二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4
セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部ー中
≪爽やかな目覚めで起きた朝。 そして、コンコース島へ≫
今、そのとき・・。 朦朧とした意識の中にセイルは居る。 あの、濃霧の酷い夜の一戦を終えた後、まだ一度も起きてはいない・・・。
(ん・・、夢?)
或る日を境に、子供の頃から夢の中に居るのを感じれるセイルで、夢の中で何かと会話する事も良く在った。 ただ、起きた後に覚えている事は少ないのだが・・。
「主よ、聴こえるか?」
ボンヤリとした意識の中で、口笛を吹く様な音に聴こえる声がした。 意識の中で、誰かが居ると云う訳では無く。 声が木霊する様に聞こえているだけだ。
「うん、・・聴こえるよ」
セイルが応えるなら、その声は続く。
「随分と無理をするのぉ、冒険者とは面倒だわい」
「・・だね。 でも、楽しいよ」
「そうか・・、主がそれなら良い」
「うん」
「それより、目を覚ましても良いぞ。 どうやら、朗報が待ち受けているようだ。 束の間かも知れぬが・・、悪い話ではない」
「ふぅん」
「しかしながら、主の仲間の一人が使えぬな。 中途半端過ぎて、見ていて腹が立つ」
その意識に響く声を聞いて、セイルは思い浮かぶのは・・・。
・・・・・・。
「んんん・・・」
目を覚ましたセイルは、久しぶりに日光の光を感じた。
「・・朝?」
自分の泊まる部屋の側面に付いた丸型の小窓。 その窓から、朝陽と思える清清しい光が入って来ていたではないか。
身を起こしたセイルは、首を傾げる。
「あれ・・、船が動いてる?」
理解し切れない事が起こっていて、セイルは起きて部屋を出て行った・・・。
★
それから、4日後。
甲板で声が上がる。
「見えたっ、島が見えたぞっ!!」
船員の一人が声を上げれば、広間の窓に立っていた客の一人が聞きつけ。
「やったぁっ、島が見えたってぞっ!」
と、窓ガラスの所々が割れている広間に声を張った。
「やったぁーっ」
「おかぁさん、助かったの?」
通常の半分となった食事をしていた客達だが、島が見えたと聞いて一気に元気となった。
補修も行き届かないままに、沈没の二歩手前で航海をしたロザリーの船。 コンコース島に辿り着けたのが、全く奇跡としか云い様のない有様だった。
さて。
一体、あの戦いの後に何が起こったのか・・。
それは、セイル達がロザリーを連れて斡旋所に向かう為、港で先に降りて彼女を待つ所から始まる。
晴天の空の下、湾曲した港に多くの船が横付けされている海岸都市ノルノーにて。 海賊に襲撃されたかの様な姿のロザリーの船が、港へと到着した。 港で船の横付け作業等を行う働き手達は、その船を見て驚きと共に何が在ったのかと囁き合う。
「碇を下ろしたら、客達を安全な宿にお連れしろ。 金は世話役のノストンと叔父上に預ける故、街の奥場で裏通りの様な場所は選ぶな」
命令を出すロザリーは、船を降りる前の最後の仕事だと急ぎの手配だけを済ませる。 死んだ船員の弔いの手配、金の無い客達の滞在場所、船の修繕等等・・。 ロザリーがこれまで蓄えた資金を全て使う事に成るのだが、それでもロザリーの金の使い方にケチ臭い部分は微塵も見えない。 それだけ、今までに稼いで来た事が、自信にも似た潔さとして現れ見えているのだろう。
船員に細かい指揮をするファイラポンは、もうロザリーにどうこう言わない。 この数日で、トコトン言い合った結果だからだ。
半分壊れた船に、何が在ったのかと船長組合協会の幹部職員や、ノルノーの港を監視する役人が来たのはその後。 下級役人数名を引き連れた様子は、この船の様子が与える影響の裏返しと思える。
「叔父上、葬儀の後はもう貴方が船長だ。 もう、船長として船の事は任せる」
上がって来た役人を前にするロザリーは、無口で強張った顔のファイラポンにそう言った。
一方。 荷物、人馬などが行き交う賑わい激しい港。 その港に降り立ち、ロザリーを待つセイル一行で。
「くわぁ~、しっかしまぁ・・・此処まで壊れて良く動いたねぇ~~」
