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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
17/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~

                セイルとユリアの大冒険 1






                   ≪古き場所≫





真っ暗な道を行くセイル達。 降る雪が大きく成り、依然として冷たい北風は吹く。 精霊の示す黒い線を頼りに、行ける所まで進んだ。


闇の精霊が教えてくれた道を抜けて、迷路の様な樅の木の並木通路を抜けて行けば。 行き着いた先に見えるのは、城にも似た大邸宅であった。 


その不思議な場所に、雪を払わずして呆然と立ち竦む4人。 まず、この場所は雪が降っていなかったのだ。


空は暗闇の夜。 辺りすら暗闇に包まれた中で。 何故か、枯れた噴水を中心に十字に広がる薔薇に囲まれた道が伸びるのが見えて。 長方形の形をしたどデカイ館の正面も、何故かハッキリ見えている。 白い外壁で、祭壇をイメージさせるレリーフを建物全体で表現する様な印象を持つ。 窓は、1階から4階まで同じ場所に列を見せて並んでいた。


「な・・・何なんだ・・。 此処は・・」


唖然としたマガルが、思わず呟いた。


セイルは、目を細めて緊張する面持ちで。


「この建物・・・正面玄関の上に何処の国の紋章でも無いエンブレムを持ってる・・・。 一体、誰が住んでたんだろう」


ユリアもクラークもそのセイルの話に、赤い大きな石碑が菱形に在り。 何かを画いている建物中央に目を凝らした。 石の柱に支えられた庇が噴水から伸びる道に出っ張る。 その庇の上に立体的に赤い菱形のエンブレムが見えた。


セイルは、前に歩き出した。 丸い噴水を周りながら、雪の積もらない黒い石の通路を踏みしめる。


「白い獅子の両脇に、赤い剣と黒い杖? こんなエンブレムは見た事無い・・。 何処の・・、ううん。 誰のエンブレムだろう」


セイルの独り言。


クラークも、生じ爵位のある家柄の産まれなだけに。


「確かに、見た事無い紋章だ・・。 白い獅子の紋章は、内戦状態の西の国に在ったと思ったが・・・。 それと、この国の屋敷がどう関係するのかも良く解らない・・・」


マガルは、クラークに館を指差して問う。


「クラーク殿。 あの紋章は、西の大陸の国の紋章なのか?」


クラークは、頭を左右に振るい。


「いや・・白い獅子だけに限って言ったまで。 あの様な紋章では無かったと思った・・。 白い獅子は、山岳に住んでいた山の民の信仰対象で、何処の国でも勝手に使えない。 白き獅子は、女神フィリアーナの遣いとも云われるからな」


「そ・そうなのか・・・」


始めて知る事の多いマガルは、何もかもが衝撃だった。


一方で、ユリアは辺りを見ながら。


「でも、此処って雪が降ってないね。 敷地の外側には、吹雪みたいな雪が降ってるのに・・・。 それに、建物全体に丸でモンスターみたいな気配が立ち込めてるよ・・。 魔と闇の力が、渦巻いてるし・・。 此処って・・一体何なんだろう?」


噴水を背にする様に立った4人。


セイルは、エンブレムを斜め上に見上げて。


「何はどうあれ・・、此処は凄く強力な結界の中だよ。 ああ・・、やっぱり」


その話尻に、クラークはセイルを覗き込み。


「何だ?」


セイルは、エンブレムを指差す。


「あの赤い石・・、宝石ですよ・・。 赤い瑪瑙のスカーレットアーシュ(大地の緋色)。 今では、もう極少量しか取れない貴重な宝石です。 あれだけの量が有るなら、金があの100倍は買えますよぉ」


「な・・なぬっ?!!!」


「えええっ?!!!」


クラークとユリアが大声を上げてエンブレムを再度見上げる。 金は、一番価格が安定して高価な鉱物である。 それが、100倍買えるなどとは・・驚きだ。


マガルは、マジマジとエンブレムを見上げては。


「なるほど・・・、今では取れない物を持てる程の権力を有した何者かの屋敷・・と云う事か・・」


その時、セイルとユリアはビクンと後ろを振り返った・・・。


此処は外の結界の中に封印され、中では人を退ける幻惑の結界が施された場所に立つ怪しげな大邸宅。 此処は何なのか、子供達は此処に居るのだろうか。


セイル達一同が封印されし館に着いた頃は、実に夜も深まり出した頃だった・・・。






                 ≪救援は・・・≫





さて、斡旋所に助けられた子供が二人が運び込まれて居た。 斡旋所の主の孫と同じ年の女の子と、5歳過ぎの男の子だ。 木の上に逃げたり、木の虚に隠れたりして森を彷徨いながら逃げ回っていたのだが。 モルカを運ぶカミーラ達を見つけて、声を出したので発見された。


