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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
159/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ⑩

K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕



                   ≪再びの、島へ≫



次の日は、最後の一日と云っても良かった。 天候と云う意味でも、魔力水晶のエネルギーを考慮しても、ガウ団長の活動や仕事の事を考えても、自由を許される一日は、今日しか無かった。


朝、冷える空気で海上も澄み渡っている。 紅い朝陽が東方に見えているが、その眩しさは雲に半分隠れていた。


早々と船に乗り込んだのは、アンディである。 絶対に島へ行くと云う様子が窺え、魔力水晶船を動かす魔法遣い達は、その姿を呆れた目で見ていた。


さて、遅れること、少しして。


「ニース、ウォードはもう駄目だ」


「ですね。 明日は、誰かが背負わないといけない」


メルリーフとニュノニースが並んで船着場へ来る。 話に出たウォードだが、もう昏睡状態で揺すっても叩いても起きない。 Kに聴けば、二・三日は起きないだろうと・・。 昏睡の理由は、極度に襲う疲労と、無理をした全身の痛みであるとか。 頭部を殴られて安静にしなければ成らない身体を強引に使った代償は、こうも酷いものならしい。 今日は、薬師の方々が看てくれるそうだが、最悪の場合はそのまま死んでしまう事も在りうると云う。


メルリーフは、ボルグが死んでのウォードの様子に、正直な気持ちで島の調査などどうでもいい。 だが、ウォードからアンディを頼まれた。


“あやつの祖父までは、島で代々が死んでいる。 今のアンディの様子は、ちと異常だ・・。 メルリーフ。 俺の変わりに、アイツに付いて行ってくれ。 ・・犠牲は、ボルグの馬鹿一人で十分だ”


何だかんだ。 アンディやニュノニースに冒険者の一通りを教えた一人。 仲間意識も強いし。 打ち解け易く、頼る・頼られるを繰り返した仲で在る。 今までに無い拘りを見せたアンディに、一種の危機感を持ったのだろう。 ニュノニースとメルリーフに、アンディが暴走しないようにと頼んだのだ。


薬師達の世話になるのは、ウォードとビハインツ。 ガタいの大きなビハインツだが、流石に皮膚の溶ける痛みには弱い。 ルヴィアやクラウザーが呆れる程に痛がった。 ま、痛み止めが効きにくい酸の毒で、痛いのは当然なのだが。


ビハインツを外した一同に、アンディ、メルリーフ、ニュノニースが加わり。 島に上陸する際は、ガウ団長も加わる。 モンスターと戦う気持ちの無い魔法遣いなどは、島に行く事にすら反対なのだが。 団長自ら調査命令を発した以上、船を動かして行くぐらいはしなければ成らない彼等だった。


さて、ン・バロソノを出港して。 大分に朝陽が高く上がれば、雲も見える空と、青く穏やかな海の先に島が見えた。


前日と同じく、岸壁に空いた洞窟に入った船で。 島に下りたガウ団長は、Kに云った。


「さて。 此処は何が在るか、我々が守っているモノの重要性を教えて貰おう」


すると、Kもガウ団長に。


「解ってるさ・・。 アンタが心配する本命が、此処に在ったらお慰みだがな」


云われたガウ団長は、その顔を困惑と苦悩で歪めた。


「?」


離れた場所で見ているアンディは、


「ニース、どうゆう意味だろう?」


と、並ぶニュノニースに問う。


「さぁ。 何かガウさん、ボルグさんの死んだあの時からおかしいよ」


「うん、僕もそう思う」


其処に、装備品を背負ったメルリーフが来て。


「ホラ、島の方に行くよ」


と。


遂に、最後の調査が始まった。


しかし、この曇りがちの日は、昨日の様な楽な散策とは行かなかった。


「わっ、アレは爺ちゃんを殺したモンスターだっ!!」


前日に殺したモンスターの死骸を狙い、人の三倍は長い黒い大型蜥蜴と、汚い灰色と焦げ茶色の大型鳥類のモンスターが飛来していた。


森を闊歩する蜥蜴のモンスターは、ヴァニングドランと云い。 その体内で沸騰する体液を吐く事で山火事を起こす処から、“火事蜥蜴”とも渾名される。


一方。 バッサバッサと羽音を出す大型の鳥モンスターは、頭部が剣の様な嘴でしかなく。 突進して突き殺すことから、“チャージズハガン”と云う名前をしている。


木の上で、雀の小型モンスターを突き殺して居場所を確保するチャージズバガンと、枯葉の積もった森の下を徘徊するヴァニングドラン。 ビハインツの片足を怪我させた虫のモンスターと、雀のモンスターの残骸が、食い散らされた様に残る。


