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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
181/222

★夏休み特別話 番外編・雨林の奥に出来た腫瘍 中★ 

                     K 番外編拾




                 題名 【雨林の奥に出来た腫瘍】



                          一




今も尚、生き続ける大魔術師シュヴァルティアス。


この多雨多湿が続く山間高原の中に聳え立つ大都市に居て、斡旋所のマスターを気晴らしにやっている魔道研究者の第一人者だが。 その彼の口から、奇妙な話が出た。


「ミザロ。 それから、此処に居る一同。 これからする話は、他言無用で願いたい」


こんな緊張する場面は初めてのアフレックとスカーレットの二人は、生唾を飲み込んで話に参加していた。


シュヴァルティアスの話では、最近にこの街の周辺をモンスターが闊歩する様に成ったのには、奇妙な変化が原因だと云う。


して、その原因とは・・。


モンスターが多発以前から、モンスター討伐依頼にリストされるモンスターは、周辺の奥地の大森林地帯に居たらしい。 この街の周囲は、東から北周りで半周し西までの山間部は、非常に奥深い森と、岩山・渓谷が広がる秘境であり。 独自に成長したモンスターの種類に入る“生物”が生息していたのだ。


つまり・・。 今、討伐されているのは、モンスター化を古代に余儀なくされた生き物が大半なのである。


では、何故にその生物達がこの周辺に出て来て、人と軋轢を産む様に成ったのか・・。


シュヴァルティアスは、指の爪を気にしながら。


「実を言うと、昨日の夜にメレードゥが大怪我をして帰って来た」


その名前を聞くミザロは、急に顔を歪め。


「何だと? して、あの娘は大丈夫なのか?」


と、心配そうに聞くのである。


頷くシュヴァルティアス。


「命に、別状は無い。 彼女を森で助けたのは、私の以前からの友人でね。 非常に優秀な薬師である人物。 その彼に、ホラ。 ミザロ、貴方の御子息にも効く薬を調合して貰った。 妙薬・ヒール・テノ・ラクリマー。 内臓の病気に効く薬で、即効性が期待できる」


「なんとっ、そっそれは・・」


座るシュヴァルティアスから、差し出された薬の入った薬瓶。 それに手を伸ばすミザロは、もう一瞬に全てが頭から消えた。


だが、ヒートが。


「おいおい、奇跡の妙薬エリクサーの手前の3大妙薬の一つだろう? そんなのを、簡単に調合出来る薬師が居るのか? 何で、その窮地を救えたんだ?」


と、色々と疑問が噴出す展開である。


しかし、シュヴァルティアスは、ヒートへ何の気ない様子から。


「疑問が出るのは当然かな。 でも・・、その友人には常識が通用しないんだよ。 この世界でも類稀な腕の薬師だが・・・、一方では常識外れの凄腕剣士でもある。 もう名声に興味が無く、世界をブラ~リブラ~リしてる放浪人なんだけどねぇ」


そんな説明を受けても、ヒートは意味が理解出来ない。


「そんなヤツが・・居るのか? チームを作れば、直ぐにでも・・」


「解るよぉ~、・・解る。 私もね、是非に彼にその・・チームを作って欲しいよ。 面倒なの、ぜぇぇ~~~んぶ解決してくれそうだもの・・・。 でも、彼にも事情が在るみたいだ。 そうゆう事が、全て面倒に思えてるのは見て解る」


「・・・」


何も云う言葉が見つからず、黙ったヒート。


薬瓶を大事そうに持ったミザロに、シュヴァルティアスは続けて。


「んで、もしも森に討伐に行くなら気をつけて欲しい。 メレードゥを傷付け、その仲間を皆殺しにしたのは・・悪魔らしいからね。 チームに実力が在る分だけ、奥に行ける者達はみんな危険な様だ」


