K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ⑥
K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕
≪最悪の島へ≫
「フンフン~」
辺りが真っ暗に成った中、野営地に戻るべく航海をする調査船。 モンスターを相手に暴れたリュリュは、気分良くして寒い甲板に出て鼻歌を歌っている。
同じく甲板に出ているKやクラウザーなどは、固まって話をしていた。
クラウザーは、Kに。
「お前・・そういや、前には記憶の水晶も見つけたとか云ってたな? それはどうした?」
冷たい風に吹かれながら、海を見ているKは何処か醒めた様子で。
「捨てた」
ビハインツは、重要な記憶だと思うので踏み込み。
「すっ・捨てたっ? そんな大事なものを、アンタが勝手にか?」
「あぁ」
ルヴィアは、理由が知りたく。
「何で捨てたのだ? 何が入ってた?」
と、迫る。
だが、Kは何処と無くボンヤリとして。
「遺跡が破壊された記憶だの、争いの記憶だの・・。 そんなのばかりだ」
「誰と誰がっ?!」
ルヴィアが更に突っ込めば・・。
「今の支配者の先祖と、海旅族の先祖」
と、アッサリと云うK。
ウォルターは、ハットを深く被って顔を隠し。
「この場所まで海旅族の神殿は存在していた。 だが、その痕跡は・・地表に無い。 侵略進行が此処まで伸びたにも関わらず、その記憶の封印を自治政府が行っているか・・。 これは・・、何時もの慣例じゃな」
Kは、顔を動かさず。
「ウォルター。 魔法学院を卒業したアンタには、少し嫌な現実・・か? ま、自治政府は変わらぬ事をしてるだけだがな」
船内を暖める上で、石炭を燃やして蒸気を作る場所が在る。 甲板に出る階段の壁の片側は、その作り過ぎた蒸気を逃がす煙突が通っている為。 寄り添うと温かい。 ウォルターは、其処に背中を着けに行った。
しかし、まだ理解出来てないオリヴェッティもまた、同じ魔法学院を卒業した一人。
「ケイさん、何を仰っているんですか? “慣例”って・・何の事です?」
冷たい風だけが吹く海上。 暗く静かで、波の音が怖いぐらいに聴こえる。 魔力水晶の力で進まなければ、強い波にぶつかりもっと強く揺れているだろう。
闇を見るKは、語り掛ける様に。
「前にも云っただろ? 魔法学院の自治政府は、他国の事について干渉しないと。 自国と云うより、魔法学院の存在を脅かされない限り、あらゆる干渉の手も出さない」
Kの前に迫るルヴィアは、
「だから・・どうしたと?」
余りにも想像力が乏しいと思うKは、
「少しは自分で考えろ~」
と、リュリュの方に歩き出した。
「おいっ」
呼び止めるビハインツだが。
「止めとけ」
と、クラウザーが云う。
オリヴェッティは、少しその出来事に達する閃きが在り。
「クラウザー様。 ま・まさか・・、ケイさんの見た記憶の石には、この国の慣例も・・映っていたのでしょうか。 残せば、物議を醸し出す様な・・・」
クラウザーは、大体を察している。
「恐らく・・な。 ケイの見た過去の記憶は、良いものでは決して無い。 ・・・そうゆう内容なのだろう」
「そうですか・・」
クラウザーは、帽子で顔を隠すウォルターに歩み寄り。
「ウォルター様。 お湯でも貰って、何か飲みましょうか」
「あ? おぉ、そうですな。 身体の温まるワインティーなどが欲しい処だ」
クラウザーは、ウォルターを誘ってデッキに向かう。
残された3人だが。 今頃は、洞窟に入ったアンディ達に、ハンター達などが何を見たのかと詮索をしている真っ最中だろう。 だから、下の板の間にまで下りたくない。
さて、まだ意味の解らないルヴィアで。
「オリヴェッティ。 何が解ったんだ?」
ビハインツも。
「そうだっ、仲間だろう? あそこまで一緒に行ったんだ。 何でも教えてくれよ」
