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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
16/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~

                 セイルとユリアの大冒険 1



                 


                   ≪流星の卵≫





カミーラ達が追い込まれた時、我先にカミーラを助けたのはマガルとクラーク。 全力で走ってきたセイル達4人が、カミーラ達4人に合流出来たのは奇跡に近いタイミングであった。


スケルトン10体以上に、交刃こうじんの間合いまで迫られたカミーラは絶望していただろう。


「退けいっ!!!!」


霧の壁を破り。 突如と槍を構えて突撃したクラークが、横から二体同時にスケルトンを串刺しして振り上げた。 乾いた破壊音を上げて、スケルトン2体は、肋骨を砕かれてクラークに持ち上げられてしまったのだ。


その隙間に剣を抜いてマガルが飛び込み、カミーラの脇に入りながらスケルトンを2体を続けて斬り飛ばした。


「クラークっ!!! な・・なんでっ!!!」


マントを切り裂かれて脱いだ頬や胸元等に薄い斬り傷を作っていたカミーラは、クラークの出現に驚いた。


クラークは、刺したスケルトンを地面に頭から叩きつけて半壊させてから。 カミーラを見ずして、スケルトンを見据え。


「余計な話は後じゃっ!!! 目の前の敵を粉砕するぞっ!!!」


生き返った心地を味わったカミーラは、姿が見えずに生きているのか解らない仲間に向けて。 気力を確かに大声で叫び上げる。


「助けが来たっ!!!! 死ぬなっ!!!」


と。


カミーラの近場に居た剣士ジャガンは、ゾンビに梃子摺り苦戦している中で。 この朗報に気力を取り戻した


「解ったっ!!!!」


更に離れた場所に居た戦士ダッカは、追い詰められて死ぬと思い掛けた中でセイルとユリアの助けが来たので。


「コッチにも助けが来たぞっ!!!!」


と、大声を上げる。 


斡旋所でその姿が解らなかったダッカと云う人物は。 背中のマントに斬り傷を受けて、滲む血をマントに滲ませる。 マントの下は、皮の胸当てを着け。 両手には長い金属の柄の上端と下端に鋭く長い大鎌を備えた武器を構える。 ダッカと云う冒険者は、実に2メートル以上の背丈をした細身の戦士だった。 


「サハギニー君っ、“アイスクラスター”行くよっ!!!」


ユリアの声に応じ、魚の姿をした水の精霊サハギニーは槍を両手に構える。


「ぬぬぬぬぬ・・・うおおおおおおおっ!!!!」


小さい声ながら、サハギニーが気合の篭る声を上げれば、空気中の霧や水滴がモンスターの居る範囲の一部で瞬間凍結し、周囲が一気に少しだけ視界が晴れた。


「な・・なんと・・」


ダッカは、時間が凍えて止まったかの様な辺りに驚いた。


「フリーズっ!!!」


ユリアが、杖を大きく翳して額に汗を浮かべながら白い息と言葉を吐いた。 集中の必要な強力魔法らしい事を、力むサハギニーとユリアを見れば解る。


直後、空気中に凍りついた水の水滴が、瞬時に近場のモンスターへ集まって凍らせたのだ。 氷柱の中に閉じ込められたモンスターのその数、10体近い。


セイルは、それを見て。


「砕き壊してっ!!!」


ダッカに言いながら飛び出す。


「おっ・・おうっ!!!」


形成が一気に逆転である。 凍ったゾンビやスケルトンが、セイルの剣やダッカの大鎌に斬り壊されて氷柱ごと粉砕された。


ユリアから離れたセイルは、自分の真っ直ぐ先に弱った生命波動を察知して。


「ユリアちゃんっ、僕はこのままもう一人を助ける。 此処をお願いっ」


鋭く云いながら、セイルはユリアに微笑む。


「任せなさいっ」


ユリアが頷く時、二人の間に新たなる霧が舞い降りて視界を塞いだ。


さて、カミーラのチームの中で。 一番西側の場所でゾンビばかりを相手にしていた魔術師モルカは、肩を抑えて木の幹に凭れている。 右肩と右腕に、ローブを裂く程の噛まれ傷があった。 フードが肌蹴て覗く顔には、ねっとりとした脂汗が雨水に混じって浮ぶ。 黒いローブで分かり難いが。 抑える指が赤黒く血に染まり。 更に、霧と雪の水分で湿るローブの右袖からは、真っ赤に染まった水滴が滴り落ちていた。


