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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
186/222

ウィリアム編・Ⅳ―2

                 冒険者探偵ウィリアム Ⅳ―2


               森の奥深くに広がるは、隔絶された神秘


                 ≪腐森林を抜けて・・・≫




・・・昼過ぎ。



「今日は・・・此処で休みましょう」


細く高い滝が、ゴウゴウと音を立てる大河の様な川の上の宙に浮いている皿のような岩場に落ちている。 その水が溜まる岩場間近の洞穴で、もう気分が悪過ぎて横に成るしかないウィリアムが言った。


「お・・おえぇぇ・・」


「うぶっ・・ううぅ」


ウィリアムの左右で、気分が悪くてもう起き上がれないと言う様子のスティールやアクトル。


「ザック・・。 あ・後で、・・説教だからな。 おうぇぇっ」


飲んだ水を戻したギルディは、充血した目に非常な苛立ちを孕んでいる。


「嗚呼・・、スマン」


崖の壁に、潜れる様な横穴が在り。 崖側は壁が崩れて外が見えている。 この穴の先に、宙へ突き出し、細い滝を受け止めた皿の様な岩が突き出していた。 フランクが見つけた場所で、休憩・野営するにはもってこいの場所である。 誰が立っても十分な高さと、洞穴なのに乾燥した平たい場所が在るからだ。


うつ伏せに寝転がりながら謝るハレーザックを含め、甘い香りに誘われてしまった仲間を助けたのが、ウィリアム、アクトル、スティール、ギルディである。 ウィリアムに飲まされた薬と、後から鼻に付く甘い“死寵華”の香りに気持ち悪さが重なり。 副作用と幻覚・睡眠症状に抵抗する肉体が、極度の不愉快・不快感と云う体調悪化の症状を訴えて悲鳴を上げていた。


「う~~ん・・うぅん・・」


「痛い・・あ・頭が・・痛い」


死寵華の香りで眠りに落ちたロイムやクローリアは、頬を叩かれてでも強引に起こされた。 命は助かったものの、死寵華の匂いに遣られた者達も、酷い頭痛に悩まされている。 リネットとラングドンは、奥の水が溜まる岩場で顔や頭を必死に洗っている最中である。


また・・。


「クソっ・・、冒険者なんか・・」


ジョンから薬の入った薬湯を貰ったエメだが、頭痛の酷さと怠さで動ける状態ではなく。 先程から、冒険者の悪口ばかりを口にして唸っていた。


ウィリアムから薬の原料を効いたフランクは、これは大変だと調合に追われている。 煮出す係りのジョンは、全員に均等に薬が回る様に頑張っていた。


そして、薬を飲んだ全員が休み始めてから、少し。 夕方を過ぎた頃。


「ふぁ~~~~~~~ぁ。 余りの気分の悪さに、夕方まで寝ちまったゼぇ~」


スティールが目を覚ます。 絶壁の洞穴の中では、もう焚き火の準備までが終わっていた。 ジョンとフランク親子が頑張ってくれたのだ。


「お、ウィリアム。 イイ匂いだぜ」


一番先に起きたウィリアムは、薬湯を利用して鳥の干し肉と香草でスープを作っていた。


「薬膳スープってヤツですよ。 明日までは、我々は安静にしないとね」


薪代わりの木の枝を束ねるジョンと、ウィリアムの間に座ったスティールで。


「ジョン、オヤジさんと一緒にアリガトな。 苦かったが、薬が効いたゼ」


スティールに言われたジョンは、思いの他に穏やかな笑みで頷き返す。


その頷きを見て、少年の頭を撫でたスティールは。


「所で、ウィリアム先生よ。 あの“死ナンチャラ”って花、この後ろの森に一杯生えているのかい?」


スープに野菜代わりの野草を入れるウィリアムで。


「え~っとですね。 フランクさんの言った“死寵華”と云うのは、あの魔草の総称です。 我々が苦しめられたのは、この地域のこの森にだけ生える種ですね。 スリープ・セリシラ・ホローリリス」


