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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
21/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~

                 セイルとユリアの大冒険 1






                   ≪四方決着≫





「うぐう・・・・・・」


必死で堪えるユリアが、気張る声を漏らす。 ユリアの足元には、息も絶え絶えになって“まな板の上の鯉”状態に、口をパクパクさせているサハギニーいる。


「サハギニーっ、しっかりしろっ!!!」


リザードバイターを足止めしていた水の渦の回転が弱まり出したのを見兼ねて、シェイドがサハギニーに応援を送った。


「わ・・わかっとる・・・がな・・」


フラフラのサハギニー。 理由は、魔法を維持するユリアの集中力が、もう限界に来ている証でもある。 モンスターを封じるなど、様々な魔法でも中級レベルの技術を要するのに。 ユリアは、全力で無理を犯したのである。


イクシオは、リザードバイターの身体に鞭を巻こうとすると。 水流に巻き込まれて引っ張られる感触を覚える。


(このまま手を離したら・・・ヤツに巻きつくか?)


イクシオの脳裏に、フッと浮んだ作戦。 両腕の動きが取れなければ、リザードバイターに攻撃の手段は限りなく制限されるだろう。 イクシオは、躊躇い無く手を離して鞭を自由にさせた。


“ヒュルヒュルっ!!”


風を切る音がして、鞭はリザードバイターに巻き付き出した。


「おしっ」


イクシオは、堪えるユリアに。


「御嬢ちゃんっ!!! もう少し踏ん張れっ!!! 鞭が絡み付けば、魔法を解いても構わないゾっ!!!」


その声に事態を察したシェイドが、絡まり出す鞭の様子を見てユリアに。


「ユリアっ!!!。 もうチョッとだよっ!!!」


「う・・・うん」


ギュッと目を瞑って集中するユリアが、微かに頷いた。


この時、セレイドの周りにエルキュールとボンドスがやって来た。


息の荒いセレイドを見て、二人は心配で。 エルキュールが、顔を覗きながら。


「大丈夫なの?」


「あ・・あああ。 それ・よりも・・武器を・・出してくれ」


ボンドスとエルキュールは、お互いに見合ってから武器を差し出した。 セレイドは、目を閉じて武器に両手を翳す。 セレイドの指には安物の様な鈍い光のリングが何個も填められている。 コレが、杖代わり魔法の発動体と成るのだ。


「戦の女神・アテネセリティウス様・・・聖なる力を我の仲間に与え給え・・。 闇を振り払う力を、この武器に宿し給え・・」


セレイドの両手が、ボワ~っと白く光り出す。


「・・・」


見ているボンドスとエルキュールの視界の中で、セレイドの手の光に自分達の武器が共鳴する様に光りだしたのを見た。


「むん」


セレイドが、カッと目を見開いて力を込めると。 武器に宿り出した光が淡く光ったままに成ったではないか。


「よし、これで戦える」


ボンドスは、何時もの倍の時間を使ったセレイドが、かなりの追い込まれた精神状態で居ると理解した。


「セレイド、休め」


ボンドスは、そう言って近くの立てないエルザを見る。 武器を扱わない分、やはり肉体的な影響も受けやすいのか。 グッタリしている。


エルキュールも、あんなエルザは初めて見る。


「セレイド、エルザを頼むわ。 ボンドス、行きましょ」


早く戦いを終わらせて、子供達を捜して帰ろうとエルキュールは思った。 此処に居ては、セレイドやエルザはおかしくなってしまうと恐怖したのである。


四方の戦いの中で、逸早くゴーレムを倒したのはクラーク。 床に叩き付けてからのリザードバイターの動きは著しく鈍く。 クラークが激しく突き立てる槍を防ぎ切れずその守る腕を砕かれ。 防ぐ手段を失ったモンスターは、捨て身の突進でクラークを狙うが。 リーチの長い槍に頭部を砕かれて塵に変わった。