呆れた様子も含めて感心したユリアの肩には、風の精霊の白馬が現れていて。
「ホントね。 でも、助かってよかったわ」
と、淑女の様な語りで同意をする。
日光を嫌う様に、フード付きの薄い布のローブを纏うアンソニーは。
「だが、倒さずに逃がしたのは不味い。 我々を放り出し逃げた島は、今頃何処だろうか・・」
クラークも、また。
「ほんに・・。 我々ですら互角のモンスター群ですからな、放って置いて良いものではないです」
皆の感想を聞くセイルは、近場に待つルメイルとイーサーの一団を見る。 すると・・。
「おいおい、そんなに怒るなよ~~。 軽い冗談だってばさぁ」
「そうかしら・・。 ま、私と寝たいなら、相応の強さに成りなさい」
露出度激しい僧侶ルメイルと、魔術師の若者タジルが言い合っている。 一緒に宿に泊まる時、部屋が無いなら同室でも構わないと云ったルメイルに対し。 タジルが、ややいい加減な感じで変な事を言ったのだろう。
(一気に仲が良くなりましたね・・)
見ているセイルの内心に思う感想は、今のその二チームを物語っていた。 イーサーとルメイルのチームは、何でも一つのチームに成るらしい。 イーサーのチームの戦力不足は、ルメイルのチームと合わさる事で解消するし。 イーサーの経験とリーダーとしての人当たりは、ルメイルには無い。 イーサーのチームに、ルメイル達が入るらしい。
冒険者達は、時としてこうゆう事が多い。 行きずりで協力したり、互いに欠けた部分を自覚したチーム同士が一つに成るのだ。 その後の末路は、そのチームに居る人の個々の性格やリーダーの思慮によりけりなのだが。 ルメイルとイーサーの取り合わせは、傍から見ても何とも悪く無いのは確かだ。
ま。
「・・・」
ルメイルが時折にアンソニーを見る様に、彼女は不死の王子に深い興味を覚えているのは確か。 彼女としたら、セイルのチームに加わりたいのが本心かも知れなかった。
だが、あのホラーニアン・アイランドにて繰り広げられた夜の死闘にて。 イーサーのチームと、ルメイルのチームがお互いに認め合ったのは確かだった。
其処へ降りてきたロザリーは、刃の欠けた愛用の軍剣仕様の剣を腰に帯び。 船長特有の帽子も脱いで、スリットが際どく入る紅いワンピースに、黒い膝上のズボンを穿く出で立ちで遣ってきた。 右手のパンパンに膨らむ婦人用バックをどうするのか気に成る処だが・・。
「待たせた。 さ、斡旋所とやらに行こう」
長い金髪を一本に結い、帽子を脱いだロザリーは実に女らしかった。 船長をしている彼女とは、一瞬前なのに何かが違っている。
彼女を見るユリアは、
「ロザリーさん、その荷物はどうするの?」
と、カバンを指す。
「ん? あ、あぁ。 個人的な金は持って無いからね、高いだけの衣服やアクセサリーは売り払う。 これからは、お飾りも辞めだ」
アンソニーは、その物言いに。
「では、今まではお飾りだったと?」
「そうだ・・。 叔父上が舵を握っていたいという様子を隠しきれていなかったから、私はお飾りの船長として身を着飾り色艶を出していた。 男の世界の色濃い船長家業は、女には大変だ。 女だと見下されてしまうから、逆に女としての色を逆手に取って仕事を取ったり目立つ様にしていたのだ。 仕事を取れないなら、船長など無駄飯喰らいに成りかねない。 仕事を持った商人などを、引き寄せる為の客引き衣装かな」
ロザリーの苦労の端っこを見たクラークだが、これからは仲間に成るのだからと。
「そうか、女と云うだけで差別や区別されるのも大変だわい。 だが、冒険者には逆の意味で試練が襲うぞ」
「逆の・・意味?」
問い返すロザリーの眼を見たクラークは、何時に無く真剣な眼差しで。
「うむ。 御主の力量は、ハッキリ言ってこの中では差が違う。 今までは自己判断で勝手に出来たが、これからは区別や差別を抜いた意味で女の性を問われる。 我儘に振舞ったり、リーダーのセイル殿を軽んずれば・・、な」
“だから女ってのは・・”
この言葉は、どの世界でも女性が言われる言葉かも知れない。 バカにする言葉でも在るが、同時に女性特有の未熟さを指す時にも使われる。 言い方を変えれば、子供だ・・大人だ・・男だ・・と。 だが、その云われ続けるにも意味が在るのだろう。 これからは、ロザリーもまた一からの修行をする様なものだった。
