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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
164/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ⑮

           K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕



                ≪行く道に掛かる暗雲は晴れず≫





馬車が、とある建物の前に停まった。


「・・・」


ルヴィアは、何も声が出ないと云う顔で。 口元が引き攣っている。


「さて、着いた着いた」


「着いた~」


Kとリュリュが先に降りた場所は、ガーデンと見て良い庭の入り口。 剪定された樹木が、一面芝生の庭に彩りを添えていた。


さて。 問題はその庭の先。 世界でも最大の巨城と賛辞が贈れそうな規模の城が見える。 四角い外観で、中の敷地には、幾つもの大きな屋敷や離れ、更に様々な塔を有した城だ。 だが問題は、その城が浮いている。 高みに・・ではなく。 底の見えない白き光が蟠る場所の上にだ。


庭から城へと伸びる架け橋に向かう一行だが。 その架け橋には、学生と思われる若者達が行き来していて。 その若い者では、10歳に満たない少年や少女。 上を見れば、オリヴェッティと似た雰囲気の若者も居た。


「懐かしい。 私も、此処に来た時は、あの様な若者であった」


懐かしむウォルターに、クラウザーが。


「しかしウォルター殿」


「ん? 何でしょうかな?」


「お忙しかった若かれし時のウォルター殿は、長く学院に居れなかったのでは? 私の記憶では、卒業してお帰りなる時が、私がキャプテン・サミュエルの元で働き始めた頃の様な・・」


「確かに。 私は、一度十代の前半で魔法の修行を終え。 十代の後半に、もう一度極める修錬をしました。 どちらも、期間としては2年ほどですな」


「ほう・・。 たった2年で扱える様にですか」


学生達を見ながら微笑むウォルターは、過去を思い出す遠い目をし。


「この学院では、最短で1年と少しの者が居まして。 何百年前と云う先輩の方ですが、当時はライバル心を燃やしましてな。 いやいや、何処でも騒がれないと気が済まない性分らしい」


「フフ、ウォルター殿らしいですな」


老人二人の会話の最中。


「おい、オリヴェッティ。 あれ・・冒険者じゃないか?」


片足の不備を補う為、杖を付いて歩くビハインツの眼に。 学生と見える者2・3人と、武装した冒険者と見受けれる一団が一緒に歩いて来るのが見えた。


オリヴェッティは、それを見て。


「あぁ・・。 授業の中には、少し危険な科目も在りますの。 自腹負担で、冒険者に協力を頼むのも可能なんですわ」


「へぇ、ある意味でズルだな」


「まぁ、そう云われても仕方無いですね。 でも、他には、学院側から仕事の依頼も有るのですが、その中の条件に生徒を同行させる場合も在るんですの。 見届けの生き証人と云う役目だったり、目的の物を採取する働き手だったり。 後、冒険者側から、魔法を扱える生徒を紹介して欲しいと来る場合も有りますのよ」


ビハインツは、仕事と成ると危険なものも含まれる為に。


「危なくはないのか?」


「んん~、危険は承知です。 学院の任務として冒険者に同行する事も、実は学院内の応募募集に張り出されたりします。 生徒は自分で志願し、自分から手伝いに出ます。 お金が多く入る手伝いですが、危険は自分持ち。 学院では、自分の選択する行動には、自分で責任を持たなければいけないのが掟です」


「ふぅ~ん、厳しいな」


「えぇ・・。 でも、卒業した大半の方は、国に仕官するか、冒険者や学者などに成るか・・・。 その道は自分の道ですから、仕方在りません。 魔法を身に付けられない場合は、10年で学院を強制卒業させられますしね」


「そうなのか」


ビハインツが“有限”の入学に納得すると、其処に聞いていたルヴィアが入って来て。


「しかし、金を取っておいて、10年でマスター出来なければ放り出すと云うのも些か・・。 入学時で、素質の云々と共にその辺の事も解らないのか? 此処に来て身に付けられないなど、逆に恥ずかしいと思うのだが」


