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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
191/222

★番外編・特別話・八★

お待たせしました。 読みきりを書こうと思いましたが、随分と文字数がオ-バーしたので、3・4話に分割して掲載します。

                      K特別編


                ただ在るがままに、過去を生産する時が来て


                     ≪決闘に出くわして≫




これは、Kが在る山岳街道を下りきり。 フラストマド大王国の王都へと向かっている初夏、“流の月”の中ごろの事である。


蝉の鳴き声が木霊する森を、一つ東へと抜ける街道が在る。 国境都市へ向かう大道では無く。 山河の中に在る集落や町・村を綴る別道だった。 日に擦れ違う馬車や人など数える程で。 兵士の見回りも年に3度と云う感じなので、時折に凶暴な獣やモンスターの類も出没する。


そんな横道街道を降りてきたKは、然程に離れて居無い場所から、剣と剣の打ち合う音がしたと反応した。


(・・・川原の方か)


歩くKの左手に降る斜面の先に、岩の転がる川原が見えるのだが。 そこで、二人の者が戦いをしていた。 何の気なしに、その決闘を見る気に成ったKで。 川原に向かって斜面の森に下って、一本の斜めに撓った木に腰を預ける様にして立ち止まる。


(片方は、若い男だな。 太刀筋も真っ当だし、ありゃ何処かの国の公衆道場にでも通ってた口だな。 もう一方は・・、随分と屋さぐれた感じだな。 剣の遣いが上手くなきゃ、唯のゴロツキと違いないゼ)


Kの視線の中で。 金髪の若い剣士は装備も良く。 鋼の上半身鎧に、具足やアームガードまでしっかりとしている。 一方の髪も髭も伸び放題と云うゴロツキ風体の剣士は、傷だらけのベルトメイルに、所々に穴の開いている汚れたマントの廃れた感じがありありとしていた。


(遺恨の戦いか・・、突発的な諍いからの戦いか。 いずれにしても、実力が伯仲して、どっちが斬られても可笑しくないな)


気配だけ消して、そのままの態勢で腕組みをして見るKの意見は、こんなものだった。 だが、見るからに若い剣士の方が気合溌剌としていて、ゴロツキの方が圧されていると思えた。


「貴さまっ、こんな事をして恥ずかしくないのかっ?!!」


と、ゴロツキ風の男が云うと。


「煩いっ!!!! お前を斬る為に、10年も一筋に剣を磨いたんだっ!!」


と、若者が返す。


そんな怒号のやり取りが在り、激しく剣を噛み合せる両者。


若者は、鉄などの鉱物の板でも仕込んであるのであろうアームガードを遣い。 ゴロツキ風体の男性の懐に深く踏み込み、剣の突きをアームガードで受け止めた。 振込みが定まった角度で剣が速度を持つと、例え金属の板を仕込んでいても、盾の代わりに腕で受け止めると骨折する。 それだけ、剣士の斬り込みとは鋭いのだ。 だからその速度、角度に剣が至る前に、まだ刃物としての物のウチに受け止める事が条件となるアームガードの類を用いた接近防御。 しかし、若者はその辺を良く弁えているらしい。 敢て踏み込み、剣を勢いが乗り切らぬ内に受け止め、完全に有利な間合いを作り出した。


「死ねぇぇぇっ!!!!!」


右手にのみ握り締めた長剣を、男の腹部に突き込む若者。


「うわっ」


間一髪。 無理せずに後方へ飛び退けゴロゴロと転がって回避した男は、もう生死の掛かった中で、パッと手にした石くれを若者に投げた。


「ぬっ、う゛」


アームガードで石くれを防ぐ若者へ。 顔面汗だくで黒い髪の毛を振り乱す男は、次々と石を拾って投げつける。 腕に着けたアームガードでカバーしきれない額などに、石が当ると若者もイラついて。


