二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4
セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部
≪犠牲が出た後で・・≫
女船長のロザリーが運行する船が、何者かの操る悪魔の蔦に襲われた。 船員二人の遺体を回収したアンソニーは、その魔力水晶体の在る部屋を固く閉じた。 魔法の封印を施して・・。
二人の遺体に泣きついたロザリーを、セイルとユリアが何とか押さえ。 アンソニーは、二人の遺体を抱えて広間に。
広間では、心配をしていたロザリーの叔父ファイラポンと、状況を聞きに来た客の間で悶着が起こりそうだった。 モンスターの撃退は出来たのに、舵が利かずに何処かへ流されていると云う事実に。 船員の一人が漏らした事で、客達は甲板からこっちに来ていたのだ。
そして、其処に二人の遺体が持ち込まれたのだ。
「おいっ、何で航路を変えたんだっ!!!!」
「そうだっ、変えなければこんな事には成らなかったんじゃないかっ?!!」
先頭に立って云う家族の居る者や金が在る者は、云っても収まらず尚更に食って掛かろうと云う雰囲気だった。 守る者が居たり、自分の身が可愛かったり、怒りや絶望から逃れたいとする感情が爆発し始めている。 ルメイルを含めたチームの女性4人も、何故か此処に来ていた。
しかし。
ファイラポンの元に立つロザリーは、喚く客に。
「静かにしろっ!!!!」
と、怒鳴り返した。
「・・・」
一旦、喚き声が止むと。
「この海域は、もうどの航路を行っても通る合流地点だよ。 それに、事態は我々が冒険者の協力を得て解決する。 今は、・・その事だけに集中させて欲しい。 我々は、客を置いて逃げるほど利口では無い」
涙が浮かぶロザリーの声は、普段の彼女とは大きく違っていた。 家族の様な船員が、無残にも死んだからだ。 男が多い船員の中で、ロザリーは若い分だけ女としても見られる。 そんな関係から、その寄せられる信頼の度合いが少し違う様だ。 ロザリーもまた、片意地を張って女船長をやるだけ、部下に対しての思いも違いが在る。
ロザリーは、ファイラポンに。
「叔父殿、皆を客室に戻してくれ。 それから、地下で異変が起こっていたから、上で話す」
ユリアは、セイルに。
「セイル、さっき僧侶の人居たよね」
「あ、うん。 チームのリーダーしてる人で、ルメイルさんだったかな。 格好が奇抜だから、直ぐに解ると思うよ。 あっ、広間の出入り口に居るよ」
「解った。 モンスターに殺された人は、鎮魂してあげないと直ぐにモンスター化しちゃうでしょ?」
「そうだね」
「私、呼んでくるね」
「うん」
ファイラポンが、手の開いた船員と共に客を広間から客室へと戻る様に誘導し始めた。 客も、何が出来る訳では無いので、不満ながらも文句を言うぐらいだ。
二人の遺体の元に戻るロザリーは、
「アタシが初めて認めた船員二人だったのに・・。 まさか、こんな事で死なせちまうなんて・・」
と、嘆き出した。
だが、アンソニーは・・。
「船長殿、悲しみに暮れる暇は無さそうだ。 直ぐ間近にまで、不気味な気配の塊が迫っているし。 この二人とて、決断を下さなければ成らない。 その猶予も、無い」
広間の床に膝を着いたロザリーだが、アンソニーの言葉に顔を上げ。
「何を言っているのか、私には解らない。 この二人は、コンコース島まで運ぶ。 そこで・・」
その言葉の途中にも関わらず、アンソニーはロザリーの前に屈むと。
「その余裕が無い。 これから来る僧侶殿に、その意味を聞くといい。 彼らは、もう既にモンスター化が始まっているのだ。 この・・薄汚い霧の所為でな」
