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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
188/222

ウィリアム編・Ⅳ―2

                  冒険者探偵ウィリアム Ⅳ―2


                森の奥深くに広がるは、隔絶された神秘


                 ≪自然の奥に封じられし風景・後≫




マドーナ老人、シロダモ老人の語ってくれた昔の話は、この地に来て確信できた。 高地の密林地帯に入って、昼間。 広大な原生森林地帯を行くウィリアム一行。


行く手を阻む太い蔦を切り、仲間が巣に引っ掛かっては大蜘蛛を追いやって助け、底なし沼に入ったスティールを嫌々助ける。 原生の森の中は、獣道すらもなく。 斜面を下り木々の高さが増すに従い、鬱蒼とした密林の中を行く旅となった。


崖から見下ろした風景では、あの剥げた場所は近く見える。 だが、いざ行こうとすると・・。 その道は大変だった。


さて。


皆が汗を掻いて、漸くその開けた場所に辿り着く。 一番近い開けた場所は、間近に見上げる岩山が覗えていた。


「なんじゃ此処は~~~~~~~~っ。 真っ黒い地面が見えてるだけじゃないか」


と、スティール。


だが、しゃがんで土の匂いを嗅いだウィリアムは・・。


「この匂い・・。 強い硫黄や鉱泉物質を撒いてあるんだ・・」


エメは、その分析しているウィリアムに。


「何が撒いてあるんだって?」


土を手から払い落としながら立ち上がったウィリアムは、


「温泉や鉱泉に含まれる鉱物です。 硫黄とか、鉄分とか・・。 普通、鉱泉とは冷たい水を言うんですがね。 稀に、鉱泉と混ざり合う温泉が在りまして。 鉱泉を強く含む温泉は、その含まれる鉱物が岩肌などに付着しますでしょ? 黄色や・・緑色の鉱物とか・・。 温泉の湧く岩場に付着する鉱物を、この場に撒いてあるんです。 その力が強過ぎるのか・・、木が生えない」


と、説明する。


聞いていたギルディは、何の必要があるのかと。


「そのような事をして、何の意味が?」


その問いには、住民のフランクが答え。


「いや、それは恐らく虫除けと、木の種や雑草の種避けかと」


「虫除けは解るが、雑草や木の種とな・・」


疑問が解けないギルディへ、ハレーザックは周囲の森を見ながら。


「そういや、古文を読むに、“森に飲まれる”という表現が在ったな」


エメが、聞きなれない言葉で。


「“森に・・飲まれる”?」


「うむ。 古代のまだ文明に至らない我々の先祖は、モンスターの脅威以外にも多くの脅威が在ったとか。 その一つが、森に飲まれる・・と」


すると、ウィリアムが。


「恐らく、時期に解りますよ。 その・・・意味は」


と、開けた場所の地面の窪みなどを見る。


「後で・・解る?」


首を傾げた一行。


だが・・。


目的地を目指し、森にまた戻る。 すると・・・。


「わぁ、木の芽が一杯」


木々を掻き分けた場所で、エメラルドの様な美しい葉っぱを持った苗木の密集する所に出た。 驚くのは、その苗木の密集する場所は、他の木々が全く生えて居無い。


驚いたジョンは、ウィリアムの横からその木の芽の庭へ出ようとするのだが・・。


ジョンの肩を掴んだウィリアムは、


「・・多分、此処は非常に危険です。 遠回りに成りますが、迂回しましょう」


と、言う。


「ウィリア・・・」


何事かと聞こうとするアクトルは、驚く。


(どうした・・、戦う時の顔をしてやがる)


