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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
152/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ③

         K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕



                ≪太陽紋の島々へ・・、島を渡り歩いて≫




小さな集落すらも入りきらない様な島に上陸した一行だが。 モンスターの休憩場所ぐらいな森しかないので、比較的最初の第一波のモンスターさえ倒せば、捜索はし易い島だった。


外周を周るオリヴェッティ達。


「あの木の実を採りたいんだが」


「わしゃ、あっちの草を」


旅人の様な格好をした薬師の中年男性。 そして、ボロの衣服を重ね着して防寒着にする道具屋の老婆が、その長年に培った目利きで薬の原料を探せば・・。


「おい、アレとアレだ」


「へい」


頭に布を巻いた帽子を被り、ショートソードを腰に佩く井出達は格好良いハンターが、人相の悪い無頼の集まりの様な手下に同じものを大量に採る様に指示を出す。


薬師や道具屋の老婆に着くオリヴェッティやクラウザー。 腕も有るから、威勢も受け流せるニュノニースやルヴィアがハンターの面倒を見る。


リュリュは、ノロ~ンとオリヴェッティのお尻に引っ付きながら周りを確認している。


(オリヴェッティおね~さんが、いっちばんやわらかぁ~いぃ)


まだ子供のリュリュは、母親を思わせる肉体の女性を好む。 ルヴィアは触られるのを好まないが、オリヴェッティはリュリュを受け入れているので、リュリュも自然とオリヴェッティに近付くのだ。


そんな中で。


茂みに食い込む所に立っていたクラウザーは、道具屋の老婆の傍らで急にと云ったタイミングでサーベルを引き抜いた。


直ぐ脇に立っていた男が剣を抜くのだ。 薬草を刈り取る最中の老婆は、それが眼の目で見れた事に驚き。


「ひぃ」


と、小さく声を出した時。


「ご老母、動かれるな。 背中に、毒虫が居る」


と、その背中に這い出てきたサソリを払い飛ばすクラウザー。


「あ、猛毒のヤツだ」


薬師の男性が言うと、


「うわわっ」


「こっ・殺せっ」


と、ハンター達が騒ぐ。


だが、リュリュは何の気なしにそのサソリの前で屈み。 サッと毒針の曲がらない関節を掴む。


「うぅ~ん」


と、持ち上げるリュリュは、サソリをマジマジと見て。


「不味そう・・」


オリエッティやルヴィアは、そうゆう問題では無いと緊張感を失い掛ける。


薬師の男性は、取っ手と蓋が連動する薬品瓶を取り出し。


「坊主、ソイツをこれに入れてくれ」


と、差し出した。


「んん~? いいよぉ~」


サソリを受け取った薬師は、口をしっかり閉じてしまう。


クラウザーは、剣を仕舞いながら。


「サソリをどうする?」


「毒は、毒消しに変わる。 薬師は、毒を極めて毒消しを造るんだ」


「ふむ」


すると、ハンターの訝しげな男が。


「おいっ、次からはサソリも捕まえろっ」


と、小声ながら鋭い口調で手下の無頼を叱り付けた。


「ダっ・旦那ぁ~。 怖いのは勘弁してくだせぇ」


太った大男や人相の悪い者5・6人を引き連れるハンターの男は、怒りを込めた顔付きに変わり。


「アホゥっ!! 何時でも来れる訳じゃねぇ~んだっ、採れるだけ採るんだよっ!!!」


「へいっ」


「ハヒィっ」


こんな様子で、喧しいハンターの一団も連れながら。 陽の角度が昼間手前の頃から探して周り。 昼の高さを過ぎようと言う頃に船着場へと戻った。 リュリュの御蔭で、モンスターと戦う事も無く。 すんなり戻れた訳だが・・。


