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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
209/222

第二部:闇に消えた伝説が、今動く 6

         三章


【魔界の様な山中に、Kと云う死神が舞い降りる】


〔その11.死人が流れる河へ。 遂に垣間見えた、Kの本領。〕


         ★


サーウェルスを捜す為、ポリア達はオリビアとミュウを連れて、Kの案内する大自然の中を行く。 現れるモンスターは、Kがほぼ一瞬にして倒す。


様々な種の樹木が乱立する森は、密林に成らない大樹の森。 間に生える‘池’の様な羊歯が、木々の間に隙間を生む。 古木や羊歯の森を掻き分け、進むだけで特殊な生物を次々と眼にした。


風に舞う様にして、そっと降って来る‘木葉虫’の一種。


ゲイラーの身の丈よりずっとデカい、ナナフシの一種。


草食系ながら、生き物の汗の臭いに釣られて来る虻。 拳大の虻に、塩分補給で舐められるのは、流石に気持ち悪く。 ゲイラーでも嫌がった。


また、襲って来る訳では無いが。 此方が傷付くのを待つ為、コソコソと尾行する様に着いて来るネズミや鳥も鬱陶しく。 ダグラスは、何度も追い払った。


だが、森を北上する事、どれぐらいか。 昼間までは、まだ時を有すると云う頃。


汗を拭ってオリビアを気遣いながら進むポリアは、道が斜面に成ったと感じて直ぐ。


「ケイ、靄が…」


空はまだ青く見え、掛かる雲は疎らだが。 森に靄が掛かると、視線の高さに茂る羊歯が邪魔で怖い。


ま、動くには、湿気を帯びたが涼やかな空気になって。 過ごしやすい風が北から吹いて居る。


だが、この時。 前方を行くKが、歩きながら言う。


「この薄い靄は、まだ気にしなくていいが。 そろそろ、戦闘態勢を整えろ。 この先は昨日、俺が採取をしながらモンスターを倒した所だ。 倒されたモンスターの遺体を喰らいに、別のモンスターが集まってるだろう。 まだ先だが、気配がしてる」


こう聴いたポリアは、マルヴェリータやダグラスを見て頷き合いながら。


「解ったわ」


と、緊張した声を返す。


汗を汚れた絹の手袋で拭うオリビアは、


「あ、あの方は、どんな・才能を・・して・いらっしゃるんですか?」


と、Kを不思議がる。


マルヴェリータは、確かに似た想いを何度考えたか…。


この靄が出る森の中では、様々な生命の力に遮断され。 遠くのオーラを感知するのは、なかなか難しい。 魔術師でも、僧侶でも無いKが。 マルヴェリータや自分を差し置いて、モンスターの気配を察するのか。 全く理解が出来ないのだ。


だが、捜索の最中でそんな事を聞いて居る余裕が、オリビアやミュウには無い。


そして、木々の間隔が徐々に開いて行く。 真上を見上げても、空を隠していたこれまでの木々が、ドンドンと低く成って行き。 足元にも、また岩肌が目立って来た。


と、思いきや。


‐ グアァァァァァァァァッ!!!!!!! ‐


モンスターらしき生き物の叫び声が、間近で上がった。


ポリアやオリビアなど女性が、息を呑む様な悲鳴に近い声を出す。


然し、大きい岩に延び放題の片側を凭れさせる大型羊歯の先から。


「気にするな」


と、Kの声がした。


処が、その大型の羊歯の先に行くと…。


「おわ゛ぁっ!」


ダグラスが、何か柔らかいモノを踏んだと驚く。 靄が風の影響か、足元を低く覆うから、それが見えなかったらしい。


だが、黒い鱗に被われた、口の長いドラゴンの顔が見えると。 ミュウは、短めの髪を風に靡かせながら、その細い目を見開かせ。


「コレって、ゲルドレックスだわ」


〔黒き竜種〕と、鱗の色から言われるドラゴンが居る。 その中で、〔ゲルドレックス〕は、悪魔の竜として有名だ。 毒を含む牙や爪を持っていて、戦う際には注意が必要と聞いた皆だから…。


ダグラスは、靄の中でも全体像を見るまで粘り。


「コイツ、首が短い代わりに、身体はデケェな。 羽根も生えてるし、二足歩行か…」


伸びた口の上に、尖った鼻先を持つゲルドレックスは、黒い大きな翼を持つドラゴンらしい風格が有る。


だが、居るのは、ゲルドレックスだけでは無い。


先を行くKの、その後に着いて行くポリア達は、他のモンスターの死骸を次々と見る。


先ず、オウガより一回り大きく。 赤茶けた肌をする、〔グレンデン〕と云う巨人だったり。


大きな蔦の腕を持つ移動植物のモンスター、〔シェルブリー・トローズ〕と云うモンスターが、ズタズタのバラバラにされていたり。


昨日、フェレックやキーラが相手にした〔スライム、スライミー〕の一団が、核を斬られ潰れていたり…。


然し、岩場が増えた斜面の草林の中、遂に開けた場所に出る。 右を見ても、左を見ても、遠くに草や木が見えるだけの、見通しが利く場所で。


「さて、〔屍渓谷〕に行く前の、軽い運動でもするか」


と、Kの声がする。


すると、もうポリア達は馴れて来たのか。


「みんなっ、ヤるわよっ!」


と、ポリアが言えば。


システィアナを守る様に立つマルヴェリータが。


「前方・・左側から、オークが数匹。 右前方より、・・エビルオクトパスね」


と、オーラ感知でモンスターを把握。


左を見たポリアは、剣を引き抜くと肩をイカらせ。


「アタシの宿敵ィっ!」


と、足音のするオークの方に走る。


苦笑いするのは、ゲイラーとダグラスだが。 ゲイラーは、靄の掛かる右側を睨むと。


「ダグラス、ポリアの応援に行け。 あのタコなら、戦い方はもう解ってる」


こう言って、背なの大剣を担いだゲイラーが、右側に行く。


ダグラスは、もう自分も、ゲイラーも、武器の刃毀れが目立っているので。


「アイようっ! 終わったら、そっちにイクさ」


と、手分けに。


一方、ポリア達が戦いに向かう様子を見たミュウが、その珍しい武器を手にすると。


「私も、参加させて貰おうか」


其処へ、マルヴェリータ、オリビア、システィアナの三人が左側の奥を見る。


真っ先に、眉間を険しくしたマルヴェリータが。


「嘘・・不死者?」


と、呟けば。


システィアナは、首を左右に動かして。


「ち~がいまぁすっ! まほ~セ~ブツです~」


と、訂正し。


オリビアが、


「恐らく、暗黒魔法の一種。 〔ゴーレムマジック〕の中に含まれる、〔アンデッド・フーティチ〕だわ」


“死肉の踊り子”


古代の言葉でこう言われるモンスターは、普段では滅多に見れない種で在る。 ゾンビに近いが、その形態は異形のモンスターだ。 死肉から生み出されし、〔魔意〕と呼ばれる思念が宿った怪物だ。


マルヴェリータは、ステッキを構え。


「来るっ」


と、身構える。


集中する女性等の耳に、ゴロゴロと何かが転がって来る音がした。 そして、マルヴェリータ達4人の前には、靄を押し開いて黒っぽい球体が現れる。 システィアナより高く、女性四人が並ぶほどの大きさをしていた。


そして、一番前に出たミュウが、


「何? この黒いかた・う゛っ!」


独り言の途中て鼻を押さえる。 死臭とも云うべき悪臭を嗅いだのだ。


ミュウの左後方に居たマルヴェリータは、直ぐに魔法の詠唱に入った。 剣の魔法を生み出したマルヴェリータは、問答無用とその黒い塊に撃ち込む。


そして…。


「ん゛っ、ん゛ん…」


ステッキを前に押し出しては力み、魔法を存続させてまで、その黒い塊を押し返そうとする。


その間、青白い魔法の光でモンスターの表面を見たミュウが、どんなモンスターなのかを知る事となる。


「ぬ゛ぅっ。 コイツは、死肉の塊ぃっ!」


ヌタヌタとした感じの塊の表面には、オークとか、オウガとか。 モンスターの死肉と腐った表皮が、団子を作るかの様にグチャグチャとしている。


(こんなモンスターに押し潰されたら…)


