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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
201/222

ポリア東の大陸編 モッカグルにて 6

                  ポリアンヌ物語~冒険者の眼力編



                 ~東の大陸へ・大冒険の始まり・それから~




田舎の港街、ケット・パールハーに来た一行。 宿を確保し、システィアナがポリアに怒られている最中、仲間のそれぞれが荷物を置いて各自行動をする。


「はぁぁぁ・・、これからどうなるのよ」


納屋にて、システィアナが勝手に貰ってしまった大型のペンギンを、本当に困ったと云う顔で見上げるポリア。 黄色い嘴に、青く光る眉毛、灰色の外枠の様な毛色と、お腹だけ白い二色のボディカラーをしている。 やや痩せたのか、スリムな縦長の身体だが・・オールの様な翼を横に付けている様は、正にペンギンらしい。


「てへへ、ごめんなさぁぁ~~~~い」


困っているポリアに対し、ニコニコと謝るシスティアナだが。 このペンギンには・・。


「ペンさんペンさん、何を食べるのかなぁ~~。 やっぱり、お船の中と同じでお魚さんかなぁ~~」


と、話しかける。


脇目にシスティアナを見下げるポリアは・・。


(全く悪びれてないわね・・、はぁぁぁぁ)


と、脱力したくなったのである。


さて。 まだ陽も高いので、サハギンの集落を訪ねてみる事にしたポリア。 なんとか甦ったシュヴァルティアスと、イルガにヘルダーを伴って。 マルヴェリータは、システィアナの面倒を見る為に残る。 何せ、システィアナと一緒に居るデカブツは、システィアナのすることに殆ど笑ってみているだけなのだ。 有る意味、一番使えない見張りなのである。


宿屋の番をする少女に、夕方前にポリアは話を聞いてみる事にした。 彼女を探せば、納屋の横に横たわる厩舎にて、ミルク用のウシやヤギに、ちょうど干草を与えている少女で。


「ねぇ、作業中に悪いんだけど・・」


「ん? なんですかぁ? あの大きいペンギンさんの餌なら、もう少しでお父さんが戻るからその時に・・」


「あ、それはありがとう。 でも、チョット違うの」


大きな大人用の農機具のフォークを、柄を短く持って干草を運ぼうとしていた少女が手を止めた。 働き者らしい日焼けした肌の彼女、おかっぱ頭をした赤い上下の繋がった作業着姿だ。 彼女に近寄ったポリアとは、背丈が倍違う感じがする。


「なぁに、お姉さん」


「うん。 この島に、サハギンって種族の方々が居るでしょう?」


「あ、魚人さん達ね。 海を共有して一緒に魚捕りしてるわ。 とっても泳ぎが上手で、気さくな人達よ」


ポリアは、サハギンと街の人が共存しているのだと感じ取りながら。


「そうなのね、それは良かったわ。 私達、冒険者として仕事をしに来たの。 何でも、この辺の島で霧に包まれちゃった街が有るって聞いて」


「あぁ、塩を売りに来てくれる人達の事だわ。 エミールラブス諸島の何処かに住んでるって聞いたけど・・」


「あのね、その島の調査をしたいんだけど、話を斡旋所に送ったのがサハギンの方らしいの。 その話をしっかり聞きたいから、サハギンさんの住処を訪ねたいんだけど・・。 歩いて近いかしら」


すると、少女はフォークを柱に立てかけ。


「近いけど、海の方から回り込まないといけないわ。 船が必要だから、行くなら船を漕げる人を紹介してあげる」


本当に人当たりも良く、面倒見も良い少女だと思うポリア。


「助かるわ。 おっきなペンギンの分も含めて、食事代とか多めに置いて行くわ。 下手すると長期の滞在に成るから、迷惑料ぐらいは払わないといけないわね」


だが、その少女は実にさわやかで。


「いいのいいの。 どうせお客さんは、月の何日かしか居無い宿なんだもん。 ウチはお父さんが漁師で、殆ど宿屋では稼げないから。 お客さんには、一杯出来る事はしたいの」