「・・、何となく云いたい事は解る。 ま、セイルの腕は見て知ってるから、力量からは軽視しないだろう」
少し云われた事に不満が在ったロザリーで、こう返すのみ。 ユリアが何かを云う前に、セイルが頃合いだと。
「では、斡旋所に行きましょう。 早く、この事態を伝えないと」
ユリアも。
「そうだよ、早く行こう」
イーサーやルメイル達と合流して、斡旋所へと向かうべく歩き出すセイル達。 その流れで、アンソニーがロザリーの脇に付き。
「云われた事は、気にするより心に留めて下さい。 これからは、お互いに背中を預け合う仲に成ります。 大丈夫、彼は女性だからと差別はしない。 寧ろ、周りからそう受ける練習だと思ってください」
並んで幅広い大通りと成るなだらかな坂道に入るロザリーで。
「解ってる・・、こうゆうのは慣れっこだよ」
と、小声で返したのだった。
だが、このロザリーがセイルの言う事に対しては、妙に素直な事をアンソニーは知っている。 彼女が、都度都度に渡って生意気を言うとは思えなかった。 寧ろ・・・、目に入るのは、ユリアであった。
さて。
コンコース島の大都市ノルノーは、コンコース諸島の経済の中心である。 深い事はウィリアムの時に書いたが、500万を超える人口を、どうゆう形であれ抱き留めている経済力と賑わいは伊達では無く。 また、世界の航海路の中心として栄えてきた文化、世界の産業物の交流地点と云う歴史は、この都市を強固にして底力の在る街に育てた。
ノルノーの街に詳しいイーサーが道案内をする中で、街並みを見るアンソニーは過去の記憶を思い出しながら。
「何度来ても凄い場所だ。 狭い島国なのに、建築物も我が国の物と変わらぬ。 港から続く人、港へと続く人が絶えぬ。 いやいや、本当に世界は広い」
と。
上着を脱ぎ、白い作りの良い長袖と襟が特徴的なシャツの姿に成ったセイルは、ユリアとアリスに挟まれて歩く。
「二度しか来た事無い場所だから、色々と観光もしたいよね。 てか、あの山にも登れないかな~」
大通りの右手の彼方。 三階建ての建物にも阻まれずその雄姿を見せている活火山は、世界最高峰のセブレロタイナ。 興味津々と云う目を輝かせ、雲に隠れた頂上を見るセイル。
だが、意外にも世界の地理には造詣が在るアリスで。
「あ、あの山に登るのは無理よぉ~。 いくら剣の腕が強い君でもね」
その話に興味を誘われたユリアで。
「え、何で何で? まさか、島の人以外に入っちゃダメとか決まり有るの?」
笑顔のアリスは、脇道の通りに入るイーサーを見ながら。
「違うわよ~。 あの山は、今も元気な活火山なの。 しかも、あの山の火口から地中に潜れば、炎の神竜のフレアドラグナーが棲んでるって話でね。 獄炎を司る神竜が棲む影響で、山の極近い場所から山頂までは、砂漠の昼間より高い温度で護られてるらしいの」
セイルは、神竜が居るのは知っていたが、山がそんな過酷な環境だとは思わず。
「え゛っ、そ~なんですか。 でも、海上から見た景色では、緑も見えましたが・・。 砂漠より暑いって、水筒で水を持っていくぐらいじゃ足りないですよね」
ユリアも、同じに驚き。
「うはあ~、凄いトコロぉ~。 炎の精霊神サマも呼び出せそうだわ」
セイルは、アリスに。
「もっと色々教えてくれませんか? 行った人とかは居無いんですか?」
すると、アリスは冒険者の出で立ちながら、女らしく嬉しそうに。
「色々あるぞ~。 セイル君なら、見てて飽きないから教えてア・ゲ・ル。 長話に成るから、宿とか一緒にしよ~」
美人のアリスが、何故にこうもセイルに甘いのか・・。 それは、どう考えてもセイルの見目の良さが絡んでると思う周りで。
「かぁ~、顔がイイのも一つの美徳だぁ~」
と、羨ましがるタジルに。
「本当に、そうだなぁ~」
と、同意のスタンストン。
「・・不純な」
男嫌いらしいリロビナは、軽蔑に近い一言と共に横を向く。
しかし・・。
「セイルっ、宿を一緒にしようよっ。 聞くだけならタダだぞっ」
逆に嗾けるのは、何とユリア。
「オホ・・オホホホ・・・」
