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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
175/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4 前半部・最終話

                セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部



                  ≪地下に広がる迷宮の謎々・・・≫




“なんでも屋・旅の必需品は此処で”


こんな看板を上げている古めかしい道具屋が、大通りから一つ外れた通りに有った。 店頭では、安売り商品を手に取り往来を行く客に案内をする中年の痩せた女性が居る。


其処へ。


「あの、岩塩下さい」


と、声が掛かった。


中年の女性店主が客を見れば、フードを深く被った者が近寄って来た。 若い男の声で、その背丈も女性の店主より少し低い。


「あいよ。 お客さん、この常初夏の島でそんなフードを被るなんて、随分と寒がりだね」


岩塩を店内に取りに向かった女性店主がそう言うと。


「いえ、日光に当ると皮が痛いんです・・」


「ははっ、あらら~。 綺麗な声してるのに、モンスターみたいな事を言うのね」


「すいません・・。 処で、一つ尋ねたい事が有るんです」


「ん? 病気に効く薬は、ウチには無いよ」


「あ、いえいえ。 私、クレメントスさんの所に所用で行って来たんですが・・」


すると、岩塩を探す女性店主の手が止まった。


「え? アンタ・・、副長ふくおさ様と知り合いなのかい?」


「あ~、以前に冒険の事で少々」


「あらぁ、アンタは冒険者かい? 剣も持って無い様だけど」


「自分は、学者です」


「あ~、そうかい。 で?」


「はい。 込み入った事を聞かない様にしてましたが・・、長女のアリーナ様をお見かけしませんでした。 何処かへ、御嫁ぎに?」


すると、女性店主は“プッ”と吹いてから。


「あのアリーナ様が嫁ぐなんて・・あははは。 ないない、それは無いわ。 ま、確かにご不在では在るけどね。 それは、別の理由よ」


「あぁ、ではこの島にはいらっしゃらないんですね?」


「そうよ。 メイドの話だと・・、あれは先月辺りかしら。 北の大陸で婿を探すとか云って、家の財産の大半を奪い取る様にして移住したって。 実父のクレメントス様も、怪物の様なアリーナ様が居なくて清々してるみたい。 一緒に行かせた執事には、面倒を起こして捕まる様なら、そのまま処刑される様に~だって」


「・・・凄い事を言いますね」


「だって、あのアリーナ様は本当に怪物だもの。 女のクセに怪力で、顔のイイ若者を掻っ攫って弄ぶのよ。 何人も干乾びて死にそうになってから、外に捨てられた様に還されたとか。 でも、その半分のコは寝たきりのままだって云うわ」


