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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
171/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4

             セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部



                 ≪濃霧の中での激闘≫




「ブッ潰すゼぇっ!!!」


鉄槌を振り回す大男スタンストンは、ドッと現れたスケルトン数体を薙ぎ払って蹴散らす。 乾いた破壊音を上げ、スケルトンが次々と壊された。


しかし、視界の悪い濃霧の中で・・。


「・・・」


スタンストンにボロ剣を振り込もうとしたスケルトンの腕を、静かに捕まえているアンソニーが居る。 鉄槌がスケルトンを砕くと、アンソニーはロザリーに飛び掛ろうとしたスケルトンの肩の骨を掴む。


「このぉっ!!!!」


頭蓋骨を一撃で砕こうと剣を振り下ろすロザリーは、その助けが在った事すら解って居なかった。


アンソニーとしては、もう直ぐそこに迫るビーストの群れを叩く為に、このスケルトンの集まりを早く潰したかった。 アンソニーが一人で、戦う5人の冒険者に向かうスケルトンを見るのは難しい処。 だが、その補助の様に為っているのがユリアで。 闇の魔法を上手に遣い、前に出ずして戦いに参加していた。


皆にその戦いが見えて居無いが、こうなると一番大変なのがセイルとクラークの相手するエヴィーダ=テムハデスだろう。 このモンスターは、“ハデス”と云う冥界の悪神の名前が付けられるだけ在り、恨み辛みで生まれるモンスターでは無かった。 死んだ者が魔法を遣え、非常に偏執的な悪意の塊で在る時。 その周囲に骨を巻く事で生み出される高位のモンスターなのだ。 つまり、亡霊やゾンビと云った放置されていても生まれる様な存在では無く。 何らかの干渉や故意により、意図的に生まれる傾向のモンスターと云う事に成る。


―オノレェェ・・、コノガキガァッ!!!!―


セイルの背丈と比べれば、顔までの高さが4倍近いエヴィーダ=テムハデスと云うモンスターは、人型の大柄な骨を支え切る3対6足の骨の足を遣ってセイルを攻める。 足から腰までの高さだけでセイルを超えるのだ。 骨の足を高く持ち上げ踏み潰せるなら、セイルなど一溜りもないだろう。


だが、そこにクラークが攻め込み。


「相手は一人では無いぞっ、そらぁぁぁぁっ!!!」


上げた足を長い槍で突き上げ、バランスを崩しに掛かった。


此処で、セイルも隙を見逃さない。 エヴィーダの上げた前の左足とは逆の、右前足に走り。 やや曲がり気味の膝に飛び乗ると、其処を踏み台にして更に高く飛び上がる。


(うわっ、顔までギリギリ・・)


急所と思われる顔を斬ろうとしたセイルは、顔に目掛けて剣を振るった。 が、濃霧の所為か、その飛び上がりが拳一つ足らないまま、腐乱した顔の鼻先だけを斬ったに過ぎなかった。


―ヌ゛ゥ―


セイルを踏み潰すどころか、クラークに上げた足の裏を鋭く突かれてグラリとバランスを乱したエヴィーダ。 其処に、急にセイルが飛び上がって来て斬られたのだ。 鼻先の腐乱した肉を斬られただけだが、顔にまで攻撃が来るとは思って居なかったのか。


―ウグゥ・・、コシャクナ・・-


降りてゆくセイルを捕まえようと、片手を動かすのだった。


その反応を察したセイルは、強く剣で骨の手を打ち払い。 その反動を利用して、後ろに宙返りしてクラークの間近へと着地。 剣士として申し分ない身体能力を見せた。


「セイル殿っ、成果は成らずか?」


「はい、思ったより高い位置に頭が・・」


クラークが前に戦った相手は、顔まで完全に骨だった。 しかも、まだモンスターに成って間もないエヴィーダを相手したので、仲間4人と協力した事も在って対処は楽だった。 腹の骨に包まれた核と成る暗黒のエネルギーを突き破れば良かったのだ。