カミーラは、寺院にモルカを運び込み。 金を置いて、斡旋所に急行した。


主は、先ずカミーラの話を聞いた。 その間に僧侶を呼んで怪我だらけの子供達の手当てをし終えてから、代わって子供達の話を聞いた。 やはり、主の孫を含めた5人の子供達は、あの奥の鉄格子を越えたのである。 この二人は、モンスターが間近に近寄ってきた為に。 鉄格子の門を潜れずに、森に戻って逃げ回ったらしい。


「あああ・・・・なんと云う事だ・・。 最悪の方向だ・・」


斡旋所の主は、何かを知っている素振りだ。


「マスターっ!!! クラークや若いセイルとか言うのもそっちに行ったぞっ!!! 合同チームの編成はしないのかいっ?!!!」


カミーラは、疲労も有るのに真剣に主を問い詰める。


「駄目だ・・。 帰って来た冒険者達は、皆が恐怖で棄権した・・。 助けに行かせるだけの実力を兼ね備えるチームが居ない」


カウンター前でカミーラは、仲間のジャガン・ダッカと向き合う。


傷を治して貰ったジャガンは、フードも外して難しい顔をした。


「カミーラ、これは不味いな」


だが、カミーラは諦めた顔はしていない。


「とにかく、今日は休もう。 あのクラークと若い二人はちょっとやそっとでは死なないさ。 明日に成って街を訪れる新手の冒険者や、仕事を終えて戻って来たチームも含めば、合同チームも出来るだろう・・。 合同チームなんてやった事無いが、助けられた恩は返さないと恥になる」


ダッカは、気性が激しく思い込んだら突っ走るリーダーのカミーラの事は理解していた。 下手に反対の意見を言えば、一人でも行きかねない。 今は、まだ冷静な判断をしている様だ。 だから、黙って頷く。


しかしながら、あれだけ子供を救う仕事にやる気を出した各チームの冒険者達だったが。 いざ、モンスターの情報が流れて、森に入ったチームは半分以下。 なんかかんかと理由を付けて辞めたチームが半数以上。 束に成って協力すれば、十分対抗出来そうな人の数だが、死人が2チーム出てビビッたのである。


合同チームは、それ自体が稀な事だが。 それ以上に、統率力を持ったリーダーが必要だ。 でなければ、直ぐにバラけるだろう。 恐らく、クラークがリーダーなら、今日にも結成は可能だったかも知れない。


絶望の顔色をカウンター内で俯かせる主。


2階以上に用意された宿にカミーラ達は向かって行った。


その他、冒険者達らしき者は斡旋所に居ない。 何時もなら、斡旋所は解放されているので、2・3チームが屯して飲んでいる事が多いのに。 今夜は誰もが森のモンスターに怯えて。 尻尾を巻いて逃げたのだ。