「う~ん、“ホロー”ってのが因縁深いゼ」


「あははは」


笑うウィリアムに、


「どうして、因縁深いの?」


と、聞くジョン。


スティールは、両手をワキワキさせて。


「前に、その名前でチョーーーーーーーーー悪い奴が居たのさ。 俺とウィリアムでな、ギッタンギッタンのバッキンバッキンにしてやったんさ」


「うわぁ~~~、カッコいい」


すると、スティールは前髪を掻き。


「フッ。 全人類からカッコ良く思われちゃう俺様」


横を向いて、意味深にゲンナリのウィリアムだが・・。


「世界に、“腐森林”は多数在ると言われてます。 場所が解っているのだけ言いますと、北の大陸では、他に2つ。 東の大陸に3箇所。 西の大陸に一箇所。 最後は、常に移動している魔の大陸“アグラット・フォーバナー” 別名、魔の神竜が棲む“ダークネス・セフィロコート”」


「ほぇ~、あんな伝説の島にまでか。 ま、魔の島って言うぐらいだから、島全体がそうでも頷けるが・・」


「その島には、デス・ラピュー・ホロ-イリスと云う種が在るそうで。 匂いを嗅いで倒れると同時に死ぬそうです」


スティールは、イイ匂いのスープを見ながら流し気味に。


「ほぉ~」


と、云ってから直ぐに。


「なぁぬっ?! 眠りじゃないのか?」


「いえいえい、死寵華の中でも最凶の種ですので。 一撃で気絶して、そのままサヨナラだそうな」


「・・・」


スティールとジョンは、何故か互いに見合っては先にジョンが。


「い、嫌だ・・僕」


すると、スティールも。


「僕もイヤっす」


ウィリアムは、その死寵華の千切ったのを入れた薬瓶を見て。


「ですが、ハレーザックさんの採取した花は頂きました」


スティールとジョンは、一緒に驚き。


「え゛っ」


「マジかよっ」


しかし、ウィリアムの顔の涼しい事で。


「この花は、アル薬に成りましてね。 結構イイ値段で売れるんです。 今回は、薬の費用が嵩みそうなんで、コイツで補填しないと」


あんな目にあっても、この花を利用しようとは・・・。


スティールは、下半身を指差し。


「ギンギンに成るとか?」


ジョンは、顔を真っ赤にして俯く。


ウィリアムは、サラリと。


「女性の方面で・・・」


スティールは、チョット興奮して。


「わぁ~~~お」


しかしジョンは、


(じょ・女性って・・・どうなるの?)


と、女性の事など全く想像つかなくてドキドキするのだが・・。


ーゴキン、ゴキンー


鈍い音が二つ。


「おい、ジョンが聞いてるのに、何を云ってるんだ」


と、アクトルの声。


左右に頭を傾げているウィリアムとスティールで。


「まだ・・ご理解できないかと・・」


「俺もそうおもう~~~」


と、痛みを堪える。


焚き火の前に座ったアクトルは、乾燥パンを出して。


「イイ匂いに腹が空いた。 スープ、もう飲めるのか?」


ウィリアムは、アクトルの木椀を指差し。


「イイですよ」


すると、スティールも。


「俺も食べよ」


と、荷物の集められた方へ。


其処へ。


「いやいや、凄い薬草の宝庫だ。 嗚呼、半月ぐらいは篭っていたい森だよ」


と、フランクが戻って来る。


ウィリアムは、同じ性質なのでソレが良く解り。


「此処は手付かずの森なので、本当に素晴らしい場所です。 何か、主立って欲しかった薬草などは在りますか? 明日一日なら、自由に此処で採取も構いませんよ」


戻ったフランクは、ハチミツの固まった物をウィリアムに渡し。


「それは在りがたい。 明日は、採取に付き合ってくれ。 此処は、確かに宝庫だ」


ウィリアムは、火で軽く炙り。 溶かしてハチミツを頂こうと思いながら。


「解りました。 いやいや、今日はご迷惑をかけまして済みません」


荷を降ろすフランクは、日に焼けた大人の顔を笑顔に。


「いやいや、あんな恐ろしい草に出くわすとは思わなかった。 薬の調合も出来たし、良い経験だよ。 寧ろ、生きて還ってきた君達を見れて嬉しかった。 生還者の話は、今まで無かっただけに面白い」


