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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
170/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4

                セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部



                   ≪この島、最悪につき≫



座る部分が紅い生地で出来たデザイン性の在るソファーに、女性の下着が幾つも落ちている。 部屋の主であるロザリーは、その下着を拾い集め。


「少し散らかっているが、気兼ねなく座ってくれ」


と、云ったのだが。


ドアの前で、先頭に立っているセイルが顔を赤くして苦笑いしている。


ユリアは、


(スゴい下着ぃ~、スケスケのも有ったぞぉ~)


と、セイルに耳打ちをする。


何でかセイルが顔を更に赤らめ、ユリアが興奮気味なのか・・。


だが、フサフサしたカーペットの上に置かれたソファーに座った一同は、大型の椅子にドッカリ座ったロザリーと見合うと。


「では、セイル君」


一瞬で真面目に為り、アンソニーが話へと誘う。


「あ、はい。 あのですね・・」


実はセイル、あの船の残骸が転がる場所から、不思議な布切れを持ち帰っていた。 刺繍をした厚手の布らしいものだが、もう擦り切れてボロボロのものである。 色落ちもしていたし糸も解れて、パッと見て布と云う以外に判別は出来ないものなのだが・・。


一緒に見回ったロザリーだが、薄暗い中で気付かなかったから。


「何も云わずに持ち帰っていたのか?」


微笑むセイルは、頷くと。


「と、云いいますか。 布の色も落ちていて、見るだけでは判断が難しい物だったんですよ。 だから、どんな模様が描かれていた、大体の形だけでもハッキリさせられたらなぁ~って思ったんです」


と、言い訳する。


だが、ロザリーは云って貰えない処に少し不満を持ちながら。


「んで?」


「はい。 水を貰って、紙に模様を写し出そうと思ったんですが。 船員のお爺さんに、何をするのかと聞かれまして。 その方の目の前で写し出しをした訳です」


セイルの行為に立ち会った老人の船員は、朴訥としたやや無口の人物だ。 名前はグレローマンと云い、ロザリーの父親の時から船員として乗っていた人物で。 まだ船長に成り立てのロザリーが、取り分けて頼った船員だった。 経験の豊富さは、叔父のファイラポンに負けず。 彼がその気なら、叔父に代わって航海士を任せても良いほどなのだ。 しかも、手下の船員を厳しくも、またしっかりと束ねる現場監督の様な信頼が有り。 76歳と云う高齢でなければ、船員達はファイラポンよりグレローマンを航海士にしたらどうかと推薦するだろう。 この事は、ロザリーも、ファイラポンも承知している事である。 


また。


“ロザリー様が船を降りるなら、私も降りよう。 また、ロザリー様が船に乗り、私を遣いたいと云うのなら、私は死ぬまで船に乗る”


と、昼間に云ったとか。


このグレローマンと、ロザリーの父親の間に何が有ったかは知らないが。 グレローマンのロザリーに対する臣下の礼節や忠誠心は、並々ならぬものが有った。


さて。


セイルが紙の下に襤褸切れと成った布の様な物を置いて、切れた部分を合わせて形を作った。 すると、それは旗の様な四角に為る。 グレローマンが見ていて、セイルにコレは旗ではないかと聞いたのが大きなヒントだった。


グレローマンの経験や知識については、誰よりも知っているロザリーだ。


「旗・・、彼が云うなら間違いない。 彼の船に対する知識や経験は、他にそう並べる相手が居無いほどだ。 船の残骸からしても、旗なら有って当然のものだしな」


と、納得する。


さて、セイルはその形作った布の上に紙を置き、口に含んだ水を吹きかけた。 当然、布の出っ張った刺繍の名残が薄っすらと浮き出て、ランプの灯りの当て具合いを調節しながらセイルはインクを落としてゆく。 その作業を見ていたグレローマンだが、模様の大枠が解ると驚愕と云った感じの様子を見せた。


“おっ・おいっ、この旗を何処で拾った?!!”


