ポリア東の大陸編 モッカグルにて 3
ポリアンヌ物語~冒険者の眼力編
~東の大陸へ・大冒険の始まり・続き2~
話し合いの次の日からは、坑道に湧いたスライムの掃討に入ったポリア達。 高官の役人であるコリアスには、島の住民への聞き取りなどを行ってもらい。 その護衛をソルドレイクに頼んだ。
さて。
基本的に坑道に湧いたスライムと云うのは、危害を加えない限りは無害な”ロックラー・スライム”である。 坑道などの鉱物を含む岩肌に、何らかの影響から加湿が加わり。 坑道の穴の壁面に苔の類が繁殖すると発生するスライムなのだ。 薄い水色や黄緑色の体液に満たされた身体で、綺麗な半円体なのが特徴である。
が。
問題なのはその他のスライムである。 肉食性で、汚れた血の色をしたブヨブヨのアメーバが、ロックラー・スライムの卵や幼生体を食べる“ブラッド・ジュエル・スライム”であり。 雑食性で、ロックラー・スライムの卵から、その食料となる苔までも食べ尽くす、“這い寄る汚水”とも云われる黒ずんだスライムの“ビ・チュアラーズ”と云うスライム。 この二種類も湧いていて、ロックラー・スライムの繁殖や生存を脅かしている。
外敵に襲われて攻撃性が強くなったロックラー・スライムは、強酸性のキリを体表から噴出す習性が在り。 この習性によって、鉱夫達が自由に採掘も出来なくなってしまった訳だ。 この強酸の霧は少し厄介で、粘ついたままに洞窟内の表面に付着しては、また数日は酸性を維持し続けるのである。
さて、退治に入ったポリア達は、全て駆逐して坑道の安全を確保する事にした。 本来は無益なロックラー・スライムだが、攻撃性が尖り過ぎていて、短時間でこれを抑えるなど無理な話だった。
スライムの退治も大変である。 基本的に魔法で遠隔攻撃が可能なマルヴェリータはいいが、至近攻撃に踏み込む男達と、風の力を強く使う訳に行かないポリアも苦戦を強いられた。
半日して。
「ふぃ~~」
大汗を掻く皆の中、全身に汗を掻くゲイラーが最後に穴から出て来た。
「うむぅ、強酸の含まれた空気の御蔭か、肌がピリピリと痛いのぉ」
歳を重ねるイルガは、その潤いを失いがちの肌が痛いらしい。
「・・・」
喋れないままに、同意の頷きをするヘルダーもまた。 顔や手の肌が赤く色づいて痛い様だった。
夕方の景色を見渡せる丘の一角で、汗を手拭いなどで拭く一同だが・・。
「あぁっ、何か痛いと思ったら・・」
「くぁ~~、マジか」
坑道の案内に来た若者と、初老の腰がどっしりした色黒の二人が嘆く。 強酸の含まれる坑道に居た御蔭で、皮膚の表面がベロンと剥がれたのだ。 ポリア達はスライムの強酸に対抗する塗り薬を買ってきていたので、ヒリヒリする程度で済んでいた訳だが。
「大丈夫? 良ければ船まで来て、手当てや薬を渡せるわよ」
と、ポリアが云う。
やせ我慢の聞く痛みでは無い。 余所者のポリアの言葉に甘えたい訳では無いのだが・・。
「薬が有るのか?」
「手当てしてくれるなら、立ち寄ろう」
二人の鉱夫は、ポリアの申し出に付いて来た。
陽も暮れて夜に成る頃。 鉱夫二人を連れたポリアが船に戻った。
船着場から船に乗り込んだポリアは、ソルドレイクに従う船員が目の前を走り抜け様としたので。 その腕を捕まえると。
「待った。 真水の用意してくれる?」
と。
だが、焦る様子の船員で。
「ああああ、それどころじゃねぇ~~ですよ。 島のガキが盗みに入って来やがって、二人までは捕まえたんですが。 もう一人のガキが逃げ回ってるんでさぁ~~っ」
「はぁ?」
汗に塗れた髪を解け掛けたままに、思わず口を空けたポリア。
一方、起こしたくないイザコザが起こったと思う鉱夫の男達も、眉間にシワを寄せてしまう。
事情を理解したポリアは、船内に入って甲板の有る一階の大広間に入った。
「ゲイラー、ヘルダーとお風呂と・・、真水の用意をして。 マルタとシスティは、二人の手当てを。 イルガ、備蓄室に置いた薬を取ってきて。 後、全員分の食事の用意も。 子供達の分も見込んで」