と、言い置いて、驚くままに目を見開く彼女の前を去った。
外に出るアンソニーと入れ替えで、ユリアに連れられたルメイルが遣って来た。 胸元が際どく丸見えで、スカートに入るスリットも前後にと云う出で立ち。 杖を持って居無いなら、それこそ何者かと思う人物だ。 船に同乗した男客が、時折彼女の元に言い寄っていたのも頷ける。
遺体の傍にルメイルを案内したユリアは、間近に立つセイルの元に。
アンソニーの云っていた意味が解らないロザリーは、僧侶が来たので。
「済まないが、鎮魂をしてくれないか。 後は保管して、コンコース島で葬儀をしたい」
すると、豊満な胸を持ち、色艶溢れる美人僧侶ルメイルは、ロザリーに向かってアンソニーを同じ事を言う。
「鎮魂はして差し上げますわ。 ただ・・、保管は認められません」
「え?」
思わず聞き返したロザリー。
一方で、死んだばかりなのに、もう肌の色が青紫色の濃いものに変色し始めている遺体を見下ろす僧侶ルメイル。
「この急激な肌の変化は、怨霊系の不死者に変わる宣告変化の兆し・・。 この濃い瘴気を含む霧の御蔭で、その変化が加速しています」
ロザリーは、死んだばかりの遺体とルメイルを交互に見て。
「そっそんな・・、ばか・バカなっ。 ではっ、どっどぉっ、どうすれば?」
思っても見ない事に、動揺が激しいロザリーである。
見ているユリアも、横のセイルへ。
(この死体、今夜にはモンスター化するよ。 ロザリーさん、可哀想・・)
セイルは、頷くしか出来ない。
ルメイルは、悪魔など暗黒の力が強いモンスターに人が殺された場合。 その周囲の状態によっては、その日の内にモンスター化する事も在ると教えた。 その上で、この遺体は海に投げるか。 若しくは、燃やしてしまうのが良いと伝えた。
これには、ロザリーも驚きだ。
「う・海にだと? あのウツボのモンスターの餌にしろと云うのかっ?! 燃やすにしたって、この船は木造を主体とした船だぞ? 何処で燃やせというんだ?」
食って掛かりそうな顔に変わったロザリーに、困った顔をしたルメイルは続け。
「このまま放置すれば、ゾンビとして動き出しますわ。 暗黒魔法でゴーレムと成ったゾンビとは違い、怨霊系のゾンビは人を襲います。 乗客が襲われて死ねば、またモンスターを生み出す結果に成りますわよ」
非常な事実を伝えられたロザリーだが。
「バカを云うなっ・・、この数年を共に過ごした家族同然の船員だぞっ?! 寺院で葬儀も挙げずに、海になど捨てられるか・・。 あぁ・・、う゛うぅ」
と、泣いてその場に蹲る。 モンスターに遺体を食わすなど、どうしても認められないと。
セイルとユリアは、泣いているロザリーが可哀想に思えて仕方が無い。 だが、他に手が無い。 いや、アンソニーの力を使えばどうにか成るだろうが。 彼に暗黒魔法を遣わせるのは、現実的な意味で人道的な感覚から反する。 フラストマド大王国のアハメイルにて、大昔の亡霊達を静めるのに使ったが。 あれは、もう幽霊と成っている者を呼び覚ましたに過ぎず。 遺体を自力でモンスター化させる様な非道では無い。 似た様な事だが、その一線を越える事は意味合いが違うのだ。
(アンソニー様も、この遺体をモンスター化出来ないよね)
と、ユリアが耳打ちすれば。
(うん。 だから、見張りに出たんだよ。 近くに居たら、ご遺体のモンスター化が進むから)
と、セイルも頷いて云った。
(そっか・・、心が在ってモンスターって云うのも、なんだか大変だね)
(大変だよ。 僧侶には喧嘩売られるし、力の使い方の良し悪しで悪人とも神様とも取られちゃう)
(でも、死体の傍に居られないって事は、国を出た理由って・・やっぱり?)
(多分・・、誰にも迷惑を掛けたくないんじゃない?)