急に問われたセイルは、寧ろ驚いたままに答える。


すると・・。


“バカなっ。 この旗は、姿を消した海賊ロイド=ヒルデの物じゃ・・。 あの凶悪な海賊の旗が、此処に在るとな? あぁ・・ああぁ・・、これは由々しき事態じゃっ”


と、グレローマンは脅え出した。


此処まで聞いたロザリーは、船の持ち主が解った事は認める。


「そうか・・。 グレローマンは、新旧の海賊や軍船に対する知識にも深く精通している。 彼がそう言うなら、それに間違いは在るまい」


クラークも、その海賊の名前は聞いた事が在って。


「ふむぅ、確か極悪な海賊だったと有名な一団だったな。 余りにも悪名高過ぎて、海賊が住む諸島から追い出されたとか・・」


と、思い出しながら口にすると。


「それは、噂だ。 現実には、もっと酷い」


ロザリーが反論する。


「間違いか?」


「あぁ。 海賊ロイド=ヒルデは、姉のヒルデと、弟ロイドが船長・副船長をしていた大海賊だ。 手下総員は、実に300人を超えていたと云われる。 姉のヒルデは、美男・美女を問わずに幼子好みで、血を見るのが何よりも好きな美女だったとか。 それと代わり、弟のロイドは醜悪な顔の小男で、自分の醜さを僻んでいてな。 顔の良い男は、顔を必ず潰して殺し。 女と見るや、異常な性癖を持って汚す」


ユリアやクラークの顔が、その嫌な話に曇り出す。


「怖いなぁ・・」


と、ユリアが呟けば。


「ほんに、狂っておるの」


と、眉を顰めたクラーク。


だが、ロザリーの話は続き。


「それ以上に、ヒルデとロイドの兄弟愛が尋常では無い。 姉は姉で、醜いが強力な魔力を持つ弟を異常に可哀想がって、その愛情が逸脱してか自分の肉体をも好きにさせていたらしいし。 更にその醜く見てくれが悪い弟だが、此方もまた姉を偏愛して護ろうとする意欲が異常だったとか」


アンソニーは、偏執的で閉鎖的な貴族の一部にもそうゆう者が居たので。


「ふむ、貴族にもそんな者が居たが・・。 姉弟愛と云うには、正しく異常だな」


「私もそう思う。 だがな、何より始末に悪いのは、弟と云うのが非常に魔力の強い魔法遣いで。 更には、あ~死霊魔法だったか? あれを遣えた様で、襲撃する街や船には先ずモンスターが襲い。 その痛手に慌てている処へ、彼らの一団が襲い掛かって来ると云うのだからな。 姉も剣と魔法を遣える逸材だったらしく、襲われる街は決まって地方。 他の都市や首都の本隊を頼みに出来難いのだから、街を護る軍隊などが脅えるのも無理は無いさ」


聞いていたユリアは、身の毛も弥立つ様な話に。


「なんつ~悪い人達。 変態が悪者って、マジ怖い」


クラークは、真偽を確かめたく。


「して、あの海賊の支配する島を何で彼らは離れたんだ?」


「うん。 簡単に云えば、悪さが過ぎたんだ。 被害も大きいし、魔法でモンスターを残して行く事も在る極悪人。 北の大陸と東の大陸の国家間で討伐すると云う決定がなされ、その討伐の仕事に強い冒険者の参加を呼び掛ける事に為ったのだ。 事が大事に成って、海賊の間でも掟に従わない姉弟を疎ましく思って居たから。 内通と云う手引きで姉弟の率いる海賊を始末させる代わりに、海賊達には手を出さないという確約が連合水軍と海賊王達の間で交わされたらしい。 結局、テリトリーの島の場所を教えられ、孤立無援と為った姉弟の率いる海賊は海に逃げた。 20を超える船団だったらしいが、最終的には半分以上は海上戦で沈められ。 その後にホーチト王国の沖で最終海上戦が行われ、彼らは渦潮などに飲まれて全滅させられたと為っている。 ま、国の発表した事だから、何処まで本当か解らないが・・・」


其処に、考える仕草のアンソニーが口を挟み。


「残骸と化した船には、砲弾が着弾した様な焦げ目も見られたな・・。 あの残骸の様子は、朽ちた・・と云うよりは、どちらかと言えば壊されたた・・と見える。 国が発表する以上、戦いは在ったし・・、それなりの戦果も在ったのではないか?」


