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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
165/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4

                  セイルとユリアの大冒険 Ⅱ-Ⅰ



                   第二部 飛躍の章



               ≪コンコース島に向かうだけなのにぃ~≫




あの激戦から、少しして。 新たな旅の為にコンコース島へと向かう4人は、10日以上の船旅となったのだった。 海で船を動かして旅をしながら生きる海族。 その彼らの家と云うべき船を動かしている者は、まだ20代と思しき美女船長ロザリー。 旅立ちから一日経って、広間に集められた乗客は、船旅には危険が付き物だと云われた。


今は、その直後である。


「へぇ~、あの神出鬼没のイガルノスタルジムが・・。 それは確かに面白そうだ」


あのセクシーな女船長ロザリーの話が在った食堂兼酒飲み場の広間にて、知り合った別のチームのイーサーと云う人物と話し込む一同。


イーサーの仲間である田舎者戦士スタンストンと、流行や噂に移ろいやすい若者の魔術師ダジルは、その名前を持った島の事など全く知らなかった。


二人に説明しながら、その島の調査をしてみたいとセイルが云うのだが。


イーサーは、元有名チームのリーダーだったクラークを見ながら。


「恐らく、クラーク殿が居るからなぁ~。 何か斡旋所の主が認める仕事をこなせば、君達は行けそうだ。 俺達じゃ、そんな夢は持てない」


と、残念そうに云うのである。


「おい、イーサーさんよ。 俺達は、望み無いのかぁ?」


「おうおう、行ってみたいよ。 リ~ダ~」


スタンストンとタジルが云うのだが。


「アホ。 あの島が現れる時は、何故か不思議とモンスターが騒ぐとか・・。 海上を動くモンスターは、どれも得てして強い。 俺達じゃ、駆け出し何人入れても、島の調査に向かう仕事を請けられないさ。 主が、絶対に認めない」


このイーサーの話に、仲間二人はガックリと肩を落としてしまう。


クラークは、イーサーがやけに詳しいと思い。


「そなたは、行った事が在るのかな? 中々詳しそうだが?」


すると、苦笑いを浮かべたイーサーで。


「実は、自分の父も元は冒険者でしてね」


「ほう」


「イルガノスタルジムは、世界に確認された場所だけでも3・4箇所で見かけられるみたいなんですが。 その一つ、ギャンブルで成り立つ王国と、マーケット・ハーナスの間でも確認されているんですよ」


セイルは、それは噂ぐらいにしか知らなかったので。


「へぇ~、あの噂は本当だったんですね。 稽古場の師範さんに聞いたけど、ヨタ話みたいな扱いだったですよぉ~」


すると、イーサーはセイルに。


「君は、マーケット・ハーナス出身かい?」


「はぁい」


「あぁ・・そうかぁ」


イーサーのその顔は、笑っているがどうも恥ずかしそうな様子で。


クラークは、話を進めようと。


「して、お父上が関係しているのかね?」


「あ~・・はい。 実を言うと、40年近く前の浮上時、俺の父が居たチームが調査に扱ぎ付けて行けたんですがね・・」


クラークは、行っただけでも凄いと。


「おぉ、行ったのか」


と、驚く。


だが、イーサーは恥ずかしそうに。


「それが、見て返って来ただけなんですよ」


聞いていた皆の顔が、イーサーにグッと近付いた。


仲間のスタンストンが。


「ど~ゆ~ことじゃ?」


背後脇の彼を見上げたイーサーで。


「そのままさ。 イルガノスタルジアの浮上で、周囲の島に隠れ棲むモンスターが活発化してさ。 船で行ったはいいものの、度重なる連戦でチームがボロボロになっちまった。 その時のリーダーは、肉眼で確認できる所で引き返す事を決めたのさ」


タジルは、それは様に成らないと。


「あちゃ~、それは失敗も同じだよ」


イーサーも、その言葉通りの失敗した話だけに。


「その通りさ」


と、ゲンナリする。


だが、クラークやセイルは、寧ろ真面目で。 先にセイルが、


「でも、良い判断でしたね」


と、云えば、クラークも頷いて。


「そうですな。 何日も航海して来た距離なら、その内容で強行すれば全滅も在りましょう。 命無くしては、その先が望めない。 それこそ、イーサー殿もお生まれに成らなかった」