「お嬢様は?」
「大丈夫、イルガ。 船長さんに会ってくるわ」
ポリアはソルドレイクに会いに行った。 だが、副船長の50代の人物がデッキに居て、ソルドレイクは船員数名と島の長に合いに行ったとか。
「キャプテン不在に、面倒を起こしてすいません」
どっしりとした副船長の頭が下がった。 ポリアに一目を置いたソルドレイクで、その意思を副船長も貫いていてくれたのだ。
「いいの、貴方の所為でもないし。 お腹を空かせたと思う子供達だもの、こんな事が起こるのも仕方ないわ。 私達は余所者だから、馴れ馴れしく船の中を見たいとか、何か食べ物を・・だなんて云えないわよ」
ポリアの言葉を聞いた年配の副船長は、その懐の広さを感じてしまった。
ポリアは掴まったと云う子供を迎えに、地下の倉庫に。 船員の開いた扉の向うからは、愚図り泣く赤子の声がする。
「出て来て。 お腹が空いてるなら、食事ぐらいは用意するわよ」
すると・・、日に焼けた肌の色をした、ボロ布の様な上下を着た男の子と、やっと首が据わった感じの赤子を背負う痩せた幼い少女が出て来る。 恐る恐ると、不審気にが混ざり合う様子で出て来たその二人。
ポリアは泣いてる赤子を見て、船内倉庫と云う木造部分の暗がりながらに。
「その赤ちゃん、お腹が空いてるんじゃないの? お母さんは?」
だが、公用語すら知らない島の子供は、睨む様な目付きである。
「ポリアさん、この子供達は公用語を知らないよ。 この辺の島の子供は、親から口伝に教わるんだ。 親なしや、片親で公用語の知らない家庭では、喋れないよ」
と、船員が教えてくれた。
ポリアは船員に鉱夫の二人を呼ばせた。 そして、その二人を介して、子供達を広間へ。 同時に掴まった子供も加えて3人に、訳も聞かずに自分達と同じ食事を与えた。 面倒を起こしたと苛立つ鉱夫の二人なのだが、ポリアは怒る事を許さなかった。 痩せこけたその身体は、明らかに飢えている。 この状況を生み出した者が気に入らないが、この幼い子供に怒っても仕方ない事だった。
一方で。 弱弱しくも必死に泣く赤子に困るポリアは、個人的に好きな牛乳を煮詰めて造る甘いシロップを、またお湯に溶かしてパンやバナナを溶かし込んで離乳食を作ってみた。 少女の母親は餓死していて、もうこの世に居無い。 時々、海藻や魚が採れると、物々交換の形で薄い乳の出る女性を頼っていたらしい。
トロトロした離乳食を食べさせるポリアは、同じ女の子の赤子を見て心配する女性の船員から目を移すと。
「赤ちゃんと一緒に、お風呂も入っていく? 髪の毛、ガサガサよ」
と、心配そうに自分と赤子を見てくる少女に云った。 この船には、家族で乗り込む3組の船員が居る。 厨房で働く女性が3人居るし、甲板掃除や雑用に働く大柄の女性の船員も居る。 そんな訳で、客用の湯船が一つ、女性用に別室に置かれているのだ。
この船に忍び込んだのは、天涯孤独で洞窟に隠れ住む子供3人。 親も居無いから漁船にも乗れず、海岸で打ち上げられた魚や海藻を掻き集め、島の住民と物々交換をして命を繋いで来たらしい。
子供達を今夜は泊めさせると決めたポリアで、ソルドレイクを飲みながら待った。
深夜近くに戻ったソルドレイクと話せば・・。
「いやいや、参った参った」
老いた顔を一段と老けさせたソルドレイク。
「遅かったわね、ワインでも一杯やる?」
鎧を脱ぎ、白いYネックの長袖シャツに、膝を越す程度の余裕の有るズボンで飲んでいたポリアがグラスを揺らす。
「おお、一杯くれい。 ・・ふむ、鎧を脱いでも、貴殿は中々凄いの」
「はいはい・・。 処で、島の長の所に行ったの?」
「おぉ、そうだ。 島の住民が船を貸せと大変だったのだ」
「はぁ? この船で魚を捕るって云うの?」
「おうよ」
眠そうなマルヴェリータは、船員の40女性と飲み交わしながら。
「この船って・・漁船にも成るわけぇ?」