覗いたウィリアムの顔が、今までに無く険しくなっていた。


大きな二股の木の間からその木の芽を見るギルディは、奇妙な違和感に気付く。


「この場・・、奇妙な腐臭がするぞ。 それから、あの地面付近に見える白いのは、骨じゃないか?」


此処で、リネットが。


「何か投げてみようか」


と、持っている木の枝を中へ。


ウィリアムがギョッとして。


「ダメだっ!!!!!」


と、大声を上げた。


その直後。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!!!」


「どぅおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!!!!!」


ウィリアムが先頭となり、一同は森の中へと戻る様に逃げ返す。 大声を上げるスティールとギルディが、殿となって森の奥へ引き返す皆を護った。


・・何からと云うと。


バキバキと異常な音を立ててはあの苗木のような木々が急速に伸びて、その尖った鋭い木の枝が殿をする二人へと突き刺しに来る。


「クソぉっ!!! コイツっ!!!」


剣で枝を弾き返すスティールも、頬や肩口を掠る程度の枝を気にしてられない。


「ぬぅっ、何とシツコイぃっ!!!」


ギルディと二人、仲間の方に突き抜ける枝や。 自分の致命傷になる伸び方をしてくる枝だけを必死に打ち返すのだ。


伸びる速さに、魔法を撃つ暇なども無かった。


あの森の切れ目に群生していた苗木のような木が、今は触手の如く柔軟な動きで襲って来たのだ。 “伸縮芽、ジャンシャン・ドトゥ” 種から苗木へ僅か数日で変わり、その後に木の実を結ぶまでの数年間、生き物を襲って生きる植物である。


襲い来る枝先を打ち返したり斬りおとし、伸縮の届かぬ場所へと逃げる一行。 だが、森の中でロイムやジョンやクローリアの逃げる速度は遅く。 リネットやアクトルの武器では、鬱蒼とした密林の中では、振るうに難しい。 ハレーザックの格闘では、逆に危険で。 スティールとギルディで逃げる皆を護るしか無かった。 ラングドンを途中からウィリアムが背負ったのは、倒木に足を取られて宙に投げ出されるラングドンが乗っかってきたからだった。


人の足で大人の数十歩には相当する距離は伸びる脅威の木で、殿の二人の御蔭で死人が無く助かったのはいいが。 あの先程に立ち寄った開けた場所にて、木の枝を受けて怪我をした数名が動けなくなった。


「イデデ・・」


「むぐぅ・・嗚呼・・・痛い」


ウィリアムが刺さった木を抜いて消毒、クローリアが魔法で次々と傷を塞ぐのだが。 ジョンを常に庇ったハレーザックと、仲間を庇い続けたアクトルの体の彼方此方に木の先が刺さっていた。


「んぐぅ・・・、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


背中に刺さった木を抜かれたハレーザックは、アクトルの様な金属の鎧など着て居無い。 いざ盾と成るには、致命傷を防げないので自分が危なくなるのである。 5本の木を抜く痛みに、悶え大声を上げるハレーザック。 一本が脇腹を直撃していて、この後の行動に支障が出る傷だった。


「チィっ、なって木だ」


痛みに絶え、自分で木の枝の刺さる部分を確かめたアクトル。 あの間合いで、確信の掴めて居無いウィリアムには説明の余裕が無かったのは当然だ。 だが、知らぬリネットの軽率な行動も、悪いと責めるには遅い。


アクトルの身体に刺さった木の枝を抜いたウィリアムに、スティールが鋭く言ってくる。


「ウィリアムっ、こっちにっ!! リネットの出血が酷ぇっ!!!」


クローリアを護って肩口の首に近い場所へ木を掠めたリネットは、ブルブルと小刻みに震えて。


「す・済まぬ・・。 ッ軽率な・・・行動・・・」


と、謝るのだが。


重症の傷を診たウィリアムは、もうそれには構わず。


「黙って、血が多く出てます」


と、だけ。 出血の量が多かった為、ショックで震えが来ているのだ。


リネットの止血を見た掠り傷だけのスティールは、地べたにヘバり。


「ゼェ、ゼェ、何なんだあの木はよぉ~~。 はぁ、はぁ・・・アブねぇ・・」


クローリアを待つウィリアムは、


「あれは、ジャンシャン・ドトゥと言うらしいです。 原始の古代文献に出て来る伸縮する木なんだそうで。 見た目は苗木みたいでしたが、あれで立派な大人らしいです。 一個の株の寿命は、数年らしいですが・・。 あの様に群生して獲物を狙う奇妙な木の一つとされてます」


