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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
178/222

★夏休み特別話 番外編・冒険者の価値 中★ 

                     K 番外編拾



                   題名 【冒険者の価値】



                       弐




それから、10日が過ぎて。 斡旋所の昼下がりを覗くと、ポツンポツンと屯組の面々に居無い者が・・。 そして、居残る他の者は、何処か沈んだ面持ちで不満面だった。


普段と変わりなく一階部のマスター代行をするカロゼに、あの屯する若い魔術師が近寄った。


「なぁ、仮にもアンタ・・マスターの右腕だろうっ?! もう少し、何か云ってやってくれよ」


いきなり言われたグラスを拭くカロゼだが、10日と云う間にも似たような事が在った手前からもう解消作業の様な様子で。


「何度も云うが、お前達に前置きはした筈だ。 ツイン・ソルケティノは、臨時加入の面々を捨て駒としか扱わない事が幾度も有る。 報酬に釣られて加わるなら、用心に用心を重ねろ・・と。 一昔前に居たガロンや、キングと異名を取った男もまた然り。 お前達の様な屯している者に協力を簡単に申し出る様な者や、取替え引き換えで人員を入れ替えるチームには、それなりのリスクが潜むのは大昔からの当たり前だ」


「それはそうだけどっ、もう5人が死んでるんだぞ? それでいいのかよ」


「いい訳無い。 だから、あの二人の評価は微妙な所で止まってる。 だが、“犠牲を出すな”・・なんて仕事の注意に入らないからな。 加わる側が、自分で気をつけるしかない。 いや・・、誘いを断るのも自由だ。 云っても、遣るロバート。 云っても、加わるお前等。 俺に他に出来る事は、査定を辛くするぐらいだ」


「くっ・・」


唇を噛む若い魔術師。


だが、この若き魔術師のその云いたい事は、元は冒険者で在り、冒険者を見守る側に為ったカロゼも良く解る。 やはり、思って居た事が起きた。 上級の依頼で、割のいい仕事が無いと解ったあのツイン・ソルケティノの二人は、少しでも報酬の高い仕事を荒稼ぎするかの様に請け始めた。


先に請けた薬草採取は、草に詳しい狩人を護っての仕事だが。 それに加わった屯組の3人は、採取の時間稼ぎにモンスターの餌食にされたらしい。 狩人の裏話では、勝手にモンスターを任せるツインの面々に怒り、逃げ出そうとした屯組の一人を殴り飛ばしてモンスターに差し出したとか。 リーダーの剣士ロバートは、それをルキアから聞かれても。


“誤解だ。 我儘を言うから、少し派手に叱っただけさ。 何より、モンスターは俺達が倒してる。 足止めを頼んだのに、それぐらいも出来ない向こうが悪いよ”


と、言い訳したとか。


次には、北西部の森に出るモンスター退治。 やはり、中年の魔想魔術師と大剣遣いの屯組が同行したが・・。 結果は、殺されたと。


この二件で、二人は5000シフォン近くを懐に入れている。 もう一つか、二つこなせば、この街からロバートとマクファインは離れていくだろうとカロゼは見抜いた。  


(チィ。 全く同じか)


このカロゼ。 本当に駆け出しの頃には、性根の腐ったガロンの様な冒険者とも組んだ事が有る。 散々な目に遭ったが、何とか生き延びて来た。 その時に負った深手の傷は、背中と胸に残っている。 時折に夜を過ごすルキアだけが、その傷跡の凄さを知っていた。


こんな彼だから、このツインの様なやり方は大嫌いだ。 まだ、一度も彼らとは挨拶と依頼請け付けの機械的以外のコミュニケーションを取った事が無い。 口を利くのも、その姿を見るのも嗚咽が出そうな程に嫌悪感を感じる為である。


そして・・。


それから、一日後。 今度は、あの若い魔術師や屯組5人が勢いからチームを結成。 何でもいいから、ツインより先に割りの良い仕事をくれと・・。


そして、其処にツインの二人が訪れた。 新たな仕事探しに。


リーダーのロバートとは、長身で細面の見た目はスマートそうな剣士で。 ややニヒルで薄笑みを絶やさず、何処か人を食って居そうな様子は見える。 黒い上半身鎧に、下半身は別売りの足全体を護れる金属製のレッグガードを履いている。 青い柄の剣は、作りの良い一般的な型のブロードソード。 チョット変わっているとするなら、鎧の上に旅の時は薄いコート風のジャケットを着ている事。 この暑い夏でもである。


