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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
192/222

★番外編・特別話・九★

                      K特別編


                ただ在るがままに、過去を生産する時が来て




                      ≪過去の因縁≫



フラストマド大王国の首都アクストム。 冬は白銀の王国、夏は新緑の王国で、街並みの中が公園や植林で涼しい風を取り入れる形をした王都だった。


真夜中。


「こんなボロ小屋でいいんですかい? もう少し、いい宿も用意出来ますが・・」


過去の出来事で恩が在る屋台屋の元締めに、寝れればいいと云う場所を用意して貰ったKが。 石積みの基礎に土壁のボロ小屋に入った。


「なぁに、色々と動き回るし、繫ぎが集まり易い場所がイイ。 目立つのも困るんでな」


「そうですか」


「食事は外で済ますし、余計な世話は要らない」


「随分と変わりましたね。 前は、酒と女を切らすなって聞きましたのに」


その言葉に、薄く笑ったKで。


「もう面倒は要らんさ」


「へいへい」


真っ暗な中、屋台屋の元締めである初老の男は、Kを小屋に残して出て行った。 小屋の場所は、住居区域の東側。 商業区や貴族の住居区域にも近い場所で、Kには都合のいい場所だった。


そのまま小屋に居ず。 Kも真っ暗な外にまた出た。


「・・・」


貴族の住み暮す区域に向かったKは、遺恨に関わる過去を思い出していた・・・。




Kが、まだパーフェクトと名乗っている時だった。 南のアハメイルで主に頼まれ、或る大臣の暗殺を阻止して欲しいとアクストムの老人の主が人を募集していると知った。 Kは、Pと名乗る中。 名前も無い冒険者チームを結成していた。 チームとしての纏まりが無く。 その面々はバラけながらにKを追って旅をし。 戦いに為るとKを助けると云う形で関係していた。 ま、Kのカリスマ性に引き摺られてそうなっていた。


だが、この時はまだKと協力者は一人。 二人だけで王都アクストムに向かい。 KがPとして一人で主に面会し、その大臣の暗殺の阻止を自分なりの遣り方に為るとして請け負った。


Kがその依頼者に面会し。 その大臣を保護する立場で、暗殺計画を密かに聞いてきた諜報を司る者が手引きをすると云う形に成った。 


しかし。 その手引きが二日も遅れた。


不審に思ったkは、主に別個に独自捜査を依頼。 自分でも調べに動いていた。


3日目の夜、突然に手引きが行われた。 急な緊急事態だと云われ、終始顔を隠す諜報部の者に従う事になってしまった。 一人でKが案内された屋敷にて、その諜報部の者が忽然と姿を消した。 Kは、後を負って来た仲間の一人にその者を探すのを任せた。


が。


血の臭いが外まで漂う事に異変を察知して,Kが屋敷に踏み込むと・・。 大臣は、もう家族諸共に惨殺されていたのだ。 昼間には、K自身が安全を確認したのに・・・。 しかも、大臣の屋敷の下働きが生きていて、Kを目撃し大騒ぎをし始めた。 そして驚くべき事に、役人に手が回っていたのである。


当時のPを名乗るkは、隠密性と秘密主義を貫く冷徹主義だった。 騒ぐ3人の下働きを始末したKで、役人の雪崩れ込む足音と入れ替わりに、その場を後にした。


斡旋所の主に面会したkは、事情だけ話して消えようとした。


が。


何と大臣暗殺の濡れ衣が主に掛かりそうに為ったのである。


大臣とは、若い頃に冒険者として組んだ経験まであった主だ。 主の事はリオンも身元保証をしたし、国王までも密かに裏から保証をした。 結局、捜査が進む中でKの斬った3人は、大臣の雇い抱える下働きでは無かった事が解り。 何か可笑しいと為った。


結局、主への疑いは保留となって立ち消え。 kは、次の仕事に呼ばれてマーケットハーナスに消えた。 kがPと名乗っていた時で、数少ない最初から仕事が破綻していた仕事の一つとなった。


