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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
196/222

ポリア東の大陸編 モッカグルにて

                 ポリアンヌ物語~冒険者の眼力編



                 ~東の大陸へ・大冒険の始まり・前~



                        (序)



外観は八角形の石造建築。 中身は、落ち着いた壁色をした広い応接室のような建物の中で・・。


「はぁ・・、それを私が引き受ければいいの?」


呆れた口調で、類稀な美貌を持つ女剣士が腕組みをした。


「そうだ。 これは、主である私が、お前さんの力量を見定める為に回した仕事と捉えていいぞ」


細面の、ガリガリに痩せている長身の中年男が、四角いカウンターの内側から座ってこう云う。


麗しき美女の剣士ポリアは、


「そんな商人の肩を持った様な仕事を出して、裏が在ったらどうする訳? 金を稼ぐ者が、一概に皆やり手で才高いとは限らないのよ」


と、仕事を冒険者に斡旋する、“通称=斡旋所”(冒険者協力会の運営する仲介所)の主に言った。


すると、そのポリアの背後に少し控えた場所に佇む美女も、また、とろける様な声音で。 


「そうよ。 商人は金に対して、それこそモンスターと同じ執着を持つ者も居るわ。 そんな見切りを付けた一辺倒の依頼を作って、冒険者に回すなんて可笑しいわね」


主がその美女を睨むも、清廉で壮麗なポリアとは対照的な、魅惑的な女らしさに満ち溢れた美女は恐れない。 白い肌、豊満な胸や肉付きの良い下半身、それでいて括れた腰や完璧な比率で伸びる足。 想像の絵に描かれた美女が、そのまま抜け出てきた様な・・。 魔想魔法を扱う、ポリアの仲間の美女マルヴェリータである。


ポリアとマルヴェリータに云われた主は、その眉間に鋭い“険”を浮かべ。


「ならいいぞ。 駆け出しの仕事でも、何でも好きに選べ。 ただし、二度と特別な仕事は回さないからな」


不満ありありの物言いで云われたポリアは、これまたすんなりと。


「そうさせて貰うわ」


と、だけ。


ポリアの仲間であるポリアの従者イルガ、大剣遣いの傭兵戦士ゲイラー、格闘家ヘルダー、あどけない神官のシスティアナは、ポリアとマルヴェリータに付いて動く。 一行は、睨み目を向ける主を無視し、一般依頼の張り紙が貼られている掲示板へと向った。


「ちっきしょうめ、最近の冒険者は名が売れると生意気でいけねぇ~やっ!!!」


怒鳴り散らす主に、困った顔をする周囲の冒険者達。


(おいおい、ポリアって実力が有るチームじゃないのか?)


(さぁ・・、自惚れの次期に入ったんじゃないか?)


(って云うかさ、マスターをマジで怒らすって信じられないよ)


(噂の真実を見たり・・だね)


こんなやり取りが在った。




                    (1)





東の大陸にて。 水の国ウォッシュレールから下に下った所に、二つの国が並んでいる。


先ず。 大陸の中央部で、地続きの真下に在るのが、台地文明王国のオルカカト。 国土の6割が広大な岩山地帯で、残りの4割の内の2割が密林地帯と云う大自然の国だ。 自然の資源も豊かなのだが、モンスターの分布も多く。 北のウォッシュレールや、南の3分家王国とは小高い山一つ分は高い標高に有る隔絶された国なのだ。 水の国、右隣のモッカグル王国とは国交を結んで交易をしているが、南国の3分家の分割王国とは国交が無く。 また、岩山地帯には、土の神竜アースギースが棲む事も在り。 自然信仰が強い無法地帯の亜種人達とも交易が盛んである。


次に。 水の国ウォッシュレールの右下には、諸島と大きな島からなる島国王国のモッカグルが有る。 海抜の低い島が広がる農耕文化が強い王国で、水の国ウォッシュレール、台地文明王国オルカカト、そして海を隔てた北の東方王国と国交を結んで交易をしている。


初回に東の大陸へ来たポリア達は、水の国の国内を回る程度で北の大陸へ戻った。 文化的には、北の大陸が先端を行く。 その空気を感じたポリアは、年末と相俟って短い期間で旅を終えたのだ。