セイル達の運命は、どうなるのだろうか・・。


そして、この時。


「クッ、クッ、クッ・・・」


暗い場所の中で、不気味にダブる声が闇の中で上がった。


此処は何処だろう・・。 黴臭く、空気の流れが停滞しているような息苦しさが寒さに解けている。 湿ったボロ煉瓦の敷かれた通路は、黒ずんでネズミが歩いていた。


暗い此処には、錆びた格子の牢屋が幾つも並んでいる。


「ガキが5人か・・・。 丁度いいや・・・、明日の夜には蘇るかな? ヤツの餌に丁度いい・・・。 ケケケケ・・・人間達よ・・・今に見ておれ・・・」


光の届かないこの場所で、牢屋の中に入れられた子供達が気を失って入れられていた。


その子供達を見るのは、真っ黒い何かだ。 真下をネズミが歩いて行く・・。 


此処は? 子供達をどうする気なのだろうか・・。







              ≪闇と魔の支配する館に有る肖像画≫






あの、結界の奥に封印されていた館の庇の下で。 セイル達と対面する形で別のチームが立っている。


「俺は、リーダーのイクシオだ。 よろしくな」


テンガロンハットを被った鞭遣いの学者イクシオは、セイルに右手を差し伸べた。


「“ブレイヴウィング”のリーダーで、セイルです~」


ニコっと笑うセイルは、イクシオの大きな手を握った。


先ほど人の気配を感じたセイルとユリアだったが。 イクシオのチームが後ろから来たのだった。 


イクシオのチーム全員が、セイルの云ったそのチーム名にも、歴戦の冒険者クラークにも驚いた。


エルキュールが、セイルの前に来て。


「凄いチームの名前ね・・・。 しかも、あのクラークさんが居るだなんて」


セイルは、美人のエルキュールを少し見上げて。


(着痩せするタイプだな~・・。 胸・・大きい・・)


と、思いつつ。


「ハイ、チーム名の許可は有りますっ!!!」


と、元気に云う。


ユリアも、イクシオ達一同を見回して。


「マジだかんね。 エルオレウ様の許可は有るんだからねっ」


と。 やはり、斡旋所で結成時に文句を言われたのには抵抗が残ったからだろう。


キーラは、腕組みして頷いているクラークを見てから。


「凄いですね。 その歳で、此処まで来れるだなんて。 十分にそのチーム名で行く資格が有りますよ」


イクシオは、未だに腐らず残る木の重厚な玄関を見て。


「さて、此処はなんだろうな~。 魔法の結界に封じられて、自らを迷路の結界で護る館なんて聞いた事ね~ぜ」


魔術師キーラは、鋭い目を館に向けて。


「禍々しい気配が立ち込めています・・・。 古めかしい館ながら、朽ちた様相は見えません。 何らかの魔法で存続しているのでしょうが・・。 何かが住んでいる様な・・・」


マガルは、中堅の実力派チームと聞いていたイクシオのチームの面々を視て。


(これは心強いチームが来たな。 なんとか、帰るまでやり切れるかもしれん)


と、思う。 正直、自分が疲れていたから不安が内心に広がっていたのである。


セイルは、玄関に寄って松明を下に向けた。


エルキュールとエルザが、セイルの両脇からセイルを見る。


セイルは、足の爪先でその場に集まった埃や土を触る。


「ドロが少し乾いて凍った物が有りますね。 それに、埃が手前に集まってる箇所が・・」


エルキュールは、セイルを見て。


「誰かが入った? ドアを開けて?」


エルザは、補足する様に会話を繋げて。


「しかも、極最近に・・でしょ?」


ニッコリのセイルは、扉の先を見て。


「です」


クラークは、セイルの後ろに来て。


「子供達かっ?!!」


セイルは、頷く。


「可能性は強いかと。 でも、暗黒の瘴気が強くて、生命反応は感じられませんね」


と、扉に手を掛ける。


キーラ・セレイド・エルザは、セイルを見て。


「君にも解るのか?」


「そなた、杖も発動体も持ってないと見たが・・・魔法を操れるのか?」


「剣士でしょ?」


セイルは、微笑み。


「いずれ種は解りますよ。 それより、早く探しましょう。 瘴気の強い場所で子供が長居すると、精神に異常を来たす事も有りますから」


と、扉を開くのだが。 途端に、セイルは真剣な顔で黙り。 魔法を扱える者は動揺を見せる。


「・・」


「う・・」


「な・なんだ・・」


魔法を扱える者には、開かれた扉から垂れ込めて来るどす黒い冷気が重々しく感じられた。 クラークやマガルですら、殺気に似た気配を感じたほどだ。 特に、僧侶のセレイドとエルザは一瞬眩暈に似た感覚を覚える。


「大丈夫か?」


老人の様な戦士ボンドスが、二人を見て気遣う。


二人は、その暗黒の瘴気の力に触れて、抵抗をする為に少し頭を抑えていたが・・。


「ああ・・大丈夫だ・・」


「もう、大丈夫よ。 チョット、暗黒の力が強いわあ~」


と、皆を見た。 此処で抵抗出来ないと、僧侶は動けなく成ったり。 恐怖に感情が激動することも有る。


イクシオは、セイルに頷く。


「では、入ります」


セイルを先頭に、全員が中に入った。


中に侵入した一行。 暗い館内で、玄関大ロビーの中心に来ると。 正面には、壁に埋まる様な階段が左右対称で斜めに2階へ伸びるのが見える中。 壁に成る部分に額縁に入れられた大きな肖像画が見えた。