想像しただけでも、ゾッとする事実。


「化け物め゛っ」


三日月のブーメラン、〔ムーンスラッシャー〕を構えるミュウ。


処が、其処へ。


「やっぱり、荷が重いか?」


と、Kの声がする。


〔アンデッド・フーティチ〕なるモンスターを、魔法の力で押し留めるマルヴェリータは。


「だ・だい・・じょうぶ…」


と、力むままに返した。


大きなモンスターを魔法の力で押し返そうとするマルヴェリータだが。


その後ろに来たKは、やる気の無さそうな眼差しを向けて、そのモンスターを見ながら。


「ポリア。 ダグラス。 オークと遊び終わったら、ゲイラーに寄れ。 前から突っ込んで来る“ヘルバウンド”ぐらい、オウガを倒したならお前達でも倒せるぞ」


と、言った。


靄の中、オークを倒しきったポリアとダグラスは、Kから“ヘルバウンド”と聞いて。


「ポリアっ」


「うんっ、急ぎましょうっ」


と、二人してゲイラーの方に走る。


さて、エビルオクトパスを難なく倒したゲイラーだが。


‐ ガォォォォォォン! ‐


威圧感の在る雄叫びと共に、象より大きな真っ黒い犬が、ゲイラーへ目掛けて林の中から飛び出して来た。


ポリア、ダグラス、ゲイラーは、突っ込まれる前に散開し。


「オラぁっ!」


走る動きをそのままダグラスが、“双頭の魔獣ヘルバウンド”の顔に目掛けて、水辺に剣を薙払う。


だが、“ガギン!”と甲高い音を出して、ヘルバウンドの長くはみ出た牙が剣を弾く。


「どあぁっ」


勢いを貰って弾かれたダグラスは、尻餅を突こうかと云う勢いでバランスを崩す。


その様子を見たポリアは、


(うわっ! ダグラスの剣をちゃんと弾く様に、狙って牙を動かしたっ!)


と、驚いた。


死角を突こうとポリアは、ヘルバウンドの顔よりまだ先へ走る。


ポリアが側面に回る事にしたと知るゲイラーは、ダグラスが体勢を取り戻すまでは、と。


「そりゃあっ!」


思いっきり突き出す大剣の勢いで、ヘルバウンドの優勢を消す気だった。


だが、ヘルバウンドの右側の顔が、左側に‘いなす’様に大剣を弾くと。 直ぐ様、左側の顔が大剣の刀身に噛み付いて来た。


「ぐっ、マジかよっ!」


大剣の切っ先より下を噛まれたゲイラーは、頭脳的な行動をするヘルバウンドに驚く。


ヘルバウンドの右側の顔は、牙が足の膝まで伸びるぐらいに長い。 然し、左側の顔は、牙が短くて噛み合わせがぴったりなのだ。


大剣を引き合うゲイラーとヘルバウンド。


側面に回ったポリアは、このモンスターが炎の球を吐くと覚えていたので。


「ダメっ! 離せっ」


と、ヘルバウンドの後ろ足に斬り込んだ。


一方、倒れずに持ち直したダグラスも、ゲイラーの大剣が咥えられてると。


「テメェっ!」


気合いで持ち直し、ヘルバウンドの首に斬り掛かる。


処が、左右から攻められると察するヘルバウンドは、ゲイラーの大剣を齧る左側の顔が、引き摺る様にゲイラーの体勢を崩しに掛かって於きながら。 先端の赤い真っ黒な太い尻尾を振り回して、ポリアの剣を弾き返し。 ダグラスには、煙を吐き出す右側の顔が口を開く。


この所為でゲイラーは、大剣を持つ体勢を大きく崩され。 ポリアは、尻尾に剣を弾かれ、その勢い余って転ぶし。 ダグラスは、煙りの出る口にギョッと驚き、斬る事を躊躇ためらって逃げに転じる。


炎のブレスから逃れるダグラスは、


「うお゛ぉぉーーーっ! 強過ぎるぅぅぅっ」


と、声を上げた。


声を聞くマルヴェリータやシスティアナは、ポリア達の方が気に成る。


だが、Kは。


「アホ~、三人で掛かって遊ぶな。 ヘルバウンド如きで、斬り込む間合いを見込み損なうなよ。 ソイツは、純粋な力からするとオウガよりは弱いぞ」


と、のみ。


だが、剣の魔法を炸裂させて、数歩だけ〔アンデッド・フーティチ〕を退かせるマルヴェリータは。 更に、魔法を唱えては、無数のナイフを生み出した。


「行きなさいっ」


魔法を飛ばして死肉の塊の彼方此方に刺しては、炸裂させる。


そんなマルヴェリータへ、Kは。


「あの肉を全て剥ぐと成ったら、お前が倒れるまで遣る必要が有る。 内部の何処かに、核となる暗黒のエネルギー体が潜むから、それを壊せ」


と、言ってから。


「システィアナ。 お前が、ちゃんと頭を使え」


と、言葉のみ。


杖を構えガッチガチに固まり、口を震わせていたシスティアナだが。


「あわあわあわ・・や、やってみマふ~」


と、Kの言う事を理解したらしい。


さて、双方のモンスターに苦戦中で、いよいよミュウとオリビアも戦おうとする。


其処へ、Kが待ったを掛ける様に。


「オリビア」


「あ、はい?」


「こっちのネ~サンを連れて、ポリアが最初に行った向こうに行け。 オーク数匹に、怨霊系のゾンビが来てる。 数は多く無いから、二人で十分だろうよ」


こう言って来た。


だがオリビアは、目の前に苦戦する者が見えている。


「それぐらいならば、ミュウ一人でも…」


すると、Kはオリビアを見て。


「お前達の様なポンコツより、ポリア達の方が経験を必要としている。 余計な手出しをせず、向こうで見ていろ。 もう、ポリア達は甘やかされる時期に無い。 次第に世界へ出て行く、その時を迎える為の場数稼ぎだからよ」


ミュウとオリビアは、Kの発言に驚いた。


その最中だ。


「ちがいますぅっ。 マルタしゃんっ、あのおテテが在る所ですぅぅぅーっ!」


「‘手’ぇっ? あの骨抜きに成ってる手ぇっ?」


「そ~でぇスっ!」


マルヴェリータとシスティアナが、〔アンデッド・フーティチ〕に向かって何かを言っていた。


また、


「ポリアっ、同時だっ! 後ろ足より前っ、腹を狙うぞ!!!」


「ダグラスっ、言って遅れないでよっ」


「ダグラスっ、ポリアっ、顔は俺に任せろっ!」


と、ポリア達三人も声を掛け合っている。


ミュウは、Kが言っている意味は解らない。 然し、余計なモンスターが、この双方の戦いに介入するのは不味いと。


「オリビア、行くよ」


と、先に走って行く。


オリビアは、黙って着いて行くしか無い。


そして、〔アンデッド・フーティチ〕と、二人の戦いから。


システィアナは、暗黒のエネルギーの核が在る位置を、何となくの様子で把握していた。 マルヴェリータの魔法を、その核の有る辺りに当てさせようとする。


然し、〔アンデッド・フーティチ〕の内部に在る核は、内部の中心に近い場所で動き回っていた。 だから、システィアナの指示が、あっちこっちと転々する。 魔法で死肉を剥がす内に、マルヴェリータも一点集中して。 剣の魔法を食らわせて、ホジった穴の周りに魔法を当てる。


(ケイの云う通りだわ。 集中して制御さえ出来れば、何度と魔法を発動しても…)


魔法も、所謂一つの技術だ。 経験や訓練により、集中の仕方から詠唱までが、剣術の連続攻撃の如く流れる動作の様に成る。 マルヴェリータは、生まれて初めて、魔法を遣って楽しいと感じていた。 また、魔法を扱って、実力の成長を実感する。


「我が想像は、魔力を得て創造す。 無数の飛礫よっ、我が意思に応えよ!」


杖を掲げるマルヴェリータの頭上には、キーラやフェレックの生み出した飛礫より、ずっと多くの数が出来上がった。


「システィっ、狙ってるあの一点に、弱点の核を誘導するわっ」


「リョ~カイでぇすっ」


システィアナの指示に由り、マルヴェリータは魔法を飛ばす。 然も、只単に魔法を当てるだけでは無く。 〔アンデッド・フーティチ〕の球体を、多面体の様にする様に当てて行く。 次第に、〔アンデッド・フーティチ〕の転がり様が不恰好と成れば…。


「マルタしゃんっ、今ぁっ!」


「行けっ!」


魔法の飛礫を、ホジれた肉の亀裂に突っ込ませる。


その様子を黙って腕組みしていたKだが。


(やっぱり、ポリア達には場数が何よりの成長の源だな。 もう、自分達で迷ったり考えたりする事で、先に進める様に成る)