「よしっ!!」


クラークは、悪魔ギャリスパを倒してこれ以上のゴーレムの起動を阻止せんと目論んだが・・。


「あ・・・何処だっ?!!」


間近の奥に渡る石橋の上に居た筈のギャリスパが見えない。 クラークは、戦う皆の戦況も含めてこの場を見回した。


その時、セイルの声が。


「上デスっ!!! 飛んでますっ!!!」


「はっ?!」


上を見上げれば、醜悪な身体をプルプルと震わせながらギャリスパは宙に浮いていた。 槍でも届きそうも無い高さ。


「うけけけけ、もうチョットだぜ・・。 もうチョットで力が溜まる・・。 それまで・・ま・待ってろや・・。 ザコでも相手にしてよおおっ」


ギャリスパの腐った顔が、力みに歪んで居る。 先程までは、あんなに簡単にモンスターを召喚していたのに。 今度は、其処までエネルギーを使う相手なのかとクラークは心配に成った。 


(残る3体のゴーレムとは・・何なのだ?)


しかし、この状況はそんなに悠長でもない。 クラークは、ハッと周りを見回して。


(ユリア殿にっ)


魔法でギャリスパを倒して貰おうとクラークは、急いでユリアを見ると・・。


「ぬっ」


床にヘタり込んでいる。 良く見れば、近場に鞭を身体に絡めて上半身の自由が利かずしてイクシオに襲い掛かっているリザードバイターが居た。


(足止めに魔力を使われたか・・・。 とにかくっ)


クラークは、素早い動きの突撃態勢から、鞭の絡まったリザードバイターへの攻撃を開始した。 潰せる所から早々と潰し。 戦力を集約する事を考えたのである。 この場で、子供達を助けに行っている間に、新たなゴーレムは生まれる。 戦力を、今に削ぐのは宜しくないとクラークは判断したのである。


そして、何故向こうのリザードバイターに狙いを定めたか。 それには、何故なら・・・。


「フっ、ハッ、セイッ!!!!」


セイルが、黒いゴーレムの右腕を魔法の宿した剣で斬り落として、その時の炸裂する衝撃波で黒いゴーレムがヨロける。 セイルの攻撃は、更に加速して。 左手一つに成った黒いゴーレムを圧倒し出したからだ。 クラークが見ても、此処に助太刀するのは返って邪魔に成ると判断したのである。 何よりも、怪我人を少なくする事を考えた結果の行動だ。 流石に、クラークは長く冒険者をやっているだけ在って、こうゆう判断は素早い。


一気に、残る3方も決着が着き出した。


クラークの加勢で、同じく加勢に来たボンドスとクラークの挟み撃ちでリザードバイターは頭部を砕かれて。 その頭部の中に詰まった暗黒のエネルギーを消滅させながら塵に消える。


一方、魔想魔術の効力が有効では無いのか。 炸裂する衝撃波の威力にのみ動きを乱していたリザードバイターと戦うキーラとマガルの元にも、神聖の力を宿したエルキュールが加勢する事で形成は一気に傾く。 


「魔想の力よ・・幻惑の紐と成れっ」


キーラは、エルキュールの到着でサポートに切り替えた。 余り幻惑呪術の適応が無いキーラなのに、相手に絡みつく魔法の紐を召喚する中級魔法に挑戦。 緑色の光る紐をリザードバイターに飛ばし。 立て続けに避けられても斬り込むマガルやエルキュールの間を縫って、魔法の紐でリザードバイターの片腕と片足を絡め取って背中で結んでしまう。 身動き取れないリザードバイターは、エルキュールの剣によって頭を砕かれ、同時に斬り込んだマガルに腰部を切断されて塵に消える。


2体のリザードバイターが消滅するのが略同時。


手の空いた皆が、セイルを見る時。


黒いゴーレムが左の剣で斬り込んだ一振りを素早く避けて、セイルが相手の懐に飛び込んだ。 半身で、剣を肩に側めて下向きに構えたセイルの紫のオーラを湛える目と、青白く光る剣が共鳴する様に光った一瞬。 