これは確かに・・と、思える意見だが。


「ルヴィア、それは違いますのよ」


「ん?」


「魔力が在っても、先天的な特異体質で魔法の習得できない方が僅かに居ます。 エンチャンターに成る方の殆どが、その体質から身に付けられませんの」


「ほう、それは不思議な」


「その中には、あのエンチャンターとして名を馳せた、冒険者エイミー・シャロンさんがそうです」


「えっ?! エイミー・シャロンって、街を襲った暗黒竜を倒したと云う人物ではないかっ」


驚くルヴィアに、同じ表情のビハインツ。 この人物の名前は、冒険者の昔話としてかなりポピュラーな方に入る。 超魔法時代が終わった直後、魔法の力が不安定に成った時期が在った。 空間魔法で転移移動を試みた或る魔法遣いが、何と呪文と魔方陣を間違え、暗黒の力を持った魔界の妖精を召還してしまった事が発端である。 その妖精が暴れ、モンスターを次々と凶悪化させたのだが。 中でも、大きな館に匹敵する下級のドラゴンを、暗黒竜として凶悪化させ。 その周囲の街を襲い始めた。 この時、エンチャンターで在ったエイミーは、仲間とその竜を倒し。 他のモンスターも討伐して回ったと云う。 話の場所は、この東の大陸の南端の国である。


学生を見るオリヴェッティは、何度も頷き。


「魔法を習得できないからと云って、決して才能的には劣っている訳では在りませんのよ。 魔法が幾つも分かれているのも、その適正が在るからですし。 習得出来ない方とは、複雑に邪魔し合ってしまう適正を持つ有能者だからなんです」


「そ・そうなのか。 ぶつかり合う才能が、習得の邪魔をするのだな?」


「はい。 それから、それぞれの魔法には、古代から受け継がれた古代の魔法語が用いられますが。 この魔法語も、適正が存在します。 ケイさんが使える基本魔法を習得出来ても、魔想魔法の具現化に関する魔法語が適正に合わなかったり。 自然魔法の召還部分の魔法語が合わなかったりして、習得が出来ない方も居ます。 しかし、エンチャンターとして武器に魔力や自然の力を付加して、武術の腕を鍛えれば達人にでも成れます。 私と同じ年齢の卒業者に、その片鱗を身に着けた女性が居ましたわ。 彼女なら、その内に有能な冒険者として名前が聞こえて来ると思います」


ルヴィアは、その女性に興味が湧き。


「名前は?」


「ソフィア。 ソフィア・ローラレイ。 魔力そのものだけではなく、自然魔法の力も付加出来る逸材です」


「ほう。 して、得物は?」


「両手に持つ短い剣や、長剣が主みたいでした。 私は武器の種類に疎く良く解りませんが、ソードブレイカーとか云う武器も扱えると云ってましたね」


ルヴィアは、流石に武器を扱う者である。 その名前を持つ剣を知っていた。


「なるほど、あの変わった剣か。 そんな面白そうな者も居るのか・・、私も、もっと腕を磨きたいものだ」


と、遠い目をして向かう城を見た。


一方、話をジッと聞いていたビハインツは、その武器の名前しか知らないので。


「ルヴィア。 そのなんたらブレイカーって、どんな剣なんだ?」


「ん? “ソードブレイカー”は、その名前の通りに剣を壊す剣だ。 形状は、刃の逆側がギザギザした凹凸を持ち。 その凹凸で、相手の刃を刃こぼれさせたり、引っ掛けて折る事も可能だ」


「へぇ、強そうだな」


「いやいや、見た目と裏腹に扱いは難しいぞ。 ソードブレイカーは、力任せでは扱えぬ。 下手に相手が力強ければ、此方の行動に支障が生じるとも限らない。 本当の意味で剣を極めるものが使う武器で、扱えるものも適正が要る」


「そうなのか?」


「あぁ。 私は剣を見た事が在り、一回だけ手合わせをした事も有るぐらいだから。 それこそ突っ込んだ部分までは解らぬが、ケイに聞けばその意味の全てが解ろう」


「・・今度聞いてみるか」


話をしていた3人は、先頭を行く黒尽くめの背中を見た。


リュリュを連れたKは、少し半目のやる気が無さそうな様子で歩く。


(ねぇ、アノ人見て)