と、観た。


そして…。


「わ゛っ」


と、システィアナが驚き。


「ちょっとっ、ナニ・・やだぁ」


と、マルヴェリータが声を発する。


Kは、ベチャベチャと死肉を落とす〔アンデッド・フーティチ〕を見て。


「塊に留める力が無くなったんだ。 腐った死肉なんて、暗黒の力が無ければあんなモンだ。 それ、ポリア達を助けてやれ」


と、覚めた説明をする。


マルヴェリータも、システィアナも、酷い腐敗臭を放つ〔アンデッド・フーティチ〕より逃げる様に離れながら、‘臭い臭い’と言った。


一方、オーク4匹の群れを相手にするミュウは、そのブーメランで先行する一体を倒した時。


「ミュウ、向こうの〔アンデッド・フーティチ〕は、もう倒されました。 前方より来る敵に、集中しましょう」


と、オリビアの声を聴いた。


「解ったっ!」


格闘技も心得るのか、両手にムーンスラッシャーを持ったミュウは、オークの中に飛び込み。 1匹を斬って倒し、直ぐに二匹目へブーメランを投げる。 急所を突く攻撃で、瞬く間に倒してしまう。


また、その後方に居たオリビアも、〔裁きの鉄槌〕なる神聖魔法を唱え。 眩く光る魔法のハンマーにて、ゾンビとスケルトンの一団を一撃で消滅させた。


その直後。


「はっ!!」


ミュウの投げた“ムーンスラッシャー”が、離れた先に居た最後のオークの急所を切り裂いて戻る。 武器を取ったミュウは、オリビアを背にして周りを窺った。


靄の先に見える林の木々が、無残に一角全て薙倒されている。 その原因は、サイクロプスが倒れた為だ。 Kの言った通り。 Kが倒したモンスターの死体に、違うモンスターが腹を満たす為に集まって来ていた。 オークやヘルバウンドは、その死骸に集まったらしい。


Kの為した事の跡を見詰める二人の女性。


其処へ、


「えいっ!! たあっ!!」


と、ポリアの裂帛した気合いが聞こえる。


二人が声の方へと振り向くと・・。


〔双頭の魔獣〕、〔地獄の番犬〕と呼ばれるヘルバウンドの後ろ足に、ポリアは果敢に斬り掛かり。 口から煙りを上げるヘルバウンドを刺激して、ゲイラーに炎を吐かせない様にとしている。


また、助けに入るマルヴェリータが、魔法の飛礫を生み出して、ポリアと連携する様に顔へぶつける。


ヘルバウンドの炎が吐かれなければ、脅威は半分削がれたも同然だ。


「どおおりゃ!!」


自分への注意が反れたと知るゲイラーが、ヘルバウンドの土手ッ腹に踏み込み、全力で大剣を振り上げ斬り込めば。 ダグラスも同調して、ヘルバウンドの顔正面へ、一撃必殺とばかりに頭を狙いに行く。


だが、それが致命的な一撃には成らず、ヘルバウンドが暴れてしまえば。


「うぉっ」


「わぁっ」


「ヤバいっ」


皆それぞれ回避に追われ、その後は隙を見付けるまでは警戒して、間合いを計る事に成る。


その様子を見たオリビアは、Kが助けないのか、と。


(彼は?)


と、辺りを見回すと。


「あ゛っ」


その感覚に飛び込んで来る波動に、オリビア固まった。


Kは、皆とは離れた所で、別から襲い来るモンスターの群を迎え撃っていた。


「ミュウ・・向こう」


「え?」


振り返ったミュウは、オリビアの指差す方を見て。


「どうしたの? 向こうは、西側の林でしょう?」


「違うの…」


「え?」


「西側の四方八方から、次々とモンスターが…」


オリビアの話に、ミュウは眉間を険しくさせ。


「不味い、長居をし過ぎているんだわっ」


と、現状を理解する。


だが、オリビアの驚きは、それでは無い。


「ホラっ、また消えた! モンスターのオーラが、一瞬で殺がれてる…」


慌て辺りを見るミュウは、Kが居ないのを見て。


「一人で、群を倒しに行った?」


「えぇ…。 あ・・終わった」


オリビアが、頷いた後にそう言う。


「終わった? 何が?」


「モンスターを・・倒し終わったみたい」


「彼が?」


ミュウの問い掛けに、頷き返したオリビア。


そして、Kは戻って来た。


オリビアとミュウが見るKは、モンスターの角らしき物を3本。 剣より長い物を持ち帰っていた。


「ミュウ・・。 彼は、神に化身でしょうか…」


モンスターより、Kに恐れを抱く思いのオリビアは、冷汗に額を濡らす。


ミュウも、周りを警戒しながら。


「私達、世界を股に駆ける自信を失いそうね。 あんなに強いのに、名前が知られて無いなんて有り得ない。 でも、あの若さで、あんなに強い冒険者の話なんて、聞いたことが無いわ」


と。


これが、K最大の謎である。


さて、Kが戻る頃。 ポリア達の方は…。


「神聖なるフィリアーナ様の加護よ~、私の仲間を守る力をくださいな~」


システィアナが、杖を手に念じれば。 ヘルバウンドと戦うポリア、ゲイラー、ダグラスの体に聖なる白い光りが降り注ぐ。


それを見たKは、遠めから。


「それ。 〔守りの祝福〕が、モンスターの攻撃のダメージを軽減するぞ。 ヘルバウンドぐらい、三人で早く倒してしまえ」


と、傍観体勢で言う。


Kの声を聴いたポリアも、ゲイラーも、ダグラスも。 マルヴェリータの魔法を食らって、右側の顔が潰されたと見るや、三方から全力でヘルバウンドに斬り掛かる。


真っ先に斬り込むポリアが、ライオンの尻尾の様な、ヘルバウンドの黒くしなやかな尾の先端に在る、赤い部分を斬り飛ばし。 返す斬り上げで、尻尾を中ほどから切断した時。


土手っ腹に剣を突き立てたダグラスが在り。


一方で、渾身の一撃と斬り込むゲイラーが、ヘルバウンドの左側の頭に剣を突き立て、漸く倒した。


岩場の開けた辺りで、倒れたヘルバウンドを見るKは。


「そうだ。 戦う時に、先ず小手先の様なことを考える様では、まだまだ甘い。 一撃一撃が、結局の処で全てだ。 もう、お前達の実力を集めれば、オウガやヘルバウンドぐらいなら、何とか倒せる処に来ている。 後は、如何に恐れを振り払い、集中するか、だ」


と、語る。


「はぁ、はぁ…」


息を荒くしたポリア達三人は、お互いを見合う。


さて、昨日のオウガといい。 今日のヘルバウンドといい。 戦った経験が全く無いモンスターを相手にして、心身を疲労させたポリア達。


その中でも、ポリアが一番息が上がっている。 マルヴェリータも少し頭を抑えた処を見ると、精神的な疲労を感じて居るのだろう。


また、傷を診に来たシスティアナは、まだ元気そうだ。


然し、ゲイラーやダグラスも、息が荒く。 真剣そのものと言う顔に、まみれさせる程の汗を浮かべていた。


オリビアとシスティアナが、戦った三人の怪我を診る。


その間、Kがマルヴェリータへ。


「どうだ。 魔法を連発してもヘバらないと、新たな課題も含めて見えて来るモノが在るだろう?」


薄く冷や汗を浮かべた額を拭ったマルヴェリータは、


「えぇ。 でも、見えて来るのは、自分の‘まだまだ感’だわ。 手応えは感じてるけど、マクムス様の様な持久力には到底…」


と、実感を返した。


昨日の夕方から様々な魔法を度重ねて遣うマクムスは、朝方まで倒れもしなかった。


だが、Kの眼は、何処か薄笑いに近い。


「そんな事を考える様なら、成長する一歩目は踏み出せたらしい。 後は、慣れと訓練と場数だ」


言ったKを見返したマルヴェリータは、呆れすら混じる困惑の表情で。


「寧ろ、完成している貴方やジョイス様が羨ましいわ。 その域に、どうやったら近付けるのかしら…」


と、投げ掛ける。


「さぁ、な」


短く言ったKは、マルヴェリータを見ず。


「マルヴェリータ」


「ん?」


「ジョイスを‘師’と想うだけなら、友人でも何でも頼って仰げ。 ただ、生半可に好きに成るなら、深みになるまで近寄るな」


「どうゆう・・事?」


「もし、好いてしまえば、その理由が否応無しに解るサ。 アイツは、魔法の腕と正義感は一流だが。 異性に関しては、10代のガキみたいなモンだ。 身近に頼れる女が居れば、依存する様に甘え込む。 だが、その中身が、時が止まってやがるから、どうにもこうにもバカな事をする」


Kの言う意味が、マルヴェリータには全く解らない。


「ケイ、言ってる意味が、解らないわ」


するとKも、独りよがりの様に頷いて。


「今は、そうだろうな。 だが、親身に成れば、何れ解る。 男って云う生き物は、仕事や技術で性格が成熟しても、何処かに‘子供’みたいな幼稚さを残す。 お前は、ジョイスを通して、それを垣間見るかも知れない」


「それって、私がジョイス様を頼れば・・って事?」


「あぁ」


「じぁ・・ケイ、貴方は? 貴方は、もう通り過ぎたの? その、‘子供みたいな幼稚さ’って云うのを…」


マルヴェリータの問い掛けに対して、Kの眼は空虚な笑みを見せた。


そして…。


「そうだな・・。 今は云うなれば・・・“償いの今”、だな」


呟く様に言って、歩き始めた。


(‘償い’? 誰に、何を?)


