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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
153/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ④

         K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕序章




                ≪仕事は仕事。 Kの存在から来る緩み≫




夕方の日差しが、森に届かなくなり。 白い砂浜は、朱色の光から微妙な桃紫色に染まる。


モンスターを倒し切ったビハインツは、トビダシウオなるモンスターをまじまじと見て。


「こりゃあ~おっかねぇ」


同じく見下ろすルヴィアも。


「うむ。 顔の先端が、鋭く尖った杭の様だ。 しかも、この牙と歯を見てみろ。 鋭利な刃物と変わらない」


ウナギや海蛇が太く大きく成った生き物の様なトビダシウオだが。 その眼は、鮫の様。 犬歯の様に特徴的な長い針の様な牙を1対、キザキザとした歯が口の中を渦巻き状に広がっていた。


初めて見ると見る彼等に、老練な槍使いウォード・ゲイツがやってきて。


「その牙で相手に刺し着いてから、身体を回転させて血肉を削り取る。 コイツに咬まれたら、死ぬとおもっていい」


彼を見返すルヴィアは、


「見た事が?」


と、問うと。


ウォードは、他にも転がるトビダシウオを見回し。


「コイツ等は、10年ぐらいに一度繁殖を迎える。 体内で孵化させた稚魚を、餌に喰らい付いてその体内に吐き出すんだ。 砂に棲んでるが、海でも泳げる。 稚魚に餌を遣る時は、人の街にも襲ってくる」