(うむむ、セイル殿の跳躍でも届かないとな) 


力や推進力などには自慢が在るクラークでも、槍も届かない場所の急所を攻めるにはコツが必要に成る。 基本的な攻め手も限られるので、戦い方が難しい。


―クソッ、ミョウニスバヤイヤツメッ!!―


エヴィーダは、一気に決着を狙おうと魔法に頼ろうとする。 だが、魔法を唱えさせない行動に入るセイルとクラークは、一点攻めの如く前足を攻め立て詠唱を成立させない。 魔法に因る作用で硬化した骨は、軽々しく切断出来る物では無かったが。 至近戦に於いて反応の鈍いエヴィーダは、セイルとクラークを相手に有利とも云えなかった。


そして、エヴィーダの周囲に従い寄って集まっていたゴーストは、獲物を求める様に周囲に四散して行く訳だが。 セイルとクラークの下に降りた数体は、邪魔をする手数にすら成らず。 支配者のエヴィーダを攻める合間に素早く斬られたり、突かれたりして消滅してしまう。 ロザリーやイーサー達が居る方に降りてきたゴーストは、エヴィーダより強い暗黒の波動を秘めたアンソニーの存在に戸惑う様な素振りで間誤付く始末。 存在に気付いて驚く皆が、勢いで倒しに掛かり消滅と成る。


只、問題はユリアと船に向かったゴースト。


ユリアがゴーストの気配に気付き。


「あいや~、ゴーストが二・三来ちゃったぁ~」


闇玉は、肩でコロコロと左右に転がりながら。


「ユリアもステッキに聖水塗ってガンバレよ~。 動きはケンセーしてやるゼ」


シェイドも、困った顔ながら。


「そぉ~だねぇ~。 ドーセ、セイルや他の皆も助けに来れないしぃ~。 少しはユリアもウンドーした方がいいかも」


聞いたユリアは、ビーストが追いついて来た気配も感じている手前、それが最善かと思い。


「はぁ~、結構疲れてるんだけどなぁ~。 みんな忙しいから、それしかないかぁ~」


イーサーやアリスなどが聖水を使い切った薬瓶が後ろに転がっている。 ロザリーの置いて行った瓶も在るので、仕方なしにステッキへ聖水を掛けて見る事にした。


さて。 ゴーストの半分は、人の多い船に向かった。 船の甲板では、ボワァ~っと恨めしいさ故に顔を歪めて寄って来るゴーストが現れた事で・・。


「うわぁ~~~~っ!!!! でぇぇぇぇぇぇぇたぁーーーーーーーっ!!!」


おどおどしながら甲板を見回っていた船員の一人は、脇に青白く光るゴーストの存在を見て驚き慌てる。


しかし、肝も据わっている船員も多い。


「何処だっ?!」


「応援に行くゼっ!!!」


「モンスターが来たぞっ!!!! 船長が帰るまで、気合いれて迎え撃てぇぇ!!!」


「おっしゃぁーーっ!!!」


20人近い船員達は、各々声を出して戦いに入った。


船にゴーストが向かったのには、一番人が多く居るからだ。 生きる魂を怨み呪う思考のゴーストにしてみれば、操る主に命じられれば人の多い所に惹かれて行くのかも知れない。 


そして、ルメイルやジタンが脅える広間には、既に客が集められていた。 ファイラポンがした事で、彼とロザリーの姪に当る魔法遣いの女性が護りについている。 他の船内守備を任された船員は、見回りに動いていた。


ゴーストが来た事を告げる様に、船員が一気に騒ぎ出せば・・。


「おかぁさん・・こわいよ」


移住をするべく旅をしている家族も子供が、少しやつれた顔色の母親にしがみ付く。


「大丈夫だ・・、冒険者がまだたたかってる」


みすぼらしい衣服を着たのっぽの父親が、家族3人を抱いて小声に云う。


不安に縋るものも無い貧困層の客は、広げられた中央に寄り集まっていた。


が。


広間の天井には、シャンデリアに珍しく一杯の蝋燭が差してあり。 壁のランプも制限を解かれた火で、広間は昼間の様に明るい。 その中で、水瓶から水を汲んでテーブルに座る者は、やや富裕層や旅人、吟遊詩人などで・・。