「この卑怯者がぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」


と、顔を護ったままから突撃に転じる。


「あ、わわ」


もはや石ころなどを投げる余裕も無いと、引きながら剣を構えた男。 また激しく斬り結び、圧して圧されて、蹴られ叩かれの体当たりも含んで両者は無我夢中に争った。


Kが見るに、まさに泥だらけになる拮抗の戦いだが、流石に長く生きたゴロツキ風体の男の方が場数を踏んでいたのか。


「このっ」


と。 若者にまた踏み込まれて、アームガードで剣を受け止められた瞬間だ。 感情任せに左手で若者の鼻頭を殴りつける喧嘩技に出た男。 直後、鼻の骨が折れて痛みに気を取られた若者の隙を、その男は逃さなかった。 自由になった右手で、剣の柄を逆さ持ちに変えて若者の喉笛を襲った。


(勝った・・)


Kの思うままに、咄嗟の動きで剣を合わせに行く若者より、逆手に持ち買えた男の剣の切っ先が早く首筋へ向かう線に入った。


「う゛が・・はっ」


血飛沫を立て、喉を抑えながら倒れる若者。


「はぁはぁはぁ・・あ・・・」


返り血も浴びては戦い疲れて、その場にヨロめいて膝を崩した男。 だが、直ぐに襲ってくる喉の乾きに耐えられず、間近を流れる川の水に飛びついた。 水を飲んでは、顔に付いた返り血が水に落ちるのをみて、必死に顔を洗ったり髪の毛を洗ったり。


それを見届けたKだが。


(向うが勝ったか。 だが、川向こうの森に潜むのは誰だ? この両者の戦いに干渉しなかったのはいいが、妙に静か過ぎる傍観だ)


川で返り血を洗ってるその男を、誰かが川向こうの茂みの中から見ているらしい。 Kだからこそ解るが、黒い竹林の揺れる中に、誰かが隠れている。


「はぁはぁはぁ・・嗚呼。 また・・勝ってしまったか」


そう呟いた男は、ヨロヨロと立ち上がって倒した若い男の持ち物を漁った。 金や食料などを取り、その良い作りの剣までも取った。 流石に鎧や具足などは奪わなかったが、取って持ち運ぶに難しく無い物を荷物にして、逃げる様に川原を北上し出す。 その向かう先は、Kが向かう先でもあった。


が。


戦いに勝った男が在る程度離れた後。 元々から生えていた木を根っ子から持ち上げ、森を駆逐しそうな竹林から、一人の人物が現れたのである。 赤いマフラーの様なスカーフを幾重に首周りを飾り。 長身の身体に、ぴったりとフィットした仕立てられた黒の礼服を見立てた衣服の上下を着る。 足回りは旅人風体に具足を履くが、腰周りを見るとナイフぐらいしか武装してない様子であった。 深い深い紺色の衣服に身を包むその男は、顔もフードを被ってよく見えない。


(ヤツは・・、誰だ? なんだろう・・、見た事が有る感じがするんだが・・・)


Kの記憶を掠め呼び起こすような、一抹の懐かしさと気がかりが同時に起こる。 それは、丸で不協和音を感じる様な違和感とも云える。 その現れた人物が非情に気に成ったKは、足音もさせずに、そっと斜面を下りだす。


しかし、現れた男の後から、ザッと茂みを破って二人の手下らしい曲者が来て。


「“コンダクター・ロドリナス”。 イオの果し合いは失敗ですね」


若く冷徹な印象を受ける短髪の女の話に、もう一人の手下風の中年で背生した男が続き。


「どうしますか? ウラナールを追いますか?」


すると、脇を見るかの様に顔を動かした長身の男は・・。


「当たり前だ。 アイ、お前はこのままウラナールを追え」


若い女性の曲者は、短い返事で北に向かうゴロツキ風体の剣士を追う。


また、顔をフードで隠す何者かは。


「ギート。 お前は、この辺りの悪党集団とコンタクトを取れ。 ウラナールをどうにかして殺さねばいけない。 計画を考えるから、手数を用意しろ」


背むした中年の曲者は、腰の剣を重そうにして。


「へい。 了解しやした」


と、茂みに消える。 その消え去る動きは素早かった。 背生した様子が歪で、重そうに見えるのだ。


間近に降りて隠れ見るKは、その声に覚えが在った。


(・・おいおい、あの時の・・・)


