K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ⑬
K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕
≪その知らせは、旅の行き先に暗雲を齎す≫
魔法学院に向かうべく、海に突き出した湾岸交易都市マデューサザンに到着したオリヴェッティ達。 陸地から海に突き出した出島と、その周りの浅瀬の海上に築かれたマデューサザンは、波状円形の小槍の様な海上樹木“アブラド”に囲まれた海上森林の都である。
午前の良く晴れた日に、街へと入港して港に降り立った一行だが。 この光景を見慣れないルヴィアとビハインツは、海上の見渡す一帯に森が見えているのが不思議でならない。
「これが・・森の海と云われる名勝か」
感嘆の余りに、言葉少なく呟くルヴィアへ。 杖を片手に全身鎧の片足部分を無くし、ヨレた皮のズボン丸出しにしているビハインツが。
「あれが、森なのか? 海に、植物が生えてるのか?」
と、聞き返した。
二人と並んで森を見るウォルターが。
「そうじゃ。 あの森の土台には、浮島を形成する性質の蔦が在る。 海水でしか育たない蔦の樹木で、根を海の中で複雑に絡ませて流されない様に浅瀬の砂地にまで伸ばすのじゃ」
「じゃ、その上に木が生えてるのか?」
と、またビハインツが問い返すと。
「うむ。 土台となる蔦は、寿命で枯れると茎の皮を残して根だけ生きる。 その根が、浅い海の水面間際で花を咲かせ、また死んだ茎を支柱にして次の世代の蔦を伸ばす。 其処に、海鳥が毎年子育てに巣を作り。 その浮いた巣の部分に特有の樹木が生えて浮島を形勢するのじゃ」
「凄いな・・、植物ってそんなに強いのか」
「フフフ、それだけでは無いぞ」
「ん?」
「街の建物と同じ高さに匹敵する浮島は、海風を和らげ。 今まで何度も襲ってきた津波すらも受け止めてその力を殺いで来た。 海上に突き出したこのマデューサザンの街が、これまでの嵐や津波で一度も壊され無かったのは、あの浮島の樹木の御蔭よ」
「へぇ~、そりゃ凄い」
「確かに、素晴らしい事よな。 この街で美味たる魚が食べられるのも、岩場の磯が無いこの浜辺周辺では、あの浮島が魚の棲み処と為るからで有り。 海賊や敵対勢力の国が此処を攻め取れ無かったのも、あの浮島の力が魔法に多大な影響を与えるからだと云う。 歴史上、これほどに金と犠牲を払わずして、“難攻不落”の異名を取った街も無い」
その説明を受けたビハインツは、浮島に釘付けと為ってしまった。
「そうか~、自然は凄いんだなぁ~。 畑で植物ばかり相手にしてきた子供の頃だったけど、植物と人の関係は深いな」
大人びている様な、子供の様な。 田舎育ちのビハインツは、素直に感心しながら海を見つめる。
石で築かれた船着場の海上で、Kもその浮島を眺めている。 オリヴェッティが船に忘れ物をしたらしく、まだ降りてこないからだ。
「す・済みませんっ」
“くの字”の渡し付け階段を降りてきたオリヴェッティが、皆にそう声掛けた。
クラウザーが。
「有ったかな?」
と、聞くと。
「はい。 リュリュ君が蹴っ飛ばしたみたいです」
オリヴェッティの横に居るリュリュが、照れ笑いをしていた。
一同で思い思いの笑みを零してから街の中に入ろうと、一行は船着場から海上通路を通って行こうとしたのだが・・。
「おい、お前達」
人が主に潜る石のアーチゲートで、見張りとして立っている役人がKの顔を見てから声を掛けて来るではないか。
オリヴェッティは、何事かと思い。 荷物を持ち直しながら。
「はい。 何か?」
十の季節に因む属性の紋章を刺繍した繋ぎの制服を着る役人は、腰に小剣を佩いた井出達で皆の方を向くと。
「今の着いた船で来た冒険者達だな?」