ヘバるスティールだが、


「なるほど・・・。 ん? おいおい、伸びるとか刺さるって、イグニート・スピアーズやハンター・デスみたいだな」


と、鋭い感覚を見せた。


「良くお気づきで。 古代植物の仲間で、喰獣植物の仲間です。 古代の原始的なヤツは、動けなかったんですが。 異株に別れてゆく過程で、動く種が誕生したのだと思います。 イグニートやハンターは、種としては新しい方なんだそうですよ」


話す間に遣ってきたクローリアが、リネットの傷をみて大慌てで魔法で塞ぐのを見るスティールは、これで一安心だと。


「なるほど、原始の森は普通じゃねぇ。 お前が実に怖いと言ったのも、解る気がしてきた。 こりゃ~~~切り抜けるまでの数日一杯までは、マジ本腰入れて進まねぇ~~と死人でるな」


・・・。


スティールの覚悟は、尤もの事だった。


リネット、ハレーザック、そしてラングドンとフランクの怪我が重傷で。 塞いだそばから動くと云う訳には行かなかった。


計画が狂った傍から冷静なウィリアムは、安全を考え。


「無理に動けば、怪我をした方は傷口が開きます。 今日は、此処で一泊しましょう。 丸太数本で雨風を防ぐ庇は作れます。 スティールさん、ギルディさん、調達に手伝ってください」


まさかまさかの足止めだが、ウィリアムはそれでも落ち着いている。 ジョンとエメに、止血の代わりにと、傷口の固定を再度行う様に指示し。 怪我の少ないロイムに、ジョンとエメの手伝いを頼んだ。


スティール、ギルディを連れ、森に入ったウィリアムは、倒木、食べられそうな野草や動物を狩りして周り。 野営に適した古木の枯れ木を見つけた。 木の根の真下が空洞で、ウィリアムが確かめても全員を収容出来る広さが在る。 天候が変わる兆しは無い為、ゆっくり休憩するのにか最高の場所だとあの広場に戻った。


皆で枯れ木の下のほら穴に入り、体力を落さずに抵抗力を上げる食事を作るウィリアム。 こんな時だからと、甘い飴を皆に配り。 スティールと下らない雑談に興じて、悲観的な雰囲気は出さなかった。

その輪に常にジョンが居て、旅で大きく成長しているとフランクは感じた。



                         ★



次の日は、象の仲間ながら、大きさが数倍は在る鼻の短い動物の足音で起きる。


「今日も密林の中を行きますが、無理の無い行動を・・・」


出発前に、皆にウィリアムが云う。


血が抜け、気だるいリネットは。


「解ってる。 勝手な行動はしない」


と、十歳は老けた顔で言った。


さて。


原生の密林を行く一行は、今までに見たことの無い動植物を目にする。


人の数倍は在る大きなキノコ。


群れて大型の豚を襲う飛蝗。


ジョンの背丈程のカメムシ。


黄金の光を放つゴキブリ。


刺激を受けると、木の上に逃げる歩行する花。


度重なる新種と云うべきか、見た事も無い生き物・植物にウィリアムが興奮。 キノコが食べられるかどうか、試してみようとしたり。 大きなカメムシを触り、悶絶するような臭いのガス攻撃を喰らう。 高い木の若い葉しか食べない大型の象と云う動物を眺め、一人で自然に馴染んだり。