「そうか。 それは、おぞましい・・」


隊列を元に戻したいアンディが、森の前から。


「お~~いっ、早く先に行こうよ!!!」


アンディの声の方に顔を巡らせたウォード・ゲイツは、


「どうやら、出立か」


と、甲冑の音を鳴らして歩いて行く。


腕に細かい傷を作ったビハインツは、消毒軟膏の塗られた枯れ草を結んだ物を取り出し。


「では、先を急ごう」


と、ルヴィアを連れ立った。


「あぁ」


そう返したルヴィアだが。


「・・しかし、ケイは凄いな。 あの棍棒を使う者が殺れると思ったが、ナイフ一つで窮地を救った」


と、言えば。


ビハインツは、夕日に変わる太陽を見ながら。


「最終的には、全てケイ頼みに成るのだろうな」


と、返す。


二人は、今回の仕事で死人が出ないと思った。 何となく、Kが全てを切り抜ける気がしてきた。


多分、これは船に乗る大半の者の思考に在る。 午前中の彼の活躍を見れば、最終的には全て危ない場合は彼頼みに成る気がしてきた。


右側を暗い森に面する砂浜沿いを行けば、大小の岩場が目立つ磯に着く。


「早ぐ取るべ」


「んだ、んだ」


薬師や道具屋の老婆が苔や海草を取り始める。 ハンター達は、更に奥で多く取ろうとアンディ達を護衛に呼びつけた。


Kは、リュリュを連れて採取に加わる。 見張りは、仲間に任せると言った。


オリヴェッティは、ウォルターに。


「ウォルター様、私と海や周囲の感受を」


「良いとも。 K(友)がしないなら、我等がせねばな」


こう云ったウォルターだが、一度ルヴィアやビハインツなどを見ると。


「しかし、なんというか・・な」


そのウォルターの仕草に、オリヴェッティは気を留めた。


「ウォルター様、如何しましたか?」


浮かぶカバンに乗るウォルターは、


「いや・・」


と、だけ。


この時、クラウザーは岩に立ち。


「明日も晴れじゃな」


と、沈む太陽を見て言った後。 直ぐに周囲を警戒し始めた。 海、森を双方に見て、抜かりない警戒をする。 流石に、長年の経験はどうゆう時でも活きる。


そして、この直後。


「向こうで蠢くのは、何か?」


と、ハンター達が広がる磯に向かって、何か黒い影が森から出て向かうのを見つけるクラウザー。


岩に身を預けて、採取の光景をやや疲れてぼんやり見ていたビハインツは、それを聞いて。


「では、俺が行って見よう」


すると、近場に居たルヴィアも


「モンスターなら、オリヴェッティが解りそうだが・・」


と、向かう。 Kが行った方なだけに、然して大事には気にしなかった二人だ。


二人が近付くと、その黒いものは動く虫だった。 ゴツゴツした岩の様な外観だが、良く見ると芋虫に似ている。


「こんな海辺に、こんなデカい芋虫が?」


と、見入るビハインツ。


剣を抜くルヴィアで。


「こんなに大きな芋虫・・モンスターではないのか?」


そこに、近場に居たKが。


「ソイツを傷つけるなよ。 臭い体液を出すからな」


リュリュも。


「悪い生き物じゃ~なぁ~いよっ」


と、水嵩の増した磯でバシャバシャ暴れながらに言う。


だが、その生き物はとにかく真っ黒い塊で、その高さはルヴィアの腰を超える。 確かに、砂に生える柔かい草を食べているが・・。


ルヴィアは、Kに。


「本当に、モンスターではないのだな?」


「あぁ。 羽化すれば、大きいが綺麗な蝶だ。 金持ちのバカには、コイツの剥製を高値で取引しようとする輩もいるがなぁ。 もう、大陸では滅多に見られない大型蝶の一種だ。 それより、周りに気をくば~・・・れって云うより、森の方から何かモンスターが来てるな」


「なっ?!」


「マジかっ?!」


驚いて森に振り返る二人。


其処へ、カバンに乗ったウォルターもKの後方に来て。


「何じゃ、この殺伐とした禍々しいオーラは・・。 来るぞっ」


直後。 バサっと森の草を破いて飛び出して来たのは、ビハインツの目線と同じ体高の大きな狼だ。 その狼と云う物体を認識し掛けた・・、と思う時に。 ビハインツも、ルヴィアも、見慣れぬ別の物体を見つけるのだった。 その汚らしい黒ずんだ毛の色をし、熊並み以上の大きさを誇る狼の背中にだ。 何と、不気味な白緑色をした肌で、まるで裸体女性らしき物体が生えているのである。


その姿を認識したKは、


「へぇ、コイツは珍しい。 陸上スキュラのキュラウブロールフじゃないか」


と、珍しがる。


Kの近くに居たハンターの手下が、


「うわぁぁぁーーーっ、モンスターだぁーーーーっ!!!!」


と、大声を出し。 磯で急いで採取をする者達は、一斉に顔を上げた。


ハンターの男の一番近くに居るリュリュは、その大柄の悪党面の男性に。


「煩いよぉ~」


と、剥れる。


「おまっ・・あれ・・あああれ・」


モンスターを間近に見て、腰を抜かしそうになるその手下だが。


Kは、モンスターの視線を覗い。


「コイツ、その蝶の幼虫を狙って来たみたいだな。 コイツは、故意に奇声を上げてモンスターを呼ぶ。 俺が芋虫を逃がすから、他のモンスターを呼び出される前にさっさと倒しちまえ」


と、ルヴィアやビハインツに言い放ったKは、その採取を止め。


「リュリュ。 あの虫を逃がすぞ」


「はぁ~い。 ムシさん、ムシさん」


と、リュリュと芋虫を逃がす作業に移り始めた。


この場違い過ぎる二人の行動は、周りからするなら迷惑に近い。


「倒せぇぇ?」


ブレードアクスを構えたビハインツだが、対峙するモンスターの異様さに気持ちが決まらない。 一瞬、Kが何とかするのではと思った時に言われた処も在るだろう。


一方のルヴィアも、その愛用の剣を引き抜きながら。


「御主っ、芋虫を逃がすなどとっ」


と、先んじて非常さに怒る。


が。


駆け付けたオリヴェッティは、邪悪な笑みを浮かべる裸体女性が、その腕や指を在らぬ方向へとグネングネン動かし始めるのを見て。


「御二人っ、気をつけてっ!!」


このオリヴェッティの注意と、モンスターが動き出すのが同時だった。


-ウガァ!!!!-


狼の顔が、芋虫の行く手を塞ぐ様に立っていたビハインツに食い掛かる。


そして、更には・・。


「うわぁっ!!!」


意表を突かれたのは、ルヴィアだ。 剣で辛うじて受け流したが、狼の背中に生えた人の姿をしたモンスターの腕が伸びたのである。 伸びた腕が、鞭の如き撓りを見せて叩きつけられた。 そのぶつかった圧力で、砂地の地面を少し後ろにずった程。


Kは、もう暗くなりそうな夕日を見てから、


「そのモンスターは、下の狼と上のバケモノ部分が別個で命を持ってる。 人間みたいだが、中身は悪魔に近い本物のバケモノ・・。 腕が数倍に伸びるし、奇声を吐かれると耳が痛くなる。 だが、コレでもこの辺じゃ~弱い部類だ」