「・・・そ・壮絶・・ですね」


「そ。 ま、アリーナ様の下に、腹違いの3人の御子息・ご息女が居て、其方が優秀だしね。 クレメントス様も、長女のアリーナ様が居なくなって清々するのも解るわ」


話ながら良い岩塩を選んで、網目のキツイ小袋に入れる女性店主。


フードを被った者は、お金を出し。


「詰まらない事を聞いてすみませんでした」


「いえいえ、いいのよ。 はい、岩塩」


「御代です」


「確かに」


こうして岩塩を買った者は・・、いや。 セイルは、物陰に隠れる仲間の元に戻った。


「どうだった?」


フードを取ったセイルは、剣を持って木箱の裏に隠れていたユリアへ。


「やっぱり、同じ話だった」


「5軒回って同じなら、間違いないっしょ」


「うん」


その二人の元に、アンソニーやクラークやロザリーも戻る。 この三人も情報収集に動いていたが、やはり何処でも話は同じ。


と・・云う訳で。


昼下がりの事。 ノルノーの街の北西に広がる富裕層の豪邸の一つで、激震が走った。


「あっ。 あ・・あああああああああああーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」


低身の執事をする老人が、セイルの姿を見て大声を上げたのだ。 馬車が3台は横付け可能な広さのエントランスロビーにて、その声は幾度も木霊し続けた。


執事が使用人や用人と慌てふためく中、その騒ぎを聞き付けて3人の子供が二階の幅広い階段から降りてくる。


「マコリヌ、マコリヌ? 何を騒いでいるの?」


12・3歳と云った感じの少女が、深紅のドレスに身を包み。 真珠色の靴で先頭に立ち降りてくる。


「あわわわわわっ、おっお嬢様っ!!」


腰が抜けそうに為る程に驚き、応接室や使用人の元をあたふたと行き来していた執事の老人マコリヌは、エントランスロビーの奥で玄関先を指差した。


その少女がセイル達を見て。


「まぁ、お客さ・・」


と、ロビーに降り立った時。


「あっ・・セイル様?」


その御嬢さんの顔を見たセイルも。


「マドレーヌ、御久しぶり」


マドレーヌと云う少女は、ドレスの裾を持って駆け寄り。


「あ・・ホントにセイル様だわ・・。 新年のご挨拶にお伺いしたら・・、行方不明に成ったと」


セイルは、事件の様な云われ方に困り。


「あははは、冒険者に成っただけなんだけどね~~~」


「まぁ」


驚くマドレーヌの横に、更に少し低い少年が来て。


「セイル様、お久しぶりですね。 僕、覚えてますか?」


「覚えてるよぉ~。 アンドリューでしょ?」


「嗚呼、覚えて下さってましたか。 むさ苦しい我が家へ、ようこそ」


とても10歳過ぎの子供が言う言葉ではない物言いで、セイルに挨拶をする弟。


そして、その二人の横に立つのは、金髪の少女で。


「はじめまして・・、ダリアと・・もうします」


と、挨拶をする。


セイルは、笑顔のままに。


「セイルと云います。 よろしくね、ダリア」


挨拶もそこそこに、歳が一番上のマドレーヌが。


「セイル様、一体どうしたんですか?」


「あ、うん。 実は、次の請ける仕事の依頼主が、クレメントスさんなんだ。 なんだか事情が有りそうな仕事だから、色々と聞きたくてね」


「まぁ・・、それで我が家へ?」


「うん・・、アリーナさんが怖かったから、ホントは来たく無かったんだけど。 聞いたら引っ越したって云うし・・」


すると、笑顔を見せる長男のアンドリューで。


「アリーナ姉さまは、ご自分で生きると北の大陸へ旅立たれました。 セイル様より、いい男性を探すとか」


その話に、安堵のセイル。


「良かったぁぁ~~~。 もう狙われずに済むよぉぉ」


クラークは、その一部始終を見ながら。


(アンソニー殿、どうやら大丈夫のようですな)


(うん、本当に居無いみたいだね。 しかし、この残る子供達はよく出来てる。 いや・・出来過ぎかな、フフフ)


年長者のマドレーヌは、執事のマコリヌへ向き。


「マコリヌ、何時まで慌てているの。 セイル様達の相手は、私達が致しますから。 支給の用意だけメイドに命じ、貴方はお父様と連絡を取る方に動きなさい。 何時までも慌てている方が、返ってセイル様にもご迷惑ですよ」


マドレーヌにサラリと云われたマコリヌ。 その場にピシャーっと直立し。


「はっ・はははいっ」


セイルは、マドレーヌの脇から覗く様に執事を見て。


「あの~。 クレメントスさんのお仕事が終わってからでも大丈夫ですが・・」


と、云ったが。 勢い良くドアが閉められる音がして、聞いていたかどうか・・。


「アンドリュー、ダリアの相手をして」


弟に妹の事を頼んだマドレーヌで。


「さ、セイル様。 皆様も此方へどうぞ」


マドレーヌがセイル達をテラスに案内し、テラスの前に在る応接室も開いて客を相手する用意をし始める。 半分の丸太をそのまま長椅子にした処に、一同が座り。 木目の綺麗なテーブルに、メイドが紅茶の用意をしてゆく。