すると、ユリアが。


「でもでもさ~、何でこの島に漂着してるの? それに、乗ってた海賊の残りは?」


一同が考えようとすると、セイルが口を開く。 セイルは、何よりもその極悪な海賊が乗っていた船が、この島に在る事が心配だった。


「僕が心配するのは、その方々の遺体が一つも見当たらない点です。 骨の残骸も見当たらないのは、モンスターに遣られたからでは無いのでは? だとすると、これは厄介ですよ」


この意味が解らないのは、海賊の事を知っていたロザリーだ。


「何故だ? 船があの様に成って、此処はモンスターの島。 つまり、彼らはもう死んでいるのであろう? 然程に心配する事では無いのでは?」


「ロザリーさん、実はですね。 強い魔力を秘めた方がモンスター化に至ると、最初から高位のモンスターに変異する事が在るんです」


「・・何?」


アンソニーも。


「そうだ。 悪意や魔力とは、死んでも消えるとは限らない。 モンスターに転じる要素として、無念や憎しみ以上の作用を齎す。 今に聞いて不安が増した。 船が島に近付く前にモンスターが襲ってきた遣り方は、その悪しき海賊の遣り方と酷似するかも知れぬ」


セイルも、それに強く同意だった。


「アンソニー様、僕の心配がそれです。 その遣り方に当て嵌めると・・、一番危険なのは今夜かと」


「セイル君、その見方は正しいかも知れないよ」


美男と美少年が意見を一つにし、ロザリーは解る様に説明が欲しく。


「おいっ、一体・・」


と、声を出した。


瞬間。


「んっ?」


「あ゛っ!!!!」


「うわぁぁぁ~~~~っ!!!!!!」


アンソニー、セイル、ユリアがそれぞれに反応して島側に向いた。


クラークも、何やら不気味な気配を感じ。


「何だ? 急に寒気がしたが・・」


アンソニーは、切り返す様な身動きでロザリーに半面を向け。


「船長殿、どうやら来たぞ」


「え?」


聞き返すロザリーの手を、ユリアがギュっと握った。


「す・凄いモンスターの気配がするっ。 外っ、島の方から噴出してきたっ!!」


ロザリーは、全身に血が駆け巡った。 モンスターの襲撃が始まると解ったのである。




                      ★




操舵室デッキに飛び込んだロザリーは、一人で詰めるファイラポンにモンスターの襲来を叫んだ。


「叔父上っ、モンスターが襲ってくるぞっ。 総員に防御態勢を指示してくれっ!!!」


叔父と姪のやり取りが始まる最中、セイル達は広間まで急いで戻った。 其処では、もう感じるモンスターのオーラに恐怖し、泣き啜るルメイルが居て。 テーブルの下には、戦う気力を無くした魔法遣いのタジルとビジュニスが泣き喚いて震えている。