魅惑の美女を見たソルドレイクは、その周辺でもう酔い潰れた船員達を眺めて呆れてから。
「いやいや、こんな体高の有る漁船など、作るだけ無駄じゃい。 漁業もした事の無い島民が、この潮の流れが速すぎる海域で漁業をしているのだ。 イロハも知らずに漁業をしているのだから、性能の良さそうな船を見れば成果も違うと勘違いするみたいだの」
もう一杯とグラスを出すソルドレイクに、もう一杯注ぐポリアだが。
「この島には、何もかも足りてないわ。 キャプテン、明日から近くの街の有る島に買出しに行ってくれない? 漁業なんて教えられないけど、最低限度の手助けは必要だわ。 親も無い子供が、命懸けで食料を盗みに来てたし」
すると、ソルドレイクは・・。
「フン。 魚捕りなど簡単だ。 ま、その海域によっては、それなりの経験も必要だろうがな。 ワシなら、この海でも漁獲高は確保出来る」
ポリアも、マルヴェリータも、飲んでる船員とゲイラーもソルドレイクを見た。
ワインをまた飲んだソルドレイクは、ポリアなどの黙った視線に気づくと。 バロンズコートを纏う身を張り。
「なんじゃ、嘘だと思うのか? わしゃ生まれも育ちも漁民の中で、10歳の頃から親の代わりに魚とりをしとった。 生まれてこの方、船員時代も入れて、昼や夜の食事に事欠いた事は無いぞ。 魚の確保など、勉強より簡単なんじゃ」
ポリアは・・そんなソルドレイクに。
「教えてあげたら? 死ぬ前に、また名が馳せるわよ」
「あ?」
と、見つめ合うソルドレイクとポリア。
ポリアが何を云わんとしているのか・・・。 そして求められた意味を理解したソルドレイクは、年甲斐に無く顔を赤くさせ。。
「なぁ・なぁ~にを云うんじゃ。 今更に、魚とりなんぞ誰が指南するかいな」
「でも、船を狙われるよりマシじゃない?」
ソルドレイクは眠いと大欠伸をしてみせ、
「馬鹿馬鹿しい。 年寄りをコキ使うんじゃないわい」
と、デッキに向う。
もう寝ようとするポリアだが。
「キャプテン、子供3人と赤ちゃんを一時匿うわ。 迷惑掛けるけど、ごめんなさいね」
「フン、若いと物好きじゃわい。 好きにしたらいいがぁ」
そして、夜が更けた。
それから2日。 島でモンスターを退治したポリアは鉱石を得て。 4日目に、島の実情や鉱山の運用状態を見た若い役人と共にジンボプノに戻った。 日数からして、20日前後の日にちが経過したが、相手に覚られずして話が進んだのだから、電光石火の早業だったのかもしれない。
深夜にも関わらず、戻ったその日にリドニックに会い。 実情を見た若い役人と一緒に、島の現状を事細かく話したポリア。 休憩を挟んだ次の日の夜には、仕事を回した商人達と取引をすると云った。
ポリアの速やか過ぎる行動に感服したリドニックだが・・。
「気持ちは解るのだが、もう不正が解っているんだから、僕が何とかするよ」
と、彼は言う。
「そんな甘い話じゃないわ。 正式な不正を証明出来るチャンスを見逃す気ぃ?」
ポリアの強気な態度に、リドニックはやや困惑気味の様子である。
ポリアは其処で読めた。 大臣や役人の間で、口裏を合わせて不正を表面化させない、覆い代わりの不正な金や権力の流れが有ると。
「今回は表面化させて、私はこの採掘権を貰うわ。 100万シフォンぐらいで十分でしょ?」
と、云う思っても見ない申し出も在り、何度も驚いたリドニックだった・・・。
不正を切るべく、ポリアは次の日の夜に取引をした。 その次の日の昼には、島の長が書いたとは思えないサインの書類が商人や資産家たちから出された。 実情を全て知る役人の目の前で出された書類だ、掴まった彼等も云い逃れの利かない不正な書類である。 言い訳など、全てが宙に浮いた。
罪は白日の下で明らかに成った。 それから3日後、ポリアを呼び出したリドニックの申し入れで、和解をして欲しいと成った。 真面目な取引などする気が無いのは明白で、無償で採掘権の放棄と巨額の違反金を支払う事で刑罰が決まっていた。 資産を大幅に削られるのだ、投獄などは無駄とリドニックが判断したのである。
