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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
197/222

ポリア東の大陸編 モッカグルにて 2

                  ポリアンヌ物語~冒険者の眼力編



                 ~東の大陸へ・大冒険の始まり・続き~




「全員っ、敬礼っ!!」


船内の大広間。 船員達が休んだり、皆で食事をしたりする場所である。 夜になった今、ポリア達とソルドレイク船長が食事をするのだが・・。 何故か船員達が立ち並んで、船員特有の敬礼をして固まっている。


コーンの粉が良く溶けたスープや、スパイシーな匂いが湯気と共に香る肉の焼けた塊を前にするポリアだが・・。


「あの・・・、何で敬礼してる訳?」


広間の中央で、丸で招待を受けた貴族が支給を受けて食事をする様で。


ワインに詳しい船員が、これまた年代物のワインを披露しながら。


「我々、ポリアさんご一行に感謝と敬意を表するのでありまーーーーーす。 初めての今夜は、どうぞ支給を受けて頂きたぁぁーーーーーーーいです」


その様子を見てニヤニヤするのは、何故かソルドレイク船長。 船員がポリア達を信用したのだと、その姿を黙認である。


夕方。 あのモンスターの大群を殲滅したポリア達。 甲板を大きく動いて、近付くアブのモンスターを片っ端から斬って倒すゲイラーとヘルダーが驚くべきなら。 鯨の群れを追い掛けるモンスターの群れを、魔法と風の力で蹴散らかした美女二人は、船員達一同からして驚愕ものであった。 顔が良いポリアとマルヴェリータだけに、その実力は大した事無いと舐めていたらしい。


また、その実力を見て無かったアリンバも、ソルドレイクも、フォーカも、だ。 その戦いが終わった後に、異病が発生しないようにと船員と一緒に、モンスターの死骸を海に捨てるポリア達の行動や心意気に驚いて。 また、改めてその力量と冒険者としての質の高さを確信した。


船員達は、“清渋汁”と云う洗浄剤に当る消毒液を使い、臭い匂いを我慢しながらその後の処理までしたのだが・・・。


大群のモンスターを追い返す力を持った冒険者の出現に、彼らも見る目を改める意味と、頼る気満々でゴマ擂りを始めた形である。



また。 鯨は、この島国では古くからの貴重な資源である。 迷って死ぬ鯨や、元気な雄の鯨は住民の胃袋を満たす食料であり。 その体内から取れる油は、香水や燃料や薬にも成る。


島国ながら広大な海を持つモッカグルでは、鯨は食料でありながらも、勝つのが至難で、その強さや大きさや存在価値から敬意も持っている。 鯨の子供は、飢餓が起こらない限りは狩猟してはならず。 子持ちの鯨は、規制の対象に成る。 毎年、泳いでゆく鯨に船上から祈りを捧げて見送る祭りなどもある。


鯨と共に生きる文化が、この島々には根付いていた。 文化的に進む水の国では、鯨などは眺めるもので食べるものではないという認識で。 一部の貴族では、モッカグルを見下す様な思想も在るとか。


だが、個々の国で育つ文化が在り、他国の文化を押し付けるのは、それが一つの洗脳・威圧・横暴である。 鯨の骨見まで残さず、全てを敬意を持って利用するモッカグルの民。 その魂は、国の至る所に溢れていた。


船員達は、モンスターの排除以外にも、そうした精神も持ち合わせてポリア達を持て成したのである。 鯨の群れが無事に逃げた事を、何故か非常に喜んだ船員達。 漁業も生活の一部であるこの島国の民は、恵みを齎す大型の生き物を敬っていたのだろう。


さて。 次の日。


鬱蒼と茂る森が、丸で島に生えた髪の毛の様になっている諸島群へと遣ってきた。 モンスターの排除・殲滅を確実にこなすポリア達。 怪我人を出さない事が最重要視の課題だった。


アブのモンスターより、小さな小さな肉食のブヨなども脅威で。 強酸を吐く大蛇、毒を毛鉤として飛ばす蜘蛛、海から海面近くの島に動く物を喰って掛かる鰯のモンスターなど。 初めて見るモンスターが多いのも特徴的であった。


