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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
180/222

★夏休み特別話 番外編・雨林の奥に出来た腫瘍 上★ 

                   K 番外編拾ばんがいへんしゅう




Kの旅は、長きに亘る。 その所々では、一人の時に遭遇する幾多の物語が在る。 番外編では、それを所々から拾ってゆく事にしよう。


*注:番外編では、様々なKの見た物語をお送りします。 ですが、その明確な時節を明らかにせず、大体の説明から入る事もあろうかと思います。 どうぞ、細かい点は流してお読み下さい・・。





                     題名 【雨林の奥に出来た腫瘍】




その日は、冬を思わせる冷たい雨が降る秋の終わり頃だった。


シャラシャラと降る雨音が、古い街に木霊する。 水の王国ウォッシュ・レールの北部に位置する古都アクエリア=カロノス。 世界でも古い水路都市で、街並みがレンガ風の古代建築を今に続かせる大型都市である。 縦横無尽に街を走る水路、周辺地域の村や町から流れてくる物資が水運で運ばれる中継地でもある。


その雨の街に、二人の冒険者が流れ着いた。


「長雨の晩秋って言うらしいけど、本当に降るわねぇ~」


レインコートの役割をする黒いツルツルのローブを纏う若者が、街に入って直ぐに空を見上げて言う。 断続的に4日も降っている。 これで当たり前と云うのだから・・。


もう片方の同じローブを着た者は、


「早く斡旋所に行こうよ。 風邪を引く前にさぁ」


「そうね。 まだ朝だけど、斡旋所は開いてるわよね」


二人が往来を行く人や荷馬車を避けて、大通りの片側に寄って歩き始めた。


歩く最中に。


「アフレック、見てよ。 凄いよ」


男女の区別が付きにくい若い一方の声は、太い水運河を行き来する船を見下ろして云う。


「河が少し低い場所を流れて行くんだね。 ひゃ~、何十・・もっと船が有るよ」


此方は、どうやら男性の声の様だ。 少し低く、若者らしい感じである。


街の建物は、基本が白っぽい石と黒っぽい石の石造建築で、壁や屋根に使われているのがレンガだ。 どの建物も三角の鋭い屋根を基本とした建物で、北の国に多い四角調の建物は見当たらなかった。 水運用の太い河川は、低い場所を。 人を運んだり、街の中で遣う水路は細く街と同じ高さに有るのだが・・。


若い男性と解る方の声が。


「スカーレット、見てよ。 水彩空中都市って、この事なんだよ・・」


「うわぁ・・、これが古代に作られた“ハルメニィーの輪陣都市”ね」


二人がフードを上げて見上げる先には、円盤型の都市が段々に為って浮きながら聳える光景だ。 標高の高い場所に作られたこの都市は、元は独立していた国の首都だった都市であり。 世界でも屈指の学力を備えた教育都市であった。


この周辺の森にモンスターが出没し始めて、街の周りの危険度は増しているものの。 今でも、この街の大學院にて、優秀な成績で学業を修めてそれぞれの国への仕官を確実にしようとする傾向は強く。 年齢に差有れど、他国から高等学習院を卒業して入学に遣ってくる若者や、魔法学院を卒業しても更に金が有る者には、この都市で教育学院へ入る者も少なく無い。


物流・高価格石材採掘・学業・特殊農産物、この都市で扱う産業の多さは、多雨多湿の環境ながらに人口を維持させるに十分な包容力を持っていた。 高地と云う高温に成らない冷涼な気候が続くのもその一つの要因だろうか・・。


さて。


大雨だった昨日の日中を、洞窟で寝て過ごし。 雨脚が弱まった深夜から、休み休みこの街に来たあの若そうな二人は、庇の有る石造りの東屋風公園に入り。 その公園の外周を流れる水路で、船乗りをしている初老の老人に会った。