Kは、その時に“マッシュ”と名乗った諜報部員を忘れた事が無い。 Kが経験を重ねるたびに感じて思うのは、マッシュが暗殺の首謀者で、斡旋所の中に裏切り者が居たのではないかと云う事だった。


そして・・・。


街灯が消えた煉瓦舗装のされた貴族区域のとある十字路。 Kは、正にあの惨劇が起こった屋敷を見れる場所に居た。


(・・あの頃と外見は変わっちゃい無いな。 あの大臣を暗殺した以上、誰かが得をして伸し上がったはずた。 ソイツから辿れば、首謀者も目に見える)


Kは、もう一人の男に目を付けていた。 それは、この大臣の家に居る秘書の男である。 執事の下に付いて働く者なのだが。 その一人にkは見覚えが在った。


(さて、何か聞けりゃ儲けものなんだがな)


元は文化大臣として役目に就いていた侯爵ユリフ家。 先代の惨殺された当主のラベノナードから、家督は譲られて弟のアートレイドに移った。 急な家督相続で、兄の死。 一族諸共の惨殺にアートレイドは悲しみ倒れた。


今は、アートレイドの従姉弟に当る女性のルージュロマイアが大臣に就いている。 行く行くは、アートレイドの息子が家督と大臣の役目を継ぐべくして、政務官として今年に政府へと仕事に就いた。 世襲の様に見えるが、その筋としては相当に勉学を積んで周囲の認識的な許可が在っての事だ。 アートレイド卿が大臣の椅子を固辞したのは、自分が兄の様な教養と知識と先進的な思考を持ち合わせないからであり。 従姉弟のルージュは、別の下級貴族家から来た嫁である。 彼女の深い教養と勉強熱心な心がけを、アートレイド卿が知った為であり。 開かれた文化を目指すルージュの先進的な精神を、王家も認めたからだ。


さて。 軽く聞き込みや下調べをしたKの見立てからして、この一家は事件に全く関与していないと思われる。 何せ、家督相続には厳しい監査の眼も入ったし、アートレイドは辺境都市で好きな薬草栽培と商人をのっそりやっていて充実していたらしいのだ。 兄の家督を狙ったにしては、どうもその欲の姿が見えないのである。


しかし、その家督を相続するに当って、ラベノナードの頃に執事をしていた男の弟が新たな執事に為ったのだが。 その執事の下に買われた秘書やメイドの長の中で、唯一に出世と云うか多方面に親密関係を築こうとしている者が居る。 秘書のガッソンである。 Kの眼からして、その動きは更なる待遇を求めて自分を売り込もうとする広告活動にも見えた。


・・・。


「ん?」


大きな建物の2階。 東側の一角は家に仕える者達に貸し出された部屋が集まる。 その最も角側に位置するガッソンの部屋で、46歳に成る秘書のガッソンは、風の生暖かい手に帆を擦られて目を覚ました。


(・・窓を開けたか?)


真っ暗な部屋を、身をベットの上で起こして見回す。 闇の支配を受けた部屋は、初夏ながら肌寒く。 風の生暖かさが、奇妙な温度差を感じさせる。


(誰もい無いか)


