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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
173/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4

                セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部



                ≪コンコース島にて、束の間の思案≫



コンコース島に渡ったセイル達。 いきなり、重要な仕事を用意されてしまったが、セイルは今一に乗り気では無かった。


急な展開の様に始まった仕事の発起だったが。 実の所、主としたら腕のイイチームの到来を待っていただけの事で在る。 この事案の形態は、前々から思案はしていたのだ。 選り良いチームの集まりを待ち過ぎて、今までしてこなかっただけならしい。


話を終えた一行は、泊まる宿を決めようと云う事に成る。


さて・・。


ノルノーの街を貫く、噴水公園に面した“目移り通り”と云う大通り。 その通りに向かう手前で、飲食店街に入る別の幾つかの大通りに入って行けば、そのまま宿屋街に抜ける。 セイル達が入った大通りは、横道としては一番大きな通りであり。 そのもっとも派手やかで格式高い宿が並ぶ通りでは、身形の良い家族連れが宿を品定めする様に歩いていたり、馬車で宿の前に横付けする一団も見受けれる。 更には、客引きに似た宣伝を謳う声が聴こえたり、観光の為に宿から出て来た者が宿屋の下働き風体の若者相手に道案内を頼んだりする様子も在った。


一泊が200シフォンを軽々超えてくるここいらでは、その日暮らしの冒険者では高過ぎて品定めではないが。 見るだけならタダと云う意気で、値の張る宿が軒を連ねる表通りを行く一行だった。


が。 何故かセイルだけは、非常に困った様子で宿を見回している。


「ねぇ、セイル君はどんな宿がイイ?」


と、セイルに絡むアリスが居て。


「全く、顔がイイからと、あんな若いコに・・」


「まぁまぁ、アリスさんだって選り好みは有りますよ~」


と、その前を歩いて言い合うルメイルとビジュニス。


一般的に。 大陸の方では高い宿は、目立つ所や宿屋街の中心か、他に景観の良い場所を選ぶ傾向が在る。 だが、コンコース島では街が海岸線に沿って横長に成る為に、商業区の何処からでも海が近く。 何処に建てても街中なら霊峰セブレロタイナが見える為、賑わいの激しい飲食店街との狭間から商業区の真ん中付近が便利で立地が良いらしい。


その為、イーサーに付いて歩くスタンストンやタジルは、白亜の石造建築物である大きく美しい宿屋や、豪邸の様な庭園を持った宿屋などを見て回る事になり。 普段から安い所ばかり泊まっている為か、物珍しそうにして見回していた。 


替わって、一番後ろから行くクラークは、セイルが宿屋を見ては頻りに困った様子を浮かべているそれが非常に不思議で。


「ふむぅ。 セイル殿は、何かに随分と困っておる様子だな」


同じくそうだとアンソニーも。


「みたい・・だね」


ロザリーも、の・・様だとしか解らない処だが、ユリアは理由に感付いていた。


「多分・・、この辺のイイ宿の幾つかって、みぃ~んなセイルのウチの系列に入るんだわ。 宿屋の持ち数も、セイルの一族が一番みたいな事言ってたし。 大きな宿の主だったら、みぃ~んなセイルの事を知ってるかも知れない」


クラークは、なるほどと思い。


「お忍びみたいな身の上のセイル殿ですからな。 それは面倒な・・」


ユリアの記憶では・・。 年に何回か、系列の店からセイルの一族へ決まり金の納入が行われるらしい。 その納期時には、総数にして荷馬車数百台の貢物も贈られるとかで、更に返礼挨拶には一族の顔が揃わされる。 ユリアは良く知らないが、セイルはその時に許嫁を迫られる事もあって、随分と疲れると云っていた事を思い出す。


アンソニーは、もはや自分の身の上と変わらないと思い。


「面倒な挨拶とか会食って、ホントに疲れるんだよね。 あぁ、昔の当時が思い出されます」


その言い方は、ユリアにしてみるとなんとも嫌味に聞こえるのだが。 クラークは違う。


「ですなぁ。 私も、家に居る頃は形式ばった全てが堅苦しく、変なパーティーなど逃げ回っていた方ですよ」


クラークとアンソニーの気苦労話。 その話を聞く内に、ユリアは・・。


「・・・あ」


と、何かに気付く。


処が。 強さは別に、このチームの事情を知らずに何を言っているのか良く理解でないロザリーはと云うと・・。


(面倒な挨拶・・パーティー? この二人は・・貴族か?)