オリヴェッティとルヴィアが見合い。 クラウザーが、
「如何にも」
と、答えた。
役人は、まだ30まで届かない青年風だが、その面構えは現場で鍛えられたと云う厳しさが備わり始めていて。 鋭い目をしながら、Kを見て。
「この包帯を巻いた男が居ると云う事は、ノズルドの街から書簡を承った者と見て良いな」
と、聞いてくる。
オリヴェッティは、何か在ったのかと緊張をしながら。
「はい、そうです」
役人の男性は、一つ頷くと。
「では、学院に向かわれる前に、この街の斡旋所に立ち寄ってくれい。 何か、重要な伝言が在るとの事だ」
「重要な・・伝言ですか」
「そうだ。 魔法自治領の政府は、冒険者の協力会とは同盟関係に在り。 大きな街に於いては、斡旋所と自治政府の魔法通信部が交流関係を築いておる。 連絡は、その方面がらの様だ。 是非、宿を取る前に行って貰いたい」
顔付きを引き締めたオリヴェッティは、直ぐに頷いて。
「承りました。 これから、向かわせて頂きます」
すると、役人は目礼をして。
「それは在り難い。 場所が解らなければ、街の店に尋ねよ。 派手な作りの建物ゆえに、誰でも知っているハズだ」
だが、オリヴェッティは場所を知っていた。
「大丈夫です。 解ります」
「そうか。 ならば、頼む」
「はい。 では、失礼致します」
何事か、重要な用事が話が在るのは明らかだった。
さて。 ・・・んで、オリヴェッティの案内で向かうのだが・・。
青い・・青い空が天空に広がっている。 交易都市なだけあり、このマデューサザンの街も冒険者や旅人が繁華街に目立ち。 内部に点在する街や村との物流の基点でも在るから、行商人も目立っていた。
・・が。
「ハァ~…」
Kは、その大きな建物の前で溜め息を付く。
クラウザーも、その建物外観と云うか。 何よりも目を惹く一点を見上げて。
「・・アレは、どう見ても・・ふむぅ」
その横では、余り機嫌の良い顔をしていないウォルターが居て。
「アレは、この街の唯一の汚点だ。 全く、何百年に渡って飾る気かのぉ」
と、頗る嫌なのか、建物から顔を背けた。
ビハインツは、その黄金に輝くオブジェを見て。
「アレは、その~~~・・トイレで見かける物体だよな」
と、目を点にし。
頭を押えるルヴィアと、苦笑いのオリヴェッティの間で、リュリュが派手な建物の頂きに鎮座するオブジェを指差し。
「あーーーーーっ、ウ〇コだっ! ウ〇コ、ウ〇コォォォ~~~~~~~」
周りの人々が、クスクスと笑って往来を行くのが見えた。
リュリュに向くKが。
「リュリュ、指差して連呼すんな。 汚いだろうが」
すると、街中の店先などにいた子供達が。
「ウ〇コだよっ」
「お母さんっ、やっぱりそうでしょーっ?!!」
等と言い出した。
果物屋・武器屋・必需品雑貨・・。 様々な店が円形に、遠巻きにその建物囲むような中央に、奇抜な様相の館が在る。 丸い円形の建物だが、二階や三階部には、円筒の部分が在ったり、片面の窓側がガラス張りの部屋だったり、積み木を並べて縦に積んだ様な外観の処も・・。 しかし、最上階の4階は、受け皿の様な楕円の部分が乗っかって居る感じで、その上に黄金の例の物体のオブジェが鎮座していた。
芸術家でも在るウォルターが、その物体を嫌うのも解るのだが。 また、その建物自体の色使いが奇妙で。 紅一色の一階の外壁の上に、黄色の壁や、青い壁、真っ白の壁などが在る。 纏まりと云うか、何を考えて作ったのかが理解出来ないのは明白だ。 子供の悪戯書きの絵が再現された様な建物であり、確かに一度見たら忘れない姿の建物と云えよう。
館から出て来た冒険者達や、これから館に入ろうとする冒険者達だが。 リュリュを皮切りに、オブジェを“汚物”と云われる最中に出入りするのが恥ずかしいらしい。 そそくさそうに出て行く一団在れば、入るのを止めた様に引き返す一団も在り。