面長で、色白の長身紳士と見えるガッソン。 細い身体に似合わず、その冷たい表情から情報処理の高さと手配の手際を買われて、秘書の仕事を受けて働いている。


「・・・」


ベットの袂に座ったガッソンは、ベット脇に備わる台の上にある銀製の水差しから、コップに水を注いで一杯を飲んだ。


「ふぅ」


その場で一息ついたガッソンは、窓を閉めようと立ち上がった。 そして、窓のカーテンを避けて外を見て、誰もい無いのを確認してから閉めた。


・・瞬間である。


「よお、元気かい?」


ガッソンの喉元に、冷たい金属がピタリとくっ付き。 耳に、割れた声で男女の区別が付かない声が響いた。


「あ゛」


驚くガッソン。 明らかに鋭利な刃物が首筋に当っていると、感覚的に解った。


割れた声は、舌を震わせて男女の区別や声音を相手に悟られない様にする暗殺者の小技の一つだ。 当然、ガッソンの背後に居るのはKで。


「お前、此処で起こった惨殺の二日前。 斡旋所に覆面して何かを垂れ込んだヤツだよな? あの時は冒険者を騙したらしいが・・、マッシュってヤツに雇われた俺達まで殺されかけたんだ。 仕返ししてぇんだがよぉ、昔の事を教えてくれねぇ~か?」


「ぐ・・、ロドリナスめぇ。 始末をちゃんとしなかったのか・・・」


「いや、俺以外はみんな死んだ。 偶々、俺は傷が浅くて助かったのさ」


「・・知らない方が見の為だぞ。 お前達を始末しようとしたあの男は、今はデカい組織の幹部だ。 付狙うだけ、無駄だぞ」


「そうかい。 だが、ソイツが此処に来てやがるんだよ。 俺が手を出さずとも、情報が在れば役人にタレこめる。 死にたくないなら、あの事件の真相を教えろよ」


「バカ・・・今更に暴いてどうするんだ? 有名貴族の二つ三つが巻き添えになるから、お前も延々と命を狙われるぞ?」


Kは、覚悟を見せようと。


「仕方ねぇ。 お前の他にも一人、押さえて在るんだ。 テメェを殺して、あの時の記憶を王都に呼び覚ましてやる」


と、ナイフの刃を皮膚の皮一枚に引き入れた。 血が出る所まで、確実に計算された使い方だ。


「待てっ、待てっ」


急に押し殺した声で、ガッソンが言う。


「あ? 云う気に成ったのかよ」


「云うっ、云うから・・」


ガッソンから聞けた話は、Kには古い感覚を覚えさせた。 殺された大臣が、と或る貴族の不正を知った。 人身売買をする悪党に、国内のどの通行も許す手形書類を渡していたのだ。 見返りに、若い奴隷の女性の肉体を抱かせて貰い、上澄みで金と違法に持ち込まれた宝石を受け取っていた。


だが、その元締めは、ウィリアムの活躍で逮捕された貴族とつるんでいたホローである。 不正をしていた貴族と云うのは、不正が暴かれた時に一緒に連座で処罰を受けたらしい。 


さて。


当時、その不正の暴かれを怖がった貴族達は、犯罪組織にその始末を依頼したらしい。 だが、大臣が何度も斡旋所に忍び行き、何かを話し合っていると云う情報が来た。 それを聞き込んだ悪党側の諜報係だったガッソンは、当時はオブシュマプの一味として召集された悪党一味の参謀格としての存在に過ぎなかった、あのコンダクターロドリナスに雇われていた。


実は・・。 同時のロドリナスは、大臣暗殺に呼ばれたオブシュマプ側のコンダクダーの遣り方が気に入らなかったとか。 対応がどうにも温く、大臣の動きを把握しながらも斡旋所の存在を脅威視して動くのを躊躇ったり。 何度も指示を仰いだりして、その都度に返事がハッキリせず苛立つロドリナスを、このガッソンは間近で見ていた。


更にこの時、別件で暗躍していたヒュノプキオスの幹部が、このロドリナス達の事を聞きつけて監視していた。 ロドリナスは、証拠を残さずして如何にすんなりと手下に始末させるかを考えていた。 その画策能力を見抜いた監視が、ヒュノプオキスへに組する引き抜きをロドリナスに掛けた。 その条件は、ロドリナス以外の悪党全員を抹殺してしまえ・・・だった。