ロザリーにそう見られた二人のクラークとアンソニーが、何やら気付いたと云う声を出したユリアの背中を見ると。 ユリアは二人に振り返り。


「ね・・、もしかしてさ。 あの仕事の依頼の中で、商人の副長をしてる人も・・セイルと・・・」


アンソニーも、クラークも、その可能性については解らない。


「ふむ・・、どうですかな、アンソニー様」


「さぁ、商人の内情については、私も知識は少なくて・・」


困るアンソニーなど、200年以上も寝ていた者だ。 今に似合う知識がどれだけかも微妙で、増してや生き方の違う商人の事等良くも知るハズがない。


ロザリーは、その様子に。


(・・、商人? セイルの家は、何処かの商人か?)


ヒソヒソと話す3人と、困惑の一人がセイルの後ろを歩く。


そんなこんな流れで、宿屋街の中を通る大通りを行く一行だったが・・。


宿屋街の大通り上で、一番大きな敷地面積を持つ宿が有る。 施設が充実した上に、黒曜石を基本に作られた城型の宿がウリであり。 宿代が高い分、何事にも一流を張る素材などに拘った物が施設内に鏤められ、出される料理や用意された風呂などがどんな物なのか想像も付かないと思われる宿で。 敷地の外側には見上げる様な石垣が城壁の様に囲われていて、外から見た印象は砦である。 宿の高さをウリにしたり、庭園をウリにする宿が多い中で、外から中を見せぬ宿はこの宿だけ。 噂でも一番格式が高い宿らしく、“マハーン・カルバン・ユートピァ”と名付けられて呼ばれている宿だった。


大通りに面する一番長い石垣に差し掛かる一同。 集団の先頭をするイーサーに、少し後ろを行くビジュニスがその高い石垣を見上げながらに。


「イーサーさん、この御宿ってぇ~どれぐらいの値段なんですかぁ?」


「あ~、此処は高いな。 聞いた話では、最も安い部屋で一泊480シフォンとか」


「え゛ぇぇぇぇぇぇぇっ!!! い・一泊で・・ですかぁ?」


大きく口を開き、あどけなさが残る顔が驚きで一杯のビジュニス。


「いやいや、一番安い部屋で・・だ。 聞いた話だが、一番広い部屋は確か・・一泊で1000シフォンだか、2000シフォンするらしいよ」


「ぶっ!!」


有り得ない値段だと思うビジュニスは、人が飛び上がっても遥かに高い石垣を見上げて歩く。


スタンストンとタジルが肩を並べて、ルメイルやリロビナと二人の前を行きながら。


「一泊2000とか、有り得ないよなぁ~。 そんな金有るなら、武器でも強化するよ」


と、スタンストンが云ったのに対し、タジルは。


「でもさぁ~、食べた事も無い料理とか、普通じゃ味わえない雰囲気も有るじゃんよ。 金が余るなら、一泊ぐらいしてみたいよ。 何か、一流の仲間入り出来たみたいじゃんか」


「そぉ~かぁ~?」


二人の会話を聞き、スタンストンと同意するのはリロビナ。 逆に、タジルと同意できるのがルメイル。


擦れ違う人から、視線を貰う事が当たり前のルメイルは、タジルに。


「貴方が此処に一泊出来るなら・・、一日ぐらいは付き合ってもイイわよ。 ただ、出来るなら・・・ね」


「えっ、マジでっ?」


驚き喜ぶタジルは、2000シフォンなら稼ぐに無理の額では無いだけに、夢は大きいと思う。


しかし、だ。 タジルの後ろから、セイルに引っ付くアリスが。


「アンタ、勘違いしちゃダメよ」


と、声を掛ける。


「あっ?」


振り返ったタジルに、アリスが呆れた顔を見せて。


「今のアンタが2000シフォン掻き集めて持って行っても、泊めてくれる訳ないわ」


「はぁ? だって、2000有ればイイんだろ? 何でダメなんだよ」


「ハァ~、バカねぇ。 こんな格式高い宿が、その辺のぺーぺーを金が有るからって一番高い部屋に泊める訳無いじゃない。 名の通った貴族、商人、冒険者、学者、そうゆう箔が付いた人を泊めるから、2000って高い値段に格式が付随するんじゃない」