(うわっ、顔に包帯ぃぃっ?!! 昔のミイラ葬みたいじゃんっ)


(冒険者かしら・・)


(あんな変わったヤツ、それしか居無いって)


学生の女性二人が、ヒソヒソとKを見て言う。


だが、当の本人は聞いてないのか、その方向も見ない。 Kの横を行くリュリュは、胸ぐらいの高さが有る手摺りから、光が蟠る底なしの下を不思議そうに見ていた。


長い長い石の橋を渡ると、城内に入る門が有る。 城を取り囲む外壁に開いた門だが、其処には学生と見れる制服を着た者が立っていて。 部外者であるKが来ると・・。


「止まれ、冒険者。 これから先は、我々の住み暮す場所だ」


と、止めてくるではないか。


呆れた様子のKで。 そのまだ10代の半ばどうかという若者の男女に。


「アホか。 用事も無いのに、冒険者が此処に来るか。 ノズルドの街から、学院長に向けて宛てられた書簡を持って来たんだ」


すると、少し強気で可愛い男子が、ロングオーバー風の制服の腕を捲くり。


「何ぉ? んじゃ、その書簡を見せてみろっ!!」


と、怒るではないか。


意味が解らないKは、


「ホラ。 後ろに来たリーダーが持ってるよ」


と、左親指を向ける。


門番の様な二人のウチ、長い黒髪のポニーテールを結う女性とは、ジャケットとスカートに別けた制服を中々着こなしていて。


「そうですか。 では、その書簡だけ検めさせて貰います」


と、オリヴェッティを見る。


オリヴェッティが来ると、Kは二人の学生に指を向け。


「オリヴェッティ、この二人が書簡を見たいだとさ」


笑顔のオリヴェッティで。


「あ、学生警護委員会の皆様ですのね」


と。


二人も、直ぐにオリヴェッティが卒業生だと解った。


が。


「はい、ノズルドの街におわしましたガウさんから預かりました」


と、封をされた筒状の書簡を出す。


「フン」


と、その書簡を奪う様に取り上げた女生徒の方が。


「・・確かに、これは調査団の封書ですわね」


しかし、隣から封書簡を見る若者の方は、


「外見だけじゃ解らないよ。 中身を確かめよう」


と、その書簡を取る。


この時、Kは驚き。


「おい、本気かよ」


と、二人の脇からリュリュの襟を掴んで一歩下がった。


その、直後。


「わぁっ!!!!」


「きゃぁぁっ!!!!!」


二色の悲鳴が沸きあがり、蝋封のされた書簡が石の地面に落ちた。


「・・まぁ」


見ていたオリヴェッティは、二人が書簡を開こうとした瞬間。 青白い光の衝撃を喰らい、門の中にぶっ飛ばされてしまったのを見て驚いた。


「な・何が?」


同じく驚いたルヴィアと、眼を丸くしたビハインツ。


Kは、ほとほと呆れるとばかりに。


「アホ。 封書簡は、その宛てられた任意の相手以外が開かない様に、魔想魔術師なら“衝撃の制約”(ショック・ギアス)の魔法を施すの位は当たり前だろう?」


こう云った後に、オリヴェッティに。


「オリヴェッティ、書簡を拾え。 警護なんたらってのは、こんなアホなのか?」


と。


云われたオリヴェッティは、重要書簡にこんな魔法が施されるとは知らず。


「私も知りませんでしたよ」


と、拾い上げる。


横を向いて苦い顔をしたKで。


(おいおい、コイツ等揃って重要書簡の意味を解ってないぞ・・)


