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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
19/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~

                セイルとユリアの大冒険 1






                  ≪焦りを包む風≫






「ドイツもコイツもっ!!!! モンスターに子供達が殺されるかも知れないって時に無関係決め込みやがってっ!!!!」


カミーラの大声が斡旋所に響いた。


子供達の親達が、昼を過ぎてもう居ても立っても居られなくなり。 助けに行くと飛び出そうとして主に留められたり、大声で泣き喚いたりと騒々しく。 その内母親の一人が斡旋所に出て来た。


「お願いしますっ!!! どうか・・どうか子供を助けて下さいっ!!」


と、懇願して縋る農家の中年女性を振り払った冒険者に、冒頭の言葉でカミーラが切れたのである。


斡旋所内に屯する4・50人の冒険者達が、カミーラに向かってそれぞれの居場所から視線を向けた。


「だったらお前が行けよっ!!!!」


若い生意気な顔をした剣士が、母親を振り払って押し倒した者だ。 この者も、昨日は子供達を助ける依頼を請けていた一人だ。


カミーラは、睨む目に殺気すら浮かべて。


「行くさっ!!! 手数が足らないから協力してくれって頼んでるんじゃないかっ!!! 腰に無駄な得物をぶら下げてる輩が偉そうに云うなっ!!!」


カミーラが、怒声を上げた。


ヒソヒソと話合う冒険者の数人が、居心地の悪さに外に出て行く。 今日は、雪が一休みと止んだ曇り空。 漸く陽が明けて、外の通りからの往来の雑踏が聞こえる中である。 


今は昼を過ぎて少し。 早くしなければ、今の時期では夕暮れは早い。 夜には、モンスターも活性化する。 今まで焦らされたカミーラだけに、本気で冷静さを失い掛けていた。


「カミーラ、もういい」


カウンターの中から、主が言って来た。


振り返るカミーラは、ムキに成って。


「なら行かせてくれっ!! 僧侶二人が居ればっ、十分切り抜けられるっ!!!」


疲労と心労で虚ろな主の目が、鈍く鋭くカミーラを見据えた。


「カミーラ、無理だ」


「何故っ?!!」


「良く考えろ。 行ったメンバーには、クラーク殿も、マガルも。・・。 そして、イクシオのチームのサンサーラも行ってる」


「だからどうしたっ?!!!」


怒るカミーラに、目を瞑る主は。


「此処に居る全員を束にしても、あの8人とは互角に思えない」


カミーラは、実力差を云われてグッと手を握る。


「・・・」


主は、斡旋所を見回し、動きを止めている皆に言った。


「済まないが、今日は仕事を受け付けぬ。 此処を少し閉める。 全員、出て行ってくれ」


すると、母親を突き飛ばした若い冒険者が仲間を見てから主に怒りの矛先を向けて。


「おいおいっ、勝手に閉めるなよっ!!!! そっちの勝手を、こっちに押し付けるなっ!!!」


その時だ。 主の眼光がギラリと光る。


「う゛・・・」


若い冒険者はたじろいだ。


怒りを孕んだ老いた主の目が、カミーラより恐ろしく見える。


「聞いた風な口を利くんじゃねえ。 此処に居るどいつも、ろくに仕事出来ねえで屯してる半端モンだろうが。 森に行って、ゾンビやスケルトンの一匹も相手に出来ねえ腑抜けに、一体どんな仕事を回せって云うんだ。 あ? 云ってみろっ!!!!!!」


主の声に、若い男の冒険者はビビって言葉が無い。 


直ぐに、別の冒険者チームが出入り口に向かって行く。 空けるドアの呼び鈴を鳴らすのさえ躊躇う様な仕草で、コソコソと外に消えていった。


「あ・・主さん・・・」


子供の母親が、倒れた場所から主に向かって這い寄る。


主は、母親から目を逸らし。


「仕方無い。 これから、王城に出向く。 騎士のお力を借りよう」


「おおお・・・」


何も出来ぬままに、このままどうなるのか解らずに母親はその場に泣き崩れた。 国の対応とは、急でも遅い。 何せ、モンスター相手などと聞けば、貴族は直ぐには動かない。 


力を無くして黙るカミーラ。


母親の泣き声が、斡旋所に響く。


もう、子供達の母親でも、他の者は気が狂いそうに嘆き悲しみ続ける者も居るし。 絶望に生きる気力が無くなって放心している者も居るのだ。 午前には、斡旋所にあの雑貨や武器を売る店の主と、甥っ子のジュンガが来て。 それぞれの親達に必死の顔で土下座していたのは、主には心痛い光景だった。