Kは、先頭を行くオリヴェッティとアンディに事を委ねる。


「皆さん、此処は戦わずして切り抜けられません。 魔法で先制を仕掛けますから、武器を持った皆さんはその後に」


早くもサーベルを抜いたクラウザーは、Kに近寄り。


「向こうも数が居るが、勝てそうか?」


腕組みして動かないKは、前に出たオリヴェッティとガウ団長とウォルターを見ている。


「あの三人の魔法の選び方・・、それで全てが左右されるな」


「選び方?」


「ホラ、見てろ」


顎を遣ったKの言葉に合わせ、クラウザーはその方を見た。


「魔想魔術で、上を。 下は、私が」


オリヴェッティがそう声掛けすると。


「うむ」


と、云うウォルターは、ガウ団長に。


「では、広範囲に飛礫の魔法を撃ちましょうかの。 翼を傷付ければ、後が楽だ」


ウォルターの実力を見て来ているガウ団長は、それに逆らわず。


「了解した。 では、飛ばれる前に、先に仕掛けましょう」


二人が魔法の詠唱に入れば、オリヴェッティは杖を伸ばして大地に突き刺す。


クラウザーは、前に見た地割れの魔法と見て。


「おいおい、また無茶をするのかの?」


だが、Kは見ていて。


「どうだかな。 先を考えると使えないだろう。 魔力の制御も出来てるし、魔力の抑揚も安定してる。 違う魔法だろう」


Kの云う事は、そのまま現実に成った。 広範囲に飛礫の魔法を放ったウォルターとガウ団長で、森の一部に集まって煩いチャージズバガンは、略全て魔法に襲われた。 その音に反応して、オリヴェッティ達に気付いたヴァニングドランだが。 大地から岩の尖った針を突き出すオリヴェッティの魔法に、次々と刺されてひっくり返される。 刺されて絶命するものは少ないが、明らかに負傷してひっくり返るモンスターは、不意打ちの対象だ。


「腹は柔かい。 元に戻る前にやっちまえ」


と、云うKの言葉が遅いほど、直ぐに反応して飛び出して行くクラウザーやニュノニース。 拳に刃の付いた“クロウ”と云う武器を装備したメルリーフは、誰よりも多くモンスターを倒した。


カタが付いた処で。


「そのまま進もう。 どうやら、昨日ほど楽な道じゃ無さそうだ」


と、Kが云う。


確かに、魔法を遣う者は、今日の島の雰囲気が違っているのに気付いた。


アンディは、Kへ。


「これが普通なんだ。 昨日は、妙に静か過ぎたよ」


と。


後ろで殿しんがりをするKは、それもそうだろうと。


「だろうなぁ。 モンスターの蔓延る領域だからな」


だが、それからは、ヴァニングドランと度々に戦う事に成る。 何度か戦った後、アンディの祖父が死んだ密林までもう少しと云う所で。


「ふむ、これは大変だ」


既に15匹は斬り伏せたクラウザーが、歳相応の顔をして呟く。


曇りの多い空を見上げたKは、


「なぁ~る、そうゆう事か」


と、独り言を言った。


リュリュが、Kに。


「なんかクサイね」


Kも。


「あぁ。 この島の北側には、どうやら火山の噴火口か、その噴出す亀裂が在るんだろう。 今日は、その臭いが強い。 道理で、この火山地帯にしか居無いトカゲさんが、こうもウヨウヨしてる訳だわな」