ぶっ飛ばされた二人は、髪を乱して中側の芝生の上に転がる。


「いててて・・」


「いや~ん、何よっ、もうっ」


身を起こしたその二人の前に来たKは、


「お前達、国の魔術師が最重要視する書簡に、特定の封印魔法を施すぐらいの想像力を持たないのか? そんな事だと、冒険者に成っても一年もしないでおっ死ぬぞ」


と、注意を言う。


髪が解け、首をさする女生徒で。


「魔法の封だなってっ、最重要書簡じゃないっ。 何で学院政府に行かず、学院長に来るのよっ!!!」


もう救いようが無いと思うKだが、この意味をこの若い二人に語っても理解出来ないと思い。


「何にせよ、それだけ大切な書簡ってこった。 悪いが、屋上に居る学院長に会うぞ」


と、中に入る。


若者の男子は、地面に座って身を起こした状態からKに。


「お前みたいな冒険者風情がっ、どうして学院長の居場所を知ってるんだよっ」


しかし、云われたKは左手を上げただけ。


後に続くオリヴェッティは、その若い二人へ。


「先に此処を卒業した者ですが、委員会の方だからとその口の利き方はいけませんよ。 貴方方の印象は、外部の方からするなら学院全ての印象に思われます」


と、言い置いた。


魔法の衝撃の影響で、人が門に集まり出す。 その中で、ウォルターとクラウザーが後に続いた。


学生寮、図書館塔、実験塔、修錬広場、教師寮、封印塔、その他云々。 多数の建物が有る城内の敷地。 一番大きな城は、外観がそうなだけの学生寮ならしい。


Kは、何故か学院長と云う肩書きの最高位に居る人物の居所を知っていた。 学生寮の最上階。 円錐形の塔に住む人物の元に向かって、城内へと入ってしまう。


オリヴェッティから色々と説明を受けるルヴィアとビハインツだが。 ルヴィアは、この流れから先を予想していた。 小声でオリヴェッティに声掛けて・・。


(のぉ、もしやケイは、その学院長とやらを知っているのではないか?)


オリヴェッティも、其処がどうかと思って居た。


(私もそんな気が・・。 この街や学院の内部を知り尽くしているみたいですし、過去のお仕事で知っているのかも・・)


Kが、元は“P”(パーフェクト)とコードネームを付けて、闇の秘密裏に世界の汚れ事を解決して回った事はもう知っている。 ルヴィアやビハインツなどは、それも有るから尚にKが怖い。 彼の過去の旅で出来上がった人脈は、常人の築ける範囲を遥かに超えている。