そんな二人を見るオリヴェッティは、羽織るコートをしっかり着込みながら。
「魔法学院は、古の創世記から残る古い国です。 ・・その建国の意義とは、また魔物が地上を支配しようとした時、その対抗手段を後世にまで残す為。 その為に、魔法学院政府は、世界に約束を解きました・・。 一つ、魔法の戦争は世界を滅ぼしかねないので、決して侵略を行わない。 二つ目に、他国の如何なる戦争・抗争・侵略・防衛にも関わらないと」
ビハインツは、魔法の威力を見ているので。
「そんなのは当然だ。 別に、大した事では無い筈だ」
と、云うのだが・・。
ルヴィアは、此処まで説明されて、やっと何か引っ掛かり。
「・・待て。 今の神殿も、この魔法学院自治領の中に在ったではないか。 どうして、地上部は失われたのだ? それに、もし海旅族が戦いで追われて逃げたとするなら、この島にも逃げたかも知れぬ。 ちょっと・・・まさか、き・・記憶の石に込められた争いとは・・」
ルヴィアが宙を見ながら、探る様にして核心に向かった。 そこでオリヴェッティは、少し顔を伏せ。
「真偽は定かでは在りません。 ですが、海旅族の神殿が此処に在ったのにも関わらず、全てが滅んでしまった現状を考えると・・、恐らく。 虐殺されて、追われる彼等が目の前を逃げたとしても・・、自治政府は一切の救済をしなかった・・・」
ビハインツは、その話の内容に固まる。
「じゃ・・今でも・・見張りが密かに在るのは・・?」
ルヴィアは、嫌な事だと思うが。
「多分・・、そんな記憶を封印するため・・では?」
俯くオリヴェッティ。
「どんな・・記憶だったんでょうか・・ね。 その・・当時の光景って・・・。 前にケイさんが話してくれた内容だけでも、陰謀と血で血を洗う様な話でしたが・・。 無視をするって、遣られてる側からするなら・・共謀・・に」
素晴らしい奇跡の地を見た後で、この答えはどうだろうか・・。
ン・バロソノに着いた後。 ガウ団長は、Kをデッキへと呼んだ。 船のデッキで、二人して会うガウ団長は何を話したのだろうか。
Kがリュリュの居無い宿屋の寝室に戻ったのは、深夜だったとか。
(アイツめ。 まぁ~た女の処に行ってるなぁ?)
案の定。 Kが居無いと、オリヴェッティに甘えるリュリュは、そのまま彼女と一緒に寝ていた。
・・・。
次の日
「よぉ~し、それでは調査の為に、3番目に大きな島へ行く」
ガウ団長が船に乗客を入れると、ハンター達は挙ってKの下へ。
「おいっ、宝を探してるんだってっ?!!!」
「俺達にも、いっちょ噛ませて貰えないか?」
アンディ達は口を噤んだらしいが。 ここいらで宝の話は有り触れた伝説だった。 遺跡を見つけたとなら、財宝も在ると短絡的な発想の彼等。
Kは、あっさりと。
「別に、来たきゃ来い。 ただし、そうなると最初の約束とはズレる。 自分の命は、自分達で守れ。 採取の間は、約束だから守る。 だが、それ以外は守らない」
これには、ハンター達数名は口を噤んだ。
「当然だ。 アンディ達だけで、果たしてどこまで守れるか・・・なぁ」
甲板で起こるこの騒動。 離れた後尾で見ているメルリーフは、オリヴェッティに。
(なぁ、大丈夫だろうか。 今日からは、彼等も随時一緒だ。 遺跡の捜索など、出来ないかも知れないぞ)
すると、オリヴェッティは困った呆れ顔をして。
(それが・・、素晴らしい場所が在るのは、ケイさんの見立てでは、あの昨日の神殿だけだそうですわ)
(ほぉ)
(しかも、昨日の神殿へ行く道も、ケイさんは消してしまったとか・・。 土砂に埋れてしまっては、監視もガウ団長も居るので、先ず無理だろうと)
(・・中々、あの包帯男も考えてるな)
(そうゆう方です)
(ふぅ~ん)
この日の変更点は、当初だと二番目に大きな島へ行くはずなのが、三番目に大きなアポカリボン島に成った事だけだ。
さて。 朝からまた島へ行く航海の中で。