ウォルターは、噴火の兆しが在るのかと思い。


「友よ。 大丈夫か?」


「噴火はしないさ。 ただ、何らかの大地の営みが有るんだろう。 現場を見ないと何とも言えないが、空に掛かる黒い雲の正体は、煙かも知れないな。 空に靄が掛かったみたいだ」


気候的に寒いのだが、動き回ったり、集中して汗を掻く皆。 動いて居無いKとリュリュだが、風の流れが奇妙な事に気付いていた。


前日に、休憩をした滝が岩の丘から流れ落ちる場所。 その縁に沿って、昨日は行かなかった湿地に来れば、其処は足場を選ばないと危なっかしい場所と成っていた。 立っている木より、根腐れを起こして倒れている木が多く。 生える草も変われば、苔などの植物が圧倒的に多い。 カビの臭いもする場所で、この周辺の森に茸が多く生えるのだが・・。


ドロの地表付近を、何か淡い靄すら見えるが。 その湿地帯を見るKは、苦い言葉使いで。


「コラぁ・・、酷ぇな。 このドロの中、モンスターの死骸だらけだ」


と、云う。


リュリュも、何故か鼻を押さえて。


「クッサぁ~。 なぁにぃ、此処ぉ?」


前にも来た事の有るアンディは、以前と違う風景に。


「おっかしぃなぁ。 此処、前は干乾びたドロの跡が広がる開けた場所だったのに・・」


Kは、その異臭が香る湿原の様な場所に横たわる木に乗ると。


「この湿原は、年に一ヶ月だけとか出来る限定のものだ。 そして、この場所に育つ草は、長期の待機期間を過ごし、短期間の適応した時だけで育つ特有の種・・。 条件が重なった時だけ、此処が変わるんだな」


と、云いながら、その薄っすらと煙る様な湿原を見下ろし。


「・・だが、これはヤバイ。 アンディ、別の道は無いか?」


問われたアンディは、倒木を渡れば直ぐだと思うので。


「無い事はないけど・・、倒木を渡れば大丈夫だと思うよ」


すると、アンディに顔を上げたKで。


「お前、この臭いは毒素だ。 動物を惑わし、徐々に動けなくさせる胞子のガスなんだ。 苔や、彼方此方に生えて見えるあの青白い茸が出すもので、女は副作用から子供が出来なく為ると云われてる」


「え゛っ?!!」


やや男の様な気性を持つルヴィアは、Kに。


「少しなら、口を布で宛がえば何とか為るのではないか」


と、提案をする。


だが、リュリュが。


「でもぉ、なぁ~んか動いてるよぉ。 ホラ、あの辺に」


と、湿原の中のドロがむき出しに成っている場所を指差した。


Kは、その場所から微かな波動を感じ取り。


「あらぁ、モンスターだな」


しかし、見えないし、オーラも感じないガウ団長は、眉を顰めて。


「何も感じぬぞ。 そんなバカな話が在るか」


と、魔法の詠唱に入った。 制御された剣を生み出す魔法を現し、その場所に飛ばしてしまう。 元来、ガウ団長の気性には、こうゆう大雑把と云うが行き当たりばったりな処が有り。 それが、この目的の場所を目の前にしてのまごついた話し合いに焦れて出たのだ。


が。


「あん?!!」


ガウ団長の杖を持つ手に、剣の魔法が突き刺さった手応えが伝わる。 ドロに刺さった感覚では無い。 明らかに、何かモノに刺さった感覚だ。


そして、皆の視界の中でドロが激しく暴れ出した。


見ていたKは、肩を竦め。


「スライムの仲間だな。 はは、待ち伏せするタイプのヤツだ」


と。


魔法の炸裂で千切れ飛んだモンスター。 見ていたウォルターは、全くモンスターの気配を感じる事が出来無かったので。


「ドロに潜む事で波動を隠せる様だの。 全く居ると判らなかった・・」


一方、自然のエネルギーをそれぞれに感じれるオリヴェッティはと云うと。


「あぁ・・、ドロの中に自然のエネルギーを弱める空洞の様な場所が・・。 これがモンスターの様ですが、これはとても判り難いですわね」


Kは、アンディへ。


「怪我人が出そうな道を行くのは、それしか道が無い時のみ。 かわせるならは、素早く回避するのが基本だ」


それを聴くアンディは、何度か頷いて。


「解りました。 では、海岸沿いから回る方にします」


手を上げて了解を示したK。


だが、海沿いの海岸から回り込み、森に入ると不気味な感じが広がっていた。 冬の中での密林と云うのも変わっているが。 蔦や木々の葉が色褪せ、曇り空に変わる御蔭で薄暗さが際立っていた。 しかも、何処からか“ボォ~”と云う音がする様な・・・。