(もう・・・駄目かもしれんな・・)


全てを知ってる主は、最後の決断をした。 国に頼むのは一大事だ。 しかも、あの森の奥は秘密事項である。 真実を知るのは、この主と王とその側近の数人。 事を公にする責任は、主が負う必要が出てくる。


泣き崩れる母親をあしらった冒険者は、不満の漂う顔で仲間の元に行く。


険悪なムードに、泣き喚く母親の声。 この場に居る全員が、斡旋所に居る事をいたたまれない雰囲気に包まれて、ヒソヒソと話し合う。


そんな時である。


この場の雰囲気を破る様に、突然と云った感覚で出入り口が開いた。 勢い良く呼び鈴が鳴り、外の冷たい風が中に吹き込んで来る。


主も、カミーラも、冒険者達も、入って来た白い厚手のマントにフードを被った何者かと。 後から続く一団6人を見た。 


赤い金属の具足を白いマントの足元に覗かせるその者は、先頭で入って来た人物。 フードで良くは見えない顔を、呻き泣く母親に動かして。


「・・・あら?」


呻き泣く母親に気付いたその白いマントを着た先頭の者は、母親の前まで歩いて来て、雪の欠片を落としながらそのフードを取って顔を現した。 


「あ・・・」


主が驚く様に小声を上げた中で、白銀の髪を後ろに纏めて結い上げた白肌の絶世の麗人は。


「どうされた? こんな場所で泣くなど、徒事では無いでしょう?」


マントを開き、母親の脇に屈む若き麗人。 綺麗と云う言葉をそのままにした顔を母親に向けて、そっと母親の肩に手を回し、その身を起こさせて事情を聞こうとする様子が見えた。


その後ろで、次々とフードを取る背丈様々な冒険者の一団を皆は見た。


カミーラは、若さと美しさの迸る麗人を見る。 身のこなしからして、只者では無い。


(百合の紋章が入った白銀の上半身鎧・・赤い剣の柄・・・この美貌・・・まっ・まさかっ?!!!)


噂に聞いた事のある容姿だった。


誰よりも先に、主がカウンターに飛び付き。


「“風のポリア”殿かっ?!!!」


その場に残る全員が、現れた冒険者チームに釘付けと成った。








                  ≪地下の縄張り≫






暗い地下に降りたセイル達は、湿気の高い地下迷宮の様な通路を歩いていた。 水滴が天井や、太く丸い石柱などに付着して通路の脇流れる水路を形成する。 所々に水路へは橋が架けられて、入り組んだ地下通路を右へ左へと渡れる。


「なんか・・此処ってさぁ~、少し温かい」


そう言うユリアは、シェイドに加えて水の精霊であるサハギニーを両肩に乗せて、セイルの後ろにへばり付く。 怖いらしい。


地下通路は、横に5・6人は余裕に成れる広さを持っている。 水の温度の御蔭だろうか、館の中よりもここの方がずっと暖かい。


先頭を行くマガルとクラークにボンドスは、真後ろに光を宿すのを止めたキーラを控えさせながら。 各々がカンテラを持って歩く。


「凄いな・・。 この屋敷は・・地下も迷宮みたいだぜ」


キーラとセイルの間に居るイクシオは、随分と古そうな地下迷宮に興味をそそられていた。


エルキュールは、サラサラと流れる水の音を心地よく聞いて。


「でも、なんで地下に水路が?」


横のエルザは、直ぐに。


「エルキュ~ル、人の話はよ~く聞いて置くものよ」


「え?」


「さっき、クラークさんが言ってたでしょ? 今は平和だけど、昔は何が起こるか解らない争いや諍いが絶えなかった時代が有ったのよ。 火事に成ったり、館に立て篭もったりするのに水は生命線よ。 こんな迷路みたいな造りも、逃げるのに追っ手を撹乱させる為じゃない」


「あ・・そっか」


イクシオが、顔だけ脇目に動かして。


「貴族支配の時は、貴族が各領地を治めてた。 領民を匿ったり、逃がしたりするのにも地下は使われた。 それに、地下水は中々枯れないからな。 干ばつや水不足を補う上で、水を確保するのは貴族の権威保持に役立っていたらしいゼ」


ユリアは、小声で精霊に向かって。


(セイルの家には、地下に川が有ったわよ。 川って・・アリ?)