苦笑いをするのは、肩の天馬。 こんなに堂々と嗾けるのもどうかと思うのだが・・。
「えぇ~、ど~しましょうかね」
ユリアに肩を掴まれ、揺らされながらニコニコ顔で思案するセイルは、嫌そうでも無いらしい。
(・・漸く、普段に戻られましたな)
こう思うクラークは、セイルが穏やかな気持ちに戻ったと見た。 ジェノサイダーとの一戦から、どうにもニコニコ顔の普段を失い掛けていたセイル。 それが、またやっと戻って来たのだ。 クラークは、セイルの腕と年齢が似合って居無い事が気がかりでも在る。 強いと云う事は、それだけ多くの重荷を負う。 先んじて生きて、その事を解っているクラークだ。 何より、伸びてゆくで有ろうセイルの手助けが出来ればと思っている。 自分が憧れ、近付きたかった伝説の二剣士の一人の孫であるセイルだけに、口に出さぬ肩入れも大きいのだ。
何だかんだと話し合いながら、大所帯の一行は斡旋所に着いた。 都市の中心を貫く一番の大通りに行く手前で、やや右に逸れる通りを行けば。 石畳の道並びに、石造りの白い外装をした一際大きい建物がある。 暖炉の煙突とは違うとんがり屋根を幾つも持った一風変わった建物だ。 周りの店や飲食店などからすると、大きくて立派であり。 隣の花屋と比較しても幅だけで三倍はあろうか。
斡旋所・【爽風に吹かれる白亜亭】
入り口の所に、一枚の木の看板にてそう書かれている。
イーサーが、
「じゃ、入るよ」
と、ドアに手を掛けると。 逆に勢い良くドアが引かれ、
「クソったれっ!!!! 勝手でいいって云ってるのにっ!!!」
と、凄い剣幕で不満を言う者が現れた。 黒いバンダナを巻いた男性で、吹き出物の後が目立つ顔を見るにまだ若そうである。 出で立ちは、キュライサーと云う首から下は完全な武装形態の金属鎧を着て、背中に大型のバスタードソードを背負っていた。
イーサーと目を合わせたその剣士は、ギラっとした目で。
「何を見てんだっ、道を開けろっ!!」
と、怒鳴る。
「あ・・あぁ」
驚きが強すぎて、それしか云えなかったイーサー。
怒っている彼の後ろからは、女性の声で。
「クレンダ、そんなに怒る事ないじゃない。 周りに迷惑だわ」
と、仲間らしい言葉がかけられる。
「ケッ」
吹き出物も目立つゴツゴツとした顔の彼は、唾でも吐きそうな勢いで歩き出す。 そして、イーサーの後に立つルメイルを見た彼は、
「何で娼婦が斡旋所に来てやがるんだっ。 はんっ、此処は見世物小屋かっ?!」
と、悪態すらついて路上に出る。
その言い方に、ムッとしたのは女性の三人。 ユリア、アリス、ロザリーである。
しかし、そのクレンダと呼ばれた男性剣士は、一人で勝手に左側に向かい出し。 仲間が出て来るのも見ずして、小道に消える。
「すいません。 仲間が失礼を」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
後から出て来たのは、小柄な少女と思える僧侶と背の高い落ち着いた魔術師風体の女性だった。 少女の様な僧侶は、ユリアより背が低く。 大柄と云う感じの魔術師の女性は、クラークに届きそうな背の高さだった。
「いや、いいんだ」
「気にして無いわ」
イーサーとルメイルが云えば、出て来た女性二人は頭を下げながら道に出る。
会釈と共に代わって中へ入るイーサー。 続くルメイル。 皆が入る中、ユリアが二人の女性の前に出て。
「今のなぁ~によ、怒ってるからって八つ当たりじゃん」
セイルが、そのユリアの肩を掴んで。
「まぁ~まぁ~」
と、云うのに対し。
「ごめんなさい、弟を許してください」
と、少女の様な僧侶が云い。 背の高い魔術師の女性も。
「ホント、兄をお許し下さい」
と、頭を下げてくる。
何かをもっと云おうと思うユリアだったが・・。
「まったく・・って、へ? 弟・・兄ィィィ?」
完全にアベコベと云う見た目。 二人を交互に指差すユリアに、背の低い少女の様な僧侶が。
「はい。 私は、姉でフィリアンタ教を信仰しますシャイニーです。 この横に居りますのは、妹で魔想魔術師のラミカ。 今しがたに怒って出て行ったのは、弟のクレンダです。 兄弟でチームを組んでいますが、本当にご迷惑を・・」