「なんだ、向こうの方が早いではないか」


と、ルヴィアがKの姿を船着場に見る。


「ホント。 もう帰って来れたの?」


ニュノニースも、眼を見張る。


歩きながら、クラウザーが。


「入るだけだ。 向こうの方が早いのは当然だろう?」


と。


だが、島の散策を熟知するニュノニースは、そんなクラウザーに。


「御爺さん、バカ言わないで。 森の中の方が四方を警戒しなきゃいけないし、危険も多いのよ」


「むぅ、そうか?」


合流してみると、ハンターや薬師などが麻袋一杯に何かを積め。 それを船に運ぼうとしている。


オリヴェッティがKに歩み寄り。


「皆さん、随分と採って来ましたね」


「帰ったか」


「はい」


「森の奥で、薬石や鉱石の塊を見つけてな。 平等分配する事を条件に、俺が砕いた。 8割は地面に埋まってるモンだから、あれだけ採れるのは珍しいらしい」


「まぁ」


船に歩き出すKは、


「いい場所だ。 薬の貴重な材料が在った。 さて、次の島は何処だ~」


と。


リュリュは、密かに捕まえたドデカい虫を持ち出し。


「ケイさん、見てみて~。 ムシ~」


外周を見回った一同が見送る中で。


「あぁ? って、お前。 そりゃモンスターの幼虫じゃないかっ」


「カワイイ」


「ドあほっ!! 捨てろっ」 


「え゛ぇ」


「他に迷惑だろうがっ」


「ふぇ~い」


「あ、海に捨てやがった・・・。 他のモンスターの餌だな、ありゃ」


船に早く荷物を運び込もうとするハンターの手下や薬師達は、モンスターに襲われたくない。 早く船に乗り込みたいと云う気持ちが、その運び込む行動に見受けられた。 だが、全く緊張感の無いこの二人である。


さて、用が済んだら早々にこの小島を離れた調査船。 


K達は、目指す島の方向を見ながら、甲板に座って豆の炒った物を齧っていた。 Kは、甘い砂糖の付いた方を好むが。 ビハインツやオリヴェッティは、塩気の強い方を好む。


Kの傍に座ったリュリュは、持って来た豆を一気に食べようとして、


「おい」


と、Kに小突かれる。


「一個一個食べるのめんどくさい」


「一気に食ったら、直ぐに腹減るんだよ」


「はぁ~い」


昼代わりと、宿で焼いて貰った豆をポリポリ齧るメンバー。


中でもウォルターなど、チーズの欠片も加えてワインティーとしゃれ込んで。


「甲板の上と云うのも、経験の乏しい物には味わいが有るの」


と、云うのだが。


クラウザーは、半生を船で過ごしてきた身から。


「慣れても、味わいは在りますな」


と、水を飲む。


其処に。


「ケイさん、何食べてるんですか」


と、下からアンディが遣って来る。


「豆」


淡白なKの一言だが、アンディはKの傍らに座り。


「今日は珍しいぐらいに風が穏やかで、晴れてます。 次のショッテム・ポーポ島は、少し大きい島だから。 このまま晴れが続いて欲しい」


と、硬い干しパンを食べ始めた。


海鳥が船に戻って来た。 モンスターが現れると逃げる海鳥が戻って来た事は、近くに脅威が無い表れだ。 リュリュは、豆の入った袋を持ったまま、鳥が飛んでるとルヴィアに寄り添う。 ルヴィアも、張り詰めた気持ちが和らぐので、その雑談に応じる。


一方で、手分けした間の事をクラウザーがウォルターなどと話す中。


Kは、アンディに。


「そういや、お前は今回巡る島に行った事が有るんだって?」


「あ、はぅい」


干しパンを噛みながら、返事を返すアンディ。


「他の地元の先輩達も、同じか?」


「うぃ~ん。 ・・中心の島、サニー島には、・・みんな行ってると思うよ。 ただ、明日に行く二番目に大きな島の、リステレンバンドゥ島と。 本島の次の日に行く3番目に大きい島に行った事が有るのは、僕だけかな」


「お前、そんなに土地勘が有るのか?」


「と云うかぁ、あ~、僕って捨て子でさ。 親戚の遠縁に為る漁師だった本家に拾われたの。 僕を育てたラボダマ爺さんは、娘しか出来なくてさ。 みぃんな嫁いで、本家に残ったのが僕なんだけど。 元々から僕の居た本家って、サニー・オクボー諸島を牛耳ってた海賊の子孫みたいでさ。 島々の地図とか、一杯持ってるのさ」


「ほぉ」


「そんで、今でもサニー・オクボー諸島って、呪われた島って言われるのを信じてる住民も多くてね。 冒険者に成った住民でも、行きたがる人少ないんだよ。 その点、僕はその~余所者みたいな扱いも有るし。 ニュノニースや、メル姐さんとかと一緒に島に渡ってる。 ま、モンスターの所為で怖がられるケド、呪われてるってのは信じてない。 多分、ウソだよ」