さて。


やっと起きてきたハレーザックに、待ち構えるのは一同と云う場面に成る。


「あ・・ご一同、真に・・・済まない」


直ぐに大声で一喝したギルディだが・・。


ウィリアムは、先ずと。


「何処に生えてたんですか?」


焚き火の周りに入ったハレーザックは、クローリアからスープの入った木椀を受け取ると。


「助かる・・。 いや、何処と云う感じではない・・・。 記憶が確かなら、木の根元の幹辺りから生えていた様な・・・。 光る花など珍しいと、仲間に持ち帰ろうと思って捥ぎ取ったのだがなぁ。 それから、全く記憶が無い感じだ」


靄の中で、遅れようと離れようと居ると思い込んでいたスティールやギルディ。 ウィリアムが気付かなければ、それこそ大変だった。



そして・・、次の日。



小鳥の囀りを聞いて起きたウィリアム一行。


で。


「エメ・・、胸の辺りが気分悪く無いかい? おれの優しい手で、擦ってあげるよ」


「ウルサイっ」


「げぶっ!!」


もう誰も構わないアホらしい行為が始り・・・。


「く・クローリアぁぁぁ、俺の傷と・・朝からギンギンなアレを・・うげぇっ!!!!」


ボコボコにされるスティールを、誰も助けない。


「う゛・・ウィリアムぅぅぅ・・・たぁ~~~~~~」


岩の地べたを這うスティールだが、ジョンにツンツンされるぐらいで誰の相手もされない。


「おい、ウィリアム。 相当、森を動き回るのか?」


「フランクさん、水筒持って行っていい?」


採取の準備に追われ、皆があれやこれやと動き回っていて・・。


「ぐぇっ・・・、わぁっ!」


アクトルに踏まれたり、リネットに蹴られるスティール。


エメとフランクに付くロイムやクローリアは、スティールを見る事も無く出て行った。


アクトル、ハレーザック、ジョンを連れるウィリアムは、半数の仲間が出て行った直後。


「スティールさん、そろそろ行きますよ。 早く復活して下さいよ。 仕事なんですから」


「ふぇ~~~~~~~~~~~~~~~い」


起き上がるスティールに、ジョンが昨日の残りのスープを木椀に入れて差し出す。


礼を言ったスティールは、


「所でウィリアムよ。 なんでこの森まで、山道が整備されてないのかね? あんな腐った森を通らないと来れないなんて、不便極まりないっす」


「何を云ってるんですか。 腐森林が高い断崖の影に在って、その続く先にこの森が在るんですよ? 山道を作るとしたら、広大な断崖絶壁の間に穴を掘らないと・・・。 そんな穴を掘ったら、我々が最初に街へと来る森側から、モンスターとの戦いを覚悟した一大国家事業クラスの費用が掛かります」


「ぶっ」


スープを吹きそうに成ったスティールで。


「あい? あっちから掘らないとダメなのかよ」


「はい。 マドーナさんやシロダモさんの話では、我々がロファンソマの街へ来る時に上った渓谷街道って在りましたでしょ?」


「おうおう、あのブルジョミンから来る時に上った乾いた道だろ?」


「はい。 アレ、元はこの森から続く大渓谷の一部なんだそうです。 しかし、地面の隆起活動であの一部が高く高く盛り上がり。 ホラ、恐らくこの洞穴の外の下を流れる渓谷と分断されたみたいなんですよ」


「ひぇぇぇぇぇ~~~、そうだったのか。 向うの森には、マンティー・ロガとか居たものな。 穴なんか開けたら、こっちも危険に成るの」


「です」


ハレーザックは、大型モンスターのロガの名前に。


「ふ、あんな凶暴なモンスターも・・。 で、君たちは戦ったのかな?」


これにはスティールが。


「あぁ、デカさにはちっと梃子摺ったが。 最後には、ラングのじいさんとロイムの魔法で倒した。 いやいや、毒の尻尾が、あんなに高価に売れるとは思わなかったがね」


この話を聞くハレーザックは、結成してまだ半年も経たぬチームにしては、なかなかに遣ると思う。


一方のアクトルは、何処でそんな話をしていたのかと思い。


「お前、あの爺さん二人と知り合った時にそんな話を?」


「えぇ。 ま、その後に事件が起きて巻き込まれましたが・・」


「運命みたいな感じだな」


「そうですかねぇ」


遅れて外に出る5人。 スティールは、昨日は苦しくて全く景色など見る余裕など無かった。


が。


「おいおい、見ろよアーク。 こりゃ~~」


「ん。 正しく、絶景だな」


右手に、聳える断崖絶壁の山が有るのだが。 その巨大で雄雄しき一枚岩の左手には、青々とした緑が、段々の山岳大地に生い茂っている。 自然の長閑な風景が、時間を気にしない悠久の時をを刻むように見えている。