(そっか)
二人がこう話している間に、ファイラポンが戻って来た。 煩い客は部屋に入れたので、後は部下の船員に任せて来たのであろう。
戻ったファイラポンは、ルメイルから同じ説明を受けた。
「そうか・・、ならば仕方ないの。 ロザリー様のお嘆きも解るが、死人に死人を増やさせては尚悪い」
だが、ロザリーは・・。
「イヤだっ!! 燃やす以外は認めないぞっ!!!!! モンスターに殺されてしまったのに、モンスターの餌にするなど絶対にイヤだっ!!!!!」
「だが、何処で燃やすのだ? この船が島に漂着するなら良いが、幽霊船に横付けでもされたらっ。 遺体の変化が終わる前に、早く始末しなければ」
お互いに船員の事を考えている叔父と姪の二人だが、その考え方にズレが在った。 今までに見た事も無い様な怒り方で、ロザリーが遺体を始末させないと言い張るなら。 一方で、珍しく感情的に遺体を捨てようと言い張るファイラポン。
「あ・あちゃ~」
困ったユリアは、鎮魂の儀式すら出来そうに無い様子に困惑する。
セイルも、どちらの言い分も最もな気がして、どう説得して良いか解らなかった。
そして、それはルメイルも同じで。
「とにかく、地下に悪魔の蔦が在るのなら、鎮魂の儀式だけでも・・」
と、言い争いを沈静化させようと思うのだが。 だが、それが区切りに成ると思うロザリーは、ファイラポンが絶対に捨てると待つ様に言うし。 また、ファイラポンも捨てる目処が立つので、早く行ってしまおうと・・。
口論が激化して、ファイラポンが。
「ロザリーっ、やはり君には船長の荷が重いっ!!! お父上に、もう一度戻って貰えぇっ!!」
すると、ロザリーも我慢を捨て。
「ウルサイっ!!!!! この船の船長を狙っていた叔父上だっ、私に取って代わるつもりだろうっ?!!!! だがっ、この貧乏船に船員が居付いてるのは誰の御蔭だっ?!!! 口下手で交渉が下手な叔父上では、船員が逃げ出すよっ!!!!」
「なっ、何だとぉぉ?!!」
叔父と姪の喧嘩に、セイルとユリアもどうしていいか。 怒って済むなら良いが、火に油を注ぐ結果に成ったら・・。
ルメイルも、二人を落ち着かせようとしたり、少し怒って云ってみるも無駄だった。
そして・・、此処で俄かに甲板が騒がしく成った。
(セイル・・甲板で人が走ってるみたいだよ)
(もしかして・・、もう何かが見えたのかも。 凄く瘴気の塊みたいなのが感じられる・・)
(ヤバっ)
ユリアは、もう猶予が無いと思う。 喧嘩をしてる二人に。
「ねぇっ!!! 甲板が騒がしいよっ、喧嘩してる場合じゃないって!!!」
その声を聞いて。
「え゛っ?!」
「んっ?!」
と、二人がユリアを見た瞬間。 操舵室から駆け下りて来た40代の小太りな船員が、この広間に飛び出して来る。 そのドアを壊さんが勢いの開き方に、一同が一斉にそっちを見た。
「キャ・キャプテンっ!!! 変な島影が見えまさぁーーーーっ!!!!!!」
すると、怒り心頭からの涙目をそのままにしたロザリーが。
「ホラーニアンアイランドかいっ?!!」
「解りませんっ。 ですが、また飛んで来るモンスターの影が・・」
すると、ファイラポンは焦った様に。
「仕方ないっ、遺体をどうにかしないと・・」
だが、色の変わり切ろうとしている遺体を見たルメイルは。
「ダメだわ・・、もうモンスターに変わる。 今、一気に変化が加速した」
その話に、遺体から一歩引くファイラポンで。
「どうするっ、僧侶よ」
急に問われ、考えが纏まらずに眉間に皺を寄せたルメイルで。
「ま・魔法で燃やすしか無いわ」
と、云った。 その時である。
遺体から、奇妙な気配が湧くのを感じたユリアとセイル。 二人が遺体に近付こうとした瞬間、遺体の傷口から何かが延びるのを見た。