甲板に上がって来たウォルターは、風が穏やかで日差しが温かいというのを感じてから。 Kに向かって歩いていった。 船首で海を眺めているKで。
「我が友よ。 一つ、聞きたい事が出来た」
「ん? どうした」
船首に彼と並んだウォルターで。
「御主、昨日に壁画の地図を見て“やっぱり”と云うたな」
「あぁ」
「それは、先んじて解っていたのか?」
するとKは。ウォルターを良く眺めてから。
「ウォルター・・、アンタも歳だなぁ」
「ん?」
「航海初日。 アンディから地図を見せて貰っただろう?」
「あ・・、あぁ。 大きな3島の地図か」
「おう。 あの地図の裏。 目の島は、サニー。 二番目に大きな島は、ショルダン。 三番目が、ヴィヴィ・ラーって書いて在っただろう」
「サニー・・ショルダン・・。 ふむ、何処かで聞いた事が・・あっ」
久しぶりに古い記憶を呼び起こす連続だった。
軍隊の隠語でもあるのだが、近衛軍や選りすぐられた騎士団の三軍に付けられる事もあるこの名称。 元は、創世記以後に有ったモンスターとの大戦争の歴史の中で、特に英雄視される3人の名前である。
ホーチト王国とクルスラーゲにモンスターが迫った時、その軍勢を討ち果たしたフラストマド大王国の12代王ショルダン。 先陣王ショルダンとも呼ばれ、それまでは集落や街に棲む傭兵の様だった兵士を、国の軍隊として直轄組織した初めての王だ。 それまでは、兵士と云うのは雇われや志願兵で。 国などが抱える兵士とは、街や集落に金を払って借りていた形だった。 このショルダンと云う人物は、陣形や集団戦略の父としても有名である。 近衛兵や選りすぐられた騎士団の先発隊に、このショルダンを付けるのは、エリート意識を高める為でもあった。
第二、中枢軍。 近衛軍の真ん中をヴィヴィ・ラーと名づけられる事が在るが。 この女性も、モンスターとの大きな戦いで功績が大きかった神官騎士である。 クルスラーゲに実在した法王の娘で、その剣技と神聖魔法の双方に秀でたヴィヴィは、父の代わりにモンスター討伐軍を指揮した女傑である。 魔界の悪魔貴族と刺し違えた悲劇の女性で、彼の恋人もまた、その戦場で散ったという。 この話は、演劇でも演じられる演目の有名株である。 知性も高かったヴィヴィで、軍師などが随行する中枢軍に、この名前が付けられる事が在る。
最後のサニーは、無欲恬淡の傭兵英雄サニーの事で。 魔王をこの世に呼び出そうと企んだ極悪王ソロンを、冒険者や離反兵と共に打ち倒した英雄だ。 今に戦乱が起こっている西の大陸の、北に位置する国で本当に在った出来事だ。 だがこのサニーは、助け出した皇女の求婚も受けず。 そのまま混乱と退廃した国を守る騎士になったとかで。 その最後も、皇女と結婚した異国の王子で、後の王に嫉妬されての暗殺と云われていた。 近衛軍や、選りすぐられた騎士団の第三軍は、殿と云う意味でも引けぬ三軍と云われ。 このサニーの名前を付ける事が在る。
今に語った以外にも、知識の在る親は3人の子供に付けたりするし。 店の名前にも、この三人の名前は用いられる事も在る。 この名前は、結構有り触れた名前なのだ。
久しぶりに思い出したウォルターは、何とも老いが恥ずかしく。
「おぉ・・、この私が・・この様な事も思いだせんとはな」
Kは、ニヤりとしながら。
「地図の裏の名称も、縮小地図の番号に成ってたとか。 アンディの一族は、あの街を出ないままだから、途中から知らなかったままだったんだろうさ」
「ふむ。 そうなると・・。 今日行くのは、実際には二番目に大きいアポカリボン島。 あの壁画の地図では、奇怪な月影の夜と銘々された島じゃな」
「あぁ。 ウォルター、今日からは気を張ってくれよ。 俺も、何が出るか解らんから」
「うむ」
了承したウォルターだが、柔かい身のこなしで踊る仕草をすると。