ロドリナスは、このガッソンともう一人の男を同郷の誼なども付けて懐柔させる形で生かす事を条件に、抹殺の全て。 そして、これからも情報係として生きる事を義務付けた。


裏切ると決まってからのロドリナスは、非常に早い決断を次々とした。


先ずは、自ら諜報者として当時のKに会い、その手の内を絶妙なバランスで曝け出して3日の猶予を作り。 その間に、自分の組した悪党と、オブシュマプから来た指令者とその手の者を皆殺しにした。 内部分裂を引き起こさせ、役人に嗅ぎ付けられたとして殺し合いをさせたのである。


生き残った手負いを、ロドリナスとガッシュともう一人の剣士が皆殺しにした。 そして、Kを呼びに行く間で、他から雇った金に汚い悪党3人と剣士に、大臣の一家を買収した下働き諸共に皆殺しにさせ。 後から案内したKに罪を着せるべく、ガッシュは密告者として役人に連絡をしに行ったのだ。


そう、Kが着く前に、家の者は殆ど殺されたのだ。 夕食に眠り薬を混入されていたので、まともに動ける者は少なかったはずである。


此処で、Kは。


「あの時、大臣の娘とメイドの若いのに乱暴された形跡が在るって聞いたがよぉ。 あれも、ソイツ等か?」


「あぁ・・、雇う金が少なかったから、当時のこの家の金目の物や女は好きにさせる話で雇ったみたいだ・・」


そう。 皆殺しの起きた当時に踏み込んだKは、切り刻んだ惨い遺体に。 酷く殴ったり、噛み付いたりした乱暴の跡を見つけた。 男のムカついた相手を切り刻み、襲った女性を半殺しにしたのだ。 殆どの死人に見えた、血の着いた手の跡が口を塞ぐ様に付いていた事。 犯人はかなりの返り血を浴びてしまうほどの行為をしたのである。


(あの野郎・・、その罪を俺にってか。 無粋な遣り方を押し付けられたモンだな)


現状を見ていたKは、その様子が容易に想像できた。 しかも、自分をその惨殺の犯人役に指名してきたのだ。 モンスターも、悪党も始末するKだが。 まだ生後3ヶ月の赤子だ、立ち上がれぬ病気の年寄りを死ぬまで殴ったり蹴ったりなどしない。 恐らく、雇われたその悪党達は、日々の憂さをその場で遊ぶ様に晴らしたのだろう。 


さて・・。 ガッシュは、相当に脅えていて。


「な・頼むっ! 俺は指示されただけだ。 昔の悪さを脅しに手伝わされただけだっ。 助けてくれっ、足を洗って逃げるからっ」


Kは、刃物を外し。


「勝手にしろ」


と。


この夜、ガッシュは屋敷から姿を消した。


次の日の朝。 別の貴族の家に護衛用人として仕えていた男が、たった一撃で真っ二つになっていた遺体が出て。 街中では騒ぎになっていた。 遺体の検視をした医者は、その鮮やか過ぎた切り口、飛沫一つ無い美しい出血の跡を見て何度も溜め息をしたと云う。


“何と云う業だ・・。 人の為せる所業なのか?”


と、漏らしたとか。 魔法でも、武器でも為しえない事だと・・。




                          ★




Kがボロ小屋で休む夕方、軽い食事を少女が運んで来た。 光に当ると赤の色が黒の一部に鮮やかに光る髪をした、高い鼻に澄んだ碧眼をした可愛らしい娘だ。 黒いブラウスに、黒い骨の入ってないフレアースカートを穿いている。 


「あの・・、お祖父ちゃんからです」


警戒しながら、中に入って来た少女に。


「ん、ありがとう。 そのテーブルに置いておいていい」


「はい・・・」


返事をした少女は、包帯を巻いてあるKの顔を見て。


「・・・怪我?」


と、尋ねてきた。


目を瞑るKで。


「あぁ。 心のな」


「痛くないの?」


「・・そうだな。 時々」


此処で、外から。


「サクローヌ、用事は済んだの?」


少女は、振り向き。


「はーい、今行きます」


だが、再度Kを見てから、外に出て行った。


少女が消えてから・・だ。


(何だ? 何か・・用でも有ったのか?)