薬草採取に動き出す一行だが、ジョンにアクトルとハレーザックが従う中で。


「その薬草を、根っ子から。 あと・・あの岩場に落ちている丸い木の実で、まだ黒く熟してないのを取りましょう」


ジョンが言えば。


「じゃ、私は木の実を」


「俺は、草を抜くか」


違うチームの二人ながら、窮地を脱して存在が近くなった所為か無駄な言葉が剥がれて来ている。


ジョンは、そんな大人の間でも仕事に熱中していて、緊張している様子は見えない。


さて。 ウィリアムとスティールは、身軽な分だけ木登りなども得意であり。


「あ、アレが欲しいですね」


「よし。 アッチのは、俺が上るか?」


草だけじゃなくて木の上の果実なども採取に動く。 チョットした崖や木などは、鎧も置いて来た二人には大した高さではなかった。


その作業の中で。


真っ赤で円盤型の小さな木の実を採ってきたウィリアムは。


「この木の実、貴族の間でリラックスに食べられるものです。 食べてみます?」


ハレーザックは知っていたが。 スティール、アクトル、ジョンは、互いに見合いながら口へ。 噛めば粘り気の強い果肉で、噛めば噛む程に爽やかな酸味と甘みが出る。


「モグモグ・・美味いな」


と、言ったスティールに、他の二人も賛成と頷く。


ハレーザックは、この実の香りが良いと。


「この木の実は、口臭も他人に気にさせないからな。 半日ぐらいは、この爽やかな匂いが残るから、貴族の間では舞踏会に出る前のエチケットとして噛むらしい」


と、知識を披露したり。


新たなる薬草を求め、それから渓谷の近くまで降りると・・。


「わっ、サソリっ!!!」


ジョンが大きなサソリを見て、アクトルの背後に逃げ込む。


ウィリアムは、これはと。


「そのサソリの毒、高く売れます」


アクトルが斧でサソリを押させれば、スティールがサッと剣を一閃。 瞬く間に毒の尻尾を斬りおとす。


「見事」


と、そのコンビネーションを褒めたハレーザックは、拳に宿す魔力を殴る様にして衝撃波へと変化。 別の場所から来たサソリを、岩の側面へ吹き飛ばす。 ハレーザックは、生きた人間では珍しく、格闘技と魔法をこなせる異端の技を遣う。 魔法を身体のの周囲にした出せない特異体質で、飛礫だの武器に具現化した魔法も飛距離が出せない。 だが、格闘技を先に極めた所為で、その攻撃の当る瞬間に魔法の炸裂を加味するなど異端魔法が使える。 至近距離の戦いでは、魔法を切ると言う達人レベルの技量がなければ、このハレーザックと戦うには苦戦を強いられるのは間違いないと思われる。