だが。


二回目・・正式には3回目だが。 東の大陸に来た今回は、出来うる限り南下しようとチームで話し合って下ってきた。 広大でありなら、その人が住む場所の少ない台地文明王国オルカカトに向う前に、先に1月ばかりモッカグルに行って見ようと云う事に。 気候も良い春の始まりの時期だから、爽やかな風に流されてモッカグルへと渡って来たのである。


島ばかりのモッカグルだが。 その中でも大都市と云われるニュッケンロが在る、第6に大きい島の半月島ムーンフォーカーに向う冒険者が大半の中。 ポリア達は、モッカグルの入り口となる一番大きな島にある交易都市のジンポブノに向かってみた。


南国風土が漂う街のジンボブノ。 防風林代わりに、浜辺には何列もの高いシダが植わっていて。 強風に負けない家作りの為か、溝を掘った低い土地に建物が密集して建てられている。 港から街に向うと、丸で丘の上から街を見下ろす様な雰囲気か味わえるのが面白い。


もう26歳を迎える直前のポリアは大人の魅力が増し始めて、冒険者の間で奇妙な羨望の色目を使われる事が多く成った。 その噂が先行し過ぎた所為か、この東の大陸を回る旅で奇妙な苦労が絶えない。


ま、一番多いのが。


“腕は直に追い付きますっ!! 仲間に入れてくださいっ!!”


だろうが・・。


他の所を数えるなら、主に多いのが金の儲かる仕事ばかりを回そうとしてきたり。 ちょっと難しい仕事を無理やりに合同依頼にしようとしたり。 商人だの貴族だのが頼む依頼ばかりを薦めて来ようとする。 魂胆が見え見えで、ポリアとどうにかして親しい関係を築こうとする無駄な依頼である。


一方。 冒険者の側にも似た事が云える。 ポリア達と合同チームをしようと画策したり。 ポリア、マルヴェリータと親密に成りたい商人や有力貴族の跡取りが、家に招いて泊まらせようとしたり。 その画策に金で釣られた冒険者が居たり。 ポリア達のチームに加わりたく、業とチームを解体した愚か者までいた。


有名に成ると苦労が増えるのがチームなのだが。 美貌もその拍車に成ってしまうポリアだから、イルガなどは心配が多くて困っていた。


さて・・。


このジンボブノに来て見れば、いきなり紹介されたのが商人を脅す相手を斬って欲しい・・である。 商人と云う生き物を知るマルヴェリータ。 そして、その間近でその裏も表も見てきたポリアは、商人だからと甘い感覚は持たない。 商人が脅される以上、悪人か、怨恨か、で。 悪人相手なら、先ずは兵士なり警察活動をする役人に行くのが普通だ。 話を聞くに、そのどちらかの脅威を感じて、直に金を積んでは冒険者頼みをしようと云うのだ。


“可笑しい”


ポリアも、マルヴェリータも、そう直感した。


このチームの二人が拒否して、モンスター退治でもない限りはゲイラー達も乗り気には成らない。 しかも、“誰を、どんな理由で、どんな危害が在って”、“斬る”のかの詳細が全く無い。 こんな危ない依頼など、誰が好き好んで受けようか。 直接的に手を下す冒険者は、主の薦めだろうが罪は罪で被る事も在る。 後始末は商人がするなどと云う内容だから、益々怪しい。 只、相手が相当な遣い手らしいので、ポリア達に仕事が回ってきたとか。


他人に何と云われようが、チーム名を馳せる為だけに仕事をする様な性格ではないと、ポリアはこの仕事を突っぱねた。




それから・・、一月。




南国風土の島国で、駆け出しの仕事をするポリア達は連戦連勝だった。 諸島を回る薬草採取では、大型の肉食アブの大群を蹴散らしてみせ。 鉱物の採取では、古い坑道の奥まで行き着き、スライム系や死霊系のモンスターを軽くあしらって成功させる。 この二つの仕事は、その取れた量とモンスターに対抗する力量が問われるのだが。 辛くもなんとか・・・などと云う成功ではないので、主も文句が出ない。


先ずは、その話からしよう。




                        ★



「マスター、この仕事を紹介して」


ポリアが険悪なムードの主に差し出したのは、薬草採取の依頼だった。 但し、要注意にモンスター多数の注意書きである。


古くなった黄ばむ紙の依頼書を見た主は、鼻で“フン”と一つ。


「駆け出しでも、もう捨てられたヤマかよ。 今更にやっても、俺が貰った報酬の1200しか払えないゼ?」


涼しげなポリアは、白銀の鎧や剣などの装備以外、上着やズボンの生地が透けた感じの南国作りの涼しげな出で立ちに。


「報酬はそれでいいわ。 それより、こんなに長く放置させてちゃ、依頼人にも悪いでしょ? 1200って、一般人には大金なんだからね」


(フン。 解った様な口を利きやがって・・)