「おい、やっぱりウ〇コじゃないか」
「え゛~、見たまんまじゃんよ~」
「ねねぇ、学院の方に行って請けようよ」
「アホ。 此処が一番の斡旋所だ。 学院の斡旋所より、こっちの方が入れ替わりが激しくていい」
「あの置き物要らないよぉ」
「それは、みんなの願いだ」
こんな会話で館に入る一団も在り。
また、出て来た一団が建物の上を見て、何やら仲間と話しながら街中に向かう姿も在る。
不思議な事だが、遠目に見ていて。 この建物に出入りする人は多く、長く閉まっている事が無いのも面白い。
さて、用事も有る事だ。 Kは早くしようと。
「オリヴェッティ、入るぞ」
と、先に歩きだす。
「入らねば為るまいか。 ・・いや、為るまいな」
渋々の顔で、ウォルターも動き出した。
処が・・。 館の中に入ると。
「お・おぉ」
目を見張ったビハインツは、その立派な内装に声を零した。
白い壁は、貴族の立派な館の壁の様で、土台となる建物と上の部分を支える柱は太く磨きぬかれた黒石だ。 一階部分は、冒険者達が屯する場所らしいが。 飲食が出されるカウンターが西側の一部に伸びていて、旅人などにも開放されている様子が窺えた。
「いやね、私は旅の歌芸人なんですが。 一座に組するか、誰かと組みたいと思っておりまして・・」
「ヴァイオリンは居無いから、ウチなら大歓迎だよ。 これから、南の水の国ウォッシュレールに行こうと思ってる」
「ほう、それは・・」
こんなやり取りで、旅芸人同士がテーブルで挨拶や会話を交わしていたりすれば・・。
「さ~さ~、次のステージは、みんな大好きの芝居芸さ~。 演目は、旅芸人一座の“ホロホロボ~ンズ”がお送りする、“カニの国の横歩き、ジョルジュの故意”だ」
館の東側に区画されたステージ部分が有り。 客席用として置かれた長椅子の前では、安い見物料で見れる舞台が行われている。 どうやら、昼間は開かない酒場の代わりに、芸人に場所を貸しているのであろう。 見ている人の中には、子供やお年寄りも居て。
「お金もってきたぁ?」
「うん、おかぁさんに貰ったぁ」
「早く席に行こうよ」
と、オリヴェッティ達の後から入って来た子供達が、そのステージの方に向かっていくではないか。
「何と、雑多な場所だ」
一般人が入っていて、賑やかさに眉を顰めたルヴィアに。
「お~、おにぃさんは美男だね。 どうだい、一筆描かせてくれないかい」
と、絵師が言って来る。
「あ、私はいい」
断るルヴィアだが、この自由な場所に首が傾げて仕方が無かった。
オリヴェッティの説明に因れば、この建物の中で斡旋所と成るのは二階の半分と、三階より上。 一階は、多目的に開放された共有広間であり。 二階の半分は、誰か解らない者の所有物と云う話らしい。
東側のステージの近くから螺旋階段を上がれば、鳴り物を多数使って演劇ををしていた音が急に遠くに聞こえる様に成る。 幅の広い階段を上がって、他の冒険者と擦れ違って二階に上がれば・・。
~腕の有る者は大歓迎。 さぁさぁ、冒険が君達を待ってるぞ~
と、垂れ幕が掛かった廊下の入り口に達した。
Kは、口元に呆れた歪みを見せて。
「フン。 いまだにあのジジィがやってるンだろう? 報酬のしょっぱさは、世界でも指折りの斡旋所だぜ」
と、小言を漏らした。
クラウザーが、Kに。
「金払いが悪いんか?」
Kは首を竦め、オリヴェッティに“行け”と促してから。
「セコさと金への渋さには、モンスターと渾名してもいいね。 しかも、一般の場を仕切る娘が、見た目に反して父親以上なんだ」
「はは、それは酷いな」
「俺は、願わくば此処で仕事を請けたくないね」
と、歩き出すK。
肩を並べるクラウザーは、この男でも・・と思え。
「お前なら、それなりに応じた金は出すだろう?」