目を覚まさずに、kは少女の様子からそう感じた。


夜まで寝ていたKだが、カンテラを持った誰かが部屋を訪れる。


「すいません。 報告に来ました」


若い青年だ。 あの元締めの手下の一人で、子供の頃から世話になっているらしい。 黒い眼は中々の肝が据わっていそうな双眸で。 労働で鍛えられた身体に、半袖のシャツを着て汚れたズボンを下に穿いている。


「あの剣士の事かい?」


と、身を起こしたKに。


「はい。 安い宿に入ったまま、全く外に出て来ません。 宿の下働きは知り合いなんで、存在は確認済みです。 別の下働きの知り合いに金を渡して、軽い食べ物を手に入れてるみたいですが、数日は泊り込むみたいです」


「そうか。 まぁ、あの場所はいい。 左右も、道路向かいも夜遅くまで遣ってる宿で。 しかも飲み屋が近いから、人の通りが夜遅くまである。 命を狙う輩にしろ、大人数で責めれば先ずバレる。 4階は逃げ難いが、そこまで行くまでが面倒だ」


「嗚呼・・、なるほど。 そうゆう訳で、4階に拘ったんだ・・」


感心する若者に、Kは淡々と。


「仇持ちに為れば、逃げ道と攻め込まれる事を両方考えて宿を選ぶ。 建物の中なんざ、責めるには少人数が適してる。 大人数を選ばせない方法を、少しでも考えるさ。 ま、包囲されたらどうするかは、本人次第だろうがな。 あの場所で外を大人数で包囲すれば、余計に誰かを殺さなければ成らないだろう。 攻める側も、当事者以外は殺したくないだろうし。 どっちにしろ、他人には大迷惑だろうがな」


「・・・そうゆう相手を・・貴方は殺せるんですか?」


若者が踏み込んできた。


「そうゆう仕事を、5・6年やってたよ」


「・・・どうするつもりなんですか?」


「そうさ・・な。 頃合いを見て、接触してみるさ。 それより、腐臭のする悪党達を一網打尽にする方が先だ」


「向うは、難航してるみたいですが?」


「ん。 今夜は、俺も行く。 昨日で、過去の面倒には片が付いたからな」


若者は、朝に見つかった護衛用人の他殺死体を思い出す。


(あ゛っ!!!!!! こ・・この人だ)


だが、のそりと起きたKは、若者の前でさっき運ばれたパンとチーズを食し始める。


Kを見て、冷や汗を流す若者。


だが、Kは若者を見ずに軽い食事をするのみ。


少しして、二人はボロ小屋を後にした。


Kが向かった先は、斡旋所である。 表から普通に入ったKは、モンスター退治のみをこなして、此処ではもう知名度が上がったと勘違いしている屯組の冒険者達を見た。。


「今日も頑張ったな~~。 いやぁ~、酒が飲める」


「ね~ね~、そろそろアハメイルとかに行こうよ。 これだけ仕事を成功してるんだもん、もっとイイ仕事請けれるかもよ」


「あ、云いましたねぇ~~。 イイねぇ、俺も最近そう思ってたっ」


「行くか行くか~~~」


バカ騒ぎする一団が居て、それに笑ってる満更でもなさそうな他のチーム達。


それを無視していた老人の主は、Kが来たのを見て。


(来てくれ)


と、首を裏手に振った。


カウンターの中を通って、主の開いた扉の先となる裏手の休憩室に入るKは。


「随分と夜なのに賑やかだな」


すると、ドアを開いて立ち止まる生呆れの主は、渋い顔をして冒険者達の方を見ると。


「監視付きの緩い討伐仕事を半年して、自分達の実力が鯉の滝登りみたいに上がったと勘違いしてるのさ。 ヘイトスポットを潰したあのポリアがしてのけた仕事からしたら、丸で子供の使いみたいなもんさ。 池の中の魚みたいで、海の広さや厳しさや棲む魚のデカさをも知らない」