声で男と判別出来そうな、“アフレック”と呼ばれた者が。


「すいません。 協力会の館に行きたいんですが」


すると、4・5人乗ればもう一杯一杯と思える木のボートに、屋根を付けたものに乗る船頭の男性が二人を見て。


「“協力会の館”? ・・あぁ、斡旋所の事か。 なんだ、お前さん達は冒険者かい?」


“スカーレット”と呼ばれた者が応え。


「そうです」


「ふぅ~ん」


船頭は、二人をまじまじと良く見てから。


「身の丈も大きく無いし、魔法遣いかい? 今時、斡旋所を“協力会の館”だなんて云うって事は、お前さん達は新米だろう?」


「だって、正式にはそうゆう名前でしょう?」


スカーレットの素直な返しに、船頭の男性は苦笑いを浮かべると。


「斡旋所なら、この第5段の街の右奥に在るよ。 名前は、【雲霧に煙る山間の石亭】と云う大きな円形の建物だ。 シナン8丁目だよ」


アフレックが。


「どうも有難う」


と、頭を下げるなら。 隣のスカーレットも、


「助かります」


と、云う。


其処へ、繋ぎの衣服を汚した中年と若い男性が遣ってきて。


「お~い、おやっさん。 エルゴ通りの6番地まで頼むよ」


船頭の男性は、


「いいよ。 乗ってくんな」


と、竿を取った。


若い二人が見ている中、屋根付きの船に二人の男性が乗り込み。 船頭は、船を出しながら。


「活躍しなよ」


と、声を掛けてくる。


こんな雨の中だが、二人は手を振って船頭に返した。


二人は、その公園を離れて街の右奥へ向かった。 土地勘の無い二人だから、馬車の御者に注意されたり、店を開ける老人に怪しまれたりしたが。 通りに冒険者らしき集団を見かける様に為り、何とか斡旋所に辿りつけた。


白いモニュメント調の建物である斡旋所は、地下にカジノ。 地上部2階までが自由市場。 地上部5階までが斡旋所。 最上階の9階までは、銀行と云う大型複合施設である。 そのため、四隅に角を持ち、浸水しないように入り口が地上の中2階部に設置され。 搬送用の出口が四方に有る変わった姿をしているのだった。


中に入った二人は、人の出入りの邪魔に成らない様にと、内部の四隅の各階に有る休憩場にて雨具用のローブを脱いだ。


「うはぁ~、コレって結構嵩張るよね」


アフレックが水気を植木鉢に捨てている。


「そうね。 濡れてるから、蒸れるとイヤだ」


と、スカーレットは手拭いで拭いていた。


薄暗いながらも、大窓が何十歩も続く休憩場の前に、この二人。 顔をすっぽり覆うローブを取れば、その姿がやっと解った。


黒髪をやや長めに生やし、丸く温厚そうな双眸をするのがアフレック。 体にピッタリのモンスターの鱗から作られるスケイルメイルを装備し。 左右の腰には、片手用に造りをやや変えられた中剣を佩いている。 紫の帯状となるバンダナには、獅子の様な刺繍が入っていた。 見た目の年齢は、まだ10代と思しき若々しさであるが。 腕、拳、首筋など、目に見える肌の引き締まり具合は、相当に鍛えてきているのが覗えた。


一方のスカーレットは、その衣服の上からボディーラインを見るに女性らしい。 澄んだ黒と金のオッドアイの瞳に、金髪が白めに長く伸びている。 オールバックで、カチューシャを遣って後ろに縛っているのだが、その柔かそうな見た目は如何な物か。 丸で、高価な糸の様に美しい。 それから、腰から下がズボンスタイルとなるタイトで白いワンピース姿だが。 小手や具足は金属製で、しかも得物を持たないのが変わっている処。 両手の中指に、特徴的な黒の宝石らしきものが填まる指輪をしているので、魔法遣いかもしれない。


雨具を畳み、背負い袋に括り付けた二人は、3階の斡旋所に向かった。


斡旋所に向かった二人は、紅い壁したフロアが煌々と明るいのに先ず驚く。


「うわっ、外は曇りなのに、此処ってば凄く明るい」


スカーレットが云うと。 アフレックは吹き抜けの天井へ向かうまでの宙に、白い魔法の光を生み出す球体を幾つも見つける。


「スカーレット、見て。 あの幾つも下がってる球体の光が、この吹き抜けの場を明るくしてるんだよ」


「そうね。 あんな魔法の篭った水晶・・どうしてるのかしら。 買ってるなら、相当な費用よ」


ガヤガヤと喧騒が響く斡旋所の広いフロアに入った二人は、そのフロアの奥のカウンターに看板が下がっているのが解る。


“一般依頼の請け付け窓口”