ポリアは不思議で、後処理の面倒臭さと云うより柵が残るのを嫌がる。 Kに託された貴金物や、これまでに冒険で見つけた金目の物は、全て換金して銀行に預けてある。 その金を時折に使い、人助けをするのだ。 ポリアは、即金で金貨の100万シフォンを出して、その採掘権を買い取った。 いや・・、売り手も全く決まらないのに、商人でも無いポリアが買い取ってどうなるのか・・・。
この商人や資産家とは、国が取引をしないと云う罰則まで聞いたポリアは、金で逃げたと苛立つ仲間を抑えて話し合いに了承した。 問題は、島の民の方が深刻なのだ。 バカに関わるだけ、日数の無駄と思ったのである。
採掘権を持った事を、イルガやマルヴェリータは心配した。 しかし、商人と面識が無い訳でもない。 自分の国を含め、コレまでの仕事で色々と商人と知り合う機会が多かった。 それに、リオンなど王子やら、その他貴族としての伝も在る。 国許に帰りさえすれば、自分と同じ学習院を卒業した堅実な女性の商人とも面識が在った。 採掘をする鉱夫や長と、求める商人を直接的に結び付けようかと思案をするポリアだった。
下らない決着だが、違反金を支払うというその一連の決着を見た日。 仕事の引き受けからして、半月過ぎ後である。
「お、只の仕事を、面倒にまでデッカくしたチームがきやがったな」
ポリア達が斡旋所に入ると、野太い声でそんな言葉が聞こえて来る。
一同がカウンターの方に向けば、其処には見慣れない中年男性が居た。 長めの髪を四方へ伸ばし、クセの有りそうな顔だが渋みの有るイイ男である。
屯組に居座るフォーカが、奥の席より。
「やっぱり、何か不正が在ったみたいだ。 あんた等に悪態を付いたマスターは、更迭と云う形で掴まったよ。 んで、新しく来たマスターさ」
思ったより冒険者の数も少ない中で、ポリアは新しい主に近寄り。
「大事にしてごめんなさい。 忙しいから、手続きを早くして」
新しい主にしては、冷めた釣れない態度である。 二の次に放つ毒舌も空振りしそうで、
「ん、解ってるさ」
と、素直に仕事の清算へと入った。 一応、前任からこの話は受けていたからだ。
其処に、地元の冒険者であるフォーカが近寄ってきた。
「ご活躍だが、気を付けろポリア。 商人の家族が、御宅達の事を悪く言い触らしてる」
やや憔悴した様子のポリアで。
「解ってるわよ。 もう、火の粉は降りかかってる」
「かぁ・・、マジかよ。 金の支払いは渋るクセに、テメエ達のプライドを傷付けられると手が早いな」
寄って来たフォーカに、ポリアは緩やかな笑みを見せ。
「近付くと大変よ。 命を狙われるかも・・」
“憎しみの炎は、消火するのも大変だ”、と思うフォーカは。
「命有ってのモノダネ・・・かね」
と、云えば。
普段とは目付きが違うゲイラーが。
「そうだな。 部外者だから、巻き込まれる必用も無いぞ」
こう云った。
この二日、ポリアは命を狙われた。 毒の塗られた短剣を持った刺客に襲われたが始めに、毒の入った飲み物でも狙われた。 犯人には逃げられた。 採掘権と多額の賠償金を支払うハメに成った商人の誰かが、怒りに任せて殺し屋を雇ったのだろう。
もう何度か経験済みだが、命を狙われる恐怖や緊張感は慣れるものでは無い。 目当てはポリア一人らしいが、仲間達に走る緊張感も普通では無かった。
しかし、この火の粉は、後から意外な方面から払われる。 アリンバから、その毒物の出所が明らかにされる。 アリンバの親交の中には、黒い闇社会の者も入っていた。 商人の不正を暴いて、島の島民を救うポリアを、自分の教えた薬草の知識で暗殺などされたくはない。 しかも、暗殺を請け負った側は、ポリアが採掘権を独り占めしようと企む悪党冒険者だと吹き込まれていた。 ポリアも知らぬ間で、闇の蠢く濁流が渦巻いた。
一方。