その長年の相棒は、ロバートを越える巨躯のマクファイン。 頭部はスキンヘッドで、何も被らず。 不気味な悪魔か・・モンスターの様な刺繍の入る黒い神官服に、全身を護れるプレートメイルを着る。 得物は大きな金属製のハンマーだが、その造りは正しく工具のハンマーそのもの。 片側は、顔の大きな自身より大きな鎚をし、反対は尖って人でも楽々刺し殺せそうな針型をしている。 この厳つい顔のマクファインは、神官戦士なのだが。 その信仰している神は、神ながら魔界に堕ちた狂神・サキュライズ。 回復の魔法が、他の神を信仰する一般的僧侶よりも唱え難いという性質が在り。 また、攻撃の魔法は種類が多い。 信仰する者も極少数で、その信仰者は忌み嫌われるのだが。 彼は進んでその僧侶に為ったとか・・。


さて、この二人の姿を見た若い魔術師が。


「おいっ、此処にはもう屯する捨て駒は居無いからな。 お前達に、仲間を殺されて溜まるかっ!!」


だが、大体の事を見て悟ったロバートと云う細表の剣士は、ニヤッと笑い。


「ザコが徒党を組んでも、所詮はザコ。 精々がんばりなさいよ」


と、嫌味を吐いて二階に上がろうとした。


此処で、カロゼが。


「待って貰おう。 今は、上級に御宅達二人に回す依頼は無い。 探すなら、下の此処にして貰えるか? それと、今までの行為が仇に為ったか、お前達二人に加わりたい者も居なければな。 チーム同士として協力したいチームも居無い様だ。 他のチームは、何等かの依頼を請けて引き払ってる。 事情は、飲み込んでくれな」


カロゼの言葉に、首を竦めたロバートは。


「随分と嫌われたモンだな」


と、かわそうとする。 だが、カロゼがこう云うという事は、二階の女主人がそうゆう態度であると思って良かった。 このロバート、斡旋所の女主人ルキアを甘く見た節が在る。 どうやら、主の抱える困った仕事を簡単に引き受ける素振りを見せ、ルキアに取り入ろうとしたらしい。 だが、カロゼと云う目利きで苦労人を愛人にしようと云うルキアだ、女として男を見る目を鈍らせてはいない。 その気味の悪い取り入りに苛立ちを覚え、逆にあしらう様に為った。


そして、此処で。


「カロゼ、ちょいと上に来ておくれ」


と、ルキアの声がした。


磨いているグラスを置くカロゼは、


「少し下で待ってくれ。 マスターの話を聞き終えた後、二チームに相応の仕事を探す」


こう云い残し、二階へと向かう為にカウンターを離れようとする。


その、カウンターより客や下働きの者が歩き回るフロアの方に出たカロゼに、若い魔術師が。


「請けたい仕事は決まってるんだ。 西の海峡を渡った先の島の調査。 それが請けたい」


要望を聞いたカロゼは、ピタリと止まった。 そして・・。


「ん?」


「・・」


振り返るカロゼの顔色が、平静の物ではなかったのだ。 若い魔術師を含めた屯組のチームの面々も、ツインのローバトとマクファインも、明らかにカロゼの様子が変わったと思うのに驚きや戸惑いが・・。


一方、皆を見たカロゼだが。


「・・そ・そうか。 ま、上で話を聞かせてくれ。 降りて来たら、考慮をする」


と、二階へ上がる階段に踏み込んだ。


この日は、カロゼの人生の中でも最も重い気持ちを味わう、微妙で数少ない日となった。


二階に上がったカロゼに、無言で困り顔のルキアが見えた。 指で呼ばれた彼が彼女の前に行くと、スッと差し出された何か。


「?」


何かと見れば、あの斡旋所の主のみが持つ事を許される黒い皮の手帳で。 その開かれたページには、インクのどす黒いもので。


“ツイン・ソルケティノは、冒険者の規約違反と成った。 此方から、暗殺部隊を回す。 貴殿の斡旋所にて、仕事を与えてでも構わないので、足止めを願う。 出来るなら、葬る事も許可す。 賞金首、討伐依頼、率先した暗殺も許可する”


「っ?!!」


カロゼも驚きの・・驚愕に近い依頼だった。 冒険者協力会が、あの下に居る二人を消す対象にしたと云うのだ。 その他に、理由の書かれた欄を見れば。 あの二人、これまで方々で屯組や駆け出しなどの冒険者達を犠牲にしてきたと。 その中で、家が相当に格式高い者が2・3名いて。 その親が金を出してツイン・ソルケティノのやり方を調べたのだろう。 そして、そのやり口が“記憶の石”に収められたらしい。 更には、お役御免となった斡旋所の主が問い詰められ、犠牲在りきの仕事回しまで発覚したのだとか・・。