「おおおっ」


驚くボンドス。


セイルは、瞬く動きで跳躍しながら回転し、黒いゴーレムの骨盤のド真ん中から、上に背骨のラインに沿ってガイコツの頭部までを切断する青白い光のラインを引いた。 クラークの居た、向こう側に渡る石橋近くに着地するセイル。 同時に、斬った部分で魔法が炸裂して、真っ二つに分かれた黒いゴーレムは飛び別れながら塵に消えた。


「凄い・・・一人で・・・倒した・・」


エルキュールは、リザードバイターに最後以外はかわされっ放しだっただけに、セイルの力量に驚くばかり。


マガルも、内心に。


(強い・・・あの若さで・・・。 一体、何者なのだろうか・・・)


恐らく、この場で見た知らぬ一同も、セイルの祖父の名前を聞けばすんなり強さに納得するやも知れない。


「セイル~、ナイス~」


へたり込んだユリアが、鈍い笑みでセイルに親指を立てて見せる。


「イエ~イ」


セイルも笑う。


其処に。


「ぐははははは、お前等強いなっ!!!」


ギャリスパの声が、この場に木霊したのである。





                    


               ≪暗黒に魅入られた森≫






「うひゃ~、マッジ~?!!」


呆れたポリアの声。 霧の中で、奥の門の間近に現れたモンスターの中に、青い肌をした“レヴナント”と呼ばれるゾンビのモンスターが居たり。 “死人漁り”の異名を持つオオトカゲのモンスターで、“デットイーパー”と云うのまで現れた。


暮れ始めた暗がりの中で。 マルヴェリータは、奥の門の向こうから更に強い暗黒の波動を感じ。


「ポリアっ、門の奥はもっと暗黒の気配が強いわっ。 このモンスターは、その影響よっ!!!」


レヴナントを一撃で斬り倒したゲイラーは、カミーラ達の周りにモンスターの有無を確かめながら。 


「なんか厄介なモンスター(ヤロウ)が居るんじゃないかっ?!! 一筋縄で終わんないゼっ」


ポリアは、長引く戦いをしたくは無かった。


「仕方無い」


呟いては、白銀製の美しい刀身の剣を構えて、瞑目するポリア。


ヘルダー・ゲイラー・イルガは、それを見て。


(遣う)


と、思い。 ポリアの前以上に進まなくした。


ポリアは、心を済ませて一心に風を感じた。 脳裏に、何処か遠くで吹く様な風の音がする。 だんだんと風の音は強くなり、何時しか風の音はポリアの全身を包むような感じで聴こえていた・・・。


(遣うわよ・・・ブルーレイドーナ様)


(フッ、オモウゾンブンニツカウガヨイ)


心の中に、サファイヤ色に光る神竜が見える。


カァッっとポリアの目が蒼く光って見開かれた瞬間、ポリアの剣も蒼き波動に包まれて風を纏う。


「なっ、なんだっ?!!」


驚いたカミーラ達。


「地に還れっ!!! 亡者共っ!!!!」


ポリアが大きく剣を上段に構え、声と共に斜めに振り下ろす。 すると、一陣の豪風が巨木の幹周りにすらに匹敵する大きさで現れ、疾風の渦を伴ってモンスターの群れの中に駆け抜けて行く。


見ているゲイラーも、片目を吊り上げて豪快だとばかりにシスティアナと見合う。


駆け抜ける風は、一瞬だけ霧や雪すらも巻き込んで、触れるゾンビやスケルトンを蹴散らして灰にする。 モゾモゾと地面を這いずるヴーズをバラバラにして、大きさ5メートル以上のデットイーターをも飲み込んだ。 最後に、ゾンビやスケルトンの束にぶつかり、その全てを蹴散らすと同時に風は消えて行く。


