二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4
セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部
≪上陸・後≫
セイルの思い切り跳ね上げた剣の切っ先が、スケルトンの頭部をスッパリと切り裂いた。 硬い骨を切断するには、それだけの技量が要る。 次々とスケルトンを斬って倒すセイル。 そして、突き壊して行くクラークが、濃霧の奥まで踏み込んで居た。
セイルとクラークの後方で、ユリア達にもその影を見せているのがアリスである。 鞭の如く長い鎖の先には、十字架をあしらった重りと似たものが付いている。 チェーンクロスと云う武器で、棍棒の先に鎖、更にその先端に鉄球などを付けた殴打武器のモーニングスターと云う部類に入る。
「えいっ、そらぁっ!!!」
鞭の要領で巻き付けたり、十字架の部分で殴りつける事も出来る。 聖水を使って鍛えた武器らしく、スケルトンの骨に当っても力強く砕く。 聖なる力の篭った武器であるから、下級の不死系モンスターやゴーレムには、相応の力を見せ付けるのだ。
が・・。
(あわわっ、あの二人って本当に凄いわっ!!)
アリスの眼に映ったセイルとクラークは、彼女の想像を超えていた。 高がスケルトンでも、その数が多ければ危険も多い。 戦い方も慎重に成っていいだろうが、二人は視界の悪い霧の中でも消極的な戦い方はしなかった。 一撃必殺に近い手数で、スケルトンを倒して進む。 一々一匹を何度も打ち据え、やれ二匹三匹に囲まれると見合って慎重に成るアリスとは違っていた。
アリスは、クラークがセイルを褒めた事が嘘では無く。 本当に凄い剣士に成長するのではないかと思った。
そして、もう一方では・・。
「船長、ソイツは背中後方だ。 剣士殿の相手は、頭」
泥から生み出された妖獣を相手にするアンソニーの方では、アンソニーが軸と成って妖獣と戦っていた。 ロザリーは、手下の男二人と共に。 無口な剣士リロビナは、一人で相手にする。
林の奥から飛び出してくるビーストを、最も前で迎え撃つのがアンソニー。 優雅に舞う様な身動きで格闘術を繰り出す最中、手足に魔想魔法を纏わせて戦う異端の域を使う。 彼には、ビーストの弱点である魔力の核が見えていた。 見えないロザリーやリロビナに教えながら、彼は戦っている。
アンソニーは、基本的に噛まれても斬られても怪我には成らない。 だが、ロザリーとその手下や、リロビナはそうも行かない。 特に、ロザリーと一緒に戦っている二人の手下は、片方が腕力を頼りに、もう一方が身動きの早さを武器に、得物と為るナイフだ剣を振り回すだけの域。 ロザリーは、しっかりと剣術の手解きも受けた感じだが、他の二人はそれにすら及ばないのだ。
背の高い剣を持つ男が。
「このっ、コイツめっ」
と、向かってくるビーストを追い払う様に剣を振れば。
「すばしっこいゼっ、こりゃっ」
背の低い方の男は、ナイフを薙ぎ付ける以上の近さには近付かない。
「退いてっ、鋭っ!!」
二人の間に入り、横向きに為ろうとするビーストの背中に剣撃を喰らわせたロザリー。 しかし、泥の身体の一部を斬り裂いただけで、黒々と光る魔力の核を見せただけ。 神聖魔法の掛かった剣だが、核を斬れなければ意味が無い。
蛇行の様な跳ね飛び方で翻弄させる様に襲い掛かって来るビーストを、屈み込んで下から串刺す様に頭部まで突き刺したリロビナが。
「・・邪魔だ」
と、ロザリーの部下に呟いた。 素人の仕草に、見るに耐えないと云う所なのだろう。