その事例の多さに眉間を険しくしたカロゼに、困った顔のままの心配そうなルキアが寄り。


「どうしよう・・、ワタシはこんな事やった事がないし・・」


普段は舐められない様にと高飛車に見せるルキアだが、その平常時は穏やかな姐御だ。 まさか、暗殺の案件を持たされるなど恐ろしいに違いない。


だが、カロゼには一つの考えが浮かんだ。


「・・マスター。 この件、自分に任せて貰えませんか? 足止めは勿論、上手く行けば暗殺も可能かも知れない」


「え? 出来る要素が有るの?」


「一応・・。 タダ、少し犠牲を考慮しなければ・・」


「犠牲? それじゃ・・、あの二人と同じだよ、カロゼ」


「いやいや、我々側に・・だ、マスター。 あの二人は、流石に気配を読むのは鋭い。 これまでも色々と恨みを抱えて来ながら、今まで冒険者人生を送ってきたはず。 それなのに飄々と生きているのは、勘が研ぎ澄まされているからでしょう。 ですから、此方からもワナに落す手を回さないと大変だ」


小声で云うカロゼは、頻りに一階に向かう階段を気にした。 あの若い魔術師や他の者が居るから、彼らの気配がしないのだろう。 ロバートなら、人の眼を盗んで盗み聞きぐらいは朝飯前のはずだから・・だ。 何より、表情を先程に変えた自分を見られた今が、一番怖い状況とカロゼは思っている。


さて。 主の裁量が問われるこの密命に、いざと云うのに頭が回らないルキア。 だが、あの二人を確実に葬れる、その許可が下りたと思ったカロゼの方が冷静だった。


そして・・。


二階から降りたカロゼは、嫌悪の雰囲気が漂う一階の様子に。


(悪い作用が、実に功を奏したか)


人目が無ければ、盗み聞きくらいは平気でやりそうなツイン・ソルケティノの二人。 だが、あの若い魔術師を含めて、屯組の面々が睨み付ける様な視線を二人に送っていた。 少し離れた席に陣取った両チームだが、目に見えぬにらみ合いをしている様に成っていたのだ。


カウンターに戻ったカロゼは、下働きの女性に珍しく紅茶の御代わりを出させた。 そして、敢て二階に下がらせると・・。


「少し急な依頼が入った」


と、切り出す。


「ほぉ~う」


ツインのリーダーであるロバートが、意味深に言う。


だが、カロゼは何も反応をせず。


「急遽だが、西側の海峡を渡って島の調査をして欲しいと云う事だ」


と。


これには、若い魔術師や屯組の面々が騒ぎ。


「よし、俺達が取った」


「先に手を付けたのはコッチだな」


「仕事は俺達のモンだぜぇ」


その反応に、ロバートは横を向いてしまう。


処が、だ。 カロゼは、騒いだ面々を見ながら。


「悪いが、仕事の報酬とグレードが引き上げられた。 そっちの面々だけでは、仕事を任せられない」


この一言で、両チームの雰囲気が大きく揺らめいた。 ツイン・ソルケティノの二人と、屯組の集まりが互いを見合い。 また、カロゼを見たりする。


「ふぅ」


溜め息一つを出したカロゼは、両チームを見ながら。


「もう一チームの参加を以って、仕事の許可を出す。 ツイン・ソルケティノの二人なら、文句なし。 そのほかのチームなら、査定を行う。 イヤなら、最初から仕事を募集する」


こう言ってから、屯組の集まりを見たカロゼ。


「この条件の場合・・どうする、そっちは?」


すると。


「アホっ、この二人を連れて行ったらどうなるか知ってるだろっ?!」


「おいおい、仕事を成功させればいいだけか? んなら、そっちの二人だけに頼めっ」


思って居た通り、不満が出る。 その不満が出尽くすまで待たずにカロゼは。


「・・、本来は仕事の請け負いが決まってから云うが。 今回は、自分も同行する」


「お・・はぁ?」


「・・意味が解らんぞ。 おい・・どうゆう事だ?」


カロゼは、此方と屯組を見ているロバートも視野に入れた上で。


「島は危険で、その危険度と状態が知りたいんだ。 俺は、こう見えて基本魔法は遣える。 俺が記憶の石を持って直に乗り込む。 その護衛を仕事にしたいと云う変更が有ったのだよ」


