二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~
セイルとユリアの大冒険 1
≪ゴーレムモンスター≫
「たあっ!!!」
エルキュールが、石像より生み出された怪物のガープに斬り掛かる。 しかし、“ガギン!!”と石でも斬ったかの様な音がして、エルキュールの手にはその手応えと共に痺れが来た。
「あぐぅ・・」
思わず剣を手放しそうになって、2・3歩退いたエルキュール。
イクシオは、横からエルキュールに襲い掛かろうとしたガープの首に、鉄の棘が茨の様な鞭を撓らせて巻きつける。
「む・・・」
力を込めてモンスターを行かせなかったイクシオの脇で。
「エルキュールっ!!! 今さっきの若いコの話を聞いてなかったのっ?!」
意識が薄らぎながらも見ているエルザが、珍しく焦り声を。
其処に、風の如くセイルが走り寄って来てガープの右脇に駆け抜けた。
「うおっ」
イクシオの鞭が引っかかりを失い、いきなり解けてしまったではないか。
「セイルっ、イイゾっ!!!」
シェイドが応援を言う。
そう、ガープの首が、セイルの剣で斬り落とされたのである。
「フっ、はっ」
「セイっ、だああああっ!!!」
同時に、もう一体のガープをクラークとマガルが挟み撃ちにして顔をクラークの槍が貫いて破壊した。
「やったっ!!!」
ユリアは、はしゃいでサハギニーと頷き合う。
だが・・。
「ガープなんざ~小手調べよっ!!! 次はコイツだああああーーーーっ!!!」
悪魔ギャリスパは、もう手に発生させた黒いエネルギーを4つも飛ばした。 ガイコツの姿をした石造の内、赤い色の石像にギャリスパの放ったエネルギーは吸い込まれる。
エルキュールは、自分の刃毀れした剣を手に。
「まだ出てくるのっ!!!」
自分のハンマーで、杖代わり身体を支えるセレイドが。
「は・・始まったばかり・・だぞ・・」
と、呼吸を整えようと必死な顔をして言う。
先程の不気味な溜め息の影響で、エルザとセレイドは力が抜けてしまって戦力に成らない。 キーラも、悪魔を狙って魔法を唱えようとするが、向こうもそれを察知してキーラやユリアから目を離さない。 一撃必殺の強い魔術を扱えば、この空中に浮ぶ広間が下手したらどうなるか解らなかった。
ユリアも、魔法を扱おうとするが、仲間の乱戦状態で踏み切れなかった。
そこに、汚れた血の様に赤いスケルトンが4体飛び降りてきた。
ボンドスは、そのモンスターに見覚えが有る。
「おいおい、あの大蛇の牙から出来る“ブラッディロア”が4体もかよ・・」
モンスターの牙より生み出されて来るガイコツ戦士は、“テュース・ウォーリア”(牙の戦士)と呼ばれる。 元に使用するモンスターの牙と、生み出す暗黒魔法との相性でモンスターの強さが千変万化するゴーレムマッジク(人工生物魔法)。 邪悪な力の支配を強く受けて、凶暴なモンスターなほど強いガイコツ戦士を生み出せるらしい。
古代の超魔法時代は、このゴーレムが護衛代わりで大変重宝されたらしく。 未だに発掘されていない遺跡には、この手のモンスターが数多く残るとか。
「エルキュールっ、下がれっ!!!」
イクシオが前に出て来た。
ボンドスも寄り。
「イクシオ、二人で一気にやってしまおう」
「おう、ド頭カチ割ってやれさっ!!!」
セイルも、一体に標準を合わせて。
「マガルさんっ、クラークさんっ!!! 神聖魔法以外の魔法は効力薄いので、1対1で後ろに行かせない様にして下さいっ」
「解ったっ!!!」
「おうっ!!」
二人は応えて、赤い血肉の色をしたスケルトンに向かった。