と、想像したマルヴェリータだが。


Kは、ポリア達の治療も終わったのを見たので。


「さて、行こうか。 この先が、問題の〔屍渓谷〕だ」


ポリアの元に、マルヴェリータやミュウも含めて全員が集まった。


先頭に立ったKは、開けたこの場所から北へ向かって、靄の漂う密草林に入って行く。


去る中で、Kが一旦向かっていた西側の方からは、モンスターの唸り声やら争う声がしていたが…。


だが、もう一々全てのモンスターを相手にする暇など無い。


そして、Kを見失わない様に向かう先から、怨念の放つ絶望を含んだ瘴気の波動をオリビアやシスティアナが感じ始めて。


「あ゛あ゛あ゛、こアい゛ぃでぇすぅ~」


「皆さん、そろそろ〔屍渓谷〕と云う場所が近いですよ」


と、僧侶二人の態度が変わり始めた。


ポリア達は、緊張から生唾を飲む。


だが、靄が霧と変わる視界不良の中で、Kはいきなり歩みを止めると振り返る。


ポリアの脇に居たオリビアは、


“何か在った?”


と、驚く思いがして。


「どうしたのですか?」


と、訪ね返すと…。


霧が咽ぶ状況の中でKは、オリビアとシスティアナを見て。


「いいか、〔屍渓谷〕の広大な一帯には、強烈な怨念が渦巻く。 普通なら、こんな場所に僧侶は立ち入るべきじゃ無い」


その話に、オリビアの方が緊張と焦りから。


「解っています。 ですが、サーウェルスを捜す為には…」


「焦るな。 慌てず、話を聞け」


「………」


押し黙ったオリビアは、これから向かう場所の恐ろしさを肌で感じている。 だから、居なくなったリーダーの男を心配して居るのだろうが…。


「全く何の手段も無く、講じずに行けば、お前のお腹の赤子どころか。 僧侶のシスティアナとお前が、二人して死ぬぞ」


無謀な事を承知でこうした、とポリアは思った。


だが、Kは直ぐに話を繋ぎ。


「同じ神を信仰する僧侶が二人居るならば、アレが使えるだろう? 此処からは、俺以外は誰も戦う必要は無い。 お前達二人が皆を守りながら、俺の後を着いて来い」


その言葉に、オリビアはハッとした。


(あっ)


Kが、二人も僧侶を連れて来た訳が、今に成って解った。


一方、システィアナは、右手を挙げて。


「は~い、〔レクイエムソング〕の〔契り〕をつかいまぁ~す」


と、言うではないか。


オリビアは、システィアナに振り返り。


「貴女・・解ってたの?」


問われたシスティアナは、ニッコリとして返し。


「は~い」


“全く対処も無しに、危険極まりない場所へと突撃する訳では無い”


そうと知ったオリビアは、歩き出したKの背中を見て。


「では、行きましょうか。 皆さん、私とシスティアナさんの傍から、決して離れてはいけませんよ」


と、言う。


ポリア達は、一体何をしようと云うのか、それが全く解らないままだった。


          ★


さて、ポリア達がKに導かれ、いよいよ〔屍渓谷〕に向かおうと云う頃。 他の皆が休む祠では、ちょっとした話が起こりつつ在った。


オリビアの仲間達は、まだ絶対的に安静で。 Kが前もって作り、マクムスに渡して在った薬に因り。 病気と毒は取り除けたと云う状態に成ったが…。


ゆっくり休む事に暇を持て余すフェレックは、バカ正直にキーラが魔力を込めたのを見て。


(昨日の今日で、全力で魔力を送ったら、駆け出しなんか気絶する。 アイツ、バカ?)


と、寝るキーラを見ていた。


水晶に魔力を込める作業そのものは、普通の街でも斡旋所に依頼が来るポピュラーなもの。 どんな依頼かは、その時に綴るとして。 慣れたフェレックは、段階的に分けて送るとして、一気に全力を使うなどしなかった。


さて、一方で。


ぼんやりするイクシオが、ふと思いたって。


「然し、剣を振るう圧力で、あんなデカいサイクロプスだのキマイラを倒せるって・・凄いな」


Kの事だ。


昨日、口答えみたいに引き金を引いたコールドは、昨日のKを思い出しては身震いし。


「だが、あの眼力は普通じゃ~無い。 見られた一瞬、魂をブッたぎられた思いがした」


其処へ、マクムスが。


「ケイ殿の遣った技自体は、差ほどに珍しい技では有りますまい。 ただ、あれほどの威力を発する遣い手は、匠の域でも歴代に片手の指ほど・・、でしょうな」


と、起きているイルガの腕の具合を診る。


言い出しっぺのイクシオは、


「マクムス様。 ‘技自体が珍しくない’とは、一体どうゆう事ですか?」


と、尋ね返した。


骨はくっ付いているのだが、どうにも炎症をおこし掛け。 微熱の出ているイルガに、もう少ししたら解熱薬を渡そうと診たマクムス。


「イルガさん、後で解熱薬を飲んで下さい。 明日には、村まで移動しなければ成りませんからな」


そして、次の世話とボンドスの様子に移ると。


「ケイ殿が遣って居るのは、世間一般で〔覇気〕とか、〔闘気〕とも呼ばれるもの」


その技術は、在る一定の力量を備えた冒険者や騎士など、一握りが遣える技術と知るイクシオは。


「あれは、〔バトルオーラ〕なのですか?」


「おそらく」


肯定したマクムスだが、ボンドスを診るの中断すると。


「私は、まだ若い頃。 その遣い手として名を馳せた、〔斬鬼帝ハレイシュ〕様の腕前を見た事が在ります」


「え゛っ?!」


祠内にて、起きている一同が声を上げた。 “斬鬼帝ハレイシュ”と、“剣神皇エルオレウ”は、冒険者の間でも憧れの二大巨塔で。 二人の存在は、もはや神の様に語り継がれている。


然し、マクムスは、更にこう言った。


「ですが、客観的に見ても、明らかにケイ殿の方が上ですな。 目にも止まらぬ早技と云う域を、彼は既に凌駕している。 彼の性格が、あの様に世情・世間の明闇に関係無く泳ぐものでなければ。 今頃は、羨望から尊敬を一身に集めるのでしょうが…」


黙って聴いていたハクレイは、マクムスの様子に何か残念さを感じて。


「マクムス様。 それは、どうゆう事ですか? あのリーダーは、その存在には成れないのですか?」


すると、ボンドスの骨の具合を診たマクムスは、此方も微熱が出ていると知ってから。


「いやいや、ケイ殿はそれを望んで居らぬ。 それを望んでいるならば、チームを渡り歩く様な生き方を望みませんよ」


「はぁ?」


ハクレイの間の抜けた返しは、聴いている一同の本音だろう。


然し、マクムスは眉間を少し険しくすると。


「彼の様な冒険者は、闇に生きた者。 以前に聴いた話ですが。 斡旋所には、おいそれと他人には回せない……、闇に隠れた依頼も存在するとか」


「そんな依頼が、在るのですか?」


「はい。 以前の主をしていた老人は、それが元で生業を続けられなく成ったとか。 私の友人でしたが、この国を去りました」


冒険者生活の長いボンドスは、横に成りながら。


「そう言えば、俺も耳に挟んだ事が在るな。 報酬に見合わないモンスター退治。 既得権や権力を傘に着る悪人の暗殺依頼。 王族・貴族・大商人などをとても危険な組織より守る護衛などが在ると…」


湯の加減を見に立ち上がるマクムス。


「私は、その仕事をする冒険者と知り合いでしたが。 人を殺め、殺められる事に馴れた為か。 非常に覚めた雰囲気を纏っていました。 あの、モンスターを倒す時のケイ殿は、正に同じです。 彼の技は、余りにも凄絶過ぎる。 経験の一部は、見習うべきでしょうが。 姿勢の全てに感化されては、いけない人物でも在りますな」


このマクムス達の話を聴いたイルガは、漸く色々と納得が行く。


(クォシカの一件で、ケイの知り過ぎた知識が怖かったが。 やはり、そうゆう生業をしていた者か…)