その話に、屯組の方は静まり返った。 斡旋所の手の者が仕事に同行するなど、聞いた試しが無いのだ。


「ま、詳しい話は請け負いが決まってから云う」


カロゼがこう云うと、ロバートは直ぐに。


「その仕事は、つまりはアンタを護りきるのが達成なのか? それとも、必要な記憶が・・」


と、確認をしようとするのだが。


カロゼは、鋭く。


「黙れっ!!!」


流石に元は剣士だった男の一喝である。 この場が、一気にピンと張り詰めた空気に変わる。


「・・」


黙るロバートに、睨むぐらいの冷たい視線を見せるカロゼは。


「1チームで任せきれる様な、使える冒険者が誰も居無い上。 緊急を要するから、この俺が行くんだ。 記憶だけでいいなら、変更前と変わらんだろうが。 都度都度、最低限の達成条件ばかりを確認するな、ロバート。 今回の依頼は、それだけ特殊なんだ」


屯組の若き魔術師は、恐る恐るに近い様子で。


「あ・・んじゃ、アンタを護りきって石に記憶を収めればいいんだな?」


「そうだ。 先方から、色々と注文が付いた。 その注文をこなす為には、二年前のモンスター進行で無人と為った町のにまで行かなくてはならん。 この場に居るどっちのチームを加えても、その注文に応える事は出来ても、・・先方の云う秘密義務を守れるとは思えない。 だから、私が同行する事にしたのだ。 さ、話せるのは此処まで、返事は明日まで待てる」


カロゼの話に、どちらのチームも押し黙ったままに成った。


そして、そのまま夕方が過ぎて・・。


この首都の飲食店街に、二重螺旋の形をした搭型の店が在る。 完全個室制の飲み屋で、相手は要人や金持ちや貴族で。 その辺をうろつく冒険者では、身形を良くしたぐらいでは入れて貰えないだろう。


従業員の口の堅さ、馬車の入りが地下から出来るという利点から、利用する客が多いのだが・・。 その建物の5階最上階に在る一室で、斡旋所の女主とカロゼが話し込んでいた。


「カロゼ、こんな事はお止めよ。 もし、アンタの身に何か有ったら・・アタシは誰を頼ればいいんだい」


紅いナイトドレス調の下着姿と為っているルキアは、この店のオーナーの姉。 この部屋は、ルキアの部屋なのだ。 紅い壁紙が魅惑的な雰囲気を醸し出す中、四角い背凭れも肘掛も無い布張りな椅子に座るルキア。 グラスを片手に、考え込むままそうカロゼに云った。


一方、蝶ネクタイをして斡旋所の下働き姿のままのカロゼは、色濃い酒をグラスの底に残しながら。 丸型テーブルを前にして、作りのクラシカルな椅子に座っていて。


「いえ。 暗殺の手が回るのに、ざっとみて、早くても5日から・・遅くて10日。 その手が伸びる前に、あの二人に逃げられては困ります。 それに、此方が手を下さなくとも、モンスターに殺させればいい。 数年前のあの時は、Kと云うあの男の力を借りてスムーズに事を運びましたが・・。 今回は、協力会から直に来た要請です。 出来るだけ、此方かも足止め・・。 いや、罠は仕掛けておいても・・。 私ぐらいの眼を持つ者は、他にも探せば居ます。 ルキア様も、自分に過度に目を掛けるのはお止め・・」


すると、その語尾を遮り。


「ウルサイっ」


と、ルキアが声を荒げた。 黙るしか無いカロゼに、ルキアは続け。


「ワタシがっ、何で身体まで開いてアンタを欲してるだいっ。 目利きだけで身体を渡すほど、ワタシは軽い女じゃないよっ!!」


恋愛に対して不器用なルキアと云う女は、気に成るカロゼと云う男をどう引きとめていいか解らなかった。 カロゼとの出会いは、あのカロゼが黒皮の手帳を持って逃げてきた時であり。 島の斡旋所の主であったフランクの殺害繋がりで匿ったカロゼに、何度も冒険者の口調や行動からクセを見抜いたり、目利きを見せ付けられ。 手助けを貰うウチに、惚れてしまったのだ。


しかしカロゼは、フランクの仇討しか念頭に無かった。 其処へ、悪党集団を壊滅させたKが来て、知り合いのフランクが殺されたと知って勝手に動く。 結局、王国政府の暗殺部隊と共に、Kは、博打の祭典にお忍びで来ていた島を統治する領主とその取り巻きを殺したのだ。 