ロザリーが、相手をするビーストを倒したのはその直ぐ後だが。 ビースト一匹や二匹を相手にして、引掻き傷を作るロザリーの部下は足手纏いに近かった。
だが。
アンソニーの前に6匹ものビーストが現れ、内二匹が後ろに抜け出れた。 リロビナは、迎え撃てる間合いまで前に詰めたのに対し、ロザリー達は襲われるまでに態勢を立て直すのが精一杯。
そんな状況だが、ロザリー達に向かって走るビーストの顔に、突然黒い靄が掛かった。 視界を奪われたビーストは、ロザリー達の前にまで来る途中で走るのを止め。 そして、頻りに周りの臭いを嗅ぎ出す。
何が起こったのかと思うロザリー達だが、後ろからユリアの声で。
「魔法の雲を飛ばしたのっ、視界が利かない間に早く倒してっ!!」
三人が振り返ると、ステッキを構えたユリアが居て。 彼女の頭上に、黒い靄と云うか雲が出来上がっていた。
「助かるっ」
手を上げて礼を述べたロザリーは、
“船長、ソイツは右脇腹に在る”
と、アンソニーの助言を受けながら走り出す。
「あ!」
「ロザリー様っ!!」
手下二人が驚いて動き出そうするのも遅く。
ビーストが黒い靄で見えない視界を補おうと、頻りに臭いを嗅ぐ処にロザリーが来て。
「このっ!!!!」
と、もう全身の力で横殴りに剣を打ち込んだ。
悲鳴を上げて石の地面に転がったビーストだが、その急所たる核をヤられてはいない。
「まだかっ、此処かっ!!」
滅多切りの様に、ビーストの脇腹に目掛けて剣を振り込むロザリー。 三度目の攻撃が核を斬ったのだが、ビーストが土に変わるまで攻撃を止めなかった。 倒す為に死に物狂いと為り、その必死さからの興奮に囚われて冷静さが失われてしまったのだ。
そして。 ロザリーが全身で息をしながら、無我夢中のままに4匹目のビーストを倒す頃。 加勢でセイル達が入って来た。 スケルトン数十を打ち倒してである。
極度の興奮と激しく息が上がって、目が虚ろに為り掛けたロザリー。 彼女を手下が下がらせ、代わりにアリスが入り。 セイルとクラークは、アンソニーの加勢に。 ビーストの弱点を見抜けるのが、一人から二人に代わり。 百近いビーストの群れは、倒された。
戦いが終わり。
「ふむぅ、流石に抵抗も一筋縄では在りませぬな。 スケルトンに、妖術で生み出された野犬とは、骨が折れます」
仲間で集まった処で、疲れているロザリーを見てクラークが云った。
セイルも。
「コレがずっと続くと大変ですね。 何とか、主を見つけて倒してしまわないと・・」
すると、土に変わったビーストを見つめていたアンソニーが。
「確かに。 だが、今までで何度も船を襲い、主が力を蓄えていたらそうも行くまい。 死んだ人の数だけ、スケルトンなどの駒の数が有り。 また、この岩肌の島でも、地中を含めて土が在る分だけ、この様なビーストを生み出せる。 抵抗が激しいのなら、それは相手に近付いてる証であるかも知れない。 とにかく、出来るだけ進んで、夜の襲撃の手を減らそう」
ユリアは、アンソニーの言葉から思ったままに。
「うはっ、今日中じゃ終わン無さそう」
意外にも冷静なセイルは。
「今日や明日で決着が付くとは限らないかも。 それは、考えに入れて置かないと」
セイル達が意見交換をしたりする間、ルメイルに怪我を治して貰った仲間のアリスやリロビナ。 ロザリー達3人の怪我を看るルメイルは、全く怪我もしていないセイル達を見て。
(あのモンスターの貴公子さんは別に、他の前線に出た二人は掠り傷すら無いのね。 アリスの話じゃ50以上はスケルトンが居たみたいなのに・・、大したものだわ)