と、云って仲間を見ると。


「どう倒す? こんな奴一匹倒せないなら、先の島では死ぬでぇ」


と、モジモジ動いて危険から逃げる芋虫に眼を落とした。


「おっ、アンタっ!!」


流石にビハインツも日和見かと怒る時、突っ掛かった狼がビハインツに襲い掛かって来る。


「おわわっ、クソっ!!!」


鋭い犬歯を押し付ける様にして、余所見をしていたビハインツに噛み付いて来た狼。 その狼の牙を両手のブレードアクスで防いだビハインツだが、圧し掛かって来られたら気持ちの準備が出来て居無いだけ不利だった。 そのまま押し倒され、狼に襲われるビハインツ。


「危ないっ!!!」


ルヴィアが慌てて狼の身体に斬りかかった。 だが、その太い毛は丈夫な繊維質の鎧の様で、斬った剣が身に届かず。


ーシャァァァーーーーっ!!!!-


舌を出して威嚇する人型の様なモンスターは、腕を伸ばしてルヴィアに掴み掛かって来た。


「何っ?! このっ、来るなっ!!」


白緑色の腕は、肩口辺りからニュルニュルを伸びる。 剣で追い払う様に斬っても、一部の上皮を削ったり、分部的に斬れたりするだけで。 切断という処までは至らないから、ルヴィアは捕まらない様にと後ずさるしかない。


慌てて武器を構え、Kとモンスターの間に出たのがウォード。 ルヴィアの加勢に入り彼女を下がらせたのがニュノニース。 伸びる腕を殴って跳ね飛ばしたのがボルグだった。


「コヤツめっ」


槍を突き出し、狼の顔をウォードが攻撃した事で。 その槍先を牙で打ち返す狼は、ビハインツを噛み殺すには至らない。


だが。


「くそっ、止めろっ」


狼は、その鋭い爪の生える手で、ビハインツの武器を踏み付けようと右、左と繰り出して来る。


「堪えろっ、今助けるでのっ」


と、槍を突き出すウォードだが、ビハインツも気に成るから思いっきり行けない。 顔を狙って外れた場合が怖かったのだ。


これは、魔法を遣う者にも当て嵌まる。


(どうしようっ、風・・火が無いから水?)


オリヴェッティも、ピンポイントでモンスターを攻撃する呪文をどう唱えるかが困った。


狼の身体の上で、どの方向にも体面を向けれる人型のモンスターは、後方斜め横に身体を向け。


ーキェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーっ!!!!!ー


と、金切り声を上げる。


「わぁっ」


「きゃっ」


「もぐぅ」


協力して掛かろうとしたルヴィア、ニュノニース、ボルグは、その耳を劈く様な奇声に思わず怯む。


無論、周囲ではもう採取どころでは無い。 皆が逃げ帰ろうとして、その奇声に肝を潰してしまった。


この奇声。 実は只の奇声でも無い。 異常な声で、人の身体に瞬時的な迷いを起こす。


「う゛っ・・、たぁっ」


堪えて突いたウォードだが、その一撃は外れに近い。


そして、ビハインツは・・・。


「うぐぅ・・・」


耳を押さえたくなる衝動を堪えたものの。 遂に、狼が両足でブレードアクスごと抑え掛かる事に防ぎが行かなかった。 ドンっと圧し掛かられる衝撃を受けた時、武器を盾にしたビハインツは、狼のモンスターに乗られている状態だった。


奇声に身を竦ませた3人には、当然の如く伸びた腕が襲い掛かる訳で。


辛うじて防ぎに立てた剣ごとぶたれて、


「うわっ!!!」


と、なだらかな斜面の砂浜に飛ばされるルヴィア。


「きゃいん!!」


同じく、腕を上から叩き付けられ崩れ倒れるニュノニース。 両手に構えたショートソードで防いだのだが、その腕の重さと圧力に屈してしまった。


そして、最後には・・。


「うどぅっ!!!」


その白緑色の腕に挟まれる様に遣られたボルグは、顔に一部が当ってバランスを崩した。 そして、その処に、また別の腕が反対から振り込まれたから、その場の地面に叩き付けられる形で倒される。