ま、Kが殺しを引き受けたのは、フランクに多大な恩が有ったのと。 この領主と云う人物の叛乱には、自分の過去が関わっていたからである。 更には、このままだと協会と王国政府に溝が出来るので、流れ狼の自分が勝手に闇へ葬ったとしたほうがいいと判断した結果であった。


さて。


仇討の相手が消えたカロゼは、この街に残る意義が無くなった。 だが、ルキアは残って欲しい訳で・・。 酒で酔わせ、そのままに自分から誘ったのである。 本気で・・。


こんな経緯で、カロゼは斡旋所に残った。 働き手として、ルキアが自分を要らないと云うまで居るつもりでいた。


しかし、だ。


(傷が疼く・・。 あの時も、今も)


カロゼの体に負った過去の傷は、同時に同じ事をする薄汚い冒険者に対する憎しみの遺恨に繋がる。 今も、自分を逃がしてくれたフランクの姿が目に浮かび、過去の駆け出しの頃に捨てられた屈辱が甦る。 決まって、人を消耗品と扱う薄汚い者の関わる場所には、犠牲が付き物になる。 ツイン・ソルケティノも例外ではない。 犠牲に成った者の中には、冒険者では無い者まで含まれていた。


それに・・。


カロゼの様な経験者は、人の裏側も見てきている。 今までは上手く遣っていたツイン・ソルケティノの二人だが、実際に追われる立場と為ったら・・。 人は追い込まれると、時折狂って暴れる。 その余波は、周囲に及ぶのだ。 特に、ロバートが色目を使ってるのは、この目の前に居るルキアと下働きで働く女性である。 どちらもロバートを嫌っているだけ、近くに寄ろうとロバートがしている。 これが、悪い方向に出なければイイのだが・・。


黙る二人の居る部屋に、ノックが・・。


「はい」


カロゼが出ようと声を出し、部屋のドアを開けた。


「ダンナ・・、ちょいと」


其処に居たのは、情報屋として小銭を与える元盗賊崩れの男だった。


「・・どうした?」


廊下に出て、カロゼが問うと。


「ダンナの読み、マジで当りましたゼ」


「尾行したのか?」


「へい。 あっしも、途中で感付かれて逃げてきました」


「そうか・・、もういい。 今日は、もう探すな」


その知らせに来た男に金貨で200シフォン相当の物を出し。 帰らせたカロゼは、ルキアの元に戻る。


「カロゼ・・、今度は何っ?」


ピリピリしているルキアに、席へと戻ったカロゼは。


「ロバートが、・・動いてます。 ウチに来ているリンダの後を尾行していたとか・・」


「ナンだってぇっ?!」


驚きで立ち上がるルキア。


だが、冷静なカロゼで。


「大丈夫です。 彼女には、二重に見張りと逃がし役を付けましたから。 それと、家族の下に直接戻らない様に指示を出してますから、明日・・明後日までなんとか持てば大丈夫かと」


「あぁ・・、嗚呼っ」


手回りの良いカロゼに、もう歩み寄って安心を得たいルキアが抱き付く。


「これが・・お前さんの云ってた危惧かい?」


抱き付いてきたルキアが、こう問うのに対し。 彼女の体を擦る様にして抱き止めるカロゼが。


「以前にも、奴ら(ツイン)の様な者が斡旋所の手伝いを脅して情報を得ていた事を知ってました。 リンダは女性ですから、ロバートの様なヤツは獣に変わるかと。 情報の漏洩を防ぐ為にも、犠牲を最小にする為にも、手は回さないと・・」


「あぁ・・暗殺とは、こんなに面倒なのかい?」


「チームにずっと組していた・・ルキア様には驚きでしょうが。 我々に密命が出る以前から、あの二人に何らかの見張りは付いていたかも・・知れません。 ロバートは鋭い男ですから、不穏な空気は察するはずです」


怖くなるルキアは、強くカロゼに抱き付く。 人間として、男として、カロゼは許容の広い男だ。 炙れた冒険者達に、良い助言や苦言を居えなかったルキアにしてみれば、顔や見た目以上に尊敬出来る部分を持っているカロゼ。 惚れた弱みか、どうしても傍から離したくない衝動に駆られてしまう。


自分にしがみ付いて来るそんなルキアを、カロゼも嫌いでは無い。


「危険ですが・・、今回は任せて下さい」


ルキアの耳元でそう言うと、カロゼは彼女を抱き上げて部屋の奥に在る寝具の上へと連れて行った・・。





                       参




カロゼの巧みな動きは、渦を巻く様に二つのチームを巻き込んだ。


“ロバート、お前・・何をした? 狙われているぞ”


あの依頼の話をした、次の日。 斡旋所の始まりの直後、ルキアに近付こうとしたロバートを呼び止めてこう云ったカロゼ。


驚くロバートは、カロゼに近寄り。 カウンター越しで顔を近づけ。


(何が・・有った?)