と・・。


ポリアの近くに立つシュヴァルティアスは、腕組みして感慨深く、


「うんうん、なんて気持ちの良い宿だ。 この街に、この宿あり。 長居したいね」


と、感心する。


その物言いに、フツフツと呆れと怒りが湧くポリア。 近くでは、無言のジェスチャーでイルガが、


“抑えて、抑えて”


と、しているのだが。 それを見てもムカ付くので。


「ホントよね。 簡単な事にも配慮の出来ない偉大な魔術師より、ずっと立派だわね」


と、しみじみ云ってやる。


ピタリと頷きを止めたシュヴァルティアス。 ペンさんを貰ってしまったのを止められない、“出来ない魔術師”とさっき罵られたのを思い出してしまったのだ。


(うぅ・・、これでも魔道を極めた僕なのにぃぃぃぃ)


遣ろうとすれば、それこそ魔想魔術のあらゆる真髄を遣えるシュヴァルティアスだが。 どうもポリアには、頭が上がらないのであった。



少女の案内で、街の大通りから程近い漁師の使う港へと向った一行。 丘に作られた壁の無い漁師小屋の長屋が横たわるその横手から、石を並べて作られた階段を降りて入り江に下りる。 一本木を刳り貫いて作った手漕ぎ船から、木を板にして組み立てた小型の漁船が波打ち際や浜に点在していた。


そんな入り江の砂浜を歩き始めると、前方から、若い男性の声で。


「サリー、偉い綺麗な人を連れているじゃないかっ」


と、男性の声が。


ポリア達を連れて、浜の先の岩場の船着場に向かう少女も、その声に気づいて。


「バシュターっ、まぁ~~た漁をさぼったの? 昨日も、一昨日も、貴方だけ漁い出てなかったってお父さんが言ってたわ」


浜に上げて虫干ししている木彫りの手漕ぎ舟を離れ、少女の近くに来たのは色黒の青年だった。 ポリアと似たり寄ったりの身長ながら、その細身は痩せ細っている訳ではない。

 若いのであろうが、日焼けした顔はニヒルな笑みを湛えており。 何処か大人びた雰囲気が溢れる感じがしていた。 額に掛かる髪をクシャっとするように手をやる若者は、


「おいおい、怠け者みたいな物言いするなよ。 船の底に穴が開いて、修理に手間取ってるのさ。 君のお父さんは、漁に出ないと怠けてるって決め付けるのが悪い癖だ」


と、少女に云ってから、そのままの流れでポリア達に向くと。


「俺はバシュター、船乗りさ。 綺麗なお姉さんに、冒険者さん」



と、笑ってくる。



バシュターを見るままに、ポリアは少女へ。


「紹介って、この人?」



すると、バシュターも。


「おお~、サリー。 俺に、この人を紹介してくれるのかよ」



と、喜びの顔を見せる。



だが、少女は面倒な感じを顔に出して。


「違うわ。 こんな半人前を紹介したんじゃ、私がお父さんに怒られちゃう。 紹介したいのは、向うの灯台に居る守のロロナウ爺さんよ」


ナルホド・・、そう思うポリア達。


だが、一人で驚く顔をしたバシュターで。


「おいおい、サリー。 ロロナウ爺さんは、もう漁師じゃないゼ?」


「バシュター。 この人達は、サハギンさん達に用が有るの。 サハギンさん達に育てられたのに、もう2年も挨拶に行かない貴方みたいな無礼者を、安易勝手に紹介なんか出来ないわ」


サリーにこう云われた瞬間、バシュターは困った様に顔色を曇らせて。



「あ・・、そうなんだ。 それじゃぁ~~、しょうがないな」


と、言い出した。 その様子には、明らかなる“苦手”の意識が見えていた。



二人を見たポリアは直に、何らかの複雑な事情が有るのだと思いながらも、此処に立ち入るのは違うと思い。


(穏やかな街だけど、人はそうは行かないのね)