「っ?!!!」


一同は、“悪魔”と聞いて本当に驚きを隠さなかった。


「あああ・悪魔ってさぁ・・」


「アフレック・・すっごいヤバイモンスターだよぉぉぉ」


若い二人は、聞いたぐらいにしか知らない恐怖の対象である。


だが、エリックは、憎しみめいた顔を横に向け。


「く・・此処にも」


と、呟く。


また、ミザロとヒートは、その顔を見合わせて。


「聞いたか、ミザロ。 此処に悪魔だってぞ」


「信じられん、この4・50年でも、遺跡や古代洞窟の方でしか聞いた事が無いハズだが」


一同の様子に、シュヴァルティアスが手をパンと打ち。


「皆さんの眼が、こっちに向いたので・・。 この街の北に、10日以上掛けて行った所から広がる大森林地帯は、何故か周囲の山岳地帯の様な上り下りする景観とは違っている。 それは、あの地で忌まわしき大戦争が在ったからだ」


ヒートは、戦争などは古代王国時代だろうと思い。


「相当に古い話だろう?」


「そうだね。 今から・・ざっと1000年は経過しているらしい。 秘蔵伝承だから、正確な年月は解らない」


ミザロは、そんな昔話を持ち出すのか・・と。


「それが、何の関係が?」


「うん。 実は、あの地は古代のイヴィルゲートの開き掛けた跡地みたいだ。 大森林の中央には、古い古い地下神殿が在り。 嘗ては、あそこに死に掛けた魔王が居たと云う」


「まっ・魔王っ?!!」


声を揃えて驚くアフレックとスカーレット。


全く良い話ではないと、ミザロやヒートは眉が険しい。


シュヴァルティアスは、ゴーレムの執事が出した紅茶に手を伸ばしながら。


「驚くのは当然かな。 んで、その魔王を利用してこの東の大陸を支配しようとしたドアホが居て。 魔法学院、冒険者、その他の国が差し向けた連合軍と凄い戦に成ったみたい」


と、紅茶に口を付ける。


ミザロは、その結果と経過が知りたくて。


「して・・、その後はどうなったのですか?」


緩やかに首を傾げるシュヴァルティアスで。


「ま、魔王側が勝ったら、今の魔法学院やこの王国も無いですよ。 そう、勝った訳です」


「ほっ」


「怖い話・・」


安心を見せるアフレックやスカーレット。


だが、シュヴァルティアスは。


「だけど、本題は此処からなんだけどね。 友人が言うに、魔王は倒しても向うン百年は遺体が存在し続けて。 しかも、強い瘴気に闇の力を垂れ流すんだそうな。 その残り香~的な力を利用して、誰かが悪魔を召還したんじゃないかって言うんだ」


その予想は、聞き捨て成らない。 ヒートは、直ぐに。


「確証は?」


と、踏み込む。


紅茶を啜ったシュヴァルティアスは、カップを皿に戻すと。


「今の話の確証は無いけど、メレードゥ達を全滅させられる悪魔が出没して。 モンスター化した森林奥地の生物が街の方に来ている。 符号の一致としては、嫌味ったらしいよね。 それから・・。 少し前、あの・・・ホラ。 少し前のさ、有名に成った美人の自然魔法遣いの・・・え~っと」


スカーレットは、直ぐに浮かんだ人物を。


「もしかして、オリヴェッティさん?」


すると、シュヴァルティアスは、手を彼女に向けて。


「ナァ~イスアシスト。 そう、彼女が秘宝を探してた時に、秘密裏に凄い事件を解決しちゃった訳。 その時も、なんと上位の悪魔が裏で暗躍してたらしいよ。 ま、私の知人にバッサリだがドッカリだか倒されたけど」