此処で、詳しい話を云えないから仕事を請けろと示唆したカロゼ。 普段のロバートなら、余裕から間の遊びを求めるだろうが。 どうやら、彼にその余裕が無いのか、引き受けた。


しかし、ロバートが消えた昼前。 若い魔術師のデニーを交えた屯組の一行が揃うと・・。


「皆、裏の別室に来てくれ」


と、屯組だけを誘った。 他の流れてきた冒険者達も居て、フロアでは話せないからと・・。


何事かと思う彼らに、カロゼは言う。


「協力会が、ツイン・ソルケティノを暗殺の対象にした。 この斡旋所でも、彼ら二人を賞金首にする。 どうだ、一緒に島へ行く仕事を請けて、二人を捕まえるか・・殺して欲しい。 褒賞は、賞金分上乗せする」


毎日顔を合わせていた仲間の様な者を見殺しにされ、尚且つに協力会からお尋ね者に成ったというのだ。 結構な高額の金も目の前にぶら提げられた屯組の彼らは、眼の色を変えて仕事に飛び付いた。


「島の現状が解らないが、モンスターは居ると踏んでいい。 モンスターとの交戦時に、隙を覗い急襲しろ。 捕まえるだけでもいいし、それと解る首だけでもいい。 とにかく、他に犠牲が出ないようにしたい」


カロゼの冷たい言葉に、屯組を纏めたリーダーである大剣遣いリレインが。


「本当に、殺すんだな?」


カロゼは、用意していた賞金首用の張り紙を二枚皆の前に出し。


「西側の島までは、船で約半日。 我々を乗せた船が出港し次第、この張り紙が正式に張り出される」


その似顔絵が載せられた張り紙を見た若き魔想魔術師のデニーは、


「よしっ、これで敵討ちをしてもいいんだっ」


と、力を入れる。


ここで、カロゼは更に。


「この二人の犠牲者には、名前を出せぬが大貴族の子息も居るとか。 確実に討ち果たせば、恩賞以上に噂を流して貰えるだろう。 お前達がそのチームで結束するなら、更に道は開ける。 結果、努力次第では、・・な」


と、こう結ぶ。 今まで屯の域を抜け切れなかった彼らにすれば、未来が開けると云っている様なものだ。 金に目が眩むだけより、自分達の現状を打破出来ると思わせる方が良いと思ったのだろう。 成功したとしても、どの道に人殺しは変わらない。 その先の道を踏み外して困るから、カロゼもこう心を遣ったのだ。


そして、段取りが組まれた。


「いいか、明日の昼過ぎに港を出る。 次の日の朝には、島の港に着くだろう。 問題は、二人を誘い込む為に一時歩いて、領主の館などが在った町まで入りたい。 逃げる手段の船は、万が一を考えて港から離す」


屯組の集まりのリーダーであるリレインは、口車にロバートを乗せれるのかが心配で。


「だが、町まで大丈夫か?」


「その手は、船の中にて打つ。 それまでは、誰もこの急襲する事を感付かれるな。 寧ろ、喧嘩でも無視でもいい。 向こうと馴れ合うのは避けたほうがいい」


「解った。 それは任せる」


カロゼは、リレインとデニーを中心に皆を見て。


「これが最重要事項だ。 しかと覚えろ。 この中の・・私を含む誰が死のうと、あの二人を倒せたなら港に戻れ。 だが、港の船主は、もうロバートとマクファインの顔を知ってる。 打ち倒せないままに向かえば、船はモンスターに食わせる為に島から離れる。 御印・・殺したら首は持って生け。 捕まえたなら、私の持ち込む鉄の手枷・足枷で動きは封じるんだ。 船の船頭には、絶対に逃げ出さないと解る様に伝えろ。 いいか、向こうに見方する者在らば、それは全て暗殺の対象となるからな。 ロバートの口車には、絶対に誘われるな」