「へぇ、こりゃまた変わった魔法の遣い方をしやがるのね」


スティールが初めて見たと言わんばかりの顔を見せる。


だが、


「おいおい、毒を取るにも、量が余り過ぎるほどに居ネェか?」


アクトルは、自分達がサソリに囲まれているのだと察知した。 岩場の影、低い木の茂みから、ワラワラとサソリが出て来ているのを見るからだ。


「へん、しゃらくせぇ」


「この程度、昨日の今日ではリハビリだ」


ハレーザックとスティールが、不敵な笑みを浮かべてやる気を出す。


一方。 ウィリアムは・・。


「はい、ジョン君」


と、枯葉の上にドロっとした白い液体を乗せたものを差し出す。


脅えているジョンは、


「なっ・なにぃっ?」


と、引くのだが・・。


軽い笑みすら見せたウィリアムは、


「ホラ、あのサソリの顔辺りに投げて」


と。


サソリの巣にでも近かったのか、周囲のあちらこちらの茂みからも出て来る。


ウィリアムの顔を見るジョンは、おっかなびっくりの様子のままに枯葉を受け取ると・・。


「えいっ! うわわわ~~~」


投げ付けて直ぐに逃げる。


さて、その枯葉を間近に投げ付けられたサソリはと云うと・・。 カサカサと二・三歩進むのだが。 ピクンと何かに反応する様子を見せると、何故か茂みに戻っていく。


「あ・あれ・・、逃げた」


目を見張ったジョンに、ウィリアムが。


「それ、大サソリの天敵の岩場ヤマネの尿。 ここ、彼等の狩場なんだね。 岩とか、葉っぱに一杯乾燥したのが付いてる。 水を掛けて戻せば、追い払うのに使えるみたい」


ハレーザックとアクトルとスティールが、茂みから出て来る前方のサソリを追い払う中。 ウィリアムとジョンは、ヤマネの尿を探しては、寄って来る後方のサソリに投げつけた、


そうしている内に。


「わっ!!!」


「何だぁッ?!」


「ぬっ、別の生き物が・・」


ハレーザックやアクトルやスティールの間近に、犬ほどのネズミに似た生物が飛び出して来る。 顔が鼻を基準に長細く、目の周りに黒い斑の縁取りが在り。 尻尾は、尾っぽの先端にだけ毛が生えている。


ウィリアムは、


「サソリの匂いに釣られて、岩場ヤマネが出て来たみたいですね。 サソリを食べる彼等なんで、刺激せずこのまま渓谷に下りましょう」


サソリ達も急に慌しく逃げる様子に変わる。


「おいおい、天敵が居るのかよ」


「あ、俺達が尻尾を斬ったりして強い体液の匂いをださせたからだ」


アクトルとスティールがこう云うのに、ウィリアムはジョンを護りながら移動し始める。


岩の亀裂などに入って棲むサソリだが、人間を餌にしようと彼方此方から這い出て来ていた。 岩場ヤマネは、家族単位の群れで行動するのだが。 匂いが強くしてきたので我慢が成らなかったのだろう。 巣穴に逃げ帰ろうとするサソリ達を包囲するように遣って来たのだ。


サソリと岩場ヤマネの戦いが始った。 どうゆう形であれ、そこに人為的な作用が在ったとしても・・、だ。 自然の営みには、手を付けてはいけない。


ウィリアムの迅速でスマートな判断を見たハレーザックは、


(行動にも、判断にも余裕があるな)


と、尻尾を噛み千切られ襲われるサソリを見捨てた。




                         ★




さて。 更に渓谷に沿う下段の大地に向かう5人なのだが・・・。 昼を過ぎて、ゴウゴウと水が流れる大きな幅をした渓谷沿いに来ていた。


其処で。


ーシューーーッ、シュシュ・・・シューーーーーーッー


所々の岩がむき出した部分から、熱線の間欠泉が噴出していて。


「あ~~、これは温泉ですね」


と、ウィリアムは渓谷の脇で温泉と化す池を見つける。


「アーク、一ちょ入ってみようぜ」


スティールが入る気を見せると、採取しながら来たウィリアムが。


「イイですね。 昨日の匂いがまだ残ってるんで、俺は賛成ですよ」


と、乗り気になる。


アクトルは、


(おいおい、仕事は・・・)


と、思うのだが・・。


「ジョン、こっちこい」


「あっ、あわわわ」


具足と剣を脱いだスティールは、ジョンの首を捕まえて温泉に飛び込んだ。


ウィリアムも上着を脱いで、身軽な半裸に成ると。


「よいっ」


と、池に飛び込む。


「うはぁ~~~、気持ちイイーーーゼ。 深さも無いし、温度もイイ」


スティールの腹ぐらいしかない池だ、ジョンも立てるし、肩まで浸かってもいい。


「あ・ああ・・ヌルヌル・・うわっ」


着地したジョンだが、底の岩の苔に足を掬われてしまう。


髪の毛を一気に洗うウィリアムで。


「あ~~~~頭が毒素で痒かったんですよ」


スティールも。


「俺もだぜ」


と、二人してジャバジャバと湯気を立てて洗う。


ハレーザックは、顔面を毒素の含まれた苔むす地面に付けた口であり。 顔の所々に、その毒素で炎症を起こしていると思われる赤みが見えていた。


「おいおい、先ずは私が入るべきであろう。 一応、患者だぞ」


と、服を脱ぐ。


それを聞くアクトルは、


(おいおい、誰の所為で俺達があんな危ない目に遭ったと思ってるんだ?)