見ていたKは、無様な光景に呆れるばかり。


そして、一緒に居たリュリュが。


「あわわわっ、いけないよぉっ」


と、慌て出す。


だが、Kは。


「リュリュ。 もうじき終わる。 いいから、手を出すな」


と、飛び上がろうとしたリュリュを制す。 そして、ウォードを追い払っている狼に圧し掛かられてるビハインツや、倒された3人に。


「おいっ、先陣切って斬り込むお前が動けなくてどうするっ? えぇっ?! 俺一人が仕事するんじゃねぇっ!! お前達の生き様の仕事だろうがっ!!!」


と、怒声を掛けた。


Kの腕が凄い事より、その関わりに晒される者は大変だ。 下手すれば、同じ凄腕扱いをされかねない。 オリヴェッティと一緒に先々まで行くと決めたビハインツやルヴィアは、オリヴェッティと一緒に周囲が持つその思い込みと戦っていく必要が出て来る。 Kとリュリュが居無い事を、常にもう認識して。 自分達から限界に踏み込んで行く勇気が試されるのだ。


奇声を止めた裸体のモンスターは、勝ち誇って汚らしい狂気の笑みを浮かべて隙を見せた。 


狼の方は、もうビハインツを抑えてしまったのである。 早く噛み殺したいが為に、今はウォードの槍をどうにかしようと、槍に噛み付こうとしている。


何とか立ち上がったルヴィア達は、それでも言ったKを見た。 この危機的状況で、縋りたい気持ちと勝手な言い草に憤る気持ちも有ってだろう。 先程、ボルグを助けた様に何か手を下すのではないかと思った。


が。


(見てない・・)


Kは、何もせず言うだけ言って芋虫を見ていた。


だが。 Kは、もう助けが必要では無い事を悟っていた。


「早く得物を構えぬかぁーーーっ!!!!!!」


張り裂けんばかりに声が響いたのは、その直後だ。 来た道を戻る方向の離れた所に居たクラウザーが、モンスターの近くに居た者達を下がらせながら走ってきた。


実は、このキュラウブロールフにくっ付いて、殺した獲物のお零れに預かろうとした別のモンスターが居た。 クラウザーは、そのモンスターを追い払って居る間に、奇声で動けなく為りそうに。 しかし、犠牲を出す訳に行かぬと、肉食の子犬ほどの大きさをしたダニの怪物を斬り倒し。 前に出来て見たら、モンスターを囲んで、武器も構えず余所見をするルヴィアを見たのである。


この時。


「ねねっ、ホント大丈夫?」


リュリュがKに言うのだが。


芋虫が草むらに入るのを見るKは、何の焦りも覗わせず。


「あぁ。 クラウザーが加勢に来たし、もう一人。 魔法を遣おうとするジジィが居る」


リュリュは、パッとウォルターを見た。 少し後方の宙高く。 人の手も及ばない所に居たウォルターは、既に魔法を完成させていた。


遠巻きの採取をする人々が慌てふためく中。 ウォード以外で斬り掛かったのは、クラウザーである。


「こやつめがっ」


狼のモンスターの後方に踏み込み、その太く長い尻尾に踏み込んで斬った。 動く尻尾に、カウンター気味に入るサーベルは、尻尾の中頃の辺りを斬った。 確かに、斬って切断には至らないが。 完全に中心の骨身にまでは斬り込んだ。


ーギャオンっ!!!!!-


この斬り込みで、狼のモンスターが悲鳴に近い声を上げ。 ビハインツに向けようとした顔を上に仰け反らせる。


もし、このクラウザーの斬り込みが無かったら・・。 ビハインツは大怪我をしただろう。


ウォードの槍をやり過ごしながら動く事で、圧し掛かる前足の爪を擦り付けていた狼のモンスターで。 ビハインツが顔を守る為に交錯させて構えてたブレードアクスを持つ腕が、ジリジリと開かれ様としていた。 腕を上から押さえつけられたのだから、動かせる訳もなければ、顔を守る為にも動かせない。 しかし、あの奇声で一瞬の怯みが生じていたから、ビハインツもいつもの馬鹿力ががれていた。