「・・・・」


霧が、雪の降る中でカミーラ達の視界をまた塞いで行く。 風の通った道の芝は禿げ上がり、モンスターの動きは見えなくなっていた。


「か・・・“風のポリア”・・・」


呟く様に、カミーラはポリアの異名を思い出す。


ポリアは、直ぐに。


「システィ、マルタ、モンスターの数は?」


マルヴェリータが、不敵に笑って。


「8割は消えたわ。 流石ね」


システィアナは、ポリアの左を指差して。


「むこ~に、ちょびっとで~す」


ポリアは、ゲイラーやヘルダーを見ずして。


「イルガっ、皆の安全をっ。 残りのモンスターを掃討するわっ。 行くわよっ」


と、霧に走って消えて行く。


ゲイラーもマルヴェリータもヘルダーも先刻承知とばかりにポリアに続いて消えた。


システィアナは、周りをキョロキョロと見ているだけ。


イルガは、霧の中を注視している。


カミーラは、その圧倒的な光景に、自分達のこの10年が如何に無駄だったのかと思い知らされた気がする。 


「凄いな・・・世界は」


呟くカミーラの声には、何処か寂しさも混じる。


「フッ」


薄く笑ったイルガ。


「ポリちゃんよりも~、も~っと凄い人いますよ~」


と、にこやか言うシスティアナ。


「な・・なんだと?」


ビックリした戦士ダッカは、ポリアの行った後を見て。


「あんな冒険者よりも、もっと強い者が居るのか・・」


イルガは、瞑目する。 一人、あの男以上に強い冒険者など居ないと確信出来た。


さて、程なくして。


モンスターを倒し終わった一同は、門の前に集まった。 マルヴェリータは、光の魔法を封じた小石程の水晶を取り出し。 暗くなり始めた中で、光を起こした。 3粒をカミーラと、ポリアと自分で持ち。 門の前を明るく照らした。


「デケエ~門だな~」


ゲイラーは、中々の門の構えに見上げて感心。


だが、門や辺りを見ているポリアは、不思議に。


「でも、おかしいわね。 私の小さい頃、この森には幽霊が出るって噂で人が寄り付かなかったのは事実だけど。 此処は、王国直轄の土地よ。 何で、こんなに遺体が・・・」


マルヴェリータが、自分の王国の事を思い出し。


「ポリア、此処は元は古い無縁墓地だったんじゃない? ホラ、来るまでの森の木々に段々的な大きさのばらつき見えてたし。 前に、ジョイス様がホーチト王国の王城の裏手に広がる森の話してくれたわ」


「無縁の・・・墓地ね。 そ~なると・・・この門の先は何だろう?」


マルヴェリータは、鍵が壊されているのを見て。


「入るしか無いわね」


ポリアは、夥しいモンスターの出現で、子供達やイクシオ達の事が心配に成る。


「もう直ぐ、夜だわ。 とにかく、行ける所まで行くわよ」


と、中に入った。


セイル達、イクシオ達の通った迷いの迷路に足を踏み入れたのである。


入って直ぐにマルヴェリータが、幻惑魔術で“あやかしの迷宮”と云う魔法が掛けられている事を知り。 この魔法の特徴を逆手に取る事をポリアに教える。 迷路は、確かに入り組んでは居るが。 その所々の分岐点では、本当の道にだけはミラージュの効果が無いので魔法の感じる感覚が違うのだとか。 だから、自分がそれを教えると云う。


感心するばかりのカミーラは、マルヴェリータを見て。


「流石はあの有名なジョイス様の恋人だけ在るな」


これは、周知の事実だった。 と・・・思ったが。


マルヴェリータは、薄く笑うと。


「ジョイス様の恋人じゃないわ」


「えっ?!」


カミーラは、近々ジョイスが結婚すると聞いている。 このマルヴェリータがそうだと思っていたのに・・・違うとは。


マルヴェリータは、カミーラを見て。


「私は、ジョイス様の弟子みたいなものよ。 本当の関係は・・・・そ~ね。 師弟の親友って所かしら・・」


と、悪戯っぽく笑って見せる。


しかし、それを見るポリア達チームのメンバーの反応は明るい物は無い。


ポリアは、樅の木が左右に並木を作る回廊を見据えて。


「なんか、霧が薄まったわね。 行きましょうか」


と、先頭に成って雪の降り積もり出した通り歩き始めた。


「・・・」


何がどうなっているのか、カミーラには雰囲気が変わったポリア達が少し淋しく見える。 何故か、マルヴェリータの手を、システィアナが握って手を繋いでいるのが解らなかった。







