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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
182/222

★夏休み特別話 番外編・雨林の奥に出来た腫瘍 下ノ1★ 

                     K 番外編拾




                 題名 【雨林の奥に出来た腫瘍】



真夜中に叩き起された警備警察兵の長官、特殊捜査と刑事捜査の2部の部長、更にその下で現場指揮官に当る5名の役人は、マントや制服を雨に濡らしてカギンカム大臣の大臣室へと招集させられていた。


五十前の小柄ながら抜かりのなさそうな中年男性の長官ポーター氏は、一同を代表して敬礼をすると。


「カギンカム様、この夜更けに何用でしょうか?」


重厚な木製デスクを前に座り、手を祈る様な仕草のままに前に出しているカギンカムは、瞑想する様に瞑目しながら云った。


「長官、並びに部下の君達を呼び出したのは、他でもない。 一昨夜の出来事だが、冒険者の一団が北の山岳街道付近にて悪魔に襲われたそうだ」


“悪魔”と云うモンスターの名前に、呼び出されて少々不満も在った彼らが神妙に変わる。


異常事態だと思う長官は、直ぐにズィっと前に進み出て。


「真ですか?」


「うむ。 先程、斡旋所の長であるシュヴァルティアス殿から連絡を貰って、斡旋所に行って来た。 助けられた冒険者は、女性の一人だとか言っていて信じるに微妙だったが・・。 地下に安置されている殺された遺体を見て・・、心臓が凍りついたよ。 あの様な殺し方、人では到底考えられん。 レクイエムを交代で唱える僧侶に聞いたが、悪魔に殺された人の遺体は、短時間でモンスターに変わるそうな。 だから、葬儀までレクイエムを歌い続ける必要が有るとな」


「大臣、して・・その悪魔は?」


「もう、女性を助けた強者に倒された様だ」


聞いた一同は、戦う必要が無いと安堵の顔を覗かせる。


だが、大臣は・・。


「悪魔が倒されたのは朗報だ。 だが、呼び出した元凶は残ったままなそうだ」


政治的な面を含む極秘捜査を任される部長が。


「悪魔とは、人に呼び出された・・のですか?」


「うむ。 伝説に謳われる魔界の門とは、もっと多くの悪魔が出て来るそうな。 だが、倒された悪魔は、低級なモンスター以外の一匹だとか。 倒した冒険者に因れば、魔方陣で契約により呼び出したのではないか・・とな。 しかも、二度目はもっと容易に呼び出せるらしい」


長官ポーターは、大臣に本題へ入って貰おうと。


「大臣、我々を呼び出したのは、何の為にでしょうか?」


「うむ、それだ。 何でも、契約で悪魔を呼び出す為には、“供物”と云うべき生き物の犠牲が必要ならしい。 処女の女性や、幼い子供なら数人単位。 だが、成人の男性となると数十人と云う犠牲が必要なんだそうな。 君達を呼んだのは、明日から別働の秘密部隊を組織し、その犠牲にさせられたと思われる行方不明者を探してくれい。 犠牲に必要な者は、定期的に一人や二人ではなく。 血の魔方陣を作るのだけでも、なんと十人程度とか必要なのだとか」


此処で、下位役人ながら現場指揮を担当する老人の指揮官が。


「あの・・、調べる事を前提に・・ですが。 それらしい行方不明者が有ります」


老人指揮官に、この場の全員が向き。 長官ポーターが。


「カーフ指揮官、それはどの様な?」


「はぁ。 半年ほど前・・からでしょうか。 浮浪者の間で、割の良い日雇いの仕事が村や町に在ると云う噂が流れたらしく。 この街から、5・60人の者が消えています。 捜査して欲しいと仲間の浮浪者から頼みが来ましたが、住人では無いので手を付けませんでした」


その情報は臭いと感じ取った大臣は、目の届き難い者を狙っているかも知れないと踏んだ。


「よし。 明日から、浮浪者や夜遅くにまで商売をする女などを重点的に聞き込んで調べてくれ。 それから、若い女性や、特に6・7歳以下の子供を対象に調べて欲しい。 短期間で悪魔を呼び出す為には、悪魔の好む肉の年齢対象となる供物も必要かも知れぬという話だ」