そう、狼のモンスターの顔が入る位に、隙間が出来ていたのだ。 狼のモンスターは、ビハインツの顔を噛み砕こうとした時、クラウザーに尻尾を斬られたのである。


まさに間一髪のタイミング。 Kの右手に、ダガーが握られていたのがその証でもあった。


狼の顔が上向いたのは、ウォードにすれば好都合。


「よし。 えいっやぁーーっ!!!!!」


思い切り踏み込みながら、その狼の鼻先に槍をグサリと刺し入れる。 深くは刺さらなかったが、狼の顔を上向かせたままに出来た。


「助かったぁぁっ!!!」


圧し掛かっていた前足が乱れ、漸く起き上がる事が出来たビハインツ。 立膝の状態から圧し掛かられていた痺れの緩い左手で、ブレードアクスを狼の喉へと凪ぎつける。 剛毛を斬るには至らないが、喉を金属で殴られたのと一緒である。


ーキャインっ!! キャン! キャンっ!!!-


犬の悲鳴に似た声を上げ、狼のモンスターは後ずさる。


「おっ、どうしたぁっ?!!」


一方で。 後ろに居たクラウザーが、急に後退するモンスターに驚き大きく間を取った。


そして、この直後。


「この魔法を喰らうが良いわっ」


ウォルターは、目の前に作った一本の短剣を正確に模らせた魔法を、白緑色をした裸体のモンスターに向ける。 夕闇に辺りが支配される中で、その青白い短剣は一筋の流れ星の如く。 光の軌跡を描いては、また奇声を上げようとした口に突っ込んだ。


額に少し乱れた前髪を掛けるウォルターで、その眼は真剣そのもの。 突き刺さったのを見た瞬間、更に指輪を嵌めた右手を下に振り下ろし、裁決を下すが如く。


「下れっ」


と、言う。


すると。


「あ・・」


「どうしたのっ?!」


ルヴィア、ニュノニースが見ている前で、大人の大柄な骨格の女性と同じ容姿をしたその人型のモンスターが、ギュっと頭一つ潰される様に身を縮めたではないか。


真上からその様子を見れば、理由は一目瞭然。 口の様な部分に突き刺さった魔法の短剣が、抉る様に捻じり込んだのだ。


ウォルターは、此処で下ろした右手を握り。


「弾けるがよいっ」


と、命じた。


人型のモンスターに刺し込んだ短剣は、その形を魔力に戻りながら炸裂する。 天に向かって弾け飛ぶエネルギーに、人型のモンスターは・・・。


“バリィィィィィっ!!!!”


と、丸で落雷に因って木が裂ける様な音を出し、半裂きにされてしまうのだった。 奇声を出せなくなったモンスターは、半分に分かれた左右の腕を伸び縮みさせる事も制御出来なく。 痛みに暴れて、振り回す様に・・。


それを避けるニュノニースは、


「くっ、これじゃ、ち・近付けないっ」


と、顔を抑えて座っているボルグの方に逃げ。


「ボルグさんっ、下がってっ。 お願いだからもっと下がってっ!!」


と、彼を逃がす事に専念する。


狼の背中に生えた人型のモンスターが暴走して、至近戦力の面々が近付けない。 だが、これはオリヴェッティには好都合で。


「今だわっ」


沈没船の中に在った宝箱から出た伸縮する杖を伸ばし、銀色の柄を持って地面に杖を伏せる。 眼を瞑り、脈々と湧きいずる大地のオーラと精神を共鳴させながら。


「杖に秘められし力・・私の魔法を助けて・・・」


魔法の発動に、強い安定力を持たせる補助が掛かる至高の一品の杖は、オリヴェッティに馴染んでくれる。 大地との共鳴を身体に感じたオリヴェッティは、眼に黄土色の燃ゆる力を宿していた。


「大地の力よ、その力を今此処に示してっ。  我が敵を飲み込み、噛み砕く大地のあぎとをっ!! “地割れの牙”(クラック・ファング)っ!!!」


杖の先には、小さな宝石を閉じ込めた水晶の突起が有り。 その先を伏せた位置から、素早く左、右と振れば・・・。


鼻を傷つけられて、顔を頻りに震わす狼のモンスターの真下。 地面が局地的に震え出すではないか。


「おわっ」


驚くビハインツに対し、近寄るウォードはその腕を掴み。


「驚いてる場合かっ、下がれっ!!!」


と、引き摺った。


砂地の大地が揺れたと思えば、一気にモンスターの真下だけに地割れが起こる。


「何と・・これは凄いっ」


間近で見たルヴィアは、初めて見る魔法に驚いた。


が。 オリヴェッティの顔は、苦痛に堪える様な厳しい表情。


オリヴェッティが無理をしているなど、Kとリュリュ以外はまだ解らぬだろうが。 地割れに呑まれたモンスターは、地割れの激しい振動で本当に噛み砕かれる様に身体を潰されゆく。 その光景たるや、迫力も有ろうが、壮絶でもあった。