「おいっ、モンスターがきっ来たらしいぞっ?!」


裕福そうな太った男が、剣を既に抜いているファイラポンに怒鳴る。


この脅えた怒鳴り声に反応して、移住目的で乗船した別の家族が覚悟を決める様に親子で抱き合う。


処が、凝らした目を崩さないファイラポンは、


「来ただけだ。 此処に入っても、私と彼女が護る」


と、だけ。


事態がいよいよ緊迫の最高潮に成った事は、甲板で在る広間の周りで戦う船員達の声が聴こえて来るし、忙しく走る足音もするので解る・・。


その内、けたたましい音を立てて広間の窓ガラスが割れた。


「わぁっ!!」


「キャァーーーーーっ!」


3姉妹とその父親だけと云う旅人が、割れた窓ガラスの音に驚いて声を出す。


―ア・・・・アワワワ・・・―


割れた窓ガラスの所で、聖水の力で清められた剣で斬られたゴーストがまた1体消滅する。


「すいやせんっ、モンスターは倒しました」


ガラスを割った船員が、割れた所から声だけをよこす。


ファイラポンは、その方を見て。


「構うな、戦いに集中しろ。 終わるまで、絶対に気を抜くな」


「へい」


ファイラポンはその声を聞いて、黙ったままに前を見る。


(ゴースト如きだが、この霧の中ではもう乱戦状態だろうな。 ・・ロザリーは無事だろうか。 思えば、私の一存からロザリーを船長に担ぎ過ぎたのが原因なのだな。 ロザリーの才を、少しでも遅く伸ばそうとした我儘が、今に反発と云う形で・・)


心配の全ては、ロザリーとこの船だ。 こんな事態に巻き込まれるとは、出港時には思いもしなかったファイラポンだが。 ロザリーと自分の確執が表面化するのは、何れ・・処ではなかった。


ファイラポンが船長に成りたいと思っても、一族の誰もが船を継がせなかったのは事実だ。 一人で炙れたファイラポンに、ロザリーの船の航海士と成る様に頼んできたのは、他ならないロザリーの父親だった。 船に乗ったファイラポンは、船長としての風格が在るロザリーと、逆に備わりきらない自分の存在に悩んだのは事実。 その中で、お飾り船長の様な形にロザリーを置き、船を仕切る事を出来た事で調子に乗ってしまった。 何時かは、ロザリーに舵取りを委ね、自分は裏方に徹するのだと仮初めの覚悟を抱きながらズルズルと・・。


ロザリーの行動力は、ファイラポンも知っている。 本気で決めた事を、彼女が覆さぬ事も知っている。 ロザリーが船を降りたならば、彼女を慕う船員が殆どだ。 ファイラポンが船を降りるまで、この船の船乗りとして居付く者は何人だろうか。


(嗚呼、もう予想も出来ない方向に私は迷って行くのか? 少しだけ、もう少しだけ船を動かしたいだけなんだ・・。 船長でもなくていい、ロザリーが老いるまで後何年在るだろうか・・。 それに比べて、もう50を過ぎた私は、何年・・・)


海族として生まれたファイラポンだ。 船を持ち、船を操り、そして船で生きている時で、人生の時間を埋める事が人生そのものだと思える。 何故、ロザリーが選ばれたのか。 何故、自分ではダメだったのか。 その悩む過程で思いついたのは、ロザリーが30を過ぎるまで自分が船を動かす事。 少しでも長く、舵を独占したかった。


ファイラポンとて、生来の付き合いでロザリーの性格は知っている。 この切欠すら無ければ別だろうが、一度本気で言い出した事は梃子でも曲げない。


“船を降りる。 冒険者に成る”


