動は、そこいらに居る蛙とほぼ同じだ。 獲物を丸呑みして、食べれる部分だけ消化し。 残った異物は、口から胃ごと吐き出して裏返し、要らないものをそこらへポイっ。 巣穴の奥に、服や武器のグチャっとした塊が、あっちこっちにゴロゴロしてるだろうよ」


エルレーンは、デカい蛙が胃袋を吐き出す姿を想像して、気味が悪いと震える。


「コアイ、キモイ、デカいカエルさんは、イヤイヤだぁ~」


嫌がるエルレーンに、セシルは同情して、ウンウンと…。


その後、オーファーが。


「私も、どうしても帰らなければ成りませんか?」


と、問い掛ける。


やはり、ステュアートを前リーダーから託された想いが、このオーファーには在るのだろうか。


そんなオーファーを横目に見たKは、その視線をず~っとミルダまで動かし。


「オーファーは、冒険者としての経験も在るし、ステュアート達の中では最も思慮深いからな。 魔術師としては一流でも、主としちゃまだ箱入りみたいなミルダ達の協力者には、一番に持って来いだ。 それからセシルは、万一に備えた護衛だよ」


Kほどの冒険者に言われては、今回は感情的に成りやすい姿を晒したミルダも、反論をする何の口実も持たない。


またステュアートが、渋るオーファーへ。


「オーファー、ケイさんの話に間違いは無い。 僕達が戻るまで、ミルダさん達を見守ってあげてよ。 こっちは、ケイさんが居るから大丈夫だよ」


Kの実力を知ったオーファーだ。 リーダーにこう託されては、何の言い返しも出来ない。


黙ったオーファーをセシルが野次ったりするが…。


話がある程度、皆に浸透したと感じたKは、腰のサイドポケットから三角折りにされた油紙を出す。


「コイツは、デプスアオカースの巣穴に生える、青い茸に対する免疫解毒剤だ。 即効性で、効き目は半日ぐらい保つ。 明日の朝にでも、二人は飲んでくれ」


と、ステュアートに渡す。


「ハイ」


受け取るステュアートは、一つを囲炉裏越しにエルレーンへ渡した。


それを確認したKは、更に。


「今から言って於く。 デプスアオカースは、目の回転で催眠術を仕掛ける。 万が一にも戦うなら、絶対に目を直視するな。 それから、舌がとにかく伸びる。 先端は硬いが、中間から喉元は柔らかい。 斬るならば、先ずはそこだ」


聞いたステュアートは、目をパチパチさせて。


「催眠・・ですか。 大きさといい、知性といい、カエルにしては凄いモンスターですね」


エルレーンは、見たくも無いと言った顔で。


「りょ~かい。 ケイのホンキに、私は期待するわ~」


だが、黙って居たミルダは、引き返す事になるからこそ不安で。


「本当に、貴方以外の二人は大丈夫なの? それに、もう生存者なんて居ないんじゃ…」


弱々しく横を向く此処には、


“死にに来たのではない。 助けに来て、犠牲者を出すなどもう嫌だ”


と、言う彼女の意思が見える。


だが、そんな身勝手に近い事を言うミルダを、Kは何故かチラ見して。


「そうなってるか・・見て来る必要は有る」


と、言う。


今のKの話に、ミルダは何か引っ掛かるものを感じて。


「ひっ、‘必要が有る’って、どうゆう…」


其処で、Kは紅茶を見る目を細めると。


「この話は、‘もしかしたら’・・、と云う事を大前提にしている。 妙な期待感を持たれては、こっちも困るってモンだがな。 生存者や死体を発見する可能性は、一応まだ残っている」