先に行かせた尾行役の女性が行った後を追うその長身の何者か。 だが、Kはその声と姿に見覚え、聞き覚えが有った。 それは、Kの記憶でもやや苦い記憶であり。 今に思い返しても、真実が判らなかった出来事だった。


(始末は簡単だが・・、“コンダクター”って云われる以上は、野郎は組織に入った上に幹部にまで上ってる訳だ。 ・・・)


Kがそのまま姿をを消したのは、その直後である。 風が吹いて、黒い竹林がざわめいた。 死神が動き出したのに合わせて、丸で共鳴するかのように・・。





                         ★





フラストマド大王国の王都、アクストム。 南側の正門から街に入れば、馬車が10台以上は余裕で並列走行可能なヴィクトリーロードを望め。 その行き当たりには、世界有数の美を讃える王国のシンボルが建っている。


ポリアやセイル達の活躍が有った頃は雪に彩られた白銀の世界だったが。 今はもうすっかり雪も溶けて、雪避けの街路樹が青々と茂って新緑を鮮やかに栄えさせる。


東西南北へと走る無数の街道が張り葎された国内でも、大きな街道が蜘蛛の巣の中心へ集まる様にこの王都へと繋がっている。 毎日、何百・何千と云う馬車が出入りをし、それに輪を掛けて人が出入りをする。 王都内部にだけでも、数万棟を超える建物が集まり、王都の郊外周辺に作られた外部居住区にも、多くの農家が暮していた。


こんな巨大都市は、冒険者の数も多い。 毎日流れてくる者、地方や他国へと流れて行く者も居るのだが。 此処最近は、封鎖区域だった旧墓地と大きな湖周辺のモンスター退治の仕事が、王国政府依頼で定期的に持ち上がるので。 地元の屯組や、他の国から炙れてやってくる冒険者達も、比較的に引き受け易い仕事に有り付けるらしい。


さて。


在る日の夕方。 門番の兵士の細かい詮索が始る夜間を嫌って、駆け込みの荷馬車だの冒険者や旅人などが急ぐ様に早々と遣って来るのが見える各門。 しかし、この王都へは、厳戒態勢や閉門命令が出されない限り、その監視の眼が緩い場所が在り。 顔を隠した屋さぐれの冒険者などを、安く金を受け取って通す役人が居るのだ。


そんな中。


「これで・・」


あの川原で若者と果し合いをしていたゴロツキ風体とも見える冒険者が、腰も低くして顔なじみの兵士に金を渡した。


「ん。 通れ。 ただし、問題を起こした場合は、どうなっても知らんぞ」


小遣い稼ぎでやっている兵士が、お互いに我関せずを貫くと云った。


男にとっては、それこそ有り難く。 頭を下げて中に入った。


北東の門は、このように緩い。 正直、入り口でどうこう言おうが、悪い奴らは深夜に隠れて入ってくるし。 貴族や商人の馬車を一々隅々まで調べない。 王都内で何か起きない限り、、来る者、出る者を拒む必用も無い訳である。 似顔絵の出回る悪党の人相書きは、ちゃんと兵士にも回るのだから・・・。


王都の中に入った男は、直に商業区の人が多い区域へと消えた。


その後を追う様に。


西門から、胸元をガバっと開いた衣服で旅人姿の女が入って来た。 冒険者の一団の直後ろを続くように。 短髪ながら、肌は白く。 何処か冷めたその雰囲気が、そそられなくもない。


兵士も、その女の通過はみっちりとみていた。 兵士も人間であるから、異性を意識するのは当然だろう。


(なんかイイ女だな・・)


(何処かで踊る女かな? こりゃ、少し酒場を巡って探してみるかぁ?)