見た目の食い違いに衝撃を受けたユリアは、それ以上に言葉が出ず。
「あははは、大丈夫ですよ~。 でわでわ~」
と、ユリアを押して斡旋所に入るセイルであった。
★
昼をまだ前にした午前。 ホラーニアン・アイランドについての一件が、斡旋所の主でもあるサルト氏に告げられた。
一同が話すのは、他の冒険者も居る広間の中だ。 東側の壁に沿って、掛けられる人数の違うテーブルと椅子の組み合わせが在るが。 其処には、屯する様に他の冒険者達が座っている。 カウンター前に集まって主に話す一同の姿は他の冒険者から見ると、依頼を張り並べて在る掲示板の列に阻まれる。 だが、隠す話でもないと普通に語られるので、屯組や仕事を探しに来た冒険者達にも聴こえる所だった。
セイルに・・と云うより、クラークを信用して話を聞き始めた主だが・・。
「何てこった・・、急にそんなモンが・・」
初老の男性である主、元は冒険者であろうと思われるだけ有ってガッシリとした体つきを維持していた。 灰色のオーバーオールに、半袖のシャツと云う出で立ちの彼だが、クラークから話を聞く顔は真剣で。 しかも、逃げたと云う事に眉間を険しくする。
「クラークさんよ。 あのエヴィーダ=デムハデスを積んだ島となっては、目撃が新しく有ればまた御宅達に依頼を回す事になるぞ。 何せ今は、この斡旋所に集まるチームに、アンタ達以上の者が居無い」
クラークは、セイルに向いて。
「セイル殿、如何しますか」
ニコニコした顔を崩さないセイルで。
「逃がしちゃった我々ですが、それでもいいのなら」
と、控えめに云う。
だが、“逃がした”と云っているが、話の内容からするなら、ホラーニアン・アイランドの方が逃げたと思える。 あのエヴィーダ=テムハデスとの夜の激戦を終えた後。 朝方に、悪魔の蔦が船から身を引き始めた。 その事に気付いたアンソニーが、起こせるクラークやユリアを起こし、また船の甲板の高みから島を見下ろすと・・。 島が逃げた。 正しく、船を海上に残して、島が霧を伴って離れていったのである。 気を失った様に眠っていたロザリーに代わり、ファイラポンは魔力水晶に魔力を込めて逃げようと提案。 起こされたルメイルやタジルは、気絶するまで魔力を送らされた。
こうして、セイルが寝ている間に逃げる形と成ったのだ。
しかし、その説明を受けても主は、
「何を云うかよ、向こうから逃げた形だ。 倒されまいと逃げたに決まってる。 なら、強いのはお前さん達だろう。 是非、引き受けてもらうぞ」
と、任せてくれる意思を明確にしたのである。
セイルは、恐らくリオンがどうにか時間を作って後から来ると予測していた。 あの浮遊島に渡りたそうなリオンの態度を見るに、歯止め役のテトロザを傍に置いても収まりが効くとは思えない。 どれ程遅れるにせよ、リオンはスターダストを率いて来ると思って居た。
主に、セイルはその事を仄めかした。
一般的には、仮面の剣士として偽名でリーダーをしているリオン。 あくまでもお世話になった知人としての対応で。
主は、その事を含むとだけだった。
そしてあのホラーニアン・アイランドの話が此処で一段落すると、ユリアが主に。
「ね、処でさ」
「ん?」
「イルなんとか~って島が浮上したとかって、ホントなの?」
「イル・・? イガルノスタルジムの事じゃないのか?」
ユリアは、何度云われても覚えられない自分に恥ずかしそうにしながらも。
「あ、ソレソレ」
と、相づちを入れる。
(はぁ~)
溜め息を付く仲間達を相手に、目を細めて向けたユリアだが。 主は、セイル達やルメイル達なども見回し。
「何だ、目的はそれか?」
すると、イーサーが。
「セイル達は、実力に申し分無いと思うからそうだと云える。 だが、我々は微妙だ。 行けるなら、行きたいのが本音だけどな。 主から見て、その力量に見合うと思ってくれるかどうかが解らん」
この随分と謙虚な物言いに、主はイーサーをじっとみてから。
「・・お前さん、随分と控えめな言い方じゃないか。 さっき出て行った3人組みの一人とは、随分と違うぞ」
此処で一同は、凡そに何が在ったかを知る事に。 あの凸凹な三兄妹の弟が怒って出て行ったのは、島に行きたいと願って断られたからだろう。