ブラッディロアの背丈はクラークに匹敵している。 頭上から斬り掛けられたセイルは、直ぐに剣で防いで受け流し。 返す一閃で足の骨を斬り飛ばした。 バランスを失って倒れるかに見えたブラッディロアだが、ヨロめくだけで片足一本で立つ。
「うわっ、ホントに強い」
ユリアは、セイルの剣の鋭さに驚く。 さっきは霧の中で戦う姿を見えなかった。
エルキュールも、自分よりも剣の扱いが上手いと驚いた。
「うおおおおおおーーーーっ!!!!」
クラークが、突進でブラッディロアの胸元に槍を突き込めば、鋭い一撃で飛ばされる。 床を擦って悪魔ギャリスパの近くまで飛ばされた。
一方、マガルは互角の打ち合いになる。 右、左と打ち合って、掬いに斬り付けたマガルと斬り込んだブラッディロアの剣が火花を散らして噛み合う。
「ぬうっ」
剣を噛み合いから外したマガルが間合いを取って睨み合う両者。 骸の骨である顔に、眼球らしき物は無く。 マガルの視線が赤い骨の空洞な目の骨組みの中へ吸い込まれる。
―カタカタカタカタ・・・―
俄にブラッディロアが、ガイコツの口のボロボロの歯を噛み鳴らす。
「生意気なっ」
笑われたと思って剣を右手に握り直し、マガルはまた斬り掛かった。
「今行くぞっ!!! 悪魔よっ!!!」
クラークが視線上にて、倒れたブラッディロアよりもギャリスパを睨んで右手に長い槍を、左手に短いスピアーを持って突撃体制を取った。
だが、ギャリスパもまだ余裕を持っている。
「アホウ。 マダマダ居るんだよっ!!!」
と、手に暗黒のエネルギーを光らせた。
「そらそらっ、ほらよっとっ!!」
激しく鞭でブラッディロアを打ち付けて動きを制し、大きく振り込んだ鞭の先で足を絡め取ったイクシオ。 その隙に、ボンドスが両手の斧を構えて突進した。
イクシオに引き摺り倒されそうで動けぬブラッディロアだが、振り込まれたボンドスの斧を左手で防ぎ。 反撃まで仕返す。
真っ先に斬り倒したのはセイル。 ブラッディロアの残った足まで斬り飛ばし、魔法の力を宿した剣先で頭蓋骨を斬り割った。 小さく魔想魔術特有の炸裂が起こる。
「あ・・・」
見ていたキーラは、小さく声を上げる。 セイルが、エンチャンターだと気付いた一瞬だった。
エルキュールは、何が起こったのか解らずに呆然としてしまう。
この時、ユリアはシェイドを見て。
「シェイドさん、私の力じゃど~にも成らないかな?」
「ん?」
「何か、有効な魔法を遣いたいんだけど、水の魔法は威力大きいし。 闇の魔法は意味が無い。 空気は有るけど、風が流れて無いから風の精霊さんも来たく無いでしょ?」
「ふ~ん・・・」
右肩で考え込むシェイド。
横で、サハギニーも頭をポリポリして。
「オイラの魔法は範囲が広めだからな~。 ユリアが集中すれば・・・魔法を小さく出来るが・・」
「あふ、アタシってそんなに雑念多いのね」
何か出来る事を考えるユリア。
しかし、一方で。 エルキュールはマガルに加勢しに走る。
「ふぬっ!!!」
打ち合いの末に、ボロボロの骨で出来た剣を弾き飛ばしたマガル。
其処に、エルキュールが走って来て。
「えいっ!!!」
マガルに掴み掛かろうと手を伸ばし掛けたブラッディロアの腹部に見える腰骨を、横から斬り込んでヨロめかせた。
マガルは、この隙が十分な斬り込みの体勢を整える余裕に繋がった。
「そりゃっ!!!」
脳天唐竹割りに、ブラッディロアの頭蓋骨へと剣を振り込んだ。 神聖な力の宿る白銀の力も加味されてか、乾いた音を上げてブラッディロアの頭蓋骨は打ち砕かれる。
直後。 自分の相手にしていたブラッディロアを槍で刺してうつ伏せにし、スピアーで頭部を破壊したクラークもいる。
倒されたブラッディロアは、ハラハラと黒い塵に変わって行った。