確かに、この二人の予想は当っていた。


城内のエントランスロビーに入ったK。 その隣に居るリュリュは、学生達が犇く広いロビー内を見て。


「ケイさん、エラい人って何処?」


魔法の衝撃騒ぎが伝わり始めた処に、包帯を巻いたKが堂々と踏み込んで来るのだ。 学生達はKを見る。


「この建物の最上階だが・・、どう行こうかな」


リュリュは、幅の広い大階段を指差して。


「正面とっぱ~」


頷いたKは、歩き出して。


「一番楽な行き方だ」


「わ~いわ~い」


何者が来たのかと思う学生達の中を歩くKは、黒服の女性用礼服を着た大人の人物の前も通る。


「オネ~サンも居るぅ」


フードを上げてその女性を見たリュリュだが。 逆に絶世の美少年を見る学生達で。


「うわぁ~っ、かっわいいぃっ!!!」


「何であんな包帯のバケモノと、あんな可愛いコが一緒なの?」


魔法を教える教師か、学生の面倒を見る何者かと思しき女性もまた。


「あら・・まぁ」


と、リュリュの顔に目が向かった。


大階段を上るKは、リュリュのフードを荒く戻し。


「見せんな。 面倒だろうが」


「ブブブ~~~~~」


頬を膨らますリュリュで、大人びた女性に手を振る。


後から入って来たオリヴェッティは、その様子に困った苦笑を浮かべる。 そして、その礼服姿の女性に近付くと。


「ロルナ寮母長」


と、声を掛けた。


「え?」


ハッとした様な様子で、オリヴェッティへと振り返るその女性は・・。


「あ・・、あ? あ・・貴女は・・オリヴェッティ?」


オリヴェッティは、笑顔を浮かべて頭を下げた後。


「はい、お久しぶりです」


オリヴェッティの全身を見回すその礼服女性は、穏やかな笑顔に変わり。


「ホントに久しぶりね。 あらぁ、卒業の頃よりも綺麗になって・・」


褒め言葉に恥ずかしがるオリヴェッティで。


「ありがとう御座います。 ロルナ寮母長も、お変わりなく」


すると、ロルナと云う女性は苦笑して。


「“お変わり”有るわよ。 私、去年に結婚して、これでも子供まで居るんだから」


と、云った後。 階段を見て。


「見た所・・冒険者に成ったみたいね。 今の包帯を顔に巻いた人も、お仲間?」


オリヴェッティは、後ろに老人二人が追いついたのを確認してから。


「はい。 ノズルドの街で事件が在りまして、諸島を調査する団長様から学院長宛で書簡を預かりまして。 そのお届けに」


すると、ロルナは首を傾げて。


「書簡? 魔法の伝心通信でもいい様なものね」


此処で、オリヴェッティは、ガウから情報の中身は明かさない様に云われているのを思い。


「私達は、頼まれただけなので。 その中身は知らないんです」


ロルナは、それもそうだろうと。


「あ、そうよね。 ご苦労様。 さ、早く最上階に行きなさい」


オリヴェッティは、直ぐ其処の門前で在った出来事を言う。


ロルナは、困った笑顔で門の方を見て。


「あのコ達、先月にあの役目に成ったばかりなのよ。 領家の子達だから、何でも上から掛かるのよねぇ~。 偉ぶる為の委員じゃないのに・・はぁ。 ま、そのことは任せて頂戴」


オリヴェッティが頭を下げるのと同時に、ロルナへと会釈を交わすルヴィア達。 学生達などに見られながら、階段を上がっていった。





                ★そして、先に行く前に★





城の形をした学生達の生活場、学生寮。 その最上階には、一人の老人が住んでいた。


「お待ちなさいっ!!! ご用件が在るなら、先ずは我々に・・」


その老人が住む塔型の建物に上がる階段の入り口では、Kを止めようとした男性がリュリュに引き摺られて。


「う~るさい」


と、云われて捨てられる。


Kは、リュリュに外の屋上へと捨てられた赤い上質な法衣に龍の刺繍をした人物を見て。


「ノズルドの街から預かった書簡は、直接手渡せとガウのオッサンが云ってた。 悪いが、秘書の出しゃばる処じゃねぇ」


「じゃねぇ」


真似するリュリュだが、その身体には風のエネルギーが溢れている。 この塔を守り、学院長と客の間に立つ秘書と云うのが、これがまた偉ぶった態度の融通が利かない相手なので、リュリュは少し怒っていた。


屋上のテラスに転がっている秘書官は、全員で3人。 自分の生み出した脅しの魔法をリュリュに潰され、その反発から波状した力を受けて気絶している者が2人。 そして引き摺られて捨てられた人物は、