「か・・カミーラ・・助かれ・・・」


自分を追い、ゾンビの集団はカミーラの方から遠ざかる。 カミーラを生かそうと、噛まれた時にも声を上げなかった。 このモルカと云う人物。 素顔は以外に知的感の漂う優しげな色男っぽい中年男性だった。 少し長めの髪が、中々艶っぽい。


“う゛う゛う・・・”


”あ~・・あああ・・・”


不気味な唸り声を上げて、ゾンビがノソノソとモルカに寄って来た。 ゾンビは、暗黒のエネルギーの産物だが、死体に闇と魔の力が入り込んで蘇るパターンのゾンビは、新鮮な人肉などを食す。 生命エネルギーを発するモノを食い殺す意思だけを持つのだ。


ズタボロの衣服に、腐った肉が混ざり溶けかかったままにゾンビに成ったおぞましい姿の腐乱死体が、モルカを食い殺そうと近寄って来る。


(ああ・・・出血が酷ぇ・・・。 目が・・霞む・・・)


意識が薄らぎ、モルカは木に凭れて座り込んだ。 霞む視界に、揺らめく動きでゾンビらしき影ががやって来ている。


(だ・・だめだ・・・)


死ぬと思った。 そんなモルカは、目が霞んでぼやけながら気絶する手前で光を見た。 斜めにゾンビの身体から発せられた様な、淡く青白い線の様な光だ。 何処か見覚えの在る光だった。


「・・・」


気を失ったモルカ。


その前で、首筋から腰に渡って真っ二つに斬られたゾンビが、炸裂するエネルギー波動で左右に飛び散って霧の中に姿を消す。


ゾンビが消えた後から、霧の中よりセイルが買った安物の長剣を片手に姿を現す。 顔は、モルカに向くが。 直ぐにまた寄ってくる別のゾンビを感じた方に向けられる。 


(・・4・・5・・7・・9体・・)