(あははは~、ご~かぁ~い)


小声で笑うシェイド。


(う・・羨ましか~)


サハギニーは水の溢れる川を想像してワクワクする。 精霊は、精霊力の溢れる場所には喜ぶ傾向が有る様だった。


さて、セイルは顔を真面目にしている。


「なんでしょうか・・。 この、凄い魔力の力は・・。 まるで、魔法の力を集めた何かでも有るような気配がします」


キーラも、同様だ。 全身に、ビリビリと魔力の波動を感じる。 魔や闇の波動とは別に、強力な魔想魔法が発動された直後の様である。


「ですね。 この先に、一体何が在るのでしょうか?」


緑のローブに身を包むキーラ。 此処まで来ても2年半以上前、Kの合同チームに参加した頃の弱弱しい彼は見えない。 落ち着いていて、何処となしか間抜けた印象だった顔が精悍に見える。 


さて、昼前後にセイル達はこの場所を発見した。 “く”の字に折れ曲がって降る階段を随分と深く降りて、この地下通路に下りた印象で。 もう、随分と時を過ごした気がする。


そんな一同の視界が、僅かに明るく見えて来た。


「何やら、前が明るく見えて来た様な・・」


不思議にとクラークが言えば、マガルも。


「確かに。 緑色の光が見えますな」


向かえば向かう程に、通路の行く先が明るく見えた。


その光に近付くに連れて、地下通路に平行して流れる地下水路が左右の奥へと離れて行く。


ユリアにしろ、キーラにしろ、光に近付くに従いどんどん不気味な力へと近付いて行くのが解る。 自然に無口に成り、緊張に心が支配されて行く。


そして・・・、遂にその場は姿を現した。


「なっ・何だ此処は?」


クラークは、その場に度肝を抜かれる思いがして思わず口にした。 もう、カンテラも要らないその場は、誰も見た事の無い場所だった。


急に開けた視界の先には、宙に浮ぶ円形の石造の間が広がっている。 深いとても大きな穴が、まん丸のままに20メートル以上は下に刳り貫かれた中。 太い石の柱5本に支えられた円形の間が、空中に存在しているのだ。 


ユリアは、その間に向かう石橋の上で。 縁の手摺りから下の空間を覗いては。


「ず~っと下の其処には水が溜まってる。 凄く深い水だって、サハギニー君が言ってるよ」


だが、一同はそれより不思議なのはこの丸い円形の間が浮ぶ円錐形穴の壁が、一面に緑色に光るのが何故か・・。 それが気に成って仕方が無い。


キーラは、キラキラと光って空中の間や穴の空間を照らす壁面し見ながら。


「イクシオさん・・これは・・まさか昔のヒカリゴケを水晶に閉じ込めるあの技術でしょうか?」


目を凝らすイクシオは、壁に時折走る緑の光の線を見るに。


「いや・・アレとは違う感じだぞ・・。 何だ、あの壁の側面を時々走る緑の光は・・・」


誰もが、この場の何もかもが解らなかった。


そして、空中に浮ぶ間の入り口に差し掛かる。


「うわあ・・怖い・・」


ユリアが怯えてセイルの後ろに回る。 


円形の空中に浮く間は、渡る石橋が来た通路側と。 その反対側に、橋渡しするかの様に2つ在る。 円形の間と橋との繋ぎ目以外の縁は、石で造られた手摺りの壁で仕切られているのだが。 その手摺りには等間隔で四角の支柱が填まり。 支柱の上には、翼を持った悪魔の姿をした化け物の石造が在ったり。 ガイコツの姿に剣を持った像まで10数体が置かれているのだ。 見たユリアが怯えるのも解る気がする程に、精巧な容姿をした石造である。 今にも動き出しそうな気配すら感じられた。