と、つまらなそうに休憩室に入って来る。


Kは、全くポリアと会って居無いので。


「元気そうだったか? 話に聞いたが、グランディスやら、アンディ達も討伐に加わったらしいじゃないか」


すると、老人の主は、ハッとした。


「包帯・・・K・・。 そうかっ、ポリアが有名なるあの仕事に入ってたのは、お前だったのか」


「あぁ。 アンディのチームにも、ちぃっと世話になってた」


主は、昔なら付き合う相手を尽く壊してきたPでは無いと感じる。


(ポリアのチームの成長も、あのアンディとか言う若い奴の成長も、コイツが関係してるのか。 “P”の頃じゃ、幾つものチームを壊したとか聞いたが・・。 今では、本当に真逆になったんだな)


不思議な変化を感じる主だが、今はそうも云ってられず。


「さて。 お前が連れて来た男、地下に居るぞ」


Kは淡々と。


「聞いたかい?」


すると、主は苛立ちを浮かべ。


「あぁ・・、聞いた。 まさか、悪党組織の仲違いが原因とはな・・。 不正を暴こうとした大臣の一家が、餌みたいに血祭りにされちまうとは・・・忌々しい。 ワシが受けていた話の途中から、もう奴等に意図的に渡された嘘だった。 大臣側にも、こちら側にも、何の話も通ってなかった。 糸が切れてしまって、手繰れもしない所でお前に来て貰ってもな・・。 もう、どうしようも出来ん訳だよな」


主の弱音を聞くKは何も言わなかった。 敢て、話を変える様に。


「俺は、これからロドリナスの所に探りを入れてくる。 マスター、預けたヤツの始末は任せる。 首謀者が捕まっている以上、俺はロドリナスの命を消すのみだ。 ま、ヤツが別件で仕事を請けている以上は、その辺も探ってから・・な」


主は、あのガッソンと云う男を斡旋所の地下二階に監禁していた。 其処は主のみが管理する地下牢の様な場所だ。 Kがこの一件に深く関与した者を逃がす筈が無い。 惨殺の実行犯を斬る前に、あの時に此方側を翻弄する動きをしたガッソンを捕まえたのだ。


K自身は、過去の事件の直後に姿を消したからその被害は少ない。 寧ろ・・、この街に留まっていて。 この事件の容疑まで掛けられた主が一番に苦渋を味わった筈である。 Kの一存で、主に蟠りを残すのも悪いと、身柄を預けたのだ。


「パーフェクト・・、お前さんには、世話になるな。 コイツは、俺の判断で役人に引き渡す。 数日で、あの事件を担当した刑事部の男が戻るんだ。 ワシと同じく事件に関わった一人だから、アイツを引き渡して事件の決着を・・・」


裏手のドアから出て行こうと思うKは、


「なら、後は全て任せる」


と、言葉だけ残していた。


「? ・・・」


振り返って、Kが居無い事を確認した主が思うのは。


(手際も仕業も整然としている・・。 あの頃より、恐ろしくは見えないが・・・更にデキる)


一人にしておくのが勿体無いと思える。 今のKなら、世界の歴代の冒険者など誰も追随を許さない最高の冒険者と成れるのではないかと思った。





                       ★





王都の東。 寂れた古い建物が無人の状態で残された、街の賑わいとは無縁の虫食いの様な穴場が有る。 昼間には浮浪者ぐらいしか居無いが。 夜に為ると不気味な気配が暗躍していそうな空間と変わるのだ。 不思議と、雪の時期が終わると、この場所の周辺で数体の遺体が発見される。


その一角に来たK。 繫ぎの者の話を頼りに来たのだが、丁度向かった先がその潜伏場であった。


ボロ屋の中でも、佇まいはしっかりしている石造りの一軒家が有る。 家の西の一辺は、庇も着いた手渡しの店構えが残る大きな枠が在り。 其処を木の板を打ち付けて塞いであるのだが・・。