その経緯が起こり始める事も知らないポリアはまた、漁に遣う網などを安く買い付けてカカンタタ諸島に戻った。 島の長と会い、話し合いを重ねる為だ。
ポリアの考案を伝える為に、先ずは・・と採掘権の3分の一を島の長へと譲った上で。 鉱石の売買を仲買の様な商人を通さずに、島の鉱夫達と買い付ける商人で直取引しないか・・と提案してみた。
話し合いに、鉱山で働く鉱夫達も呼んだ。 自分達で命懸けで掘る鉱石の売買を巡っての仕様の激変である。 だが、島から出た事の無い長は、その話に困惑した。
「麗人よ。 わし達は、それこそ昔から働かされるだけの立場に在って、私欲的に自分達の物と鉱山を見た事が無い。 どうあがいても、所詮は国には逆らえぬ。 もし、国から遣せと云われたら、わしは採掘権を護る力が無いのだよ」
と。
だが、公用語を話せる島民からは、ポリアの言う話に賛成が相次いだ。
「島長っ、そんな事で島の未来は無いだよっ!!」
「そうだ。 コッチの剣士が、自分達で掘り、売ってみろと云ってるんだ。 支配される環境を変える為にも、俺達の手で何事もやってみねばさ」
「島長。 俺の家族は、もうギリギリなんだぁ。 早く鉱石を売れる形にせねばさ、子供達が死んじまうだよっ!!!!」
島の住民の思いに、押し潰されそうな島長であり。 ポリアはそんな風に押し付けるなと間に入っていた。 夜遅くまで続く話し合いは、その次の日も激論となった。
島の子供達に一時的な食事の支給をしたので、島長の大きな木造館には、連日の様に子供達が集まって来る。 痩せ細っても、腹が満ちれば子供は遊びたがる。 システィアナやゲイラーやヘルダーが子供達に構われていた。
連日に亘って、悩む島の長と鉱夫の続いた話し合いの末。 漸く島の長が新しい生き方を模索してみようと云う事に成った。 先ず、何をすべきかに迷う彼らなのだが・・。 毎日その様子を見つめて来たソルドレイクは、何だかんだと漁業を教える傍らで。
「もし・・。 鉱石を捌くなら、銀行を通すのが一番安心だ。 このポリアは大貴族で換金倉庫も借りられるだろう。 この島からは大都市と云われるニュッケンロが在る、第6に大きい島の半月島ムーンフォーカーが一番近い。 其処で、商人に鉱石を売り買いすると紙の広告でも出せばいい。 質の高い鉱石は、商人から鍛冶屋などと人気が高い。 手数料は銀行に取られるが、騙されない安全な方法だ」
と、教えてくれる。
ポリアも、また。
「それなら、銀行に私の採掘権を預ければ、私が居なくても大丈夫そうね。 鉱石の売買は、銀行を介しての島民に委任と云う形をとって、売買で得られる手数料を倉庫の爵入金と使用量に転化して貰えば事無きだわ」
と、乗り気に成った。
そんなポリアにソルドレイクは目を丸くして。
「おいおい、この採掘権を受け取るのに、100万シフォンも遣ったんだろう? 少しも儲けを貰わずに、利益を島に上げちまうのか?」
100万シフォンと云う莫大な金に、島民の鉱夫達ですら腰を抜かす者も居た。 島の長も、開いた口が塞がらなかった。 まさか、こんな島の為に家財を使う者が居るのかと驚いたのだ。
だが・・、ポリアは金と云う生き物を知っている。 欲っして私物化したら、これほどに万物に見えながら身を滅ぼす物に代わる代物も無いと解っていた。
「いいの。 あのお金はね、私を一人前にしてくれた人から、こうゆう事にでも遣ってくれって預けられたお金なの。 それに、島に教育施設を施したり、モンスターで負った負債を取り戻すにも、元手が必要に成るわ。 島の人たちの仕事で得たお金が、島の人に足りないものを補える力に成るなら、その方がいい。 こんな莫大な富を生み出す力が在るのに、ほんの一部の人しか幸せに出来ないなんて使い方が悪い所為なのよ」
すると、ソルドレイクが腕組みして。
「本気で云ってるのか?」
と、ポリアを見直した。 欲が無いにも、程が在ると思う。
すると、ポリアも見返し、その真っ直ぐな瞳でソルドレイクの双眸を見抜き。