大臣は、捜査をする者は、一度遺体を見ても構わぬと云った。 悪魔などと云う漠然としたのもより、遥かに危険性を認識出来るものがそれだった。



そして、その後深夜の中。



「カギンカム様、私を残した訳は?」


ポーター長官が、一人で残されている。


「ん」


問われて先ずは・・と席を立つカギンカム大臣は、黒い絨毯の上に立って雨が伝う窓に向いて。


「数年前・・。 新任の統括を蔑ろにして、随分と横暴を働いたロマノスワ総督大臣長は覚えているな?」


「は」


この話に、何故かポーター長官は項垂れた。


窓を見ながら、その窓に映る彼をギロっとした目で見るカギンカムで。


「君が落ち込む必要は無い。 あの暗殺は、・・我々の総意だ」


「は」


「だが・・、その暗殺をした男が・・いまだに自由と云うのは困るのだがな」


この話に、目を大きくして何か感付くポーターであり。


「まさか・・、“P”に出会いましたか?」


窓を見て、徐ろな動きにて頷くカギンカム。


「悪魔を殺し、冒険者を助けたと云うのかその男よ」


「あっ、・・・なるほど。 中級の悪魔と言えば、名うてに成ろうかと云う冒険者チームでも全滅を恐れる相手。 あの御仁ほどに強くなければ、無事に帰れるとは行きますまい。 酷く、納得致します」


すると、ポーターに横顔を向けたカギンカムの表情は、“渋い”を通り越して“怒り”に近く。


「ポーター、褒める相手か。 私は、存在が不安なのだ。 出来るなら、あの者も始末してしまいたい」


カギンカムの本音が出た。


が。


「は・ははは、その様な世迷言を」


と、ポーターは呆れて笑ったのだ。


「何っ、世迷言だとっ?!」


ポーターの方に振り返るカギンカムだが、ポーターの顔は逆に冷めたもので。


「そうです。 悪魔を易々と倒し、此処へ戻る強者ですぞ? かの者は、世界の裏事情に関係を持ち、今までに暗殺も謀略も跳ね除けて来た過去を持つバケモノ。 その彼を此処で殺すなど、どう在っても出来ぬ事ですよ。 一度立ち消えした燃え残りに火を付ける様な始末など、返って過去を蒸し返す事態に成ります。 あの彼が我々を脅して来たのならともかく、フラリと立ち寄った先が此処だったというだけでしょうから。 触らぬ神のなんとやら。 その話には、私の他誰も巻き添いは御免です」


カギンカムは、ポーターが全く話しに乗らない意思を見せた事が腹立たしい。 一蓮托生の歩みで来たはずなのに、此処でこんな答えが返って来るとは思わない。


「ポーターっ、キサマっ!! 仮にも上官に当る私に、その言い草は何だっ?! あの者が全てを喋れば、私も貴様も只では済まされんのだぞっ!!!」


カギンカムが珍しく怒鳴り散らした。 だが、ポーターは。


「・・警戒兵500. 私兵350. 雇われた冒険者や悪党230余名。 計1000人以上が警戒していたランディス邸に単身乗り込み。 誰も出来ないと云われる中で、誰にも見つからずにロマノスワ侯爵様、ダキニート侯爵殿下を暗殺したのは何処の誰でしたでしょうか?」


ポーターにこう云われたカギンカムは、


「それは・・」


と、口を濁す。


ポーターは、今の安泰を思いながら続け。


「その暗殺で、現・統括は安泰に成った。 彼に感謝すらせど、この街の誰も大半以上が彼を非難などしないでしょう。 その彼を、今更に御自分の保身の為だけに殺すと? 当時の関係者の誰が聞いても、貴方の意見に賛同する者は少数派でしょうな」


此処まで云ったポーターは、一つ考える仕草をしてから。


「いや。 カギンカム大臣は、総督大臣の派閥からの乗換組でしたな。 大臣暗殺前、そして暗殺後に一番上手く動いて地位を御築きになられあそばした筆頭株・・。 御自分の過去を嗅ぎ回られて一番困る方としては・・心配でしょうかな?」


こう尋ねられたカギンカムは、シワが因ってグニグニと動く眉間を隠す事が出来ない。 ポーターの言葉が嫌味を通り越し、もう脅しにしか聞えないのが恐ろしい。


数年前。 確かに、反対派が優勢を強める頃合いを狙い、Kが暗殺した大臣と統括代理の派閥から密かに寝返ったのはカギンカムが最初であった。 不正の事実の証拠や不正密会の行われる場所を、反対派に教えたのもカギンカムだし。 Kが暗殺を成功させた後、自分を含め寝返りをした数人の情報を握り潰したのもカギンカムである。 その情報隠滅などの暗躍で、地位を築く以上に財を得たのも確かだ。 ポーターなど反対派に食い込んでいた自分だが、Kは寝返った者達の事も良く知っている。 それを話されたく無いのが本音である以上、カギンカムが個人的に焦っているとしか思われないのは当然だった。