採取は非常に迅速な形で進んだ。 倒したモンスターの体の一部で、売れば金に成る部位をフォーカやアリンバが教えてくれたし。 街に不足しがちな薬草の過分採取に、ソルドレイクが船員を貸してまで応じた。 ここ数年、モンスターの増加や凶暴化で採取が出来なかった分を取り返す量が採れた。


3日後。 アリンバとフォーカを携えたポリア達一行が、過分に採ったモンスターの部位などを馬車一つに乗せて斡旋所へと報告に入った。


危険度が高く、報酬が低く、成功させるのに幾つもの課題が在る難易度の高い一般依頼を、すんなりと成功させたポリア達。 フォーカが生き証人として、ポリア達の実績を言う最中。 報告をして、報酬を受け取るポリアは、主にオークションの許可を1500シフォンで申請した。


「・・・解った」


オークションへと冒険者の持ちこむ物品を、盗品や拾得物ではなく、冒険の中で取得したものとお墨付きを与える書面を作成するのも主の仕事。 反論も出来ないぐらいにすんなりとして退けられた手前、この書面を拒む理由が見当たらない。 ポリア達の持って来た物品には、依頼要望の中にその物品が含まれるものも在る。 だが、図々しく求めるのも憚れるほどに、これまたポリア達を罵った主だ。 流石に、その仕事を成功確定で回すのもプライドに差し障る。


主が証明書を書く時、アリンバが。


「ちょいと、アンタ」


「ん? なんだい、婆さん」


「こっちの冒険者採取したブツに、他の仕事の依頼と被るヤツは無いのかい? 危ない橋を何度も渡らせるより、この期に解決出来る依頼は消化した方がいいだろう? カルハラから主の座を掠め取った以上、その仕事はしっかりおやり。 アンタの自尊心で、冒険者を多重に危険へ晒すのは罪だ」


アリンバに内心を見透かされた形で言われた主で、顔を見る見ると怒り顔に変える。


「うるさいっ!!! そんな事はこっちが考えるべき事だっ!!!!!」


館中に響く物凄い声で怒鳴り散らす主。


怒鳴り声を受けたアリンバは、他所を向きながら首を傾げ。


「アンタは主に向かないね」


と。


その一言に、ムラムラと湧き上がる更なる怒りを顔に表せた主。


だが、フォーカが。


「マスター、アリンバの婆さんだけには怒らない方がいい」


と、止めに入った。


だが、アリンバが何者なのか、そんな事は知ったことでは無い主で。


「ウルセェっ!!!」


と、更に苛立って怒鳴り。 丸で書き殴る様に書類へと文字を打ちつけた。


すると。


「やっぱり、大した引継ぎも受けずに奪った話はマジだったみたいだな・・。 マスター、アリンバの婆さんは、今のアハフの首領のラフティーと冒険した仲間なんだぞ。 意味、解るか?」


フォーカが云う間、アリンバは許可書を取って見て不備が無いのを見定めると。


「ポリア。 ホラ、これを持って出な。 オークションの主催者に、アタシが引き合わせよう。 こんな下らない言い合いに、無駄な時間を使うもんじゃない」


150歳を超えたアリンバの一言に、ポリアはこの後の展開が心配で困る。


「でも・・」


「あぁ、いい、いい」


アリンバに追い出される様にして、外に出たポリア達だった・・。


さて。 ポリア達が追い出される様に外へ出た後である。


苛立ちが収まらないマスターが、居残るフォーカへ。


「フォーカっ!! 勝手な入れ知恵をあのポリア達にしたんだろうっ?!!! だからこんなにいい成果が得られたんだっ!!!!」


その物言いと云うか、難癖に呆れるしかないフォーカで。


「バカ云うな。 千匹近いあのフライヤーの群れを殲滅して、島のモンスターを的確に潰せるなんて、俺やアリンバの婆さんの指摘だけで上手く行くかよ。 薬草の指南や、金に成りそうなモンスターの部位の指摘はしたが、仕事の解決は彼らがしたんだ。 駆け出しの奴等が束になっても、彼らみたいな成果は出せないね」