「この冒険心とは、恋愛のときめきに似ているの。 心が、押えきれぬほどに熱くなる。 今に成って、久しぶりに演じたくなったわい」
「アンタが演劇をしたら、数年ぶりの騒ぎだな」
身を元に戻したウォルターは、海を見て。
「演じる事が詰まらなくなったと思ったがな。 御主とこうして冒険してみると解る。 私が、少し詰まらなくなったのだ。 舞台に戻る時は、この老いた身体で良い。 主役も要らん。 只、人を魅せれるならそれでよい」
通過する島を遠めに見るKは・・。
「なら、それまで生きて生き抜いて貰おうか」
と。
だが・・。 アポカリボン島とは、それまでの想像を絶する島だった。 船着場に近付く頃から、K以外。 ウォルターやオリヴェッティを含めた魔法を扱える者、何と全員が気分を悪くしていた。 僧兵や僧侶などは、ゲェゲェと吐いてしまう程。
島を船の上から見たKは、片目を大きく開いて見ながら。
「なぁ~るほど。 上陸する前の近付くだけで、この瘴気か。 おいおい、マジでゲートでも開いた事有るんじゃないかぁ? この感覚は、マニュエルの森やダロダト平原に隣接する緩衝地帯と変わんねぇゼ」
甲板には、アンディも出てきていて。
「そうなの? ケイさん、このアポカリボン島だけは、異質で島全体に結界が張られてる。 20年に一度は、必ず結界強化が義務に成ってるよ」
その話に唖然とし掛けたK。
「アンディ。 結界強化って、海上からでも出来る事だ」
「え? そうなの?」
「お前が知る限り、この島に誰かが上陸したのって何年前だ?」
「あ・・、爺ちゃんもこの島は取り分け危ないって云ってたなぁ。 聞いた話だと、10年前とか」
船着場に入り。 先ずはKが降りた。
(おい・・、アレって・・・)
船着場から島の方を見ると、藪の中から何かが現れる。
「おい、此処での採取の・・」
と、気分悪そうにガウ団長が降りて話し掛けるのを、Kは素早く。
「シィっ」
と、止めた。
「あ? どうした?」
脂汗を額に浮かべるガウ団長が、Kの視線の先を見れば・・。
「あ゛っ!!! な・・何だぁぁ?!!」
それは・・人だろうか。 全身が真っ黒で、もうボロボロもいい所と云う千切れたズタボロの衣服を引っ掛けている様な人物が、ブルブルと全身を揺らしながら近付いてきている。
Kは、
「誰も降ろすなっ。 まだ降ろすなよっ!!」
と、声を掛けた直後だ。
甲板の上から、オリヴェッティやハンター達の手下達も見ていた中で・・。
「うわぁーーーーっ!!!」
「キャアァァァーーーーっ!!!」
と、悲鳴が上がった。
・・いや、悲鳴も出るはずだ。 その真っ黒な人物の身体が、ボロっ、ボロっとバラバラに成りながら、首だけニュル~~ンと長く伸び上がったのだから。
Kは、ガウ団長に。
「俺が少しモンスターを倒す。 いいか、絶対に誰も降ろすな」
ガクガク頷くガウ団長は、腐った血の様な色のブヨブヨしたカエルの手足の様なものを出す人物を見て。
「あ・アレも・・、モンスターか?」
「あぁ。 アビソプドデーモン。 アレは、完全に魔界の下級悪魔だよ」
「デっ・デーモンっ?!!!」
悪魔と聞いて、ガウ団長は腰を抜かした。 元来、デーモンやデビルは、人の住む普通の場所には居られない。 魔の力が蟠る場所か、魔界の瘴気が無ければ存続も難しいのだ。 だが、此処ではそれが居る。 つまり、此処はそれほどに危ない場所なのである。
(チィっ、こんなに危ない場所とはな。 結界で瘴気が薄れてるが、島の中はとんでもないぞ。 一番汚い下級悪魔が居るなんざ~、珍しすぎる)
Kは、悪魔か・・と云うより、あの悪魔が此処に居るのが嫌だった。 悪魔には、様々な種類が居るが。 悪魔は達はそれぞれに、魔界で住む場所を決められていると云う。 排泄物や死体などを棲み処に選ばれた悪魔は、その存在が病魔を撒き散らすとされている。 眼の前で、赤黒い身体をビロビロと伸ばしながら結界に当るこの悪魔は、その一番底辺に居る悪臭の悪魔だった。