“新人及び炙れのチーム探し相談窓口”


“報酬受け渡し窓口”


“成功・失敗報告窓口”


“依頼相談・雑談・相談の窓口”


カウンターテーブルが奥の一辺を支配する。 其処には、乗り越え禁止とばかりに鉄格子が掛かり。 窓口のサイズだけ格子が空いているという不思議な見た目が在り。 また、その窓口の向こうに居るのは・・・。


「アフレック・・見てよ。 カウンターの向こうに居るのって・・・石のモンスターじゃないっ?!」


スカーレットがそう言うのに、アフレックも。


「石みたいな人形が・・動いてる?」


窓口の向こうには、顔の虚無感有り過ぎな石像が動いているではないか。 しかも、ちゃんと言葉を発しているし、スムーズに作業をしている。


スカーレットは、その石の人形を見て。


「これって、ゴーレムマジックだわ。 でも、暗黒魔法の方じゃなくて、魔想魔術側の領域秘術かな・・。 全然、闇や暗黒の波動を感じないもん」


すると・・。


「ほう、初めて見る顔にしちゃ、随分と解るねぇ」


低く何処か冷めた印象の声が、二人の背後に投げ掛けられる。


「え?」


「うわっ?」


カウンターを遠目に見ていた二人の背後に、背の高い男が居た。 前髪を右側だけ開けて下ろし、頭の髪を黒い帯の布で巻き固定している。 碧眼の眼は垂れ目ながら細く開かれ、低い鼻に分厚い唇の奇妙な印象を受ける。


しかし、アフレックが直ぐに目に付くのは、寧ろその背中に背負う片逆向きの刃をする鎌が、槍の様な棍棒の上下先端に着いた武器。 非常に珍しい造りで、特別注文の一品ではと思う。


スカーレットは、その男性に。


「お・おはよう・・ございます」


と、緊張して構えた声で挨拶を。


すると、その中年・・40前後の男性は、見下ろす瞳で。


「おう。 処で、御嬢は魔法遣いか? ゴーレムマジックの細けぇ事を知ってる素振りだな」


「はい。 エンチャント・マジシャン・・・です」


男性は、耳慣れぬ言葉に。


「“エンチャンター”なのか? “マジシャン”なのか?」


だが、スカーレットは首を左右に振り。


「その間です」


と、背中の荷物に触れ。


「私、魔法の具現化までは出来るんですが、固体として切り離せないの。 だから、このバックに入ってる特殊ガンに魔法を装填して撃つの」


男性は、珍しいものを見る様にスカーレットを見て。


「適正がズレてやがるのか」


「はい。 それに、攻撃魔法しか使えないの。 幻惑魔法は、適正が皆無的にナシ。 ま・・ガンナー?」


頷いた男は、アフレックを見て。


「そっちのコゾウは、剣士みたいだな」


声掛けられたアフレックは、ビクンとして。


「あ・・はい。 二刀流ですけど」


「そうかい。 これはチョイト面白いのが来たな。 ま、精々ガンバレ。 近年のモンスター増加で、モンスター討伐の仕事は常に在る。 いい仲間見つけて、死なない程度にこなしていきな」


こう好意的なのか、見捨てているのか。 どちらとも取れそうな言葉を言ってきた男性は、吹き抜けとなる2階の寛ぎのスペースの方に向かって動き出す。


その姿を見たスカーレットが。


「あっ、私はスカーレット。 こっちはアフレックですっ」


すると、男は片手を上げてフラフラ動かし。


「俺は、ヒート。 しがない屯組だ」


二人は、何処か世捨て人の様な雰囲気を背負うヒートに出逢った。




                        一




或る、曇り空の午後である。


「このぉぉぉぉぉぉっ!!!」


二刀を構えたアフレックが、牙の鋭いイノシシのモンスターと対峙していた。 周囲は、奥深い森の中。


「アフレックっ、もっ・もう少し踏ん張ってくれっ!!!」


やや慌てた感じのトーンの高い男性の声が、イノシシの周囲とは別の方向からする。


「はいっ」


上向きの長い牙と、突き刺す用の短い牙を生やしたイノシシのモンスター。 その猪突猛進を何度もかわし、アフレックは何度も斬り付けている。 だが、硬い皮膚に剛毛の体毛に阻まれ、薄皮を裂く程度にしかダメージを与えられていなかった。