しかし、既にギャリスパは次なるガイコツの石像4体に暗黒のエネルギーを飛ばしていた。
ギャリスパに近付こうとしていたセイルの横に、ドス黒い色で2メートル以上の背丈のスケルトンが降りた。
「ハッ?!!!」
セイルは、他にも緑色のスケルトンが3体降りたのを見て。
「皆さん気を付けてっ!!!! “リザードバイター”は猛毒のトカゲの牙から生み出された緑色のゴーレムで、その剣には麻痺する毒が含まれますっ!!!」
背後に降りられたクラークは、マントを靡かせて振り返る。 敵に斬り込まれた時に、マントで視界を防ぐのだ。
「全くっ、次々とっ!!!」
唸るエルキュール。
マガルも、左斜めに降り立った緑色をした角の生えたスケルトンを睨み。
「両手に剣を持っているな・・。 侮れぬ」
右の横では、頚椎を切断してブラッディロアをやっと倒したイクシオとボンドス。 魔法の力も無い武器では、魔術で生み出された硬いゴーレムの身体を壊すのは難しいのだ。
転がったブラッディロアの顔を、降りた緑のリザードバイターが空洞の目の中に不気味な赤い光を宿して踏み壊す。 瞬間、ボンドスとイクシオの間近に倒れたブラッディロアの骨の体が、パッと塵に成った。
「うお、な・・なんてヤツだよ・・」
イクシオは、同じ仲間の顔を平気で踏んだゴーレムに、畏怖すら覚えた。
そして、悪魔ギャリスパは、ニタリ顔で。
「うひひひひ、中々強いな~お前等。 残りの3体のゴーレムも甦らせてやる。 チョット時間が掛かるが・・・。 それまでにコイツ等全部倒せるか?」
ユリアは、セイルの前に下りた黒い骨のゴーレムを見て。 何か凄く強そうな印象を受ける。
「セイルの前に居るの・・なんか強そう・・・」
手に握る杖が、微かに震えていた。
≪風の剣士≫
ポリアの剣が、雪の降る霧を一瞬裂いた。 乾いた破壊音がして、スケルトンの頭部を砕く。
ゲイラーは豪快だ。 薙ぎ払う剣でスケルトンを木っ端微塵にし、ゴーストも一撃で二匹同時に刺した。
システィアナから神聖の加護を掛けて、ヘルダーの戦扇子は淡く光る。 ヘルダーの走り抜ける間に居たスケルトンは五体バラバラに解体され、ゴーストは姿を現す一瞬を狙われる。
何より、カミーラ達が驚いたのは・・・。
ゾンビの群れを前にして、ポリアがマルヴェリータに顔だけ横に向けて。
「マルタっ、サポートをお願いっ」
すると、マルヴェリータがポリアの後ろに来て。
「行くわよ・・・」
と、雪と霧の中に見え隠れするゾンビを見た瞬間。
「右、首筋。 左二体は前から腹後ろが頭」
この時、ポリアはマルヴェリータが言う前から走り始め。 声に合わせるかのように右に向かう為に進行方向を変え、見えたゾンビに肉薄して伸ばす腕を斬り上げるままに首まで切断した。
マルヴェリータが言って直ぐに、霧の中でポリアが。
「左奥っ!!!」
マルヴェリータは、自分が感じたゾンビの弱点を突いてポリアが倒したのを波動で察知。
「次っ、ポリアから右に胸っ、更に数歩右に喉っ」
その時マルヴェリータの左脇に、霧の中から姿を現すヘルダー。
マルヴェリータは、ヘルダーを見ずして。
「ヘルダー、正面の左先に3体。 右から腹、真ん中背中、左は右脇腹よ」
年齢を重ねて渋みが出て来た潰れ目のヘルダーは、音も微かに霧の中に走って行く。
見ているカミーラ達は、自分達など無用な戦いに脱帽だ。
「す・・凄い。 これが、チームの戦い方・・・」
この深い霧の立ち込めるて雪が舞う封鎖地区に入った合同チーム。 前日からこの霧の森の中で冒険者達が暴れた御蔭で、森の奥に潜んでいたモンスター達が色めき立ってしまったのか。 夥しい数のモンスターが奥の門に向かう辺りを徘徊していた。