「むむむ・・」


「それより、早く言い訳でも考えなよ。 アリンバの婆さんが本気になったら、御宅はその首を取られるよ」


「なっ・何だとぉっ?!」


「マスター、・・やっぱりアンタは先任者のカルハラさんの事を良く知らないんだな」


「あ?」


「前のマスターのカルハラさんはな、薬師としてのアリンバ婆さんの弟子なんだ。 アリンバの婆さんは、今のアハフ自治領の首領となってるラフティーの仲間だった一人だぞ」


フォーカの言っている意味が良く解ってない主だ。


だが、周りの冒険者達から、声が上がる。


「おいおい、ラフティーさまって、冒険者協力会の最高指導者だよな?」


「あっ、“セイントライダース”のリーダーだった・・、聖なる剣士ラフティーだっ!!!!」


「おいおい、ラフティーって、あの剣神皇エルオレウや、斬鬼帝ハレイシュと並ぶ四剣10傑って呼ばれた凄腕の一人じゃないかっ!!! アハフ自治領の主って、今はラフティーなのかよ」


「えーー、知らなかったのぉ? うわぁ、冒険者の無知ヤロー」


「おいおい、アリンバの婆さんて、若しかして嘗ての凄腕か?」


やり上がる声に、主の男は顔を青褪める。 末端の斡旋所の主の交代は、引き継ぎによってその入れ替わりが行われる。 冒険者協力会の誰かが立ち会うなどは、基本的には無い。 それは、就任した主の違反には、厳しい罰則が在るからだ。 違反は何処からともなく明らかに成るのだ。


これまでもいい加減な仕事回しをした事が在ると思うフォーカは、意味を理解し始めている主に。


「アンタ、前々からおかしいって思ってたが。 本当に交替で主に成ったのか? アリンバの婆さんや、周りから異論が出たら掴まるぞ。 いや・・」


そこまで云って、何でアリンバが何も詮索せずに出て行ったのか・・。 フォーカは、それが気に成ってドアの方を見た。




4日後。




オークションで稼いだポリア達は、この島とその周辺の名勝を見て観光をした。 8つ在る神殿寺院を見て周り。 リング状の島に、喫水湖を中央に持つ場所にて。 変わった色とりどりの魚の大群が見えるとソルドレイクに教えられ、彼の船で見て回る。


その“サークル・オッパー”と云う島にて。


ソルドレイク船長と船員数名が降りた。 島の中央に在る喫水湖に泳ぐ魚を、転売目的から売ってもらう為にだ。


鮒の仲間で、ヒラヒラと靡く鰭を持ち、その鰭がカラフルで美しいのが特徴のキュラキュラと云う魚がいる。 人工的な池や噴水水槽で飼われるのに好まれる魚で、非常に適応能力と生存年数が高いのが特徴だ。 ポリアもこの魚の事は知っていて、安めな宝石と対価と成る魚として有名だった。 ま、食用には適さない苦味が在るので、然程に興味は無かった。




                          ★




のんびりと観光をしたポリア達だが、5日も過ぎると冒険が恋しくなり。 何か仕事でもしようと、この街で最後の一仕事をしようと思う。 あの報告の時以来に斡旋所へ行けば。


「・・おう、お前達か」


と、気力の萎えた様子の主が居て。


(どうしたのかしら・・)


(さぁ)


ポリアとマルヴェリータが言い合う。


ゲイラーが、イルガに。


「何か・・在ったみたいだな」


「ふむ、まぁ我々には関係ないと思うのに限る」


だが、前の薬草採取の大成功に合わせ、他の冒険者が面子の売り込みに躍起になってきた。 そのうざったい中で、次にポリアが請けた仕事は・・。


“諸島の南方に山の在る島にて、鉱山にモンスターが出現。 掘り出した鉄鉱石の回収が滞っており、冒険者の助力を求む”


モンスターの排除と鉱石運搬の護衛をしろと云う仕事で、その内容は冒険者の為に在る様な内容だった。 だが、その報酬は1000シフォンであり。 危険手当や追加報酬の成功歩合報酬と含めても、最高が1800。 モンスターの危険や生活費諸々を考えると、どうも旨みはない感じがした。