言ったからには、ロザリーはそうするだろう。


ファイラポンの内心は、もうちぢと乱れ始めていた。 何故なら・・。 この事態を一族に知れた場合を考えると、それが良く解る。 船を降りたロザリーに責任が無いとは言えないだろうが、先に原因を作ったのがどちらかと言えばファイラポンだ。 更に、掟に背いたのも同様。 最終的に質問攻めに遭うのは、ロザリーと同等に成ろうとしたファイラポンに向く。


今までの経緯を思い返して見ても、ファイラポンに舵を貸す様ロザリーは言った。 が、航海士としてのファイラポンを、ロザリーが蔑ろにした事は無く。 また、ロザリーの判断で致命的な判断ミスは無い。 船員の心情を考慮しても、ファイラポンに非が来るのは仕方ない。


ゴーストと戦う船員の声、足音が、考えるファイラポンの耳に障らなく成った。



その頃。 島では・・。



「リロビナさんの前っ、お腹に黒いの在るよっ!!!」


ユリアの声を濃霧の中で聞くリロビナは、即座にビーストへと踊りかかった。


「ユリアっ、コイツは何処だっけぇ?!」


嬌声に近い声で、アリスはビーストの牙をチェーンで防ぎながら聞き返す。


最後のゴーストをステッキで地面にねじ伏せるユリアは、


「お尻っ、尻尾の付け根っ!」


と、叫んだ。


ビーストの群れが来た事で、アンソニーとイーサーとスタンストンが前に・・前にと戦い進める。 リロビナとアリスは、ユリアや船にビーストを行かせない障壁と成っていた。 アンソニーから二人の前に向かうビーストの弱点が教えられるが、もう戦いに必死な二人は覚え切れる訳も無い。 だから、結局はユリアに聞く事に成り。 ゴーストを必要以上に叩いてやっと消滅させるユリアは、二束の靴を履く忙しさである。


一方、前に出る男性3人も目まぐるしい戦いを強いられていた。 素早い動きのビーストを相手にしていると、林の方に潜む魔樹までが遣ってきた。 弱点以外の身体が硬い魔樹だ、スタンストンの様な大雑把の戦い方では苦労する。 イーサーとアンソニーが、如何に引っ繰り返せる様な指示を与えるかで、その進歩が大きく違うのだ。


「スタンストンっ、無駄に幹を打つな。 根っ子辺りから振り上げろっ!!」


「そうだ。 弱点は、幹の裏の内に在る」


二人のアドバイスに、濃霧の中で焦っていたスタンストンが手助けを受けた気持ちに成り。


「解った。 んじゃ、やって見る」


スタンストンが性格的に器用では無いのは、イーサーもアンソニーも解って居た。 魔樹に気を向かわす彼の代わりに、二人が数匹の数を保ち続けるビーストを受け持つ事に成る。


そして、スタンストンが何度も鉄槌を打ち付け、漸く魔樹を引っ繰り返す事に成功すると。


「スタンストンっ、でかした! 根っ子を斬るから、ビーストの牽制を頼むっ!!」


と、イーサーが止めを刺しに向かう。


「あ・・、嗚呼っ」


少し魯鈍なスタンストンは、慌ててビーストを探しに向かう。


しかし。


この男性3人に然り、リロビナとアリスに然り、流石に戦いの中で仲間同士の姿が確認できる間合いを理解していた。


これに代わって、仲間と云う概念に偏りの在るロザリーは、周りまでが見えていなかった。 4匹目のビーストと戦う中で、疲労が身体を支配し始めた御蔭で動きが重々しくなっていた。 攻撃をかわすと言うより、逃げ惑う様な形で揉み合う様な戦いをしていた。


そして、遂には喰らい付きを受け、剣で防ぎながらも倒れてしまう。


(やばいっ)