「気味が悪いな・・」


石造を見ながら呟く様にボンドスが云うと。


いきなり。


「ウルセエよ」


と、奇怪な声が。


「ん? 誰だ?」


マガルが、奇妙にダブる男のモノとも女のモノとも解らない声に反応し。 全員が橋から円形の間に踏み込んだ場所で警戒して立ち止まった。


「けけけ・・・カギだけじゃなくて。 俺のエサまで迷い込んで来たぜ・・。 若い人間の血肉は美味いからなぁ~。 嬲り殺してから、生で食ってやろう」


その不気味な声は、皆の左側の手摺りの外から沸き上がって来た。


「何者だっ、姿を見せろっ!!!」


クラークが、鋭く声を出すと・・。


「ウルセエな~、何様だ?」


不気味な声は、手摺りの外直ぐ其処まで来て聞こえ。 その主がヌッと顔を見せた。


「うわああっ!!」


ユリアは、見えた顔に怯えて顔を逸らす。


「うぐ・・あ・・悪魔だ・・」


セレイドがたじろいで、顔を険しくする。


「ほう~、俺が悪魔だって解るのか・・・。 僧侶が混じってるな」


人・・・顔は死んだゾンビの顔だ。 だが、真っ黒く腐り爛れている。 手摺りに掛かった手は、鋭く伸びた爪が蜥蜴の様であり。 背中には、蝙蝠の様な羽が伸びる。 顔は人並に大きいのに、羽や手は赤子に比べるしか無い大きさだ。 小さな身体は黒いブヨブヨの肉の塊としか見えない。


「こ・・コレが悪魔・・・なっ・なんと異形なっ」


初めて悪魔を見たマガルは、その気味の悪い容姿に衝撃を受けた。






                  ≪救援のチーム≫





昼過ぎ遅く。


斡旋所に現れたチームはポリアをリーダーとした“ホール・グラス”の面々だ。 Kとの出会いより3年近く。 大人の女性の雰囲気を纏ったポリアは、聡明な目をカミーラや主に向けていた。 体つきはあの頃と変わらない様に見えるが。 2年半以上の経過は確かだ。 雰囲気・態度、どれも落ち着いていて、一角の人物そうな感じがする。


「マスター、子供達やイクシオを助けに行くのは構わないわ」


そう言うポリアを見たカミーラは、美貌が先行するポリアの噂に、見るまでは噂が膨れただけで大仰な噂だと思っていた。 しかし、こうして目の前にすると、身動きに無駄や隙が無く。 冷静に物事に対処するポリアが噂に見合った人物だと解る。


だから・・。


「頼む。 我々も連れて行って欲しい。 森の奥に行った奴等には借りが有る。 どうしても、助けに行きたいんだっ」


カミーラは、集まった仲間や僧侶の男女二人を先頭に頭を下げた。


頭を下げられたポリア自身、このカミーラの噂は聞いていた。 だが、Kとの経験上。 依頼主に逆らう云々で、その人の全てを評価出来るとは思って居なかった。 必死に合同チームを作ろうとしていたカミーラの姿もまた、この女性の真の姿なのだろうと思う。


「いいわ。 此処に居る5人と、私達6人。 11人で行きましょう。 ただ、先に一つだけ言うわ」


最後を少し鋭く言ったポリアに、ダッカやジェガンが、ポリアに目を奪われた。


「何でも」


カミーラが応えると。


「もし、危ないと判断したら。 怪我人や子供達だけ、もしかしたら貴方達だけでも戻すかも知れない。 死なせる気は無いから、それだけは先に言うわよ」


カミーラから見ても、自分とポリアの戦士としての腕には開きが有ると感じられる。 それは、仕方の無い事だと思う。


「解った。 全て任せる・・。 リーダーは、アンタ以外に居ないと思うよ」


ポリアは、頷くと主を見て。


「マスター。 手続きをお願い」


先程と一気に光景が逆転した様だった。


カミーラ達だけの時は、他の冒険者達が態と無視して構う気も無い素振りだったのに。 今、この瞬間。 斡旋所内の冒険者達は一心にポリアを見ている。 有名でもありながら、その言動に風格すら漂うポリア達。 


先程、ポリアがリーダーで合同チームを結成すると云う話が出た時。 いきなりそのチームに入りたいと申し出が殺到した。


“有名なポリアさんと一緒にチームを組めるなら何でもしますっ!!!”