                ≪危険な危険なゴーレム≫






「ぎゃははははは、ちっと遅かったなっ!!!!」


やっと皆がゴーレム達を倒した時、またもやギャリスパは手に溜めたエネルギーを残る3体の石像に飛ばした。


「あっ、またっ!!!」


ユリアが、座ったままの態勢から、その飛ばされる光景を見て指差す。 


一つの石像の近くに居たセイルが、飛んだエネルギーより先に石像に飛び寄って剣を閃かせた。


空間に、剣が壊れる甲高い音が響く。 石像は斜めに真っ二つに斬れた。 が、セイルの持っていた剣も同時に壊れた。 斬れた石像の半分が先に縁の外に崩れて落ち。 悲鳴を上げて壊れた剣も、柄の根元辺りから折れて宙に飛び。 落ちた石像の後を追って消えた。


「あ゛っ!!! チキショ~っ!!!」


ギャリスパは、予想外の行動で石像が一つ消えて。 黒い暗黒のエネルギーが、本来なら有った石像の頭に部分を素通りし。 奥の緑色の光が走る壁に当ったのを見て悔しがる。


だが、残り二つは命中していた。 俄に石像が色を佩びて、仄暗い藍色のスケルトンと、黒いスケルトンが縁で立ち上がって、空中の間に下りて来た。


「クソっ、後2体っ!!!」


エルキュールが、2体のスケルトンを見て剣を構えた。


が。


「皆さ~~~んっ、下がってっ!!! 黒い藍のゴーレムは凄まじく強いヤツですっ!!!!」


セイルが、縁の傍からユリアに駆け寄りながら大声を出す。


ボンドスは、この期に及んで“下がれ”と云われても困る。


「おいおい、そんなこと云ったってよっ!!!」


セイルは、ユリアを立たせると。


「石橋まで下がってっ、そうすればゴーレムは手出ししませんっ!!! このままでは、僧侶のお二人も被害に遭われますよっ!!!」


と、ユリアの肩を担いで下がり出したではないか。


イクシオが、困惑して。


「ンなこと云ったってよっ!!!」


だが、クラークは、セイルがこの場所の意味を知っている様な気がして。


「とにかく、下がろうっ!! あの黒い藍のゴーレムは、只ならぬ気配に満ち溢れておるわっ!!!」


と、槍とスピアーを持つ両手を広げて、皆の前に立って後退し始める。


マガルも、セイルの様子とクラークの様子からして、従った方が良いと思う。 やはり、あの初めて見る黒い藍色のスケルトンは、何か異様に畏怖を感じる相手だった。


カシャンカシャンと音を立てて、2体のスケルトンは辺りを見回し。 セイルやクラーク達を見つけると、ゆっくりと向きを変えて向かって来る。


キーラは、エルザに手を貸し。 セレイドにはボンドスが手を貸した。


そして、館の地上部に向かう。 自分達の渡って来た石橋に全員が戻って出ると。 スケルトンの2体はピタリと動きを止めたのであった。


さて、ギャリスパが高笑いして、フヨフヨと向こう側の石橋の上で罵詈雑言を並べだす。


「お~い、ど~した~。 人間のゴミ共っ!!! 怖くて逃げるかっ!!! ぎゃははははっ!!」


その時、クラークが。


「本当に止まりおった・・・。 セイル殿、此処は一体?」


セイルは、ユリアを気遣いながら。


「昔の“サマナーズコロセウス”だと思います」


と、最後の死んだ冒険者から貰った剣を抜いて刀身を確かめる。


イクシオが、ハッとして。


「なんだとっ?!! じゃ~、此処が、昔に魔法遣い同士が賭け事や決闘をする時に、自分のボーンとしてゴーレムを戦わせていたってゆう闘技場か?」


セイルは、流石は博識だとイクシオに。


「知ってましたか。 学者さんだけありますね」


と、鈍く笑った。