カロゼは、死を覚悟して決死の胸で段取りと注意事項を繰り返した。 もう、明日には決行する。 この屯組の素行も調べさせたが、彼らにロバートとの接点は無いと判断。 全てを賭けた。


カロゼは、すんなり行くとは思わなかった。 ロバートは、この10年以上を同じ事で生き抜いてきた曲者である。 その注意力は、確かに一級レベル。 屯組の集まりを嗾けても、魔法でも当らない事には散開戦に為るとどれだけ犠牲を払わなければ成らないか解らない。 いざと云う時は、自分の捨て身の攻撃で何とか討ち取ろうと思って居た。


次の日。


早々とツイン・ソルケティノの二人を船に案内したカロゼは、ボロい小型客船を借り切ってその船客室に二人を入れると・・。


「ロバート、お前達が何をしたかなど問う事はしない。 だが、この仕事の最中・・。 つまりは戻って来た所で別の船に乗って逃げろ。 その内、手配の顔が並ぶ」


「カロゼよ。 お前・・俺達をハメる気か? 賞金首が掛かるなら、今から逃げた方が早いだろうがっ!」


普段の彼が、此処で豹変した。 面長で気の無い無精面が、凶暴な顔色に変わったのだ。


しかし、カロゼは慌てず。


「なら、逃げるのは構わない。 だが、手配を真っ先に見るのは、仕事が休止して斡旋所に釘付けに成った屯組の奴らだぞ」


「っ!!」


ロバートとマクファインは驚きカロゼを見て、ロバートは何よりもと。


「手配の紙は、何時に貼られるんだ?」


「早くて、今日の午後。 遅くても明後日の午前までには出回る」


ロバートは、逃げても直ぐに追われる身と成るのが解った。 屯組の面々には、相当な恨みを買っているのが解る。 下手をすれば、逃げる暇も無く探し回られる可能性が出た。


ロバートが考える姿に、カロゼは椅子に座り。


「正直、ウチのマスターは暗殺の手が回るのを待つ気の様だ。 俺としては、冒険者同士が街や街道で殺し合いをやられて、詰まらん犠牲から責任を取らされるのが嫌いだ。 ルキアと云う人物は、そうゆう処理が下手だからな。 遣らされる俺が、面倒を被るのだけは・・割りに合わん」


ロバートは、カロゼを見て。


「お前ぇ、その回避にこの仕事へと俺達を?」


「あぁ。 仕事から戻ったら、斡旋所までは各自勝手に戻れと為る。 お前達が其処で行方を晦まし、船に乗って逃げて貰えた方が此方も気楽だ。 それに、最も早く貼られる事を考えると・・、この船が仕事の為に出港するのは昼頃。 手配の配られる前で、俺も知らぬ存ぜぬを貫ける」


マクファインと顔を見合わせるロバートは、無防備なカロゼに。


「全く、自分の保身の為にお尋ね者を逃すたぁね、斡旋所の働き手失格じゃないか」


「うるさい。 面倒を作るお前達に言われたかないな。 お前達を目の仇にする屯のアホウ共含めて、扱い難いったらありゃしない。 逃がす段取りは仕込むから、明日の夕方にはさっさと失せろ。 せめて、遠く遠くで死んでくれ。 関わるのも億劫なんだ」


此処で、マクファインがロバートの肩を掴み、今から逃げようと港を指差す。


だが。


「マクファイン、そいつはヤバイ。 手配が張り出される日には、街の玄関先である港の役人や、街道への出入り口である門番は執拗な検めをする。 今、船着場の船にも乗せないようにと手配の紙が配られるかも知れないんだ。 今更に乗る船を慌てて探せば、俺達は掴まるかも知れない。 此処はコイツの云う通りにして、明日の戻りに逃げよう」


ロバートは、そう言う。 何故なら、この船は出港が南の一般港からの出航だが、帰りは北側の漁船などの住民用港に入る段取りだからだ。 住民用なら、役人も少ないし手配の周りも弱いと思える。 更に、海沿いの漁師などが居る集落部から逃げれば、門を通る事無く海に入って逃げれる可能性も在ると踏んだのだ。 このロバートは、街の逃げれる場所を散策するのは初日のすることらしく。 必ず、見回るのだとか。


カロゼは、ルキアに別の国の斡旋所に問い合わせ、ロバートのクセや行動を聞き回らせた。 つまり、如何に彼らの都合に合わせ、逃げられると思わせる自然なルートを作ってやったと見せかける事にしたのだ。 実質は、島で襲うのだが。 そのタイミングを見抜かれぬ為に、胡散臭い日程で仕事を計画したのだ。