その緩慢たる時間の経過は、のんびりした午後の寛ぎであろうが。 雑談を重ねて話し込むセイル達とマドレーヌだが、少しすると嘶きと共に馬が走る音が・・。


広大な敷地を誇る中でのこの屋敷で、その周囲は閑静な富裕層が住み暮す区域である。 その敷地からすると外郭と云うべき、敷地と敷地の間を隔てる通りと云うのは、殊更に人通りが多い訳でも無く。 また、気取って落ち着き払った感を見せたがる富裕層の人々からして、この区域の通りを勢い良く走る馬車など滅多に無い事であるのだが。


皆がその音の方を見ると。


「退いてくれっ!!!! 済まぬっ、退いてくれっ!!!!!」


と、怒声か悲鳴の様な声のする馬車が、猛烈な速さで走っているのが見える。


「きゃーーーっ!!!」


「うわわっ、どぅっ・どうどうっ!!!!」


それはまるで暴れ馬が走っているかの様で。 他の擦れ違う馬車を操る御者が大声を出し馬を落ち着かせようとするし。 また、乗り込む者からも、何事かと云う驚きが悲鳴に変わって上がっている。


遠目ながら、その馬車が見えたユリアは物騒だと思い。


「うわ、何あの馬車・・」


と、何処の馬車が走っているのかと驚いたのだが・・。


「まぁ、お父様ったらっ。 セイル様のご来訪で、気でも狂ったのかしら」


と、マドレーヌが云うのであるから。 セイル一同、その馬車が何処の馬車か理解し。 そのまま馬車を目で追うのが怖くなる。


外の街路を爆走してきた馬車は、大慌てでこの敷地への門を開ける使用人達を押し潰さんが様子で入って来る。


セイルの存在の威力を思い出したユリアで。


「・・セイル、なんか・・・乱入してきたみたいだよ」


「あははは・・・ユリアちゃん、・・僕にも見えてるよ」


応えるセイルも驚きで声が震えていた。


皆が馬車の進路に向き、ぐるりと回って正面玄関前へ向き直ると。 汗に塗れ興奮した馬車が玄関先に横付けされ。 そこから男性らしき大人一人が飛び出す様に馬車から降り、二度ほど転がってエントランスロビーに飛び込んでゆく。 そして、その後からやや遅れ。


「あなたぁ~、あなた~、そんなお急ぎに為らなくても~~~~~~~~」


と、日傘を差してドレスの裾を持ち、緩い様子で歩く金髪の婦人らしき姿が・・ロビーに消えた。


その後。 済まして紅茶を飲むマドレーヌの後ろで、


「マドレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーヌっ!!!! 嗚呼っ!!! セイル様は何処ぬぁのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


ヒステリックに気狂い、悲鳴の様な声を上げる男性の声がする。 あまりの声の悲壮さに、セイル達は固まって何も言えず。 その内、階段を滑り落ちる凄い音がしたり、メイドや執事がワーキャー言う声がしたり。 舞い戻ったクレメントス氏とセイルが面会したのは、夕方に為りかけた頃である。


「お・・お・・、セ・セイ・・・」


応接室からテラスに這い蹲って遣って来たのは、長身の紳士・・らしき人物である。 もう髪型は乱れ散り、ゼーハーと虫の息の様な様子は普段のこの人物には無い事だろう。


何も云えないセイル達に代わって、娘であるマドレーヌが目の前で死にそうな父親にセイル達が尋ねてきた用向きを伝えた。 セイルが冒険者に成った事を聞き、その仕事について聞きに来たと聞いたクレメントス氏は、その場でスッと立ち上がる。


「セイル様・・、その様な事で此処へ・・・。 では、お詳しい話をする為に、応接室へとお入り下さい。 この話は、人前で出来る話では御座いませんので・・」


細く長い目に、インテリ染みた細く高い鼻。 鼻髭を左右に伸ばした姿は、商人と云うより貴族に近い印象の人物がクレメントス。 だが、セイルを前にしての態度は、正に家臣か臣下の様子である。