「おう、美人だな」


近付いたイクシオは、無精髭が少し伸びた男らしい顔を肖像画に向けて言う。


腕組みしたエルキュールは、少し不機嫌に。


「フン。 男は顔しか見ないのか?」


苦笑のセレイドやキーラ。


だが、セイルは松明を掲げて絵に近付く。


「そ・・・そんな・・。 こ・こんなの有り得ないよ・・・」


10人と成った二チーム全員が、セイルに向いた。


ユリアは、セイルの隣に来て。 セイルと肖像画の交互を見ながら。


「どうしたの? この綺麗な人、知ってるの?」


と、肖像画を見上げた。


金髪の髪を頭の上部に結い上げたその女性は、穏やかな微笑みを湛えている。 白いシルクのドレスの襟元から肩まで、画かれるドレスが王妃でも着ていそうな純白の羽根突きドレスだ。 しかも、頭には宝石の鏤められたティアラを被っている。 優しそうな、美人だ。


セイルは、そのティアラを指差して。


「アレ・・・アレって、この国の王妃だけが被るのを許される“クィーンレジェンド”だよっ」


ユリアは、ギョッとして驚いた。


「ええっ?!!! じゃっ・じゃあ・・・こっ・・この人・・・王妃様?」


クラークも、慌てて見えやすい位置に来て、顔を更に驚かせた。


「おお・・・あのティアラの中央に配された紫のアメジスト9つに囲まれた大きなダイヤは・・ま・まさしく・・クィーン・レ・レジェンドだっ!!!」 


全員の顔が、引き締まった。


ボンドスは、雪で濡れたマントのフードを完全に下ろして。


「ナルホド・・。 普段は許可無く厳重に護られてる門の中だけあるわ。 こんな肖像画があるなんて、どう見ても隠したい事でも在ったらしいな」


イクシオは、ふと思い出す。


「ん? そういや~・・・」


エルキュールが、イクシオを横目に。


「どうした、リーダー?」


「ああ・・。 確か、あの王妃の冠には、何か曰くが有った気がしたんだよな・・。 随分前に、聞いた様な・・・」


そこへ、クラークが。


「“憎悪のロンド”か・・・」


イクシオは、クラークの言葉がヒントに成り思い出す。


「あ、ソイツだ。 たしか・・・古く昔に有った愛憎劇だったな・・」


ユリアは、知って居そうなクラークに寄った。


「ねえ、何が有ったの?」


クラークは、肖像画を見上げて。


「この女性かどうかは解らないが。 あの王妃の被る冠が出来るまでに色々有ったのだ。 あの宝石を持ち込んだのは、古き昔の貴族でな。 昔の王族の末娘に恋をして、宝石をネックレスにして送ったのだ。 婚約の思いをしたためた手紙と一緒に・・。 だが、その宝石を見た娘の母親である王妃の妹が、その宝石を秘かに盗み。 そして、ティアラを作った」


「酷い・・人の思いの篭った物を・・」


「送った貴族は、その王妃の妹に激昂してな。 人目を偲んで、その女性に会って問い質したとか。 すると、その王妃の妹は貴族の男を蔑む様に高笑いして盗んだ理由を話したとか・・。 実はもう、その恋した王族の末娘には許婚の申し出が殺到していたらしい。 中でもこの国の隣のホーチト王国の王子との婚約が進んでいた。 あの有名な無血革命の王の子供か・・孫だとか。 どう見ても、その貴族には婚約の可能性は無いと思われたから、宝石を貰ったと言ったらしい」


ユリアは、怒った顔で。


「でも、それは宝石を取る理由に成らないわっ」


クラークは、ユリアを見返し。


「だが、悲劇は起こった」


「えっ?!!!」


「その貴族の男は、内密に進んでいた婚約の話に激怒してな。 その王妃の妹を・・殺した」


「う・・嘘ぉ・・」


「本当だ。 しかも、その女性の作った冠を奪い。 次の日、何食わぬ顔で冠を王妃の末娘に婚約記念にと送ったのだ。 王妃の妹から聞いたと謁見を求めてな」


イクシオは、肖像画を見てからクラークを見て。


「凄ぇ~な。 まだ、秘密だったのだろう?」


クラークは、大きく頷いて。


「ウム。 だが、問題は此処からよ。 その貴族の男は、冠を末娘が被って見せてから“似合う”と褒め称え。 王妃や王も居る謁見の中で、自分の送った宝石を王妃の妹が盗み。 そして、その女性を殺した事も叫び上げた。 いきなりの事態と貴族の豹変に、その場が修羅場に変わったらしい」