兵士の下心は最もだろうが・・。 この女は、あのゴロツキ風体の男を追って来たのだ。 旅人の様な格好だが、彼女もまた商業区へと姿を消すのだった。



ゴロツキ風体の男、名前はウラナールと云うのだが。 この人物の姿を、誰よりも早く見つけたのがKだ。 先回りして、前日に王都へと入っていたKは、知り合いに会ってはもう捜査の網を張っていた。 自分の顔を隠しながら生活するとしたら、立ち回り先は決まってくる。 ウラナールをこの王都に匿ってくれる知り合いが居るならどうか解らないが。 そうでなければ、大体見つけられるとKは踏んでいた。


その日の夜。 街灯も大通りの所々を照らし出す頃だ。


あまり金を持たない層の人々などが集まる通りで。 空き地や通りの幅を利用して、屋台が並ぶ場所が在る。 冒険者なども来るが、日雇いの労働者や若者なども来る場所であり。 雑多にやや込み合う雰囲気が非常に宜しい一角であった。


低い身の丈をした作業着の店主は、スパイシーな香りのスープを作り売りしながら。


「ダンナ・・、来ましたゼ。 屋台5つ隣りの、マーサの店に座りました」


相手を見る事もせず、スープに焼きたてのパンを浸して食べるKで。


「美味いな。 ・・あの屋台の味は、西の大陸のケーマ王国のものだろう?」


「へい、良くご存知で」


「好んで座ったなら・・・、出身がそうなのかもな」


「でしょうね。 ダンナみたいに何処でも座れる方は少ないですよ。 大抵、テメェの出身の味や匂いにつられ、違っても似たり寄ったりの物を探します。 ま、此処は人種に関わり無い坩堝みたいな場所ですからね」


この通りから左右に向かって交わる大通りに向かえば、それぞれに構えも立派な飲食店が建ち並ぶ。 Kは、この一角だけにこんなに色々と人が集まるのは、この王都に住む他国の人々のその風土の味がここに集まっているからだろうと思った。


(好みでそうなら、勝った男の方は西の大陸の出身なんだろうか。 倒された男も、ケーマ王国産の武器や防具だったな。 因縁・・・か? それなのに、“ヒュノプキオス”が関わるとはね)


軽く食事をするKの脳裏に、見えない闇が広がった。


西の大陸は、安定した地域として北の一帯を治めるケーマ王国と、南部とその周辺の諸島群を治めるアハフ自治領が在り。 反対に、反政府・政府・改革軍や地方部族が入り乱れて争っている中央部が在る。 広大な中央部の砂漠や乾燥地域は紛争地域として、各国が商業の取引を禁止するなどされて情報が入ってこない場所だ。


さて、そのケーマ王国と縁の在りそうな二人の剣士が果し合いをし。 また、その影に、世界的に三分して覇権を争う犯罪大組織の一角、“ヒュノプキオス”(本意まで悪意に染まれ)のコンダクター(支配人・計画発案者)が居る。


世界的な犯罪組織のオブシュマプとこのヒュノプキオスは、現在は相当に仲の悪い敵対関係に在り。 数十年前、両者のテリトリーを荒らさないと云う話が持ち上がって約束が交わされかかった時。 もう一方の犯罪組織である“テオラリスム・ドァ・カオス”(混沌と焔獄の園)がその秘密会合を襲撃。 3者入り乱れての戦いで、互いの幹部が相当に殺された。


この時、オブシュマプだけ、組織を束ねる暗黒王の息子が3人死んだのだ。 血縁に犠牲者が出たのはオブシュマプだけであり。 最も規模の大きいオブシュマプの統治者である暗黒王は、ヒュノプキオスとテオラリスム・ドァ・カオスに宣戦布告した。


当然、ヒュノプキオスとテオラリスム・ドァ・カオスは結託するわけだが・・。


今に成っても、その3者の勢力図は変わらない。 オブシュマプに加担する悪党集団の数がケタ違いだからだ。 今は、大虐殺の有った後の後遺症で、三者は小競り合いで終わりにしている。 だが、一昔前は、三者の狩りが激しく。 街ひとつ火事に巻き込んで殺し合いをしたり。 山賊と野党が森で殺し合いをしただの数え切れないほどに在ったのだと。 だから、今は休戦状態で落ち着いているらしい。


だが、この事実は表に出て居無い。 Kとて、自分が生まれる前の話で、当時を知る悪党から聞いたに過ぎない出来事だ。 だが、ここ最近だが。 奇妙に各勢力に目立った動きが見られる。