悪態を内心で吐く主は、ぞんざいな態度で仕事の依頼受付を済ませた。


さて。 細い路地と建物が隙間無く填め込まれた街。 それがジンボブノの街。 周囲に風を遮る物が無い為、特定の強い西風が吹く場所に在って、その脅威を避ける為にこうなった。 ムシムシした街中は、地下の風穴を通して来る冷風によって適温に近い温度へと保たれている。 暑い空気より、冷たい空気の方が重いとゆう事を上手く利用している。


半袖、半ズボンが基本のスタイルだが。 女性の服装は様々。 スカーフや、独特の大きな毛糸タオルである布を、被ったり、巻いたりしているのが目立つ。


現に、マルヴェリータがもうシルク地の黒布を買って、頭から被りながら背中を隠していた。


「しっかし、流石に暑い国だな。 日差しの強さが、春の域を超えてる」


大男のゲイラーが、路地の十字路を過ぎた当りで見上げて云えば。


「ゲイラーしゃん、暑いのはオキライですかぁ?」


と、システィアナが聞いてくる。


「いや、嫌いじゃないけどな。 こうもガラリと変わると、身体が付いていかない」


髪が伸びたゲイラーは、炎の大剣を背負う。 過去に、行き擦りで村の村長を助けたお礼に貰った剣だが。 火龍の化石化した鱗である、“火龍琥鱗”(かりゅうこりん)で鍛え直した御蔭で、炎の力が戻りゲイラーに馴染んできた。 今や彼のその剣技は、あのグランディス・レイヴンのリーダーであるサーウェルスと互角と噂されるゲイラーだが。


システィアナが。


「それなぁ~ら、食べ物は好き嫌いしちゃ~~ダメですよぉぉ~~」


と、云うと・・・。


「はいっ、一切いたしませんっ!」


と、直立不動で敬礼をする始末。


それを一々に止まって待つ仲間達は・・。


“もう、慣れろよ”


“恥曝し・・”


と、悩みの種である。


「偉いでしゅ~~」


ゲイラーの手を握って、賛歌するシスティアナ。


「・・・」


ピクリとも動かないデカブツ。


何度も見る光景を眺め、イルガは小声で。


「アヤツ・・、一生あのままか?」


その真横で、首を傾げる無口のヘルダー。


完全に諦めているポリアは、


「システィ、ゲイラー、行くわよ~~」


と、声を掛けた。


が、此処で。


「おーーいっ、チョット待ってくれぇぇ~~~」


と、男の声がする。


人の往来も在る中で、端に寄って一行が待っていると。 40・・・どうか、50歳を超えているかもしれない冒険者風体の人物がポリアの前に止まる。 無精髭が伸びていて、髪の毛はボサボサ。 煙管煙草の愛用者か、歯が黄ばんでいた。 その生まれ持った作りの悪く無い顔をした男性であり。 茶色のボロいマントを背負いながら、上着代わりの皮鎧に、下半身は鉄の部品を持つ具足に膝当てなどを装備した剣士らしいその人物。 装備品は年季の入ったものだと、これまた一目で解る中で。


「はぁ、はぁ、いやいや・・、あんな古い仕事を引き受けるヤツがいるなんて思わなかったゼ」


やや体臭というか、汗と深酒から来るアルコールの臭いがするその男が言う。


云われたポリアは、ゲイラーとシスティアナが近付くのを見ながら。


「そんなに前の依頼なの? でも、マスターは受理したわよ」


少し走っただけなのに、額に汗を浮かべるその男なのだが・・。


「なぁ、俺を雇わないか? この薬草採取を引き受けるなら、それなりに役立つゼ」


ポリアはマルヴェリータを見たし、見られたマルヴェリータは肩を竦めてヘルダーを見る。 そのうち、ゲイラー^とシスティアナも来て、その男は囲まれる形と成った。


イルガは真っ先に。


「何故に御主を雇う必用が在るのだ?」


すると、その歳の食った男性は態度をやや大きくして。


「俺を雇えば、余計な手間を省ける。 前金150、成功で200欲しい」


“ハァ”と溜め息一つしたポリアで在り、その男性の身形を目で確かめながら。


「もう少し、説明をハッキリしてくれない? そんな大まかな交渉されても、意味が解らないわよ」


「あ、まぁ~そうか。 俺は、フォーカって云う。 この街で根降ろしの冒険者やってるんだ。 一匹じゃないんだが、今の時期は仲間が漁業に行っちまって、全く稼げないのさ。 んで、アンタ達の引き請けた仕事の依頼人を知ってる」