と、だけ思っておいた。


バシュター青年と別れた少女サリーは、ポリア達を連れて砂浜から岩場に上がり。 浮かぶ船を見下ろしながら灯台に向う。


此処で、シュヴァルティアスが、サリーと云う宿屋の少女へ。


「ねぇ、今の若者だけど」



「? バシュター?」



「あぁ。 彼、サハギンに育てられたのかい?」


「あ~~、言っちゃったわ。 うん、そう」



「サハギンと街の人は、そんなに親密なのかい?」



「そうよ。 サハギンさんと私達は、常に共同で魚を取るわ。 私達は、海藻や貝とか色々なものを食料に出来るけど。 サハギンさんは、主に魚が主食で、魚が無いと生きていけないの。 不漁の時は、サハギンさんに海底の貝や海藻を貰う代わりに、漁で取れたお魚は優先して渡したり助け合ってるの。 サハギンさんは、台風とかで逸れたモンスターが来襲しそうな時や、強烈に天候が大荒れに成りそうだと漁に出てるみんなを助けてくれる。 それに、真珠なんかの宝石も、私達へ優先して分けてくれるのよ。 だから、私達もサハギンさんが使うヤリを作ってあげたり、足りない木材なんかは分けてあげるの」


「ほほぉ、聞く以上に人と密接なんだね」


「そうね。 サハギンさんを嫌う人は、此処では生きていけないわ」


すると、イルガが。


「じゃが、さきほどの青年は、何処か彼等を嫌っていた様な感じだったが?」



これには、サリーも顔を困らせて。



「私も其処が良く解らないの。 バシュターは、子供の時に流行り病でお母さんを亡くして。 その翌年には、海でお父さんを亡くしてる。 そんな一人に成ったバシュターを育てたのは、バシュターのお父さんと何時も協力して漁をしてた、サハギンのケンプスさんなんだけど・・。 17歳までは、一緒にサハギンさんの住処に居たのに・・、急にこっちへと来ちゃって。 それ以来、一度も向うに行かないのよ。 しかも、サハギンさんと協力しないから、漕ぎの腕はいいのにいっつも捕る量が少ないの。 この街の人でも、バシュターと仲がいいのは数人だけ。 バシュターったら、最近は冒険者に成りたいだなんて言い出してるし。 私、男の子の気持ちって全然解らないわ」



シュヴァルティアスは、話に納得するまま一人で頷いている。 一方、それを聞いたポリアは、確執が有るのを理解したのと同時に、其処に他人が安易に立ち入っては、拗らせる結果に成りそうだと思って口出しを控えた。 先程のバシュターという青年の顔は、毛嫌いしていると云う表情では無かったからだ。 寧ろ、もう関係を悪くしたくないから、近付きたくないと言う雰囲気に思えた。