「いやいや、それこそ難しく溜まった仕事をすべて回してくるさ。 今、有名なチームですら、此処で仕事を請けるのが嫌ならしい」
「ホントかよ」
「あぁ。 アルベルトだか、有名なチームのリーダーが、忙しさに根を上げてよ。 学院の方で報酬受けたとか云うのが有名らしいゼ。 他のチームも、適当な所で逃げるらしい」
「ほう。 あのスカイスクレイバーのリーダーもかよ」
「ま、此処の主が異常なんだよ」
青いカーペットの敷かれた廊下を歩けば、石を積み重ねた感じをそのままに出す迷宮の様な内装の壁が続き。 その先で、左右に開けた。
「おっと、美人さんゴメンよ~」
大きな身体に、白い上半身鎧を着た美男の剣士が、オリヴェッティと出くわした。 背丈が高い以上に印象深い双眸をして、金髪の長髪が肩に掛かる。 顔の整い方も良い色白の剣士であった。
Kは、そこで。
「右が一般の依頼受付の部屋だ。 左は、掲示板が所狭しと並ぶ広間に成る」
「あっ、はい」
美男の剣士を前にして、Kの説明を受けるオリヴェッティだが・・。
「やぁ、君の名前はオリヴェッティって云うのかい?」
と、左から出くわした剣士が絡んで来る。
目を細めたルヴィアが、その剣士の前に割り込み。
「こら、初対面の割りに失礼な輩だな」
鎧の所為でか大柄に見える美男剣士は、その美しく男か女か解らぬルヴィアに口笛を吹き。
「ヒュ~、これは驚いた。 美人が二人目・・、君は男?」
すると、オリヴェッティに右への道を開く様にして、その軟派な美男の剣士へと踏み込むルヴィアで。
「男なら、何だと? 女なら、斬られてくれるか?」
と、キツイ言葉を投げかける。
「おっ、おいおい」
敵意は無いと言う笑顔を現し、間を保とうと引いた美男の剣士。
そして、その彼に。
「チャン、面倒を掛けるな。 お前、綺麗処の全てに声を掛けるのか」
野太い声で、男の声が飛んで来る。
“チャン”と呼ばれた美男の剣士は、掲示板の方から遣って来た禿げ頭の小男に済まない笑みを見せ。
「リーダー、悪い。 でも、コレは目の保養にいいんだ」
廊下と部屋の狭間に出て来た小男は、全身を武装した姿に槍を背負った姿で在り。
「ん?」
と、ルヴィアとオリヴェッティを見てから。
「失礼した。 このチャンは、まだ若くて女性に何かと騒がしいんだ。 だが、悪い事を仕出かすヤツでも無いので許してくれい。 此方に用事かな?」
掲示板側に来る事を聞いてきた小男のリーダーに対し、オリヴェッティが。
「いえ。 主さんに用事が在りますので・・」
と、逃げる様に右の部屋に入る。 リュリュとは違って、チャンと云う剣士の眼から逃げたい様な素振りであった。
チャンを半ば無視するチームの皆で、リーダーの小男にのみ会釈や目礼を示すのだが。
「おい、包帯なんて巻いてンのかよ」
と、口の軽いチャンがKを見て言った。
Kは、気にする気も起きないで部屋に入るのだが。
「チャンっ、お前は見た事を一々と口にしないと気が済まないのかっ。 一月前も、それで危ない目に・・」
「あ、済まない」
と、二人のやり取りが聴こえる。
Kは、何も言わずに。
(リーダーも大変だ。 全く、我からと遣るモンじゃない)
と、思った。
Kが部屋に入りドアを閉めて。
一行が入った部屋と云うのが、半円を描いた扇形に近い形をしていて。 部屋の片側で在る曲線側は、光が差し込む窓が全てである。 落ち着いた色の木目の床に、肌色をした壁。 外観の奇抜さにしては、随分と逆転的な内装の部屋である。
さて。 窓を背にして、大きなデスクが置かれた場所に就く女性が。
「あら、初めて見る顔ぶれね。 イイ依頼でも見つかったかしら?」