「おいっ、上陸出来るか?」
ガウ団長がKに言う。
鋭い眼のKは、ガウ団長に向かって。
「アンタはこの状態を説明して、上陸を諦めさせろ。 俺は、とにかく島を軽く見回って、モンスターを排除する。 このまま放っておいたんじゃ、モンスターが凶悪化する。 それに、この悪魔を生み出す元だけでも確かめる必要が在る」
「あ・・あぁ」
「記憶の水晶に見たものを残すから、後の対処はそっちで考えろ」
船に引っ込むガウ団長の代わりに。
「ケイさぁ~ん」
甲板の上から、リュリュが飛び降りてきた。
だが、リュリュを見るKの眼は、非常にキツイもので。
「リュリュ、お前は来るな」
と、即座に言った。
「えぇ~・・」
渋るつもりで云うリュリュだが、Kの眼を見て声も萎れる。
「ケイさんっ、どうする気ですかっ?!」
船の上から、オリヴェッティも顔を出して問うて来る。
Kは、リュリュを脇目にして。
「リュリュ。 お前は、まだ子供だ。 強い魔界のオーラを纏うモンスターに傷付けられたら、その聖なる精霊力を汚されそうに成って暴走するぞ。 お前、母親みたいに人を殺したいか?」
すると、恐怖を覚えて怖がる子供の様な顔をするリュリュは、
「・・う・ううん。 いやだよ」
と。
「なら、船に居ろ。 いいか、俺が戻るまで誰も島に行かすな」
「あ・・うっ・うん」
Kは、淡く白いカーテンの様な結界を見て。
「しかし、これだけ強く大きな結界が軋んでる? この島、何が有りやがったんだ?」
次の瞬間、Kの姿は島の中に在った。
「うわわ・・」
リュリュが見ている視界の中で、アビソプドデーモンが半分に斬られ黄金のオーラで塵に変わって行く。
そして、中に入ったKをスライムのモンスターや大型ワームが襲って、直後に瞬殺されたが。 Kの姿も消えていた。
オリヴェッティ達が船着場に下りて、ただ立っているリュリュに話を聞く事に成るのだが・・。
船内では、ハンター達がガウ団長に噛み付いていた。
「おいおいっ、久しぶりにこの島で採取できるって聞いたんだぞっ」
「そうだ。 10年近くも人が入ってないんなら、それなりに珍しいものも採れる。 是非、採取に入りたい。 この島では、過去にデカい宝石の原石も見つかってるんだ」
あの老婆から物を取ろうとしたハンターも。
「この島は、唯一活火山が在る。 鉱物資源も拾えそうだし、少しの危険で取り止めは困る。 何の為に高い金を出して、あのアンディ達を雇ったと思ってるんだ? あの黒尽くめはどうした」
だが、その手下達はまた別だ。 普段は威勢を傘に来て、冒険者でも脅す彼等だが。
「だっ・旦那ぁ、此処は止めましょうゼっ」
「そうですよっ、僧侶とかゲロ吐きっ放しだし。 なんだか薄気味悪い感じがプンプンしまさぁ・・」
「そうですよ、さ・さっきから・・ふる・・震えが止まりません。 さっき見たモンスターは、普通じゃありませんよぉ・・」
流石にワルでも、現場派と言えばいいか。 肌でこの島の異質さを感じて、嫌がった。 ま、僧侶は吐いてのた打ち回るし。 オリヴェッティ他、魔術師も違和感で顔付きが険しい。 何より、甲板に出た数人は、デーモンも見ているから当然だろう。
手下達の元締めの一人が、震えて脅える手下を見て。
「おい、お前どうした? 唇が真っ青だぞ」
「お・親分、ここ・・こっ・此処はヤバイですよ・・・」
悪魔を見た手下は、大声を上げて板の間の部屋に逃げ帰った方だ。 下級悪魔でも、この様子。 もし島に上陸して、強い悪魔や上級モンスターに出遭ったら・・・。
だが、ハンターの者達は、脅える手下を蹴り飛ばし。 止める元締めや他の手下も無視し、頭に来て殴り付けてでも立たせると。
「おいっ、採取に出るぞ。 アンディ達を呼べ」
「こっちも出る。 先を越された意味が無い」
「ゴラァ!!!! 何時までビビッてんだっ!!!」