コクンとポリアが頷き。


「で?」


すると、相手のフォーカも頷き。


「で、その薬草が在る島までの舟をタダで手配出来る。 ついでに言えば、その必要な薬草の事も熟知してる」


騙されるつもりはさらさら無いマルヴェリータは、その相手を脇目に見ながら。


「そうなの?」


と、問い返して反応を覗おうとし。


ポリア達と組む前から苦労の多いゲイラーは、


(胡散臭い様な・・・)


と、思うのだが。


「ポリアさん、その仕事は確かに旨みは無い。 だが、その仕事の報酬ぐらい、俺は他の薬草なんかで稼げる事も知ってる。 これでも、この島に住み暮して20年以上。 生活の殆どを、薬草採取と簡単なモンスター退治で繋いできた。 最低限度の報酬を貰えば、仲間が戻るまで食い繋げる。 どうか、俺を協力者にして・・くれないか」


両手を合わせ、真面目そうに頼み込んでくるフォーカだった。


納得は出来ると思ったポリアは、少し面を真顔に戻して。


「何で、今更? 貴方が別の人を募って、この仕事を引き請ければ良かったでしょう?」


すると・・、フォーカの顔が焦った様に変わり。


「じょっ・冗談じゃないよ。 この繁殖期の中であの北東の諸島群に行くだなんて、アンタ達みたいなツワモノか、無知な駆け出しぐらいさ」


このフォーカの話に、一同の中で疑問が浮かんだ。 見回す一同の中でイルガがまた代表して。


「フム、それはどうゆう事じゃ? あの注意書きに在った、モンスターの事か?」


「お・おう、そうさ。 この次期はさ、東方王国当りからデッカイ鯨の大群が毎年南下する。 この諸島群は毎年毎年に、海底の高さが海流や地震やモンスターの移動で変わる。 デッカイ鯨はよ、その御蔭で、過去の経験を頼るから変化を知らず、その海底の段差の影響で迷い込んで死ぬのさ。 その死体は、最もその変化の激しい北東の諸島群で打ち上げられるんだが。 その死肉を狙って、アブのモンスターが集団飛来するんだよ。 処があの肉食アブは、これまたモンスターの中でも滅茶苦茶に面倒でな。 駆け出しのヤツラが束に成っても、それこそ何十人といないと撃退なんか出来やしない。 しかも、他のモンスターとも戦わなきゃいけない。 危険度と報酬が吊り合わなくて、放置されたヤマ(仕事)なのさ」


そんな情報は地元に居るマスターなら知ってるだろうと、意地悪の洗礼を受けたと思って呆れた様子のマルヴェリータであり。


「マスターは何も言わなかったわね」


と、ポリアを見る。


すると、フォーカが。


「当然さ。 あの主は、2・3年前に代わった奴で、他国出身だからね」


ポリアはそれでは困るだろうと。


「そんな人が成れる訳? 良く成り立ってるわね? 地元の事も知らずに、地理やモンスターの分布も知らないなんて・・」


「どうして成れたのかは解らない。 前の仕切ってた主は老婆だったのに、コロっと変わったのさ。 ま、その被害はみんなが受けてる。 だが、そこはコッチも長年の年季が在るからな、上手く泳げる奴は俺みたいに泳ぐ。 それも世渡り、冒険者で世界を動ける力量に値しないヤツは、それなりに生き方を変えないとね」


「随分と切り替え早いわね」


ポリアに言われたフォーカは、少し照れを見せ。


「こんな生活を長くやりゃ~そうなるさ。 バカ真面目に冒険者をやれるのは、羽ばたくヤツか、それなりにチームを纏めるヤツだけ。 人間ってのは、お互いに軋轢を産む生き物。 多くがそうなれないと割り切った方がいいって思うね」