一同が応接室の様な部屋の主を見れば、長い髪をした執事風の女性用礼服を来た女性が居た。 細い目の奥に、黒い点の様な瞳がジロジロとした女性で。 頬が張った特徴が目に残る。 背は、ルヴィアよりも低く、少し胸が張りすぎた感じのする人物だった。
オリヴェッティは、デスクの前に出ると。
「あの、港で私達に話が在ると承って来ました。 オリヴェッティと言いますが、何用でしょうか?」
すると、女性の態度が少し変わった。 一同を眺め、値踏みする様な目をして見せて。
「へぇ~、アンタ達が書簡を受けたチーム? なんだか、強くなさそうね」
オヴェッティは、それだけの事かと思い。
「それは、どうでもいい事かと。 お話が無いのなら、このまま学院の方に行かせて頂きますが?」
と、言うと。
「ほぉ~、随分と生意気な口を利く娘だわ。 顔がイイのが、自慢みたいね」
と、主の口調が横柄に成る。
Kは、そこで。
「聞く耳持つなよ、オリヴェッティ。 その口の悪いのは、目の前に居るババァの常等手段だ。 貶して態と反抗を促し、勝手に難癖を付けて印象を悪くさせたと思わせる。 その罠に嵌ったら、最後。 顔見知りに成るまでの間は、仕事の報酬をバカみたいに下げるオヤジ譲りの悪知恵だ」
と、前に出る。
Kに向かって、憤りすら滲む目を浮かべた女性主だったが・・。
「・・え? あ・アンタまさか・・」
と、Kを見て脅える様に椅子から立ち上がって後ろに引くではないか。 冒険者に対して、主が脅えるなどそうそうに在る事では無い。
女性主の様子を見て、悪魔の様な笑みを見せたKで。
「エルダ、覚えてたか? 俺に殺され掛かった背中の傷は、この俺を見れば治っても疼くだろう?」
Kの話に、一同が驚いた。 “斬られた”と云う部分に、誰もが驚くのは当然であろうか。 益して、相手は斡旋所の主である。 普通では、有り得ない事だろう。
だが、誰よりも驚いたのは、“エルダ”と云う女性主だろうか。 驚愕の顔は、まるでカエルが鏡を見て浮かべる様な脂汗を見せ、死相が浮かんだ様な血の気が引いた顔をする。 その様子の変化たるや、尋常では無い雰囲気が溢れ出ていた。
「あ・・、頼むからこっ・ここ・・・殺さないで」
床にヘタリ込む彼女を見たKは、
「今更、お前を殺す意味は無い。 只、ふざけた真似をするなら、それは別だぞ? さぁ、俺達に何の用が有って呼び出した? 早くお互いに用事を済ませよう」
高圧的な雰囲気が剥がれ落ちたエルダは、デスクに膝歩きでにじり寄ると。
「ででで伝言よっ。 ノズルドのまっ・街で脱走が有ったって・・」
“脱走”とは穏やかで無い。 だが、此方に直々の伝言が有る以上、チームの者が知る人物が脱走した訳だ。 掴まっっていて、逃げたと云う人物を推理するのは容易い。
それを聞いたKは、嫌な気配を感じてオリヴェッティを見ると。 またエルダに向き。
「まさか、アンディが・・か?」
デスクに顔以外を隠すエルダは、ガクガクと頷いて。 震える声のままに・・。
「そっ・そうよ。 それか・から、斡旋所を預かっていたままっ魔女の姉妹も、姿を消したって・・・。 若いアンディとか言う子の逃亡を仕組んで、牢屋に・・か・風穴を開けて逃がしたらしいわ」
これで起こった事態は理解出来たKは、直ぐに腕を組み。
「どうやら、俺達を狙う気か」
エルダも。
「ガウって人から・・、緊急用の魔法伝書でそう・・来たみたい」
意味が飲み込めないウォルターは、Kへ。
「我が友よ。 何故に、我々が狙われるのだ?」
腕組みをして俯くままのKは、予想の片隅に浮かんだ最悪の経路を辿ったのだと思いつつ。
「アンディを逃がす必要が主に有るとするなら、それは俺達との仕事を介して刻まれた記憶や情報だろう。 今に思えば、すんなりと島を巡る仕事を作ったのも、アンディを介してあの事を主も狙ってたからじゃないか? ハンター共をゴリ押しでガウに連れて行かせたのも、噂の物品の有無を確かめる物差だったのかもな」