軽いプロテクターぐらいしかしていないロザリーだ。 鋭い牙で噛まれたら、身体でも腕でも大怪我をするだろう。 剣を持つ腕も押さえられたら、もう殺されるしかしない。


それをオーラの感覚で感じたユリアは、ロザリーの近くにセイルとクラークの気配を感じていたので。


「ロザリーさんが危ないよっ!!!!」


と・・。


そして、その声に反応するが如く。


「フンっ」


鋭い突き込みを繰り出すクラークの槍が、ロザリーに圧し掛かったビーストを串刺しにして引き離す。 そして、そのビーストに走り寄った影が、弱点の核が在る喉元を斬った。


セイルとクラークが、なぜか応援に戻って来た。


「セイル殿、お先に」


「はい。 ロザリーさんを下がらせて、僕も向かいます」


その声のやり取りは、確かにセイルとクラークだった。 何故、この二人が・・。


息が上がって疲労で身体が重たいロザリーは、セイルに起こされながら。


「どうして・・、来れた?」


ロザリーの肩を担ぐセイルで。


「細かい話は後ですが、あの大きいモンスターが逃げました」


「・・そ、そうか」


船が壊される危険が薄らいだと解ったロザリーは、力が抜けそうに成る。


「セイルっ、ロザリーさんは無事?」


ユリアの声がして。


「うん。 なんとか無事みたい」


と、返すセイルだ。


そして、真っ先に女性二人の応援に向かったクラークは、二人の相手するビースト3匹を突進からの圧倒的な薙ぎ払いで蹴散らし。


「弱点が解っているなら、早々に止めを。 このまま私は前に赴く」


と、走って行く。


霧に霞む間合いで聞いたリロビナとアリスは、そろそろ聖水の効果が消える頃だと止めを急いだ。


ユリアの元にロザリーを置いたセイルと。 ビーストに止めを刺し、後ろに引いたリロビナとアリスが入れ替わり。 ビーストの群れを蹴散らす手が増え、この戦いは決着が付いた。




                       ★



戦いを終えた一同が、船に戻った。


船の広間にて、ファイラポンが船員達に見張りの交代や非常時の確認を行う。


その光景の真横では、疲労と傷で動けなくなっていたロザリーが、正気に戻ったルメイルの手当てを受けていた。 スタンストンやイーサーは、噛まれた傷跡から血が出ていたし。 リロビナも頬や腕に傷を負っていた。


「はぁ~~~」


大きく溜め息をするセイルも、顔は泥を受け。 衣服に裂かれた部分を見せる。


アンソニーは、エヴィーダとの戦いの決着を問うた。


「セイル君、クラーク殿。 あの怪物は、どうなった?」


クラークは、セイルが疲れ切っているのを見て。


「セイル殿の機転で、骨の身体のバランスを崩そうと思い、足の一本を集中的に攻撃したのだ。 所が、足の骨一本が折れて攻撃が届きそうに成るやな。 あのモンスターめ、顔だけ切り離して飛んで逃げたのだ」


聞いていた回りの冒険者を含め、アンソニーやユリアも驚き。


「真か?」


「ウソぉ~、キモい」


クラークは、急に崩れた骨の身体の下敷きになり掛けたし。 骨組みの腹部に入り込んでいたセイルは、もう間一髪の間合いで飛び退いた。


様子を語ったクラークに対し、疲れながらも冒険者達は感想を述べる。


しかし、椅子に座って疲れ切ったと云う様子セイルが。


「あのモンスター・・確かに自分の事を“ロイド”って云った・・。 姿を消した海賊の姉弟なら、まだ姉の方もモンスターとして居るんじゃないかな・・」


同じく聞いたアンソニーも、


「私も聞いたよ。 船長の言う海賊なら、あのモンスターの魔力から云っても、不死モンスターにするのは訳無い作業だね。 人は、死しても思念が残るなら、自分の求むるモノは傍に置きたがる。 姉の方がどんな形かは別にして、モンスターとして居たとしても不思議は無いかも知れない」