豆を入れた小袋の口を閉じたKは、サイドパックの中に入れると。


「地図は持ってるのか?」


「有るよ」


「見せてくれるか?」


「いいよ。 チョット待って」


硬い味気の少ないパンに、ベッタリとバターを付けてたアンディだ。 指にベタベタとバターが付いていた。 それを舐め取りながら、背中に縛り付けるタイプのバックを引き寄せる。


Kは、アンディを見ながら。


「アンディ。 お前の爺さんって、どんな人間だった?」


「え?」


いきなりの質問から、ポカンとして顔を上げたアンディ。


「驚く事でも無いだろう? お前は、常に陽を見て方角を確かめ、周囲の危険が潜みそうな処へと眼を配る。 まだ20そこそこのお前で、藪の分け入り方を極めるなんて難しい。 教わったのは、その爺さんからだろう?」


「・・すっげ」


呟いたアンディは、折りたたんだ紙を取り出す。 折り目に色褪せと汚れの黒ずみが覗えるモノで。


「サニーって書かれたのが、本島。 ショルダンって書かれたのが、三番目のアホカリポン島で。 ヴィヴィ・ラーって書かれたのがリステレンバンドゥ島。 一応、大きい三島のは持って来たッス」 


Kは、折り畳まれた3つの地図を渡され。


「そうか。 ・・本当に、見ていいのか?」


パンを手に持つアンディは、二・三度頷き。


「うん。 爺ちゃんは宝の地図って云ってたけど、もう宝なんて無いと思うから」


「そうか・・・」


Kは、サニーと裏に書かれた地図から広げ、地図を見ると。


「これは、書き写し・・か」


パンにジャムを塗るアンディが。


「うん。 元の地図は、ガラス乾板に入った縮尺の小さいヤツなんだよ。 それは、爺ちゃんが写した地図。 僕も、自分用に地図を書いてる」


Kは、まだ手に持つ地図に不備は無いと見て取れるので。


「“自分用”?」


「あ・・ウチの仕来りみたいなモンだって。 ホントは、爺ちゃんが生きてる間に書かなきゃいけなかったらしいんだけどね。 爺ちゃん、数年前に冒険者に道案内してモンスターに食われた」


「随分とアッサリ云うんだな」


「う~ん、それがさぁ・・」


アンディが云うに、それは育ての祖父が悪かったと云えるらしい。 第二に大きい島に採取の仕事で向かった時、アンディも同行したのだが・・。 祖父は、断崖絶壁を片側にした滝の水辺を歩いていた時、どうやら何かを発見したらしい。 そして、急に独りでこっそりと人の輪から離れた所を、モンスターに襲われたらしいのだ。


“モンスターに襲われない最大の方法は、仲間と一緒に居て周囲を良く警戒する事だ”


常々案内役として島に行っていた祖父の口癖で、アンディも12歳から島への案内を祖父とし始めていた為に。 その忠告のの意味を身体で解っていた。 何故、祖父がその様な無茶をしたのかは気に成る。 だが、勝手に輪を離れてモンスターに襲われたのなら、それは仕方ない。


パンを食べきったアンディは、船首の上空を飛ぶ海鳥を見ながら。


「ラボダマ爺ちゃんが死んだのは、僕が16歳の頃かな。 その前から、爺ちゃんの目を盗んでは、冒険者の真似事や案内はしてたからね。 危険な島々に行くなら、何時やられてもおかしくない覚悟はしてる。 マジで、凄く強いモンスターも何度か見てる。 半死の冒険者を引き摺って船着場に向かってたら、肉食の飛竜に襲われて、助けようとした冒険者を取られたりしたしさ。 モンスターと連戦して、気力が続かなくてチームがバラけた時も在って、力及ばずニュノニースと二人だけで逃げた事も・・ね。 ラボダマ爺ちゃんが死んだ時も、酷い死に方だったけど・・。 意外に冷静で・・」