だが・・。 内容を読み込むと、これがまた変わった仕事だった。


*その島に渡るまでの手段も自前調達。


*仕事の話を、指定する現地の鉱山開発の責任者に伝え、内容の快諾を得てから仕事をして欲しい。 但し、島の者に伝えるな。


*持ち出した鉱石は、全てこの島にまで運び出して欲しい。 その過程で生じる諍いや障害は、全て冒険者側で責任を持って排除されたし。


この3か条が原則なのだ。


丸で強盗にでも行けとばかりの内容に、ポリアは非常に不安を感じた。


「マスター、この条件っておかしくない?」


力の無い様子ながら、マスターも。


「あぁ・・、俺もこの仕事を回す気が持てない。 丸で密輸か、鉱石の横取りみたいだからな。 役人の手が伸びそうで、破棄したい事案だ」


主のやる気ない様子を見るマルヴェリータやイルガは、頼りないと呆れる。


だが、その書面を見ていたポリアは・・。


「マスター、私ね。 この国の自然管理を与る大臣さんとだけは面識が深いの。 この仕事、請けさせてくれない? そっちに話を通して、やってみたいわ」


「はぁ? おいおい、大臣と面識って・・・」


此処まで云ってから、ポリアの素性を朧気に思い出す主で。


「・・あぁ。 そういやぁ・・・ポリアは貴族だったか」


「まぁね。 他に伝は無いけど、まぁ鉱山の管理もその辺でしょ? 役人に掛け合って、一つ一つ話を上げて行くのもいいけれど、これは早い方がいいと思うの。 迷惑はコッチ持ちでいいわ」


「そうか。 まぁ、遣ってみたらいい」


主がこう解釈し、仕事を請けさせてくれた。


ポリアの読みは、遠からずに当っていた。 鉱山は、開発を受け持つ者のさじ加減で、携わる者への報酬が決まる。 その辺で話が拗れたのではないか・・と云う読みが、半分当っていたのである。


この国の自然管理を任された大臣は、有力な貴族のソロノダッチワーク家である。 海底で取れる宝石の採掘権利を王家から委託されてきた一族で、その財力の高さから外交官としても働いていた。 毎年、年末年始になると、この一族の次期当主一家がポリアの父親と王家に、一族と国を代表した者として挨拶をしに滞在してくる。


今のこの大臣をするのは、第86代ソロノダッチワーク家の当主で、リドニック・ケンルシャー・ソロノダッチワークと云う人物だ。 恩年まだ43歳。 当主に就任したのは、8年前である。


だが、この人物とポリアの縁は、非常に深い。


この島の管理部局に話を通したポリアは、とにかくリドニックと面会したいと申し出る。 夕方にやってきたポリア達で、もう今日の仕事を終りにしようとしていた職員の役人は嫌々だった。


が。


夕暮れ時になると、長い車体の貴族しか乗れなそうな黒塗りの豪華な馬車が迎えに来た。 しかも、リドニックの周りを仕切る執事付きで、である。


この執事は非常に事務的ながら、リドニックに対する忠義心は悪魔に近いものが有る。 その節度や礼節を守らせる強さと、周りの者に対する厳しさも並々成らない。 そんな執事が迎えに上がったのだから、職員一同もポリア達が出るまで立ち並んで一礼をせねば成らない訳で・・。 ポリア達仲間一同が馬車に乗るまで、頭を下げたままに外で見送りをした。


この島の東方には、有力な貴族だけが住む事を許された土地が有る。 高台に在り、暴風、高潮の護りも万全な場所に在る。


その区域の中でも、一番大きな土地の屋敷へと連れて行かれた一向。


屋敷でポリア一行を出迎えたのは、長身の何とも落ち着いた雰囲気を持つ紳士だった。 赤いナイトガウンを羽織りながら、柔かいブラウンカラーの髪を正しく整え、青い瞳が魅力的な人物である。


「あら・・、まぁ」


と、マルヴェリータが抑えきれずに一声。


「ん~、貴族に多い良い男ってヤツか」


と、唸るゲイラー。


そんな仲間の手前ながら、スッと腰を降ろしてポリアに膝を折る紳士。


「これはこれは、遠い所までご足労をポリアンヌ様。 あれから10年は経つと云うのに、また一段とお美しくなられて」


微笑むポリアは普段と変わりなく。


「久しぶりね、リドニック殿。 私と見合いした頃より、凄く大人に成ったみたい」


イルガ以外の一同は、その話に目を見張る。


さて・・。


屋敷の中で、ポリアは話を早くに切り出した。 金髪で若々しい幼な妻の様なリドニックの奥さんが、ポリアと密やかな話が在ると聞いて困惑をしたのだが。 だが、二人きりで話し合いに入ると・・。