間近のゾンビ2体に向かって、素早くセイルは霧の中へ消える。


この時、漸くスケルトンを蹴散らしてカミーラと剣士ジャガンがクラークとマガルを共にして落ち合った。


「ジャガンっ、大丈夫か?!」


頬と腕等に傷を負うジャガンは、薄い傷を負っているカミーラを見て。


「ああ、こっちは大丈夫だ・・カミーラ、ダッカは返事が在ったが。 モルカに応答無い。 どっちに行ったか解らぬ」


悲壮感を顔に漂わしたカミーラは、霧の中を振り返り。 朝のカミーラとは明らかに違う慌てた様子を見せる。


「モルカっ!!!!!! 返事をしろっ!!!!! モルカーーーーーっ!!!」


すると、森の西の方から。


「魔法遣いさんなら此処に居るっ!!!!」


セイルの鋭い声がした。


クラークは、セイルが以外に西の方から霧の中で声を出したので。


「ユリア殿ッ!! 大丈夫かっ!!!!」


森の南側から、直ぐにユリアの声で。


「大丈夫っ!!! 後、3体だけっ!!!!」


カミーラは、形振り構わずセイルの声のした方に走り出す。


「カッ、カミーラっ!!!」


「おいっ!!!」


ジャガンとマガルが、走り出すカミーラに着いて行く。


クラークは、ユリアに加勢しに行った。


モルカの居る木の近くに向かったカミーラは、霧の中で突如に青白い光が炸裂したのを見て。


「モっ、モルカっ!!!」


と、走り寄る。 青白い炸裂の光は、魔想魔術の特有の光だ。 想像の力は、青白い光を見せるからだ。


しかし、パッと霧を掻き分けて居たのは、金髪の美少年セイルだ。


「あ・・・、お前・・」


カミーラが驚けば、セイルは近くの霧の中を指差し。


「向こう。 傷が深いよ。 止血と消毒を急がないと」


カミーラは、その方に頷いて走る。


カミーラの後からセイルに出くわすマガルとジャガン。


「モルカッ!! 大丈夫かっ、モルカっ!!!」


カミーラの声がする、二人はセイルを見てからジャガンはカミーラの声の方に。 マガルは、その場に残った。


「セイル、まだ残るか?」


真剣な目をしたセイルは、聞いて来たマガルに頷いて。


「残り、3体。 此処から、僕の正面に近い所に1体。 その右直ぐに、もう1体。 僕の右の先少し離れてに、大きいのが1体居ます」


マガルは、新手の出現かと思い。


「“新手”か?」


「はい、ギガースゾンビです。 ゾンビの身の崩れ切った肉の塊で、凄いパワーが在りますよ」


マガルは、丸で見た様に云うセイルに。


「見た事が・・・」


訪ねようとしたのだが、セイルは目の前に迫るゾンビに警戒し。


「来ましたっ!!!」


マガルも、不気味な唸り声を聞いてハッと剣を構えた。


霧の中から、ゾンビが両手を伸ばして向かってくる。


「・・・」


「たあーーっ!!!」


無言のセイルの脇から、裂帛の気合を込めてマガルがゾンビに斬り掛かる。 鋭く鉤爪の様に伸びた爪を見せるゾンビの右腕を、マガルは素早く走り抜け様に斬り飛ばしてゾンビの右に出る。


「むっ」


正眼に剣を付けて向き直るマガルの目に、両手に握った剣を身体に近く構えたままにゾンビを飛び越すセイルが見えた。


「あ゛っ」


セイルは、楽々とゾンビを飛び越してゾンビの背後に着地する。


「・・・」


その時、紫に光ったセイルの目が、元に戻る。 そして・・。


“シュパーーン”


魔想魔術の特有の炸裂音と淡い青白い光が、ゾンビを右腰から左肩に掛けて切断するかの様に迸って線を引いたではないか。 


「な・・・何だと?」


マガルは、目の前でその光景を見て。 初めてセイルがエンチャンターであり、剣士でも在ると理解した。


だが、悠長に詮索はしてられない。 もう一匹のゾンビが、マガルとセイルの脇から姿を現した。


「ぬっ、どりゃーーーっ」


マガルは、直ぐにゾンビに走り寄り。 右から掬いにゾンビの左足大腿部を斬り上げて。 そのまま右に抜けて振り向き様に、腐った肉の塊の様なゾンビの後頭部から首筋に掛けて斬り払った。


“ブシュ”


後ろの首筋に、ゾンビを動かす暗黒のエネルギーの源が在った様だ。 霧の中にブシュっと飛び出て、ゾンビの動きが止まった。 切断された左大腿部が先に雪の上に落ち。 後からバランスを崩したゾンビが黒ずんで灰に変わりながら雪の上に倒れて行く。


「お見事~」


セイルが、その様子を見て笑った。


マガルは、ゾンビが倒れたのを見てから。 真剣な眼差しをセイルに向けた。


「そなた、剣士でエンチャンターなどをするのか・・・。 初めて見たぞ」


微笑むセイルは、頷きながら。


「御祖父ちゃんも、そうでした」


マガルは、その答えに灰に変わるゾンビを見た。






                 ≪巨大なゾンビ≫






寒さの所為か、少し霧が薄まった中で・・・。


「なっ、なんだこの大きいゾンビは・・・」


中年の終り際を迎えた眼帯剣士マガルは、血の様に赤い身体をモゾモゾと動かすゾンビを見て驚いた。


霧に見え隠れする中で、見上げる程の爛れた肉の塊が蠢いている。 高さも3メートル近ければ、横幅もそれ以上で。 ギョロリとした大きい目は、もはや人の眼では在り得ない異常な凶暴さを湛えている。 大の大人を一飲みに出来そうな口が、ブルブルと震える肉の一部を裂いて薄く開いていた。 牙や歯などの代わりに、細かく折れた骨が並んで突き出し。 もしも噛まれたら一溜りも無いだろう。