悪魔などとは、丸で過去の話だと思って居たミザロ。


「何て事だ。 我々が知らない裏で、そんなに悪魔だのと云う恐ろしい魔物が倒されていたなんて」


俯く彼に、ヒートが。


「ミザロ。 アンタは、悪魔とは?」


「過去に、幾度か。 だが、下級のデーモンや、デーモンの使役する下っ端程度。 フィアーズ・コートの様な恐怖を纏う大物など、一回も無い」


これを聞くヒートは、今度はシュヴァルティアスに。


「マスター、大まかでいい。 年間、悪魔との遭遇例はどれぐらいの報告が在るんだ?」


シュヴァルティアスは、書物に目を向けながら。


「下級なら、結構。 上位や中位の悪魔とは、数例。 だけど、一応云っておくけど。 これは報告例だからね」


その全てをひっくるめた意味合いを理解するヒートは、顔をワナワナと歪め。


「それ以上に、居る可能性も在るってか。 ま、人が脚を踏み込めない領域は、世界に大陸一つほど残ってやがるしな。 平和で、狂ったバカがカリスマ視される事も在る。 支配だ、勢力拡大だ、面倒な事に悪魔は打って付けの利用材料。 ・・嫌な予感しかしねぇぜ」


シュヴァルティアスは、ヒートの言葉の意味を理解した。 だから・・。


「ま、貴方の経歴も、それを裏付ける。 討伐は、精々深入りしない程度でお願いします。 4日後から、私はその友人と調査で不在に成るので。 代わりに、オーエン・リソリィーが代行しますから」


スカーレットは、その名前も知っていた。


「うわぁっ、協力会の幹部で自然魔法の水の神域を使える人だわっ。 凄い人脈っ」


シュヴァルティアスは、ただただ物静かな雰囲気のままに姿勢を崩さず。


「最初に釘を刺した通り、他言無用でね。 噂で金を得ようとする屯のバカには、聞かせないで」


「あ・はいっ!!」


ビシっと手を胸に翳して敬礼をしたスカーレット。


ミザロは、シュヴァルティアスの態度から話は済んだのだと理解し。


「ご忠告、薬、感謝致します。 ・・では、これで」


話がまだ聞きたいヒートは、不満を顔に表している。 だが、シュヴァルティアスに滅相な口を利くにもゆかず。 石陣に戻るミザロと肩を並べた。


そして・・。 一行がこの3階から消えた直後である。


書物に目を落すシュヴァルティアスだが、ふと顔を上げて・・。


「しっかしだね。 あ~ぁ、風のポリアさんとか~、オリヴェッティちゃんとかぁ~、こ~~口説きたい美女ランキングの上位に入るチーム来ないかなぁぁぁ~~~。 チキショウっ!!! 肩抱いて・・、ゾワゾワ来る様な歯の浮くセリフ云いたいよ~~~~~。 俺の魅力の出番は無いのかにゃんっ?!!!」


・・・。


執事代わりのゴーレムは、何故か横を向いて首を左右に動かしていた。




                       二




ミザロの一行に入ったアフレックとスカーレットだったが。 ひょんな事から欲しい薬を手に入れる事が出来た為、森に入るのは明日からと云う事に。 では、明日にもう一度斡旋所で落ち合う事にした皆は、地元のエリック、ミザロと別れて宿屋街に。


夕方で、曇天下ともなるともう暗い。 街灯に火が入れられ、街を行き交う馬車や人の様相も変わってくる。 荷馬車は減り、帰宅する馬車や人が多く。 飲食店街が更に活気づく足音が聞えた。


アフレックとスカーレットは、ヒートのなじみの宿に案内される途中で、話はやはり悪魔の事。 ヒートは、馬車の往来を見定め、道を渡ろうとしながらに。


「俺は、過去に一度だけ悪魔と戦った事が有る」


と、切り出した。


アフレックは、直ぐに反応し。


「それは、昔の事ですか?」


「あぁ。 っても、10年どうかって処か」


スカーレットは、ヒートが凄く腕の達った者なのだと判断して。


「じゃ、ヒートさんて元は屯してなかったの?」


「ん? んん。 俺は、リー=シャナスって女がリーダーをしていたチームに居たんだ。 或る時、古代遺跡に変な生物が出たって言う話から、主が早急に作った調査依頼を請けてよ。 いざ、その遺跡の内部まで行ってみりゃ、グレイドデーモンとその呼び出した手下共の巣にブチ当っちまったのさ」