と、目を瞑る。


だが、イルガの心証は、また少しマクムスとは違ったもので。


(悪魔の様な者も、何かを改める事で変わるらしい。 ケイと出会った事で、お嬢様達は道を得た)


また、今もそうだ。 こんな報酬に見合わない仕事など、Kには不必要だろう。 然も、素人の様なポリア達を含めて、オリビア達を命懸けで助ける義理も無い。


イルガは、その変化の経緯と成る根幹には、人情が有ったと思う。


然し、マクムスの見方も、強ち間違ってはいない。


それは、今のKの存在と。 ジョイスの存在を比べれば、朧気に理解が行く。 実力としては、ジョイスもKには及ばないのだ。 だから、あの態度なのだ。


その明闇を分けたものが何なのか、それはKにしか解らないだろう。


そして、その頃…。



          ★


白い濃霧が、辺り一面を隙間なく埋め尽くした世界に、Kを先頭にしたポリア達が居る。


さて、学者と云うミュウですら、僧侶二人とKの遣り取りの意味が解らず。 オリビアは、Kとの遣り取りの意味を説明していた。


僧侶は、神を信仰する代わりに、〔加護〕と云う力を得る。


その一つは、神聖魔法。 回復や神聖なる力を持つ魔法の数々だ。


そして、二つ目は、歌だ。


更に三つ目は、悪魔や怨霊や死霊などに対する鋭い感知能力。


だが、今回のKが言ったのは、二つ目の歌。


まぁ、歌と言っても、種類もそれぞれ。 信仰する神によって、多種に分かれる。 然し、僧侶総てに共通するのは、レクイエム(鎮魂歌)なのだが。 この鎮魂歌と云う歌の用途は、使い方次第で様々な応用が利くのだ。 寧ろ、何で僧侶でも無いKが知っているのか、不思議なぐらいだが。


さて、余談は置いて。 鎮魂歌の基本的な効力は、浄化したい怨念の事を思って歌うと、ゴーストやアンデットモンスターを塵にして成仏させる。 これが、所謂の普通の使用形態だ。 葬儀などで歌うのは、亡霊に成らない様に祓い清める意味が在る。


然し、仲間を思い守る気持ち、己を守る気持ちを込めて歌えば。 怨念の波動を寄せ付けない、〔守りの障壁〕と云うものを張る事も可能なのだ。


もう、辺りに草木は殆ど生えて居ない。 足場から解るのは、短い雑草が所々に生える岩場と云う所に居る。


そして、Kの姿は、先頭を歩くオリビアとポリアにも見えていない。 足音と、もやっとする影の姿を頼りにしているのみ。


密草林を抜けて来た今、奇妙な霊気が漂うほど。 オリビアとシスティアナでなくても、この場が薄気味悪く感じるし。 マルヴェリータは、暗黒のオーラを前方より感じるほど。


そして、その圧力を感じたのか。 オリビアが、


「皆さん、もう私とシスティアナさんの周りより、外へ出てはいけませんよ。 これ以上は、生身の人間が行くべき領域では在りません」


と、鎮魂歌を歌い始めた。


そして、それはシスティアナも一緒。


ポリア達も、ミュウも、何事かと戸惑うが。


オリビアとシスティアナが、声に出して鎮魂歌を歌い始めると…。 間近に居るポリア達の周りを、白く光るベールのような半透明のカーテンが包み出した。


「うわぁ…」


ダグラスが最初に気付いて、驚く声を出す。


ポリアも、そのカーテンを見て。


「鎮魂歌って、こんな使い方が在るんだ…」


然し、マルヴェリータは、


「この光のカーテンは、漂う〔瘴気〕《しょうき》に反応している。 私達が被われない様に、この神聖なるカーテンが覆って居るんだわ」


マルヴェリータの分析は、確かに当たっている。 神に、仲間の無事を祈り。 慈愛・博愛・優愛の精神を保ち続けなければならない。 二人の柔らかく優しい歌声が響く間、このバリアと同じカーテンは仲間を守るのだ。


其処へ、歩きながらKは言う。


「いいか。 余計な疑念は捨てて、無条件で俺の存在を信じろ。 でなければ、この先に踏み込むと同時に、“レクイエムカーテン”は消滅するぞ。 集まるモンスターは、全て俺が倒す。 一匹たりとも、お前達には任せない。 安心して、歌い続けるがいい」


と、こう言うではないか。


ミュウも、ゲイラーも、ダグラスも、こんな事を言われては、返って疑問が湧いて来る。


「ちょっとっ、言ってる意味が解んないわよっ」


最もKを知らないミュウが、直ぐにこう言う。


だが、返しを聴く暇など無かった。


歩く皆を守る純白のカーテンに、パシッと何かがぶつかったのである。


「わっ」


音に思わず、頭を庇ったポリア。


オリビアとシスティアナ以外は、皆が身を守ったほど。 “落雷でも有った”とそう感じる音だったが。


顔を上げたマルヴェリータは、その神聖な力を帯びる純白のカーテンに、黒い雷が走るのを見た。


「き・来た・・、遂に来た…」


見上げて呟いたマルヴェリータに、ポリアが。


「マルタ、何が‘来た’の?」


「フィアーズ・・コート。 強力な・・・恐怖や畏怖を与える、暗黒の磁場…」


「え゛っ? アレって、モンスターが作り出すんじゃ無いのぉ?」


この話に、同じく見上げるミュウが入って来て。


「モンスターだけじゃ無いっ。 怨念や無念など、多くの人々が亡くなった戦場では、負の思念が蟠り。 〔フィアーズ・コート〕や〔フォビア・プレッシャー〕と云う、精神的な圧力を与える磁場が出来る。 その中でも、此処は最悪の域だわ」


と、云うではないか。


神聖な力と、暗黒の力がぶつかり合っていると、ポリア達でも解った。


そして、遂に。


‐ カラっ パキっ。 ‐


乾いた木の枝でも踏む様な音がしたと、ポリアが下を向くと…。


「あ゛っ!!!!!」


と、思わず大声を出してしまう。


これに、ダグラスも下を向くなり。


「げっ!!! ガっ・ガガガガガガガ・・・骸骨だっ!!!!」


と、叫び上げた。


そう、皆が歩いている足の下は、人の‘しゃれこうべ’が。 頭蓋骨や肋骨など、骨の集まりが敷き詰められている。 一体、何処から骨の地面に変わっていたのだろうか…。


だが、そんな事を考える余裕など無く。 Kの声が飛んで来た。


「黙れっ!!!!!!! 僧侶の集中を邪魔するなっ、馬鹿者っ!!!!!!!」


その鋭い声に、


「ゴメンっ」


「はっ、ハイっ!!!!」


二人は、即座に謝る。 まるで、斬り付けられた様な声だった。


その時、ゲイラーとミュウは、パッとシスティアナとオリビアをそれぞれ見た。 ポリアとダグラスの声、Kの声に驚いた二人が、歌を一瞬だけ止め掛けた時。 神聖なるカーテンが霞んだのだ。


だが直ぐに苦しい笑顔で、鎮魂歌を歌う二人。 優しく、慈しむ気持ちを保つ為に、二人も必死ならしい。 額には冷汗が流れ、掲げている杖を持つ手が、微かに震えていた。


この時、Kの話を聞いたゲイラーは、或る事を感じてグッと真剣にシスティアナを見た。


「システィ、大丈夫だ。 此処には、俺も、ポリアも居る。 システィなら、必ず大丈夫だ。 俺は、システィを信じるぞ」


すると、マルヴェリータも、或る事の意味が解り。


「そうね、ケイが一緒だもの、大丈夫ね。 私も、システィを信じてるわよ」


二人に言われて、システィアナが頷いた。 汗に濡れる顔が、蒼褪めているようにも見えたが。 その声に張りが戻り、笑顔が自然になって、生色がみるみる甦る。


信仰の大原則。 信じる心は、絆と言う力を得る糧。 愛する心は、僧侶の精神を創る支柱と云う。


それを感じてポリアも、オリビアに。


「お腹の赤ちゃん守って、サーウェルスを助けるのよ。 私も、その事を信じて、二人を信じるわ」


すると、ミュウも。


「オリビア、サーウェルスを迎えに行こう。 私は、死んでもオリビアを信じる。 貴女なら、絶対に出来るっ」


二人に言われ、オリビアの心にサーウェルスの顔が浮べば、愛の想いが溢れて、自然と震えが止まって来た。


そんな皆の前から、Kの声がする。


「そうだ、仲間を信じろ。 守りたい者、助けたい者、全てを信じろ。 いいか、“生は、死よりも強い”。 立ち向かう想い、慈しむ心、愛する絆。 信じる力は前進して、蟠り滞る闇も、怨念も寄せ付けない。 光りとは、諦めぬ者が見る意思だ。 希望とは、絶望の中ですら誓う信念だ」