エルキュールは、それよりも戦わない事に不満が有る。 セイルに、キツイ目を向けて。


「それよりっ、これからどうするんだっ?!! あの悪魔の思い通りにさせんのかっ?!!」


すると、弱ったエルザが。


「エルキュール・・・少しは冷静に・・なんなさい。 アンタ・・この中でも・・一番弱いんだからね」


と、エルキュールを窘めた。


「・・・」


黙るエルキュール。


セイルは、皆を見て。 2体のスケルトンの姿をしたゴーレムを指差し。


「黒いゴーレムは、ヘルバウンドと云う黒い魔界に住まう火を吐く犬のモンスターの牙から出来た“ヘルズファイター”だと。 問題は、あの黒い藍のスケルトン・・」


怖い存在だとマガルは、真剣に。


「解るか?」


セイルは、ユリアを見ると。


「ユリアちゃん。 あのゴーレムを見て、感じる精霊力は?」


力抜けしてヘ垂れたユリアは、セイルに言われて。


「へェ?」


と、黒く藍色をしたスケルトンを見る。


「う゛~。 魔の力・・・土・火・・闇かな~」


頷くセイル。


「多分・・・アレはヘルバウンドの上のモンスターで、エクリサー(万能妙薬)を作る為に必要な素材の牙から出来たゴーレム。 “ケルベロスストライカー”。 ゴーレムの中でも、二番目・三番目に強い最強の剣士ゴーレムですよ・・・」


全員の目が、セイルとそのゴーレムとを行ったり来たり・・・。


ボンドスは、真っ黒い方を見て。


「んじゃ~、その下が、あっちか?」


セイルは、ボンドスを見て首を左右に。


「ヘルズファイターは、中級ゴーレムです。 ケルベロスストライカーは、上級ですよ」


イクシオは、こういったゴーレムに冒険者チームが全滅させられた話も多数在るのを思い出し。


「おいおい、勝てるか?」


セイルの目は、僧侶2人とユリアに向いて。


「神聖魔法と、光の精霊を召喚出来るなら有る程度は・・。 でも、それ以外だと、最も強いカードを選んで当ててどうか・・。 エルキュールさんや、イクシオさんでは殺されます。 僕も、一人では到底無理です」


と、その問題のスケルトンを真っ直ぐに見るセイル。


エルキュールは、セイルに寄って。


「じゃ、ど~するのさ。 このままじゃ・・・地下のおっかないヤツも復活する・・・」


頷いてセイルは、セレイドに剣を差し出し。


「スミマセン。 僕の剣にも、神聖なる力を付加して頂けませんか」


息の少し荒いセレイドは、真剣な眼差しを返して。


「それは・・構わぬが・・」


セレイドが剣を受け取って。 セイルは、再度2体のゴーレムを見据えると。


「僕とクラークさんの2人で、ケルベロスストライカーに当って、足止めを。 残りの動ける皆さんは、ヘルズファイターに向かって下さい。 そして、倒せたなら、え~・・」


と、ボンドスを見る。


「ボンドスだ。 禿げのボンドス」


ボンドスは、頭を指差し。 冗談っぽくそう言った。


「はい。 ボンドスさんと、マガルさんは戦える様なら此方に加勢に来て下さい。 四人で、なんとか」


エルキュールは、プライドを滲ませる顔を険しくして。


「アタシは、足手纏いかい」


すると、セイルはエルキュールの肩を指差す。


「ん?」


エルキュールは、さっきのリザードバイターとの戦いで、掠り傷を負って服の切れた血の滲む部分を見る。


セイルは、傷を見て。


「傷は大した事有りませんが、リザードバイターの身体の棘にも、麻痺の毒が。 動き回る内に、回ってきて少し朦朧としますよ。 ヘルズファイターに短期で、決着を付けに向かって下さい」