さて。 フォーカが自分を売り込んできた大まかな意味が解ったと思うマルヴェリータが。


「で、ポリア・・どうするの? 私は、ポリアに任せる」


イルガも。


「お嬢様にお任せします」


と。


ヘルダーやゲイラーが何も言わないのは、もうポリアに任せると云う答えだ。


そして、システィアナが何も云わずにポリアを見上げるので・・。


「・・・ま、私達が部外者だらけだから、地元の人も頼ってみようか」


と、ポリアが云うと。


「おっ、それはいいねぇ」


と、指を鳴らすフォーカで。


ゲイラーが喜ぶ無精な中年を見て。


「で、先ずはどれからするんだ?」


「おうおう、前金は夕方に宿を紹介するから、そこでいい。 とにかく、アリンバの婆に会わないと」


聞いたポリアが、何処の誰かと。


「アリンバの・・ババ?」


「依頼者の薬師だ。 この島国で一番の古株よ。 最近は滅多に呼ばれないが、数年前まで王様付きの御殿医に薬の処方をお願いされてたんだ。 多分、弟子に仕事の大半を振り分けて隠居したんだろうさ」


フォーカに任せたポリアは、先ずはその依頼主とであった。 街の内陸側へ入った茂みと森の中に庵を構える人物が、そのアリンバ氏だった。 薄暗い森の中、撓る蔦で垣根を作り。 その土地の真ん中に木の乾燥させた皮で枯れ草を束ねたと云う“葺き屋根”のボロ小屋みたいな家に住んでいるらしく。


「お~~い、アリンバの婆さんっ、冒険者が来たでぇ」


フォーカの声がしてから、少しして家の一角に在る木の壁と思える部分が引き開かれ。


「誰じゃい。 今頃に・・」


と、篭った声をした人物が歩いて出て来る。 10歳に満たない子供のような矮躯で、腰が曲がっているらしく俯き。 ボロ木の杖を片手に、ヨチヨチと・・。


ポリアは直に。


「あの・・ゴブリン?」


と、フォーカに聞いた。


すると・・。


「フン・・、それと人間の間の子じゃよ。 ベッピンさん、何か文句あるかね?」


寄って来たアリンバが答える。 シワシワの赤緑の皮膚をして、白髪の頭の天辺にツノが生えていた。 炯々と光る睨み目は、人の眼では無かった。


「あ・・ごめんなさい。 私は依頼を請けて来たの」


ポリアの前にヨチヨチと来るアリンバで。


「ふぅん。 珍しい剣を持ってるみたいだが、腕に自信が在るんだろうね? この次期に北東の島へ行くなんざぁ、デキる奴か、アホか・・だよ」


その物言いを聞いたマルヴェリータは、やや口調を丁寧にして。


「若しかして・・・もう求めてないの?」


丸で下を見下ろす様な小さなアリンバだが、その存在感は確かに長寿を保った生き字引の様で。


「いや、求めてるさ。 依頼で求めた草で作る薬は、アタシの友人の病気を抑える薬だからね。 だが、死人が出ちゃ草も手に入らない。 弱っちぃ奴等じゃ、求めても無駄だからねぇ。 力量のない余所者は要らないよ」


と、気性も中々の姐御肌で強い。


ポリアはそんなアリンバの物言いが気に入る。


「大丈夫よ、御婆ちゃん。 アタシ達、これでもそこそこに名前が売れてるんだから」


「ほぉ・・、面白い」


すると、フォーカが此処で割って入り。


「アリ婆ァ、名前が売れてるのは本当だよ。 このチームなら、ソルドレイク船長も乗せたがるはず」


「はぁ? ソルドレイクだってぇ? お前さん、あんな耄碌ジジイに船長を頼むのかい?」


と、アリンバが。


ポリア達一同が見ている前で。


「だって、あの北東の島に、この次期に行きたがる船長なんて居やしないさ。 唯一、ソルドレイク船長を除いては」


「ふむぅ。 ・・・あのバカが動きたくなるチームが、このペッピンさんのチームってのかい?」


「そうさぁっ。 北の大陸じゃ、もう知らぬ冒険者が居無いチームだぜ? だから、俺も一緒に行こうと思ってる」


「はぁっ。 お前、このチームに付いて行って、アレコレと金目の物を採取して来る気かい?」


フォーカの魂胆を易々と見抜くアリンバ。


「かぁ~、婆さんには隠し事が出来ないなぁ」


ニヤけて困惑のフォーカ。


その様子を見てるポリアは、


(勝手に話が・・・。 でも、このフォーカって人を、この御婆ちゃんも嫌ってないわね。 先ずは、心配が軽くなったわ)  