初めてかどうかは解らないが・・。 スティールがウィリアムを宥め、旅を急がせるという奇妙な事態に・・・。


この日は、夕方には密林を抜けて。 広葉樹が雑木林の様に間隔を空けて茂る地帯へと出た。 地面の起伏が数十歩の間に大きく変わる地形が、鬱蒼として蔦が絡むのを阻止しているのだろう。 見晴らしは悪く、起伏の低い場所には、細い水の流れる所が在り。 暗がりの水場を好んで集まり、水を飲む大型の蝶が群れていた。


しかし。 この広葉樹林地帯に入ってから、群れて進む大型の象の仲間らしい生物を追従した。 岩がむき出す場所で、新鮮な湧き水の出ている水場を発見。 もう皆の水筒が枯渇しかけていたので、この水場は幸いであり。 また、その近くの起伏の在る森の中で、何かの生物か掘ったほら穴を見つける。 何かが棲んでいる気配が無いので、アクトルやギルディの手を借り男手で穴を拡張。 何とかこの日の野営も、安全に休めると思える場所を確保出来た。


夕暮れ、奇妙な鳥の鳴き声。 生き物の鳴き声が森に木霊する。


焚き火を熾したウィリアムの傍で、小枝の枯れ木を多く集めて来たスティールが。


「ウィリアム先生よ、この森ッチは、物凄く広大だのぉ~~。 何日で滝に着けるか、解らんぜお」


やはり、行って見ないとその場所は解らないものである。 予想と現実の違いは、何処かに出るものだと思うウィリアム。


「ですね。 一応北西方面に向かっているんですが、中々水の流れが感じないんですよね」


「あ?」


聞き返すスティールの横に、ジョンも来て。


「水・・ですか?」


ウィリアムは、水袋に入れた新鮮な水を丈夫なだけの金鍋に注ぎながら。


「目指す滝は、湧き水の作る細い川が合わさり本流となった上流から、河川を下流に辿れば着けるはず。 ですが、此処まで空気に水気を孕んだ感じはしてないです」


ウィリアムの見立て以上に、この原生の森は複雑にして怪奇な場所だった。 滝まで、あと2日以上は見なければ成らないらしい。


が。


ジョンが思う以上に元気で、スティールやウィリアムやハレーザックと良く話す。 ギルディがウィリアムに不満を持たず、フランクも乗り掛かった船だからと覚悟を決めていた。 ロイムが文句を言おうが、エメが辛口の話をしようが、この疲れが溜まる中でもまだまだ結束が覗えた。




                      ★


次の日。


広葉樹の森を抜ける。 大地の起伏の安定に伴い、どんどん木が巨木に成ってゆく森を行く。 その内、もう他の土地では生えてないと云うブナの木が目立つようになって行った。 白く特有の四角い形に成る幹が、規則性を揃えて生える森が美しく見える。 あまりにも木が大きく太い為、木々の間の間隔も自然に開いて、丸で人工的な手入れをした様な森を行くのだが・・。


「うわぁっ!!! ウィリアムっ、デッケェ蚊・・・いや蝉ぃぃぃ?!」


後ろ足の二足歩行で、自分よりデカい見上げるような蝉が近付いているのを見たスティール。


「吸血性の蝉ですっ!! 木の裏に隠れてっ!!」


人の3倍は有りそうな身体の蝉が、ノッシノッシと木々の間を抜けてやってくる。 数本の巨木に分かれて隠れた一行は、ウィリアムが手合図で蝉と離れて進行しようとする。 ギルディはジョンを背負いエメを連れて、最初に蝉をやり過ごして先に抜ける。


次に、リネットがクローリアを護りながら、巨木二つ先を通り過ぎる蝉をやり過ごして逃げようとする。


だが、そこで蝉が動きを止めた。


リネットとクローリアの居た木の方に、大きな巨体を動かす蝉。


ウィリアムは、自分側に蝉が向く事で、背後に成った側に居るスティールとフランクとラングドンに“行け”の指示を出す。


ウィリアムの下に残るのは、ロイムとハーレーザック。


(どうする・・ウィリアム)