実は死んでしまった遺体などから生まれたゾンビに、古い人の容姿を留めない様なゾンビ達が加わって死者の森に成ってしまっていたのである。 新たな死人の無念が霧の瘴気に力を与え、地下にモンスターに変わらずして残った遺体までもモンスターに成ってしまったのだろう。
更に、真新しい遺体のゾンビが歩く事で、腐り切らない身体から溢れる死臭と血肉の香りに。 モンスターが一部分に集まる要因を生み出したのである。
システィアナは、歩く範囲内でイルガやカミーラ達に護衛をして貰い。 出来上がったヘイトスポット(自縛念温床)を聖水で清めていた。
だが、やはり戦わずして見守る皆の目の向かうのは、絶妙に息の合った戦いを見せるポリア達だ。
人の死肉を食い漁り、魔の力に魅入られてモンスター化した鳥の鮫鷹や、水気の多い場所で死肉を漁る“ヴーズ”と呼ばれるスライムモンスターまでもが現れた。 どうやら、今まで森の奥の湖の方で秘かに繁殖していた様だ。
マルヴェリータは、丸で放電するような雷をイメージした魔法で空中に潜む鮫鷹の群れを打ち落とし。 剣を具現化した魔法でヴーズを次々と倒す。 一度に生み出した無数の剣を、一本一本動かして狙うのは余程の熟練者であり。 たった1本で、確実に人並の背丈の有るヴーズを倒せるのも魔力が強力な証。 マルヴェリータは、また驚く成長を遂げていた。
切り抜ける先で、セイルが相手をしたギガースゾンビも現れたが。 システィアナの唱えた神聖魔法“浄化の囁き”と云う聖なる光に焼かれて消え失せた。
森へ入って戦い通し、太く大きく成る木々の合間を抜けて行くポリア達。 しかし、森の中を行くままに道のり半分と云うぐらいで、戦いが小休止したかの様にモンスターがぷっつりと出なくなった。
ポリアは、急激に静か過ぎる森に警戒し。
「マルタ、システィ、周りの気配を探ってね」
「今のところ~、モンスタ~さん達はと~くです」
にこやかシスティアナ。 この瘴気の立ち込める森でも平然としている。
マルヴェリータは、真っ直ぐ向かう奥を指差し。
「真っ直ぐの向こうの固まって居るわ。 少しは、安全に行けそう」
「解ったわ」
ポリアは、全員に警戒だけを言い渡した。
歩くだけと成った一行の中で。 カミーラは、ポリアの脇に着けて。
「子供達も、クラークや他の皆も大丈夫かな?」
白い息を吐くポリアは、雪を髪に纏わせながら周囲を窺う。
「大人は、日数的には大丈夫・・かな。 でも、門の奥がどうなって居るのかが解らないから・・・。 あとは、この寒さね。 子供達がこの寒さの中で下手に寝たら、もう危ない。 何処か、暖かい場所とか火の熾せる物とか持ってるといいけど・・・」
こんな会話、斡旋所の主を含めたら何回目だろうか・・。 カミーラも不安なのか。
「あ・・・話・・変わるけどさ」
「ん?」
「その・・合同チームって・・・そんなに簡単なのか?」
ポリアは、意外な質問だとカミーラを見返す。
「え? どうゆう事?」
あの強気なカミーラが、言葉を選んで迷う。
「その・・強くなるのに」
思っても見ない問いに、ポリアはヘルダーを見たりしてから前を向いて。
「合同チームって、正直良い迷惑な決まり事よ」
「あ・・え?」
今度は、カミーラが驚き戸惑う。
ポリアの目に、あの包帯男が浮ぶ。
「凄く強いチームに、弱いチームが加われば足手纏い。 似通った戦力のチームで組んでも、我儘言われたら直ぐに結束が破綻するし。 弱いチーム同士なんかで組んだら、最悪。 行く場所によっては、死体にする人間を増やすだけ・・」
其処に、マルヴェリータも加わって。