と、軽くイラっと来たのだが。 先程のサソリの毒素も衣服に飛んでいたので。


(ついでだ、洗うか・・)


と。


遅い昼食もここでしようと、水も目の前に在るからとのんびりする5人。 それなりに採取もしたし、ウィリアムは特殊なものを多く取っている。 文句は無いだろうと、雄大な自然の中で落ち着いてみたのだった。


衣服を洗ってからドップリ浸かるアクトルは、


「こんな大自然の中で、こんなイイ温泉が在るとはなぁ~」


隣に居るウィリアムは、ジョンと訳の解らない話をして、彼を赤面させているスティールを見ながら。


「恐らく、大地を動かした力がまだ地中に在るのだと思います。 火山の近くに温泉が在って、死んだ火山に近くに温泉は湧かなくなると云いますから」


「なるほどなぁ。 でも、冒険の間に噴火とかは辞めてほしいゼ」


「それは、自分も願い下げですよ」


スティールは、ジョンと隣の温泉の池に行き。


「お~~~っ、ウィリアムっ!! この温泉には、魚が居るぞっ!!!」


「ほんとだぁぁ~~。 黒い魚だぁーーっ」


はしゃぐジョン。


ウィリアムは、本で見たと。


「その魚、食べられるそうですよ。 仲間も合わせて、人数分ぐらいなら捕まえても大丈夫です」


それを聞いたスティールは、


「よしゃ、軽く捕まえてやるっ!!」


と、池の中へ。


すると、アクトルが。


「懐かしいな。 アイツ、川や池で魚を素手で捕まえるのが上手かったんだ」


身体能力は高いスティールだと解るウィリアムであるか。


「なるほど、得意そうですね」


「おう。 鉱山の石も、掘り師の予想が外れると収入が無くなる時が在る。 俺達ガキは、魚を取ったり、木の実や茸の栽培をして物々交換の足しにしてた。 スティールは、俺のお袋の分まで良く取ってくれたっけな」


「昔話ですね」


「うん。 何となく思い出した」


ハレーザックは、顔を洗いながら。


「ウィリアムのチームは、皆がバラバラの郷土と云う訳では無いのか?」


アクトルが。


「俺とスティールだけが一緒なんだ」


「ふむ。 なるほど」


「そっちは? 見た所、バラバラの様に見えるが?」


「いや、知り合いとだけでないだけで、私とモナリサ。 ギルディとサデュアは同郷だ。 ノブナガは、異国と呼ばれる封建国家の出だがな」


アクトルは、このチームにはもう一人居たと思う。


「5人だったか? 貴方方は、6人と思って居たが?」


「あぁ。 ノビエムと云う者が居た。 格闘技を極めつつあり、ギルディとは因縁が有った間柄だったらしいな。 ま、深い話は解らぬ。 ただ、ノビエムは死んだ。 今回の旅の唯一の犠牲者だな」


「そうか・・・」


「現実に死体は見てない。 が、あれだけのモンスターを一人で相手にして、我々を逃した。 恐らく、生きては居まい。 そのモンスターの一部は、しつこく我々を追って来たしな」


「・・・」


ウィリアムと、アクトルは、そう言って落ち込むハレーザックを見ると言葉が無い。


さて。


川原の乾いた岩は、太陽の光を浴びて熱を持つ。 しかも、水気を適度な量まで一気に吸う。 衣服を大きめな岩に貼り付け、絞った後の水気を吸い取らせ。 最後は焚き火で乾燥させれば乾きも早い。