一方。


「このっ、このっ」


パシュンパシュンと空気を切る音と共に、スカーレットが上空の林間を跳ねる小猿のモンスターを撃ち落そうと魔法を飛ばしていた。 長い筒に金属で舗装・補強固定を為された青緑色の銃を構える彼女は、既に4・5体のモンスターを狩っていた。


アフレックとスカーレットは、地元で活動しているチームだという“アラード・コナンブル”の面子に入っていた。 リーダーは、大剣を使う総身屈強な印象の壮年のコナン。 新参者彼ら二人以外の面子では、魔想魔術師の大人びた女性である、やや人を食った様な印象のキロウ=リリシュに。 自然神を信仰していると云う気弱な印象の僧侶である年配男性トリーマン。 後、アフレックやスカーレットと共に加わった人物で、、逆手でレイピアを遣う男のエリック=ボスモークの3人が仲間に成る。


「飛礫の魔法よっ、生み出なさいっ」


リーダーのコナンが相手にするのは、大型の爬竜種であるロボノギガノトス。 彼に、リリシュとエリックが加勢して戦っている。 オオトカゲの姿ながら、二足で鈍足ながら歩行が可能なロボノギガノトス。 こげ茶色の体に、サンショウウオの様な平べったい頭をして。 その全長は、背の高いコナンの3倍強。 立ち上がられると、皆が見上げなければ頭が見えない。


光に当ると緑色が薄っすら光るダークブラウンヘアーを揺らし、大きなモーションで魔法を飛ばしたリリシュの放った飛礫。 二足歩行で、森の太い木々を手摺の様にして短い手を着けるロボノギガノトスの眼に飛んでいく。


しかし。


炸裂した魔法にて、ロボノの眼は傷付く。 しかしそれでも、巨体の進行は止められなかった。


「おいっ、これはマズいぞっ」


と、危機感を募らせた僧侶のトリーマンが云う時。


「これでぇぇぇぇぇ・・、終わりだぁぁぁっ!!!!!!!!」


アフレックの鋭い声が上がる。


戦う姿勢を見せるエリックとは逆に、後退しかけた古株3人は声の方に顔を向けると。 イノシシのモンスターの頭部に馬乗りと成ったアフレックが、両手の剣をモンスターの眼に突き刺していた。


また。


「狙いが違うのよっ!!! あのモンスターは、鼻を狙うのっ!!!」


エリックに弓の役を交代して貰ったスカーレットは、銃を上向きに構えて云う。


「喰らえっ」


短剣の形をする魔法を込めた銃で、スカーレットはロボノの鼻頭を狙った。 6連弾の魔法は、全て高みの鼻に当る。 質感の違う様な鼻に魔法を受けたロボノギガノトスは、極端に嫌がって仰け反った。



この戦いから、二日後。



「はいはい、モンスター討伐の御清算ですね~」


人型のパペットゴーレムが、やや陽気な声を出して云う。 引き抜かれたイノシシのモンスターの牙、ゼリー質が溶けて消滅したスライムの核、カエルの舌や目に、ドロドロした液体の入った瓶がカウンターに出された。


コナンが一人で、斡旋所の報告の窓口に立っている。 モンスター討伐は、その値段が持ち帰った証拠品によっての査定で決まる。 モンスターの部位は、家畜を巨大化させたりする飼料に成ったり。 一方では、薬と変わる。 特殊な物品の卸店《競を含む》を営む斡旋所であるから、売れる部位ほど報酬が跳ね上がるのだ。