「何だってぇ、それじゃ値段なんてカンケーないじゃん。 もっと高い額にすりゃいいじゃんかよ」


すると、ルメイルは横を向いて。


「全く、無知なコ。 その様子だと、一生掛かっても此処に泊まれないワ」


だが、セイルが・・である。


「でも、宿って寝泊り出来ればイイんでしょ? そんな高いお金使わなくても、温泉のお風呂でも有れば十分だと思いますがぁ~」


と、云った時。


「いやいや、良い宿だった。 国に帰った際には、自慢にさせて貰いますよ」


石垣の一角に築かれた立派な出入り口で、港までの送迎用に引き入れられた馬車に乗る偉丈夫が言う。 礼服に身を包む紳士で、何処かの要職に付く者・・。 或いは、名門貴族と云う雰囲気が出ている。


「有難う御座います。 また、ノルノーに立ち寄られた際には、我が宿のご利用を」


馬車に乗り込んだ偉丈夫、そしてその家族と見受けられたドレスに身を包んだ母娘に声掛ける男性は、白い正装に身を包む中年男性だった。 綺麗に選り分けられた頭髪、スカーフネクタイやイヤリング等のアクセサリー、更には汚れが全くない靴や胸元のポケットに添えられた花を見る限り。 相手に対して失礼の無い態度やマナーも含めて、完璧な様相を整えた人物であった。


馬車がセイル達の行く路上に出て、その正装のナイスミドルと見習いの使用人が見送りに出る。


上流階級の世界を垣間見る様なその様子に、思わずその光景を見て歩くイーサー達が居て。 その後、馬車を見送ったその宿の働き手達が中に入ろうとする光景が継続されるのだが。


この時、セイルとその正装をした中年男性が目を合わせた。


瞬間。


「はっ」


「あ・・」


お互いに顔を見合って、完全に立ち止まってしまう。


「ま・・まさか・・・」


と、セイルに向かって一歩を踏み出したその中年紳士に対し、セイルはアリスの前に飛び出して。


「シィーーーーーー」


っと、指を口に立てた。


「へぇ?」


「ん?」


「あぁ~?」


何がどうなっているのかと、疑問を思わせる顔に変わる周りの皆。


それを見つけたユリアは、


「あちゃ~、顔を知られてぇ~ら」


と、顔に手をやって俯くしかなかった。


しかし、セイルの様子に何かを察した中年紳士で、一つ頷くと。


「・・お久しぶりですね。 何時ぞやか、港でお話をした・・」


相手が作り話で応対をしてくれたと思うセイル。


「あああ、はいっ。 あの時は、コンコース島の事を教えて下さって有難う御座います。 あはっ、あははははははは・・・・・・・・」


「えぇ。 また、御出でに成られた様ですね」


「はいっ」


妙なほどに元気な返事をしたセイル。


紳士は、笑顔を見せてアリス等に会釈すると・・。


「嗚呼、この先に我が宿の一般向けで、手ごろな宿が・・。 もし宜しければ、其方の方に泊まられるのもイイですぞ。 湯が温泉で、中々良い食事も出しますから」


と、何故かセイルに云うのである。


苦笑いのセイルは、


「あっ・・あははは、た・高くなければ・・」


と、云えば。


「個人の一泊が、30から。 大勢の大部屋でも、35からです」


それを聞いた列の先頭に居るイーサーが。


「風呂と食事を付けても、50から70シフォンって所だ。 悪く無いな・・」


その予想が当っているとばかりに、紳士は頷いて。


「ご想像は、近いですよ。 宿の名前は、マハーン・ショテノです」


イーサーは、もう決めたと。


「有難う御座います。 其処にします」


と、云い。


「え゛っ?」


と、驚くセイル以外は、悪く無いから行って見ようという雰囲気に成った。


ユリアは、まんまと籠に収められた小鳥を見る様で。


(ふぅ~。 これからどーなるやらねぇ)


と、頭を抱えた。


あの超豪華な宿の前を行き過ぎると、高さや様相の異なる宿屋が犇く宿屋街の中心部へと踏み込むべく建物の間を抜ける三叉路が見える。 その三叉路が見える所に、手入れの行き届いた庭を持つ菱形の5・6階建ての宿が有った。 それが、マハーン・ショテノである。


通りから建物を見るルメイルは、少し笑顔を見せ。


「確かに清潔そうで、見栄えもイイわね」


アリスも。


「あらら、ホント感じイイわ」


と。


女性達の意見に、イーサーはすんなり頷いた。 他の構えこそ立派な周りの宿が、どれも通りに宿の面を露にして構えているのに対し。 この目の前の宿は、低いながらも煉瓦の壁を以って、木陰の在る庭に椅子を並べて休める空間を作り、控えめにしながらも雰囲気を出す宿の趣向が感じられる。