(まぁ~ったく。 ン年前は、ポリアが北でオブシュマプの一味の画策する事件とドンパチしたが。 高が果し合いに絡んで、今度はヒュノプキオスが暗躍ってか? 最近は、何がどうなってるんだかねぇ。 オブシュマプの勢力圏内で、ヒュノプキオスが動いたら不味いだろうによぉ・・)


Kは、解らない事に興味が湧いた。 もし、耳に、目に、残るあの記憶が確かならば、コンダクターのロドリナスと呼ばれたあの男は、7・8年前に会った“マッシュ”と云う男と同一人物であろう。 その男が、今度は大掛かりな犯罪組織のコンダクターとして現れたのだ。


(なんだかキナ臭い・・、仕方ないな。 斡旋所のクソジジィに会うか)


残りのパンとスープを始末したKは、スッとその場を立ち。


「奴の寝床だけ、突き止めておいてくれ。 ただし、俺以外にも奴も狙ってるワルが居る。 探る程度でいい」


すると、店主は屋台の中でスープを煮ながら。


「おい、聴いたか?」


すると、煉瓦造りの建物と屋台の狭間で店主の手伝いをするハゲ頭の小男が。


「あっしが、遣ります。 片腕だけで終わりにしてくれた、恩を返させて下さい」


Kは、金貨を一つ置き。


「危険手当と、アンタの息子の学費代だ。 上級の専門学は、収める金で講師が付く部屋か、否かが決まるとか。 俺には必要の無い金貨だ、代わりに使ってやってくれ」


嘗てはオブシュマプの組織下末端に居た悪党だったが、Kに刺青の在った右腕を斬られてからは身を入れ替えた男である小男。 何故に、死神とまで云われた男が自分を殺さなかったのかは解らないが。 母親の居無い実の子を引き取って今を生きれるのは、Kの御蔭だと思っている。


「お任せ下さい」


金貨を店主から受け取ると、今に金を払って消えようとしているウラナールを追って裏路地に消えた小男だった。


Kは、もう数枚の金貨を置き。


「これは、迷惑代だ。 屋台の一同を束ねるアンタの手を、俺の勝手で煩わせた代わりだ。 如何様にも自由に使ってくれ」


「・・・」


口を空けてKを見た店主。 もう60の半ばに成るのだが、Kの変わりようが余りにも人間臭くて驚きだった。


「あ・・アンタの金だから受け取るがよ。 ホントに、アンタはあの死神か?」


苦い笑みを浮かべたKで。


「なんだそりゃ」


「あ・だっ・だってよぉ・・・。 一昔前のあの頃のアンタとは、どうにもこうにも見えなくて・・。 そんなに玄人染みた気遣いは、全く無かっただろう? 女を見りゃ喰い尽くすし、金は奪うに近かった。 ・・どうしたら、そんなに毒気が抜けるんだよ」


席を直したkは、立ち去り際に。


「自分の毒気に毒されて、疲れたんだよ。 気儘な今が一番さ」


「はぁ~~・・、そうかい」


「あぁ、んじゃな」


Kの過去を知る屋台の店主は、その気の抜け方に面食らった。 “P”と名乗っていた時には、目に付く女を強引に欲し。 寝床で感じさせては、その恥らう弱みを尽く責めて責めて陥落させる。 そして、もう泣いて止めてと懇願する相手を、快楽と恥辱で押し潰してしまう。 悪魔の如き仕様で、欲望を満たし。 人を殺し、裏仕事を遂行するその姿は、今には考えられない怖さが在った。


(いってぇ、誰なんだろうな。 あの死神の心を、こうも穏やかにしたのは・・・。 恐らく、疲れたってのは半分だ。 もう半分は・・・出来なくなったんだな。 あの頃の様に・・)


自分も若き頃は、端にも棒にも引っ掛からずの悪い生き方をしていた店主だ。 今更、真っ当に、綺麗な人間で居られるとは、改心した後でも思わない。 ただ、死ぬまで生きるのみなのだ。