クレメントスは、真顔に変わると人払いをした。 セイル達を応接室に入れると、娘のマドレーヌにすら労いの言葉を掛けて部屋を出したのだ。 クレメントスの抱える護衛用人が部屋の入り口と、テラスを護り。 執事とメイドの長をする初老女性だけを残して、支給をしていた他のメイドすらも下げられた。


話し合いは然程の時間を要さなかったが。 その内容は、確かに大変なものだった。


夕日が堕ちる頃。 泊まる様にいってくれたクレメントスの申し出を辞退したセイル達。 そのままの足で斡旋所に行き、仕事への正式な参加の旨を伝え。 暗くなった中を宿へと帰った。




                       ★




さて。 チョットした事が起こったのはこの日夜も深けた時、宿が消灯をする頃合い。


「あっ、んむぅ」


セイル達の泊まる宿で、女性が酔った男二人に捕まっていた。 口を手で塞がれ、身体を触られながら部屋に連れ込まれようとしていた。 メイドのリーチェが最後の就寝前の支給を終えた帰り。 廊下で訝しげな冒険者風の男二人に捕まったのである。


「うへへっ、ダークエルフはカスだからな。 夜の世話まで頼みてぇんだよっ」


と、絡まれて・・の事だ。


が。


「ん゛ぉっ・・」


部屋の入り口にて、抵抗する様に手をドア枠に掛けたリーチェの腹に一撃を入れようとした固太りの丸刈り男が、鈍い呻き声を出して気を失う。


「っ?!」


先に部屋へ入った男に口を塞がれ引き込まれようとしているリーチェの眼に、セイルの姿が見えたのは驚きだった。


「おいっ、早くしろっ」


押し殺した焦り声で、リーチェの足でも持って中に入れろと云いたかったもう一人の冒険者。 だが、リーチェの口を塞ぐ手に痛みが走り・・。


「うわっ」


と、その手を離した直後。 部屋に入り込んできたセイルに鳩尾を打たれ、そのまま気絶に。


遅くに来て泊まる事を決めたこの冒険者二人で、部屋に灯りが灯っていなかったのだ。 どちらの冒険者も不意を突かれた格好。 目を覚ましても、セイルとリーチェが居なければ誰が自分達を止めたのか、恐らく解っていないだろう。


「あっあああ・・どっどうして・・」


狼狽するリーチェは、部屋の入り口でへたり込む。


一方、固太りの男を部屋に引き摺り入れたセイルは。


「話が有って探してたんですが・・・。 変な事に為ってましたね」


と、苦笑いの顔を見せた。


ドアを閉めた処で再びへたり込むみ、驚きと混乱から乱れた衣服を直す事も忘れたリーチェ。 胸元の弛みを引き締めリボンネクタイに見せるはずの帯紐が解け、豊満な胸元が曝け出ていた。 その衣服の乱れをセイルが直しに掛かり。