セイル達が現れた事に気付いたイーサーが。


「おいっ、一体どうゆう事だぁ? モンスターが来るって、この三人がもう・・」


疲れも残るセイルやクラークだが、そんな事は構ってられない。


セイルは、脅えてしまった者はそのままでいいと思い。


「その通りですっ! もう船の近くに近付きそうですよ。 船を破損させず、犠牲者を出さない為にも、外で迎え撃たないといけませんっ!!」


すると、泣くルメイルが仲間のアリスにしがみ付き。


「わわわ・・わたしのへやっ・・せっ・せせせせせ・・せいすっ」


口がガクガクと震えるルメイルは、ハッキリと言葉を言えない。 だが、アリスの代わりに、リロビナが彼女の意思に気付く。


「そうか、聖水・・。 武器に掛ければ、一時的に不死モンスターも斬れる」


イーサーは、スタンストンを見て。


「俺達の分も有るか? もう、身体は大丈夫だ」


スタンストンも、これは一大事だと険しい顔で頷いた。 戦う意思を見せたのである。


リロビナは、ルメイルの傍らから立ち上がると。


「幾つ在るか解らないが、見つけた分から必要なだけ持って行く」


と、イーサーに。


セイル達は、もう外の甲板に出ていた。 後を追おうと動き出したイーサーは、


「念の為にと武装しておいて良かった。 この船を護ろう。 助かるには、それしか道は無いからな」


スタンソトンも頷き。


「解ったゼ。 昼間の出遅れを取り戻さないとな、リーダー」


アリスは、蹲っているルメイルに。


「ルメイル、此処で待っててね。 怖いの排除してくるから」


だが、余程に強いモンスターが来ているのか。 もう震える事しか出来ないルメイルは、アリスに抱きつき。


「し・しなっ・・ないでぇ・・。 ダメっ、いやぁぁ」


ルメイルと特別な関係では無いアリスだが、こんなルメイルを見るのが初めてで驚く。


「る・・ルメイル、大丈夫だから・・。 さ、放して」


だが。 事は一刻を争う様相に近付いている。 甲板では、船員達が大慌てで防御に向けて武器をを持ち。 船内の廊下では、客が出て右往左往していた。


そして・・。


「ロザリーっ、ダメよっ!!!!」


「そうだロザリー、君は行くな」


操舵室では、入り口に仁王立ちするファイラポンと、ロザリーとは年上の姪に為る魔法遣いの中年女性が、外に出て戦うと言い張るロザリーを引きとめに掛かっていた。


「ウルサイっ!!!! 一番の戦力であるセイル達が殺されたら、此方は戦う力が殺がれたも同然だっ!!! 戦える者は、全て向かわねばっ!!! 誰も叔父上や姐様に戦えとは云わぬっ!! 私は、冒険者に成るのだっ」


こう勇むロザリーで、ファイラポンに平手打ちされても逆にし返す始末。 説得をするファイラポンに剣を抜いたロザリーは、一撃だけ斬りかかった。 流石に避けたファイラポンで、出口が開けたとロザリーはドアを開け。


「この島は異常ぞっ!! 誰か頼みで道が開けるかっ」


怒声を交えて叔父を睨み目で一瞥し、そのまま広間に出て行く。 広間に飛び出した彼女だが、広間で脅えて動けない魔法遣いの面々を見て。


(これが恐怖に囚われると云うヤツか・・。 生じ魔法が遣えるとは、良し悪しも受諾しなければならないって事か)


構ってられないと甲板に出たロザリー。 甲板を護る為に出ている船員達に声を掛け、今の態勢を見る。 濃霧の影響で、周囲への視界が悪い。 それが精神面にも影響しているのだろう、誰もが余裕の無い顔をしていた。


其処に、昼間に上陸のお供をした背の少し低い船員が来て。


「キャプテン、言われた通りに黒い樽を持ち出しやしたが・・」


ロザリーは、操舵室から伝達官で用意を要求した物が出されたと聞き。


「甲板の者共っ、私の声を聞けっ!」


と、声を張った。


ロザリーの声に、甲板の方々に散っていた面々が寄ってくる。


ロザリーは、甲板の縁から見下ろし。 セイル達が戦いの準備をもう整えたと見てから。


(よし、まだ戦う前だ)


と、確認してから、また船員を見て。


「皆、良く聞け。 我が父は言った。 夜のモンスターは、不死のモンスターが多いと。 不死のモンスターは、普通の武器が利かないモノだ。 あの黒い樽は、我が父の教えで積んで在る聖水だ。 出港前に、密かにいつも祈りを捧げて貰っていたものだが、今こそ遣い時。 全員武器を浸し、モンスターに備えよ」


「はいっ、キャプテン!!」


「良いかっ、モンスターには多数で当れ。 一人で先走るな。 この船と客人の安否は、お前達に掛かっている。 一人も死なず、死なせず、生きてコンコース島に行く。 皆よ、此処が踏ん張り時、船を護ってくれいっ!!!」


ロザリーが最後の言葉を檄にすれば、


「おーーーーーーっ!!!!!!!」


と、声を合わせて武器を掲げる船員達。


ロザリーは、剣の柄で樽を叩き開けた。 並々と樽に在る水は、仄かに淡く光っている。 濃霧に含まれる瘴気と反応してだろうか。 その様子は、満月の月光を受けた夜の水面の様で在り、そしてワイン瓶に自分の分を取るロザリー。