クラウザーは、その不気味な森の中に入ると。


「フム。 此方は此方で、また不気味じゃな。 遠くから聞こえて来るのは、風の音の様な気がするわい」


昼頃にその森を行くのだが、アンディは顔色が悪くなり。 皆の中に、奇妙な緊張が漂う。


最後を行くKは、前のニュノニースが俯くのを見る。


(近い・・か)


鬱蒼とした森を掻き分けて進む先で、獣道の様な切れ間に出た。 空が見え、左側には倒木も見える。 どうやら、迂回出来たのだが。


俯くアンディは、オリヴェッティに。


「むっ・向こうです」


と、獣道の様に森と森の間を縫う隙間を指差す。


オリヴェッティは、アンディの様子がおかしく思えた。


「どうしたの? 身体の調子・・悪い?」


すると、アンディの顔は歪み、何かを堪える様な表情のままに、首を左右へと動かす。


Kは、後ろから。


「先に進め。 こんな所で突っ立ってると、モンスターに攻められたらやり難い。 目的地に向かえ」


「でもっ」


と、云うオリヴェッティだが。


「ケイさんの・・言う通りです」


搾り出す様に云うアンディは、そのままに歩き出す。


後ろの方に居るウォルターは、Kが事情を知って居そうなので。


「何か?」


「アイツの祖父が、この辺りで亡くなってる。 表面では平気そうでも、現場に近付きゃ記憶が甦る」


「そうか・・、それは辛いの」


「恐らく、それだけじゃ~ないだろうがな」


ウォルターが首を傾げると、それを聞いていたニュノニースが。


「どうゆう事ですか?」


と、振り向き様に小声で尋ねてくる。


隊列の歩みに合わせて動き出すKで。


「考えても見ろ。 アンディは、祖父の死に方は仕方ないと割り切っていた。 だが、いざと成って此処まで来れば、その行動の意味が解ってくる。 同じ思い、同じ行動に駆られてるヤツ(アンディ)には、改めての思考を迫られてるのさ。 どう思うべきなのか・・を、な」


ニュノニースは、そのアンディの祖父が死んだ時に立ち会っている。 森へと勝手に逸れた祖父の行動は、どうしてだか未だ解らないままなのだ。


「ケイさん。 私は、その時に一緒に居たの。 でも、アンデルのお爺さんが勝手な行動をしたのは、本当に突然だった様に見えたわ。 どうして、モンスターに襲われる様な行動をしたんだか・・」


歩くKは、何も解らない事は無いと云う顔をしている。


「答えは、直に解る。 この風の音が恐らく、その答えに成る」


その言葉を聞くニュノニースは、暗がりで藍色に光る目を見張った。


獣道の様な森の裂け目を通り抜け、密林の様な森の中へとまた分け入る。 その森の中を進んでいると、太陽が完全に雲へと入って暗くなった。 まるで朝方の影の様な暗さに成って、ウォルターとガウ団長が光の魔法を杖や指輪に宿す時だ。


突如。


ーキィキィキィキィーーーーーっ!!!!!!!!!!!!-


けたたましい何かの鳴き声が空を走る。 バサバサと云う羽音が煩く、不気味な雰囲気がチームに膨れ上がった。 上を見上げれば、黒い煙と云うか。 黒い風の渦の様な物が昇っているのが微かに覗えた。