「あぁ・・、何と云う強力な魔力だっ!!!」


と、リュリュの身体から出る力に勝ち目が無い事を知るのである。


すると・・。


「ふむ、なんと純粋な風の力だろうか。 この様な神々しい力を出す者が、この世に居るとはのぉ」


と、その場に新たな老人の声がする。


時間帯も良く解らない場所ながら、昼頃だと思う頃合い。 Kが踏み込もうとした塔の外の裏側から、一人の老人が現れた。


塔に踏み込もうとしたKは、その声を聞く前に外へ出ると。 現れた老人が自分を見るのを待ってから。


佑公ゆうこうのパスカ、面倒な秘書を置いてるな」


と、声掛ける。


古びた木の杖を持ち、ヨチヨチとした足取りで歩く老人は、何処にでも居そうな隠居老人の様だったが。 Kを見れば、その目を大きく見開いて。


「・・御主は、あの時の?」


だがKは、応えるより先に、その手に在る記憶の石を投げた。


「?」


老人前で、飛んだ記憶の石がフワリと止まる。 そして、老人が左手を差し伸ばせば、その手の上に石が降りてゆく。


それを見たKは、


「俺のリーダーが持つ書簡と共に、アンタへ直接届ける仕事だ。 中身を見て、腰を抜かすなよ」


と。


「抜かすなよぉ~」


真似を云うリュリュ。


オリヴェッティが来るまでの短い間、老人は記憶の石の中身を見た。


「ケイさんっ、コレは一体?」


権威の高い秘書官が、3人ともノされているのを見たオリヴェッティは、何をしたのかと驚いたのだが。


大きな目を開いた老人は、近付いてきたオリヴェッティに向いて。


「書簡を持っているのは、そなたかな? 済まないが、見せて頂きたい」


と、云う。


「えっ? あ・・あっ! はっはいっ」


オリヴェッティも学院長の顔ぐらいは知っている。 魔法を遣う者の頂点に立つ人物に云われて、オリヴェッティは更にうろたえた。


老人に書簡が渡ったのを見たKは、解った事は全て伝えようと。


「書簡の内容だけでも十分だろうが・・、ノズルドで脱走騒ぎが在ったんだって? その首謀者は、ホンムクルスを使ってるぞ」


書簡の手紙を開き掛けた老人は、“ホンムクルス”の言葉にその手をピタリと止め。 そして、徐ろな動きで相当に衝撃を受けた顔を上げた。


「ま・・真か?」


Kの眼は、もう真剣なものに変わっていて。


「あの甘く煩いオウマソウの臭いを、薬師でも在る俺が間違えるかよ。 逃げた斡旋所の主ってのは、相当に魔法を遣えるヤツだろう? 悪党の一味に入り込んだら、一筋縄で行くとは限らない。 その辺、どうするんだ?」


「どうする・・か」


俯く老人。 この事態は、魔法学院自治領の最高指導者をも悩ませる事態なのだろう。 老人の険しく成り掛けた顔を見るオリヴェッティ達は、固唾を呑んで見守る。


だが、Kは違った。


「逃げた斡旋所の主ってのは、何等かの目的が有って一人の若者を脱走させてる。 主の狙いが俺達と同じなら、相手は必ず俺達を追うだろう。 始末を付けるのが俺達なら、無理に捕まえに走らなくてもいいぞ。 魔法を平気で人に嗾ける事が出来る輩を相手に、殺さず魔法で捕まえようなんて甘い考えだからな」


このKの話に、老人はKを見る。


「御主が始末を付けると申すか?」


「と、云うか。 俺達の旅の目的は、海旅族の遺産を見る事だ。 そして、逃げた主の目的は、それを奪う事かも知れない。 俺達の向かう道と、向こうの向かう道は交わっている可能性は否定出来ない。 その道に他人が戸を立てれば、向こうは容赦しないって事だ」


その老人は、Kに手を差し向け。


「少し、詳しく話をしてくれないかの。 次の目的の街までは、此方からまた馬車を用意する。 一日、此処に居て貰えぬか?」


Kは、オリヴェッティを見てから。


「それは、リーダーに聞け。 俺の判断じゃない」


学院の最高指導者である老人は、オリヴェッティに向いて頭を下げる。


その姿を見たオリヴェッティは・・・。


(嗚呼、これは・・)



               ★そして・・、相手も自由を得て★





それは、何時かの夕方。 山に沿う寂れた街道で。


「ふぅ、やっとこさ降りれたねぇ」


黒い形の奇妙なローブを着た何者かが、森の中の街道に出てこう云った。 片手に木の杖を持ち、身体が悪いのか片足を引き摺り。 前屈みに近い姿勢で、大きく身体を動かして歩く。


そのローブの人物が出て来た直後に、顔をフードで深く隠した別の者が出てきて。


「向こうの木で鳥が飛んだよ。 誰か来るかも」


若い男性の声で、そう言った。 アンディの声だ。


すると、黒いローブを纏う人物は、


「ウヒヒヒヒィ、それは丁度イイねぇ」


この不気味な口調は、アンディを逃がして逃走した斡旋所の主に間違い無い。


この二人が居る方に、一台の馬車が向かっていた。


「おい、今回は高く売れたな」


幌を持たない荷馬車の二台に乗る中年男が、馬を操る同世代の男性に声掛けた。 少し汚れた厚手の黒いズボンに、やや色褪せたこげ茶色のベスト、染みが見える白い長袖のシャツを着た農夫であろうか。