ヒートの語りに、何処か後悔が滲む。 一人である彼を見たアフレックは、最悪の事態を予感して。


「もしかして・・、ヒートさん以外は?」


すると、ヒートは道を渡りながら。


「・・シャナスだけ、だ」


スカーレットも、アフレックも、黙って道を渡る。


立派な石造とレンガの大型宿屋の裏を、水路沿いに行く脇道に入ったヒートは・・。


「情けねぇ話だ。 悪魔の纏うフィアーズ・コートに、俺達は屈しかけた。 僧侶だったシャナスは、自分の力に吊り合わない防御魔法を唱え。 俺達は、その魔法の御蔭でなんとか戦った。 だが、終わって見れば、俺以外の面子は、もう重症で。 シャナスは、向うの大将だったグレイトデーモンと、魔法で刺し合って討ち死にだった・・。 仕事は辛くも成功だがよぉ、内容は完全なる負け試合だっ!」


アフレックと、スカーレットも、まだ仲間を亡くす事は経験に無く。 どこまでこの切ない気持ちがヒートの気持ちに近いのか解らない。 だが、失いたくない仲間が居る以上、ヒートの無念さは感じられた。


怒りと無念のやり場が見つからないヒートで。


「俺の・・同郷の妹みたいなヤツだったのにな。 ・・失ってみれば、自分達の無力さに打ちひしがれてよ。 チームはバラバラ、俺は屯に堕ち。 仲間は、逃げる様に他の大陸へと渡ったよ」


スカーレットは、ヒートがそのリーダーの女性に親近感を抱いていたと思う。


「ヒートさん、・・悪魔に遺恨が在るんだね。 悲しみを背負って、今まで?」


すると、ヒートは脇目にスカーレットを見ると。


「それよりも、だ。 ・・お前達も、逃げ所は見誤るな。 俺だ、ミザロだと、無用な意地や義理立てするな。 勝てない相手に遭ったら、何より逃げろ。 斡旋所に知らせに戻るだけで、上出来なんだからな」


スカーレットは、その鋭く突け離す様な瞳に何も云えなかった。


宿に着くと、各自勝手と云う事に成り。 ヒートは、一人部屋に消えていった。


二人で仕切りの在る一部屋を借りたアフレックとスカーレット。 風呂に入り、近くの飲食店で軽く済ませた後。 早く寝てしまおうとなったのだが・・。 霧雨が降り出した街で、宿に戻った二人は軽く髪の毛を濡らしていた。 鎧だ、プロテクターだと身に着けぬ軽装で、部屋に戻って手拭いで髪の湿りを取ろうと云う時。


ベットに座り、髪を拭くスカーレットが、仕切りの向うに居るアフレックへ。


「ねぇ、アフレック」


部屋に在る水差しで水を飲んでいたアフレックは、急に呼ばれたので。


「ん? どうしたの?」


と、飲むのを途中にして応えた。


「うん・・、もしね。 もし、悪魔が出たらどうしよう」


「・・“どうしよう”って云われてもなぁ。 勝てない相手なら、なるべく全員で逃げるしか無いんじゃない?」


すると・・。


「じゃぁ、さ。 最悪の場合には、私を置いて一人で逃げてくれる?」


その、スカーレットの言葉に、アフレックは言葉を飲んだ。


「・・・」


沈黙するアフレックに、スカーレットが。


「やっぱり、無理?」


「・・・」


無言のアフレックである。


このアフレックとスカーレットの関係は、実に微妙な螺旋の形をしている。 スカーレットは、元はそこそこの基盤を持っていた貴族である。 スカーレットは、没落した一族の生き残りの様な存在である。 彼女に魔法学院へ行く支援をしたのは、同じ地元の商人で在り。 アフレックの祖父だ。


一方。 アフレックは、自分の祖父の兄がスカーレットの家の執事をしていて。 アフレックの父親は、その執事をしていた人物の元に養子として入った。 つまり、スカーレットの一族の下僕の立場に在ったのだ。 現に、彼が5歳の時まで、スカーレットはお姫様的なお嬢様であり。 幼馴染の様な従者にされていた。