そして、驚く顔を見上げさせたアンディ。


「これ・・、あの時も聴こえてた・・・。 嗚呼っ、昔の一族が伝えた記録文と同じだっ!」


と、声を出した。


先程から彼が心配だったオリヴェッティは、アンディの言動が気に掛かり。


「“あの時?” アンディさん、何時の事ですか?」


すると、オリヴェッティに喰らい付く様な勢いで振り返るアンディ。


「僕の爺ちゃんが死んだ時っ」


此処で、Kが。


「早く先に進め。 ダラダラしてると、直ぐに夕方に成るぞ」


だが、もう興奮し始めたアンディは、Kへ。


「でもっ!! この状況は、先祖が島に渡った時の異質な場合と同じですっ!! 爺ちゃんは、これを見たんだっ!!!」


と、云うのだが・・・。


「お前のジサマは、この蝙蝠の飛び立ちが何か別の物に見えたんだ。 黒い影が帯と成って噴出す場所を森に見たか、鳴き声が奇妙な音に聴こえたか。 何れにせよ、この森の奥に何かが在ると思ったんだろうさ。 お前は、こうして確かめに来てるんだ。 無駄足をせず、さっさと進め。 まだ入り口にも到達してないんだぞ」


叱られた様に云われたアンディは、Kに云われて険しい顔を更に俯かせる。 内心で、そんな簡単な事なのかと疑問が膨張しし続けている。


だが、クラウザーは、アンディの肩に手を置いて。


「行くぞ。 陽が暮れたら、モンスターがもっと活発に成る。 不死モンスターに、島々の距離なら移動も可能。 夜行性のモンスターは、凶暴だ。 さ、もう入り口は直ぐ其処じゃろう」


頷いて歩き出すアンディ。 それを見るオリヴェッティは、何となく嫌な予感がした。


森を突き抜けるまで歩くと、其処は巨大な縦穴が口を開けていた。 丸く大地が奈落へと陥没した様な穴で。 穴の其処には、密林が針山の様に茂っている。 太陽は、もう雲に隠れたままで。 この薄暗いままに、夕方・・夜へと落ちていきそうな様子だ。


Kは、等間隔に瘤の様な結び目を作ったロープを借り受け。


「此処は丈夫な蔦が多い。 側面にぶつからない抉れた場所を選んで、一気に降りるぞ」


すると、飛べるリュリュが。


「わ~いわ~い、滑り落ちるぅぅ~」


と、はしゃぎ出す。


処が。 目を細めるKは、リュリュに。


「アホ。 お前が蔦を下に固定するんだ」


すると、もう剥れた顔でリュリュが怒り出し。


「ヤダっ、Kさん遣ればいいじゃんっ。 僕は、蔦でシューって降りたいっ!!」


此処で急に駄々を捏ねるリュリュ。 呆れたKは、


「いいから、降りて結んで来い。 最後に、お前も滑らすから」


と、適当な提案を述べるのだが・・。


「むぅ~~、新鮮さが無いよぉ」


「リュリュ、お前はモンスターが襲って来ても楽だろうが、周りは違うんだよ。 ホラ、早くっ」


Kが引っ張り出した蔦が、ズルズルと穴の中へ落ちてゆく。 イヤイヤ歩き出すリュリュは、ロープを手にポ~ンと穴へ飛び込んだ。


皆が大穴の縁から見下ろす中。 Kの下ろす蔦を掴んだリュリュは、下に降りてゆく。 Kは、木に絡む蔦をどんどん引っ張り解く。 細く成る前で、次の蔦と絡めて下ろす。 何とも仕様を弁えた遣り方で、天然の蔦を何度も糾えて長いロープにするなど、素人では中々怖くて出来ないだろう。