ボンドスは、強烈な話だと頭部の天辺を掻き。


「衝撃的だな・・。 そりゃ~・・」


クラークは、ボンドスを見て。 そして、肖像画を見上げた。


「その貴族の男は、死刑に成った」


「・・・」


黙るユリア。


「だが。 その末娘は、心根の優しい女性でな。 決まった婚約に嫁ぐ時、その冠を付けて王妃の冠としたのだ。 向こうの王子の作ろうとした冠を辞して、あえてその男の心を汲んでその王妃の冠を寝る時以外は外さなかったらしい。 王の傍で、50年・・。 そのホーチト王国王妃と成った末娘が死ぬ時、その冠は祖国のこの国に還された。 代々、その後にこの冠を王妃が永遠の愛を王に・・・いや、注ぐと決めた男性にに誓う意味で王妃の正式な冠と成ったのだ」


エルキュールは、肖像画を見て。


「不器用ね、男って・・。 女が居ないと、何にも出来ないのかしら・・」


エルザは、クラークに向いて。


「じゃ~、この館はその貴族さんの屋敷かしら?」


すると、クラークは首を傾げて。


「どうだろう。 話に由れば、その貴族は男爵か伯爵・・。 こんな大きな屋敷など持てないと思う」


「あら。 じゃ~、関係無いとか」


「かも、しれん」


其処に、セイルが肖像画の真下に寄っていて。


「ホラ、胸のブローチに文字が有りますよ。 え~・・・マ・・マリ・・マリアンヌですね」


クラークは、その名前に。


「“マリアンヌ”? ・・・聞いた事が有るような・・・うぬ・・」


人の愛憎劇に興味は無いと思うエルキュールは、もうこれ以上の論議は意味が無いと思ったのだろう。


「もういい。 子供達を捜そう」


イクシオも、同意した。


「だな。 俺等は、屋敷の右を1階から見回る。 クラークさん達は、左から頼むよ」


ハッとしたクラークは、


「あっ・・ああ。 解った」


と、返す。


「・・・」


セイルは、肖像画を見上げて黙っていた。






                  

                  ≪不気味な館の怪≫






「う~ん・・。 マリアンヌ・・・マリアンヌ・・・」


セイルとクラークは、さっきからず~っとその名前に考えながら歩いている。


青い石の廊下は下から底冷えがして。 カツカツと歩く皆の具足の足音が響いた。 冷たい凍った世界の中の様な館の内部は、静まり返る空気まで寒く感じる。


寒がるユリアは、各部屋の入り口を開けて、マガルと中に入っては調べる。 セイルもクラークも入って調べるのだが。 出ると直ぐに“マリアンヌ”に戻る。


ユリアは、子供を探しに来たのだと思って少し苛立ち。


「ん~もうっ。 二人ともっ!! そんな事より子供達の方が先よっ!!」


しかしセイルとクラークは、ユリアを見てからまた前を見て考え込む。


「む~っ、何よっ」


無視されたみたいでムクれたユリアだが・・。


「ユリア~、満更無駄でもないよ~」


いきなり、ユリアの肩に黒き翼を持った漆黒の天使の様な小型の何者かが現れる。


「あらら・・シェイドさん。 来てたの?」


「おうよ。 闇玉が疲れて寝ちまった。 だが、凄い闇の力を感じてさ、さっきから近くに居たぜ」


漆黒の2対4枚の羽根を持ち、布を身体に巻いた様な服装で。 美声も含めて男だか女だか解らない肩までのウェーブの掛かった黒髪、瞳も真っ黒の小人である“シェイド”。 


精霊には、3つの階級が有り。 “下位”・“上位”・“精霊神”と有る。


精霊神は、もはや神と似た力を持っていて、どんな凄い精霊遣いでも召喚など出来ないと云われる存在だ。 上位の精霊も、契約を交せるだけの魔力を持たないと呼ぶ事は出来ないだろう。 今まで、上位精霊を呼べる精霊遣いは“天才”と呼ばれるくらいなのだ。