「リドニック殿、昔の懐かしい話はまた今度に。 実は、コレを見て欲しいの」


と、仕事の依頼が書かれた紙切れを渡す。


「・・・」


内容に目を通すリドニックは直に。


「可笑しいな。 あの島の鉱山発掘権は、厳正な入札と規則保持の契約を決めた手前で、数名の資産家や商人へと分配されたのだが・・。 しかも、鉱石を持ち出す前に、相応の賃金や報酬を渡す決まりも在るはずなのだが・・、可笑しい」


「やっぱり、変なのね。 ね、私達がこの仕事を請けたの。 誰か、この手の内情に詳しい人を、密かに回してくれない? 命の補償は、私達一同が全力で護るわ。 不正絡みなら、早く炙りだして挙げないと働く人が可哀想だわ」


ポリアを見るリドニックは、何とも驚く様に目を丸くして。


「はぁ・・、しかし宜しいので? これは、こちら側の仕事だと思いますが・・」


「と云うか、その段取りを組んで、潜入とかする手間を掛けられるまでに、どれぐらいの期間と労力が必要な訳?」


「・・・ふむ。 不正現場を取り押さえてしまえば・・、確かに迅速で手間も要らずに楽ですな」


「そ。 その囮を私達がやるから、目撃証人でその手に精通した役人が一人二人居れば話が早いでしょ?」


「・・・ふむ。 だが、危険ではないのかな」


相手の生っちょろい言葉を聞いたポリアは、


「ねぇ。 私の今の生き方、貴方みたいな人なら耳に入ってるとおもうけど?」


「あ、あぁ。 冒険者に成ったと・・」


「悪いけど、お金や地位で仕事を買ってる訳じゃないのよ。 モンスターとも戦うし、時には権力者に脅される事も在るわ。 これぐらいの危険、なんてこと無いわ」


小ぢんまりとした応接室の隣室で、ソファーの背凭れの縁に腰を下ろすポリア。 大人びた美人だが、その頬には薄っすらと薬草採取で付いた生傷の痕が覗える。 剣士として貫禄も出て来た彼女を、真っ直ぐに見るリドニック王爵(王族の特別貴族に当る称号)はやや俯き。


(随分と・・遠い場所に行ってしまったな)


と・・・思った。




次の日



王爵リドニックの誘いも断り、一般の宿に戻って一夜を明かしたポリア。 朝からソルドレイク船長にワインの土産付きで面会し、少々の間に船を借りたいとの申し入れをした。


昼には、若々しい青年で、リドニックの回した高官役人のコリアスを従えて出港した。 午前中に何も知らない様子を見せて依頼主の奇妙な男達と面会した大胆さといい、昼過ぎには出港した速さといい。 無駄が無い以上に、余計な事を嗅ぎ回れる前にして退けるには最高だった。


4日の船旅で、中継地の島に着き。 一泊を置いて、更に南方へ。


計7日後に、鉱山が掘られている山を持つ島に入った。 カカンタタ諸島と呼ばれる南方諸島。 島々の殆どが地面や岩肌むき出しの山ばかりで、地面むき出しの山は広大な芋畑にされており。 岩肌の山は、その中身を採掘されていた。


鉱山が集中している岩山の島に渡ったポリア達だが、その島に住む鉱夫の家族を含めて様子に驚いた。 飢餓に苦しむ島民達が、無理やりに漁業や痩せた土地で育ち切らない農業をして暮していた。


「何・・この状況・・・」


驚くポリアの後ろで、仲間も痩せた子供達が港で海藻を乾かしているのを見て眉間にシワを寄せていた。 背中に元気の無い赤子を背負う者も居て、ちょっと現状の過酷さに想像が付いていかなかった。