と。


全身の全てが疲れ切ったと云う感じで、木の椅子に凭れ掛かるロザリーだが。


「・・恐らく、全てを倒さねば・・船も逃げれぬな。 とにかく、今夜は・・休もう」


ロザリーの様子からして、これ以上起きている事すら難しいだろう。 ルメイルの仲間も、アリスとリロビナの疲労は激しく、精神的に参ってしまったルメイルも休ませる必要が在る。 話し合いに必要な力が失せていた。


そして、それはセイル達も同じ、流石に朝から戦いの連続で疲労が無いなど強気でも言えない。 話し合いは明日と云う事にして、一同は部屋に帰る事にした。


処で。


「セイル、足元がフラついているみたいだけど・・。 クラークさん、セイルど~したの?」


ユリアは、クラークにそう言う。 部屋に帰ろうとするセイルの身体が、妙にユラユラと揺れているのだ。


クラークは、セイルを見ながら。


「実は・・」


エヴィーダと戦うセイルは、硬過ぎる骨に在る攻撃をした。 剣の刃を傷めない様にと、斬り込むその一瞬だけ、魔法の力を使ったのだ。 その甲斐有ってか、二十回程度の攻撃で見事に太い骨が砕けた。 一点攻撃をし始めた時のクラークの見立てでは、それこそ二人で百ぐらいの攻撃をしても、その骨に皹も入らないのではと思って居たのだが。 セイルの御蔭で、その心配は不要と成ったのだが。


「うわぁ~、魔法って小刻みに強く遣うのがキツイんだよぉ~」


と、ユリア。


「ふむ。 そうゆうものなのか」


「うん。 出し続けるのも大変だけど、剣を当てる一瞬に確実な想像と発動をしなきゃ成らないから、実際は斬った回数の何倍も疲れるハズ。 あちゃ~、明日に起きれるかなぁ~」


ユリアが本当に困った顔をして云うのだ、クラークもそうなのかと飲み込むしかならない。


(魔法と剣の両立は、その様に難しいものなのか・・。 以前のジェノサイダーの頭と渡り合った時も、極度の疲労から数日は昏睡の様になったしの。 ・・これは、明日は戦えるかどうか解らんな)


高々16歳の少年の様なセイルが、そこまで出来るだけでも凄い事なのだが。 クラークは、益々セイルに興味が湧いた。



さて。 その夜の中で・・・・・・・・・。



ヒュー・・、ヒュー・・。


海から吹く風が、突き出た奇岩に開いた洞穴の入り口に吹き込み。 口笛を吹いた様な音を上げる。


その穴の中。 なだらかに下る亀裂が、蛇行や上下を繰り返した先に広がる地中の奥深く。


ズッ・・・、ズズズ・・・。


溜まった空気が淀む真っ暗なその場所で、何かが地面を引き摺る音がする。 向こうでも、此方でも、あっちでも。


「あああ・あぁぁ・・、にくぅ・・。 にくっぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・」


気味の悪い声がして、這いずる何かが何かに当る。


「あぁぁ・・」


呻く様なくぐもった声に。


「にくっ、にくだぁぁぁぁぁぁ~~~~。 あーんっ」


悦びか、乾きを満たす叫びか。 クチャクチャ・・、グチャグチャ・・、ピチャピチャ・・。 何かを食べている様な音が・・・する。


気味の悪い音で、好んで聞きたい音では無い。 だが、逆に何が起こっているのか解らず、確認はしたくなる。


其処へ。 紅い炎を従えた何かが浮遊して通る。 度々ガクンと落ちそうに成るのは、その何かが弱っているからだろうか。


そして・・、その紅い炎が音のした辺りを通った一瞬。


「・・」


顔の片側が白骨化し、残った肉が腐敗しながらこびり付いているだけの人の顔が在った。 残った片目が、ドロっと頬に解け落ちている。 明らかに不死モンスターだろうか。 そして、その不死モンスターが喰らって居たのは・・・、別のモンスターの内臓である。