イーサーは、そんな二人の話を聞いて。


「実際、その通りでした。 父は、片腕を食い千切られまして、農夫に戻っても苦労の多い人生だったと。 でも、戻らなければ母とも出逢って無かったので、いい思い出にすると云ってました」


足を優雅に組んで、実にいい話だと頷くのはアンソニー。


「いやいや、人間は引き際と押し際を見極めなければ成らない。 それは、実にいい教訓だ。 誰かを説得するにも使える、生きた体験談だね」


すると、ユリアが椅子の背凭れを後ろに傾け。


(死人が言うのも、スッゴク味が有るわぁ~)


と、アンソニーに小声で云う。


(ガク)


言い返せないツッコミに、弱弱しく俯いたアンソニーで。 ユリアの肩に見え隠れしている水の精霊である“雨蜘蛛”が、笑う様に左右へ動いた。


さて、夜にアハメイルを出港して、明けた日中はこんな和気藹々とした様子が在った。


が。


この後、アンソニーとクラークは、セイルとユリアの子供とは思えない一面を見せられる事に為る。


それは、更に一日が過ぎた航海3日目の夜だった。


「よぉ~し、今日もやろうゼっ」


やや荒くれ者と見える船乗り達が集まり、広間の一角でカードをしはじめた。 少ない身銭を賭け合うギャンブである。 酒も箱で用意され、真夜中まで続けられる訳だ。 カードのゲームは幾つも有るが、大抵がポーカーと同じ様な役を作るゲームが殆ど。 賭け事なので、シンプルなゲームが好まれる風潮らしい。


さて。 夜の入りにこの賭け事が始まった直後、客であるあの太った金持ち風の男が自分から参加した。 しかし、直ぐに何度も負かされて、苛立ちのままに船室へと消えた。


それを見ていたセイルが、


「混ぜてください~」


と、参加しに行ったのである。


「はぁ?」


クラークは、賭け事など好かぬと無視して、イーサーやアンソニーと一緒に話をしていただけに。 セイルが子供だとからかわれて参加する光景を見て、正直本気で驚いてしまった。


処が・・。


「うぬぬぬ・・、勝てね~ぞっ」


「おいっ、このガキはイカサマしてないだろうなっ!!」


少しして、船員達が呻き始めた。


当然、この様子は客も見ている。 あの女船長ロザリーも、壇上の一人掛けのソファーで酒を舐めながら見ていた。


騒ぐ船員に、


「セイルは強いよ。 ね、仇討つから、アタシも混ぜて」


と、女の子の声が。


「ぬぬっ」


クラークが呻くのも当然。 名乗り出たのは、なんとユリアであった。


それから、宵も深まり始める手前頃に為ると。


「うぬぬ・・」


「う~ん」


手持ちのカードを見て、脂汗を掻いて睨む船員二人と。


「セイル、アンタ・・あのカード捨てないでいるだろうっ」


と、セイルを睨むユリアが居て。


「うははは~、す~てない」


と、余裕を見せるセイルが居る。


「フム、相当に強いな」


立ち見で試合を見るアンソニーが、セイルとユリアを交互に見てから呟く。


「俺・・絶対に勝てないな」


同じく立ち見で見ていたイーサーも賭け事は嗜むほうだが、その二人のやり方には脱帽だった。


セイルは、先ず負けないやり方をする。 頭脳的で、非常にリスクを見極める。 降りる時でも、誰かの上がりを阻止したり。 勝ち負けで場を流させず、引き分けを上手に使い込むのだ。


一方のユリアは、流れを見て勢いを大切にする。 流れが来てないウチは、如何に速く手を作るかに集中し。 流れが来始めると、大胆且つ強引だったり。 一発逆転を狙って強い役を狙おうとするのだ。