セイルは、鈍い動きで此方に近付いてくるギガースゾンビを見ながら。


「自分が、相手します」


マガルは、グッとセイルを見て。


「本気か?」


「はい。 マガルさんは、まだ此方に近付きつつあるゾンビやゴーストに向かって下さい」


「なにっ? まだいるのか?」


「はい、南東に数体。 ユリアちゃんとクラークさんの方にも、少しの感じが在ります。 それ以上は解りませんが、早く戦闘を終わらせて子供達を捜さないと、夜に成る」


マガルは、暮れ出した空模様を見上げる顔を難しい顔付きにして、


「確かに、此処では休めない」


と、呟く。


セイルは、右手の剣を見て。


「ふう・・。 もう、潮時ですね。 コイツも、そろそろ壊れちゃう・・」


マガルは、セイルの剣を見て。 少し刀身が歪み始めているのを確かめた。


「フム。 お主の素早い動きから繰り出される剣撃では、並の剣では持たないだろう。 先ほどの死んだ冒険者の剣を使ったらどうだ? 悪く無い剣だったぞ」


セイルは、波打つゾンビの肉体が迫ったので。


「アイツを倒したら、検討しますよ」


と、ギガースゾンビに走り出した。


この時、マガルも早くも襲ってきたゴーストが、霧に消え隠れしながら自分を確認したのに気付いた。


(フッ、俺もまだ負けられぬ)


ギリっと片目を凝らし、ゴーストを見定めて剣を握り直したマガルだった。


マガルが、ゴーストを白銀の剣を一振りの元に斬り倒して消滅させる時。 


セイルは、ギガースゾンビの向きを正反対の西側に向けるべく素早く動いた。 セイルは、どうゆう訳か、知っていた。 ギガースゾンビは、見た目は動く肉塊で、波打ちプルプルしているドーム状の様な半円型のスライムに似ている。 しかし、隠れている肉の身体の真下には、ドロドロしい手足を持ち。 獲物を見定めると、跳び付ける範囲内に近寄ってカエルの様に飛び掛るのだ。


「・・・」


セイルは、間近に居たカミーラ達から離れる為に、ギガースゾンビを逆向きにしようと動いた。


“う゛あああああああああ~~~~~~っ”


ギョロつく目をセイルに着けたギガースゾンビは、身体の向きをモゾモゾと北向き・・西向きと変えて。 セイルが射程距離に入ったと確認した瞬間、突如として不気味な雄叫びを上げて、ギガースゾンビがセイルに飛び掛る。 巨大なカエルが動く様な俊敏な飛びつきで動くギガースゾンビだが。 波打って勢いに伸びるドロドロの身体は、引き千切れる事も無い。 


襲われるセイルだが、見す見す殺られる訳には行かない。 サッと大きくバックステップしてから、高く飛び上がってバク転して着地。 雪の上を軽やかに滑りながら、ギガースゾンビを鮮やかにかわしてしまった。


「・・・」


セイルが、ギュッと目を凝らしてギガースゾンビを見る時、その目には紫の綺麗なオーラが湧き上がっていた。


一方で。 


マガルが、略当時に近寄ってきたゾンビとスケルトンを迎え撃ち。 先に倒し易いと踏んだスケルトンを蹴り飛ばして。 直ぐ様動いてはゾンビの脇を走り抜けて、倒れたスケルトンに走り寄って頭部の頭蓋骨を斬り割る。


「むっ」


最後のゾンビにマガルが振り向くと、いきなり脇から飛び込んできた風の壁がゾンビを叩き潰した。


「マガルっ、無事かっ?!!」


クラークの声がする。


「おうっ、西に大きなゾンビがっ!!! セイルが一人で戦っているっ!!!」


マガルは、ユリアの精霊魔法がゾンビを倒したと認識し。 直ぐに叫んだ。


クラークが、それに応じ様とした時。


“シュパーーンっ!!! シュパーンっ!!!!!”


その周りに居る人の耳に劈く程の炸裂音が響いた。 霧の中だが、明らかに大きな青白い光の炸裂が見て取れる程の・・。


「セイルっ!!!」


「セイル殿っ!!!!」


ユリアとクラークの声が響いた。


(戦い始めたかっ?)