スカーレットの父親が、アフレックの祖父に騙されて失脚を余儀なくされる。 その後、地元で仕事を貰う為に、スカーレットの父親とアフレックの祖父の間で、或る約束が交わされた。 没落した名家の名前をスカーレットが引き継ぎ、彼女がアフレックの従兄弟に当る人物と結婚する事である。


スカーレットの一家を、アフレックの父親は支え続けた。


アフレックは、スカーレット専属の従者の様に・・。


だが、スカーレットの父親は、母親を離縁して実家に帰し。 アフレックの父親の支援も拒絶。 半分働きながらも、自暴自棄に近い生活で病死した。 過度の飲酒が、その原因であった。


結局、同じ学習院に通い、同じ地元の友人として仲の続いた二人。 だが、スカーレットが魔法学院に行くとなり、アフレックの祖父がアフレックを世話係として、見張り役として同行させた。 アフレックは、魔法学院の街で働きながら、スカーレットを監視する役目に当った。 卒業まで、学院が休院期を迎えると、スカーレットを護衛する傍ら、連れて帰って来るのが役目に成った。


が。


この働きの間、アフレックは冒険者に成りたいと云う夢を抱き。 街に居た老人剣士に教えを乞うた。 小柄ながら、身体が丈夫なアフレック。 重たい力仕事で鍛えた身体に、持ち前の運動神経が合致したのだろう。 約5年半の間に、めきめきと実力を付けた。


一方。 適正の噛みあいから、魔法が旨く切り離せない事を悟るスカーレットだが。 偏屈で、適正のズレや不具合をどうにかする事に喜びを見出している魔法学院の教諭に見込まれ、特別製の銃に魔法を込める技能を修得したスカーレット。


アフレックもその事は知らず、卒業の時に迎えが来る街まで護衛し。 その後は自由に冒険者をやるつもりだったのに・・・。 スカーレットまでが冒険者に成ると言い出し、迎えに来たアフレックの従兄弟を拘束して婚約の破棄を言ったらしい。


結局、そのゴタゴタに巻き込まれる形で、逃げる様にスカーレットに連れられて来たアフレック。 魔法学院へ舞い戻り、学院の在学生の出す依頼を一つ二つこなして旅費を作り。 その後は、旅を続けてこの街まで遣って来たのだ。


とんでもない我儘を言ったスカーレットだったが、それまでは我儘など言った事も無いレディに近かったし。 アフレックもいざと成ると、父親、祖父の兄に仕込まれた仕える者の心得が働いてくる訳である。 スカーレットの気持ちが解るだけに、彼は妙な義理立てをしてしまった訳だった。


こんな経緯で二人しているアフレックであるから・・。


「・・んじゃ、スカーレットは僕を見捨ててくれるんだね? 今更、僕が君を見捨ててのうのう生きてたら、後々どう云われるかは解ってるでしょ? どっちかと言えば、僕が君を見捨てるより。 君が僕を見捨ててくれた方が助かるけどな。 故郷に話が行っても、まだ軽く収まるよ」


と、やり返しても。


「・・・そうね」


と、スカーレットが力無い言葉を出せば。


「今に悩む事じゃないよ。 逃げる時は、なるべく全員で逃げればいいんだし。 無理やり殿を作る必要も無いと思う」


遣り込まずしてこんな補助を・・。


「・・そうね、ヒートさんと同じ事に成るって決まってないもんね」


スカーレットの幾分明るい声を聞き、ホッとしたアフレックは。


「そう。 だって、凄そうな悪魔はもう倒されたんだしさ。 あぁ、あのシュヴァルティアスさんも、4日後に調査に出るって云ったじゃん。 森の奥に深く入らなければ、大丈夫だよ」