“いやっ、私達を一緒にっ”


あの母親をあしらった冒険者の若い男ですらそう言ったのである。


その、さっきまでとは全く違う態度にカミーラは怒り。 ポリアに余計な迷惑は掛けられないと、主がその全てを拒否したのは言うまでも無い。


だから今は、斡旋所内の至る所からカミーラ達に羨望の眼差しが向けられている。


ポリアは、殺到した冒険者達に何も言わなかった。 必要も無かったし、本当に無かったのかも知れない。


ただ、美女マルヴェリータやシスティアナの顔ぶれは変わらないが。 剣士ダグラスの姿は見えなかった。 彼は、1年前に別のチームに移動したのである。


カミーラ達を無視した冒険者達に見られながら、カミーラはポリアをリーダーとする合同チームに加わった。 総勢11名。 ポリアは、今までに5回以上も合同チームを組んで何れも仕事を成功させている。 その噂も高い評価を得ていて、合同チームを結成したがる風潮まで巻き起こしていた。 


さて、直ぐにポリアは仲間を連れ立って外に出た。


「あ、雪」


カミーラが、また振り出した空を見上げて白い花の様な雪を手に受け止めた。


ポリアは、仲間を見て。


「寒いわよ。 食料や持ち物はしっかりね」


システィアナは、ニコニコ微笑。


「助ける皆さんの分もひつよ~です~」


少女の様なシスティアナの姿は変わらない。 しかし、あどけなさが先行していた顔が、優しさや微笑が印象に残る様に変わっている。


ゲイラーも、大きな身体は変わらないが。 背負ってる剣が様変わりしている。 黒い柄に、何やら紋章の入る物々しそうな剣だ。 イクシオのチームに居るボンドス・キーラ・セレイドは、元はゲイラーがリーダーだった頃のチームの面々でもある。 合同チームの結成まで行く事態。 嘗ての仲間が心配である彼。


「ポリア、イクシオ達は昨日に森に入ったんだろう?」


「そうみたいね」


「行った場所は、国の中で丸一日って事は・・・何か有ったと考えていいよな?」


「多分」


降り積もり出した雪の上を、通りに沿って歩く一同。 其処で、青いベールを被るマルヴェリータが天候を見て。


「もしかしたら、子供達が見つからないんじゃない? 昨日の今日だから、寒くて暖を取れない状態で外に居たら凍死するわ。 捜してるなら、夜までには合流して捜したいたいわね」


ダッカやジェガンの目に映るマルヴェリータは、幻想的な女王様の様だ。 美しさも此処まで来ると、神秘的な香りを漂わせる。


このマルヴェリータは、ホーチト王国の宮廷魔術師総師団長の長であるジョイスと恋仲だったのはもう周知の事実。 数ヶ月に一度は必ずポリア達はホーチト王国を訪問する理由の一つにも成っているとか。


必要な買い物を終えたポリアは、直ぐに森へ向かう事に。 


道を行きながら、カミーラがポリアに。


「森まで案内するよ」


すると、ポリアは微笑んで。


「大丈夫。 門までの場所は解るわ」


「あ・・」


返答に困ったカミーラに、ポリアは笑って見せて。


「私は、この国の出身よ。 産まれは、此処」


横に控えるイルガは、幾分皺の多く成った顔を頷かせて。


「その通りですな。 我がお嬢様のご生誕の地・・・」


「あ・・・・そ・・そう・・」


“ご生誕”など、王族に対しての言葉である。 イルガの言葉に二句の繋げないカミーラへ、ジェガンとダッカが小声で噂を教えた。


ポリアはこの国の出身であり、1年前には自分の実家のあるアハメイルの街で、父親と決闘した話は巷を賑せた。 


ポリアの話だが。 彼女の母親の生家がこの首都に在る。 仕事で王城に出仕する時、ポリアの一族は、母親の生家を利用するそうな。 ポリアの母親の実家も、爵位のある名門。 だが、跡取りが病気で早世していて。 その跡をポリアの上の4人居る兄の一人が継ぐと決まって居た。 だから、もう略実家と変わらないのである。 実際、その母親の生家を継いでいる伯父夫婦は、ポリアを養女に欲しかったらしく。 今でも、殆ど子供の様に接してくれているらしい。


彼女は、この首都の街並みや、南の貿易都市アハメイルの事は深く知っている。 入り口の門の有る場所は、先刻承知であり。 若い頃は、どうやって忍び込もうか悩んだ場所でも在ったらしい。


話を聞くカミーラ達は、不思議な気分だった。 冒険者として生きるポリア達の会話は、なんとなく落ち着ける暖かさが篭る。 口の利けないヘルダーとのやり取りも自然で、チームの中心にポリアが支柱の様に備わっている様なのだ。