さて、この“シェイド”は、闇の下位精霊のトッブに居る者だ。 精霊の下位でも、各属性のトップが必ず居る。 ユリアの若さで召喚出来るとしたら、普通ならもう大魔法遣いの卵とかだろう。 だが、ユリアはその下位精霊の皆々とは、幼き頃から友達で居るのが当たり前なのだ。 


さて、ユリアは不思議な面持ちで。


「シェイドさん、なんで?」


聞いているマガルは、長い廊下を見る。 丸で、月明かりが差し込んでいる様に、暗い廊下は視界がハッキリしていた。


ユリアの肩に現れたシェイドは、高い天井に施された装飾の絵や彫刻を見ながら。


「ユリア、もし子供達を助けたとして、どうやって帰るんだ?」


ユリアは、急に聞かれてポカ~ンと目を点にして。


「え・・・? ふ・・普通ですけど?」


シェイドは、悪戯っぽくユリアを見返すと。


「多分、もう帰れないぞ」


聞いていた脇のマガルは、その話に驚き。


「どうゆう事だ?」


と、ユリアの肩に屈んだ。


シェイドは、廊下を指差し。


「普通なら、夜の闇で見えないハズの場所がこんなに見えるか~。 此処は、もう結界を張った奴の手の中だ。 結界を解かないと、館からも、この敷地からも出れないって。 何の為に結界張るんだよ~。 逃がさない為、餌食にする為さ~。 この見えている景観全て、昔の景観のニセモノ」


ユリアは、パッ・パッと前後の廊下上を見て。


「え・・・マジ?」


シェイドは、クラークとセイルを見て。


「あの肖像画、本人を綺麗に書いて居るし。 少し斜めに、女の色っぽさを魅せる絵だった。 この館と何の関係が在るかは解らないケド。 あの肖像画と同じ絵が、さっきの部屋にも在ったろ?」


「うん・・。 確かに、椅子とテーブルの在る部屋には・・・在ったね」


ユリアはマガルを見て頷き。 マガルもまた頷いた。


シェイドは、ユリアの肩で考えるポーズを決めて。


「普通、そんなに同じ絵を飾らないよ。 よっぽど自分大好き人間か、思い入れの強い相手だから飾るのさ。 もし、昔に何か有るなら、この屋敷の持ち主を知る手掛かりに成る。 屋敷の持ち主が解れば、結界を張ったのが誰かも解るかもしれないぞ」


ユリアは、難しい困った顔をセイルに向けて。


「だって・・・200以上前の話だよぉ~。 解らないって~」


シェイドは両手を挙げて。


「ユリアに推理なんて無駄か~」


「う゛っ・・すんごいトゲ・・・」


悪戯っぽく膝に肘を置いて頬杖を見せるシェイドは、セイルとクラークを見る。


「あの二人、いい~コンビだな。 ユリアのお供には、正に打って付け」


「あ・・・あのね。 アタしゃ主従持ちじゃ~ないよ」


クスクス笑ってシェイドは、次のドアを指差した。


さて、10人の2チームは隈なく建物全てを見回った。 部屋数は、延べ200近く。 館を探し終えると、裏口から出て中庭を探し。 裏の離れまで探したが、何も無かった。


それ処か。 気付けば、この館と敷地を囲む周りが真っ黒に成り。 霧も何もかも無くなった代わりに、出口が無くなった。 一同が揃って、館の3階中央に椅子やソファーの在る待合場で休むしかなくなった。 流石に、子供達が見つからない上に、一日捜索と戦いばかりで全員が疲れてしまったのである。


暖炉が踊り場の様な広間の中央に配されて、3階の廊下の中間点の様に待合場が設けてある。 昔の大きな屋敷では、こうした待合場が各階に設けられてあったらしい。 公爵などで、重要な事に付いては重臣や大臣がやって来たり、客が多ければ個別に会うのに待たせる場が必要だ。 また、パーティーなどを開けば休憩に使える。 


カーペットの引かれた待合場に、ソファーに座ったり寝そべったりすると全員が揃っている中でシェイド教えてやった。


“外の森から結界の中に踏み込んだ者が此処まで全員到着したのか、死んだかさ。 だから出口が消えたのだ” 