仄かな蝋燭の明かりが、部屋の中央に置かれた燭台に灯っていて。


「コンダクター・ロドリナス。 あの剣士を、どう攻めますか?」


冷たい石の床に片膝を付き、そう聞くのは豊満な胸に短髪の髪が似合っていた“アイ”と呼ばれた女である。 下半身の露出は無いが、上半身は露出の多い黒く艶やかな衣服に身を包み。 毒々しい色合いの紫の口紅を引いている。


黒いフードを被り、コートの様な衣服に身を包んで佇むロドリナス。 右手の先がフードの下部に入っていて。


「あの着のみ着のままと云う荷物の様子では、黙っていても金が底を突いて出て来るだろうな」


アイの後ろに控えている背生したギートが。


「では、兵糧攻めで?」


「フム。 だが・・色々と画策して追い出すのも悪く無い。 先ずは、その宿の下働きを抱き込むか。 アイの色仕掛けで行くもいいし・・、我々の組織の圧力でもいいな」


すると、微笑を浮かべながらアイは舌なめずりをして。


「若い男でしたら、大歓迎ですわ。 精も、何もかも食べ尽くして、骨抜きにして差し上げますわ」


その妖艶で、不気味な気味悪さと色香の同居する様子は、男を蝕む悪魔のような感じを受ける。


しかし、背むし男ギートが。


「コンダクター・ロドリナス。 アイの色気に食われると、逆に感付かれはしませんか? 金が底を突くのを待つか、あの悪党一味の手下を差し向けて、宿から追い出しましょう」


と、異議を唱えた。


脇目にアイがギートを睨む中。 壁に背を預けたロドリナスで。


「・・、期限もあるし。 一応は、呼び寄せた一味を使わない手は無いか」


「は。 オブシュマプの勢力が強い中で、無理に呼び寄せたのですから。 それなりに使って、お零れに与らせぬと不満がでますぜ」


「・・うん。 それがスムーズで後に残らないな。 よし、アイ」


「は」


「お前は、潜入当日に色仕掛けで下働きを誘い出せ。 生かしては後々ゴタゴタには為るだろうから、誘い出したのは消せ」


軽く頭を垂れたアイで。


「はい」


と、だけ。 顔には冷めた様子が覗え、逆に不満そうである。


一方、ギートは。


「コンダクター・ロドリナス。 どうしてそんなに画策しますので? 少数でも、踏み込みは可能ですし。 力押しで、アイの毒矢を吹かせれば済む話だと思うんですがねぇ・・・」


すると、フードを捲ったロドリナス。 細面のナイスミドルな印象の顔に、細く長い首が良くに合う。


「ギート、俺の遣り方が不満か?」


「あっ、いえ・・。 回りくどいと、余計な金が掛かりはしないかと心配で・・・」


ギートは、根っからの守銭奴である。 とにかく分け前を多くしようとする傾向で、何度か失敗もしてコンダクターに成れないらしい。


ギートを見るロドリナス。 その細く成った目は、ギートの心の内まで見透かしそうな眼光であり。


「いいか。 金にケチると、綻びが出る。 俺はな、まだ若き頃よ。 16・7歳の成年のクセに、人殺しの計画を作って、12人もの相手を謀殺した男を知っている。 その計画性といい、人間の性格を手玉にとる遣り方、相手の弱点を針で突き刺す様な動揺を誘う的確さ・・。 どれを見ても、悪魔が憑いたとか思えない様だった。 冷徹さも、計画を遂行する為なら子供でも巻き込むその淡々としたスマートさも有った。 金も掛かっただろうが、ミスは一つも無かった」


ギートは、思わず。


「コンダクターは、良く生き残れましたね」


すると、ロドリナスは笑みすらみせ。


「毒殺を受けたよ。 我々、金で雇われた面々の全員も始末する予定だったのだろうな。 だが、私は常に毒を軽減する薬草のお茶を飲む習慣が有る。 それは、私の一族が落魄れた暗殺者の一族だったからだ」