店主にそう思われるKは、闇夜を照らす夜の大通りを歩いている。 もう半袖でも構わない季候ながら、真っ黒な姿でコート着る彼は異質な存在だ。 夜でないなら、怪しまれるぐらい。 しかし、彼は汗一つも掻かず。 その様子に暑そうな感じも無かった。


Kが向かったのは、斡旋所である。


1年以上経つか。 セイル達が旅立ちの際に此処でチームを結成し。 ポリア達が大活躍した。


あの高齢となる老人の主の元に、Kは向かった。 この王都の斡旋所は、地下にカジノとオークション会場を持ち。 2階以上は宿屋と云う一面も持った複合施設だ。 一階の斡旋所ですら、人の少ない時間は軽食も取れる。


初夏ながら、蒸し暑く夏らしい夜だ。 斡旋所までもう目と鼻の先まで来たKで。


(アクストムの斡旋所は、中がウルセェんだよなぁ。 ・・仕方ネェ、裏から入って直に会うか・・)


斡旋所内部の主が休憩に使う暖炉の間は、裏口から近い。


(お~お~、今宵も金を落としに、オークションやらカジノへお偉いさんが遣ってきたぞ)


斡旋所の側面を抜ける大通りを歩くKは、御者付きの馬車が次々と斡旋所所有の厩舎へと入ってゆくのを見た。 夜なので、馬車の車体の前後にランプをぶら下げたいい馬車も在り。 その馬車から降りてカジノへ向かう専用階段へと向かう貴族達が、上辺だけの腹の探りあいの会話や、大いに負けただ、勝ったの自慢話をして歩いている。


「今日は負けませんよ。 新しい辞令も貰って、仕事も順調ですからね」


「ほぅ、それは羨ましい。 では、せめて上がった手当ては、私の懐の方に頂きますかね」


貴族が遊びに向かうのを見送るKは、地下への階段をスルーして、斡旋所の裏側に当るドアを押し開いた。



・・・・。



「おーい、ワシはもう休む。 後は任せるぞ」


斡旋所の内部では、やや遅くまで働いた主が裏に引き篭もろうとしていた。 斡旋所の主の寝床は、暖炉も在る休憩所の裏。 休憩をする暖炉の間から更に廊下に出て、奥に歩けばもう寝床だった。


(今日は、風呂に行くかな。 随分と汗も掻いたしの)


斡旋所と繋がった湯殿のある施設にでも行こうと思って居た斡旋所の主。 寝室は古い木造の内部構造で、部屋の宙に渡してある糸に洗濯物が引っ掛かっている様な部屋だった。 一人でこの仕事をしている主だが、後を任せられる程の肝が据わった人物が見当たらないのが、後継者に悩む主の種。 40過ぎで、もう冒険者を引退しないかと思う相手が中々・・。