(コレが・・本当のリーダーか)


過去を引き摺り、強引にチームを引っ張る自分を詰まらなく思えたカミーラだった。







                 ≪悪魔の計画≫






封印された森の先に隠された様に佇む館の地下に巣食って居たのは、下級悪魔であった。 


クラークは、背中の槍に手を掛け。


「あれはレッサーイビル(下級悪鬼)のギャリスパだっ。 地獄の奥に住む悪魔が、こんな所に巣食っていたとはっ!!!」


悪魔には、その種類に由ってカテゴリーが異なると云われる。 最も地獄と呼ばれる魔界で力の強い種族は大悪魔デーモン。 その下が、強い怪力や魔力などの特徴的な小悪魔や悪鬼イビルや下級悪魔や淫魔などの亡霊や不死者に近い魔物デビルである。 だが、どの悪魔達も高い知能と魔法を操り、他のモンスターとは一閃を画す異形の化け物である。 しかも、存在が最も古いモンスターで、世界に生息するモンスター達の生みの親と言ってもいい存在なのだ。 そんな悪魔が、この平和なフラストマド大王国の首都内に巣食っていようとは驚きだろう。


腐って浮腫み、腫れ上がる顔の醜悪なギャリスパは四足をカエルの様にして手摺りの上に掴ると。


「フン、人間風情に俺を知ってるヤツが居るとはな~」


と、見下し嘲笑うかの様な感情を目や口元に浮かべた。


イクシオは、ジッと悪魔を観察して。


「喋れるのか・・・普通のモンスターとは訳が違うゼ・・」


ギャリスパは、首を軽く竦めさせて。


「“喋れる”だあ? フン、人間は何処までも自分達が一番凄いと思ってやがるよ」


と、悪態をついてセイル達を見ると。


「元々から言語を持ってたのは俺達悪魔の方が先なんだよ。 キサマ等神の生み出した人間に、絵を描いたり、歌い方を教えたり、言葉を教えたのは俺等悪魔さ。 神は、狡賢い人間に知能や言葉を与えたら世界が支配されるのを解ってたからな。 だから、教えなかった。 そのお前達に、発展の足掛かりをくれてやった俺達悪魔を下に見るとは、人間も神以上に仕えないゴミだね~。 ま、俺も人間の世界に長居し過ぎてか、こんなにも人間の言葉が上手くなっちまったがね。 うけけけけ」


「なっ、何だとっ?!!! 嘘を申すなっ!! この薄汚い悪魔めっ!!!!」


セレイドが、信仰故に憎む悪魔へ怒りを露にした。


だが、セイルはそれよりも気に成っている事を言う。


「でも、何でアナタは此処に居るのですか? さっき、“ガキ”がどうこう言いましたが。 子供達を知っているんですね?」


ギャリスパは、顔を90度右に傾けて。


「ほう、冷静に俺の独り言を聞いてたか。 ああ、奥の牢屋にブッ込んであるぜ。 これから、生贄にするために生かしてあるさ~けけけ・・」


ギョロギョロと目を動かし、気違いの様な様子を見せる悪魔ギャリスパ。 その場から、ポ~ンと飛んで、円形の間の奥へ向かう石橋の前に着地する。


「それはさせない」


ギャリスパの行方を見たマガルが、自慢の白銀の剣を抜いた。


だが、セイルは火蓋を切ろうとするマガルの前に立つ。


「?」


マガルは、何事かと思うのだが・・。


「悪魔さん。 “生贄”って、他に悪魔が居るのですか? アナタは、此処に居るのには理由が在るのでしょう?」


セイルの問い。 一同も、ギャリスパも止まった。


そして、ニタニタと笑い出すギャリスパは。


「うけけけけ・・・嬉しいねえ~。 俺の口から企みを聞き出そうとする人間が来るとはな~・・。 ああ、その通りさ」


ユリアはセイルの背中から。


「子供達をどうする気よっ!!! 還しなさいよっ!!!」


ギャリスパは、ユリアの声が負け犬の遠吠えに聴こえて。


「ケっ、だれが還すか。 やっと、やっと長年待った暗黒の街を築く時が訪れたってのによお~」


クラークは、このギャリスパなどは下級の悪魔の下っ端だと知っている。


「フン、お前にそんな力は無かろう。 大悪魔でも無いお前に、そんな事が出来る物かっ」


と、槍で突き込もうと構えた。


その時だ。


「はあ~・・・・・・・・」


溜息の様な、吐息の様な声が、地の底から吐き出されたかの様に聞こえる。 瘴気とは違う、もっと根源的な力の気配の塊が、溜息の様な声によってこの場に溢れ出た様な感じだった。