地割れに狼の身体は完全に呑まれ、砂地の地上部には白緑色の身体の一部が飛び出ているのみと成る。


「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」


その場に崩れたオリヴェッティ。 激しい精神疲労が襲って来たのだろう。


「あっ、大丈夫かっ?」


護衛に専念するように言われたメルリーフだが、オリヴェッティの様子に我慢が出来ずに飛び出てくる。


へたり込むオリヴェッティだが、左手を森に指差し。


「ま・・・まだ・・来るわ。 さい・さ・・採取は、・・おわ・・り・・・」


もう夕闇に支配されそうな中で、森の奥にざわめきが聞こえる。


危険は、また差し迫って来た。


Kは、こうなる前に倒せと言った。 多分、倒せたのだ。 だが、チームを結成してまだ纏まりが薄く、ルヴィアやビハインツは若い。 Kの誤算と云うより、Kがこのチームに足りないものに気付いていた事が露呈した。


だが・・。 それでも彼は、変えない・・・。




                          ★




「ホラホラ、ちんたらすんなぁ~。 俺とリュリュが一般人守って後退してんだ。 遠慮しねぇで思いっきりやれ」


もう辺りは真っ暗だ。 戦う冒険者達を叱咤するKの声。


更には、獲物を求めて襲い来る蜥蜴のモンスターや、ムササビのモンスターの唸り声。


そして、戦う冒険者の掛け声だけが木霊する。 必死に近い彼等のその耳には、潮騒の音楽が聴こえていたかどうかは解らない・・・。


ガウ団長が明かりの魔法を遣って、杖に光を宿して周囲を照らしながら下がっている。


リュリュは、必死で指揮しようとしたオリヴェッティと、怪我をしたボルグを連れて先に船に戻り。 船の乗組員や寺院の僧侶にまた戻るとだけ云って有った。


今、船は直ぐ其処。船着場の結界の手前まで来ている。


ハンターは、手下を先にしてもう船に逃げ出している。


戻ったリュリュと、ガウ団長の脇に居るKは、


「右、クラウザーと槍のオッサンに来るぞ」


とか。


「ルヴィアっ、後ろに気を向けるなっ!!」


とか。 指示を出している。


暗闇の中で、半月の夜空の下でメルリーフの腕は変異していた。 鉤爪を生やした鳥の足の様に成り、その眼も金色に爛爛と輝いている。 これが、彼女の中に眠る姿の一部だった。


ライカンスロープ。 獣人とも言われる種族は、闇の眷属に近い。 魔王に因って獣人と化した人が、そのまま年月を経て人としての人格や精神を取り戻した一族は、純粋なライカンだ。 このライカンに咬まれたり、また性交をする事で変異するのが半獣ハーフブリードに成る。


ライカンの有名株は、満月に最大の能力を出す狼に変身する人狼だろうか。 だがライカンの種類は、その他にも多種に亘る。 半月でも全力を出せるが、異常に好色となる熊の獣人族。 他ではこのメルリーフのレミュースと云う種類。 “白鴉”と云う、新月にだけ森の中で鳴くカラスのライカンなのだ。


星明りの僅かな光でも、丸で昼間の如く見通せるメルリーフは、Kの言う事が全て当っていると解る只一人の者。 後退りしながらの戦いほど難しいものは無いが。 この不利な状況で一番奮戦しているメルリーフ。 格闘術も覚える彼女は、襲ってくるモンスターを迅速に撃退していた。


「ホラ、船着場まで辿り着いたぞ。 一般人が乗り込むまで、もうちょっとだ」


ルヴィアとビハインツは、言うだけのKに何度か同じセリフを吐いた。


“アンタもやれっ”


と。


だが、Kは動かない。


「アホゥ。 俺は、自分のすべき処は遣ってる。 お前達が楽し過ぎなんだ。 つべこべ言わず、手ぇ~動かせよ」


全く戦う意思を見せないKに、老人二人以外ではアンディとメルリーフ以外の冒険者も苛立ちを見せていた。 運ばれる前に、ボルグは文句を言ったし。 此処では、ウォードが・・。