「あ・・・」


思わずセイルの眼を見入ったリーチェに、セイルは穏やかな声で。


「自分で直せ・・・ますよね?」


「はっ、あ・・あっ、はいっ」


もう急いで衣服の乱れを直しに掛かるリーチェ。 それを直視しないようにしたセイルは、リーチェに知ってる範囲で地下の入り口の事を聞きたいと申し出る。


すると・・。


「え? あ・・私は・・・」


服を直すリーチェが急に狼狽し、何の事かと誤魔化そうとする文言を云おうとした。


が・・。


「聞きましたよ。 リーチェさん、本当は最初から餌にされたんでしょ?」


セイルがズバリそう言うと、リーチェの手が止まり顔が青褪めた。


「・・・」


黙るリーチェだが、セイルはやんわりと。


「僕は、貴女について来いなんて云いません。 ただ、明日か、明後日に乗り込む事に為るでしょう。 少しでも、中の情報を得たいだけです」


そう言ったセイルの顔を見たリーチェの顔。 脅えと拒否・・自問と苦悩、様々な思いが入り混じる顔に変化している。


「ダメ・・・、あああそこには・・行ってはダメです。 わっ・私は教えません。 セイル様達を・・あ・あんな危険な場所にご案内するなんて・・」


やや上ずり気味の声でリーチェがそう言うと、消灯が一階から始った様で。


「おーーい、厨房はもういいぞ」


とか。


「最後の客が3階に入る」


等と働く者の声がする。


仕事を思い出すリーチェに、セイルは背中を見せ。


「では・・・いいです。 ま、行く事はもう決定したので、生きて帰って来れたらお世話に為りますね~~」


と、だけ残して去って行く。


(えっ? な・何で・・あああ・・・)


混乱を来たしたリーチェは、何故に隠していた事をセイルが知っているのかを思う。 リーチェが語った昨日の話は、半分嘘で半分が本当だ。 だが、セイルの問い掛けは、リーチェを大きく動揺させるに足りる。


「うっ・・あぁ・・・」


リーチェが立つドアの向こうで、男のうめき声がした。


(あっ)


驚いたリーチェ。 襲われる前にと、その場を急ぎ足で去る事に為った。


さて。


朝までの長い夜。 リーチェがどれ程に眠れぬまま悶々と考えただろうか・・。 正直、今時でもダークエルフが暴漢に襲われ、夜の街で衣服を剥ぎ取られても助けてくれる人はそうそう多くない。 ダークエルフの身柄を押さえる闇社会を恐れたり。 ダークエルフはそうゆう肉体の売買で生計を立てる、云わば奴隷に近い生き物だと云う印象のすり込みが強く残るからだ。 夜を涙で濡らし、身体を弄ばれるなどリーチェの経験がら云えば幾らでも在る。 以前にウィリアムが言う通り、この街のスラムの環境は劣悪な暗黒街そのもの。 リーチェとて、つい数年前まで読み書きが出来た訳でもないし、学校に通った事も無い奴隷そのものであった。 この今の仕事は、本当に破格の待遇であった。 だから、どんな目に遭わされても訴え出ず。 必死に生きようと我慢をした・・。


だが。


あのセイル達は、どうだろうか。 自分を一己の人と見なしている。 リーチェが今まで見た客の中で、一番素晴らしい相手・・。 いや、人間だっただろう。


(嗚呼、明日には・・。 あの皆さんが、あんな恐ろしい処へ行かされるのだわ。 ・・どうにかして、思い止めて下さらないかしら・・)


宿の裏手にある離れで、メイド達が寝る大部屋の中。 新人の若い娘達の中に混じってベットで寝るリーチェは、もう心が捩れて可笑しくなりそうであった。


少し彼女の過去を振り返ると・・。


毎日を必死に生きて隠れ住んでいたスラムと下町の狭間にて、遂に女でダークエルフと解り連れ攫われたのが15・6の頃。 その後、奴隷としてボロ布の様に売られては、夜のみ開かれる店に買われてゆく。


だが、所詮は大手を上げて客を呼ぶ事など出来ぬ様な違法で運営された店であるし、奴隷禁止法が在る為。 アバウトな運営や勧誘をする店は、直ぐに摘発を受ける。 摘発の前に、閉じ込められた女性達は売られるか、逃がされるか、最悪は始末されるか・・。 二度も売られた店が摘発されたリーチェだが、結局は奴隷を扱う組織に前売りされて生きながらえていた。


さて、3度目にまた売られていた時、金を払わずに働かせる奴隷を探していた自称学者を気取る金持ちに目を付けられた。 容姿が美しく、肉体的にも良いリーチェだ。 働かせる店は幾つも在ると、その売られていた額はあぁまぁの大金。 だが、その女史は買った。