マガルも、セイルの居ると思われる光の炸裂の起こった方に走り出した。


だが、集まった3人が見たのは。


「こっ・これは・・」


「うはっ、スゴイっ」


「・・・・」


言葉の出ないマガルは、口を開けて驚いた。


更に歪んだ剣を持つセイルの脇には、皿に盛ったプリンを十字に等分した様な姿に変わり果てたギガースゾンビが、ドロドロと肉体を溶かして灰に変わり始める姿ではないか。


セイルは、溶け出すギガーズゾンビを見て。


「臭いですね。 早く消えて欲しい~」


と、右手で鼻を摘み。 曲がった剣を左手に引っ下げたままにユリアとクラークの元に歩き出すのだ。


(切断したのか? 魔法を剣に宿して・・・あの大きなゾンビを?)


マガルは、セイルの遣った事はギガースゾンビの姿から推察は出来た。 問題は、その技量が在るか、否か。 だが、ギガースゾンビは倒された。 セイルには、それだけの技量が在るのだ。


セイルは、ユリア・クラークに会って笑い合い。 そのお互いの無事を確かめて、マガルを見る。


「大丈夫だ。 あれしきの戦いでヘバる程に衰えてはいない」


マガルが云えば、微笑み頷くセイル。 お互いに何処にも怪我は見えない。


其処に。


「モルカっ!! モルカっ!!!!」


切羽詰ったカミーラの声がする。






                  ≪子供達の痕跡≫





霧と雪と云う中。 大樹の根元で、手当てをした魔法遣いモルカをカミーラが背負って運ぼうとしている。


セイル達は、まだ息の在るモルカを負うカミーラを見て内心に感心した。 どうやら、仲間まで虫けらの様に思う女性では無かったらしい。


「助かった・・・。 借りておく」


セイルを横目に、カミーラは真剣な様子で云う。


セイルは頷くと、微笑むままに。


「今から急げば、その人は助かりますよ」


「・・・」


黙るカミーラに代わり、ジャガンはセイルを見返し。


「お前達は、まだ残るのか?」


もう、辺りが薄暗い。 このままでは、夜に成る。


セイルは、ギガースゾンビの死んだ方を指差し。


「向こうに、子供の靴が落ちてました。 手掛かりが在る以上、此処で止める訳には行きません。 もし、斡旋所に行けるなら。 主さんに合同チームの編成を申し出た方がいいかも知れませんね。 此処は、冒険者チーム1つ・2つでは手に余る」


クラークは、ダッカに剣を抜いた冒険者の遺品の詰まる背負い袋を渡した。


「これは、死んだ者の遺品だ。 斡旋所に届けて欲しい」


カミーラ達は、こんなにも冒険らしいチームは久々に見た気がする。 普通、誰も死んだ冒険者の遺品に構ったり、全体を見て行動をする者は少なく。 自分勝手が、自由と罷り通るご時勢。


「・・・解った。 死ぬなよ」


カミーラが、セイルやユリアなどを見て云う。


ダッカは、血の着いた背負い袋を持ち。


「借りを返す意味で、必ず届ける」


と、クラークに。


カミーラは、仲間二人に先行して森を逆戻りするために霧の中に向かう。 ジャガンとダッカも、怪我で鈍った身体を引き摺る様にカミーラの後を追って、霧に中に消えて行った。


カミーラを見送りながらセイルに近寄るユリアは。


「セイルっ、マジ? 子供達の靴って・・・」


頷くセイルは、マガルやクラークを見て。


「向こうの壁に鉄の門があります。 その鉄門の前に、脱げた靴が在りました。 子供達は、奥に行ったと思います。 モンスターから逃れる為に」 


クラークは、まだ先が在るのかと驚いた。


「なんと・・・。 まだ、霧の中に先が在るのか?」


4人は、セイルを先頭に灰に変わり切ったギガースゾンビの間近で小さな皮の靴を発見した。


「在った・・」


マガルは、靴を手に取りつぶさに観察して。


「確かに使い古しているが、放置された時間は少なそうだ。 靴に、“ユーカ”と名前が書かれて在るな」


セイルは、その近くの壁に閉まる高い鉄門へと近寄って。


「見て下さい。 この門の先・・・。 薄暗いですが、森の様ですよ」


クラークが、格子の鉄門の鍵を壊した。 格子の幅は広く、ユリアやセイルなら横に成って通れる程。 クラークやマガルには、ちと厳しい。 鍵の錠前は、錆びて腐ってたから壊すのに時間は要らなかった。