と、言葉を留める。 悲しいと云うより、何処か昔を思い返す様な雰囲気である。


Kは、地図を見つめながら。


「一つ、言い当ててやろうか」


「え?」


「お前の爺さんは、今だに宝が有ると信じて疑わなかった。 海旅族の秘宝が、サニー・オクボー諸島の何処かに有ると思ってたんだろう?」


「うん・・、そうだけどって。 何で、海旅族の宝って解るの?」


Kは、敢てアンディの質問を無視して。


「多分、その時に見つけたんだろうな」


「何を?」


「違い・・かな」


「“違い”?」


「あぁ。 さて、明日から3日は、手分けは止めさせよう。 もしかしたら、俺達が求めるものに出くわすかも知れない」


アンディは、Kが云っている意味が解らず。


「ケイさん、・・一体何を言ってるの?」


しかしKは直ぐに答えず、次の地図を手に取りながらアンディを見返す。 素直な若者と見れるアンディの双眸は、何処までも澄んでいて。 ジィっとKを見返している。 


「・・俺が言いたいのは、お前を育てたジサマが、どうして勝手に単独行動をしたか・・。 その理由が、俺達の求めるモノと重なっているかも知れないと云う事だ」


「・・って云う事は・・。 ケイさんは、爺ちゃんが取った行動の理由が解るの?」


こう問われたKは、次の島の地図を見ながら。


「お前がコイツを見せてくれたから、その意味が解った。 なるほど、中心の島が一番大きい・・か。 なぁ~っとくダゼ」


アンディは、ケイの言動の全てが解らない。


だが、下からニュノニースやメルリーフが上がって来て。


「アンデル、食べるの終わったの?」


「おいアンディ。 アタイ等は、下の見張りも有るんだよ。 次の島までは、下に居無いとダメだろう」


と、声がする。


「あっ、ヤベ」


と、首を竦めたアンディ。


Kが。


「何だ、こんな調査船で盗難だの奪い合いが有るのか?」


ジャムの入ったビンを仕舞うアンディは、急いで手を動かしながら。


「あのハンターの連中は、交易船を営む商人の手下なんだ。 人目が無いなら、平気で他人の物をかっぱらうし。 道具屋の婆ちゃんだと脅されて取り上げられる事も・・」


Kは、包帯の間から覗ける眼を鋭くし。


「下のバカに云っておけ。 盗難したバカは、俺が船から海に投げるとな」


「いいの?」


「悪いアホを始末するのに、俺は容赦無い。 そう言っておけ」


「ヒィ~、ケイさん怖いよ」


地図を見るKは、それ以上になにも云わない。


すると、黙って聞いていたオリヴェッティが。


「アンディさん」


「え?」


「仕事を請ける上で主さんと契約した内容は、ハンターの方のみの適用では在りません。 悪行が行われた時は、それなりの対処をしますから。 その旨は再確認の意味で伝えてください。 悪人を護る様に契約はしてないと」