「・・・ポーター。 下がれ」


「はい。 云われずとも」


下がって行くポーターを見送るカギンカムは、どんな顔を自分でして居たか解らなかった。 カギンカムが今の地位に居るのは、警察役人の信頼を集めるポーターを長官にしているからだ。 ポーターは、カギンカムの過去を知っているが、カギンカムの情報漏洩を功績として認めているからこそ、全てを語らずに今の関係を続けているのだ。 ポーターを行く末は警察大臣にして、自分が次の地位に移動する時に手を結ぶ良好な関係を保ちたいのは当然。 2・3年後に在る人事刷新会議の頃には、もうポーターは大臣に上がるだろうと噂されている。 都市の管理を任されている統括に然り、全ての大臣や要職を束ねる総督大臣に然り、反対派のまとめ役の若き一端を担ったポーターだけあって、彼らに重要視されているのだ。


(ポーターが喋らねば良いが・・。 クソっ、何で今に成ってこうも不安が溢れる。 まさか・・、悪魔騒ぎを起こしているのは、ダキニート侯爵殿下の次男様では在るまいな。 粛清前の権力下で、ご自宅で暗黒魔法の何とかを研究していたとかどうとか・・。 処刑を免れ逃げ遂せた者で、一番怪しいお方だが)


心当たりが在る自分が恨めしいカギンカムであった。





                       二



 

全ての事態が大きく動いたのは、それから3日後である。


起こった出来事は、大きく二つ。


一つは、この古代都市を酷い濃霧嵐が襲った。 この出来事で街中の捜査は混迷し、軽犯罪も多発して役人は大忙しに。


もう一つは、Kとシュヴァルティアスが捜査状況を聞きに役所のポーターを尋ねた際、怪しげなローブ服の3人組とカギンカム大臣が接触する場面に出くわした事である。


夜に為っても薄まる気配を見せない濃霧の中、2階の大部屋となる捜査役人詰め所にて。


「一度、またお目に掛かりたいと思っていました。 あの時は・・・」


長官たる地位のポーターが、仕切りの中とはいえKに頭を下げたのはどうだろうか。 シュヴァルティアスは、何も云えずに黙るのみ。


肌寒い濃霧が立ち込めた外だが。 隣接した建物しか見えない光景を、シャンデリアの灯りで窓から見るKで。


「昔の事よ。 今はアンタ等が上手くやってるんだ、もういいじゃねぇ~か。 それより、今は今の事に集中した方がいい」


云われたポーターは、従者一人と幹部一人を従えたままに一礼を捧ぐ。


「確かに」


「んで? そう・・・、あ?」


Kは窓の外の光景に、尋ねる話を途中で変えた。


「?」


「どうしたの?」


怪訝に思うポーター長官とシュヴァルティアス。 Kの居る窓の傍に行くと・・。


極至近で隣接する様に建てられた隣の建物の1階。 薄暗いが、霧が濃く入り込めない隙間の視界は悪く無い。 見下ろせる隣の廊下にて、魔法の光を杖に宿す黒いローブ姿の何者かと、その黒いローブの人物に護られて立つ灰色がかったローブを着る何者かが居る。


「あっ、カギンカム大臣っ!!」


ポーターは、その3人のローブ姿の何者かに迫られているのが、カギンカムだと解った。


「こんな施設で、暗黒魔法ってっ?!」


驚いたシュヴァルティアスは、魔想魔術の最高域魔法である瞬間転移魔法の詠唱に入る。


「面白い展開ってかぁ」


云うKは、もう窓のカギを開いていた。


何事か解らないが。 大臣に何か在ってはと焦るポーター長官が、休憩の為に待機している大広間の警察役人に大臣確保命令を出す時。 隣の建物の廊下に、窓ガラスを開いてKが降り立った。 警察役人の詰める建物は、人員総動員で各部屋に明かりが入れられている。 月も出て居無い夜だが、その明かりが隣の建屋にも薄っすらと入り込んだ。 だから、ローブ姿の3人は、カギンカムと自分達の間に立ったKをよりハッキリと確認出来ただろう。