正直、セイルとユリアが勝負しているのも同じ。 他の船員など、殆どカモ同然だった。


男性の客や、勝負を諦めた船員などが周囲を囲んで勝負を見ている。 唸る様な戦いが繰り広げられ、高い役でセイルやユリアが上がると、歓声すら・・。


セイルとユリアは、金が目的じゃない。 勝った掛け金は返すのだが、もう船員が純粋な勝負に熱中して手放して貰えなくなった。


深夜、明日も在るとお開きになったのだが・・。


「セイル君、ユリアさんも。 随分と強いね」


アンソニーが寄って云えば、二人は笑っている。 どうやら二人して、まだ子供の頃からオートネイル家が開く博打場に出入りしていたらしい。


クラークは、あの商人の家の一族がギャンブラー顔負けなどとは信じたくも無いらしい。


「うぅ~ん、見なかった。 そうだ、見なかった・・」


貴族の中には、ギャンブルなど穢れた遊びだと思う者が居る。 これは育ちだろうが、クラークもギャンブルに抵抗が在る方だった。


ワインに珍しく酔ったクラークを、三人が部屋に連れて帰る。 こうして、この日のの夜は更けて行った・・・。



さて。 明けた4日目は、甲板の掃除を手伝う事に。



ギャンブルでコテンパテンにノされた船員達は、何故かユリアに挨拶をするし。 セイルには、既製の食事以外に、自分の持ってる飴だの保存食を食べさせたりして、仲間扱いをし出した。


その日の夜は、また違うギャンブルで船員達をボッコボコにするセイルとユリア。


しかし、嫌味は無く。 また、負けっぷりが良すぎて清々する船員達で、寧ろ昔話に花が咲く様な間柄が生まれていた。 船旅が人生の様な彼らは、それなりにバカ話や噂話にも通じている。 ゲームをしながら話をするセイルやユリアと、周りが楽しみながら団欒が滲んでもいた。


その光景を見るイーサー達や、仲間のアンソニーとクラークも、楽しそうで何よりと雑談に興じる。


そして、6日目の夜。


「チョイト、手下が負けっ放しじゃ頭の名前が廃る。 アタシも混ぜて貰おうか」


と、船長ロザリーが加わってきた。


ユリアは、その化粧した大人のイイ女感が溢れるロザリーに。


「カッコイイ~、あんな女性ひとに成りたいな~」


と。


周りの船員は、ユリアに同意を求められて一同が一斉に頷く。 怒るユリアの怖さも、もう見知ってきていた。


普段は、船員達を相手にしてもとても詰まらないと云うロザリー。 そのカードの仕切り回しも上手で、先ずはと勝負を挑んだユリアとは、実にいい勝負だった。


カードを切る間に、ロザリーはユリアへ。


「御嬢ちゃん、中々ヤルじゃないかい。 これは丁度いい相手だ」


と、云えば。


「ロザリーさんカードの捨て方カッコイイ~」


と、見惚れるユリア。


だが、其処にセイルが入ると・・。


「・・」


「・・・」


女性二人が、急に黙った。 二人が頻りに視線を先ず向けるのは、ニコニコと笑顔を浮かべながら手を見るセイルに、だ。 その笑顔が読みを鈍らせるから、真剣になって黙らざるえない。


周囲を囲む客や船員も、強い女性二人が真剣に成るのに合わせて黙り。 そのカードを捨てたり、捲ったりする動きを、それこそ固唾を飲んで見守るのだ。


結局、深夜まで行われた勝負は、一人で半分以上はセイルが勝った。 次にユリアで、ロザリーはその次。


「はふぅ・・、子供に完敗とはねぇ~。 アタシも、まだまだだわぁ」


幾分、普段の自分に還った様なロザリーは、まだ20半ば過ぎだけあって実に艶やかで若さも残るイイ女だ。


「コラ、明日も付き合いなさいよ」


と、セイルとユリアに云う彼女は、スリットの深いスカートから生足を見せる割には、お姉さんみたいで可愛げが覗える。 時折、彼女の色香を目当てに絡みに来る商人とは、その対応が違っていた。 突き出た胸の隠れるブラウスの前で組まれた腕や、軽く足を交差させてスタイルを作る仕草も実にイイ。