モンスターを相手にする経験が豊富とは言えないルメイルは、仲間を入れて初めてリーダーをしている。 アリスやリロビナが劣っている訳では決して無いのだが、格段に違うチームを見ている気がするのは確かだった。
そして、息が整ったロザリーが重そうに腰を上げた。
ユリアは、戦う事に一心不乱と云うか、無我夢中だったロザリーが心配で。
「ロザリーさん、大丈夫?」
と、声を掛けてみる。
ロザリーは、やや疲れた顔に凝らした目をして。
「あぁ、大丈夫だ。 闇の魔法でも、十分に役に立つな。 感謝する」
と、云ってくれる。
だが、冒険者に成ると云ったロザリーだが、慣れ・不慣れで云うなら不慣れそうな戦いの乗っけから大集団とぶつかっている。 疲れない訳も無いと、
「でも、そんなに多くのモンスターを相手に、こうして戦った事無いんでしょ? 甲板でも戦ってたんだもん、疲れるよ。 立てなく成る様なら、船に帰った方がイイんじゃない?」
ユリアの感想は、ロザリーの怒りそうな話だが、現実でもある。 ロザリーに大怪我されたり、最悪の場合を迎えて貰っては困る。 それは、船に残る者達にも多大な影を落すと思われるからだ。
すると、ロザリーは・・。
「・・解ってるよ。 とにかく、先に行こう」
と、やや無気力な言葉を吐いて歩き出してゆく。
しかし。
歩き出して霧の中を進むロザリーは、肩を並べるセイルに。
「のぉ、今さっきの話ついでに・・セイルに頼みが有る」
ユリアと見合ったセイルで、
「はぁ、“頼み”・・ですか」
と、云いながらユリアを見れば。
“何だろう”
と、首を傾げたユリアが居て。
“さぁ”
と、ばかりに首を竦めたセイル。
歩くロザリーは、そのまま話を続け。
「話と云うのは簡単だ。 もし、生きて帰れたら私をチームに入れてくれ」
「・・・」
「・・・」
セイルも、ユリアやクラークも黙った。 いきなりの話でも在るが、それ以上に唐突と云うか色々な意味合いから早過ぎる。
それでもロザリーは続け。
「驚くのは無理も無い話しだが、私も目的が在ってそうしたい」
セイルを見たクラークは、そのままに。
「何でそうしたいのか?」
「簡単だ。 セイルやクラークに習って、剣術学んで強くなりたい」
益々意味が解らないという顔のセイル達。 クラークは、その理由が知りたくて。
「本意か?」
すると、辺りを見る事に余念の無さそうな部下二人の一歩後に居るロザリーは、濃霧の続く前を見て。
「当たり前だ。 船を降りるとは云ったが、もう海族を辞めるのではない。 寧ろ、もうバカにされたく無いから、一度降りるのだ。 あがしかし、ダラダラと冒険者を続ける気も無い、数年で新しい船に乗る」
その無茶な望みを聞いて眉を顰めたクラークは、
「随分と急ぐ様な事をしたいらしいの。 海族なら、そのまま続けたら良いだろうに・・」
すると、ロザリーはギリリと眉間に皺を寄せ。
「今のままでは、続けていても意味が無い。 どいつもこいつも、私を軽んじるからな」
ユリアは、叔父のファイラポンの事だと思い。
「それって、あの叔父さんの事?」
全くその通りだとロザリーが。
「あぁっ。 私の父は、今に残る海族でも有名な男だ。 片目のウランジと言えば、船乗りでも知ってる者が多い。 私はその血を分けた実の娘で、剣術の手解きも、船乗りとしても5歳から鍛えられた」
クラークは、それは凄いと。
「なら、別に自前の船を用意すれば良いのでは? 無理やり、一度冒険者に成らなくても良い様な気がするのだが・・」
想いを挫かれる様で苛立ち始めたロザリーが、いよいよ喧嘩腰の様に。
「それではダメなのだっ!! 御主もさっきの叔父上の態度を見ただろう?!!」