クラークとマガルは、長年冒険者をやってるだけ在って用意は確かだ。 折り畳みの小型ランタンを取り出し。 火を付けた。


が。 


感心するユリアの横で。 セイルは太い枯れ木に拾って置いたボロ布をきつく巻いて。 其処に固形オイルを塗っては簡易的な松明を作る。 セイルは、オイルに浸した布の束を乾燥させて納めた物まで持っていた。 何処で覚えたのか、以外に用意のいい少年である。


(全く、エルオレウ様の孫じゃわい。 用意のいい事・・)


クラークは、応用も効くセイルが若さに似合わないと思った。 あの油の染み付いた布を定期的に巻いて、燃える松明を持続させるのだ。


ユリアは、精霊達を肩に浮かせながら。


「セイル、アンタね~。 そうゆうのは、アタシにも教えなさいよ」


「あはははは~。 杖を持つのに邪魔かな~・・・なんて・・」


「余計な心配じゃい」


ユリアに怒られたセイルだが、二人は踏み込んだ先が結界の中だと直感した。 “封鎖区域”を形成する結界とは、のである。


門を潜り、雪に強い3メートルくらいの樅の木が整然と並ぶ回廊の様な通路が、真っ直ぐに延びていたのだ。


ランタンの灯りを頼りに、クラークはその道の両脇に生える木を見て。


「むむ・・、コレは。 200年以上も誰の手入れを受けずして、木の枝が伸び放題に成っておらぬ。 結界の中なのだな・・・時間が止まっている」


するとセイルが。


「少し違いますよ」


と、言い。


ユリアが繋いで。


「此処は・・・魔法の幻術の中みたい。 こうゆう風に、魔法で見える・・・ううん。 形作られたイリュ-ジョンの中なんだわ・・」


魔法の中とは・・・。 クラークは、最も厄介だと思う。


「では、道を逸れる訳にもイカンの~」


雪が振り、夕暮れの様な曇り空が広がる下。 歩きながらマガルは、クラークに尋ねた。


「クラーク殿」


「ん? 何かな?」


「イリュージョンは、幻覚なのだろう? どうして、道を外れるのはいけないのだ?」


この問いにクラークは、マガルがこうゆう場所が始めてなのだと理解した。


「マガル殿。 イリュージョンは、物を幻覚に見せるだけでは無く。 罠や周りの地形を見えなくする効果も在る」


「ふむ・・確かに」


「では、反れて踏み出した先が、断崖絶壁で在ったら・・・如何かな?」


この話にマガルはビクっとして、改めて驚く顔でクラークを見た。


マガルに見られて頷くクラーク。


「そうだ。 この地面を見る限り、雪を退けた地面に変化は無い。 恐らく、この幻覚は迷わせる為の迷路を生み出す幻覚魔法だ。 前にも、経験した事が有る。 この回廊の様な先には、呪術者の居場所が在るハズだ。 この手のラビリンスの魔法には、制約に出口を入り口に繋げなければ成らない決まり事が在る。 冷静に切り抜ければ、必ず出口に行き着く」


ユリアは、クラークを後ろの脇から見て。


「さっすが~」


だがクラークは、気を引き締めた顔で前を向き。


「だが、油断は禁物だ。 話には、この魔法にも色々とバリエーションがあるらしい。 気を付けるに越した事は無い」


経験の豊かなクラークは、ユリアやマガルには嬉しい用心棒と云うか。 アドバイザーである。


先頭を歩きながらセイルが。


「結界の中には、スンゴイ怖いのも在るらしいですね。 例えば、こうして逸れ様とすると・・」


と、あの壊れた剣を鞘ごと腰から外して、何の気なしにとばかりに樅の木の並木に差し込んだ。


その瞬間。


“バキーーーーーーーーンっ!!!!!!”