「詰りは、秘宝や・・宝石などの鉱物が・・か?」
「あぁ」
考え込むルヴィアやビハインツだが、Kはエルダを脇目にして口を制して於きながら。
「とにかく、何処かで宿でも取って話し合おう。 此処は、人目につく」
頷くオリヴェッティだが、Kと仲間のやり取りと見ていたエルダと云う主は思ったままに。
「な・何が在ったかは知らないケドさ。 この・この一件は、きょっ・きょきょ協力会も・・注目してるわよ」
Kは、エルダに脇目を向けたままに。
「だろうなぁ。 斡旋所の主が、犯罪ブっかまして逃げたんだから。 理由は、直に学院の方から行くだろうが・・」
と、此処でKは身を屈める。
「ヒィっ」
エルダが悲鳴を上げて後ろに飛び退いた。 自分の目線に、Kの目が来たからだ。
デスクに顔を近付けたKは、逃げたエルダに不気味な視線を向けると。
「先に言っておくがぁ~よ。 下手に首を突っ込むと、お前の地位も危ねぇ~ぞ。 欲の強いアンタと親父さんだが、一線を越えない節度は持っとけ」
Kに言われて、もう脅えて逃げる様に引きながらガクガクと頷くエルダと云う主。
「わっわわわわ・・解って・るわっ。 デスの頭領も赤子扱いした貴方に、だっ・誰が敵うのよっ!!! 人質取ろうが、無意味なのも解ってるっ!!!」
その脅え方を見て、ビハインツはKの恐ろしさを再確認した。
(冒険者には、在る意味絶対の権威が在る主がコレかよ・・。 ケイだけは、普通じゃない)
その恐るべき男は、立ち上がって皆に向き。
「さ、行こう」
リュリュは、エルダに指を向けて。
「きぃ~つけろ~」
と、ドアに向かった。
しかし、だ。 皆が部屋を出た中、Kだけは何故か残り。 背を見せながら、相手を見ずして脇を向き。
「エルダ、少しの間だが騒がしくなるだろう。 主として、精々気を付けろ。 下手したら、冒険者を悪事に巻き込む下種が出る。 前みたいに・・な」
話にギョっと目を見開いたエルダは、床に付けた手で拳を握り。
「貴方が居るなら、こっちも全力で気を引き締めさせて貰うわ。 主の職を剥奪されるのを見逃す代わりに、背中や片足斬られたら堪らないものっ」
その言葉を背に受けたKは、薄い笑みを口端と片目にだけ浮かべ。
「そうか、ならいい」
と、廊下に向かって出て行った。
「・・」
直ぐに立ち上がり、Kを追う様にしてエルダと云う主はドアへと向かうと。
「お、主さん。 何か大きい声が聴こえたケド・・」
あのチャンと云う剣士が、仲間と共に廊下に立っていた。
だが、Kが廊下から階段に消えたと見るや、エルダはチャンを睨みつけ。
「喧しいっ!!! お前の軽い話なんかどうでもいいっ」
と、ドアを押し飛ばす様に閉めて、廊下の奥の上に上がる階段に走って行く。
主に去られたチャンのチームで。
「おい、どうなってる?」
と、小柄な槍を背負うリーダーがチャンに聞き。
「わっ、解る訳無いよぉ~」
と、困ったチャンだった。
★同じ時、違う場所にて★
それは何処かの山の中の森だろう。 針葉樹ばかりが目立ち、森の所々が雪化粧していた。
その山の奥深くに、細い滝が落ちる断崖が在る。 その断崖の右隅には、斜面と成る森側から侵入出来る所に亀裂の様な洞穴が在った。 その中では、二人の人物が隠れる様に休んでいた。
焚き火の前に座るのは、黒いローブを着た何者かで。 その人物は、不気味なクセの在る物言いで洞窟の奥に居る者に言った。
「・・腹は決まったかい?」
すると、奥で干し肉を雪で拭う者が。
「腹が決まるも何も・・。 追われる身に成ったんだから、承諾以外に道が無いよ」
その声。 Kが聞いたら、何と云うだろうか。 少し諦めか、疲れか、そんな感じが含まれた精彩の無い言い方だが、確かにアンディの声だった。