セイルもユリアも、基本的に人には素直で付き合いやすい性格だ。 ギャンブルの強さとは裏腹に、その楽しい雰囲気は、付き合う相手を和ませるのだろう。


「あ~、久しぶりに楽しめた。 早く寝ようかね」


軽く御尻を振る様に、優雅さも覗える足取りで船長室に消えて行くロザリーだった。




                      ★



セイルとユリアの冒険は、何か波乱を呼ぶ運命でも定められているので在ろうか。 重大な事件へと、巻き込まれてゆく。 それは、航海8日目の事だ。


昼間、仲良くなった船員と甲板掃除を終えたユリアとセイルだが。 ユリアが、昼の食事を広間でしている時に。


「あ~、今夜は雨だなぁ」


と、フォークを咥える。


テーブルを挟んで向かい合うセイルは、ユリアが云うのだから間違いないと。


「揺れるのは嫌だねぇ~」


右隣のクラークは、大いに頷き。


「ですな。 自分は、最近揺れるとどうも・・」


左隣のアンソニーも。


「嵐にぶつからないといいのだが・・。 初めての船旅で、大嵐に出会った事を思い出す」


ユリアは、アンソニーへ。


「凄く揺れるの?」


もう200年以上前の話だが、アンソニーの記憶は鮮明で。


「凄く。 まだ魔力水晶など無い船だったから、王国の船でもだめかと思ったほどだったね」


すると、隣のテーブルにて食べていたイーサーが。


「今、雨が降るって云ったかい?」


と。


クラークが。


「うむ。 ユリア殿は、優秀な精霊遣いなのだ。 水の精霊の知らせが在ったのだろう」


すると、イーサーは酷く困った顔をして。


「それなら、今夜は酒を控えるか。 船揺れの強いのは、滅法弱いんだ」


この“雨”と云う噂は、直ぐに広間に広がった。 外はまだ少し曇が見えるが、よくよく晴れていたのだから。 雨と云う噂に、半信半疑の者が殆どだっただろう。


しかし、その後。


甲板に出て、身体を動かすセイルやクラークに付き合っていたユリア。 風が少し水気を強く孕み始めていたが、爽やかな北東の風を感じていた。


其処へ。


「失礼だが、君がユリアか」


と、ユリアに野太い男の声がする。


木の棒を得物に、軽い打ち合いをしていたセイルとクラークも、その声に手を止めた。


「そうだけど?」


ユリアが見るのは、クラークと似た背丈の40代と思える日焼けした男性だ。 短い無精髭が生えた顔だが、その海で鍛えられた精悍な顔付き、強い視線を持った男らしい顔は、中々の渋とさを持った燻し銀と云う感じか。 濃い緑の、少し痛みも覗えるロングコートに、船員達と似た出で立ちの男性は、ユリアにこう云った。


「ロザリーお嬢様とも仲の良い君に、こう忠告するのもなんだが。 嘘を言うのは、止めて貰いたい」


ユリアは、首を傾げ。


「“嘘”?」


その人物は、一つ頷いて。


「そうだ。 今夜は、この空の模様からするに星が出る。 雨は、絶対に降らない」


セイルは、素早くその人物の胸に、海の女神である金のネックレスを見つけていた。


(あ・・、この人は航海士だ)


風と天気を読み、船を動かす指針を船長と話し合う航海士。 熟練された経験、豊富な経験を纏めた情報を頼りに、航海を仕切る立役者だ。


だが、ユリアは、


「嘘なんか言わない。 精霊が云ってるモン。 向こうから、雨雲が来るって」


と、船の向かう先のやや右。 西南西を指差した。


「精霊・・だと?」


すると、ユリアの肩から水中華がヒョッコリ現れる。


「ヌゥっ、何だ?!」


異形の生物を見た船員は、その目を凝らすのだが・・。


現れた水中華は、クネクネと茎を動かしながら、その水色と青緑から為る花に浮かんだ顔で。


「アンタさぁ~、海のお仕事してる割に詰まんないオトコねぇ。 お世話に為ってる精霊に向かって、そのコワイ顔は何よ」


何処かのマダムか、それとも飲み屋の少し疲れた女主人みたいな話し方をする水中華。


「これが・・精霊? 精霊とは、見えないものだ」


と、船員の中年男性が言う。


その言葉に、更に目を細めた水中華で。


「だったら、このユリアに謙りなさい。 人に精霊を見せる事が出来る、百年に一度、二百年に一度出るか、出無いかの精霊遣いなんだから」


驚いた船員の眼が、そのままユリアに動いた。


見られたユリアは、水中華に言い方を注意するのだが・・。


水中華は、そのワカメの様な葉を西南西に向けると。


「ユリアに教えた通り、向こうから雨雲が来てるわぁ。 何でか、その周囲が晴れてるみたいで気持ち悪いケド・・・。 嘘だと思っても構わないケドね。 今夜は、確実に雨ね」