凄い衝撃音が鳴り響く。


「きゃああーーっ!!!」


「ぬうッ!!!」


「ぬおっ!!!!」


残りの3人は驚き立ち止まる。


「・・・・」


差し込んだセイルですら、カチンコチンに立ち尽くして剣から伝わった衝撃に痺れた。


3人は、驚いた顔でセイルを見つめる。


少し黙って、セイルがそ~っと剣を抜くと・・・。


「わっ!!」


ユリアが、更に驚いた。 セイルの差し込んだ剣が、黒い煙を上げて切断されていたのだ。 切断面は、黒く溶ける様に・・・。


「ひえええええ~」


見たセイルも驚いている。


冷や汗を顔に流し、頭に雪を被ったマガルはクラークと見合い。


「正に・・・危険な」


「ウム。 触れても危険だ」


道の幅は、この4人が横に並んで食み出るくらい。 ゆとりは在った。


さて。


「アホっ!!!!! キケンな真似すんなーーーっ!!!!」


怒るユリアが、セイルの頭を叩く音が雪空に響いた。


そして・・。


「イタイ・・・時には実験も必要なのに・・。 うううう・・・」


頭を抑えるセイル。


「ルっさいっ。 大怪我したらどーするのよっ!!! さっさと歩けっ、バカセイルっ」


後ろからセイルを杖で突っついて先に進ませるユリア。


(エ・・エルオレウ殿の・・・世界最高の貿易商の子供を・・・杖で突いとる・・・)


クラークの垂らし加減の鼻水は、消して寒くて垂らしている訳ではなさそうな・・・。


高さ3メートル程の樅の木の並木で作られた迷路の様な通路は、所で十字に別れ。 一度新たなる進路に進めば、来た道が消えて他の道には行けなくなる。 


道が消えた時は、一同本気で焦った。


雪の降る夕暮れは見る見る暗くなり、彷徨う内に何時しか空は夜に変わった。


「おい、ユリア」


並木の道をアチコチとうろついて迷っていると、ユリアの肩に出てきていた“闇玉”が話し掛けて来るのだった。


「あ~さぶい。 なぁに、ヤミちゃん?」


「おう。 多分、おらっちは道が解るぜ」


「え?」


「道の分岐点に、どれか一方だけに闇の力に混じって、別の何かが見える。 コレ、多分は本当の道なんじゃないか?」


「マジ?」


驚くユリア。


セイルを含めた全員が、ユリアに向いて歩みを止める。


闇玉は、ユリアの頭の上に浮いて。


「どれ、ユリアにも見える様にしたるぜ」


と、何やらブツブツと唱え出す。


すると・・。


「あっ・・・、ホントだっ」


ユリアの目に、黒い蛇の様に蛇行して動く様に伸びる黒い線が、地面の雪の上に浮き上がる。


闇玉は、ユリアの頭上に浮きながら。


「この森の中心らしい場所に、闇と魔の力の溢れる場所が在る。 その場所と同じ力をこの道の黒い線から感じるゼ。 さ、さっさと切り抜けよう。 オイラは大丈夫だが、このままじゃ~ユリアも、セイルやオッサン達も寒さで体力が奪われる。 命に関わる前に抜けようや」


「ありがとう、ヤミちゃん」


「フン。 ユリアの泣く顔は、赤ちゃんの時だけで十分ダゼ」


マガルもクラークも、闇の精霊の闇玉にお礼を言うセイルや笑うユリアを見て不思議な感じがしてならない。 


(ふむう・・・。 こうも愛されるものか・・)


クラークは、今までに不思議な体験は色々して来たが。 この精霊の姿も、とても不思議な感じのする出来事であった。

次話、予告。


子供達を捜索するセイル達、各チームの冒険者達。 斡旋所では、森に怯えた冒険者達ばかりで、合同チームの結成は難航しそうな様子であった。 さて、魔法で出来た迷路の先には、一体何が・・・。


次号、数日後掲載予定


どうも、騎龍です^^


セイル編も、中盤に差し掛かりました^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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