と、興奮し出す。
アンソニーは、たださり気無く。
「大声はいけない。 無駄が多いし、相手に位置を知らせる事になる」
その冷静な指摘に、グッと怒りを飲んだロザリー。 クラークから視線を逸らし、また前を向くと。
「私が15の時、父はクラーケンに船の一つを潰され、更に片足と片腕を使えなくした。 海族の掟に習って船から降りる決意をした父は、一族の者に4隻の船を分けた。 その中でも一番いい船を受けた私だが、そのご意見番に叔父が・・。 一隻船を貰えると思って居た叔父にしてみれば、私のお守りと云う気分だったのだろうさ。 私から呈の良い理由をくっつけては、舵取りを奪った。 あの船に乗ってから、私の船乗りとしての価値は交渉程度。 お飾りの船長に落ちた」
しかし、セイルやクラークの眼には、船長はロザリーだと見受けれた。 船員もしっかり従っているし、航海の流れもこの事件が起こるまでは順調だった。 ま、ロザリーが舵を握って居無いと云うのは、確かに変だが。
ロザリーは、その誰も何も言わない沈黙を嫌ってか。
「表向きはそう見えないが、私と叔父の確執は長い。 叔父が父を支えた航海士であるのに、父も一族も私を推した。 叔父は物事に細かく、気が短い時は下に当る。 父も、他の者もそれを考慮したのだろう。 だが、未だに叔父は・・。 海族の掟では、航海士でも決断として船長が決めた事には従うのが定めだ。 だが、叔父は今日だけではなく、幾度と反論する。 私が、叔父の意見を飲むのが当たり前だと思っている」
クラークは、そこで思わず。
「それと、冒険者に成るのと、何の関係が?」
「フン、知れた事だ。 冒険者として腕を磨き、父と同じく名が知れてから船長に戻るまで。 誰も納得の行く道筋で行けば、女のアタシでもバカにされない。 他の海族は、叔父の噂話を鵜呑みにしてアタシを笑うんだ。 船員が持ってくるその話を聞き捨て、この6年を過ごしたが。 もう、イヤだ」
父親も冒険者をしていたと解ったクラークだが、ロザリーがチームに入っても大丈夫か心配だった。
どんな仕事が回されるとも限らない。 こんな剣術の腕も駆け出しを超えた程度では、それこそ危険ではないかとすら思う。
しかし、セイルは・・。
「女性ってだけで大変ですね。 チームに加わりたいと云う気持ちは解りました。 ですが、今は此処から生きて出る事を最重要視しましょう。 話は、生き抜いてからでも十分ですよ」
と・・。
ユリアは、同じ女であるから。
「なぁ~んかムカツク~。 てか、あの航海士のオジさんを下ろそうよ」
すると、ロザリーは首を左右に動かし。
「もういい、アタシは父と同じく腕を磨いて動く。 あの船は、叔父が乗るのに丁度イイ船だ。 自分で何も用意出来ない叔父だから、餞別代りにくれてやる」
すると、ロザリーの両脇に居る手下二人が。
「キャプテン、どうしても降りるんですかい?」
「アッシ等は、そのまま乗って居ていいんですか?」
ロザリーは、安心しろと云わんばかりの顔で。
「大丈夫に決まってるだろ? 叔父だって、あの船を支えてるのがお前達と云うのは解ってる。 何か悪さでもしない限り、お前達を追い出す事は無いさ。 自分の手足を切るのは、腐った時だけだからな」
だが、その二人は浮かない顔のままだった。
(ね、セイル・・)
(うん。 なんかヘンだね)
セイルやユリアには、二人のそれが解せなかったのである。
★
濃霧の中を行く一行は、辺りが少しずつ暗くなり始めた頃まで動き回った。