「そうね。 そうだよね」


「うん。 でも、出来るなら早く調査して欲しいよね。 何で、4日も後なんだろう」


こう話の論点をはぐらかし。 


「そうだわね。 そう云われて見れば、そうよね?」


「ま、多分は、大怪我して戻った人の意識がはっきり回復してないとか色々あるのかも。 ふぁぁぁぁぁ~~~、じゃ、もう寝るよ。 なんか、色々在って眠いんだ」


と、ランプの絞りを回した。 壁の低い所と、天井付近に在るランプが連動して暗くなる。


部屋の片側が暗くなったのを、仕切りの切れ間から解ったスカーレット。 だが、彼女も、アフレックが無用な心配をしたくないのは理解していて。


(アフレック・・、ありがとう。 私ね、貴方が好きで婚約捨てたの。 どうしても、貴方以外の人とはイヤだ・・。 だから、もしもの時は、一緒に逃げてよ。 私一人とか、イヤよ)


我儘でも、口に出して云えない理由・・。 そんな思いに駆られ、アフレックを巻き込んで逃げたスカーレットである。 生まれてから、幼き頃よりレディとしての扱いで生きてきたが。 周りの同い年の女の子とは、何処か違ったスカーレット。 お嬢様の雰囲気を纏わり切れないというか、冷めた部分と華やかさを嫌う部分がそうさせるのか。 お嬢様と云う言葉が嫌いだった。


自分も部屋を暗くして寝るスカーレットだが、今までに二度嘘を付いた事だけは忘れない。 一つ目は、結婚を逃れて魔法を学びたいと嘘を言った事。 二度目は、魔法学院自治領の湾岸都市にて。 護衛に着いて来たアフレックに、


“私は自由に生きたいの。 もう、家族も居無い。 好きでもない男の人の子供を産むだけの人生は絶対にイヤっ。 アフレック、私も冒険者に成りたくて魔法を学んだのよ”


と、宣言し。 彼を道連れにした事。 本音は、アフレックの傍に居られるなら、冒険者じゃなくても良かったのだろうが・・。


肌寒い温度の中で、二人は明日への時間を眠りに委ねた。



しかし。



アフレックの他愛無い感想は、満更なものでもなかった。


“悪魔”


人に、街に、国に、最も不利益を齎すモンスターである。 今の悪魔は、人を敵視しかしていない存在であり、人の社会を乗っ取ろうと画策する存在だ。 そんなものが出たなら、直ぐに調査を開始して。 悪魔の出所は突き止めておくのは、現実に必要な作業だろう。


“4日後・・”


などとは。天才魔術師シュヴァルティアスが直々に出向くにしても遅過ぎるかも知れない。 その意味は、今夜に斡旋所の別室にて明らかと成る。


包帯を顔に巻いた男のKは、内装の良い客室で踏ん反り返って横に成っている。 勿論、ソファーにだ。


応接のテーブルには、シュヴァルティアスと、礼服に上質なマントをした紳士風の初老男性が向かい合って座っている。


「シュヴァルティアス殿っ、それは真の話なのかっ?!」


綺麗に整った鼻髭に、片目へグラスを掛けている紳士は、驚きを込めて言った。


「えぇ、恐らく事実です」


真顔のシュヴァルティスは、淡々としている。 だが、彼が真顔に成るのは珍しい事で。 逆に言えば、本気の彼が居ると云えた。


紳士の初老男性は、その皺も刻まれた目じりを細くさせてKを見てから。


「あの者が、悪魔を退治したのでしょうか?」


と、聞く。


シュヴァルティアスが頷くのに付随して、Kが。


「ン年前だか。 此処の偉そうな大臣を密かな頼みと斬った。 そのゴタゴタで色々と大臣が代わったらしいが・・、アンタもその口かい?」


その話に、ギョッとした目をKに向けたまま、紳士は動けなくなった。


シュヴァルティアスは、Kを見ずして。


「カギンカム大臣。 彼はもうあの頃の殺伐とした家業は辞め、タダの風来坊に成りましたが。 今回の話は、一大事ですよ。 悪魔が出た場所は、北東に伸びる山岳街道の中腹付近。 悪魔は、冒険者の気配に歩いて近付いてきたとか。 これが事実なれば、悪魔を生み出した場所が近くに在り。 また、出て来たのがグレイトデーモンと、たった手下の下級悪魔が数体だと。 これは、早急に行方不明者の捜査を頼みたい事実なんです」