焚き火の前に干し肉を焼きに来たのは、埃や泥で汚れた顔をしているが。 確かに、アンディで在る。 なら、この黒いローブを纏った人物は、アンディを逃がした斡旋所の主の姉妹・・と、言う事に成るだろう。
「ウヒィヒィ、物分りがいいね」
女性にしても、その奇妙な声は不気味だ。 アンディは、その主を少しも見ようとせず。
「仕方ない。 ケイさんに斬られるさ」
「おやぁ~、せっかく逃げれたのにねぇ。 最初から・・死ぬ気なのかえぇ?」
木の枝を削って作った串に干し肉を刺すアンディは、Kの実力を目で見ていただけは在る。 観念すらした様子で、
「バンチャー・・。 ううん、リドリンさんも目の前で見れば解るよ。 あの強さは、普通じゃない」
“バンチャー”と云う渾名を偽名にしてきたリドル、リドリン姉妹。 “バンチャー”とは、何か昔の魔法遣いが使っていたセカンドネームの事ならしい。 二人の色々を知るアンディは、この魔女が自分を連れ出した意味を薄っすらと悟っていた。 だが、刑死するぐらいなら、いっそうの事Kに斬られた方がいいと思って逃げたのだのだ。
「ほうほうほう・・、それは面白そうだねぇ~。 あの手この手、汚い手を使えそうだ。 ウヒヒヒ・・・」
だが、黙々と焚き火を見つめるアンディの眼は、何処か怒っている様にも見えていた。 それが何なのか・・。
主だったリドルかリドリンか。 アンディが“リドリン”と云うからには、リドリンとしよう。 彼女は、妙に力無くダラリと下がった右側を見て。
「しっかし、全くもって重い姉だこと。 街に着いたら、さっさと切り離してしまおうかね」
顔が見えない人物だが、そのローブを纏った姿がまた不気味だ。 人なのかと疑いたく成る容姿で、森を逃げて来た動きも女性とは思えなかった。 粗野で野蛮人が動く様な力強さが有った。
アンディは、表面が焼けた干し肉を串ごと抜き。
「・・切り離せるの」
と、呟く。
すると、アンディに顔を上げたリドリンで。
「あぁ~。 アタシがぁ生きる魔力を奪ったからねえぇ。 もう死んでるから、必要が無い。 お前は、姉に懐いてたぁ~ね。 どうだい、直に腐るだろうけど、生身の姉さんをあげようか? 胸ぐらいなら、チュ~チュ~吸えるかも。 ウヒヒヒ」
人のする会話では無かった。 アンディは、この妹のする悪事を見てきていた。 記憶は姉妹で別々なのを良い事に、薄汚い事を平気で出来たリドリン。 逃げる時も魔法で人を蹴散らし、死傷者を出していた。 その中には、斡旋所の火事から駆け付けたメルリーフとニュノニースも居たらしい。
「・・・」
俯いて干し肉を齧るアンディは、何も言わずに黙々とする。 何を思う彼か・・。 そして、この後にどうする気なのかが不透明なままの逃亡である。
アンディとKの絡み合う運命の糸は、まだ少しの先まで続いていた。 秘宝と絡み、同じ時の道を歩いた二人だが、その道は途中で分岐してしまった。 しかし、分かれて尚も並行に並ぶ。 運命の残酷さなのか、それとも・・。
(ケイさん。 ・・直に会おう)
どうも、騎龍です^^
細かい事は活動報告に書きましたので、此処は別の事でも・・。
・・でも、何も無いか。 ツブヤキとボヤキの続きを残しましょうかね。
ポリア編の消滅した部分の穴埋めが、やっと終わりに差し掛かりました。 いやぁ・・、データが飛ぶと始末に悪い。
次のK編の三部は、秋頃を予定していますが。 未だに、二部の入りでアンディも脱走させようと思い、予定を変更してみましたが・・。 どう決着させようか、終わりが決まっているのに、決まってない部分が出来ました。(苦笑い)
次の「セイルとユリア」編は、新しい冒険で長編なんですが・・。 舞台が島なので、K編と少し被りそうなんですよね。 先に、短い「ウィリアムⅣ・二部」行こうかな。
以上、駄文失礼しました。
ご愛読、有難うございます^人^