ハレーザックが小声で聞いてくるので。


(蝉の出方に合わせましょう)


と。


蝉の大型種は、ノソノソと木々の間を横に向かって移動。


ウィリアムは、ハレーザックとロイムを、スティール達の居た奥側に行かせる。 隠れる木を背に、蝉の大型種と対峙したウィリアムは、ハレーザックとロイムを逃がす事を優先し。


(流石は、手付かずの原始の森。 断崖と渓谷の檻に護られ、古の風土や自然形態を今に残してる。 見ても、壊しちゃいけないものだ)


モンスターを誘き寄せる腐臭を放つ大鋸屑の様な物の玉を、腰掛のベルトにつけるサイドポケットから取り出す。 水分を完全に飛ばし、蝋で外側をコーティングしてある物で。


(コイツで・・)


地面にそれを落とし、足で踏んで砕いてから水を・・。


すると、水を掛けてから直ぐ。 蝉の大型種は、羽を小刻みに震わせて辺りを窺う仕草を繰り返し始めた。


離れた向こうから皆が見守る中。 ウィリアムは蝉を遣り過ごし、木を背にして急に間近の木の陰から現れた。


「うぉ、以外に近い」


驚くスティールの元に戻るウィリアムは、そろそろ西側に移動方向を変えようと。


「あの森の切れ目に沿って、西側に向かいましょう」


と、そのまま先頭に立って歩き出す。


が。原始の森はその牙を鋭く研いで、森へ侵入したウィリアム達にまだまだ向けて来る。


蝉の大型種と出遭った森と、鬱蒼とした密林の境目を行く事にしたのだが。 その密林の木々に、ウィリアムは何度も立ち止まって警戒を見せる。 そして・・、6度目の警戒時。


「皆さん、来ましたよ・・。 合図と共に、一気に走って下さいね」


と。


ギルディは、警戒は怠ってなかった。 しかし、何が来たのか全く解らない。


「ウィリアム・・今度は何だ?」


だがこの時、アクトルは、その茂みの中で一際に新鮮な緑色を放つ斑点の浮かんだ物を見た。


「おい・・ウィリアム、あの向うに見える緑の蔦・・・まさかっ?」


ウィリアムは、流石に襲われた経験が在るアクトルだと。


「御名答です。 この先は、ハンター・デスの狩場。 密林側の森に入ったら、見分けるのが困難で危険過ぎます ですから、このまま境目を行きます」


ハンター・デスと聞いたフランクは、もう脅えて。


「ウィリアム君っ、デスの蔦をかわして逃げるより、少しこの広い森側に戻って行けばいいのではないか?」


と、当たり前の提案をしてくる。


所が、だ。


自分達の来た森の方を見たスティールが。


「それも難しいでぇ。 後ろの向こうを見てみろ。 蝉のデっかいのを含めて、森の捕食者が俺達を探し始めてるみたいだ。 空では鳥が脅えてるみたいに逃げてゆくし、昆虫も逃げ場・隠れ場を探してる。 ホレ、あのジョンみたいな大きさのウサギ見てみろ、家族連れて逃げてくみたいだ」


何時の間にか・・と云う様に、森が騒がしくなった。


ウィリアムは、密林の奥もザワついているのを聞いている。


「我々の存在に気付き、広範囲の移動が可能なイグニートなどの捕食植物も動き出したのでしょう。 密林側からこっちの森に逃げ込んだ動物の騒ぎに、我々が来た森側からも気付いた捕食者達が捜索に動き出したって所ですかね。 とにかく、このハンター・デスの身近な脅威から逃げましょう」


スティールは、両手をワキワキさせて。


「チッキショウ・・。 これから逃げるヤツの実が、エリクサーの原料の一つなんだったなぁ~~。 ったく、取ってハーレムを作る資金にしてぇ~~。 おし、逃げる気力は十分だぜっ!!」