ミルダは、ギョッとしてKを凝視すると。


「どどっ、どっ、どうゆう事っ?」


「一つだけ。 死体の一部が残ったり、生存してる可能性の有る事例が存在するのさ」


全員の目が、Kに集まった。


ミルダと同じく、ギョっとした目を向けてセシルが。


「まだ、隠してる事が在ったの?」


紅茶をまた含んだKは、ゆっくりと間を空けると。


「実は、な。 デプスアオカースってモンスターは、長く眠る休眠と繁殖を数年の間ずつ繰り返す習性を持つ。 そして、繁殖の為に、獲物を生け捕りにするんだ」


セシルは、カエルがどう生け捕るのか解らず。


「生け捕りって言ったってさぁ、ど~やって捕まえるのよ」


「其処は、実に簡単だ。 舌に絡めて丸呑みにし、巣穴の奥に持ち帰る」


「ま・丸呑み? うっ、うわっ、ヤダヤダっ! 巣穴なんか、絶対に行きたくないっ」


嫌がるセシルに対して、行く運命に在るエルレーンが。


「ぐはっ、聞きたく無かったぁっ」


と、此方も嫌がる。


一方、興味が湧くステュアート。


「生け捕りにしてから巣に持って帰って、その後はど~するんですか?」


「それは、な。 巣穴の一部に造られた産卵用の穴に吐き出して、ドロドロした泡の中に捕らえた獲物を閉じ込める」


ミルダは、囲炉裏越しにKへにじり寄って。


「まさか・・それなら生きてる人も、い、居る?」


尋ねられたKだが、鋭い目線でミルダを見返すと。


「甘い事は考えるな。 その泡の中には、奴等の卵もわんさかと産みつけられる」


その様子を想像したセシルは、


「ウエ゛~っ、キモいっしょ!!」


と、口に両手を当てる。


だが、ミルダはそれ処ではないとばかりに。


「卵が孵ったら、一体どうなるのっ?」


「卵から孵ったオタマジャクシ姿の子供は、泡に閉じ込められた者の口や尻などから体内に入って、その者の身体を内側から食い尽くす」


セシルとエルレーンは、もう最悪とばかりに悶絶。


だが、冷静な分析を踏まえたKの話は続き。


「過去に俺が見たことの在る、生まれたての子供の大きさは、大まかに例えて俺の親指ぐらいだった。 その後に、図書館で更にその生態を調べたが。 生まれたての幼生は、腹に在る栄養袋の栄養が無くなる二日間は、獲物の胃や腸で休むって記述だった」


「人の腹で休むって…」


「さ・最悪ぅ…」


エルレーンも、セシルも、聞くに堪えないと。 2人して同じく手で口を覆い、気持ち悪がった。


一方、孵化した幼生が人を食べるまでには、幾らかでも猶予が在ると知るミルダは。


「ケイっ。 産みつけられた卵が孵化までの日数はっ?」


「本の記述と見た過去の経験からして、おそらくは湿気次第だ」


「しっ、湿気?」


「あぁ。 今夜のこの弱い雨ぐらいじゃ~孵らないだろうが。 2・3日前の大雨だと、確実じゃ~ないか? 朗報じゃないからな、黙ってたが」


日数や雨を踏まえると、最も最近に捕まったのだとしたならば、まだ余裕も有ろう。 だが、山小屋が壊されたのは、大雨の前とKは言う。 其処から逆算すると、実にもどかしいギリギリの様相だ。


「嗚呼っ、やっぱり・・数日遅かった。 慌てるのが、五日は遅かった…」


堪え難い悲劇に蹲るように、ミルダは前のめりに。


「ミルダっ」


「ちょっと! 髪の毛が燃えちゃうってばっ!」


セシルとエルレーンは、ミルダの脱力に驚いた。


“だから、騒ぐのが遅過ぎると言っただろう”


こう言わんばかりに、一人で余裕のK。 紅茶の残りを呷ると、コップを水で洗い。 布で拭きつつ。


「ステュアート」


と、声を掛けた。


ミルダを心配したステュアートだが、Kの声に反応し。


「あ、はい?」


「お前も冒険者に成った末、今回の面倒事に首を突っ込んだ」


話が大切なことに成ると感じてか、ステュアートは身を正す。


「はい」


「デプスアオカースの巣穴に行けば、見たくもない真実を見る事に成るかも知れん。 だが、それも決めて来た道の中での出来事だ」


「はい。 ケイさんに頼んだのは、僕ですから。 覚悟はします」


「当然だ。 俺と云う存在は、利用すれば良し悪しに関係無く、真実を詳らかにする。 死ぬことは無いとしても、腹は括れ。 何れ、俺はこのチームを去る。 それまでに、吸収の出来ることから理解しろ」


ステュアートは、Kへ身を合わせて一礼し。


「頑張ります」


嗚咽するミルダも含めた皆が、その様子をジッと見ていた…。


この包帯男は、こんな複雑な事態をどうする気なのか…。

御愛読、有難う御座います。 次は、月末か、月初めを予定しています。

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