「あららら~、随分と大量デスネぇぇ~。 はいはい、サテ~しちゃいますよ~~~~」


他のゴーレムと違い、この窓口のゴーレムは主の声をそのまま伝えるらしい。 他のゴーレムとのやり取りとは、大きく雰囲気が変わるのだが・・。


「3500シフォンよ~~。 向こうで受け取って」


コナンが別の窓口で報酬を受け取ったのだが、此処からが少しおかしな展開に成る。 何故なら、コナンが一般相談や結成・解散の旨を伝える窓口に向かったからだ。 もっと奇妙なのは、コナンを見て待っているのが、何故か神妙な顔付きをするアフレックとスカーレットの二人に、無口で押し黙っているエリックのみ。 リリシュやトリーマンの姿が見えない。


「済まない、主。 アラード・コナンブルのリーダーだが、チームから3人の脱退を申請したい」


四角い顔型を持つゴーレムから、


「理由は?」


と、質問が返る。


すると、コナンは少し鋭く見捨てる様な視線を待っている3人に向け。


「使えないからだ。 チームの面子として、行動が出来ない。 これでは、命が幾ら有っても足りないよ」


すると、石の人形が。


「解った」


と・・。


手続きを終えたコナンは、二分けにされた麻袋の片方をアフレックに投げてよこし。


「分け前だ」


と、出口に向かう。


「あわわ」


落しそうになったアフレックが、その袋を受け取ると。


「ゴメン」


と、スカーレットが謝る。


コナンが去るまで見送ったアフレックは、頬に出来た瘡蓋を指で掻きながら苦笑いでも。


「スカーレットが間違いを云った訳じゃないよ。 仕方ない。 それより、3等分にしよう」


口数の少ない男であるエリックは、去って行くコナンの背中を見て。


「狭い・・」


と、呟いた。


3人は、屯出来る中2階に上がってテーブル席に座り、1500シフォンを三等分にて分けた。


其処に。


「おう、もう仕事をこなしたのかよぉ」


アフレックやスカーレットには、聴いた事が在る声がする。 3人が声の掛かった横を向けば、其処には“ヒート”と名乗った長身の男が居た。


「あ、ヒートさん」


アフレックが名前を言うと、あの少し訝しげな屯する冒険者ヒートが。


「ちょいと見ないと思ったら、やっぱり稼いで来てたかぁ。 見所あると思ってたよ」


だが、全く浮かない顔のスカーレットが。


「でも、せっかく入れて貰ったチームから捨てられちゃった」


ヒートは、見慣れた顔のエリックを見てから。


「其処に居るのは、狩人のエリックだろう? お前達、何で捨てられたんだ?」


エリックは、ヒートの顔ぐらいは知ってそうな素振りだが。 話した事も無い様で、


「野暮な話だ」


と、だけ。


代わって、スカーレットが。


「あのね、森の奥まで行けて。 少し珍しいモンスターとかと戦えたの。 でも、チームの魔術師さんとか、リーダーが対処知らないみたいで・・。 もう切羽詰ってた状態だったから、私達強い口調で情報を教えたり。 その・・、自己判断で倒したりしたの」


ヒートは、当たり前の事に。


「それは、戦いの最中なら当たり前だろうが」


処が、アフレックは困った顔で。


「でも、コナンさんとかは、それが新人の利く口じゃないって・・。 生意気で、命令に背く者は要らないって」


3人を見るヒートは、呆れた顔を見せ。


「何だ、お前達はあのボンクラチームに居たのか」


こう返って来た言葉を聞くスカーレットは、ヒートがこの斡旋所の冒険者事情に相当詳しそうだと思ってか。


「ヒートさんは、コナンさんのチームの事は知ってたんですか?」


「あ? あぁ、まぁな。 あのコナンやリリシュは、森に何度も入っても死なない事を自慢にしてるホラ吹きさ。 自分達を持ち上げ、言う事聞くヤツには甘くてよ。 だが、大してモンスターの討伐も出来ないし、命の危険を大きく冒す事も嫌がる腰抜けなんだ。 チームの稼ぎが悪いから、あの3人みたく地元に根降ろしして生活に大金が掛からない様なヤツでないと居つけない。 リーダーとしての評価も、チームの評価も最低の方だぜ」