「数で当っても出来る仕事とそうでは無い仕事が有る・・って所かしらね。 私達が、あっちこっちで合同チームで緊急の仕事を請けて成功したからって、何でもそれで解決出来るみたいな空気が出来始めてるわ。 良く先々で、ポリアを見ただけで何でも合同チームで仕事しようと持ちかけて来るチームも居る。 でも、ポリアは用心棒でも利用の道具でも無いの」
カミーラは、自分が悪い事を聞いたと思い俯く。
ポリアは、マルヴェリータに笑ってから。
「私達も、最初は凄い人に助けて貰った」
「え?」
顔を上げるカミーラの目の中で、ポリアは少し遠い目を霧に向けている。 雪が舞う中で、雪の様に白い姿のポリアは白銀の姫君の様である。
ポリアは続けた。
「助けられたケド・・。 その後は止まれなく成ったわ。 何処に行っても、有名に成れば成るほどにに難しい仕事しか回して貰えない。 小さな仕事にも、時として凄い大事が隠れているかも知れないのに・・・。 派手やかな仕事ばっかり紹介されると、時々駆け出しの仕事を選ぶ時が在るの。 困ってる人や、冒険者として感性を磨くのに上の仕事や、こんな合同チームみたいな仕事でなければ成らないなんて思わない。 1回1回の仕事の中にも、学ぶべき事は一杯あるの」
カミーラは、無言で頷く。 なんとなく、窘められた・・そんな気がする。
しかし、ポリアは、少し微笑んで。
「最速で有名に成る方法が、1つだけ在るのよ。 合同チームなんてしなくてもね」
カミーラは、顔を上げた。 ポリアの目と、自分の目が合わさった。
「強くなる事・・か?」
ポリアは首を左右に。
「人に最善を尽くす事」
「あ・・・え?」
カミーラには、意味が解らなかった。 仕事に“最善を尽くす”ならまだ解るが。 “人に・・”とは。
「どんな仕事でも、一番最良の終わらせ方をすることよ。 今回で言うなら、子供達も冒険者も助けて、このモンスターを産む元凶を断つ事・・」
カミーラには、そんな事など出来るのか考えもしなかった。
「出来るのか?」
「違う。 尋ねるんじゃなくて、考えるの。 この先で見える事実を理解して、する方法を模索するの。 行動と、人間性。 出来る範囲内でも、し始めるなら・・。 それは人に評価される。 お金や名声に目が行ったら、出来ないわ」
「・・・・」
俯くカミーラ。
その時。 システィアナが、ポリアの腕を引っ張る。
「ん? 何?」
「ポリちゃん、ケイしゃんみたい」
ポリアは、頷く。
ニコっとしたシスティアナは、大きく息を吸って。
「ポリちゃんも、もう“お~ばぁ・・・”もぐ・・もごもご・・・」
システィアナが言おうとしたのを、ポリアは口を塞いで止める。
「もう言うな・・・もう言わないでっ」
必死なポリア。 いい加減、他人の前で言われたく無い言葉・・・。 誰しもある。
マルヴェリータは、ほくそ笑んでポリアを見ると。
「ポリア、アレも一つの伝説的な通過点でしょ? チーム名アレに変えたら? ケイが探し易いかもよ」
言われたポリアは、ムキに成って。
「ウガーッ!! 死んでも御免だわっ!!! そのうちケイから」
“仲間にして下さい。 ポリア様”
「って言わせちゃるっ!!」
せせら笑いのゲイラーは、イルガと見合って。
「イルガさんよ、その頃は冒険者してないな」
システィアナやカミーラ達を守るイルガは、呆れて首を左右に振る。
「お嬢様を虐めるな」
毎度のバカ騒ぎに、イルガも本気に成る気は毛頭も無い。
カミーラは、こんなモンスターの巣窟の中でも余裕のポリア達が信じられなかった。 しかし一方で、こんなに暗くならずに楽しめるチームが羨ましかった。
(ケイって・・・誰だろう? もしかして、ポリアさんの恋人?)