と、力強い声が響いた。


そして、皆は見る事と成る。 Kの、真の本領を…。


遂に、薄っすらと霧が晴れ出して行く。 山を登り行く中で、前を行くKの姿を見る事が出来る様に成った。


ポリアは、その姿に目を見張る。


「あ・・あああ・・・ウソ。 かっ・か・煌いて・・・る」


辺り一面に広がる骸の河の上にて。 金色の煌きを足元から滔滔と緩やかに湧き上がらせて。 右手に、おぞましき亡霊のモンスターの顔を鷲掴み。 左手には、短剣で刺したレヴナントを引き摺りながら消滅させるKの姿が在る。


ゲイラーは、消滅するアンデットモンスターを見て。


「な・何でだ? 僧侶でも無いのに・・・アンデットやゴーストを消滅させられるのかっ?!!」


そう、Kの体を取り巻く金色のオーラに触れたアンデットやゴーストなどのモンスターは、燃やされた灰のように塵に変わって行く。


だが、それ以上に目を疑うのは・・・。 我々の向かっている前方に、様々な種類のモンスターが無数と集まっている光景である。


「嗚呼っ、なんて・・・なんて数よっ!!」


その前方に、壁の様に集まるモンスターを見るミュウは、恐れ戦き、怯え上がった。


そのモンスターの中には、姿を見て解るモンスターも数多く居る。


紅い炎に、身を包まれた亡霊は・・・。 そう、ポリア達が請けた前回の依頼で。 クォシカを醜い蛇のモンスターに変えた、〔ジェノサイス・ホロウ〕であろう。


一方、黒ずんだオイルの様な鈍い光り中に、仄蒼い亡霊が在り。 苦しむ人の顔が、憎憎しい表情へ変化する、骸の姿をしているのが、〔アビレイス・インフェルノ〕


他、時間を経る汚れた血の色をしたスケルトン。 青い皮膚のゾンビ。  消えたり現れたりしているゴースト。 骨で身体の出来上がった、四つ脚のどデカい頭蓋骨を有したモンスターまで居る。


そして…。


パカッ、パカと、馬の歩く音が響いた。 モンスターの中心にて、一歩前に進み出たのは、首の無い黒毛の馬だ。 そして、そんな馬に乗るのは、高貴な者が好む刺繍派手やかな丈の長い上着を着て、白いスカーフをネクタイ代わりに巻く将校が跨っている。 処が、その将校には、馬同様に首が・・無い。 然も、服を着る肉体は、どす黒いオーラを纏った骸なのだ。 右手には、刃渡りの長い長刀が握られ、左手には………。


(あわわわっ、こっ・こわいっ!)


怯えているポリアは、そのモンスターを凝視する事が出来ない。 それは、他の者も同様だ。 怖くて怖くて、しょうがない。


その馬に跨る将校の様なモンスターの左手に抱えられるのは、モンスターの頭部だ。 皆に向けられた顔は、既にカラカラと成るほどに干からびていながらも。 恐ろしい眼光を湛え、狂気を渦巻くギラギラした瞳をギョロつかせている。


ダグラスは、立ち竦む足の震えを堪えながら。


「あ、あれって、う・・噂に聞いた・・〔デュラハーン・ロード〕(首なし公爵)か? だ・ダメ・・だぁ、恐えぇ・・・う・動けねぇ…」


と、呻く。


流石は、死霊・亡霊モンスターでも、最強の中の最強だ。 ポリア達の誰も、動けない。


暗黒の恐ろしいオーラをひしひしと感じる、システィアナとオリビア。 二人が生み出すレクイエムベールが無ければ、もう皆が発狂しているだろう。


歌うオリビアは、内心でもうダメなのではないかと想う。


(嗚呼っ、なんて夥しい数と、恐ろしいオーラなのでしょう・・。 声が・でっ、出無くなりそう・・・)


然し、そんなオリビアの口が動き続ける事が出来るのは・・。


(不思議だわ。 アノ人のオーラが・・、私達を・・・守ってるっ)


そう、オリビアとシスティアナは、それが解る。 Kの体から溢れている金色の煌くオーラが、自分達とモンスターの狭間で壁となり。 集まったモンスターやこの場に溢れて、此方に流れて来る暗黒のオーラを緩和しているのだ。



そして、立っているKは、モンスターの大群を前にしても、何一つ恐れていないらしい。


「おうおう、無駄に集まってるじゃ~ないか。 どいつもこいつも、そんなに滅びたいかぁ?」


と、口元をニヤつかせる始末。


この辺りだけ、何故か低く曇る空と、一帯を包み込む様に垂れ込める霧で。 この渓谷の全体が、暗い印象すら受ける。 古代戦争の再来すら彷彿とさせそうな、只ならぬ気配が辺りに満ち始めていた。


刹那、デュラハーンロードの長刀が、サッと振り上がる。


すると、いきなり紅い血の黒ずんだようなスケルトンや、真っ黒い血肉が腐りながらもこびり付いたスケルトン。 青い皮膚のゾンビであるレヴナントなどが、何十体………。 いや、数百体以上を超えて、進撃し始めたではないか。


だが、此処で。 遂に、ゲイラーも、ポリアも、皆がKの本領の片鱗を垣間見た。


ユラ~リユラリと二重に三重に揺れて、前へと歩き始めたKだが。 数歩先まで進んだ時、姿が激しくブレ動いてはパッと皆の視界から消えた。


「消え・たっ?」


マルヴェリータの発した声の最後が変化する。


号令を受けた様に進み出したモンスター達の群れに、Kが立ちはだかる様に現れたからだ。 そして、Kが現れたと、皆が解った瞬間だ。 ‘パンパンパン’と小気味良い破裂音が、皿を割れるかの様に鳴り響き。 四・五体のスケルトン達が頭蓋骨を破裂させて、金色のオーラに首の骨から侵食されて塵に変わる。


「す・凄ぇっ!!!」


ダグラスが思わず声を上げた。


振り込むのが見えないKの拳に当たり、レヴナント数体が土手ッ腹を金色のオーラに突き抜かれて、諸共ぶつかるように飛ばされる。 空中で、全て塵に変わった。


その繰り広げられる戦いの様子は、もう“一騎当千”などと云う次元では無い。 瞬間的にKが駆け抜けて、数十体のモンスターが次々と塵に散れば。 振り抜いた短剣から放たれた金色のオーラを纏った衝撃波が、モンスター達をぶっ飛ばしながらも塵に変える。


渓谷に満たされた屍を巻き上げて、地走る黄金のオーラを受け止め様と立ちふさがったのは。 デュラハーン・ロードと似た姿で、騎士の様な甲冑姿の“デュラハーン”だ。 だが、そのデュラハーンに、金色のオーラがぶつかった瞬間だ。 至近の辺りに居たモンスターを巻き込んで、落雷が落ちたかのように光を天に巻き上げると。 デュラハーンを含めたモンスター達を纏めて、消滅させてしまった。


その後も、成す術無く倒されるのは、一方的にモンスターであって。 その最強にして絶対者としか例えようの無い戦い方に、誰も声すら出ない。


Kが姿を消して、何体か居るアビレイス・インフェルノとジェノサイス・ホロウの間に、いきなり現れた上に。


「滅しな」


Kが言ったのと同時に、煌くオーラに体や頭を撃ち抜かれた様に成り果て、消滅してしまう。


一体、Kとモンスターの間に、何が起こっているのか。 その様子は、誰にも見えない。 然し、瞬く間の連続の間に、モンスターがみるみるウチに消滅して行く。 戦っていると、それだけは確実に見てとれた。


オウガ並みの大きさをした頭蓋骨を持つ、四肢まで骨で出来た、奇っ怪な大型モンスターも。 亡くなったドラゴンの骸が、そのままスケルトンと変わったモンスターも。 四つん這いにて機敏に動く、顔がボロボロに崩れたドス黒いゾンビも。 瞬間的に、Kの放つ金色のオーラに倒された。