すると、其処にアンソニーが遣って来た。 本来、あまり晴れた空の下に出るのは苦手な体に成ったのに、何故かマントを靡かせて出て来た。


「セイル君、チョットいいかな」


クラークとユリアを見ていたセイルは、後ろに振り返る。


「あ、はい?」


アンソニーは、少し顔行きが可笑しく。 不愉快な時の顔に近い顔をしていて・・。


「向こうの船が向かう側から、何となく気味悪い気配が感じられる。 この方向の遥か先だけ、私と同じ気配がするのだ」


小声で、セイルにそう言ったのだ。


これをクラークも見ていたし、ユリアと船員も見ていた。


アンソニーの相談を受けたセイルは、何か考える仕草に。


「まさか・・、幽霊船とかじゃ無いですよね?」


と、アンソニーへ。


それを聞いた船員は、目をギュっと凝らす。


しかし、アンソニーが云うには・・。


「私が聞いた話では、幽霊船は獲物の近くまで海中に潜ると聞いた。 不死の力も、強い精霊力の中に包まれて潜まれると、間近までは感受しにくい。 しかし、そういった・・」


アンソニーが話す間に、船員の男はユリアへ。


「失礼する」


と、去っていく。


その船員の背中を見たユリアは、そのまま船室に消えていくまで見送った。


そして、全ては此処から新たな事件へと。


夕方、急に風向きが変わった。 不気味に生暖かい南方面の向かい風に成った。 船長のロザリーは、この時点で雨雲や嵐に遭遇するという可能性も有ると情報を出したが・・。


夜に為ると、雨の中に入った。 いや、本当に入ったのだ。 船に向かって伸びてくる様な黒い雨雲に、丸で掴まる様に雨の中に入った。


雨の中に入っては、流石の船員達も遊んでいられない。 甲板に出て海上を見回ったり、船の再点検に動いたり・・。


ユリアとセイルは、支給をしてくれる太った初老の老婆の手伝いをして、船員の面々が戻って来たら食事を出してやる。 客がする事じゃないが、付き合いが自然に出来ていた。


「アリガトウな」


細身の船員二人が、客も殆ど居なくなった広間にて食事をする。 ずぶ濡れと為った髪に手拭いを乗せ、雨具から出た長袖のシャツもぐっしょりと濡れていた。


ユリアが、別の乾いた手拭いを出して。


「そんなに雨が降ってるの?」


と、聞けば。


「あ、助かる」


と、手拭いを受け取った船員で。


「いやぁ~参った参った、久しぶりの大雨だよ。 甲板の水捌け様の穴に、雨水が詰まりそうに為ってる。 強い風が止んだからいいが、そうでなきゃ大嵐だゼ」


コンコース島まで、残り4・5日と云う所での大雨に、船員達も困っている様だった。


どうせ暇なセイルは、夜遅くまで起きてると云うので、ユリアも付き合う事に。 アンソニーとクラークも同様で、アンソニーは浮かない顔で座ったまま。 クラークは、セイルやユリアや精霊と雑談をする。


処が。


深夜頃。 船員達も交代で休み出すので、セイル達も休もうと云う事になった。


すると、この時になって急にロザリーが現れて。


「チョイト、急な話いいかい?」


と、云ってくる。


セイルは、話は聞くと各テーブルの近い椅子を持ち寄り、テーブルに腰掛けたロザリーを囲んだ。


ロザリーの脇には、昼間にユリアを嘘吐きと云った男が居て。 ロザリーは、一同に。


「コッチは、アタシの叔父さんで航海士のファイラポンって言うんだ。 昼間は、チョット面倒したね」


セイルは、雨に為るまでは航海士として信じられない状態だったのだろうと擁護。 ユリアも、精霊が云ったなんて誰も信じないから、気にしてないと云った。 精霊を見れない者や、自分から精霊が出ない事が多いので、こうゆう事は数多く経験済みなのである。


ロザリーは、ユリアの肩に薄っすらと黒い衣服に羽根を生やした少女が座っているのを見て。


「それが精霊か・・、アタシにも見えてる」


闇の精霊であるシェイドは、今日はより女の子らしい感じで現れていて。


「コンバンワ~」


と、ロザリーに手を振る。


ロザリーは、もうこれは信じるとか、信じないとかの問題じゃないと思った上で。


「昼間、アンタ達は幽霊船の事を話していたそうじゃないか。 実際、どうなんだい? 近いのかい?」


と、尋ねる。


セイルは、どうしてそう思うのかをロザリーに尋ねると。


「・・、実はね。 去年の暮れに、二隻の船がこの辺りで沈められてるんだよ。 一隻は、確実に幽霊船に襲われてる。 これは、逃げた別の兄弟船が見ている事だから、間違いは無い。 もう一隻は、無人で漂流しているのを発見されたんだが、船内に人の殺された痕跡が生々しく残ってたとか。 可能性が在る以上、情報が欲しい」