「よし、私は下で迎え撃つ。 打ち漏らしたモノは、皆に頼む」


腰にワイン瓶を下げたロザリーは、悪魔の蔦を降りようとする。


すると、船員が。


「キャプテン、どうしても行くんですかい?」


「そうです、今は中に居た方が安全では?」


だが、覚悟を決めたロザリーは、強い目で船員達を見据え。


「無用な心配をするな。 戦えぬ客と船を誰かが護らねば、全滅しかない。 とにかく、叔父と姐様は護れ。 二人が居れば、船は動かせる」


と、いい。 船員が渋々頷くのを見てから、下に降りて行く。


武器を次々と浸し、持ち場に向かう船員達が居る中。 此処で、新入りの若い船員は、ロザリーの降りようとしている島の方を見て。


「あっ、何かが来てる・・。 あれは・・、何だろう?」


と、指を指した。 近くの船員達が、縁に寄ってそれを見たのである。



さて。



島に降り立ち、アンソニーが生み出したフォロー・ソーサリー(追従の秘術)として空中に浮いた光の魔法が、辺りをハッキリと照らしている。 船が横付けした島の海岸は、左手に岩の小山が在り。 右は、そのまま島の海沿いの縁を見渡せる。 そして正面は、林を遠くの風景にした岩肌が剥き出しの荒野に似た開けた場所だった。