さて。



岩場の小高い頂上には、煙を昇らせる狼煙台を備えた灯台が在った。 煉瓦で造られた3階・・4階層の灯台で。 今も白い煙をチョロチョロと出している。



その一階部分の、支えだけが四方に構え。 吹き抜けに作られた石床の雨宿り場に、老人が3人居た。 灯台を護る守役で、毎日海を眺めて漁師の動向を見守っているのだとか。



「ロロナウさぁ~~ん」


サリーがその塔の中に入って声を掛けると。


「ん? サリーかぁ?」



と、嗄れた声がする。



「ロロナウさん、ちょっと紹介したい人が居るの」


「誰じゃい。 ワシに用か?」



灯台の入り口付近で待つポリア達は、夕日に変わりそうな高みの太陽を見ていたのだが。



「あ・・、お・お嬢様」


と、先に前を見たイルガの声。


ポリア、シュヴァルティアス、ヘルダーも、その声に誘導されて前を見た。


「うわぁぁ・・、おっきい」


シュヴァルティアスが呟く。 腰を屈めて塔の入り口を出て来たのは、ゲイラーと体を張る大男の老人だった。



ポリアよりも背の高いシュヴァルティアスですら、見上げる必用が有る。 まあ少女のサリーとは、3倍以上は違う巨漢だった。



「ロロナウさん、この人達が冒険者の方々よ。 お仕事の話をしに、サハギンさんの居る洞窟庵を訪ねたいんですって」



サリーの説明を聞いた白髪にボロいツバ広帽子を被る巨漢の老人は、睨み下ろす様な目をポリア達に向けて。


「一体、何用でサハギン達を訪ねるのだ? 彼らは、人間に討伐されるモンスターとは違うぞ」


老人の眼を、真っ直ぐに見上げるポリアは。


「私達、仕事でこの島に来たの。 この周辺の島で、霧に包まれた島が在るって・・。 その異変の調査を、サハギンの方が冒険者か誰かに頼んだって聞いたわ。 詳しい話が知りたいの、どうか私達をサハギンさんの居る場所に案内して。 誓って、サハギンさんには危害を加えないわ」



と、仕事の依頼書を出す。


「ふむ・・・」



老人はその紙を取り上げた。 そして、隅々まで読むと。



「解った。 お前達の知りたがってるのは、別の一族のサハギン達も居るソッカラン島の周辺だと思う。 あの島の事は、サハギン同士で交流の深い彼らが一番知っているだろう。 ワシが船を出してやるから、それで彼等に会いな。 だが、サハギンの彼等は、島以外の部外者を怖がる。 高圧的な態度は、決してするなよ」



ポリアも冒険をする中で、亜種人に対する迫害を何度か見た。 人間ほど、地位や種族で相手を差別視する生き物も無いと思わされる事が有る。 世界の片隅に追い遣ったのが人間であるのに、それ以上に目に付くと毛嫌いするのだ。 その逆襲でだろう。 ダークエルフや魔人の一部が、国家転覆・新国家樹立を企む悪事が存在する。 ポリア達は解決する側だが、彼らの憎しみが解らない訳でもないのだった。


砂浜に在るロロナウ老人の船に戻る時、もう其処にはバシュターの姿は無かった。



「あら、バシュターはもう帰ったのね。 それじゃ、お姉さん。 私は先に帰って、お食事の用意するね」



岩場近くの船着場で、ポリアにそう言って皆に手を振りながら街に戻るサリー。



「ありがとう。 後でね」


声を掛け返すポリア。



一方、先に木船へと乗り込むシュヴァルティアスだが。



「お爺さん、先程に浜でバシュターと云う青年に会ったんだけど」



櫂を手に、船へと乗ったロロナウ老人が。



「ほう、今日は浜に来とったか。 して、なんじゃ?」



「彼がサハギンに育てられたと聞きましてね。 本当に、仲が宜しいと思いまして・・」


「ほほう、大方はサリーに聞いたのか」


「えぇ」


すると、ロロナウ老人はムクれて。



「その恩も忘れて、当の本人はサハギン嫌いよ。 誰の御蔭でデカく成れたやら。 アレの父親も、育てたサハギンも、漁師としては優秀ないい男じゃ。 なのに、育てられた本人がアレじゃ、死んだ親父も浮ばれないし、育てたケンプスも報われん。 それでも、ケンプスは皆に、あやつを爪弾きにしないでくれと云う。 この年になって、子供の青二才の事すら解らんよ」



「そうですか・・」



イルガを伴うポリアが乗り込み、ロロナウ老人が船を出す。 灯台の岩場を大きく迂回して、島の北西側に回り込むと、其処にはポッカリと海の海水を引きこむ洞窟が見えた。 海水の色が反射してか、岩壁の色が青色に写る。