黒っぽい緑色の物体を見たセイルは、それが地下で二人を殺した物と同一の物と悟った。
「遺体から離れてっ!!!! 悪魔の蔦が種を残してたっ!!!!」
と、ユリアの腕を掴んでロザリーの方に走る。
セイルの声を聞いたかどうか。 甲板の方から遺体に顔を移したロザリーは、自分の足に伸びた蔦に絡め取られる前に、セイルに押し倒されたのである。
「うわっ」
ユリアが床に倒れる真横で、セイルに押し倒されたロザリー。
「あ・・」
若く美しいセイルの顔と、彼女の顔が接近した。
だが、セイルは直ぐに振り向きながら起き上がり、立膝の態勢から剣を引き抜いて振るった。
ーパキン、パキンー
何か軽い金属でも打っている様な音して、伸びだした悪魔の蔦と剣がぶつかる。
「あ・・、あぁぁぁ」
こんな事など経験した事の無いルメイルは、遺体から悪魔の蔦が伸びる事に脅えて後ろに。 杖を構え、
「し・しし神聖なる神よぉぉ、そのじょっ浄化のっ・・。 あっ!!!」
裁きの鉄槌を遣おうとした彼女だが、構えた杖を伸びた蔦に打ち払われる。 杖を跳ね飛ばされた上に、その勢いからテーブルと椅子の在る後ろへと倒れた。
「くっ、何とかせねばっ!!!」
見ては居れんとファイラポンは、近くの壁に掛かるランプで燃やそうと。
しかし、セイルが。
「燃えませんよっ!!! 火や魔法で刺激すると分裂するだけですっ!!!!!」
打つ手なしと思ったファイラポンで。
「なっ、では・・」
セイルは、大きな酒樽を一回しする程に伸びた処で、蔦の成長が止まったのを見て。 ユリアとロザリーが這いずりながら逃げるのに合わせて後退しながら。
「止まった・・成長が、止まった。 悪魔の蔦は、魔力や闇の力のみを糧にして成長します。 陽が出ている今なら、これ以上の成長はしないでしょう。 それより、遺体自体をどうにかしないと・・。 ゾンビに成られて歩き出されたら、被害が増えます」
苛立つファイラポンは、
「だからっ、どうするっ?!!」
と、声を荒げた。
セイルは、甲板で争う人の掛け声を聞き。
(モンスターが・・。 どうしよう)
一つ、手立てが在った。 アンソニーにゴーレムゾンビ化して貰い。 ゾンビ自身に悪魔の蔦を抜かさせる方法である。
そこで。 引き摺る様にして後ろに下がる事にばかりに終始していたルメイルが。
「そう・そうだわっ、方法が有るわっ! こここっこのまま・・、彼等をゾンビにするのよ。 それで、徘徊させて外に出せば・・」
テーブル3つほど離れた床に居るユリアが、そのいい加減な発言に怒る。
「僧侶がそんな事言って言い訳っ?! 死体だからって、モンスター化したら魂が呪われるのよっ?!」
ルメイルは、もう恐怖が先行してしまう。
「だっ、だってぇっ、悪魔の蔦だなんて・・。 他には、あの外に居るモンスターに頼むしかっ。 貴方達の仲間なんでしょっ?!!」
「簡単に言わないでよっ、アンソニー様は悪いモンスターじゃないのよっ?!!」
もう迷う暇は無いと思うセイルは、身を立たせ。
「仕方ないですね、最善の手としてアンソニー様に頼みましょうか。 怨念型の人を喰らうゾンビに成られては、もう倒すしか無くなります。 とにかく、外のモンスターの襲来をなんとかしないと」
その・・セイルを掴む者が居て。
「・・」
セイルが後ろを見れば、ロザリーが掴んでいる。
「どうにか・・成るのか?」
悪魔の蔦の種子が埋まってた時点で、燃やしてもどうにも成らないと云う事を解ったセイルだが。
「いい方法ではありません。 こんなの・・、どうにか成るなんて云いませんよ」
と、その手を振り解く様に甲板に出て行った。
★