Kは、蔦の引きが無くなったので、そこで止めていると。 下の森から、風の吹き上げが有った。


「よ~し、一人一人掴まって滑り落ちろ。 下でリュリュが風のクッションを作ってるだろうから、多分は大丈夫だ」


クラウザーは、目の前で不毛な言い合いを見た後なだけに。


「ホントに大丈夫か?」


蔦をしっかりと固定したKは、スタスタと大地の陥没した穴に向かいながら。


「怖いなら、此処で待つか?」


と、穴に落ちる。


「きゃっ!!!!」


「うわぁぁぁっ!!!」


飛べるリュリュとは違うK。 急に飛び降りれば、彼を良く知らないニュノニースやアンディなどは驚くだろう。


だが・・。


「・・え?」


「う・うわぁ・・アノ人凄いな」


落ちたら確実に死にそうな高さの穴なのに、Kは崖の側面を蹴って歩く様に落ちてゆく。


クラウザーは、それを見ずに蔦へと近付くと。


「置いてかれないウチに、さっさと降りるか」


慣れた感じで蔦を握るクラウザー。 そのまま穴に落ちる様に伝って行く。 最初は下だが、直ぐにやや斜めと成る蔦。 踵を乗せ、握る力を弱めれば、ススっ・・スススッと滑って下れる。 コツは必要だが、船乗りとしてロープに似た物には慣れ親しんだクラウザーだ。 蔦だろうが、大丈夫と思えば同じである。


次に蔦を伝い出すのは、


「はぁ~~・・、流石に上手いな」


と、感心したルヴィアであった。 しかし、ぶら下がって伝う事は出来ても、握りを弱める踏ん切りが付かず。 辿る様にぶら下がって降り出す。


「では、つっ・次は私が・・」


高所を得意としないオリヴェッティは、その遥か下と見れる密林の底を見て脅えた。 だが、行かなければいけないし、最後に成るも嫌だった。


一方、木の上部に到達したクラウザーは、風の壁が蔦を縛った部分に在るのを感じる。


(フム、一応は大丈夫の様だな)


其処から、瘤の縛り目を持つロープで下に降りるのだが。 蔦の縛られた真下辺りは、木の枝を繋いでクッションの様な物が出来ており。 其処には、下から受け止める様な風が吹き上げていた。


(ほぉ・・、流石は神竜の子供だ。 自在に風を操れる)


感心すれば、これから来る者にも教えたいと思う。 だが、降りる途中でルヴィアを見れば、其処にはリュリュが居た。


(女が相手だと素早いのぉ。 ま、任せるか)


だが、ルヴィアの方は大変だ。


「ルヴィアおねぇ~さぁ~ん」


とんでもない高さを命懸けで下りている最中に、リュリュがルヴィアに抱き付いて来る。


「わっ、コッ・コラっ!!! 余計な処をさ・触るなっ」


だが、抱き付くリュリュは、風の流れを生み出し。


「てぶくろしてるんだからぁ~、握るのを弱めて大丈夫だよぉ~」


と、ルヴィアの脇の下辺りを擦って来る。


「ちょっと!!! 嗚呼・・」


刺繍の麗しいピアリッジコートの下には、ルヴィアもプロテクターなどを装着している。 だが、脇の下はその範囲に無い死角だった。 握りが弱まった一瞬、滑り易い樹皮の蔦を触りながらルヴィアの身体が疾走した。


「わぁぁーーーーーーーっ!!!!!」


驚いて握っても、剥けた樹皮で滑って降りる速度は弱まらない。


(ぶつかるっ)


木に激突すると思われ、目を瞑った直後。 柔かい羽毛の中に飛び込む様な感触で止まった。


「あ? な・何だ?! 何なのだっ?!!」


意味が解らないルヴィアだが、背中に張り付くリュリュがはしゃいで引っ張り。


「らっかぁ~」


「わっ、おおおいっ!!」


と、今度は後ろ向きにまた落ちるのだ。 こんな連続では、ルヴィアも慌てるのは当然だろう。 だが、今度は吹き上げる風と木の枝のクッションに受け止められるルヴィア。


「・・・」


何をどう理解すれば良いのか・・。


キャッキャとはしゃぐリュリュは、枝の組まれた上で寝るルヴィアを覗き込むと。


「ルヴィアおね~さん。 その服の下に着てる硬いもの脱いじゃえばイイのにぃ~。 大事なところが、柔かくなぁ~い」


「あ・・?」


ポカ~ンとするルヴィアに対し、リュリュは次のターゲットにオリヴェッティを見る。


「いっちばん柔かいぃ~、オリヴェッティおね~さんトコいこ」


飛び上がって行くリュリュを、そのままの体勢で見送ったルヴィア。


下で見ていたクラウザーは、


(竜種とは、あんなに女好きか。 変わる前のカラスみたいじゃな。 ま、アイツ(K)の場合は、女相手なら問答無用じゃったから、まだ可愛いか)