島の波止場にて、降りたポリア達と共に一緒に降りた若者の役人も。


「うわ・・、これが人の暮す場所ですか?」


と、漏らしたほどだ。


「ん~~、20年前に立ち寄った頃は、結構活気付いた集落だった記憶が在るんだがなぁ~~。 これが末路か?」


この島に来た記憶を唯一に持つソルドレイクが、変わり果てた様子をこう嘆いて居た。


島に入って。 見る人見る人に怪しまれつつ人を尋ね、鉱夫を束ねる島の長を訪ねてみてその内情がわかった。


真っ黒い肌のガリガリに痩せた老人が、ポリア達を迎えて話を交わしてくれた。


「冒険者が来たと聞いて、また鉱石を奪われると思うたよ。 見ての通り、鉱石を買う気の無い商人や資産家は、度々に渡って嘘を云いながら鉱石を持ち出した。 その御蔭で、交易船から物が買えなくなってな。 今は、立ち寄りもしなくなった。 私らに金が無いからじゃ」


「お爺さん、鉱石の売買は行われてないのね?」


「あぁ。 一月前、また持ち運びに遣ってきた奴等の手下を、ワシ達が追い出したんだ。 滞った支払いをするまで、鉱石は渡さないと・・な」


この話に、ポリアは同行してきたコリアスに。


「ねぇ、この支払いが滞ってる間の、鉱石の売買の調べって出来るの?」


若い役人コリアスは、こう聞かれて考え込み。


「調べるだけなら、まぁ可能です。 でも、鉱石売買の証書も提出しての事でしょうから、多分は偽造の証明書が作られているのだと思います。 サインで棲むものですから、偽造を証明するのは難しいですね。 暴くのに一番簡単な方法としてはですね、此方で一度鉱石を持ちこんで、ニセの証明書を届けさせて、其処で嘘を見抜くしか・・。 この状況を本部に伝えても、遣った遣ってないの言い合いで終わりますよ」


困ったポリアで、こう成っては・・と老人の長に。


「こんな状況でこう云うのも辛いんだけど・・・お爺さん、一つ二つでいいから、採取された鉱石はないかしら。 袋一つ只の石でも、見せかけで一つ二つの本物があれば誤魔化せると思うの。 私達の目の前で、嘘の届けが出されたと証明されれば、鉱山の所有者を新しく出来るわ」


だが、老人は。


「お若い麗人さん、それは止めた方がいい。 あいつ等は、な、見る目は確かな商人達だ。 鉱石の一つや二つが本物でも、袋を受け取った時点で偽物と解ってしまうよ。 何せ、資産家の代理人をしているのは、嘗てはこの鉱石採掘場に出入りしていた、鉱物の含有量を見定める鑑定をしていた下働きなんだよ」


「そうなの・・、難しい事に成ったわね」


「いや、御宅達が鉱石を採れる現場まで行ってくれるなら、採掘は出来るぞ」


「でも、今の状況で、鉱夫の人が協力してくれるかしら」


「一回だけなら、ワシが説得する。 問題は、鉱山の坑道に湧いたモンスターだよ」


そうと解れば・・行動は一つ。 ポリアは仲間に、


「明日から、鉱山に湧いたモンスターを退治するわ。 結構大変な作業になると思うけど、頑張りましょう」


ゲイラーは文句もなく。


「これが冒険者の本質だからな、モンスターの退治は問題ない」


ヘルダーも同意見。


だが、マルヴェリータは・・。


「ポリア。 でも、後始末はどうするの? 鉱石を持ち運んで不正を暴いても、新しい所有者が同じなら苦労が増えるだけよ」


と、釘を刺す。


また、ポリアも“解ってるわよ”と、流す様な云い方や、かわし方をしない。


「そうね。 その辺はリドニックに強く言わなきゃ。 国がちゃんと管理してれば、此処まで成らなかったし。 それに、冒険者が関われるのは表だけだ、様子を覗う意味でも少し経過を見ておく必要もあるわね」


話し合いを途中に、こうなっては先ずは・・・と依頼主の指定した交渉役の人物を捕まえてみた。 島に移ってきた移民の鉱夫がその交渉役で。 手筈を聞き出せば、やはり鉱石を無断で持ち出す事を言い渡す気だったとか。


この日は、夜遅くまで、島長の老人とコリアスとソルドレイクを含めたポリア達は、深く話し込んだ。

どうも、騎龍です^^


長編にして、小説家の方に保存していた内容が消えてしまったので、随分と間を置いての更新です^^;


ご愛読、有難うございます^人^



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