弱った様子で飛行するのは、セイルとクラークを相手に戦ったエヴィーダの顔だった。


―ハァ、ハァ、ハァ・・。 モウスコシ・・モウスコシダァァ・・・―


何がもう少しなのかは解らないが。 何処かを目指しているのは明らかだった・・。


腐乱した亡者の顔をしたこのモンスターが、必死で飛び込んだのは・・。 開けた何処かの奥に在る、赤い色をした湯気を放つ穴だった。 


ピンク色の濃い、丸で新鮮な肉の様な床や壁をする場所に落ちた顔は、


―ネェサン・・、ヒルデネエサン―


口を動かしながら、誰かを呼ぶのである。


すると・・。


「ロイド? ロイドなの?」


その穴の一部に在る、薄い光を通す膜の向こう側から、美しい女性の声がする。 20代・・、10代とも聴こえる若い声だった。


―ネェサン・・ハヤク・・。 オレガキエルマエニ・・マリョクヲ・・―


“ロイド”と名を呼ばれた腐った顔は、必死に膜の向こう側に居る女性を呼んだ。


そして・・、薄い膜が左右に分かれ開くと。


「・・ロイド、何が有ったの?」


と、膜の裂け目から白い肌をした素足が現れたではないか。 そして、白い肌をした手が壁を伝い・・、遂には・・魅惑的な肉感をした若い裸体の女性が出る。 怪しく金色に光る瞳、鮮やかで恐ろしさすら感じる紅い髪、あどけなさが滲む若々しい10代半ばの様な肌艶ながら・・。 その肉体の成熟さは、大人びている。 しかも・・、背中には大型の蝙蝠の羽が・・。


女性は、滑る地面に落ちた顔を見るなり。


「まぁっ、ロイド・・。 嗚呼、私の可愛いロイドや。 顔だけになって、どうしたの?」


と、その元に歩み寄って行く。


顔だけとなったモンスターは、零れ落ちた右眼球を残しながら横に向き。


―ネェサン・・、ツヨイボウケンシャガキタ。 オソレテイタコトガ・・ゲンジツニナッタヨォォォ―


泣き言を言うその腐った顔を、何とそのうら若い裸体の美少女は手に取り。 そして・・、抱き締める。


「何と・・、そう。 でも、どうしてお前がこんなに弱っているの?」


胸にモンスターを抱き竦む美少女が問うと・・。


―ネェサンヲマモルタメニ・・、イッパイノモンスターヲショウカンシタヨ・・。 ボクノタイセツナネェサンヲ、・・アンナヤツラニ・・ヤラセナイ―


そう言う醜きモンスターの顔を、丸で恋人を見るかの様に顔を見つめる美少女で。


「お前・・私を護る為に魔力を遣い過ぎたのね?」


と、顔を近付ける。


―アァ・・。 ネェサン・・モウマモナク・・・・ボクハ、シヌ。 ソノマエニ・・ボクノマリョクヲ・・・・スッテ。 モウ・・ダメダァ―


その話をうんうんと聞いた美少女は、モンスターの顔だけとなったモノを抱き抱えながら歩き出し。


「馬鹿ねぇ・・、可愛い弟を殺せる訳無いじゃない。 さ、助けてあげるわ。 姉さんの傍に居れば、安心よ。 ロイド、うんと可愛がってあげるわ。 大好きでしょ? ・・私の胸の中」


開いた膜の中へと戻る美少女。 何故か自然と膜がまた閉じ、女性とモンスターは隠れた。


「ロイド・・私の可愛いロイド・・。 一つに成りましょう。 生きていた時も、変わってしまった後も、私を快楽と悦びで満たせるのは・・お前だけよ」


―アァ・・アアア・・・・・。 ネェサン・・・―


膜の向こうでシルエットとなった美少女は、そのまま床へと横たわって行くのであった・・。

どうも、騎龍です^^


お久しぶりの更新です。 また、支障が起きない限りは更新して行きたいと思います。


ご愛読、有難うございます^人^



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