だが、アンディが言わないのは何となく解る。 だが、メルリーフが言わないのは、どうしてか・・・。


船着場から先の、島の入り口を岩場に囲まれた場所で、Kは一般人が全て乗り込んだのを見てから。


「そら、引き上げる準備だ。 こうゆう場合、誰から引くんだ? 我先と引いて、襲われるかぁ?」


Kの物言いに、密集する冒険者は互いを見た。 ここにオリヴェッティが居無いので、指揮が無い。


処が、夜目が遠くに利いているメルリーフは、黙った中で一人。


「バカっ、先はアンディや魔法使いに決まってるだろっ」


と、草むらの先に飛び出して来た蜥蜴に飛び掛る。 口の唾液に毒を含むモンスターなので、咬まれては大変だった。


「寄せ集めでも、頭は必要なんだぞ~」


何ともいい加減な口調のKは、光の小石に光を宿し。


「アンディ行け。 それから、団長も行け」


Kは、段々と魔法遣いまで引かせ。 その後に、動きの悪いビハインツ。 息の上がったルヴィアとニュノニース。 そして、ウォードを引かせてから。


「メル、もういい。 気を張りすぎて前に出すぎだ」


と、闇の中に声を掛けた。


素早い走りでメルリーフが戻れば、Kはリュリュと悠々の引き上げをする。


船の乗り口にKが踏み込むと、木の板で伸びる左右の通路に、冒険者達が伸びていた。


「まぁ~ったく、自分で考えない輩は、困ったモンだ」


捨てゼリフを残し、座ってるビハインツやウォードの掛け声も無視のK。


Kの後を行くリュリュは、何がそんなに苛立つのか解らないという顔付きで有った。


「はぁっはぁ、チッキショウっ!! 凄腕だからって・・なめ・・舐めやがってよぉ」


モンスターに圧し掛かられたビハインツは、鎧のアームガードを外してみる。 紫色に変色した皮膚が、モンスターの乗っていた痕跡を見せる。 アームガードも部分的に凹み、刺し込まれた爪痕が残っていた。


だが、人の姿に戻るメルリーフは、船着場を離れて動き出す船を確認してから。


「何を言ってるんだいっ。 武器を手にしてたクセに、襲われるまで突っ立ってたのはどっちだ?」


と、ビハインツに言う。


座ってる者、疲れて寄り掛かってる者がメルリーフを見た。


「な・なぁんだと?」


痛みから苛立ちを見せたビハインツだが、メルリーフは鋭い睨み目を返し。


「もし、他に大型のモンスターが居て。 あのケイと若い子が居無い場合なら、アンタ死んでたかも知れないんだよっ?! 太陽紋の島の本島、それから休息地の一部以外は、危険度が高い場所が殆ど。 モンスターを見て、襲われる前に牽制や構えは絶対にしなきゃ成らない。 あの包帯男のケイが、何で途中から仲間やアタシ達に任せたのか、漸く解ったよ」


すると、髪を少し乱したウォルターが、クラウザーに付き添われながら歩き出す。


「クラウザー殿、どうやら・・我々は必要ないですな」


クラウザーも頷き返し。


「ですな。 覚悟を理解する者が、他にも居るようですから」


高齢と成る二人だ。 アンディは、


「僕も行くよ。 疲れただろ? 寝床とか教える」


ウォルターは、そう言うアンディを見た。


「若い者よ、御主は気が利くな」


老人二人と上に行くアンディは、メルリーフを見て頷くだけ。


メルリーフも、返すだけ。


意味がいまいち解らないルヴィアは、メルリーフに。


「何が言いたいんだ?」


呆れも混じる様子のメルリーフで。


「簡単な事さ。 ケイを頼り過ぎない。 いざと成ったら、彼は一番危険な所に消える。 その間は、私達が守りの要に成るんだ。 彼が傍に居ようが、居まいが、気を抜いちゃダメだろう? あの最後の戦いは、彼の手助けは必要ない戦いだった。 私達が協力をすれば、リーダーに過大な魔法を唱えさせる事も無かった。 もしケイとあの若い子が居なかったら、船に戻るまでに犠牲が出てた。 二人が居なければ、もう仕事は失敗だよ」