語るロドリナスの様子に、ギートは怨みの一端も見えないのが怖く。


「・・相手を殺さなかったんで? なんだか・・喜んでる様にも見えますが?」


「うふふふ、殺すも何も・・。 我々は、本当の首謀者の顔すら見て居無いのだよ。 どうやって、相手を殺すのだ?」


「はぁ?」


驚くギートに、アイも眼を見張り。


「まさか・・、首謀者と思わされた若者すら、ダミー(偽物)だったのですか?」


「そうだ。 一度逃げて、後で真相を確かめようとした時に、首謀者と思い込んでいた若者も毒殺されていた。 あらゆる上で、残された証拠は我々の実働の手先のみ。 私は、生き残った事に感謝すらしたさ。 そして、あの様に手際の良い仕事を体感出来ただけでも素晴らしいと思っている。 何時か、私もあの様な計画を練ってみたいと・・な。 犯罪は、あの時に芸術的なセンスが必要だと解った。 例え、人一人を追い込むにしても、何カシラの美は目指すべきだ」


アイは、その話に少し心奪われてか、膝を前に進め。


「では、あの男を仇と狙っていた若者を手引きしたのも、あの男が国で追われていたのを賞金稼ぎに狙わせたのも、その為に?」


「そうだ・・。 あの剣士が罪を犯して逃げたなら、その罪で死ぬのが本来の筋。 それこそ、一つの物語が完結する美しさが有る。 ま、此処までは我々が手を下さずに短絡的な誘導だけで殺せるかどうか・・と云う問題だ。 本題は、此処で殺す。 これだけは、決定事項だ」


背むし男の方は、腰の重そうな剣を引き抜き。


「そりゃ、そうでしょうね。 これ以上は、ダラダラと引き延ばせませんし・・」


「そうだ。 だが、我々二人は、傍観だギート。 あの剣士一人を始末するにしても、我々の存在が必要以上に曝け出されるのはよろしくない。 アイが男を誑し込めば、鍵も手に入ろう。 先方で、悪党二人か、三人を入れて。 しくじっても逃げ出して来た所を包囲すれば殺せる」


ロドリナスの話に、大幅の剣を少し引き抜いてやる気を見せたギートが困った顔へと成り。


「コンダクター・・、そんなに脅える必要は無いんでは・・? どうせ、殺るのは夜なんでしょ?」


すると、


「ふぅ」


と、溜め息を吐いたロドリナスで。


「ギート。 細かい説明を必用とするか? たった一年前は、ミグラナリウスとか云う貴族の依頼で、大掛かりなオブシュマプの勢力が動いたばかりなのだぞ? 他の都市ならいざ知らず、この王都は我々の勢力の及ばぬ場所。 オブシュマプですら、貴族などの拠り所無くして長居出来ないこの場所に、我々が長居するとしたら金が必要になる。 今は、我々が変装して騙してるが、存在を知らせでもしたら組織同士の抗争に拍車をまた掛ける要因に成る。 向こうには、俺も、お前も、面が割れてる。 影ながらに傍観し、逃がしそうなら闇打つのだ」


「あ・・・、はぁ」


ギートがそう云われて腰を擦る。


このギートは、一度のヘマからオブシュマプに掴まった事が有る。 酷い拷問を受け、腰が曲がったのだ。


この彼等の様子を隠れ見るKで。


(計画の遂行は、明日か・・・、その次の日ぐらいだな。 ・・・どれ、ちょいと動いてみるか)


Kは、此処でロドリナスを始末するのを辞めた。 まだ、悪党集団の存在を認識してなかったからだ。 そして、あのゴロツキの様な姿の剣士の素性だけを確かめておきたかった。

どうも、騎龍です^^


K特別編の続きです。


ご愛読、有難うございます^人^

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