問答など無い。 戦う為に、見合ったりして計る間も無い。 一方的で、究極の戦い方は、見習う様なものでは無い。


もう、此処までで、モンスターの群れの半分は消え去った。


Kは、残りのモンスター等を見回して。


「おい、コラ。 俺を狙うって事は、全滅したいって事だろう? さぁ、どいつから消えたいか? 前に出ろ」


モンスターにこんな事を聴くなど、普通なら気狂いのする事だ。


然し、ミュウは、


「すっす・凄いわ・・。 モンスターが、とと・・躊躇ってる。 初めて見たわ…」


と。


同じく見ていたゲイラーも、全く同じ光景を見て居ながらに。 この目に映るのは、偽りのモノではないと疑ったほど。


「二度と見れない・・・かもな。 こんな現実………」


と、呟く。


見ている中でなんとモンスターが、あのモンスターが、Kに向かうのを躊躇っているかに見える。


“カシャンカシャン”と、ある紅いスケルトンが後退りをし出した。


だが、その瞬間にKは、フワリと消えた。


そして、


「おい、モンスターが、人間相手に逃げんのか?」


その紅いスケルトン、〔ブラッディー・ロア〕の肩に、Kが手を回していた。


“カクン”と音を出しながら、慌てた素振りで横を向いた感じのする紅いスケルトンだが。 その左肩から、煌くオーラが浸蝕して行く。


紅いスケルトンは、Kを見たかどうかは解らないが。 浸蝕される事に驚いて、激しく苦しんで前に歩み出しながら倒れ。 紅いスケルトンは、塵に成って行く。


ダグラスは、Kの遣っている能力が解らない。


「ゲイラー・・、なぁ、ゲッ・ゲイラーよぉ」


「あ・・あぁ…」


「あのっ、金色のオーラ・・なっ、なぁっ、何だぁっ?」


「解らねぇ・・解らねぇよ」


何より、見ている皆に信じられないのは。 Kの体から湧き出す煌くオーラが、弱まるどころか。 戦い続けるままに、どんどん強く煌く。 丸で強い金色の光りを放つ火の粉が、Kを基にして対流する様に舞い上がる。


その様子、力、存在感は、正に神々しいものが在った。


さて、Kに恐れるモンスターが居る一方で、逆に近付いて来る個体も居た。 その中で。 腐った血の色をした、肉の塊が浮いている様なモンスターが居る。 大きさは、大型のブタぐらいなのだが。 その体の表面には、阿鼻叫喚に悶え苦しむ人の顔が、無数に、全面に浮かび上がるモンスターが居た。


ミュウは、フヨフヨと宙を浮いて来るそのモンスターを見て。


「いけないっ、あれは〔レギオン〕っ! 顔が体表の全面に浮かぶ様ならば、長く存在する長寿個体に成るっ」


これに、ポリア、ゲイラー、ダグラスが一緒に。


「レギオンっ!!」


と、声を一斉に出した。


〔レギオン〕。 それは、恐れられるモンスターの一種だ。 沢山の人々が亡くなった場所で、怨みつらみが蓄積する場所で生まれるゾンビの一種。 然も、長年存在し続けたレギオンは、最強の死霊と同じく。 人の命を瞬時に奪う、〔デットエンド〕(死の訪れ)と云う呪いを使えるのだ。


これは、前にクォシカをモンスターに変えたアデオロシュが、死に際に使った〔死神召喚〕の邪術・妖術の一種。 呪いの呪術は、僧侶の高度な呪文などでないと、防ぐ事は出来ない。


「あ゛」


ポリア達は、声を上げたり。 息を呑んだり…。


数体の“レギオン”の他、まだ居残る“アビレイス・インフェルノ”と“ジェノサイス・ホロウ”が前に進み。 Kを囲う様に成ると、一斉にあの邪術を唱え始めたのだから。


然し、囲まれているKは、ユラユラと立っているだけ。 モンスター達が大きく開いた口より、大鎌を携えたズタボロのマントを着た骸骨が次々と現れる。


‐ キエエエエ!!!! ‐


その総数、十数体は召喚されたか。 気味悪い奇声を上げて、死神達は群れてKに襲い掛かった。


然し、それでも動かないままのKだから。


「ケイっ、ケェーーーーーーイっ!!!!!!」


驚いたポリアが出した声が、辺り一面に響き渡って行く。


マントを着た骸の死神達が一斉に大きく振り被って、魂を斬り裂く大鎌がKに振り込まれる。 死神の大鎌は、何も斬れない。 然し、命の灯火だけが、例外なのだ。


驚いたポリア達が見張る視界の中で、Kの体を大鎌が幾つも通った。 まるで、Kの全てをズタズタにするほどの回数に見える。 一瞬、見ていたポリア達の時が、歌う声すら止んだ。 全ての時が、停滞したかの様に思えるのだが…。


Kの目が、ギラッとほくそ笑むと。


「おい、〔死神〕って云われる地獄の殺し屋が揃いも揃って、インチキ手品の御披露かぁ?」


と、声を出す。


皆、声を出したKを見て。


「あ゛っ、い・生きてる」


信じられない一同。


「あ~・・・」


オリビアも、システィアナも、驚きつつも鎮魂歌を続ける。


心配した皆の事など気にもして無い様なKは、高笑いすらして。


「ア~ッハハハハハっ!!!! 歳食った雑魚が寄り集まって、骨の寄り合いか? そんな遣い古した呪術なんぞ、暇潰しにもならねえな~」


こう蔑む後、不気味な笑みを浮かべるKは、周りに居るモンスターを見ると。


「そろそろ目障りだよ、お前等はぁっ!」


この瞬間、Kの体から一瞬だけ爆発的にオーラが広がって、周りに集まった死神達を滅ぼした。


その煌びやかなオーラに、死神等が消し飛び。 レギオンなどのモンスターが後退りする。


その様子を見て、


‐ ナニモノダ・・・キサマッ! ‐


くぐもった不気味な声で、デュラハーン・ロードの左手に抱えられた顔が喋った。


喋ったデュラハーン・ロードに顔だけ片側を向けたKは、不敵に笑って。


「テメェ等を滅ぼす為に参上した。 ホンモノの死神、さ」


と、言うのと同時に、Kの姿が消えた。


モンスター達が一斉に、Kを捜し始めた。


その直後、近くのアビレイス・インフェルノが、いきなり横に現れたKに驚いた。


然し、気付いた瞬間には、横腹を左から右にオーラが突き抜けて消滅する。


レギオンが、他の数々の強力なモンスターが、Kへ向かって群がる。 然し、攻撃を仕掛ける前に、次々と金色のオーラで消滅させられる。 こんな感じだから、暗黒魔法を唱える暇すら無い。 あれよ、あれよ、あれよと云う間に、モンスターは倒されて行く。


最初、ポリア達が向かう前方には、埋め尽くす壁の様な程にモンスターが居た。


・・筈だった。


だが、Kに恐れ戦く下級のモンスターを含めて、一匹を残して全てのモンスターが倒された。 あの壁の様だった前方が、一望する事が出来る程に開けたので在る。


「凄い・・」


ポリアは、感嘆する想いで呟いた。


静かに成った辺りを背景にして、デュラハーン・ロードは余裕綽々と。


‐ フム、人間如キガヤリオルワイ。 我一人、一騎打チ・・・カ。 ソレモヨカロウ。 ‐


デュラハーン・ロードの抱える左手の顔が喋る。


一方、Kは。 渓谷を吹く風にコートを靡かせて対峙し。


「御託を吐ける身分かよ。 下っ端は、み~んな倒されてちゃ~な。 指揮官としちゃ、無能を晒してると同じだゼ」


と、嘲笑う。


Kにして放題された様な格好のデュラハーン・ロードだ。


‐ 笑止ッ!! ‐


長刀を突き出して、抱えられた顔が叫ぶ。


「わ゛っ」


「ぐっ!」


ポリア達は、このデュラハーン・ロードの声に反応して、怯えた。 流石に、アンデッドモンスターの中でも、最強の中の最強と云う一角に位置される個体だけ在る。 レクイエムカーテンに包まれていても、ビリッと全身に威圧感を及ぼす畏怖が在った。


そして、遂に。 デュラハーン・ロードが動き出す。 首の無い馬は、瞬く間に正確な突進でKの面前に走り込むと。


‐ 死ネッ!! ‐


その刃渡りだけで、ゲイラーの大剣超す剣がKに突き込まれた。


が、刺される一瞬手前で、フッとKは姿を消す。


‐ ムッ。 ‐


デュラハーン・ロードは、‘小刻み’なステップを馬に踏ませて右に跳んで。 パッと現れたKが、デュラハーン・ロードの居た場所に現れた。


「さっ、避けたあぁっ!!!」


刺されたと見えただけに、驚くダグラス。


然し、Kとデュラハーン・ロードは、何故かそのまま動かなくなった。


静寂が辺りを包み込んで、皆が何度か瞬きをした後。


“どうしたのか”


と、双方を見て思うのだが…。


直に、


“何かが違う”