ライオレプターと肉食アブの襲来を戦い抜いた冒険者達は、怪我人が出ていた。 イーサーとスタンストンが腕や脇腹に傷を作り。 ルメイルの仲間も怪我人が出ていた。
セイルとユリアは、アンソニーとクラークに合流。 飛来した肉食アブとライオレプターを倒しきると。 直ぐにアンソニーを広間へ。
悪魔の蔦を生やした遺体を見るアンソニーは、種子がこんな風に発芽するとは知らなかったとか。 セイルでも、初めて知った事である。
一緒に見たクラークは、仲間の怪我の治癒に逃げたルメイルを思い。
「流石の僧侶様も、こんな事態は想定して無かったと云う訳だな。 しかし、悪魔の蔦がこんな海の真上で存在するとは・・。 正直、ヘイトスポットの周りで種しか見た事が無い」
死体を見つめるアンソニーは、その蠢く鞭の様な蔦を見て。
「この蔦を操る主は、何者か。 種子を暴走させる様に発芽させている処からして、残忍な性格が覗える・・」
ユリアは、アンソニーを覗いて。
「アンソニー様、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。 陽が出て居無いから、この始末をさせるモンスターに対する怒り以外の気分はいいよ。 その一点だけで、腹立たしいにも程が在るがね」
淡く燃える様な黒を含む紫色の魔力を瞳に宿したアンソニーは、死んだ二人の遺体をモンスターにした。 そして、悪魔の蔦を引き抜かせる。 心臓辺りに絡まって居たその根っ子は、臓器に刺さる様にして根を張っていた。
霧と曇りの御蔭で、薄暗い広間にてそれを見るロザリー。 何とも惨い有様の様で、口を片手で覆ったのも無理は無い。
アンソニーの誘導で、ゾンビと化した遺体は甲板へと。 そこで、船員がバリケードを作って冒険者も通さない船首で、悪魔の蔦を海に投げ込み。 その後、ディスペルの魔法で塵に・・。
船員を塵にしたアンソニーの顔は、悲しい表情を色濃くし。 また、その気持ちが解るセイル達仲間もまた、彼の近くで悲しみに暮れる。
それを見ているルメイルは、鎮魂の儀をする為にとバリケードの内側に居た訳だが。 その美しく悲哀の貴公子の様なアンソニーを見つめていながら、小さく呟く声で。
「モンスターなのに・・、何で・・・」
と。 正直、彼女の信仰する神は、主だった神の中でも信仰神として選ばれるには希少な方だ。 愛欲と自由と美を好み、時として施しや恵みを与えるヴィーナス(女神)・アフィロディテ。 聖なる力を与える信仰神としては、信者が少ない。 その露出の強い服は、見る・魅せる事の自由を現し。 彼女の歌う聖歌は、眠りと恋心を呼び覚ます効果が有った。
神聖な神の中では、自由奔放と云うか。 気まぐれな性格が強いアフィロディテを信仰する者は、時には娼婦だったり。 時には、恋愛のみが許され。 結婚は、自由を奪う事だと思う者が信仰する傾向が有った。 美貌と恋愛に人生を費やす貴族の一部にも、その信者が居る。
そしてこのルメイルもまた、性的に自由で在りたいと思う方であり。 ローブなどでシッカリと肌身を隠す事に、少女の頃から抵抗が在る方だった。 だが、聖職者としての仕事については、基本的に忠実であり。 その思考を歪めたくは無い。 だが、初めて閉鎖的な航海を言う船の中で、味わった事の無い経験の連続で、さっきは咄嗟的に素の性格の一端が出た。 神聖魔法でもどうにも成らないと思い、さっきはいい加減な発言を・・。 僧侶の全員が真面目で、我儘が微塵も無いなど有り得ない。 寧ろ、在る意味で一番人間らしい一面を見せたとも云える。
さて。
アンソニーは、間近に影の如く見えている島影を見た。
「セイル君。 私は、ホラーニアンアイランドに遭遇するのは初めてだ。 だが、此処で屈するのはゴメンだ。 絶対、この状況から脱したい」