馬を操る人物も、ツバの広いアーメット帽(ハンチングに似たもの)を被り、首に綻びの覗えるマフラーをして、農夫ややや貧しい一般人調の衣服を着ていて。


「あぁ。 でも、今年もこれぐらい収穫出来るといいな。 今回は、娘に甘い飴を買えたが。 中々、毎年買ってやれん」


荷台の男性も。


「おうだな。 ウチの坊主にも、そろそろ勉強道具を買ってやりたいよ」


この二人、共同で農作業をする間柄なのであろうか。 家族の話を軸に、収穫を上げる工夫をどうしようかと話し合っていた。


だが、その話は実現出来ないものだった。


馬が走る街道の路上に、膝を突いた老婆と思われる黒いローブの人物が見えた。 田舎の農家と思われる二人は、馬車を止めてその老婆と思しき人物を助けようとする。


しかし、二人が揃って声を掛けた直後。


「うぎゃぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」


御者をしていた男性が、その黒いローブを纏った人物の突き出した杖から放たれた魔法を喰らってしまった。


「うわぁぁっ!!!!!! おいっ、大丈夫かぁっ?!!!」


荷台に乗っていた男性は、魔法に因って馬車の後方にまで飛ばされた仲間を見に慌てて走るのだが。


「仲良く死んじゃいなよお゛っ」


と、魔法の飛礫を背中に浴びせられる。


ーヒヒヒィーーンー


馬が暴れて走り出そうとするのだが、一足先にアンディが御者の座る席に居て。


「どぉっ、どうどうぉ」


扱い慣れたし様で落ち着かせる。


馬が落ち着く間も待たずして、リドリンは杖を付いて荷馬車に乗り込む。 脇の足掛けの段から、揺れ動く荷台に這い上がるリドリンで。 その一連の動きは、丸で傷害を持った男性の様な荒々しいものだった。


「フンっ、煩い馬だよ。 走らないなら、持ち主同様に殺してやるっ」


と、息巻いた。


アンディが馬を宥めて落ち着かせると。


「馬だって気持ちが在る。 飼い主殺されて、リドリンさんみたいな人が荷台に乗るから脅えてるんだ」


「フンっ、お前も口が達者だよ。 さっ、辺境街カイデまで走らせなっ。 早くしないと、あの冒険者達に遅れを取っちまう」


アンディは、馬だけでも助けたくて。


「さ、行こう」


と、タズナを動かした。


農夫二人の荷馬車が、二人を路上に捨てて遠ざかり始める。


「・・あ・・・うぅ」


飛礫の魔法を受け、炸裂する魔法で服はおろか身体まで破損させられた男性は、その目で仲間を見て呻いた。 在らぬ方向に首が捻じ曲がり、折れた首の骨が皮膚を突き破って見えていた。 背中の肉を削り飛ばされた自分も、直に彼と同じく死ぬと解った。


オリヴェッティの行く先に、悪魔の如きこの魔女が立ち塞がるのだろうか。


そして、秘宝は見つかるのだろうか・・。



K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕ー完

どうも、騎龍です^^


今回で、K編の二部が終了です^^;


もう少し書こうとも思いましたが・・。 内容的に、直ぐに他国へと移動したり色々と忙しいので、此処でキリがいいと判断致しました^^


次の三部は、今までのお話でも一番長くなりそうですが、色々と色濃い内容に為ると思われます。


振り返ると、最初の考案時にはアンディと名前が決まらない彼のキャラが居ましたが。 ブラッシュアップ時に長い内容だと削除しました。 が、あのデータ消滅の一件で、また最初から見直す事となり、復活したキャラでした。


今に書いて見ると、出して正解だったと思っております。


そして、次のセイルとユリア編の話も、K編とのかみ合いで一度ブラッシュアップで消した話から始まるのですが・・^^;


長い話に成りますが、どうぞお付き合い下さい^^


ご愛読、有難うございます^人^

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