「さぁ、此処からはサハギン達の領域だ」


洞窟の中に進むと、直に。


「おう、ロロナウ殿か」


海水の中から、ヌッと何かが出て来て言う。 一同が船の外の脇に目をやると、鱗の肌をした人の顔が有る。



漕ぐロロナウ老人が。


「ハーロン、久しいの。 長のイノスに客が来た。 先に行って、伝えてくれんか」


すると、海面に顔を出したサハギンは、ジロリとポリア達を一瞥してから。



「解った。 今日は大漁だったよ」



すると、ロロナウ老人は頷き。


「良か、良か日だな」


と、返す。


船が行き着く先は、海水が小さな小川の様に石に走る亀裂に流れ込む洞窟内。


「此処からは歩きだ。 直に彼等の居る場所に着くぞ」



ロロナウ老人が岩の突き出る地面に降りて言った。


降りるポリアの眼が、先ずはと。



「あら・・、明るいって思ったら・・カンテラ?」


天井の一部から、鎖で吊るされたカンテラが。 蝋燭が掛かっている。


「サハギンの眼は、光の強さでその見える範囲が全然違う。 彼らは、海の中以外では全く暗視が利かない。 海水の中では目が変わるからいいが、陸の上では最低でもこれぐらいの光が無ければ歩くのも儘成らないのだよ。 ちなみに、このカンテラや蝋燭は、ワシ等が作ったものだ」


だが、感心するポリア達が奥で目にするのは、海水が岩場の間を隈なく流れる水溜りの大広間だった。 鍾乳洞を掘り広げたのか、その海水の色と石の色が淡い光を反射して夕暮れの洞窟内だというのに、美しい風景美を湛えている。 壁際に掲げられたカンテラの光も手伝っているのだろうが、こんな綺麗な洞窟もそうそうに無い。


「あらぁ~~、凄い場所」


その美しさに見惚れるポリア。


シュヴァルティアスは、周囲の壁を見て。


「光汎石の塊か。 ガラス質の宝石の類だから、光を強く壁に跳ね返しているのだな? フム、この島の周辺に、まだまだ元気な火山でも有るのか・・」


その独り言に、なんとなく聞いていたロロナウ老人が反応し。


「この島からやや離れた所に、点在する火山が3つほど有る。 この島の周辺には、新しく生まれそうな火山も在る。 遥か先には、あれも島となるのだろうな」



洞窟の広間を見ているイルガは、段々になっている岩場の彼方此方に、サハギンが家族らしき集まりで魚を食べているのを見た。 全身の肌が鱗で覆われ、手足には鉤爪の指と水掻きの膜を持ち、背中から後頭部に書けて差かなの背鰭の様な物を持っている。 緑色の瞳に、真っ赤な舌、髪の毛が無い代わりに尻に尻尾の尾鰭を長く垂らす。



(これがサハギンか・・。 初めて見たわい)



「さ、こっちじゃ」


ポリア達を案内するロロナウ老人。 彼を見るサハギンは、実に穏やかな笑みを浮かべている。 だが、その後ろのポリア達を見る目は、疑いの眼に変わる。 面識の無い人間は、彼等にとって恐怖の存在なのだろう。


其処へ、まだ子供のサハギンが近寄ろうとすると。 それを捕まえ、隠すかの様な親が近くの岩で見え隠れしていた。 サハギンも、人攫いならぬ亜種攫いに狙われる事が有るとか。 世界に数多く在る見世物小屋の水芸をするサハギンは、何処までが一員なのか解らないと噂に聞く事もあるのだ。



ロロナウ老人は、段々になって表面を海水が流れる地面の光沢を見下ろし。


「少し滑り易いぞ」


と。


ポリア達が足元を気にする。 が、一人でシュヴァルティアスは、前を見た。


(・・魔法の、発動の鼓動が・・)


洞窟の中で、突き出た岩の上に座る大柄なサハギンが、右手を後ろに隠して此方を凝視していた。 水のオーラを、心臓の鼓動の様に胎動させているのが解る。



(この老人が居なければ、もう攻撃されていても可笑しくない・・か)



姿を隠す子供や女性のサハギンと代わり、警戒の色を強める男のサハギンの殺気の様な気配が感じられている。 シュヴァルティアスは、やや顔を引き締めてポリアへ。


(相当に警戒されているよ)