イーサーは、自分の父親の事に触れつつ。
「一応、過去に親がマーケット・ハーナスに現れた島に行き。 モンスターの大群に襲われて上陸しないままに戻って来たんだ。 あの浮上島に行くには、それ相応の経験や力量が必要なのは解ってる」
そんなイーサーを見る主は、
「そんなら・・。 よし、一つ頼みが有る」
と。
セイル達を他所に、イーサー達が緊張をする。 何を云われるのだろうか・・と。
主は、先ず。
「全てを云う前に、先ずはチームの合併を済ませようか。 それから、これは俺も初めてなんだが・・応募依頼を作ろうと思ってる案件なんだ。 だから、このセイルとか云ったか、彼らにも参加を願う」
いきなりの事に。
「ほえ?」
と、ユリアが云い。
何事かと、アンソニーとクラークが見合った。
だが、主はイーサーとルメイルのチームの統合を行うと・・。
「よし、屯してる奴も含めて、しっかりと聞いてくれ」
と、斡旋所の中に居る冒険者全てを対象に話をし出した。 何事か、と、椅子に座っていたり、壁に背を預けていた冒険者達が鋭い注目を主の方に向ける。 姿は見えなくても、云った言葉は一言一句聞き逃さないと云う雰囲気が出始めていた。
話を切り出した主は、急激に雰囲気が変わりつつ在るフロアの気配を敏感に感じて居ながらに、話の続きを云う。
「実は、だ。 俺が抱えてる仕事の案件で、或る大掛かりに成りそうな仕事がある。 それは、地下迷宮の探索依頼だ。 依頼主は、この島を収める政府、それから商人組合の副長(この場合は“ふくおさ”)に成るクレメントス氏、そして冒険者協力会の三者から来ている。 俺も今までコレほどに大掛かりな仕事はした事が無く。 また、複数のチームに任せる合同・参加型依頼を出すのは始めてだ。 だが、依頼の期限が来月に迫り、出来うる事としてこの形を取りたい。 先ず、モンスターの有無も解らない。 危険の度合いも解らない。 この二点を踏まえた上で、参加するチームを募る。 期間は、明後日まで。 参加の資格は、第一に4人以上のチームである事。 第二に、魔法を扱える者が一人以上居る事。 第三、過去に報酬の取り合い等で重大な諍いを起こした事が無い者。 この三点を踏まえた上で、偽名など使わず申し出て欲しい」
すると、屯組みの一人から。
「報酬も教えて貰えないのかよ」
と。
主は、セイルやクラークをチラっと見てから。
「基本的には、調査依頼だ。 報酬は、参加するチームによりけりに成る。 最低は、参加の300シフォン。 最高は、10000シフォンぐらいに成る。 だが、此方からも報酬の上乗せの代わりに、浮上し始めたイガルノスタルジムへの調査・・。 この参加を約束すると付けてもいい。 俺が頷けるだけの調査内容なら、あの正体不明な島に行けるって訳だ」
すると。
「うっひょ~~~っ、こりゃ~参加するしかないね」
「凄いっ、凄いかも~」
「おいっ、誰か魔法を扱えるヤツっ、俺のチームに来ないか。 人数は足りてるんだ、魔法を遣えるヤツさえ居ればいい」
「俺たちは、当て嵌まってるよな」
「うんうん」
2・3十人の冒険者達が、急に色めき立った。 急にザワつくフロアで、主はその賑わいを制しようともしない。 ここに集まった冒険者達が、息づいている。 主も冒険者だった為に、それを理解しているのだ。
チームにロザリーを加えた手前ながら、仲間の前でユリアはセイルに近寄って。
「おいおい、マジで参加するの?」
と、耳打ちに云ってみるのだが・・、セイルは物凄く苦々しい笑みを浮かべていて。
「う゛・・うぅん」
と、だけ。
「?」
何故にそんな顔をするのかと、ユリアを含めた4人は不可解に成る。
イーサーのチームと、セイルのチームは顔パスで参加可能と成ったのだが。 イーサー達は即座に参加を決めたのに対し、セイルは一日だけ考えると云った。
どうも、騎龍です^^
台風だ、梅雨だ、ジメジメムシムシの時期が来ましたね。 基本的に暑いのが苦手な自分は、秋まで冷たい場所で暮していたい所です^^;
さて、間を貰いましたが更新です。 今月中に、後二回は更新したいと思ってます・・。
多分・・。
ご愛読、有難うございました^人^