「あ、はい」


ニュノニースとメルリーフに捕まったアンディが、階段で下に消えると。


またリュリュがKの元に近付く。


「ケ~イさぁん、なぁに見てるの~」


「明日から、三日行く大きい島の地図だ」


「ふぅ~ん」


大して興味の無さそうな様子である。 ま、空中高くに飛び上がれるリュリュは、地図など必要ない。 風の吹く場所であるなら、大体は方角が解る事も在る。


が、Kは、


「コイツは実に興味深い。 全く、俺の読みも大分ずれてたが・・。 この地図の御蔭で、島を調べる指針が決まった」


と、備に地図を見る。


これを耳にするオリヴェッティやクラウザーは、興味が掻き立てられて地図が気に成る。


「ルヴィアは、リュリュの後ろから這って出て来ると。


「おい、独りで納得とかするな」


オリヴェッティも、


「何か、大きな変更でもしなければ成りませんの?」


3枚目の地図に移るKは、他二枚を仲間に回しながら。


「明後日、三日目に行くサニー・オクボー島の調査は、早めに切り上げてもいいな。 問題は、明日と四日目に為りそうだ」


と。


一番のメインの島の調査を早々と切り上げる・・・。 一同は、意味が解らずに地図を広げ、甲板の上で睨めっこに入った。




さて。



この冒険者達ののんびりとした雰囲気の広がる真下では・・。 クラウザーに島でサソリを取って貰った老婆が、森の内部に行ったハンターの手下3人に囲まれていた。


「おい、ババァ。 採れた草、ちぃ~っとこっちに回せ。 ウチの旦那さんが、原料を欲しがってンだよぉ」


薬の原料を箱型の背負える保管箱に仕舞った老婆は、薄暗くだだっ広い板の間の隅で。


「バカ云うんじゃないよっ。 こっちだって、売り物を取られたらどうやって生活するんだいっ。 次の島でも採れるものなんだよっ? 次の島で採取しなよっ」


と、保管箱を抱き寄せて怒る。


少し離れた所では、その光景をニヤニヤと見ている別のハンターと手下などが居たり。 明日は我が身と思う薬師が、採れた物をどうしようかと悩む様子が窺えた。


外の光が等間隔に儲けられた丸い窓からしか入らない地下の間は、余り空気の良い場所では無さそうだ。


そこへ、先に戻って来たメルリーフ。 入り口の外は、午前にクラウザーとウォルターが話し込んでいた通路で。 今は、煙管を銜え一服する朴訥なボルグと、海風と陽の光を浴びる甲冑の戦士ウォード・ゲイツが一休みしていた。 そんな二人を見てから、板の間に踏み込んだメルリーフ。


「あ、おい。 アレ・・」


板の間の入り口の内側に居た薬師の一人が、姐御肌のメルリーフに、恐喝され掛かる老婆を教えた。


それを見るなり。


「またっ」


メルリーフは、眼の眼光を鋭くさせながら。


「おいっ、大の大人が3人も囲んで、年寄りシバいて強盗かいっ!!!」


と、声を荒げる。


すると、その行く手に立ちはだかるのは、細い目をして鼻髭を蓄えるハンターの一人。


「メルリーフ、口出しするんじゃねぇ。 お前達は、乗客の護衛として俺達に雇われた冒険者だ。 雇い主に口出しするのは、冒険者の規律違反だぞ」


中年のハンターは、白いズボンに立派なチョッキとコートを羽織る身形が良い人物。 手下に採取させ、捜すのも雇った薬師の若者で。 偉ぶった態度が鼻に付く人物だった。 何処で買ったか、ツバの広い帽子を斜めに被る様は、明らかに格好をつける為だけのもの。 今回の調査・採取に、必要な人物では無かった。


メルリーフは、冒険者の規約を持ち出されて。


「貴様ぁぁ、権利を傘に着れれば・・何をしてもイイって言うのかいっ?!」


と、憤慨し出す。


ハンターの男は、寒さを凌ぐ為にと。 上から貰った熱い石で、湯たんぽとする懐石を包んだ布の塊を擦りながら。


「あぁ~、寒い。 それに、薄汚い獣人ってのも煩い。 お前達の様なゴミと、言い争うのも時間が勿体無いのだがなぁ」


と、如何にも面倒臭そうな態度をする。。


処が。


「ソリンドルさん。 そのまま恐喝が進むと、ヤバいのはそっちだよ」


と、アンディの声がする。


地元の者同士。 冒険者と商売人は粗方が知った同士である。


「んぁっ?! アンディっ、俺様に喧嘩売る気かっ?!!」


その怒声を聞いても、怖気づくアンディは無く。 メルリーフの脇に来ると。


「ソリンドルさん。 最初に説明を受けたと思うけど、僕達地元の冒険者は、採取に向かう貴方方に雇われた」


ソリンドルと云うハンターは、偉そうに。


「おうっ、そんなのは解ってるっ」


アンディは、それを聞いた後に。


「でも、上のケイさん達は違うよ」


この話に、この板の間の皆が黙る。


「上の冒険者は、調査船運航の守備として、協調関係として、斡旋所の主と調査船の主である二人に協力するという名目で乗ってるだけに過ぎない。 つまり、僕達とは違う契約なんだ。 上で、さっき大型モンスターを退治したケイさん達からの伝言。 舐めた真似するヤツは、悪党として船から海に捨てる・・。 だって」


布を擦る手を止めたままのハンターは、固まるままに。


「つまり・・俺達に雇われた冒険者じゃぁ~~~~無いって・・事か?」


「うん。 この船の権限は、全て調査団の長であるガウさんが持ってる。 ガウさんは、この船の安全をケイさんのチームに委ねてる。 この船で悪事を働く事は、安全を委ねられてるケイさん達からするなら・・・どうゆう事だろうかなぁ。 これから聞いて来てもイイよ」


この瞬間、ソリンドルと云うハンターは、異様な首の動きで手下を見ると。


「き・君達。 そのご老母から離れなさい。 お年寄りは、大切にしようね」


あの船をも覆う様な怪物を、瞬時に倒したKを敵に回したいと思う者が居ようか。 老婆を取り囲んでいた手下達は、尋常では無い速さでソリンドルの占有したスペースへと戻る。