と、耳打ちする。


だが、ポリアは全く動じない顔色で。


(解ってるわ)


・・と、だけ。



ロロナウ老人が、先に見えた祠の様な洞穴の入り口を指差し。


「あれが長老の居る穴だ。 と云っても、此処と変わりないがな」


頷くポリアだが、先にその祠の様な穴から誰かが出て来た。 一人は、杖を手にする老いたサハギンで、身体の鱗が枯葉の様な色をしている上に、人間の老人の如く腰が曲がっている様な態勢だ。 そして、その後ろからは、若い小柄のサハギンが3人立っている。


その一団に歩いて近付いたロロナウ老人が、徐に軽く手を挙げて。



「イノス、元気か」



と、言えば。 腰の曲がったサハギンも、また杖を挙げて。



「ロロナウか、一人で来るのは一月ぶりだの」



と、ガラガラ声で応えた。


イノスと云う長老に、間近まで歩み寄ったロロナウ老人は。



「あぁ、御主を訪ねてきた客人を連れて来たぞ。 冒険者で、あの霧に包まれた島の調査に来たと、さ」



皺が弛む顔を、ロロナウ老人からポリア達に向ける長老イノスで。


「そうか・・」





                        ★★★





ポリアは、謁見の応対をする開けた間で、長老イノスと座って対峙した。 腰掛けるのは石の座り均された歪な丸いもの。 また、長老イノスも似たような石に腰掛ける。 カンテラが十字にぶら下る一部屋の様な間で、それぞれの二手に人とサハギンが別れていた。



形が決まると、先ずはとイノスが。


「人間の娘よ、その腰の魔法が感じられる剣は・・なんじゃ? 皆、風の魔法が感じられて驚いておる」


微笑したポリアは、自身の剣を見て。



「あぁ。 私の剣には、ブルーレイドーナ様の鱗が封ぜられてるの」



すると、急にサハギン達がざわめいた。 長老を守る様に背後に立つ大柄なサハギン達は勿論、長老イノスも瞼の片側を見開き。



「し・神竜様の?」



ポリアは、己の実力からすると果報だと思いつつも。


「えぇ、ブルーレイドーナ様と面識の有る冒険者の人から、鱗を譲り受けたの。 その後、ブルーレイドーナ様の加護を受けて、剣に融合したんだけど・・」


話を聞くイノス長老が。


「フム・・、御主の様な者を使わすとは、協力会も事態を憂いてくれたと感じる」


と、感慨深く頷く。



また、ポリアも。


「それは事実だわ。 彼方方との信頼関係を壊したくないから、冒険者を選んでたみたい。 それに、仕事の依頼金も持ち逃げされて、困ってたわ」


「おぉ、それはワシも聞いたよ。 通りすがりの冒険者に頼んだからのぉ・・。 心配じゃった」


「でも、もうお金のことは気にしないでいいわ、斡旋所が仕事を組んでお金を出したから。 それで、仕事の話をしたいんだけどね、お爺さん。 霧に包まれた島の現状って、サハギンの方でも解らないの?」


「あぁ、これがまた全く解らん。 霧に邪悪なオーラが感じられる。 霧の下の海には、モンスターが集まってきているのじゃ。 我々も上陸してみようかと試みたが・・、辿り着く前に怪我を負わされる」



「モンスター・・。 種類は、多いの?」



このポリアの問い掛けに、イノス長老の後ろに控える太った大柄のサハギンが。


「そりゃもう。 赤いバラクーダに、亀のモンスターだと云われる・・オッキガ。 それと、群れる鰯のモンスターのソルソル、大ウミウシのモンスターのギルガプラーチもウヨウヨしてるゼ。 海中、海底は勿論、霧の中にもゴーストが居たりしてる。 俺達からして、あの霧は絶対に可笑しいっ!」