「・・・」


黙るエルキュールには、その言われた事が理解でき始めて居た。 もうジンジンと少し腕の感覚が鈍っているのだ。


「エルキュール、危ないなら止めろ」


イクシオが、リーダーとして言う。


だが、エルキュールの性格からして、引き下がる性質たちでも無い。


「大丈夫さっ。 アイツを倒すぐらいは、絶対に動けるっ!!」


気丈に言い放つエルキュール。


キーラは、セイルに。


「私も、加勢はいけないのかい?」


「ヘルズファイターは、炎と闇の性質が強いので、幾分魔想魔術も通用しますが。 ケルベロスストライカーは、“魔”の力が突出した魔法に強い耐性を持っているとか。 本で読みましたが、魔想魔術は無効化されます。 ですから、ヘルズファイターを倒した後は、悪魔の動向を窺って下さい。 もし、切り抜けられるなら子供達だけでも救い出さないと」


クラークは、セイルの目論見を読んだ。


セイルは、隙有らば悪魔ギャリスパを倒す気なのだ。 ケルベロスストライカーを倒せなくても。 悪魔ギャリスパは倒せる可能性が在る。 子供達を取り返せば、地下の恐るべき存在の復活も防げる。

ギャリスパは、ゴーレムを召喚するのに使った魔力の消耗が激しいのだろうか。 宙に飛ばず、向こうの石橋の上で罵声を飛ばしている。


(なるほど、捨て身じゃな。 だが、一番効率の良い考え方か・・。 ワシとセイル殿で足止めが出来るなら。 ボンドス殿やマガル殿を子供達の救援に向かわせられるやもしれん)


イクシオも、セイルに。


「俺も、子供の救出に向かっていいんだよな?」


「はい、そう願っています。 多分、誰かが死ねば、全員の死に繋がります。 それくらいに、力の均衡は微妙だと思います」


セイルのこの言葉に合わせる様に、セレイドは魔法を掛けた剣をセイルに差し出した。


「さ・・遣ってくれい・・」


セイルは、剣を受け取り。


「ありがと~ございます。 あ~あ、助け来ないかな~」


と、苦笑いでスケルトンに向く。


エルキュールは、顔を歪めて。


「一番強そうなのに何を言ってんだっ!!!」


セイルの逃げ腰発言に、薄く笑った冒険者達。 しかし、脱力したユリアは、へたり込んだ場からセイルを見上げては。


「セイル・・頑張ってね・・。 少し休んだら、手伝いに行く・・」


すると、微笑むセイルは、ユリアの頬に指先を付けて。


「風・水の魔法は、焼け石に水ぐらいにしか利かないよ。 闇や土や火は無効化されちゃうし・・・、さっきは無理したでしょ? 休んでて・・・」


と。 指を離して2体のゴーレムに向いた。


クラークがセイルの脇に来て。


「勝てると思うか?」


「思ってないと、戦えませ~ン。 ・・・嘘でも」


「フッ」

 

クラークは、口元に微笑みを浮かべた。


セイルは、剣を右手に握って。


「ではっ、一かバチか。 行きますよ~っ」

次話、予告。


雪の舞う中。 救出に急ぐポリア達。 そして、凄まじい剣の技量を備えたゴーレムと戦うセイル達。 完全な日没後には、あの地下の存在が・・・。 子供達を助ける事を第一に考えたエルキュールやイクシオ達は、向かえるのだろうか。


次話、数日後掲載予定。


どうも、騎龍です^^


本当なら、昨日に掲載予定でしたが。 色々と立て込んで今日になっちゃいました^^; さて、活動報告にも掲載しましたが、近日中にモバゲーの中で番外編の掲載を致します^^。


モバゲー内では、20話までの掲載後は、番外編の掲載をして。 数日後に、このセイル編の掲載をしようと考えてます^^


一番早い掲載のこの場では、番外編は編集とオマケ+で、年末年始辺りに掲載出来ればしようかなとおもっております^^


では、ご愛読ありがとうございます^人^


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