勝手な行動を取ろうとするハンターに、ガウ団長もイライラし始め。
「貴様等っ、この運航船は我々のものだっ!!!! ワシの了承無く勝手は許さんぞっ!!!」
しかし、ハンターも。
「だからどうした。 島への採取は認められているし、その採取には責任を持つのがお前達調査団だろう?」
「そうだ。 大体、昨日に行った場所で、何か味を占めたんじゃないか? 急にこの島はダメって、何なんだ?」
「今までもモンスターは居たんだ。 ここも同じだろう? さ、さっさと出発をしよう」
すると、言う事を聞かない彼等に苛立った団長は、
「ふざけるなぁぁっ!!!!!!」
と、大怒声を上げた。 そして・・。
「はぁはぁっ、この解らず屋共めっ、その耳をカッ穿って良く聞けよ・・。 んっ・・、今までこの島々で・・悪魔なんぞ居なかった。 あんなおぞましい気配のするモンスターなんぞ、見た事も無いっ!! 採取調査の安全は、この私が預かってるんだっ!!! 勝手な行動は許さんっ!!! この船からは、ワシの命令が無い限りは誰も下ろさんっ!!!」
だが、それでもハンター達は下ろせという。
その光景を板の間の入り口から覗くニュノニースは、不安な面持ちで甲板に上がった。
この時。
一方のオリヴェッティ達は、船着場でKを待つのだが。
「うう~ん。 何と酷い場所か。 嗚呼・・・、悪寒が取れぬわい」
ウォルターは、チームの中でも顔色が悪く。 生理的な嫌悪感を島に感じていた。
今も結界で此方に来れないままに、不気味なモンスターが直ぐ其処で蠢いている。 それをクラウザーは見つめて居て。
「あのモンスター・・、群れてもいない一匹だが・・。 見ているだけでも、酷く嫌な感じがするのぉ」
一見すると大型の猿の様なのだが。 耳は長く尖り、口は耳まで裂け、白濁として毛の間から光る眼は、残虐性と凶暴性を凝縮したような気味悪さが在る。 我先と好んで戦いたくもない。 今まで戦ったモンスターとは、何かが根本的に違う様な恐怖感を感じる。
その先では、Kが倒したモンスターの死骸を巡り、茂みの中から不気味な泣き声が鳴き止まない。
「むっ?!」
「あっ!」
ウォルターとオリヴェッティが、同時に島の一方を見る。
「どうした?」
敏感に反応したルヴィアへ、オリヴェッティが。
「凄い力が・・瞬間的に発揮されました」
「ケイか」
と、ビハインツが云うと。
「恐らく・・、な。 蟠る魔の力が、瞬時に消し飛んだ。 こんな真似が出来るのは、我が友を抜いて居らぬ」
ウォルターは、確信して言い切った。
すると・・。
「ねぇっ!!! 上に上がってきてよっ!!」
アンディの声がする。 オリヴェッティ達は、船と船着場に掛けられた渡し板の先で、船の乗り降りする処にアンディを見た。
「ん? どうかしたか?」
クラウザーが問えば。
慌てるアンディは、
「大変なんだよっ。 ハンターのバカタレ達、強引にも島に上陸したいって聞かないんだ。 ガウ団長だけじゃアレだから、オリヴェッティさん達も一緒に止める様に云ってよっ!! あのケイさんが危険視する所に、僕達だけなら死んじゃうっって!!!」
と、血相を変えて云う。
「まぁっ、それは困りますっ」
と、オリヴェッティが云えば、その前に出て渡し板を上りだすのは、ルヴィア。
「何を考えているんだっ!! 命知らずでは済まされんぞっ」
顔を顰めたままのウォルターは、この場に居て島の中の怖さが偲べる。
「何と愚かで我儘な・・。 行くなら、死人が出るのは必須だぞ。 冒険者とは、この様な事にも関わるのか」
オリヴェッティは、リュリュの手を引いて。
「リュリュ君。 さ、船に入りましょ」
島を見続けるリュリュは、Kを心配しながら。
「うん・・」
と、連れられるのだった。
どうも、騎龍です^^
風邪・インフルエンザ・ノロ・・色々と怖い病気も多いですが。 今年はなんか、例年より寒い気がします・・。
ご愛読、ありがとう御座います^人^