先ずはと、島の中心に向かったのだが・・。 其処は、風によって不思議な削られ方をした奇岩の密林で。 踏み込んだ周囲が直ぐに物陰となる場所の為、待ち伏せに格好の場所だった。 深く入り込んだ所で、ビーストや亡霊の襲撃に遭う。 その数たるや、巣窟の中に飛び込んだと思える程だった。
此処でも、激しい戦いが繰り広げられた。 セイルやクラークが軸となり、ロザリーと手下は、魔法を遣うユリア達の護りに回った。 しかし、その数が多過ぎて、遂にユリアは長く祈ってなんとか風の精霊を呼び、ルメイルやビジュニスも加わって魔法で亡霊やビーストを倒す事に。
この戦いで時間を長く取られた上に、皆の疲労も一気に蓄積した。 何だかんだ云っても、冒険者の皆は朝から戦っている。 これ以上の捜索は危険とセイルが判断し、無理をせず船に戻る事に為った。 その戻る過程で、まだ見知らぬ海岸沿いを回ろうとなったのだが。
重く垂れ込めた濃霧の所為か、夕闇が気味悪く栄える頃。 海が望める端にまで向かえば、其処には壊れた船の残骸が散らばっていた。
「何だこの残骸は・・、一隻や二隻の物か?」
ロザリーは、その船の残骸を見て驚いた。 自分の船のに戻る中で彼女が何よりも驚いたのは、その船の種類が軍船らしい物だと云う事なのだ。 大砲の一部分や、時化た砲弾まで転がっているし。 大破した船の残骸が、延々と海岸の縁に残っている。 その量は、10隻を超えていると思われた。
船の墓場を見た一行は、何れはこう成るかも知れないと云う恐怖だけを胸に持って船に戻る事に成った。 その船が誰の船か解らない事も不気味だが、その朽ちた様子から半年や一年の放置では無いとも解る。 気味悪い年月の経過が、痛んだ残骸に見受けられるのが恐怖を増やした。
そして、とっぷりと陽が暮れて、濃霧の中での夜が始まった。
疲れて帰ったロザリーは、襲撃も無く客が安全で在る事を先ず確かめ。 同時に、船員達にも声を掛けて回った。 ロザリーの衣服も幾分汚れ、モンスターと戦った痕が切れた衣服やキャプテンハットに見える。 声を掛ける事すらしないのは、叔父のファイラポンぐらい。 船員達は、ロザリーの姿を見て安心を得た顔付きをする。
安全の確認をして回ったロザリーが、空腹だけを満たす為に広間へ。 其処に居た者で、真っ先に目に付くのはルメイルのチームと、一緒にテーブルを近付けて食事をするイーサーのチームだろう。
「ねぇ、アリス。 毎度毎度に悪魔の蔦を上り下りするのって、なんか考えるだけでも気味悪いね」
「ビジュ、それはそうだけど、文句ばっかり言えないから。 そういうのは、云わないの」
と、話すアリスとビジュニスが居て。
「なぁ、モンスターの事をもっと教えてくれ」
「そうだ、明日は俺達も行くから、どんなのが出るのか詳しく知りたい」
こう会話を交えるスタンストンとタジルの姿も在った。
彼らを見ただけのロザリーは、他の席がガランとしていて。 客の殆どが部屋で食べ、広間には出て来ない事を覗った。 話す冒険者とは少し離れたいと思ったロザリーへ。
「あ、ロザリーさん。 何か食べる?」
と、ユリアが声を掛けると。
「あ・・、あぁ。 軽くでいい」
ロザリーは、前の壇上に近いテーブルの一つに座った。
パンとスープを運んで来たユリアに、ロザリーは思い出す様に。
「ありがとう・・、その・・悪かったな」
皿を出したユリアは、出した後の手を止め。
「え?」
「いや・・、精霊の事で不味い言い方をしたみたいだな・・。 その、魔法の何もかも良く解らないから、何でも勝手自在に出来るものだと思ってた」
こうロザリーが、謝る。
トレイを持つユリアは、肩に出る水の精霊サハギニーを見て。