と。 


まず帰る為には、一つは別の何者かが新たに結界の中に入る必要が在るが。 侵入者が在れば、樅の木の迷路へ出れるとの事。 ただ、逆戻りを許してくれるかは、結界を作った術士次第である。


確実なのは、この結界を破るのみ。 この館の何処かに、術者の作った結界を保つ魔法陣が有るならそれを壊す。 若しくは、結界を張った術者を倒すしかないとの話だった。


エルキュールは、モンスターの様な精霊を信じる気には成れない様で。


「でも、何も無いじゃない。 魔法陣も、術者も・・」


しかしクラークは、直ぐ様に反論する様に。 


「焦り過ぎだ。 まだ、見えているのは術の表面だけと言っていい。 この館には、どうにも色々と怪しい物が多い。 数多くある“マリアンヌ”と云う女性の肖像画が先ずそうだ。 それから、書斎も見えない。 客用の寝室が有って、当主の寝室らしき物が見えないのもおかしい。 幻術なら、何か見せたくない物は隠すだろう。 君のそんな風になんでも見えないから、“無い”と決め付けるのは直情過ぎる判断だな」


聞いていたキーラは、深く頷く。


「確かにそうですね。 もしかしたら、違う探し方が必要なのかもしれない。 出れない以上、出れる方法を探さなければ・・」


「ふあ~あああ・・。 とにかく寝ようよ・・早く休んで、早く起きて子供達を捜さないと・・」


ユリアが、大きく欠伸をする。 魔法遣いは、疲労した精神を回復させるためには、どうしても深い睡眠が必要に成る。


どの部屋からも何も移動出来ないと思ったのだが。 ソファーなどは持ち出せた。 部屋の入り口が小さいので、ベットは止めた。 全員でソファーの上に寝る事に。


マガルは、セイルとユリアに。


「私が先に見張る。 二人は、精神と魔力の回復の為にも寝るといい。 まだまだ長丁場になるやもしれないしな」


クラークも笑い。


「そうだな。 ユリア殿を寝かせないと、精霊殿に怒られるわい」


シェイドは、クラークの前に飛び。


「オジサン、良く解ってる~」


ユリアは、クラークに対して精霊が皆砕け過ぎた口調をするので驚き困って。


「わわわっ、シェイドさんっ!!! “オジサン”呼ばわりしちゃ駄目ってっ」


しかし、シェイドは当たり前の様に胸を張り。


「大丈夫、このオジサンは度量が広いから。 それに、マジでオジサンだし」


クラークは、その話に本気で笑い。


「あははは。 いやいや、ホントにオジサンに成ったよ。 若い頃は、コレでもモテたんだがな~」


するとシェイドも笑って、クラークを良く見ると。


「フフフ、確かに今でも渋いものね~。 ホントに、若かったらセイルに負けずにモテそうだよね~」


セイルは、一人で向こうを向いて。


「えへへへ~、それほどでも~」


と、照れる始末。


笑顔のクラークも、流石にセイルを見て同じには恐縮である。


「いや~、セイル殿には~負けるよ。 あははは」


ユリアは、セイルを持ち上げるクラークに直ぐムキに成って。


「ちょちょ・ちょっとっ、その気にさせないでよっ」


と、言ってから怒った顔をセイルに向けて。


「ウガーっ!!! お前もマジで嬉しそうじゃないかっ!!! チョーシ乗るなよっ!!!」


見ているイクシオやボンドスはゲラゲラ笑うし。 キーラやセレイドなども苦笑している。 エルザは、ハープを穏やかに奏でて微笑んでいた。


唯一、エルキュールは済ましている。


(フン。 精霊遣いがなにさ。 モンスターを操ってるだけじゃないか)


クラークが何故に、ユリアやセイルに対等に接しているかが解らなかった。 

次話、予告


休んだ一行は、朝に成って肖像画の女性が何者か? この館の持ち主が何者か? と云う事に答えを得る。 その頃、斡旋所では合同チームの結成が難航していた。 再度、館を探し回るセイル達は、惑わせる謎を解けるのだろうか・・。


次話、数日後に掲載予定


どうも、騎龍です^^


寒いですね^^; 遂に、冬が近付いて来たみたいです^^;


皆様、風邪やインフルエンザにはご用心を^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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