と、違和感に気付いたのは、ミュウだ。


「あ゛っ、ああっ! も・ももも・・持ってるっ!!!! アノ人・・・首を・・・持ってるっ!」


と、Kを指差した。


そう、皆もミュウの言う事を頼りにして、その言っている事を理解する。 何と、デュラハーン・ロードの首が、ロードの左手からKの左手に移動していたのだ。


そして、立っているKの左手では…。


‐ カタカタカタカタカタカタカタ………………。 ‐


奇妙な音が鳴り響いていた。 Kの手に頭の毛を鷲掴み状態とされたデュラハーン・ロードの顔が、尋常では無い震え方にて歯を噛み鳴らしている。


その顔を持ち上げながらに、自分へとミイラ化した顔に向けるK。


「おやおや、地獄に聞こえた〔死神公爵〕の異名ってのは、嘘っぱちか? 然し、幾らビビッても、チビれないよなぁ~。 体が、あの通りの骨じゃ~よ」


‐ ハナ・ハナセェ、ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーッ!!!!!!!!!!! ‐


いきなり、魂を握り潰されそうな響きがする絶叫が湧き上がった。


「きゃ・あっ・あ~」


声に驚いたオリビアは、一瞬だけ歌を中断しそうになり。 システィアナは、恐くて涙がポタポタと零れる。 ポリア達も、声におののき、ビクンと屈んだ程だ。


Kの指がジリジリとメリ込む様に、デュラハーン・ロードの骨と皮だけの頭に食い込んで行く。 煌く光が、デュラハーン・ロードの皮膚を焦がしているかの様に白い煙を上げて。 この首が弱点なのか、体も、馬も、動けずに震えている様だった。


痛みを感じて居る様子のモンスターを見るKは、嗜虐的な笑みを浮かべニヤニヤし。


「頭と体が離れ離れとは、可愛そうだよな。 くっ付けて、やろうかぁぁぁーーーーっ!!!!」


そう大声を上げて高らかに飛び上がると、首無し馬の背中に飛び乗った。 首無し馬に跨る骸の体の後ろに立つKは、左手に煌くオーラを一際ギラギラ輝かせながら。


「そらっ、欲しがってる頭だっ! くっつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


と、振りかぶる。


デュラハーン・ロードの顔は、モンスターなのに、既に死んで居る筈なのに、恐怖に顔を強ばらせ。


‐ ヤアアアアメエエエエレエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!! -


と、大絶叫を上げる。


デュラハーン・ロードの骸の身体が着る、古びた衣服の首筋の所に。 Kが、グニャリとへしゃげるモンスターの顔を叩き付けた瞬間。  金色に煌いたオーラがスパークする様に、デュラハーン・ロードの上から下へと貫いた。


皆の見る視界の中で、Kの姿がスッと消えた。


刹那…。


大河を埋め尽くす骨を大量に巻き上げて、爆発した様な光りの渦が天に突き抜けた。 デュラハーン・ロードの姿は、そのまま塵と消えたのである。


そして、辺りは不気味な静寂と霧の垂れ込めた、‘されこうべ’だらけの風景へと戻った。


あの夥しいモンスターの群れが、消滅したのである。


デュラハーン・ロードの居た所から少し谷側の所に立つKは、やや離れるオリビアの方に向かって。


「そら、ザコが消えたぞ。 今が渡り時だ、着いて来い」


と、北東方面に歩き出した。


頷いたオリビアは、モンスターに怯えるのか、それともKに怯えるのか、自分が解らないが。


(い・まのうち・・にっ)


と、冷汗を背筋に覚えつつ、震えた足を動かして歩き出した。


同じく、助けられた様なものなのに、生きた心地がしないゲイラーは、観念する様に首を左右に振って。


「もう、絶対に逆らわない。 あ~ゆ~風には、死にたくネェよ」


と、呟き。


恐怖と興奮でごっちゃに成るダグラスは、引き攣った笑い顔で。


「あ・あははは・・・凄いじゃんか」


と、自分でも何を言ってるのか解らなくなる。


前回の仕事から組むポリアですらも、Kの恐ろしさが身に滲みた。


(モンスターに・どっ・同情したくさせる冒険者って・・・アリ?)


間違っても、Kに喧嘩などは売りたくない。


全員、そんな感想を抱いた。


また、自分で自分の肩を抱くミュウは、朝にKへ食って掛かっただけに。 自分の身の程を、消滅したモンスターで知った気に成る。


さて、その骨の敷かれた渓谷を歩いて、どの位だろうか。 随分と歩いた様な、意外に進まなかった様な。 あやふやな感じのままの所で、ポンといきなり辺りの霧が晴れた。


「うおっ」


「わあっ」


ゲイラーとポリアは、驚いて声を上げた。 左に切り立った絶壁。 右には、雲すら見下ろせる崖。 歩ける幅は人二人ぐらいの、岩肌が露出した山道であった。


「うひょ~・・・落ちたら死ぬなぁ」


ダグラスは、崖の下に流れる雲を見る。 雲の切れ間に見える緑色は、一昨日に抜け出したマニュエルの森だろうか…。


屍渓谷を抜け出したとポリアは、オリビアの先に出て歩いたが。


「あれ、ケイが・・居ない」


と、細い道の先に行ったKを見失う。


この時は、もうオリビアも歌を止めている。


Kを捜す様に歩いて行くと。 直ぐ先の緩やかな左カーブを抜けた左側に、ポッカリと祠の入り口が開いていた。


「祠の入り口が在ったわ。 こっちよ」


ポリアのこの声を聴くゲイラーは、殿として最後尾を行くのだが。 なまじ、体がデカイだけに。 道幅が矢鱈に狭く感じて、右の崖が奈落の底に見えて来る。


「ちィっ。 これだから、高所はキライだ…」


と、呻いた。 高所恐怖症なのでは無い。 高所の在り方が、自分の身体に合わないのが嫌なだけだ。


マルヴェリータは、Kから預かった光りの小石をまた一つ光らせて、祠の中に入って行く。


ポリア、オリビア、マルヴェリータと入ると。 蒼い洞窟の中で、Kが屈んで居た。


皆が次々と祠へ入る時。 ポリアとオリビアは、Kの前に紅い鎧を着た男が、ボロクソになって倒れて居るのを見る。


「サーウェルスっ!!!!」


気付いたオリビアが、驚いて走り寄った。


屈んで居るKは、オリビアに抱き付かれた男を見て。


「まだ生きてるぞ。 多数の怪我から黴菌が回って、身体中に広がってるが。 この分ならば、まだ助かるな」


「サーウェルスっ、待っててね。 今、助けるわっ」


オリビアが全身全霊を込めて、癒しの魔法を唱え様と始する。


然し、薬包瓶を取り出すKは、


「慌てるな。 無理やりに傷を塞げば、中で化膿する」


「でっ、でもっ」


「俺が処置をして遣る。 処置の終わった所から、魔法で塞げ」


と、Kは言った。


自分の脇に来たシスティアナに手伝わせ、Kは悪魔の様な処置をし始める。 消毒液を塗ったナイフで、壊死した肉を切り裂いたのだ。


その仕様は、人を切り刻む様なものだが。


「やはり、モンスターの爪や牙の先が残ってらぁ。 毒も回ってるな」


傷の処理をしながら、病気や毒の診断もする。 その手際良く、的確にして躊躇の無い遣り方は、神か悪魔か…。


だが、見ているミュウは、気持ち悪いと云う表情をしながらも。


「凄い・・。 神経や臓器に傷を与えず、必要最小限の膿や壊死した部分を斬り出してる。 下手な医者より、人間の身体を熟知しているわ」


と、呟いた。


さて、塞いだ傷を布で巻いて、運ぶ事を考慮した作業まで終わらせるKは、休んでいたゲイラーに。


「このバカたれを、担いで運んでくれ。 今は、昼過ぎだから。 夕方には戻れるだろう」


「おう、解った」


怪力のゲイラーだ。 鎧と装備を合わせると、かなりの重量にはなるが。 サーウェルスを担いで歩ける。


Kは、汚れた顔のサーウェルスを見て。


「フン、運のいい男だ。 俺一人なら、引き摺って面倒ならば、途中で捨ててるかもな」


と、悪態を吐く。


冗談と解るポリアだが、オリビアが居る手前では困った顔と変わり。


「捨てたら、マズイでしょ」


「フン」


魔法を連発したシスティアナとオリビアの一時的な衰弱も考慮するKは、それから少し休みを取った。


アンデッドモンスターの事を全く知らないポリアやマルヴェリータに、先程戦ったモンスターの事を話してやったりして。 時間を持って、出発する。


縁を抜けての戻る時は、屍渓谷も意外に静かだった。 密草林や森へ抜ける時すら、モンスターも少なくて楽であった。


そして、日暮れ前には、サーウェルスを助けた一行がマクムス達の待つ祠に戻る。


殆ど無傷の見た目で戻った一同に、残っていた面々は拍子抜けですらあった。

御愛読、有難う御座います。 続きは、GWの終わり頃を予定してます。

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