「殆どの精霊遣いって、微かに精霊の存在や声が聴こえるだけなの。 でも、私はちょっと違う。 声も、姿も見れる。 それに、こうして精霊が自由に出て来れる事も・・許せる」
ユリアの話しに、ロザリーは彼女を見て。
「特別な事なのか?」
頷くユリアは、少し目を細め。
「私の呼ぶ精霊の大半は、昔からの友達。 孤児で、生まれた直後に捨てられた私を見守ってくれた・・恩人。 だから、私は精霊と約束したの。 意思を汲み取らず、強引に呼び出さないって・・」
“約束”と聞いたロザリーは、ユリアの顔を見て済まなそうに。
「そうか・・、知らずといえ悪い事を言ったな。 約束をすると云う事は、物じゃなくて相手だものな。 ・・・、色々と事情も在るのだな」
他の者と少し離れた場所にて、互いに見合う二人で。 ロザリーの言葉に、ユリアは笑顔を見せて。
「大丈夫、脅されても呼び出さないから。 呼び出す時は、ちゃんとお願いするのよ」
その不思議と和やかに為る笑みを見たロザリーは、ユリアと精霊の関係を理解した。 丸で、自分と半家族の船員の様だと・・。
(なるほど、絆が在るのだな)
そう思えて、何となく薄く笑顔を浮かべたロザリー。
此処で、或る事を思い出したユリアが。
「あ、そういえば。 ロザリーさん、船員のお爺さんを借りてるの。 セイルが、自分の部屋に連れてったわ」
「ん?」
パンを千切った処で何事かと思うロザリーだったが・・。
「あ、セイルが来た」
クラークとアンソニーが広間の片隅に座っている所に、セイルが向かって行く。 見つけたユリアは、
「ロザリーさん、お話を聞いてくるね」
と、セイルの方に。
だが、ロザリーも何か気に掛かり。
「アタシも聞くっ」
と、千切ったパンを皿に戻して席を立つ。
広間に入ったセイルは、一直線で仲間の元に。
「おぉ、セイル殿」
「セイル君、食事はいいのかい?」
クラークとアンソニーが、やって来たセイルに聞く。
だが、セイルの顔は少し怪訝で。
「それ処では有りません。 あの海岸に打ち上げられた船の壊れた物なんですけど、確定では在りませんが何処の船か推測出来ました」
クラークとアンソニーは、その言葉で見合いながら目を少し細めた。
そして、此処に。
「セイル」
「おい、何か解ったか?」
と、ユリアとロザリーが来る。
セイルは、仲間とロザリーが集まったのが丁度いいと。
「あの、ロザリーさん。 もしかすると、此処はとんでもない島かも知れません」
セイルの顔を見るロザリーは、何か酷く危険な事の様な気がして。
「待て、此処は人が多い。 先ず、私の部屋に来い。 話を聞いた上で、話せるなら皆に話す」
船員達も来始めた広間から、ロザリーとセイル達の姿が消えて行く。 操舵室の隣で、別室と為るロザリーの部屋に向かったのだ。
その立ち去る姿を見たのは、密かに注視していたルメイルだけ。
(何か・・有った?)
ルメイルの緊張は、一人で一気に高まっていった・・。
どうも、騎龍です^^
アクシュデント続きで、随分遅れた更新と為ります。
キーボードを強く打つクセが抜けない自分ですが・・。 同時に離れた二つのキーが利き難くなって、誤作動を起こし始めてからが・・^^;
昨日、新しく買ってきたキーボードの御蔭で、なんとか今日の更新です^^;
同じキーボードが無かったので、仕方なくまた違うヤツを買ってきましたが・・。 如何せん慣れるまでに苦労します。 変なキーが増える御蔭で、ボードの長さが違うと・・う~ん。
もう、これで話のストックも無くなったので、明日から突貫で最後まで下書きしてしまおうと決意だけします。
ご愛読、有難うございます^人^