8分乾きの衣服を着て、夕暮れが見える頃に魚を笹に刺しているジョン。


魚の内臓を取り除き、薬味の効いた塩を摺り込んでいるウィリアムとハレーザック。


アクトルは、大目の水を大型の水筒に汲んで。


「洞窟に持ち帰る水も確保できた。 そろそろ戻ろうか」


魚の身を細めに刻んで、焚き火で炙り乾かしていたスティールも。


「おーけー、夜食も確保した」


と、枝グシに身を刺して準備をする。


暗くなる前にと、戻ればフランクの方は一足先にと戻っていた。


布で一時の仕切りを作り、身体を滝の水で拭いた女性達が遅れて戻る5人を見れば。


エメが。


「魚の匂い・・。 ジョン、なんかサッパリした顔をしてるね」


クローリアも、魚を見て。


「まぁ、お魚」


リネットは、肌の汚れが無い4人を見て。


「何だ、水浴びでもしてきたのか?」


と。


ま、鎧やプロテクターを外しているウィリアムやアクトルを見れば、そうと解りそうなのだが・・。


ジョンが。


「お父さん、これは温泉に居る魚だよ。 入るついでに、取ってきた」


フランクは、黒い魚をみて。


「お~、ノダロテスじゃないか。 川で弱っているのを捕まえる事が在ったが・・。 そうか、上流の温泉水に棲む魚だったか」


そこに、ウィリアムは。


「図鑑で見て、美味しいと見ましたので」


「うんうん、身が焼くと美味しいんだ。 これはイイ土産だな。 早速、焼いて食べよう」


ロイムは、スティールに。


「温泉在ったの?」


「おう。 丁度イイ加減だったゼ。 御蔭で、あの腐った森で痒くなった頭や身体もスッキリしまくり」


「うぅ、イイなぁ~~。 僕なんか、地べたに付いた御でこが痒くて痒くてさぁ~」


「フ、運の差だよ。 ロイム君」


すると、アクトルが。


「そう思って、温泉水を汲んできた。 この温泉水、飲んでも身体にイイらしい。 スープの水に使おうかと汲んで来たんだ。 今夜一杯しか使えないから、使い切ってくれ」


アクトルの肩掛けする大型の水筒は、水瓶代わりに持ち運べる折り畳みの物だ。


「良かったぁ~、頭と顔だけでも洗おうっと」


と、喜ぶロイム。


今夜は、別となったチームの互いの成果を確かめ合って、雑談に幕を閉じた。




しかし、だ。 次の日は、朝からの曇り空が広がる。 ウィリアムの予想通りだった。




森の奥へと行軍する事に成り、道なき道の段々となる岩場を上り下りする訳だが。 川と空気の温度差により、靄から雲が生じた中を行く。 ウィリアムは、先頭に立って一番良い足場を選んで行き。 場所場所によって足半分の足場しか無い所では、丈夫な蔦を切ってきていたので。 それを岩に結んで手綱の代わりにする。


“慌てなくていい。 安全第一に”


ウィリアムが口酸っぱく云った出発前の言葉。


なのに・・。


「よっ」


気軽い様子で岩場の亀裂を飛ぶスティールは、雲で幅を読み違えて落下。 ギルディがスタークィンダーと云う六角尖の棍棒を咄嗟に差し出して、それにしがみ付けたので助かる。


また、ハレーザックも。


「蔦・・蔦・・。 ん、これは木の枝じゃないか」


と、勝手な思い込みで木の枝を掴んで落下。 ジョンにぶつかって危なくなり、アクトルが斧の刃の内側の切っ先に彼を引っ掛けるも。 アクトルとハレーザックを支える手綱の蔦が切れ掛かり、隊列の進行を止める事態も起こる。


背の低いジョンとロイムは、それだけで気を遣う対象なのに。 岩場や山登りの経験が少ないハレーザックと、適当な行動をするスティールが更なるネックになった。


夕方まで係り、巨大な一枚岩の様だった岩山を渡り終えた一行。


「はぁ・・、涼しい気候なのに、何で汗まみれになるんだ?」


平地の草むらにヘバるアクトルとギルディ。 ロイム、ジョンの間に入って、スティールとハレーザックの面倒を必死に看ていた二人だった。 本来なら、大男の自分達の方が気を遣われる筈なのに・・・。


しかし、その高地に広がる草原地帯の先に広がる光景は・・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、有難うございます^人^

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