云われた大臣は、全く何がなんだか飲み込めず。


「あ・・あ、話がイマイチ・・の・飲み込めないの・・だが?」


すると、寝っ転がったKが。


「悪魔を呼び出すには、大きく二通り在る。 一つは、ゲート。 カオスゲートだ、イヴィルゲートだ言われる“魔界の門”を開くこと。 二つ目は、魔方陣に因る悪魔召還」


Kの話に、Kを見た初老の紳士は。


「どちらが、どう違うのか?」


と、疑問を返すと。


「一つ目は、魔界の門を開く事。 つまりは、這い出る悪魔は開かれた門の大きさに因って違ってくるから。 普通は下級の小悪魔が先んじて出て来て、その後に拡大してゆく最中に中級、上級の悪魔が後から出る。 後の魔方陣は、ゲート在った場所やヘイトスポットに作るモノで。 人の血肉を供物にして、契約する形だ。 この場合は、召還者の技量や魔力。 そして、用意出来た供物の多さで、呼び出せる悪魔が変わるし。 任意に近い悪魔を召還出来るのが特徴だ」


「あ・・、それで?」


「下級の悪魔ってのは、上の階級の悪魔に逆らえないギアス(制約)が在る。 俺が森で斬った悪魔は、グレイトデーモンと総称される破壊の悪魔でな。 別名を、“上に取って代わる悪意”とも云うヤツで。 その性格は残虐で、凶暴で、血に飢えた部類の最悪の悪魔。 あんなのを召還しても、召還者の言う事なんか聞きゃしないゼ? 周りに小悪魔が居無いし、ゲートから這い出てきたと想定するには、弱ってやがったから違う。 ゴリ押しで人の血肉を求めて這い出てきたのが、魔力を削って最下級の魔意程度のモンスターを召還したって感じだった」


「でっでは・・、その悪魔は呼び出されたと云う事か?」


「恐らく・・な」


Kの話に、今度はシュヴァルティアスが続き。


「カギンカム警察大臣。 悪魔を呼び出す為には、何人・・。 いや、何十人もの犠牲が必要なのです。 最近、急激に人が減っているなどの話は在りませんか? 女性や子供が特に好まれ、男性を使うなら数が必要に成ります。 どうか、その辺の調べを進めて下さい。 我々は、近場から悪魔の気配を探って行きます」


「う・・うむ」


今一、現実味を感じられず生返事をしたカギンカム大臣。


だが、Kは・・。


「後で言うと怒られそうだから、今に言っとくゼ。 悪魔っての、一度でも召還に成功すると次は簡単に成る。 理由は、召還されて自由に好き勝手できると悪魔側が理解するからだ。 理知的な悪魔は、ゲートの開放を強く望む傾向に在るのに対して、残虐な悪魔はその辺はテメェ勝手なんだ。 ま、犠牲が目に見えて街に及ぶまで動かないのも良し。 先んじて動くのも良し。 ただ、責任は俺達に押し付けるなよ。 協力会も、冒険者も、道具じゃないからな。 政府の後手の不手際を尻拭いなんて、俺達は絶対にしないゼ」


脅しを掛けられて居る様な気分に成るカギンカム大臣。


しかし、シュヴァルティアスは真面目で。


「嘘だと思うなら、大臣。 地下に保管した冒険者の遺体をご覧下さい。 明日の葬儀ですが、浄化に手間取るので寺院が今日の葬儀を蹴った程なので。 それで、悪魔の恐ろしさが解ります」


現実的に動くに必要な動機。 つまりは、危険な一大事が迫っていると頷けるだけの確証が欲しい大臣は、強く頷いた。


「よし。 是非、見せてくれ」


すると、Kは。


「2日3日、肉が食えなくなるのを覚悟しなよ」


と、だけ。


少しして、霧雨の煙る街中を、黒塗りの馬車が駆けて行く。 乗車する主に急かされたのか、猛烈な全速力でだった・・。

どうも、騎龍です^^



ご愛読、有難う御座いました^人^

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