「キサマ、何者だ?」


ローブ姿の男が尋ねる先に、一番長い刃渡りの短剣を持って立つKで。


「俺が何者か尋ねる前に、後ろを見ろよ」


灰色と思わしいローブを着た何者かが振り向くと、其処には転移してきたシュヴァルティアスが降り立つ。


「よっ、と」


魔想魔術の幻惑・幻想魔法の真髄でもある転移魔法。 扱える者は、この世に一握りでしかない。


「大魔法遣い・・、シュヴァルティアスかっ?!」


ガラガラ声でそう言う灰色のローブを着た人物。 声からして、男性らしい。


一方。 役人が大騒ぎして周囲を包囲しようとしている中。 Kは、そのローブの人物達を見回し。


「この大臣のオッサンを狙うって事は、お知り合いか? ・・昔の」


灰色のローブと思しき人物は、Kに云われて激しく振り返る。


「口を慎めっ!!! 昔の何を知るかぁっ、キサマ如きの下種がっ!!!」


一方、処が大臣が。


「こやつが悪魔を倒した者ですぞっ!!!」


と・・・。


灰色のローブの魔術師を含め、3人の魔法遣いがKに向く。


Kも、シュヴァルティアスも、目を見張ったのはカギンカムの言動他無い。


「二度手間を取らせた下種めっ、此処で死ねっ」


感情任せに、この場で魔法を遣おうとする魔法遣いの者達。 詠唱も始る間際にて、素早く飛び込んだKに目にも留まらぬ手練で気絶させられるのだが。 


「大丈夫ですかっ?!! 御二方っ!!!」


「曲者だぁっ!! 魔法遣いを捕らえろっ」


ポーターと彼の指示で集まって来た役人達は、挟み撃ちにする形で廊下に攻め込んでくる。 繋ぎの衣服である下級役人は、グッタリとするローブの者共を捕まえるのだが。


Kは、息を切らせて遣って来たポーターに。


「その大臣のオッサン、この魔術師達と面識以上の関係在るゼ」


と、顎をしゃくって云う。


「はっ、まさか?!」


廊下にヘタっているカギンカムだが、ポーターや役人見られているのを見上げて知ると。


「しっ、知らんぞっ!!! この包帯男の戯言だっ!!!」


焦りからか、肌寒い空気にも関わらず大汗を掻いて知らぬ存ぜぬを決め込もうとしているのがありありと見受けられる。


Kは、それを無視するかのごとく。


「ポーターさんよ。 その3人、過去の残存物かも知れないゼ。 取調べは、慎重にした方がイイ」


と、外に向かい出す。


「あっ・・」


取調べに同行して貰う気だったポーターは、Kが移動するのは困ると思った。


だが、シュヴァルティアスが。


「ケイ、今から行くのかい?」


すると、足を止めたKは斬りつける様な視線で。


「お前も魔術師なら、その灰色のローブの男から漂うオーラで解るだろう? 森には、俺の情報から警備隊も組まれて警戒の見回りに出てるし。 何組もの冒険者も行ってる。 今から動かねぇと、被害が最悪に成るだろうが」


「・・だが」


シュヴァルティアスが奇妙に口を濁すのに、Kは察してか。


「後始末と説明は、お前に任す。 “二度手間”してる以上、存在は確定だ」


Kは、そのまま施設の外に出て行った。


Kの背中を見送るシュヴァルティアスは、唖然とさえする程に黙ったままだった。


(か・変わった。 以前の彼なら、見捨ててた。 彼よりは非情では無いって思ってたけど・・、もう僕の勝てる要素は無くなったみたいだね)


力無く佇むシュヴァルティアスに、ポーターが歩み寄り。 周囲のどうして良いか動けずにいた役人達の頭と成って。


「あの・・、何かまだ?」


事態を重く捉えるシュヴァルティアスは、顔を険しくさせ始めながらポーターを見返すと。


「森に・・、まだ悪魔が居る様です。 彼は、それを始末に行ったんだ」


「げぇっ!!! あ・悪魔がまだ?」


「そうです。 あの今に捕らえた一人が、“二度手間を掛けさせた”と言い放ち。 3人の彼らからは、闇のオーラが纏わり付いているのを強く感じる・・。 血肉の腐臭も香る所を覗うに、後からもう一度召還を行ったのは明白でしょう・・」