自分が疚しい事をする人間ほど、その逃げる対処には敏くなる。 知恵が付き、用意も心構えも出来てくる。 手配が回ると、どんな事が起こるか。 どう、その手配は為されるのか。 解るロバートにとって、最もその情報を知るカロゼが重要だ。 斡旋所の働き手で、主のルキアに頼りにされる右腕。 その彼が手配の事を言う以上、それは本当なのだろう。 嘘なら、寧ろ大問題だ。 ロバートは、常識を考えて照らし合わせるに、戦っても勝てると思える屯組だが。 追われるのは、一番面倒な負け戦に成るのでしたくない。 総合して、仕事の戻るまでに行方を眩ませるのが一番無難だと思える。


「カロゼ、俺達は島に着くまで此処に篭る。 屯のバカ共を、此処に近付けるなよ。 それから、出港は出来るだけ急がせろ。 さもないと、お前を含め殺しまわるぞ」


「そう来ると思った・・。 ん?」


窓の外で、船長が此方を見ていた。


「どうやら、リレイン達も来たかな」


客室から外に出たカロゼは、甲板から渡し板を上って来る屯組のチームの面々を見て。


「早めに来て貰ってすまない。 そっちがいいなら、もう出港するぞ」


「全く、アンタが早々と船に行ったって聞いたから驚いたゼ。 俺達の案内はナシって、基本はあの二人頼みじゃ在るまいな」


リレインがカロゼに云う言葉は、もう芝居に入った証。


一方で。


(グルじゃないよな・・)


客室の窓から、何も見逃さないと云う様な視線でその様子を覗うロバートが居る。


「悪い悪い。 だが、実力は向こうの二人が上だ。 あんまり絡んで、機嫌だけは損ねるなよ」


「おーおー、カロゼのダンナもえこひいきかよ。 あんな、人を犠牲にするだけが能のヤツラに、ヘコヘコする気が知れないぜ」


デニーの声だ。


地下の船室に彼らを案内するカロゼ。 その様子を見ていたロバートは、疑心暗鬼に駆られ始める。


(俺達をハメるなら、逃げれない様に船内地下に案内するはずだよな・・。 万が一、奴等がグルなら、襲われるのは夜か・・。 今なら、暴れてでも逃げれる。 いやいや、待て。 このギャンブル王国は、金で強力な魔法兵団と騎馬兵団を抱える。 役人や見回りの兵士ならまだしも、師団の一部が出て来られたら殺される。 逃げるには、今は・・) 


考える時間は、遅々と遅くもあり。 過ぎ去った時間は、早くもある。


「おーい、船を出してくれっ!!」


ロバートが思案に追われる間に、船の出港の合図を送る。


(チィっ)


どうこう考えるうちに船が動き出した事で、一度船を戻せとカマを掛けて見ようと思い立つロバート。 客室を飛び出て、カロゼの元に行こうとすると・・。


「んっ?! 何を云っているっ?!」


と、カロゼが港に向かって何かを問う様に云っているではないか。


(んっ?)


ロバートが見れば、何かの紙を持った男が“戻れ”と声を上げている様に聞える。


「クソっ」


焦るロバートは、それが手配を知らせる物かも知れないと思った。 急いでカロゼに近付き、


「おいっ、相手にするなっ」


と、襟首を後ろから掴んでは、甲板の奥に引っ張ったのだ。


「おっとっ、おいおいっ」


倒れそうに為ったカロゼは、何とか屈みながらも手を付いてロバートを見る。


ロバートは、もう気狂いの様に目を血走らせ、押し殺した脅し声で。


「手配の手が来てたらどうするんだっ、仕事が終わるまで真っ直ぐに行けっ」


こう言って、客室に戻っていく。


倒され掛けたカロゼだが・・。


(ダンナ・・これでいいんですね? ご無事で戻ってくだせぇよ)


港の船着場で声を掛けていたのは、カロゼからロバートの尾行を頼まれていた盗賊の足を洗った男だった。 最後の詰めと、この芝居をする様に云われていた。


こうして、出港まで扱ぎ付けたカロゼ。


次の日の朝まで、船は南回りの海路で島を目指した・・。

どうも、騎龍です^^



9月あたりまで、特別編をやります。 もう打ち捨ててあったシナリオで、どれもある程度書き上げた所で止めてたヤツですが・・。 まぁ、Kしか基本的に登場しないので、話の余力が出来上がるまでの繋ぎです^^;


ご愛読、有難う御座います^人^

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