女性達ほどに気に入った訳でも無いが、タジルやスタンストンもその宿をみて。


「白くて見た目も綺麗だね。 ホント、30から泊まれるのかな」


「・・だな。 さっきの話が聞けなかったら・・遠慮したかも・・」


と。


一同が宿の中に入り、吹き抜けの天井から二階の手摺際が望める場所にて。 カウンターの有る受付に立つ男性に声を掛けられ、其処に行くと・・。


「いらっしゃいませ、当宿にようこそ」


小太りで背の低い温和そうなオジサンの使用人が、ペコンと頭を下げて出迎えてくれた。 正装と云う訳では無いが、汚れなど見えない黒の長袖に、白いスカートの様な前掛けを持つ下を穿いている。


「全員で、泊まりたいんだが・・。 こっちは、女性4人に、男が3人。 向こうは別に成るから、聞いてくれ」


と、セイル達の方を気遣ってくれるイーサー。


セイルは、皆を見て。


「3・2で分けますか」


するとロザリーが。


「着替えなど見られぬなら、一緒でもかまわない」


そのやり取りを聞くオジサンの使用人は、直ぐに反応して。


「着替える別室付きの大部屋もありますよ。 5人でなら・・、安い部屋で一泊180から。 食事と湯殿を利用するなら、250からになりますよ」


然程に金が有る訳でもないセイル達で、250前後で全員が泊まれるとはイイ方だ。


「それにしよ~よ、分かれて離れると面倒だし」


と、ユリアが云って決まった。


「では、それでお願いします。 数日は宿泊したいので、5日分前払いします」


使用人の男性は、笑顔で頷き。


「はいよ~。 なら、案内させて貰います~」


それぞれに部屋が決まると、宿を引き払う客も出て行く最中で案内をするメイドが出て来る。 ルメイル達の案内をするのは、薄く黒い肌をした尖がり耳の女性。


「・・ダークエルフ?」


ルメイルが出て来たメイド見て、小声に低く言う。


イーサーやスタンストンも、そのメイド姿をした女性に目を向ける。


「はい・・」


受け答えしたメイドのダークエルフを、丸で容疑でも掛かった者を見るかのような眼で見回すルメイル。 その目を背けず、彼女は宿の受付に。


「このダークエルフは、使用人なの?」


と、鋭く聞き返した。


急に焦り出す受付の中年男性で。


「あ・あぁ・・。 御気に障りましたら申し訳有りません」


と、謝る始末。


ダークエルフを取り巻く差別や偏見は、前も書いた通りに根強い。 今でも、その偏見が色濃く残って差別を産む要因に成っているのは、この種族を悪用する裏社会と相まっての事件や反乱活動だと云うことは周知の事実であり。 ダークエルフを見ただけで、ルメイルが見せる様な態度で毛嫌いする者も多いのだ。


「ル・ルメイル」


この彼女の態度に驚き、ビジュニスとアリスが肩を触ったりするのだが・・。


「ダークエルフに支給はされたくない。 別の者にして」


と、リロビナがはっきりと云ったのである。


しかし・・、このダークエルフのメイドは直ぐに一歩下がり。


「不愉快にさせまして、申し訳在りません」


と、云うと・・。


其処にロザリーが。


「それなら、我々のメイドと代わって良いのでは?」


と、云って。 セイルに。


「ダメか?」


セイルは、全く問題ないと云う顔で。


「全然~、案内や支給の方に拘りは無いです」


受付の男性が、此処に助けを見たと。


「なら、か・代わらせます。 リーチェ、マラドナと代わりなさい」


云われたダークエルフの女性は、恭しく一礼し。


「はい」


と、セイル達の案内に出て来たふくよかで大柄の娘と交代した。


ダークエルフの噂は悪いものがいまだに多く。 彼女を見る者の視線に、嫌悪が混じるのは仕方が無い。 ルメイルとリロビナ以外にも、タジルやスタンストンも怪訝な表情で横に向いているのがその表れだ。