と、思う。 腸の腐った相手を抱えては、危険な旅が更に危険となる。 しかし、フォーカの魂胆を見抜きながら、その彼を毛嫌いする様子が見えなかった。


さて。 此処で驚きが増える。 アリンバが。


「フォーカが見込んだ相手なら、先ずはちっとは遣える輩だね。 どれ、アタシも採取に付き合おうか。 弟子に仕事をくれてやって、まぁ~まぁ~暇してたんだ」


と・・。


驚くポリア達。 この老婆、どう見ても100歳を超えている感じがしたからだ。


なのに・・。 それをそれとなく云って、ご遠慮を願う。 心配だから・・だがっ。


「何を云うんじゃいっ!!! ワシゃこれでも150歳を過ぎてるっ!! お前達みたいなヒヨッコよりも、1000倍は経験が在るんじゃっ!!! 採取でモンスターなんぞに遅れを取るかっ! 行くぞい、絶対に行くぞいっ」


と・・・云う事に。


さて。 薬師アリンバも加わった一行は、夕方前にと船着場へ。


交易船の補修を行っているドックと成っている大型倉庫に向かい。 船を出してくれそうな船長に会う事に。 倉庫の隅。 内設された部屋に入ると、上半身裸の威勢の良い職人達が休憩していた。


「おいおい、こりゃ~~綺麗所が来たゼ」


「かぁ~~、こんなイイ女二人。 フォーカの旦那、何処で口説いてきたよ」


と、ヤジが飛んで来る。


だが、アリンバが。


「フグリに毛が生え始めた赤ちゃん共がウルサイわいっ。 ソルドレイクの老い耄れは、上かね?」


と、一喝。


職人達はアリンバが見えなかったらしく。


「ありゃりゃ、婆さんまで一緒かよ」


「うわぁ~~、あれが噂のアリンバ婆かぁ」


等とまた声が沸く。


其処で、職人達の中でも一際に存在感の在る50絡みの、黒い洗い晒しの半袖上着を着た男が長椅子から立ち上がり。


「キャプテンなら、3階で寝てますゼ」


「そうかい。 んなら、ちょいと邪魔っするよ」


石階段の方にトコトコと向かってゆくアリンバ。


此処でフォーカはポリア達に。


「この島の住民で、あのアリンバ婆に世話に成ってない奴は少ないよ。 あの婆さまは口は悪いがさ、薬代は金持ちからしか貰わないんだ。 貧乏人には神様って言われてる」


そんな話を聞かされたポリアは、それとなくKを思い出し。


「ふぅん。 何処でも、神様って居るのねぇ」


と、感心した。


が。


一行がアリンバの後を追って、四角の螺旋階段を上がって行くと・・。


「ぬぁにぃ? ポリアだとぉ? アリンバの婆さま、それは大嘘こきだ。 “風のポリア”って言えば、今は北の大陸で一番の成長株のチームらしい。 そんな有名な一行が、こったら狭い島の辺境に来るだかよぉ」


と、老人の大声がする。


ゲイラーは、何とも面倒臭い気持ちで。


「おい、上でややこしい事になってないか?」


イルガも。


「うむ・・、一応はそのチームなんじゃがな」


一同、喧騒が聞える3階の入り口で、こっそり中を覗くと・・。


「アホぅっ、そのポリアとか云う女子おなごが来たんじゃいっ!! フォーカのガキが言っとるんじゃ、間違いないじゃろうがっ!!」


下から上に怒鳴るアリンバに対し、である。 上から見下ろす様なツルッ禿げの、黒いロングコートに唾が特徴的な帽子を被った大男の老人が。


「ワシしゃ信じぬぞっ!! だいたい、何処にそのポリアとか言う一行が居るんじゃぁっ」


と、怒鳴り返す。


「ぬ」


アリンバは右へ、その手に持つ杖を向けた。


「む?」


ツルっ禿げの老人が、顔を覗かせているポリア達一同を見た・・・。




                         ★





次の日、穏やかな西風が吹く海上にて。


「がははははは、ついにワシにも伝説となる話の一員に成る時が来たぞぉいっ!!!!!」


立派な中型船で。 船体が赤く派手な模様まで描かれる船の上、甲板の先端付近で禿げた老人船長が喚いていた。


フォーカ、アリンバの二人を加えたポリア一行が、操舵室と司令室の混合となっているデッキの一部にて、窓の嵌められて居無い窓枠からその様子を見ている。 目的の島に着くのは明日の朝の予定で、採取は一日に限定と云う予定の中で・・。