本人に聞いたら、なんて言うだろうか・・・。
直後、マルヴェリータがモンスターの近付きを示唆して雑談は終わった。
≪ゴーレムとの決戦≫
「キ・キーラ、ユリアさん」
いきなり、戦況を見つめる二人にセレイドが。
「え?」
二人同時に見れば、覚束無い動きだが歩ける様に成っていた。
「セレイドさん、まだ動かない方が」
心配するキーラに、顔中汗塗れで蒼褪めた血色のセレイドは大きく首を振り。
「いや、そ・・それよりも。 イクシオ達を・・私の元に」
ユリアは、顔色が悪いセレイドが心配に成った。
「どうして?」
「ぶ・・武器に・・まほ・・うを」
ユリアは、セレイドが言いたい事が理解出来る。
「足止めすればいいのね?」
「は・・はい・・」
緑のスケルトンであるリザードバイターと戦い始めたイクシオやマガル達は苦戦していた。 クラークは互角に戦っていたが、マガルやエルキュールは終始押されっ放し。 イクシオとボンドスは、斬り込まれて逃げ回る場面も。
マガルの剣が白銀では無いなら、此方の二人も同様だろう。
セイルは、一人で黒いスケルトンと一騎打ちをしているが、相手は中々隙を突けない強いモンスターである。
ユリアは、イクシオとボンドスの相手しているリザードバイターの先にはセイルが居るので心配だった。
(セイルなら、私と一緒に戦える)
魔法を扱うユリアに取って、一緒に戦える相性は重要だ。 魔法の全てを発動させる事は容易くても。 それを維持するのは難しい。 先にあの緑のゴーレムを自分で足止めをして、セレイドから武器に魔法を掛けて貰って。 またイクシオ達が来たらセイルの方に行こうと思ったユリア。
「キーラさん。 私、イクシオさんとボンドスさんの方に行きます。 エルキュールさんの方には、キーラさんが行って下さい」
「大丈夫ですか? お一人で?」
ユリアは頷き。
「セイルも一人だから」
キーラは、両刀遣いのリザードバイターに追い込まれているマガルとエルキュールを見た。
さて、4方の戦いは加熱の一歩を辿る。
リザードバイターが振るった左右からの剣撃を、同じく左右の槍とスピアーで受け止めたクラークは。 グッと大きく左右へ槍とスピアーを押し開いて相手と自分の距離を縮め、ガラ空きの肋骨に足蹴りを見舞う。 後ろに飛ばされたリザードバイターは、縁の手摺りに背中を強打したが。 直ぐに身を立たせて剣を構える。
(突くのは難しい相手だ。 色が違うだけで強さも違うとは聞いていたが・・)
リザードバイターは、ブラッディロアとは少し違っている。 ブラッディロアは、顔が赤い骨なのに。 このリザードバイターは目の骨の中、口の骨の中が黒いエネルギーで満たされている。 しかも、眼球らしき赤い光も見えた。 見た目からも、特徴的な違いが見られる身体。 ブラッディロアは、只の赤いスケルトンなのに対して。 このリザードバイターは、頭部・足腰・肩の骨などが変形して短くとも鋭く尖る。
(うぬ。 恐らくは、あの体の棘にも毒が・・・)
クラークが、心配している一つがコレだった。
別に目を向ければ。
「う゛ごごおお・・・」
クロスに剣を振り込んで来たリザードバイターの腕を、交わして上から剣で押さえ込んで捻じ伏せようとするマガルだが。 抵抗の力は強く、目の前でリザードバイターにカタカタと笑われる。