「ま・真ですかぁっ?!!」


ポーターは、酷く慌てた様子でシュヴァルティアスに飛びつく。


黙って頷くシュヴァルティアスだが・・。


「緊急事態だぁっ!!!! 街の守備兵士にも連絡を入れ、救出活動を行うっ!!! 誰かっ、連絡係に為れぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!!!」


ポーターのこの大声と共に、大きく慌て出す警察部の役人達。 連絡係を我先にと名乗る者も居れば、腕の立つ捕り物役人を見回りから呼び戻そうと動く者も。 若い家族や、仲間が兵士と共に見回りに加わっている。 ポーターの息子も、警察役人一人として加わっている。 森に悪魔が居ると解ったなら、あの殺された冒険者達の遺体を見た彼らは大きく動揺するのは明白だった。


一気に慌しくなる施設内で、シュヴァルティアスは淡々と動いた。 Kが先に動いた以上、自ら出来る事は処理に動く事だった。



・・・。



その夜の深夜である。


「いいからっ、お・俺を置いて逃げろつってんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!」


街から二日ほど歩いて辿り着ける街道の分岐点付近の森の中で、複数の荒い息遣いと大声がする。


「だけ、だけどっ」


「マシューっ、帰って・・父上にこの事態を伝えろっ!! 向うで戦ってる冒険者に・・、てつだ・てつ・・・手伝って貰へ・・え」


闇夜の上に濃霧で視界も悪い中、役人らしき槍を持った男性二人がもつれ合っている。 大きな木の根元に座り込み、自分に取り付いている人物を逃がそうとしている人物は大怪我をしていた。 支給のレザーメイルをも引き裂かれ、胸を鋭い何かで3本線に引き裂かれている。 出血も酷く、街までは到底に辿り着けぬ怪我具合いだ。


近くのからは、大声で掛け声がしたり。 奇妙な唸り声がしたり。


また、別の方からは。


「マシューーーーーっ、タキオーーーーーーンっ、何処だっ?!! 返事しろぉぉぉーーーーっ!!!」


と、誰かを呼ぶ声も。


ポーター長官の長男であるマシューは、兄貴分で父親の部下に当る部長の息子タキオンを抱え。


「マシューでぇぇぇぇぇすっ!!!!! タキオンさんと・・此処にいまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!!!!」


と、慣れぬ大声を呼び声の様にして応える。 霧が濃過ぎて、声の距離感すらどうにも成らない。 有りっ丈の声で応えたのだが、返って物言いが可笑しくなっていた。


が。


「おーーーーいっ、大声の方に悪魔が行ったぞっ!!!!」


「マシューっ!! タキオンを連れて其処から逃げろっ!!!」


「逃げろっ、逃げろぉーーーーーーーーーっ!!!」


戦いの行われている方から、次々にそう声が・・。


危険が迫っていると解ったマシューは、装備品に包まれた体を夜露に濡らしながら焦った。


「クソっ。 タキオンさんっ、とにかく、とにかく逃げましょうっ!!!!!」


背の高いタキオンの両肩を後ろから抱えるマシューだが、父親似の優男。 その背丈も低い彼では、大柄のタキオンを抱えて歩くなど無理。 引き摺るのが精一杯である。


意識が薄らぐタキオンだが、その精神力は強かった。 どうしたら全滅を防げるかを考えていて、掠れる声で声量も無いながらに。


「まっ・・マシュぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!! このバカ野郎っ!!!! 足手纏い・・引き摺るなっ! ぼ・ぼぼ・・冒険者と・・にげろ。 生き残る・・最善を尽くせェェェェェェっ!!」


と、護身用の短剣を引き抜き、なんと自分の胸に突き立てたのである。


「あ゛っ!!!」


喉が飛び出そうな程に驚いたマシューは、息絶える兄貴分の脱力を感じたのであった。


この壮絶な事態は、急に起こった。 ミザロ率いるアフレックやスカーレットの居る一行は、この街道の分岐点に作られた宿泊施設を基点にしてモンスター退治や薬草採取に励んでいた。 濃霧が酷いので、暗くなる前には東屋の宿泊施設へと戻っていたのだが・・。