セイルは、少し遠くの濃霧の中に、ボワっ・ボワっと浮かび上がる赤黒い炎を見つけ。


「そろそろ来ますよ、目の前です」


迎え撃つ姿勢を見せる冒険者達の中で、先頭に立つのはセイルとクラークとイーサー。


額に緊張からの汗を浮かべるイーサーは、


「ヘッ、身体がビビってる・・。 もしかして、上位のモンスターってか?」


歴戦の兵と云って良い経験の持ち主であるクラークが。


「可能性は在る。 この緊張感は、ザコでは無い」


と、云う。 槍を持つクラークの顔に、普段の様な余裕が無かった。


一方、その三人の後ろには、魔法の光を自在に切り離して浮かべたアンソニーが居て。


「ユリア君、大丈夫かい? 君も魔法を扱える以上、この強い負の魔力を感じる筈だ」


と、ユリアを気遣う。


だが、アリスやリロビナと控えるユリアは、随分と平気な顔をしていて。


「心配要らないわ。 闇の精霊が居る限り、魔や闇の力に脅える事は無いモン」


ユリアの左右の肩に現れているシェイドと闇玉が、ユリアの話しに合わせてポーズを決めた。 精霊の加護を得る彼女は、この事態の中でも元気が見られる。


全く精霊を見れないスタンストンが、アリスに精霊が見えるのかと問おうとした。 その時である。


―オデノシモベヲタオシタヤツハ・・ドコニイル~~~。 ワレラニィィィィィハムカウオオバカハ~、スグソコカァ~?―


不気味な声と云うのか、音と云うのか。 垂れ流された悪意が、微風に乗って運ばれたかの様な囁きがした。


「わっ、いいい・・今のは何だ?」


驚きで、此方の言葉が出たスタンストン。


其処に、ロザリーが降りてきて。


「今の声は何だ?」


と、ユリアやアリスに問う。


だが、何よりも早かったのは。


「来たぁっ!!!」


セイルの一言だった。


―オマエラカァ~・・、オレノタイセツナシモベヲ・・イッパイ・・・イッパイ・・・コワシタノハッ?!!!―


濃霧の中、一同がやや見上げる格好と為る高さに、赤黒い炎がハッキリと見えた。 その不気味な声の主も、セイル達に姿を晒す。


先ず見えたのは、顔が・・。 腐り爛れたゾンビの様な顔が、濃霧の中からニュルリと割って出た。 その顔の高さは、クラークがセイルを肩車した高さよりも高い位置である。


「何っ?! アレは、顔っ?!」


驚くアリスの声が響く中、次に赤黒い炎がその顔の周辺に二つ見えて、その後にガバァーーーーっと骨の身体が現れ出た。


やや見上げたクラークは、険しい顔をそのままに。


「何とっ? エヴィーダ=テムハデスかっ」


全員の眼が、その大男も小男に見える様なモンスターに向いた。


「うわぁぁっ!!!」


「す・スゲェ・・・」


思わず驚いたロザリーと、畏怖を感じて感歎とすらしてしまったイーサー。


一同の前に現れたのは、骨の身体を持った異形のモンスターである。 高い身体の天辺には、腐乱して爛れた人の顔が在り。 その首から下は、無数の骨によって形勢された六肢・一対の足と腕を持った大型モンスターなのだ。 身体の回りには、幾つもの赤黒い炎が浮かび上がり、現れては消えるゴーストも従えている。


ユリアは、そのモンスターの骨組みが人の組み方とは違うのも見て。


「マ・マジ? まさか・・、無数の骨で出来てんの?」


人の骨とは思えない太い骨が、六つの足の元、背骨の元に為っている。 六つの足を以って身体を支える部分は、獣の様な体つきを形成するのだが。 その先からは、垂直に人の身体の様な形を成している。 一体どんなバケモノなのか、想像も付かない異形のモンスターと云って良い。


現れたモンスターは、やや高みからセイル達を見下ろし。


―ミィ~ツケタゾォォォ・・・。 ヒルマニ、ワガシモベヲタオシタヤツラダナァ?―


セイルは、剣を構えながら。


「クラークさん、アレは相当に強いですか?」


モンスターを見て、視線を外さないクラークは・・。


「怨念より、悪意が意思と為って骨にとり憑く魔物よ。 魔法も遣えるし、相当に硬い」


「そうですか・・」


長引く戦いに為ると予想するセイルの耳には、周囲から独特な骨の動く乾いた音も聞こえていた。


「クラークさん、魔法を撃たれては被害が大きいです。 二人で、あのモンスターに集中しませんか?」


「フム。 後ろからどれだけモンスターが来ているか・・。 任せても大丈夫かの?」


すると、腐った人の顔を持つモンスターが、二人を見て。


―ナニヲゴチャゴチャト・・、コノッ、ロイドサマノシモベヲコワシタツミハオモイィィィッ!!!!! バンシニアタイスルノダ、シネェェェ!!!!-


と、骨の長い両手を胸に構える。


セイルは、魔法が来ると解り。


「アンソニー様っ、任せますっ!!!」


と、走り出した。


「あっ、セイル殿っ」


驚くクラークは、完全に出遅れる。


一方、アンソニーは、全身から仄暗い赤紫のオーラを薄く纏いながら。


「闇夜は、我がテリトリーでもある。 濃霧の中が、晴れ渡る様に見えるぞ」


と、左手に手を向け。


「イーサー殿、左手からスケルトンが数体来る」


云われたイーサーは、まだ見えてないので。


「何だって?」


と、問い返した。


この時、モンスターの足元に来たセイルは、思いっきり剣で斬り込んだ。


「させるかぁっ!!!!」


走って来ての勢いをそのままに、鋭い一撃が骨に加えられ。


―イキト・・ノアァァァ―


魔法の詠唱も終わらぬ間に、足元に喰らった一撃で態勢が崩れたモンスター。 合唱させていた手がズレ、黒いエネルギーが現れかけていたのが消滅する。


セイルの動きを見届けたアンソニーは、


「うわっ、本当に来てやがるっ」


と、スケルトンが濃霧から出て来たのを見て驚くイーサーと。


「リーダーっ、加勢するぞぉ~」


こう言って、イーサーの戦う姿勢に同調するスタンストンを見ながら。


「クラーク殿、セイル君への応援に行って構いませんよ。 他の群れは、此方で預かります」


「むぅ!!」


クラークの眼には、素早く動いてエヴィーダ=テムハデスを翻弄しようとするセイルも見えているのだが。 脇目に、6・7匹のスケルトンに囲まれようとするイーサー達も解る。