セイルも、島を見て。
「はい。 此処で終わると、リオンの悔しがる顔が見れませんから」
ユリアも同じく。
「悪魔だか悪霊だか知らないケド。 犠牲出した以上ギッタンギッタンにして消滅させてやるわ」
と、拳を鳴らす。
クラークは、そのユリアを脇目に。
「降りかかった火の粉ですからな、徹底的に払わねば・・成りません」
塵を集めて、片手で持つ水差しの様な花瓶に入れたロザリー。 島に関わるこの一件に、真っ向から立ち向かう気を見せるセイル達を見て。
「諦める気は無いよ。 島のモンスターを倒しに行くなら、アタシも行く」
セイル達4人は、涙目ながら怒りを孕む瞳を向けるロザリーを見た。 云って諦める様な覚悟では無いと覗える。
同じく近くに居るファイラポンが。
「ロザリーっ、船長の君が・・」
と、留めるのに対し。
「煩いっ!!!」
怒鳴ったロザリーは、叔父を見返し。
「生きてコンコース島に行ったら、この船ごとアンタに船長をくれてやるよ。 アタシは、船員を守れるだけの知識も、戦う力も未熟だ。 ・・冒険者に成る」
と、塵と成った船員が入った花瓶を抱いて立て膝に成る。
「ロ・ロザリー? ほん・・本気で云ってるのか?」
目を大きくして云うファイラポンに、斬りつける様な視線を向けたロザリーで。
「船を動かす事を、父から受けたのはアタシだ。 そのアタシに航海士が逆らうってなら、船は分裂したも同じ。 船員を路頭に迷わすなんて、アタシは父から習ってない。 船を降りるのは、アタシだ」
ロザリーの言葉に、絶句してしまったファイラポン。
緊迫した様子に、周りも言葉が無い。
ツバの広い独特な形状のキャプテンハットを被ったロザリーは、剣の納まった鞘ごと手にして立ち上がると。
「宣言する。 アタシは、この状況を打開する為にあの島に行く。 魔力水晶にこびり付いた悪魔の蔦を払い、船を動かす為に。 冒険者が島に行くか行かないかは、個人的な見解に任せる。 只、命の補償だけは出来ないよ」
大切な骨壷代わりの花瓶を、自室へと置きに去るロザリー。
ユリアは、十分に彼女の方が船長らしいと思った。
★
島に行くと名乗り出たのは、セイル達4人とイーサーのみ。
イーサーの仲間二人は、船に留まる事にしたらしい。 スタンストンは、怪我の治りが悪くなっていた。 一日に何度も怪我を魔法で治していると、その効き目が薄くなる。 肉体の治癒力が下がる為だ。 猛一人のタジルは、瘴気の毒気にやられて船酔いして使い物に成らなくなってしまったのだ。
覚悟を持って、また甲板にロザリーが出て来る頃。 船を引き寄せている島が、ハッキリと霧の中でも見えた。 孤島にしては、集落が一つ入りそうな大きさの岩山を有する島だった。
だが、セイル達やロザリーを驚かせる事が起こる。
先ず・・。
ユリアが、島から海面を這い、何かが近付いてくると云った直後。
「悪魔の蔦だっ!!! みんな伏せてっ!!!」
何十と云う太い蔦が、シュルシュルと船に襲い掛かって来た。
「逃げろっ!!!!」
「船内に入れっ!!!!!」
船員や冒険者の怒号が飛び交う騒動の中。 伸びてきた蔦がマストに絡みついたり、船首の先端の先に巻きついてゆく。 太い蔦から派生した細い蔦は、船の縁や甲板の床に先端を突き刺す様に食い込み。 丸で、根を下ろす様にへばり付いた。 その勢いが衝撃と変わらず、船は大きく揺れ動いた。
その勢いに驚いて、甲板の床に倒れたユリアとロザリー。 大きく船が揺れて、凄い音がしたが。 直にそれが止んだと周りを見れば・・。
「あっ、セイルっ!!」
剣に魔力を纏わせた状態で、太い蔦を受け止めていたセイルが居る。 歯を食い縛り、押しつぶされんばかりの蔦を押し留めている。