女史がリーチェを気に入ったのは、二つ。 一つは、ダークエルフと云う種族である事。 世間的にも卑下される彼女を引き取り、そして教育しメイドと働かせる事で。 女史は、心広く最先端の学術思考を持つと自負する材料に為る。 自己満足を得るに、最高の素材を見つけたと云う訳だ。


そして、二つ目は・・スラム出と云う事。 現実的に、賃金を払う事を補償する必要が無く。 また、死のうがどうなろうが、犯罪に関わったり何等か捜査対象に成らない場合。 葬儀を出すだ、何等の届けを政府に申請する必要も無い。 そして、ダークエルフなだけに、脅しを掛けてしまえば衣食住を与えて簡単に飼い慣らせると考えた女史。 読み書きも出来ないリーチェだし、男に弄ばれ続ける生活より待遇は良い。 女史の思うとおり、リーチェは奴隷の様なメイドに成った。


高価な本を直ぐに買い入れ、大して読まないクセに友人を招いて勉強会を開くと見せびらかす女史で。 リーチェに子供が使う手本書を与え、読み書きを勉強するように命令し。 リーチェが直ぐに読み書きを覚えると、今度は礼儀作法などを前から居るメイドに仕込ませる。 メイドらしくなったリーチェは、勉強会で必ず自慢のネタにされていた。


しかし、だ。


メイドとして3年ほどリーチェをコキ遣った女史だが。 あの地下迷宮の存在を知り、その調査を行うと決めた時からリーチェを捨て駒にしてしまう様になった。


最初に地下洞窟に踏み込んだのは、リーチェである。 更に、リーチェがゴーストを見たと逃げて舞い戻れば、今度は冒険者を雇って自分も行くと決めた女史。 予てから、自分の知識や意見を元に妄想染みた自伝を書きたがった女史で。 この古く中がどうなっているのか解らない地下洞窟を探検する事で、そのネタを得ようとしたのだ。 


本当は、大金を出して有名な冒険者チームを雇い、地下の深部まで探検したいと思った女史。 だが、この地下洞窟は誰にも教えてはいけないもので。 また、その秘密を護る事で、政府から裕福な生活が送れる金が来ている事を執事から言われてしまった。


考えた末、適当な嘘の依頼でそこそこの冒険者を雇い、リーチェが見たというモンスターを適当に討伐し。 そのネタを膨らませて自伝を書こうと決めた女史。 執事や他のメイドには秘密にして、リーチェを遣ってそこまでの段取りを用意。 冒険者が来た事で地下迷宮に入った女史は、リーチェを生贄にしようと。 もしもの時は、自分が逃げる時の捨て駒にしうようとして連れて入ったのだ。


だが、現実はそう甘くは無く。 洞窟の天井から染み出す様に現れたスライムに、女史が真っ先に襲われたのだ。 強力な酸を体の表面に浮き出させるスライムに乗り潰された女史。 リーチェの腰に縛りつけ、逃げない様にと持っていた縄は溶かされた。 いや、スライムの体より外に食み出た手足も、頭部も、強酸によって溶かされ捥げ落ちたのである。


洞窟に密かに入り込んだリーチェ、女史、そして7人の冒険者。


だが、退路を断たれ、グロテスクな死に方で一人が殺されると云うのは、危地ではパニックを生みやすい。 仕事を請けた冒険者達と云うのは、ワリの良い仕事だからと手を組んだ二つのチームから成り立っていた。 いざとなると、その指揮をリーダーが発揮できなければ信用出来る者同士のみが頼みとなって、チームがバラバラに成るのは必然。 