と、思いながら。


「ルヴィア。 その木にロープが在るから、早く降りろ。 その内、オリヴェッティが落ちて来るぞ」


声を掛けられ、ハッとして下を見るルヴィア。


「あ? ・・あ、あぁ」


状況が今一飲み込めて居無いままのルヴィアで、ノソノソと起きてはロープを探し出す。


一方。 リュリュの悪戯の餌食と成ったオリヴェッティで。


「リュリュ君っ、怖いからやめ・・あっ」


身体の彼方此方を触られ、完全に手を離したオリヴェッティ。 リュリュの生み出した風の上に乗り、そのまま木の方に。


「きゃうん」


風の壁に受け止められたオリヴェッティは、ルヴィアが退いたばかりの吹き上げる風と木の枝のクッションにまた落ちる。


「・・・」


死ぬかと思って放心するオリヴェッティに、リュリュはべったりくっ付いて。


「やっぱり、オリヴェッティおね~さんがいっちばぁ~ん」


降りる際でそれを見るルヴィアは、ワナワナと顔を怒らせ。


「このふしだらな大馬鹿者めぇっ」


だが、リュリュはまた飛び上がると、


「あのおね~さんも行ってみよう~」


と。


丁度、アンディとニュノニースが次だった。


「キャっ、止めてぇっ」


今度は、ニュノニースに抱き付くリュリュで、手にプロテクターをする彼女をルヴィア同様に滑らす。 こうなると、その先に降りていたアンディは驚き、手を離してしまう。 ま、リュリュがその首根っこの服を掴んで無事なのだが。 オリヴェッティが退いたばかりの木の枝のクッションに落下した二人は、生きた心地のしない放心状態に成る。


そんな二人の間から抜け起きるリュリュは、


「う~ん、鎧ってきらぁ~い」


と、感想を残し。 また、飛び上がって残りの面々に向かって行く。


ウォルターは、自分の浮遊するカバンで降りた。 残すは、軽快に蔦を伝うメルリーフと、もう身体をロープで蔦と縛りながら、恐る恐る降りているガウ団長だ。


が・・。


メルリーフを、何故か宙に浮いて見るだけのリュリュで。


見られているメルリーフは、目を細めて苛立ちを見せる。


「コラぁっ、年齢や種族で差別すんのかぁっ?!! 一応、これでも女だぞっ?!!」


だが、指を咥えたリュリュは、メルリーフとガウ団長を見て。


「う~ん、滑るのにじゃまぁ~」


と。


その直後。


「ごるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!!!」


「やめてけれぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」


メルリーフの怒声と、ガウ団長の悲鳴が木霊する。 風の魔法で、強引に滑らされたのだ。


先に風の壁に突撃したメルリーフだが、後から来たガウ団長に激突されて呼吸が出来ない程にのめり込む。


「おぷっ」


ガウ団長は、ぶつかる手前で眩暈を起こし。 そのまま下に落ちるのだが、命綱のロープが引っ掛かって幹に頭をぶつける。


一方。 ガウ団長が取れた事で、ポンっと飛び出る様に落ちたメルリーフは、木の枝の組まれた物と風が吹き上げるクッションの外れに半身引っ掛かる形で残った。


リュリュは、誰も居なくなった蔦に飛び付き。


「やっほ~~~~~~~~っ!!!!」


と、滑っては、木にとび蹴りで宙に飛ぶと、また遊びの様に繰り返して滑る。


・・、地獄の一瞬は、こうして終わった。


なんとか、ガウ団長まで下ろした皆。


クラウザーとウォルターは、生きた顔をしてない面々を見て。


「お疲れだな」


「その様ですな」


と、他人事だった。


キレ気味のルヴィア、キレてるメルリーフ、迷惑な仲間だと思うアンディやニュノニースが、遊ぶリュリュを見ていると。


「おい。 こっちだ」


と、Kの声がした・・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、有難う御座います^人^

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