ハレーザックは、ウィリアムに。


「撃退してしまわないのか?」


すると、ギルディが。


「バカ、周りの森のザワめきを聞け。 立ち止まれば、四方の逃げ場無くして囲まれる。 夜まで戦い通しに為るやも知れないわい」


「・・・嗚呼。 そうか」


山の夕暮れは早い。 夜に為れば、それこそ大変である。


ウィリアムは、足の遅いメンバーを巨木の木一本分奥側へと寄せて。


「では、行きますよ。 もう、逃げないと」


と、走る合図を出した。


また、ロイムやジョンを護りながら、ギルディとアクトルが盾になって走る。 一方、ウィリアムとスティールが最も密林側に近付き走った。


皆が走り出して、直ぐ。 “ヒュッ”、“シュルシュルっ”っと、空気を切り裂いて緑色の鋭い先端をした蔦が飛んできた。


「なんのっ」


「よいっ、そらっ」


ウィリアムとスティールは、ダガーや剣でそれを弾き返す。 走らなければ、ラングドンの魔法で盾を作りながら進むのがいいのだが・・。


ーキィ!!! ウキャキィー


密林の奥から、猿の鳴き声が・・。


新たな襲撃を予測したウィリアムは、スティールへ。


「猿の大型種も居ますっ!!! 肉食の獰猛なヤツで、特に群れて来るそうです。 先方で来る猿は倒して構いませんっ!!!」


「オーケーっ!!! 出鼻を挫こう作戦、だなっ!!!」


鋭い槍の様な蔦の雨を掻い潜り、ウィリアムとスティールは、その高い身体能力も生かして先陣を駆け抜ける。 二人がハンター・デスの反射的な蔦の突撃を促す為に、やや遅れて巨木を盾にしながら進む後列隊に被害は少ない。 寧ろ、四角い幹をした間幅のある森の方が騒がしく、それが心配になるほどだ。


先陣を走る二人は、パッと密林の茂みを割って飛び出して来る野人の様な猿を、時には蹴り飛ばし。 時には斬り倒して、その死体を盾にしてハンター・デスの蔦をやり過ごして行く。


ハンター・デスの蔦の先端は、固い爪の様な琥珀色の棘に為っている。 ウィリアムのダガーや、スティールの剣で弾き返せど、斬り裂ける代物ではない。 が、一度伸ばした蔦を戻して再度飛ばすのには、相応の時間を要すらしい。 巨木の地面に伸びきった蔦が、ズルズルと不気味な音を立てて戻る。 この間こそ、足の遅い者達の逃げる間合いなのだ。


また。


大人の男ほどの大きさをした猿人種は、片手に木の棒や岩を持って来た。 知的な種族で、森を群れで移動しながら生きる生物である。 ウィリアムとスティールが、5匹の猿を倒した所で、森の中から短く発する声で、“ボォ、ボォ、ボォ”と聞える。 それ以後、猿人は襲ってこなかった。


さて、ハンター・デスの蔦を遣り過ごし。 どちら側の森も騒がしくない所まで行き着いた先は、崖だった。 皆が佇む場所から、夕日が沈む光景が遥か遠くに見え。 崖の右側の下方には、その沈み行く太陽に向かって延々と伸びる段差の崖が、まるで階段の様に見える。


頬や額に全身へと細かい掠り傷を作り、汗に塗れた額を腕で拭うスティールは、隣に立っているウィリアムに。


「滝は、どっちだ?」


ウィリアムは、夕日の見える彼方の下方に、霧が掛かる場所を指差し。


「あの辺ですね。 幽かに、音が聞えます」


すると。


「こ・こんな奥地から、僕達のご先祖様は来たんだね。 こんな過酷な森の中で、ご先祖様って凄い生き方してたんだ」


土の付いた腕で顔を擦ったジョンは、顔を汚しながらも命からがらといった旅を繰り返す今が。 嘗ては森の奥で壮絶な生活をしていたと思う先祖と、少しだけ近いと思った。 


傷に効く草を噛むウィリアムは、ハンター・デスの蔦が掠りヒリヒリとする顔の傷に唾を塗り引き。


「流石に、一筋縄では滝を見せてはくれませんよね。 自然の危険な生物や植物と、こんなに遭うのも此処ならではですが・・。 ま、野営できそうな場所を探しながら、この段差の有る斜面を降りてゆきましょうか」