アフレックは、それを聞いて納得。


「そっかぁ~、それでロボノを倒さず撤退したんだぁ~。 スカーレットが鼻を傷つけて怯んだから、足元から責めれば持久戦で倒せると思ったのに・・」


ヒートは、アフレックの前に立ち。


「ほう、ロボノギガノトスともやり合ったのか」


「うん。 ま、デカかったし、倒せる確証は無かった相手でした」


「そうか・・・」


アフレックやスカーレットを見るヒートは、徐に。


「・・・そうだなぁ。 んならよ、俺の知ってるチームに一時参加しないか?」


3人は、パッとそれぞれの動きでヒートを見る。


3人の視線を集めたヒートは、首を真ん中吹き抜けのサークルフロアの対岸方向にしゃくって見せ。


「モンスター討伐で、金を稼ぎたがってる地元のヤツが居る。 高価な薬が必要らしいが、信用は出来る人間だ」


スカーレットは、向こうなど人が彼方此方に動いていたり、座っていたりするぐらいしか解らないと思いながら。


「ヒートさん、どうしてその人を紹介するの?」


「いや、俺も加わって手助けしてやろうと思ってたんだ。 一人息子が病気で、毎年この時期に冒険者へ戻って来るヤツなんだがよ。 仲間の大半が、別のチームに加わって仕事に出払っちまったらしい。 数日内に1000シフォンは必要らしいから、森に入ってもチンタラできないんだが・・」


すると、エリックと云う狩人は、


「いいだろう」


と、云う。


アフレックも、どうせなら何事も経験だと。


「スカーレット、エリックさんやヒートさんが行くなら、行ってみない? 違う経験も出来るかも」


「・・、解った」


チームに捨てられたばかりだと云うスカーレットは、イマイチ乗り気では無かった。 だが、人助けでもあるし、遣り甲斐が在るならそれでもいいと思う。


ヒートに連れられ、別のテーブルの方に行くと・・。


「悪いが、もうイヤだ。 一々、面倒見てられない」


「・・・済まない」


若い偉そうな態度で座る5・6人の冒険者に、無精髭も随分と長くなった男性冒険者があしらわれていた。


「ミザロ、話が在るんだが」


ヒートがそう声を掛けると、伸び放題の髪・髭をした男性は振り返り。


「ヒート・・、どうかしたか?」


「お前の頼みを聞いてくれそうなヤツ、俺を含めて4人集まった。 5人も居れば、2・3日でもなんとかなろうさ。 とにかく、猶予の為にも未払い金稼ぎに出よう」


ヒートのその話に、“ミザロ”と呼ばれた人物がやってくる。 背が高いヒートやエリックに比べ、頭半分以上低いミザロと云う人物だが・・。


間近に来た彼を見て、アフレックは驚く。


(うわぁ、鎧も剣も古そうだぁ・・。 この人、装備もまともじゃないよ)


一方、スカーレットは、そのフラフラとした様子のミザロに。


「あの、フラフラしてますけど・・、大丈夫ですか? 具合が悪いなら、私達だけでも・・」


だが、ミザロは、首を左右に振り。


「金も欲しいが、少し希少な薬の原料も欲しいのだよ。 見て楽に解ると云うものでも無いから、私も行かなければ・・」


エリックは、そのミザロと云う人物を知っている様で。


「早い方がいい」


一行は下に降りて、ゴーレムにチーム結成を伝え、モンスター討伐の依頼を請ける事に。 だが、依頼受付にて、ゴーレムから。


「ミザロさん、3階へどうぞ。 主から話が有るそうです」


こう云われたミザロは、言葉が出なく。


「おいおい、俺達が何をしたって言うんだ?」


と、ヒートも変わった事に身構える。


アフレックやスカーレットは、何がなんだか・・。


しかし、カウンター外れの壁の中を行く専用の螺旋階段にて、3階まであがると・・。


「お待ちしてました、こちらでございマス」


と、人の格好をしたゴーレムが、黒い礼服を着て遣って来る。 顔も目鼻立ちがシッカリしたゴーレムで、その恭しい態度などは人の様な・・。


案内をされるスカーレットとアフレックは、下のカウンターから見上げた天井の上に、3階が広がっているのだと解った。 上級依頼の請け付場であり、主から叱責や相談を受ける階である。 何が起こるのか、今のチーム事情で来れる訳が無い階なのだが・・・。