しかし・・。


「よろしくお願いします」


と、挨拶をしたセイルを始めに。


「部屋の窓ってどっち向き?」


と、普通に聞くユリア。


「いやいや、見た目の立派さにしては、手ごろな宿ですな」


「えぇ。 これからは、こうゆう宿選びも楽しみになりますね」


と、雑談に興じるクラークとアンソニー。


宿の内装を見回すロザリーも含めて、ダークエルフのメイドを差別視する者はセイル達の中には居無い。 セイルとユリアの決めた事に、基本的文句を付ける大人二人ではないし。 長い流浪の様な生活をし、益して女であるロザリーにはそうゆう文化に浸る時間が無かった。 そして・・。 孤児には、迫害されて親を殺されたダークエルフも居て、一緒に仲良く遊んで育ったセイルやユリア。 人格云々と云うより、悪い風習に浸らなかった者の差が出たのだろう。


ダークエルフのメイドは、セイル達を先導する様に歩いて階段に向かいながら。


「この度は、ご宿泊頂き有難う御座います。 私は、メイドのリーチェです。 ダークエルフなので、嫌な場合は支配人に交換を申し出てくださいね」


と、云うのだが。


「何で嫌がるのよ。 それより、精霊見える?」


と、ユリアが肩を指差す。


「はい、見えます。 精霊遣い・・ですか?」


「フツーに出て来るから、ヨロシクね~」


「まぁ、それはまさか・・天恵の・・・」


「流石~、エルフなら説明要らないよね」


「はい」


上に向かう階段に入った一行は、角の在る螺旋階段を上ってゆく。 階段を上がって行くと、直に明るく外が見渡せる北西に窓が見えた。 森の在る郊外まで、建物の続いた景色を遠くにまで見渡せる窓。 窓の外の景色を見ていたセイルへ、先導するリーチェが。


「冒険者の方々ですか?」


と。


「あ、はい~。 観光も兼ねて、此処に来て見ました」


大人びた美人のリーチェは、穏やかに笑みを見せ。


「では、先ずは中央の公園に行かれると良いですね。 今は、世界が冬なのですが。 此処は乾燥期と云う季節に当りまして、固有で独特の草花が咲いております。 旅芸人や吟遊詩人なども居りますので、ゆったりと散歩するのによろしいですわ」


強い炎の波動を山側に感じるユリアは、麓の森が見える窓を見て。


「ねね、山の方ってモンスターとか出るの」


聞かれたリーチェは、少し顔を曇らせ。


「はい、お仕事で行かれた冒険者の方々が、随分と大怪我をして戻られた事も在りましたわ」


モンスターの存在を感じたロザリーは、先程の斡旋所での仕事を思い出し。


「もしかして、迷宮の調査とは山の方なのではないか?」


と、セイル達に言う。 参加者が決まるまで、その仕事の依頼の内容は明かさないとされていたが、主の様子からして危険そうな雰囲気が溢れていた。 ロザリーは、モンスターの有無を聞いてそう思う。


すると、リーチェが・・。


「あの・・、地下迷宮に行かれるのですか?」


と、立ち止まって振り返り様に聞いて来るではないか。


クラークは、その言い方に知識が在りそうだと感じ。


「メイド殿は、ご存知か?」


「あ・・はぁ」


曖昧な返答を以って、前に身を戻すリーチェ。


「・・ふむ」


アンソニーは、何か曰く在りと見た。


さて。


部屋に案内された一同は、広い二部屋が半分の仕切り壁で隔たれている一室に案内された。


「このお部屋が、皆様の一室と為ります。 中へ、どうぞ」


皆を招き入れる仕草をしたリーチェは、直ぐに奥まで行って仕切られた壁の向こうと合わせて窓を二つ開き。 それが終わると、迎えの支給の仕度を整え始める。


「あ、部屋の境にカーテン掛けられるんだ」


「ホラ、こっちにも着替え用の一室が在るぞ」


部屋の作りを見て回る女性二人が、女性に配慮の行き届いた仕様に声を出す。


一方、窓から飲食店街や港が見渡せると眺めるクラーク。


「この眺めは良いな。 夜に成ったら、飲食店街の明かりがまた景色に成る」


先んじて用意された水差しから、全員分の水をグラスに注して用意するリーチェで。


「よくお解りで。 夜は、ランプの明かりが綺麗ですわ。 処で・・、皆様はお食事はまだですか? 宿の中でも二つお店が在って、東側と北側の料理を頂けますが・・」


確かに、朝から食事も少なく来ている一同だったが・・。 ロザリーが持ち物を売り払う事も踏まえ、夜まで外に出ようと思っていた。


そして、セイルの興味は・・リーチェに在った。


「あの・・、リーチェさん」


「はい、何で御座いましょうか?」


リーチェの眼を見るセイルは、穏やかな表情を崩さず。


「もしかしたら、地下迷宮の探索を請ける事に成るかもしれません。 もし良ければ、その地下迷宮の事について知っている事を教えてくれませんか?」


自分から言ったのだが、地下迷宮の事を聞かれたリーチェは困った顔に変わる。


「あ・・はぁ、ですが・・それは斡旋所でお聞きになられた方が・・・」


「うん。 でも、僕も出来たら係わり合いたくないんだけど、どうして大きく特別な公募依頼にしなければならないかが解らないんだ。 もし、相当に危険な仕事なら、参加しないといけないの。 教えれる範囲でいいから、教えてくれないかな」