しかも、強いモンスターの登場に臆しかかったリロビナとアリスが居る。 どう戦えば良いか、今一踏ん切りが付かなかった。


しかし、其処に。 剣を聖水で濡らし、


「立って見ている場合かっ!! 冒険者二人に加勢するっ、わぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」


恐れを振り払う様に、大声を上げてスケルトンに向かうロザリーが居て。 エヴィーダ=テムハデスに見入ってしまった女性二人も、気付いた様に動き出す。


ユリアは、闇の魔法を唱える準備をしながら。


「クラークさんっ、大丈夫だからザコは任せてっ! セイルがヤられたらっ、クラークさんチームから追い出すからねっ!!!」


こうユリアに云われたクラークは、


(うむっ、アンソニー様とユリア殿に任せるか!!)


と、覚悟を決めた。


「セイル殿、参る」


癒し手のルメイルが居無い中で、怪我も命取りに為ると恐れたクラークだったが。 ユリアに怒られては、覚悟も定めるしかない。 イーサーやルメイルの仲間の命を、アンソニーとユリアに託してセイルの応援に向かったのだった。


「さて、私は・・」


状況を見るアンソニーは、ユリアを庇いながらどうしようか思う。 まだ到着していない気配だが、ビーストも来ている様だが。 ゴーストを後ろに回したくない。


だが、唯一の魔法遣いで在るユリアは・・。


「アンソニー様」


「ん?」


「イーサーさんとかの応援に行っていいよ。 私、此処から支援に徹するから、護ってくれなくても大丈夫」


「・・」


ルメイルが此処に居無い事を、ユリアも理解していた。 黙ったアンソニーの心配と、ユリアの戦う皆の心配は同等だろう。 そして、怪我人が出れば戦力は確実に削がれ、窮地に陥って行く訳だ。 ユリアの元にモンスターを遣らなければいいと思えるなら、確実にアンソニーは前に出た方がイイだろう。


アンソニーが何かを口に出す前に。


「闇ちゃん、シェイドちゃんも、魔法いっくよーっ?」


闇の魔法を遣おうとするユリア。 闇のモンスターに、闇の魔法で何が出来ると思う処かも知れない。


処が。


アンソニーの左の脇から、闇の魔法で出来上がった槍の刃先の様な魔法が飛んだ。 アンソニーが注視する中でその魔法は、振り上げられかけたスケルトンのボロ剣に当った。 濃霧の中、最悪は相打ち覚悟と大きな鉄槌を振り上げたスタンストンは、相打つ攻撃を喰らう事なくスケルトンの頭部を破壊して、腰骨辺りまで砕いてしまった。


聖水の効果の御蔭か、スケルトンなど闇の力に支配されたモンスターに武器が当る時、一瞬だけだが淡く白い光が発せられる。 濃霧の中、その光が僅かに彼方此方で見受けられると云う事は、他のロザリーやアリスなどが奮戦している証拠だ。


(当るのを逆手に・・)


アンソニーの見ている中、ユリアは外す事もなく魔法を当てる。 スケルトンの振りあがった剣、踏み込もうとする足、防ぎに遣おうとする腕など、皆がスケルトンを倒し易い様にしている。 この濃霧の中でも正確に当てている様子からして、精霊の二人が見えているのであろう。 ユリアに状況をシンクロさせて見せているか、自分達でユリアの放つ魔法の軌道を修正しているのか・・。 どちらにしろ、ユリアが前に出張る気持ちが無いのは明らかだ。


アンソニーは、皆がスケルトンが戦う場所をラインに考え、助けに入る為に歩き出した。 そろそろ、ビーストとも皆が戦う事に為るからだ。 何度切り抜ける事に為るか解らないが、此処が先ずの正念場だった。 この襲撃を跳ね除けなけれ、先は無い。


明日を迎える為に、戦いが始まった。

どうも、騎龍です^^


予定が狂ってますが、書いた分から掲載します^^;


見直す余裕が少ないので、見苦しい部分が在ったらスイマセン。 GWに向けた余裕が全く無いので、予定なしの掲載でいきます^^;


ご愛読、有難うございます^人^

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