何かの棚の裏と、石壁に鋏まれた通路を案内され。 開けた場所は、薄暗い周囲に囲まれた広間だ。 しかも、明るい光が中央にだけ降り注ぐのだが、その光に照らされて2段の円形フロアが見える。 下の円形フロアには、3人の背丈が似通った老人が人型のゴーレムを手伝いにして、あれやこれやと書き物をしたり、書類に目を通したり。 服装は礼服、3人がする眼鏡はどれもフレームが金だ、銀だ、プラチナと云う様に、金には困ってなさそうな印象を受ける。


「アフレック・・此処って下と雰囲気が違うね」


スカーレットは、此処に厳かな雰囲気を感じた。 円形のフロアの上にだけ、煌々と明るい魔法の込められた水晶が在り。 天井や壁の周囲は、何故か宵闇の如く仄暗い。 床に面する壁側は、2・3の通路が壁に向かって伸びる以外は、本棚が数段積まれた資料の保存場所の様な感じなのだ。


大きな皿の様な円形のフロアを見る一同に、礼服を着たゴーレムが。


「後ろの魔床昇陣から上に上がって下さい。 主がお待ちかねデス」


3階の中央に置かれた、大きさの特別さを外せば、丸で金色の食器を二段に置ける設置器具様なものの裏に回り。 床から少し浮いた魔力で昇降出来る石陣に乗った一行。


「上に上がるのは、もう8年ぶりだな」


呟くミザロ。


「御宅で8年も前? こりゃ、俺達じゃ一生掛かっても自力で上がれないね」


ボヤくヒート。


エリックは、その無口な顔を冷めさせ、緊張に対する準備をしているかのようだ。


ヒートが石陣の出っ張りを踏み、二段に置かれた皿の様なフロアの上部へと向かうと・・。


「やぁ、ミザロ。 わざわざ済まない」


鼻眼鏡をする若い人物が、デスクに向かって何か書き物をしながらに云ってくる。


最初に、その人物か居る上部フロアに足を出したミザロは・・。


「シュヴァルティアス様、何か御用でしょうか」


その名前。 スカーレットは瞬時に解る。 150年の時を生きる不老の魔術師シュヴァルティアス。 貴族出の貴族嫌い。 偏頭痛としゃっくりの重病者。 そして・・・、暗黒魔法に頼らないゴーレムマジックを生み出した稀代の大天才。 魔想魔術の幻惑呪術に関する天才にして、古代魔法や超魔法の第一線研究者でもある有名人物なのだ。


(ひぇぇぇぇぇぇ、あんな人が・・こっここ・・此処に居るぅぅぅ)


一人慌てふためき出したスカーレットを他所に、ヒートは。


「マスター、俺達が呼び止められた経緯は? 咎められる事も無いはずだし、此処へ呼ばれる実力もまだ無いと思うが?」


すると、書く手を止めたシュヴァルティアスは、ヒートにその麗し過ぎる顔を向ける。 白銀の髪、白い瞳、搾り立てのミルクの様な素肌、よくもこう整ったと思える顔は美しき貴公子の様。


だが、彼はヒートを見て。


「30年前で、ミゲザリスロと云う名前を出せば、如何なる宿も乞い拝んで彼を迎え入れただろう。 それに・・、ヒルマン・リートキエ。 またの名を、怪物潰し(モンスタークラッシャー)のヒート。 貴方も、元は一線を張っていた上級依頼を専属で請けていた方でしょう? そのお二人が居るチームが、此処に来る実力が無いとは・・・云えませんね」


「チィ。 ・・知ってやがるのかよ」


横を向くヒートに、シュヴァルティアスは微笑み。


「無駄に長生きしてますからね」


と、付け加える。


ミザロは、長話はしたくないと。


「処で、何か?」


その、一言がシュヴァルティアスに届くと、彼はややミステリアスな細い眼をする。


(わっ)


(え?)


雰囲気が、カーテンを引くかの様に変わる。 アフレックも、スカーレットも驚いた。

どうも、騎龍です^^


さて、皆さんの夏休み中に終わるかな^^;



ご愛読、有難うございます^人^

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