その光景を見終えた上で、アンディは言う。


「ソリンドルさんだけじゃなく。 今回は、異例で多くの島を回れるけど、僕達だけなら死ぬからね。 上の皆さんが、今回の旅の成功の鍵を握ってる。 お願いだから、絶対に敵に回さないでよ。 正直、僕達の雇い主が皆さんだから、何か在ったらあの強い人を敵に回さなきゃいけない。 でも、どう頑張っても勝てないからさ」


返事も来なければ、文句も出ない。


(ふぅ)


アンディは、Kにまた一つ感謝した。


実際、地方の柵の強い地域では、大都市と繋がりの在る大商人に飼われるハンターや商人は、逆らうに難しい相手で在る。 大抵の仕事の雇い主と為りうるから、冒険者達にしてみれば尚更だ。


今、採取した物を奪われ掛けたが。 恐喝紛いの圧し買いなどは珍しい事でも無い。 下手に頑なな拒否をすれば、暴行や殺人も・・。 時には逆らえず、悔しさの辛酸を舐めずには居られない場面も在るのだ。


負けてすごすごと離れるハンター。


「アンディ。 機転が利くじゃないか」


と、小声で云うメルリーフに対して。 老婆の気遣いにニュノニースが向かったのを見るアンディは、


「ケイさんが言えってさ」


と、メルリーフに首を竦めて云う。


「頭のイイ包帯野郎だねぇ」


メルリーフが、口悪く感想を言うと。


「多分、あのケイさんは、本気で人も斬れる人だからさ。 僕も本気で敵にしたくないよ。 アノ人は、本当に強い・・。 ホント、僕達が束に成ろうが。 仲間の誰かを人質に取ったって、絶対に勝てない。 関係を悪くしたくないから、向こうも気を利かせてくれたんだよ」


「そうか・・」


ライカン(獣人)と呼ばれるメタモルフォーゼス(変異)の能力が在るメルリーフだが。 変異をした後、今の2・3倍の身体能力と腕力のポテンシャルを発揮出来たとしても、Kに敵う要素が見出せない。


(アタシ等ライカンより化け物が居るなんてねぇ)


Kに興味が湧くメルリーフだった。




                       ★





次の島に上陸出来たのは、昼下がりである。 陽の傾きが、夕日に変わり始める少し手前で。 のんびりと採取などする余裕は少ない状況だったが。


Kは、アンディに。


「アンディ、一つ聞きたい」


また、森の内回りと、外回りに別けてくれと言い張るハンター達と。 危険だから、散策を固まってしようと云うガウ団長。


その言い合いを見ていたアンディだが、Kに聞かれて。


「はい? 何?」


「この島は、特別な物が有るのか?」


するとアンディは、腕組みして考え込み。


「地形から云って・・、この島と三番目に大きい島が一番変化に富むんだよね。 薬草や薬石の種類、特殊な果実とか。 色々実るんだ」


「そうか」


Kは、言い合いを見守るオリヴェッティの元に行き。 そして、何かを話す。


オリヴェッティは、Kの助言で有る提案を決断した。 それは、三日目に行く中心の島と、明日に行く島の交換だ。 中心の島には、明日の午後に立ち寄って、夕方まで散策させて貰えれば良いとし。 代わりに、明日の午前も、この島に立ち寄るという提案だった。


二度立ち寄れると聞いたハンター達は、採取が多く出来るなら一塊でもいいと、新提案に乗る。


調査団長ガウは、K達がその採取に終始同行して守って貰える事を確認した上。 その申し出を許可した。


Kは、オリヴェッティに土地勘の在るアンディの協力を求める様に云い。 採取隊の散策ルートを決めさせる。


一番下っ端に成る筈のアンディに、それを任せるのはどうかと云う意見は当然に出る。


だが、何度もこの島に来ていると云うアンディだ。 何処に何が在るかは、大体解っている。 無駄な彷徨ほうこうをする必要性は無いから、道案内に採取場所を選ばせるのは当然の事だ。


さて。 オリヴェッティは、今回の調査団に協力する上で。 自分達のチームの自由行動を半日分貰っている。 その自由行動には、ガウ達が付き合うという確約を得て同行している。 それは、何処でも決めた場所で・・と在る訳で、どちらかと言えば自由に規制を掛けられているのはハンター達だろうか。