「たあああっ!!!」
マガルの御蔭で脇がガラ空きだと思ったエルキュールが斬り込んだのだが・・。
「うわあっ」
マガルを押し込むように体を逃がしたリザードバイターの御蔭で空振りに終わった。
マガルも動かされて力の抜けた剣を跳ね上げられてバランスを崩す。
そこに。
「魔想の力よ。 無数の飛礫で我が敵を撃て」
キーラが、小石の様な魔法の飛礫を唱えて作出し。 マガルに踏み込んだリザードバイターの体面にぶつけた。 石や煉瓦の壁に小石を強く打ちつける様な音がして、当った飛礫は一瞬の炸裂を起こす。 リザードバイターは魔法につつかれる様に後ろに押し戻された。
最後の飛礫をぶつけたキーラは、
「エルキュールっ、セレイドさんに剣に魔法を掛けてもらいなさいっ!!! 一時、私が引き受けた」
最後の魔法の飛礫の襲撃に、リザードバイターはグッと膝を屈めた。
「解ったわっ!!!」
抜け出る隙を見たエルキュール。
マガルは入れ替えにと、リザードバイターに斬り掛かるべく走った。
別に顔を移すせば。
「硬ってえっ!!! イクシオっ、コイツは大変だっ!!!」
ボンドスが、斧をリザードバイターに当てると。 まるで鉄を殴っている様な感触がして、ビクともしてない素振りのモンスターに慌てた。
鞭を振るうイクシオも、撓う鞭すら斬られそうで。
「ボンドスっ、こりゃ~キーラの助け借りようっ!!!」
二人が、大きく間合いを取った時。
いきなり、リザードバイターの足元に水が湧き出した。
ボンドスが、驚いて。
「床が割れたかっ?!」
イクシオは、此処は空中だと思い。
「ン訳有るかっ!!」
急激に溢れ出た水は渦を巻いてリザードバイターの頭を超えた所まで渦潮の様に伸びた。 カタカタと体の骨を軋ませて、リザードバイターは身動きが取れなく成る。
唖然としてしまった二人に、
「オジサン二人っ!!! ユリアが魔法で食い止めるから後ろにっ」
ハッと振り返れば、近くに闇の精霊シェイドが飛んでいる。 その後ろには、杖を構えて目を閉じて集中しているユリアの姿が。
「おおっ、助かった」
云うボンドスに。 シェイドは武器を指差して。
「でっかい僧侶さんが魔法を掛けてくれるってっ!!! ユリアが足止めしている間に、早くっ!!」
イクシオは、ユリアを見た。 集中しているが顔は強張り。 微かに杖を構えた腕は震えている。
(モンスターの力が強すぎるのか・・。 必死に魔法を持続させて居るのが精一杯ってトコか)
イクシオは、ユリアを弱視していない。 戦って解る。 この緑のスケルトンは、強い。 その動きを封じれるだけ、ユリアが凄いと思えた。
「ボンドスっ、行けっ!!! 鞭に魔法は効果が薄いっ!!! 俺も足止めに加わるからっ」
「おうっ、直ぐに戻るっ!!」
イクシオは、渦巻きの外に出ているリザードバイターの剣を持つ手に鞭を飛ばした。 ユリアが魔法を途切れさせても、少しでも時間を稼ぐ為に自由を封じ様と思ったからだった。
さて、4方の戦いの中でも、一番派手に動いているのはセイルだ。
「・・・」