と、ユリアやセイルを見る。


すると、アンソニーが。


「ならば、こう云おうかな。 この雲の先に、不気味な雰囲気を出す一角が有る。 不思議なのは、夕方に少し向かう角度を変えたはずのこの船だが。 その不気味な気配は、この船の向かう先に合わせる様に動いた」


その話に、ロザリーと航海士のファイラポンは、困惑の顔をしてみせた。 そして、ロザリーは、


「難しい言い方だね。 幽霊船は獲物を捕まえる前に、今夜みたいな気味悪い雨雲を遣させ。 そして、霧を発生させる。 もし、明日に霧が出たら・・」


セイルも、ユリアも、幽霊船と戦うのかと緊張する。


しかし、ユリアの肩に座るシェイドが、こう云う。


「ねぇ~ねぇ~、この雨に瘴気が薄っすらとも含まれて無いよ。 幽霊船が生み出す物なら、瘴気が含まれるから解るわ。 それより、先の気配の方が不気味~」


ロザリーは、ユリアを見て。


「何を云ってるの?」


と。 どうやら、見えていても適正薄いロザリーには、その話している言葉がか細く鳴いている様にしか聞こえない様だった。


「あのね、雨雲に亡霊や悪魔の纏う力が含まれて無いから、生み出されたものじゃ無いって。 それより、船の向かう先に居座る様な、アンソニー様の感じた気配の方が怖いって」


それを聞くロザリーは、頷くだけ。


だが、ファイラポンと云う航海士の方が真剣で。


「ロザリー、もしかするとホラーニアンアイランドの可能性も有る。 雨から抜けたら、見張りは増やそう」


云われたロザリーは、彼を見て。


「構わないけど、この精霊の云う事を信じていいの?」


すると、ファイラポンは、険しい顔をして。


「雨が降った事より、風と空と太陽で予測出来ない事が起こったのが不気味だ。 安全を得る為なら、臆病な程に用心していい。 海の上では、他に助けを求められないのだから」


ロザリーとて、船長としての心得も有るので。


「・・解った。 明日は、アタシも見張りに出よう。 一番目がイイのは、アタシだからね」


ファイラポンは、しかと頷く。


すると、ユリアが。


「ロザリーさん、モンスター出たら任せて。 セイルやクラークさんは、対モンスターだったら凄いから」


と、云う。


セイルとクラークは、お互いに見合うし。


アンソニーも、


(私は・・?)


と、ユリアを見る。


ロザリーは、まだセイル達の実力など知らないのだが。


「ま、いざとなったら、その力を借りようかな」


と、笑顔に変わる。


こうして、一同は解散と為り。


「ユ・・ユリアさん、私は・・」


アンソニーがユリアに聞けば、ユリアは半目のニタり顔で。


「女垂らしの方が得意だと思って、ごめんあそばせ」


「ガク・・。 そうなるか」


アンソニーは、何とも言い返せないと肩を落す。 アンソニーの力は、人に言えるものじゃない事を理解しているユリアであり。 アンソニーも、妖術を使う嫌味からそれを理解していた。


船内通路を行くセイルとクラークは、火事を恐れてもう明かりが殆ど無い暗い中を行きながら。


「セイル殿、モンスターとの一戦は在るのかの」


「いや、どうでしょうか。 ホラーニアンアイランドは、船を待ち伏せる方だと聞いたので。 アンソニー様の感じた気配がそうなら、可能性も在るかと・・。 ま、面倒は嫌ですが、遣るとなったら頑張りましょう」


「ふむ、覚悟はして於きましょう」


こうして、一同は寝る事にした。


明日は、それこそ大変な事件が待っているとも知らずに・・。

どうも、騎龍です^^


今回から、セイルとユリア編に入ります。 話の分割の仕方によっては、少し長くなりますが。 次のウィリアム編とのかみ合いを考え、前半後半に分けるかも知れません。


モンスターが数多く出る話が続きますが、どうぞ宜しく^^。



ご愛読、有難うございます^人^


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