Kは、そんな採取に来た者達に、在る意味で最大限の余裕を与えようと云う意味で。 このアンディを指名した。 地元の人間で、土地勘が在り、何処に何が有るのかを知り、其処まで行く道を大体知っている。


つまりは・・。


薬師や道具屋の老婆などから要望を聞くアンディは、Kに。


「ケイさん、少し危険だけど奥地まで行きたいんです。 其方が危険で、もう分け入るのは無理と判断するまで、時間の許す限り向かって構いませんよね? それが呑めないなら、僕も道案内はチョット・・」


オリヴェッティは、透かさず。


「酷い怪我人、若しくは大型で危険極まりないモンスターと遭遇するまでは、分け入る判断は貴方に任せます。 その代わり、今日だけでなく明日も視野に入れて、夜を避けた無理の無い散策を選んでください


「解りました」


了承したアンディは、もう夕暮れも迫る頃合いだと云う事から。 先に島の外周で、磯に生える苔の採取場所や、貴重な岩塩が採れる場所を回ると言い出した。 夕方に成っても陽の光が差し込む最大限の時間を有効に使う意味も有ってだ。


Kは、リュリュの首根っこを抑えると。


「リュリュ、俺がいいと云うまで派手に戦うな」


「ブ~、何でぇぇ」


「いいから」


砂浜も見える海沿いを行けば、カニのモンスターや鮫鷹などが襲ってくる。


「オリヴェッティ、俺とリュリュ抜きで協力して切り抜けろ。 コッチの一般は、俺が安全を預かる」


急に言われたオリヴェッティは、ギョっとして驚く。


だが、周囲を見張り眼だけは真剣なKを見たオリヴェッティは、それが冗談では無いと思う。 Kが前線に出る素振りを覗わせないからだ。


(嗚呼、私達の実力を試させる気だわ)


と、オリヴェッティは悟った。


午前中はリュリュが殆どのモンスターを撃退してしまった為に。 戦いたくてウズウズしていた方のビハインツだから。


「俺はカニに行くぞっ」


と、我先に飛び出す。


猪突猛進と云う点では、地元の戦士のボルグとウォード・ゲイツも負けては居無い。


「おうっ、望む処じゃぁぁぁっ」


「ま・か・せ・ろ」


重装備歩兵の様なウォードは、槍と盾を構えてビハインツに追走。 片言の様な言い草のボルグも、直ぐに石の塊が先に据えられた棍棒を担いで向かって行く。


ウォルターは、Kの魂胆を読んでいた。


(そうよな。 只、付いて来たのでは見縊られるか)


Kとリュリュだけが凄いと思われては、この先ハンター達はオリヴェッティ達を舐めるだろうし。 戦う力がどれだけ有るのか、見て肌で感じる方が意思の疎通もし易い。 例え、Kとリュリュが居なくても、散策ぐらいは残りでも十二分に出来るとKは見せたかった。 そう、力を発揮してこそ冒険者であり、その意味が在る。


ウォルターは、急降下の態勢に入る鮫鷹を見上げ。


「どら、空の煩い輩を落すとしよう」


と、右手を軽くしなやかな動きで仕草を決めると。


「魔想の理よ、我が魔力に応呼せよ。 ・・飛礫よっ」


と、魔法の飛礫を生み出す。


その直後。


「わわっ、何だこりゃ」


「あらまぁ・・綺麗なこってよぉ」


ウォルターの頭上処か、ハンターや老婆の真上にまで魔法の飛礫が現れる。


守りに付いたガウは、


「何て数だ・・。 一度の想像で、此処まで多く生み出すとはっ」


と、同じ魔想魔術師ながら、技量の違いを見た。


宙に浮かび上がる青白い淡い光の飛礫は、


「さっ、行かれよ」


だの。


「今度は、此方だ」


と、誰かをリードしながら舞う様なウォルターの動きに合わせ、丁寧にコントロールされながら空のモンスターを撃墜してゆく。


バタバタと、凶暴な鮫鷹や“肉啄み”と嫌がられる大型啄木鳥のモンスターを打ち落とすウォルター。


その手並みに。


「はぁ・・」


と、息を呑むオリヴェッティだが。


其処にKが。


「オリヴェッティっ!! お前がリーダーだぞっ。 戦うだけでは無く、戦う仲間を見て統制を取れっ」


と、叱咤をする。


カニのモンスターが次々と海から、浜の砂から這い出る為に。 ルヴィアとクラウザーもビハインツ達の加勢に向かった直後。 唯一、ウォルターとオリヴェッティの守りに残るメルリーフが。