「あああ・・・」


「うごお」


エルザとセレイドが、突然に身を崩して四つん這いに成った。 魔と闇の力が湧き上がり、魔法を喰らったかの様な衝撃を受けて膝が笑ったからだ。


いや、立っている皆ですら、心の中を恐怖の手で撫でられる様な思いをその声に覚えて立ち竦む。 構えたクラークが、ゾクリと感じた恐怖に足が進まなかった程なのだ。


セイルが、真下を見て。


「居る・・・あああっ、地下に何かが居ますっ!!!」


その波動に気付いたキーラやユリアは下を見ていたし。 イクシオやボンドスなども、セイルの言葉に思わず下を見た。


ギャリスパは、ニタニタした顔をニンマリとして。


「うひゃひゃ、そ~ら。 此処の主のお目覚めが近いぜぇ~」


セイルは、直ぐに驚きの目でギャリスパを見て。


「ま・・・まさか・・・“ノーライフロード”(不死に目覚めた皇王)・・・」


「あはははははははは~~~~~っ!!!! そうさっ!! 200年前に死んだ王子さまってヤツは、愛した女を忘れらずに未練を不死に託したっ。 そのバカがっ、今日にも復活するんだよっ!!!! 捕まえたガキの血を飲ませれば、一気に力を取り戻して最強の不死モンスターの皇帝として世に蘇るっ!!! 日没までは此処で遊んで貰うゼっ!!!」


ギャリスパは、勝ち誇った様に高笑いすると。 ギョロギョロした瞳に黒い光を湧き上がらせた。


余りの衝撃に、言葉を失って立ち尽くすセイル。


ユリアは、震える身体を堪えてセイルの肩に手を置いて。


「セっセイルぅ~、ノーライフなんとかって何よお~」


同じく呆然とするイクシオが、呟く様に。


「“完全なる不死の神”・・。 ゾンビやゴースト等の最強の統率者だ」


ボンドスはいきなりの事に焦り。


「そんな化け物を蘇らせる訳には行くまいっ!! なんとかせねばっ?!!!」


エルキュールは、剣を抜いて額に溢れ出た汗を拭い。


「アイツを倒せばどうにか成るさっ!!!」


クラークも、それには同意見だ。


「うむっ、阻止せねばっ」


だが、ギャリスパはその場にウサギが立ち座りをする様にして、蜥蜴の様な両手に黒々としたエネルギーを湧かせて居た。


「“俺を倒す”? 出来るか? そんな子供みたいな人間連れたお前達がよっ!!! 出来るなら、コイツ等から倒してみなっ」


と、手摺りの石造の内、黒い翼を畳んで座る異形の悪魔の様な像に飛ばした。


「あっ!!!」


セイルが、グッとギャリスパに踏み込んだ。


驚くユリアは、シェイドやサハギニーとワナワナしながら。


「今度は何よっ?!!!!」


セイルは、ギャリスパの飛ばした黒いエネルギーを吸収する二体の石造を警戒しながら。


「ゴーレムイミテーターですよっ!! ガープが生まれますっ!!!」


「なぬっ?!!」


「ちィっ!!!」


石像を見て、左右に身構えたクラークとマガル。


二体の黒いエネルギーを受けた石造が、急に動き出して翼を大きく広げる。


―グガガガガ・・・-


鳥の鳴き声の様な奇声を上げて、二体の石造は円形の間に降り立った。


セイルは、自分の剣を抜いて。


「石像から生み出される人工生物ゴーレムですっ!!! 非常に硬いので、急所の顔か首を切り落として下さいっ」


やっと子供達の居場所が解りかけて、生存している事を知れたセイル達だが。 事態は、風雲急と告げていた。 

次話、予告。


遂に悪魔との決戦に入るセイル達。 次々と襲うアンデットモンスターを切り抜けるポリア達は、セイル達の元へ辿り着けるのだろうか。 


次話、数日後掲載予定


どうも、騎龍です^^


セイル編も、そろそろ佳境ですね^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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