疲れて寝室に入った主は、干してある手拭いや着替えに手を伸ばした。


瞬間。


「無用心だな」


その声を聞いて、呼吸が止まりかけた主である。 何度聞いても、命を懸けた緊張を強いられる悪魔の声・・・。


「あ・・・、パーフェクト」


すると、Kは入り口のドアに背を預け。


「もう家業から足洗った。 パーフェクトは、もう捨てたよ」


過去を思い出し、その当時の戦慄からガタガタと震え出した主は、顔面から血色を失わせながら振り向いた。


「おま・・包帯?」


「あぁ。 病気だの何だのと理由付けられるし。 捨てたとは云え、遣って来た事は消えないさ。 恨み辛み言われても面倒だしな、この包帯ってとこさ」


「・・ま、あれだけやれば・・・まぁ~そうだな」


「あぁ」


主は、飲み掛けの瓶を指差し。


「軽くやるかい?」


Kは、首を左右に振って。


「酒も止めた。 あらゆる殆どが面倒になったよ」


「そうか・・、天地がひっくり返ったみたいな変わり様だな。 何だか、別人みたいだ」


驚きの連続を受ける主。


だが、Kは・・。 何処か神妙にして。


「実は、もう家業を辞めた手前でこんな形の挨拶もしたくないんだが・・。 先々を考えると、若しかして・・の事態を視野に入れて来たんだ」


「・・何だ。 随分と回りくどい言い方ってか、建前だな」


「悪い。 ま、その“建前”を云った上で聞いてくれ」


「ん? 何かの頼み事か?」


「いや・・。 声と背格好がそっくりなだけとしか云えないが。 ・・マッシュらしき奴を見つけた」


Kの告白を聞き、老いた老人の顔が見る見ると険しくなった。 紐から取った下着を握り締めながら。


「本当か?」


「あぁ。 顔を隠してたから、顔の確認が出来てない。 恐らく、この王都に来てるだろう」


鼻をムズっと動かし、あからさまに憤慨を見せて。


「よし。 俺が仕事で野郎を探してやる」


「そう言うと思った。 ・・・だが、止めてくれ。 俺が言いたいのは、奴の始末は俺がする。 何が起こっても、知らぬ存ぜぬで居てくれ」


Kの話を聞いた主は、目をギラっと血走らせる程に見開き。


「何を・・云ってやがるんだ? お前ぇっ、何を云ってるのか解ってるのかっ?!!」


と、Kに掴み掛かった。


Kのやや空虚な目と、怒りに眼光がギラつく主が見合う。


ドアに押されたKは、主の手を振り解く事もせずに。


「怒りは御最もだ。 アンタは、煮え湯を飲まされたみたいなモンだからな」


「それが・・解ってるなら。 下らねぇ事を・・・言うな」


怒りに狂いそうな自分を、何とか抑えて云っている主だ。


しかし、Kは・・。


「だが、奴は手下持ちで、“コンダクター”と・・呼ばれてた」


主は、更に過剰な反応を見せては、目を見開き。


「な・なんだ・・と?」


ややボロい部屋を見るKは。


「解ってるだろうが・・、“コンダクター”は悪党組織の現地司令官の通称だ。 しかも、コンダクターを名前の頭に付けるのは、ヒュノプオキスの遣る事だ。 どうやら、何者かに雇われて、マッシュ・・・いや。 ロドリナスと云う名前のヤツは、仕事をしている」


「・・・本当か?」


Kの衣服から、主の手が離れた。


「・・あぁ、間違いない。 変な話だが、仇討か・・・暗殺命令か知らないが。 一人のゴロツキを始末しようとしている。 それも、あの時同様に自分の手を汚さずに・・・な」


Kから離れて部屋に向かう主は、イライラして。


「あの時と変わらず、汚ぇヤツめ」


「だな・・。 それよりも。 冒険者協力会と、悪党組織は中立の立場を示している。 仕事で悪党組織を討伐しなければ成らない場合でも、捜査・解決に及ぶ踏み込みは冒険者自身に任せ。 主が率先して組織を潰す様な仕事を組む事も規制される。 あの時は、ヤツが組織の一員とは解ってなかったが。 今は判明してる。 アンタが昔の遺恨を盾に、仕事を組めば面倒に成るだろう?」


「・・・」


「始末は確実に着ける。 アンタは、何が起こっても黙っててくれ」


斡旋所の主は、静かに頷くのみ。


Kは、ドアの方に向いて。


「あれから7・8年だったか・・。 状況が落ち着いてるなら、その模様から過去が探れるかも知れない。 事実は、解った都度に何かの手段で伝えに来る」


「・・・解った。 金や塒に困ったら、相談してくれ。 ワシ個人の出来る事は、手を貸す」


だが、何も返事が無く。 主が振り向けば、もうKは居なかった。


(あ・あやつ・・・、ワシに気を遣ったのか? ・・なるほど、変わったらしい。 全く変わった様だな。 だが、以前より怖い。 いや、以前より強いのかもな)


主は、Kの変わり様に成長を見た気がした。 明日から、何が起こるか解らないと思う主は、風呂に入って酒を飲まずに休む事にした。


何時、どんな用事が舞い込んでも良いように、直に起きて対処出来る自分を整える事にしたのだった・・・。




:次話に続く

どうも、騎龍です^^


次もK編の特別編をお送りします。


ご愛読、有難うございます^人^

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