右手に剣を下げたままに、一気に黒い異様なスケルトンに走り込む。 リーザードバイター同様に、両手に剣を持つこの頭二つ半以上も大きな背丈のゴーレムは、剣の腕もかなりの兵だった。
走り込んだセイルに、モンスターは右の剣を素早く振り込む。 セイルは、半身の側転でモンスターの右側に逃げる。 しかし、かわされた右手の剣の刃を返し、横に振り引く形で薙ぎ付けて来るモンスター。 セイルは、屈んで剣を避けて、一気にモンスターの顔を斬り落とそうと飛び上がって剣を下から振り上げる。 だが、首の骨を後ろに異常に反らせてモンスターはセイルの攻撃をかわし、左の剣をセイルに目掛けて振り上げた。
「うわっ」
驚いたセイルは、空中で一回転して浮力を生かしてなんとか剣をかわす。 モンスターの振り上げた左の黒い剣先の平に足場求めて、大きく後ろに跳ねた。
リザードバイターを優勢に押してその姿を見るクラークは、
(なんという身体能力だ。 丸で、“剣神皇”の卵)
セイルの剣術は、クラークが見るに荒削りだ。 しかし、斬り込む角度や、その剣筋は天才的である。 このまま行けば、祖父を超えるかもしれないと思わせた。
(ふふふ・・・嬉しいなあ・・・。 これぞ生きている甲斐が有ると云うものよっ。 何処まで行けるか、共に行って見せるっ!!!)
天才的な逸材に出会えた事でクラークの心が勇躍した。 闘争心が、冷静ながらにして体中に漲る。
「うおおおおおおおおおーーーーーっ!!!!」
クラークの怒涛咆哮を絡めた突撃から繰り出される槍で、リザードバイターを激しく突き立て肋骨や鎖骨を突き壊す。 流石に魔法で構成された骨組みの体のモンスターは、数本の骨を折られたぐらいでも躊躇は無いが。 明らかな動きの鈍りは見えた。
リザードバイターの右、左からの斬り払いを槍で受け切ったクラークは、左手のスピアーで大きく薙ぎ付ける。 モンスターの両手ごとスピアーは打ち付けて、縁の手摺りにリザードバイターの両手をスピアーで押し込めた。
「フンっ!!!」
互いに近距離の肉薄した中で、モンスターの頭蓋骨に脇に側めた槍を下段から突き込んだクラーク。 リザードバイターも首を捩ってなんとか攻撃をかわしたのだったが。 クラークは其処から槍をモンスターの肩に押し付け、スピアーを器用に下から掬う様に押し込んで行き。
「そりゃあああっ!!!」
なんと、リザードバイターを槍とスピアーで挟んで勢い良く大きく持ち上げて、気合の力任せに石の間に叩き付けた。 “グシャンっ!!!”と凄い音がして、頭から石の床に叩き付けられたリザードバイターは、火花を散らして石の間に転がり滑る。
全体で見れば互角の戦いが続く。 未だ見えぬ子供達は無事なのか、この地下に潜むモンスターとはなんなのか。 その不安は、戦うセイル達の心に深く垂れ込めていた。
次号、予告。
戦うセイル達の目の前に、驚異的なゴーレムモンスターが現れる。 悪魔ギャリスパの召喚した魔物はこれで全てだが。 刻々と迫る夕暮れ。 “ノーライフロード”と言われたモンスターは、復活してしてしまうのか。
次話、数日後に掲載予定
どうも、騎龍です^^
今、モバゲーの中で本編のアップを始め、その手直し等で更新が遅れ気味なので申し訳有りません^^;
ご愛読、ありがとうございます^人^