宿泊施設の横には、街道警備や定期巡回時の役人が遣う二階建ての施設も在った。 その施設へ、一日遅れで役人と兵士の合同警備隊が来たのである。 森の様子を今朝に聞かれたミザロやヒートは、その合同部隊に不自然さを覚える。


兵士達は、街道警備兵として巡回し。 警察役人は、宿泊施設に泊まる冒険者や街道を行き来する商人・旅人・出稼ぎ人等に詳しい事情聴取を掛けていた。


そして、今夜。


ミザロのチーム一行はもう寝ていた頃合いである。 静かな濃霧の立ち込める闇のしじまを破り、牛の絶命する鳴き声が響いた。 しかも、施設の近くでである。 驚いた兵士が様子を見に行けば、モンスター化を余儀なくされた8本ヅノを持った大牛が、悪魔に殺されて血を吸われていた。


兵士の驚きと臨戦態勢に入る掛け声は、ミザロのチームや、一緒に休む別の一チームにも聞えた。 モンスターが出たと思う彼らは、実践に不慣れな警察役人と共に応援へ・・。 だが、其処に待ち受けていたのは、大小10余体の低級悪魔の群れである。


大柄な岩の様な悪魔、伸び上がる影に悪鬼の顔が逆に浮かび上がる悪魔、小さな槍を手に尖った尻尾を持つ漆黒の悪魔、個別様々な種類の悪魔が居て。 勝手ながら群れる様に襲ってきた。 殺したモンスターや、何処かで呼び出した亡霊・死霊の不死者を多数に従えて・・・。 濃霧の影響で、森に蟠る不穏な闇のオーラは、冒険者の魔法遣いや僧侶の誰も気付かなかった。 スカーレットとて、応援に森へと入ってから闇のオーラに気付き。 そして、初めて悪魔を見る結果と成ったのだから。


「アフレックっ、聖水を掛けても直に斬れなくなるわっ! 無理しないでよっ!!!」


二刀を片手ずつに持って、先んじて向かってくるゴーストやスケルトンと戦うアフレック。 スカーレットの声も聞くだけに、ヒートやミザロと共に霧の中から飛び出してくる様に現れるモンスターと、生死を掛けて斬ったかわしたの緊張のど真ん中で渡り合う。


(逃げる訳には・・、いかない)


アフレックは、スカーレットの事は大体知っていた。 彼女の片耳は、普通の人の能力より劣りが在る。 代わりに、魔法の炸裂の威力が格段に強い。 スカーレットの魔力が、想像に勝る為だ。 彼女は、視力に必要以上の信頼を寄せている。 スカーレットを絶えず後衛に置いて、安全な場所から魔法銃にて攻撃させなければ成らない。 この濃い霧は、アフレックに過度なその必要性を訴えていた。


「うりゃぁぁっ、たぁーーーっ!」


ミザロの背中に這い寄るゴーストを一刀で斬り裂き、ヒートの周りに集まろうとするスケルトンの頭部に振り向き様で突きを見舞う。 悪魔の放つ魔法を先陣でかわすミザロとヒートの二人。 その間に立って立ち回るアフレックは、疲労で立てなく為るまで二人の助力として働くのが役目だ。


「悪魔だぁぁっ」


「に・逃げるなっ!!! 一匹一匹、皆で掛かるっ!!!!」


「バカ云うなっ、ゴーストやスケルトンも居る。 兵士だって散り散りなんだぞっ?!」


もう一方のチームは、戦いながらも統制は取れて居無い。 恐れが勝る魔想魔術師の若者が働かず。 僧侶の年配者と神官戦士の若者が、兵士や仲間などの武器に魔法を掛け回る。 戦力が集中せず、ミザロのチームのエリックが応援に加勢している有様だった。


「ヒートさんっと、魔法が来るっ!!」


「アフレック、前にゴーストっ!!」


オーラを感じれるスカーレットは、細い槍の魔法を長筒の肩担ぎ用の銃にストックしながら。 暗黒魔法の飛来や、モンスターの進行を読んで伝え続ける。


「解った」


「了解っ」


濃霧の所為で真っ暗な森の中である。 空気を裂いて唸り来る魔法、此方側を見えているかの如く真っ直ぐに襲い来るモンスターは、集中していてこそ対処が出来る。 果たして、このまま何処まで戦えるのか・・・。

どうも、騎龍です^^。


諸事情で掲載が遅れました。 長い内容なので、重くPCの作業が捗らないので、二つに分けます。


ご愛読、有難うございます^人^

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