長い足を組むマルヴェリータが、優雅に紅茶を飲みながら。


「キャプテンさん、随分と元気ねぇ」


厨房から焼きあがったケーキを貰い、嬉しそうに食べるシスティアナが口の周りにクリームを付けながら。


「来た~~ぞぉぉぉぉ~~~」


と、ソルドレイク船長のマネである。


そつなくケーキを食べるポリアだが、その顔は呆れた感じを崩さずに。


「でも、私達はまだそんなに実力は無いわ。 乗せたからって伝説に語り草と成る一行じゃないわよ」


ゲイラーはポリアに注意されてか、カットのケーキを細かくフォークで切りながら。


「ま、リーダー(K)ぐらいならな、噂でも何でもオーケーだろうが。 俺達だと、スター・ダストやスカイスクレイバーの連中と同じ仕事を漸く請けれる立場になった・・ってだけだからな。 モグ・・モグモグ・・。 ん・・、付け加えるなら、有名に成るかも~~~なチームか」


この意見に誰も反論をしない一同。


そんな面々を見るフォーカは、内心に。


(おいおい、“風のポリア”と“結束・連携のチームであるホールグラス”は、この島国でも有名ダゼ? 北の大陸から、この田舎国にまで噂が来る時点で、もう超一流チームの仲間入りだっつ~~の)


船員達の多くは、何処かポリア達を軽視する様子が窺えた。 世界に名前が轟く冒険者チームを船に乗せ、冒険をしてその様子を本にしたいと云う野心を持っていたソルドレイク船長。 ポリア達が来た事を信用した彼は、自身が持つ最高の船を出した。 隠居したのに、ゴリ押しで船長に復帰を宣言したとか。 そんな船長の為に・・と、嘗ての船員やその子供などが若い世代として船員になっている。


船員達にやや舐められたポリア達だが・・。 その実力は、直に白日の下へと晒される。


夕方が近くなり、無風の海上で魔力の動力で推進する船が、最初の脅威と直面する。


「キャプテンっ!!! バルボンガ・フライナーの群れがこっちに向って来てやすっ!!! 向うの空が、黒ずんでますよっ!!!!!」


一度、その仕事を引退して補修工の監督に成り下がったソルドレイク船長。 だが、世界の海を60年も渡って来た経験と意地は、脈々と生きていて。 デッキでその報告を聞くと。


「解った」


と、管制室の連絡官を置くと。 船体全体に話が行く連絡官の金属部品を持ち代えて。


「野郎どもっ、モンスターの襲来だぁぁぁぁーーーーーっ!!!! 恐らく、傷付いたクジラでも追いかけているんだろうっ!!! 群れの側面に回ってから、煙幕砲弾で動きを止めてから全速力で逃げぇぇぇーーーーーるっ!!!!! 全員武装っ。 持ち場を死守だぁぁぁーーーっ!!!!」


不動の構え立ちから、70半ばを超えた老人とはとても思えない声を張り、ソルドレイク船長が怒声にて命令を下す。 船の各持ち場にて、船員達が大声で了解の声を出し。 船内は急に慌しく・・。


一方。 モンスターの存在を薄々に感付いていたマルヴェリータの話から、ポリア達は甲板に出て景色を見る様な雰囲気で待ち構えていた。 ソルドレイク船長の命令が船体に響き渡ると・・・。


ポリアが、直に。


「フォーカっ!! マリンバさんを護って中に隠れててっ。 みんな、モンスターを船に近付けない様に。 システィは船の中ね」


必要最低限の指示である。


だが・・。


「お怪我したら~~中にねぇぇ~~」


と、システィアナが船内に入って行く。


4階ぐらいの高さに在るデッキから、窓枠のガラスが填まっていない窓からソルドレイク船長が。


「冒険者ーーーっ、無理するなよっ!!!!!」


だが、武器を杖を構える一行は、船長に心配されるほどでもなかった。


夕日に空色が染まる時。 大型の牛すら抱えて連れ去るアブのモンスターで、生き血を啜るバルボンガ・フライナーと云うのが大群で現れた。 浅瀬に迷い込んで、彼らの攻撃を受けた巨大なクジラの群れが在り。 そのクジラの群れを我が物にしようと、バルボンガ・フライナーは数百と云う大群で追いかけていたのだ。