森の西側、神秘の隠された渓谷に近付いたのだろう。 遠くから、やや幽かだがゴウゴウと云う水の落ちる音がして来る。 野性の生物を一端はやり過ごした今は、巨大な階段を思わせる段差の地面がこれからの難所であるらしい。


大汗で臭う自分が解るギルディだが、ウィリアム特性の虫除けの効果が続いているのを感じながら。


「森の西側に行くには、この段々に下る斜面を行くのか。 ロープを出すか?」


と、荷を外した。


ゼーゼー云っているロイムやクローリアは、


「う・うそ・・。 まだ・・行くの?」


「出来る・・・なら、少々休みたいですわ・・。 はぁ・・はぁ・・」


もう走り疲れ、二人の言う気持ちも解ると思うアクトルは。


「爺さん、もう歩けよ」


と、一番涼しい顔をしているラングドンに言った。 足を大怪我した手前、アクトルに一時背負われたラングドンで。


「解っとるよ。 もう走る必用も無いじゃろうし」


まだ50そこそこを過ぎたばかりのラングドンだが、時々ジジィ気取りになるのが困り者だった。


しかし・・。


「どっこら、ワシの魔法の出番じゃの。 霧も無く、見晴らしが良いわえ。 魔法で段差の下まで降りる石の階段を作ろうか」


大地の力を借り、岩のテーブルを生み出すラングドン。 皆をそのテーブルに載せ、巨木も届かぬ高さを下った段差を降り。 彼方に向かって続く階段の様な段々崖に下りた。


その崖に降り立つと・・。


「おいおいおいおいおーーーーーーーいっ、崖の下に地下水路が在るやんけっ!!!!」


スティールの大声が響く。


崖の左側、ギリギリに立つと、暗い奈落の闇の様な下の方から、ゴウゴウと水の流れる音が聞えるではないか。


ウィリアムは、高所恐怖症で立てない数名を他所に、スティール・アクトル・ジョンと4人でスレウsレにしゃがみ。


「あ~~、岩の下に地下水脈として上流域が出来上がっていたんですね。 ま、この段差の崖を下れば、滝に行き着くのは間違いないッスね」


アクトルは、音を聞き。


「おぉ~、水の御蔭で涼しいな。 あ~~、いい風だ」


高所を見下ろすのが苦手なフランクは、


「ジョン、そんなギリギリまで行き為さんな。 落ちたらどうするんだ」


膝を折って、暗い崖下を見ていたジョンで。


「そんなに怖くないよ、お父さん。 僕達の乗ってる岩、すっごく厚いよ」


同じく怖いクローリアは、


「あぁ、あんな所で立つなんて・・」


と、顔を背け。


ロイムも。


「見てるだけで、落っこちそう」


と、肩を自分でさする。


リネットは、随分と離れて居ると思うギルディに。


「怖いのか?」


アクトルに負けぬ大男ながら、そっぽを向くギルディで。


「昔、崖から落ちた事があってな。 元々から恐怖症だが、一団と増した。 はっきり見えるのは、イヤだ」


一方。


崖の棚を見回すエメは、次の段差下に古木の倒木を見つける。


「ウィリアム、あの倒木はもう朽ちてる。 上手くすれば、中で休めるかも」

どうも、騎龍です^^


この話も、残り3・4話と成ります。


ご愛読、有難うございます^人^

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