ポリアは頷きながらシュヴァルティアスに向いて。



「これは可笑しいわ。 絶対、人か、モンスターの悪い奴が絡んでる」


シュヴァルティアスも無言ながら頷き、認識を固めた。


事態の緊急性を感じたポリアは、イノス長老に向いて、


「ねぇ、お爺さん」


「なんじゃ?」


「その霧に包まれた島には、人の他にもサハギンの方も居たんでしょ?」


「あぁあぁ、我々とは違う大昔から島に住む集団が在った。 島の人間とも仲良く、魚の養殖や真珠の育成も合同でやっとった。 だか、我々の集落より数は少ないからの。 モンスターや霧に対抗できたとは思いずらい。 恐らく・・、犠牲になってしまったと思う」


「そう・・、一人も逃げれなかったの?」



「うむ。 それに・・、前に調査に来た冒険者も、船で行ったままに戻って来ん。 ワシ等は、この島にまでその影響が来ないか心配なんじゃ。 漁をする皆が言うのだが、その霧が徐々に広がっていると言う。 この島も、もしかしたら呑まれてしまうんじゃないか・・とな」



この話しに、サリーの顔が浮んだポリア。 事態は一刻を争うかもと、真剣に。


「その懸念は当然だわ。 危険な霧なら、人かサハギンかなんて言ってる場合じゃないもの。 明日から、霧の外側を調べなきゃ」



話を良く聞いてくれると思うイノス長老は、ポリアへ。


「一応、ワシ達も手伝う気でおる。 この集落の戦士を、動向させよう」


「ありがとう。 海の中の事は、サハギンさんの方が解るものね。 でも、基本的にモンスターとの戦いは、私達がするわ。 モンスターがそれだけいるなら、危険なのは水の中の方。 水の中に長く居る手段は私達でもあるけど、動きに大きな負担が出来るから、思ったように助けられないかもしれない。 犠牲は、人でも彼方達でも出したくないの」



「・・ワシ達の戦士は、そんなにヤワではないぞ」


この物言いに、ポリアは首を振り。


「強弱の事より、失う悲しみの大きさの方が大事だわ。 この集落を守る戦士なら、その為に生きるべきだわ。 家族も、生まれ育った中で知り合いも居るでしょ? 悲しむ人を出すのは嫌いなの。 大勢見てきてるから、なるべく出したくないの。 その為に、私達は力をつけて名前が知れるチームまで昇ってきたのよ。 いざって時は逃げなきゃいけないから、その時に力を借りるわ。 実力の有る人達みたいだから、船の守りをお願いするわね」



ポリアを見ているイノス長老は、


(ワシ達も人と同じに思うておるのか・・。 差別されてないとは、変わっとるの)



と、思う。 ポリアから、自分達に対する嫌悪を感じないと覚った長老であり。



「なら、基本は御主達に判断は任せよう。 我々を人と同じに思う御主なら、この戦士達を大切にしてくれよう。 どうか、霧の謎を解き明かして欲しい。 霧に消えた島の住民や同属は、ワシ達の大切な取引仲間であり、付き合いの長い知り合いじゃった。 助けられるなら、助けたい」



「解ってるわ。 明日から、私達も全力で調査に臨みます。 明日、灯台のある浜に同行するサハギンさんは来てくれればいいわ。 霧を外側から見てから、海上で作戦をお願いするわ」



「解った」



此処に、ポリアとサハギンの長老との話が纏まった。 見ているシュヴァルティアスからすると、


(サハギンの者から、文句は・・ない、か)


部外者の我々だ。 幾ら長老の判断とはいえ、何か強い不満や要求が出ても良さそうなものなのだが。 それが無い事に不安が残る。


(さて、明日からどうなるか・・・。 あのパーフェクトが認める彼女の才能は、これからその意味が解るのか・・な)

どうも、騎龍です^^


ポリア編の次話です。 PCの不調と、生活のゴタゴタで昨年は更新が出来ませんでした。 出来る時に、ボチボチ更新します。


読んで下さった皆様、ご愛読、本当に有難うございます^人^

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