「私は、・・。 ううん、私達は自分の生活は切り開ける。 でも、その力は私達だけのものじゃない。 剣一つ、装備一つだって自前で全てを生み出した訳じゃないし、知恵だって他人から教えられて来たわ。 還元すべき元に、物は還るべき。 鉱石を掘る側、鉱石を買い運ぶ側、その鉱石から何かを生み出す側、利益が正しく回るのはこの辺だと思う。 私の懐に来ても、何も動かないわ。 人の生き血を啜ってまで大金なんか要らないし、子供が人の業で死んでゆくのは見たくも、知りたくもない」
船に盗みに来た3人の子供を、船乗りとして育てる為に船に乗せているポリア。 島の民で、船乗りになりたいと来た若者二人をその面倒見にして、自分たちの代わりに後見人として頼まれたソルドレイクは、ポリアの冒険者として心構えが達人の域に踏み込んでいると察し始めた。
(この小娘・・、有名になるだけあらぁ。 肝っ玉も据わってやがるが、それ以上に人間が出来てやがるゼ)
そう思うソルドレイクの眼に映る麗人は、子供達を一目見てから微笑み。
「ま、それに・・、これでも生きて行くお金ぐらいは稼ぐ伝だって無い訳じゃないのよ。 冒険者は、冒険をする事にだけは純粋であるべき。 お金や物欲に執着するのは、その信念に反すると思うの」
すると、近くで子供達と遊んでいたシスティアナが。
「ポリしゃんカッコいいですぅぅ~~~~~。 “信念に反しますのですぅ~~~”」
と、急に胸を張って言えば。
「うんうん、その通りだ。 システィが云うなら、その通りだ・・・」
と、頻りに頷くでっかい男が、肩や膝に珍しがって寄って来た子供達を乗せて云う。
シダの木で組まれた安楽椅子の様な寝そべる寝具に座るマルヴェリータも、
「まぁ・・、御化粧代や服代は稼いでるし・・。 お金貢がれても、魔力や魔法が使いこなせる訳でもないしねぇ。 子供が笑ってお腹を満たせるなら、その方が先だわ。 若しかしたら、イイ男に育つかもしれないしねぇ」
変わり者を見る様なソルドレイクだが、ポリア達にその言葉が嘘偽りと思えるフシも見えない。
「・・・魂の据わった大馬鹿も居たモンだな・・。 だが、只の有名な冒険者を乗せるより、お前の方がずっと名誉だぜ」
と、云って島の長を見ながら。
「この島の一件は、俺が後々まで預かった。 相談にも乗るし、船なんかの事は手配してやる。 島の民が有る程度は自立出来るまで、この命が尽きるまで面倒見ようさ。 久しぶりに、やる気が湧いてきた」
貧困と権力に潰されそうに成っていたこの島は、文字通りにポリアの行動に促されて生きる活気を取り戻してゆく。 苦労は多いだろうが、生きて前に進むのに障壁や尽力を尽くすのは当たり前である。 その大変さを感じながら、新たな生き方を模索するその手助けに成れば・・もうポリア達に求むものは無い。 それより、新たなる冒険や、違う仕事との出会いの方が重要なのだ。
島で育つ芋を煮詰めて、発酵させた酒が有る。 話が決まったと思うポリアは、仲間達とソルドレイクを一緒に、酒を堪能した。 物々交換でそのお酒を貰い、船に戻って飲んだ。
酔っ払う一同のなか、歳も関係なく大酒を平らげるソルドレイクが、ポリアに尋ねた。
「処で、残る所有の採掘権をどうするよ」
ポリアが採掘権を全て手放さなかったのは、鉱石の採掘や売買を一任した後、その様子を大きく変更するには、その採掘権を持った者の確認が必要と有るからだ。 もし、誰かが採掘権を独占しようとしても、島民以外の誰かあるなら、それはポリアの確認を取る必要が出て来る。 つまり、悪い手に採掘権が全て亘らない様にした訳だ。
朝まで飲み通したポリアは、仲間と水平線の彼方を昇る朝陽を眺めた。 まだ、もう一仕事が残っていると。
どうも、騎龍です^^
ポリア編の序章的な触りを書くだけで3話も遣ってしまいました。 これも話にすればよかったか・・。 でも、ポリア編だけで30話以上も続けるのも大変だぁ・・。
ご愛読、有難うございます^人^