そして、他にも。
「うぬぬぬぬ・・・」
「うおぉぉぉぉぉ・・・」
クラークも、アンソニーも、そのセイルが受け止めた蔦の前後に入って居て。 クラークは、槍をクロスさせ。 アンソニーは、片腕で受け止めていた。
「うぐぅぅ・・・、な・薙ぎ払いますよぉぉぉっ」
セイルが云えば。
「おうっ」
「構わぬっ」
二人が応える。
渾身の気合で、一気に剣から魔力が迸る様に噴出させたセイルは、その魔力の力で悪魔の蔦を海側へと押し返す。
アンソニーは、持ち上がる蔦に魔想魔法を喰らわせるのは不味いので。
「クラーク殿っ、一気に押しますぞっ」
と、甲板の縁で受け止めていたクラークの加勢に走った。
「うおおおおおおおおりゃぁぁーーーーーっ!!!!!!!!!!!」
自分と似た太さの蔦を押し戻すクラーク。 其処に、走り込んで来て正拳を見舞ったアンソニー。 二人の行動で、船の外側にと推し戻された蔦は、暴れながら海へと落ちる。
「・・」
床にヘバって見ていたロザリー。 あの蔦がまともに来ていたら、自分とユリアは大怪我か・・死んでいたかも知れない。
「はぁはぁ・・、ふぅ」
魔力を収めたセイルは、額の汗を拭う。 かなり危険な行為で、神経も使う事だったのだろう。 何時もは優しい目の彼が、少し鋭い目を崩さない。
「ユリア殿、それから船長殿も大丈夫か」
クラークは、蔦が落ちたのを見てから、倒れた女性を気遣う。
「う・うん。 すっごいビックリしたぁ~」
と、杖を拾って立ち上がるユリア。
一方で。
「助かった。 あぁ、また借りが出来たな」
と、安堵を見せるロザリー。
だが、そこで。
「まだだ、安心は出来ない」
と、アンソニーの声がすると。
「うわわぁ~~~~」
「なっ・何だっ?!」
立ち上がったユリアと、立ち上がろうとしたロザリーが驚くのに合わせ、また船が揺れて・・。
ーバシィ!!!!ー
乾いた音で、鞭で打ち付ける様な音が・・。
その音の方に皆が向けば、島とは逆側の側面から悪魔の蔦が現れ、船体の縁に食い込んできた。
アンソニーは、完全に船を掌握されたと思う。 蔦の一部が、海の中を通って船の反対側にまで回って来た。 船は、蔦に抱き付かれてしまったのだ。
「この蔦を生み出した主は、船ごと我々を拘束しようと云う訳だな。 船を壊されないといいのだが・・」
甲板の広間の外側と成る壁に張り付いていたファイラポンは、
「おいっ・おいっ!!! 本当に、島に行くつもりかぁっ?!」
と、セイルを見て言う。
セイルより先に、立ったロザリーが代わって。
「行かずに逃げれる手は無いっ。 この状況を見てみろっ、叔父殿っ!!!」
二人の言い合いが始まったのを脇目にしたセイルは、それよりも不思議な事が在ると思った。 島を見るクラークと肩を並べ。
「クラークさん、僕が聞いたホラーニアンアイランドとは、木も何も無い島だと・・。 ですが、あの島には木が生えてますよね? これは、一体どうゆう事なんでしょうか」
尋ねられたクラークも、樹木の林が見える島を見て。
「私も、同様です。 ホラーニアンアイランドは、時として幽霊船の様に海へと沈む為、浮き出す島に木が生えぬと聞きました」
普通に言われる状況と、この目の前の島は明らかに違いが在る。 セイル達を招いたこの島は、一体何が支配するのだろうか・・。
島から伸びてきた蔦が絡みついた所為で、船は横付けする様に島へと近付いていくのだった・・。
どうも、騎龍です^^
いやぁ、3月終わりの強風と、つい先日の嵐で離れの屋根が^^;
強風で倒れた木の影響で、停電と配線切られたりして驚きました。 自然には、どうにも勝てませんね^^:
次話辺りから、朝の更新が出来そうです^^
ご愛読、有難うございます^人^