リーチェはその場に残され、二手に千切れる様に冒険者達は逃げた。 スライムと戦わなかったのは、もう他のスライムが次々と天井から染み出していたからである。


そして・・それからは・・。


洞窟の中で逃げた冒険者の荷物を拾い。 同じく洞窟の奥へと逃げたリーチェは、10日近くも逃げ惑う事に。


この間。 洞窟内を蠢く様に彷徨うモンスターは、死んだ女史の開いた扉から地上の屋内へと這い出てしまった。


さて、この後の流れは、リーチェの知る真実と、その周りに伝わった真実は食い違う。 その事については、後に書くとして・・・。


地上に這い出たモンスターを掃討後。 政府の密命を受けた兵士達が、女史の様に洞窟の封鎖を言い渡された他の家々を回り調査中。 家の者に隠れてこの洞窟を逢引に使っていた者が居て。 その事の発覚時に、洞窟内をヨロヨロに為って彷徨っていたリーチェを発見する。 助け出されたリーチェは、最初は罪人として掴まったのだ。 洞窟の出入り口を正しく封鎖していなかった家の者と一緒に・・。 だが、リーチェを罪人として処分した場合、誰の家のメイドか、どうして処分の対象に為ったのか、色々な事態の事も公にせねば成らず。 リーチェに事件を引き起こす寸部の要因も無い事から、良い仕事を斡旋して口封じした・・と云う訳だ。


過ぎた事と忘れる様に務めて来た事を思い返し、寝れぬ夜を過ごしたリーチェだが。 実は、数々のモンスターを隠れて見ていた。 その中には正体が良く解らないが、斡旋所の主や政府の兵士長などが恐れてしまう様なモンスターが居た。 モンスターの事は、絶対に他言するなと厳しく言いつけられたリーチェで。 昨日は、流石にセイルへ軽々しく云えなかったのである。


だが・・。


(お助けして貰ったし、私の様な者に同じ目線を下さる方々を危険には晒せない。 本当の事を伝えて、行くのを止めて貰わないと・・)


こう思い立ったリーチェは、朝の支給の時に全てを話そうと決めた。


夜が開け、陽が昇ると共に仕事が始る。 誰よりも早く着替えて一番に宿に出たリーチェは、真っ先にとセイル達の部屋へ。


「おはよう・・ご・御座います。 メイドのリーチェです・・・。 失礼しま・・しま・す」


緊張し、恐る恐るドアを開けたリーチェ。 だが、其処には誰も居なかった。


(えっ?)


と、ドアを押し開いて中に踏み込むリーチェ。 直ぐに目に入ったのは、毎朝になると何よりも先に交換をする水差し。 銀色の鳥をイメージした水差しの下に、紙が挟まれていた。


「・・?」


近くまで歩いて行くと・・。


“リーチェさんへ”


との文字が。


「あ・・」


自分を雇った女史は、文字の読み書きぐらいは覚えろと本をくれた。 リーチェは、その子供が使う手本書で文字を覚えたのだ。 はっきり見えるその文字に、リーチェは飛びつく様に紙を手に取った。


(ま・まさか・・、セイル様がお怒りに・・・)


叱られると想いながら手紙を開けば、其処には解り易い文字で。


≪冒険に使わない荷物を残して行きます。 仕事から戻ったら、世話をお願いしますね≫


簡単な手紙の内容に、リーチェは手が震えた。


「嗚呼っ・・、セイル様。 皆様・・・」


その場に、リーチェが膝を折って崩れた。 笑顔でセイル達を出迎えた時ですら、人の暴言に脅えていたリーチェだが。 人知れずに耐え抜いていた自分が、差別をしないセイル達に出会えた事が実は恵みだと思った。


「ご無事を・・どうかご無事を・・・」


セイル達を想い、座り込んだままに頭を床へと付けるリーチェは、切に・・切にそう願った。



セイルⅣ-1部前半完

どうも、騎龍です^^


諸事情により、此処で次からウィリアム編Ⅳの二部をお送りします^^;


資料整理等で、内容に一部変更が出た為です^^;


ウィリアム編の続きは、前回からそのままです。


ご愛読、有難うございます^人^

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