黄色い背中の外皮、黒く鉤爪が鋭い六本の足、鋼の様に光る羽。 そして・・、中型の剣の様に長く鋭いストロー状の口。 アブの仲間、蚊の仲間のモンスターは、その数の多さの割りに手強い。 “異病”と云うモンスター特有の病気を持つ媒介体でもあるし、その群れる習性から退治が難しいのである。


しかし。


剣を抜いたポリアは、もう風の力を纏いながら。


「マルタ、一緒に数減らしよ」


魔法を連続して唱える準備を整えたマルヴェリータであり。


「最近は運動不足だったから、調子を見るのにハデに行くわ。 ポリア、海に落ちないでよ」


互いに準備万端と感じた二人。


ポリアの視界ではっきりと、モンスターの群れの外側に居るバルボンガ・フライナーの個体を確認出来ると。


「ゲイラーっ、ヘルダーっ、甲板に飛来する撃ち残しをお願い。 イルガは、マルタの護りを固めて」


と、仲間に指示を出してから、渦巻く風の力を剣に集め。


「モンスターっ、此処で撃ち落すっ!!!」


大きく振り被り、一振りに振り下ろす。 烈風の鎌の様な刃が出来上がり、空気を切り裂いてバルボンガ・フライヤーの群れの中へと突っ込んだ。


「次々と行くわよっ!!!」


剣を振り上げ、横に振り、連続して風の刃を生み出すポリア。 黒い大群となっているモンスターの群れだが、風の刃を受けると、その貫いてゆく通りに居たモンスターは海へと落下してゆく。


一方。


「想像と云う意識の海から、魔力の加護を得て生み出される魔法の子よ・・。 我が大いなる創造の導きに答え、その姿を現さん・・・・。 さぁ、いでよ」


マルヴェリータが杖を掲げる。 彼女を包む様な半円のドーム状に、スパークを伴って青白い魔法のエネルギーが湧き上がる。 マルヴェリータが包まれ、もう青白い色で彼女が目視しずらくなった時。


「うわぁぁぁーーーーーっ!!! モンスターがコッチに来たぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


船体の防衛にと、甲板へと出た船員達が脅え出した。 傷付いた背中だけを泳ぎながら出し、大量の海水を背中から噴射して群れを護るクジラの数匹が見える彼方。 その空中を群れ成して羽音を轟かせるアブのモンスターの大群がいる。 ポリアの風の力の先制攻撃を受けたモンスターの群れの外側が、分隊と成って船に向ってくるのが見えた。 黒い塊が船に向うのを見る船員達は、脅威に震える。 モンスターの恐ろしさは、寧ろ彼らの方が知っているだろう。


だが。


その分隊がフワ~~っと船の近くの宙へと近付いて来て、アブのモンスターの個体を目視で確実に確認出来る近さまで来た時である。


ずっと集中していたマルヴェリータが、不敵な笑みを浮かべて杖を十字に切った。


「さぁっ、いでよ。 クロスに刻まれなさい」


マルヴェリータを包むエネルギーの表面から、十字架の形をした魔法がフワッと浮き上がった。 マルヴェリータが大きく動いて、その十字架を押し出す様に杖を突き出すと・・。 人型を超える大きさの十字架が、一線の光の帯を残してモンスターの分隊へと突っ込んだ。


瞬間。


「うぉぉぉぉぉぉぉーーー」


「わぁーーーっ」


船員達が、急激に形を崩して炸裂する魔法に眩しさを感じた。


甲板の縁に片足を掛け、その様子を見ているゲイラー。 動物の毛が付く首周りをした新しいマントを背負いながら。


「うお~~~、これはハデだね」


その隣では、鉄扇と呼ばれる扇形の武器を閉じて両手に持つヘルダーが、炸裂する魔法に巻き込まれ、飛ぶ能力を奪われて墜落するモンスターを目で追う。


(出番は少なそうだ。 船と船員を護る事に徹しよう)

どうも、騎龍です^^


ポリア編の、中期長編の前部をお送りします^^



ご愛読、ありがとうございます^人^

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