「何を云ってるんだ。 こんな処で、“統制”だと?」


だが、リュリュが。


「まだ、砂さんの中に何かぁ~・・いるぅ?」


と、首を傾げた。


ハッとまた違う意味で息を呑むオリヴェッティは、砂浜に出て散開する皆を見る。


すると・・。


(あっ)


カニをぶっ飛ばすボルグの後方。 砂がモゾモゾと動いているではないか。


「ルヴィアさんっ、ハンマーを持つ方の後ろにっ!!!!!」


ビハインツを見て向かっていたルヴィアは、其処から左手のボルグを探し見て。


「何だあの蠢く白いモノはっ?!!」


と、驚く。


ルヴィアが大声を上げ、ボルグに向かって走り出すのと同時。


「ボーーーーーーーールグっ!!!!! 後ろっ!!!!」


弓を番えたアンディが、全力で叫んだ。


「うぅん?」


云われて漸く振り返るボルグは、盛り上がった砂が落ちる中に白く蠢く何かを発見。


それと同時に、白い何かはボルグへと飛び掛った。


「おわっ!!」


咄嗟に構えた石のハンマー。 その石の部分に、飛び出した何かが噛み付いた。


ボルグもその勢いに押されて転げたし。 遅れてアンディが弓を放ち。 近付くルヴィアは、縺れる様にボルグへ伸びた白い何かを見て。


(殺られたっ!! 死人がっ?!)


と、思う。


だが、それ以上白い何かは動かない。


固まるオリヴェッティやメルリーフに、


「あれは、砂浜に棲むトビダシウオって云うモンスターだ。 魔術師なら、近場でオーラを感知し。 仲間に危険を逸早く伝えるのも役目だ。 固まってないで、さっさと前に行け」


と、Kの声が届いた。


二人が見る中で、ムクリと起き上がるボルグであり。


近寄ったルヴィアは、安物のダガーがモンスターの頭に突き刺さっているのを見る。


「なっ・・なんだ。 はぁ~」


安堵したルヴィアだが、その背中に。


「ルヴィアさんっ、貴女の脇にも迫ってるっ!!」


と、オリヴェッティの声がする。


「はっ」


盛り上がり始めた砂は、ルヴィアの右手側の後方。


ルヴィアが剣を抜いて振り返るのと。


「どぅおーーーーりゃっ!!!」


ボルグが、その盛り上がり始めた砂を殴りつけるのが同時であった。


ルヴィアの目の前で、“ボンっ!!!”と砂を巻き上げた鈍い音がした。


「・・」


白い砂がピクピクと動くのみで、それ以上の反応が無いと見たルヴィアで。


「助かった」


と、ボルグに言えば。


「い・・いや。 同じ・・だがだ」


と、ハンマーを担いで周りを見るボルグ。


砂浜と草むらの境を越えて来たオリヴェッティは、アンディとメルリーフに守られながら。


「次はクラウザーさんの後ろっ。 それから、ビハインツさんの左に向かって動く気配在りますっ」


と、砂浜の中を泳ぐモンスターを感じ取って教え出す。


その様子を見るガウは、Kに。


「御主も加勢せずに、このまま大丈夫か?」


抜く手を見せずしてダガーを投げたKだが。


「この距離なら、彼女の感知能力は一番鋭い。 たらぁ~んと見てるから、直ぐに対応出来ないんだ。 少しは突け離して、持ってる能力を磨かせないとな」


「なぬ? こっ、こんな危険地帯でかっ?!!」


「大丈夫だ。 これぐらいの危険で使えなくなる者達じゃない。 この脅威に慣れれば、俺の出番は当分要らんさ」


その奔放で無責任に近い物言いに、思わず驚いて腰を抜かしそうなガウ。


一方で。


「ケェ~イさぁ~ん、ひぃ~まっ」


リュリュがKのコートの裾を引っ張ってくる。


「お前が出張ると派手で、楽だろう? いいから、少しは黙ってろ」


「ブ~ブ~」


4・5歳の元気な男の子に、じっとしてろと云うのも難しい話だが。 Kは、その後は手を下さずに見物していた。


Kが手を動かさない意味。 それは、、この先に進む資格の有る証だった。

どうも、騎龍です^^


暫くは、バトルが続きそうな内容です。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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