処が。 ビハインツは、一緒の仲間だと思うから。


「だが、彼も仲間だ。 一緒に居て、あの時は採取なんかしてた。 それはいいのか?」


メルリーフは、根本が理解出来てないと思う。


「呆れるわ。 正直・・」


其処に、ウォードが口を挟み。


「彼は・・間違ってないと見受けるが?」


どっかりと通路に座ったウォードは、カンテラの明かりの真下に居る。 胡麻色の頭髪が少し長く、戦いと緊張で疲れた顔は、50代前半とは思えない。 皺の刻まれた顔を、酷く困惑させていた。


「ウォード。 彼が居る間に、彼がモンスターの全てを倒してて御覧よ。 いざって時、アタシ等は何も出来ないよ。 現に、居て出来なかった・・。 森も、浜も、島の殆どがモンスターの生息地なんだ。 彼は、いざと云う時まで想定して、島に上陸してから全てを任せた。 アタシ等は、地元の経験者。 こっちの彼等は、腕は見ての通り悪くない。 普段の事をして協力すれば、大型モンスターでも襲って来ない限り切り抜けられる。 それが出来てなかったのは、命取りだ。 凄い彼に、依存が出てる」


「・・この島々は、甘くない場所だったな。 そうだ・・、そうだった」


ウォードは、メルリーフの云わんとする意味が解った。


だが、女座りに砕けるニュノニースは、髪の毛を解き掛けながら。


「じゃぁ、私達は彼を頼っちゃダメなの? メルさん」


「そうじゃない。 最悪の所は、彼がする。 だけど、最悪をアタシ等が作ってどうする? この島の危険を身体で知ってるアタシ等が、あんな油断したらいけない。 この島の危険を知らない者達が戦わなくても、アタシ等は判断で戦えた」


ビハインツは、Kの言葉を思い返す。


“他のモンスターを呼ぶ前に、さっさと倒しちまえ・・”


(俺達だけでも出来ると見越せたのか・・。 何で、オリヴェッティやクラウザーさんなんかは、文句を言わないんだろう。 どうして・・、どうして?)


確かに、Kが芋虫を逃がそうがどうだろうが関係は無い。 モンスターとは解ったし、オリヴェッティも危険な相手だと言った。 確かに、直ぐに戦えた。


メルリーフは、ルヴィアとビハインツに。


「アンタ達も、船に逃げるまでに戻った砂浜を見ただろう? 魔法の光で薄っすらとだけだが、浜辺でカニやトビダシウオを倒したけど、その死骸にモンスターがまた集ってた。 あの大きな芋虫一匹殺されただけで、別のモンスターが来る。 モンスターがモンスターを呼ばなくても、倒しただけでモンスターは来るんだ。 死んだモノほど、モンスターを引き寄せる餌は無いからね。 アンタ等二人は、そうゆう部分で言うと甘い。 今の内に、彼がお守りをしてくれるウチに、その甘さを捨てなよ。 戦う事、危険な場所に入ったらもう覚悟が必要なんだ。 誰かに不満を向けてる間に、此処じゃ殺される」


「・・・」


「・・・」


ビハインツも、ルヴィアも声が出ない。


Kの遣り方は強引だが、覚悟は必要だ。 甘い気持ちを持っていたという認識は無いこの二人だろうが。 Kと仲間でも、彼を同じ目線に置いて頼るのは、違うと言う意味を感じた瞬間だった。


先に寝かされたというオリヴェッティに二人が会いに行けば、もう疲れて死んだ様に寝ている。 あの杖が在ったから使えた魔法で、相当に高度な魔法だったのだろう。 もし、Kとリュリュが居無いと想定して、ボルグとオリヴェッティを抱えながら逃げるとしたら・・。 怪我人は出ただろうし、窮地を救う上でウォルターやガウ団長が魔法を酷使する必要が出たかも知れない。


Kは、ルヴィアやビハインツに何も言わない。 覚悟の出来ている者が居る以上、余計な言葉は不要だ。


夜も更け始めた頃。 サニー・オクボー諸島の玄関口と成る島のン・バロソノ島に着いた。 小さな村が入る砦の築かれた島で。 定期船運行の中継地と成っている。


此処に停泊する事に成り。 疲れたガウ団長は、一日空白の休みを設け。 次の採取に向かうのは、明後日からと云う事にした。


Kに対し、様々な感想が交錯する中だった。

どうも、騎龍です^^


風邪やインフルエンザに気をつけましょう・・。 


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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