セイルの顔を見て、黙ったリーチェ。


その沈黙と云う小競り合いが少し続いて・・、目を瞑ったリーチェが。


「解りました・・。 でも、この話を私から聞いたとは言わないで下さい」


と、話し出したのは・・。


このコンコース島とは、大小で島が点在する諸島の真ん中に在る一番大きな島を指している。 さて、このコンコース島とて、モンスターの脅威が無いとは言えない。 それもそのはずで、神竜が棲む場所とは、嘗ては魔界への扉が開いた場所。 若しくは、モンスターによって人が滅ぼされ掛けた場所を示しているとも言えるのだ。


そして・・。


今はもう必要が無いと思える様な深い迷宮を築いた場所が、世界に散らばっている。 モンスターを封じる為だったり、時にはモンスターの闊歩する地上から身を隠す為だったり・・。 神話の時代から、人の確固たる繁栄が始まるまでにその殆どが築かれたと云って良い。


そしてこのコンコース島のノルノーと云う街は、北側に鎮座する神殿風を模した庁舎及び公的な自治政府の施設の地下。 そして、富裕層が住み暮す北西の場所一帯が、嘗ての滅んだ街の位置に成るのだと言う。


その一度滅んだ街は、実は地下に築かれた巨大迷宮であり。 その固い岩盤を掘って築いた深さはかなりのものと成るのだが。 街や住居を構成する部分は、もう封印されて誰も入り込めないのだが。 その迷宮の街に辿り着くまでの洞窟部分と云うのが、どうやら自然洞と彫った人口の穴の入り組んだ迷路を形勢しており。 暗い暗部を好むモンスターの巣窟に成っているのだとか。


詰まり、このノルノーの街と北部の地下には、洞窟の入りくねった迷路と、更にその下に迷宮街と云う二重の層が在る訳なのだ。 この事は、街でもその洞窟部への入り口を屋敷で封印し、モンスターも出さず、人も入れずと秘密にする一族が守って来たらしい。


だが・・。


リーチェの仕えた或る家で、その穴を開いて洞窟を密かに探検しようとした者が居た。 金持ちの年増女性で、学者と本人は自称しノルノーの歴史について調べているという女史。 彼女は、興味本位と地下洞窟を調べ上げ、何かに利用しようとしたらしい。 亡霊が出たと斡旋所にウソの依頼を出し、請けてきた冒険者達とその穴に入ってそのまま帰らずに・・。


その後。 大怪我をして命からがらに逃げ戻った一人の冒険者の存在で、約束を破った一族が居ると自治政府に発覚。 厳しく長い取調べを受けたリーチェは、罰もチラつかされて他言無用を言い付けらた。 だが、その喋らない見返りとして、この宿への仕事を斡旋して貰えたそうな。


それと。 これは、リーチェが全てを見知って居無いが。 その地下の洞窟を見に行った兵士が、豪く驚いた様子で逃げ帰ってきたらしい。 取調べを受けている最中に何やら騒がしくなったと思ったら、血みどろの兵士が来て。 モンスターの事について怒鳴られたとか。 その際にリーチェが見るに、兵士の鎧や兜に掛かっていたのは本人の物では無いらしい。 恐らく、誰かの返り血だと思えた。


リーチェの話は、最後に。


「これは良く解らない事なんですが・・。 この一件の後、大きな屋敷に住まう資産家の方々が、何故か追われる様にこの街を追い出されたそうです」


と、絞め括った。


新しく入ったロザリーを含め、その謎めいた事件の経過は気味悪く思え。 今回の仕事には、何か危険と感じ取れる裏が在りそうだと思った。

どうも、騎龍です^^


私的な都合ですが、7月も予告なしで掲載を続けます。 まだ、自分のペースが落ち着かないので・・^^;


ご愛読、有難うございます^人^

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