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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
151/222

K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ②

         K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕序章



                 ≪太陽紋の島へ・・最初の島に上陸≫




斡旋所で主と交渉してから、二日後。 晴天に恵まれた朝。


黄色い色をし見上げる様な高さの有る頑丈な船に揺られ、オリヴェッティ一行は太陽紋の島々へと旅立った。


だがこの船に乗せて貰えた理由は、一応仕事を請けてだ。 


それと云うのも。 一月に一度。 サニーオクボー諸島の定期コースを巡っては、薬草や鉱石などを採取する船が在る。 この船は、魔法自治領カクトノーズの自治政府が運行させている船で、太陽紋の島々の調査も兼ねている。 だが、モンスターも多い島々に行くには、それなりの戦力が必要だ。 そこで、月一と云う運行ながら、斡旋所の主が認めた強い冒険者チームが、運行時に居た場合と云う暗黙の了解が有る。


男女8人の魔法遣いで結成された調査船運航部の者達は、晴れた空の下で不安げな面持ちで陸地のノズルドの街を見ていた。


採取に参加したのは、21人の薬師や仲買人とその手下など。 変わった処では、護衛としてあのアンディとニュノニースが同行している事だろうか。


実の所、あのパング氏も行きたがったらしい。 だが、あの人物は寺院の副司祭長で、そんな危ない場所に行かせられないと、代わって3人の僧侶・僧兵が乗り込んでいる。


陽の光が温かい甲板では、もうKとリュリュが寝そべって寝息を立てていた。 船首近くの手摺の内側で、他の誰もが緊張と不安で休む処の気持ちじゃないのに・・・。。


船を出した調査団の頭で在るのは、40半ばと云った感じの小男で。 名前をガウ=シンと云うらしい。 一応はと、リーダーとして挨拶をし終えたオリヴェッティは、仲間を捜して甲板に出れば。 そんなKとリュリュの姿を目撃する。


「まぁ。 昨日、焼き魚を取り合って喧嘩してましたのに・・・」


呆れたオリヴェッティの背後から。


「オリヴェッティ、話し合いは終わったの」


と、声が。


「え?」


振り返ると、其処にはニュノニースが居た。 藍色の上半身鎧を身に纏い、細身の体にしては二本のショートソードを佩く姿は勇ましい。 下半身は、バンツタイプのレギンスプロテクターに、腰周りを覆うタイトなスカートを穿いている彼女を見て。


(魅力的な方・・)


と、美女のオリヴェッティは思う。


「えぇ、今終わりました。 今夜は、諸島の手前の野営拠点のン・バロソノに泊まるそうです」


「そう・・。 その様子だと、その前に島へ上陸するかもね」


考える仕草を取るニュノニース。


「そうなんですか?」


「うん。 下で採取に参加した者に話を聞いたのだけど、今回は今までで最高の8つの島に渡るらしいわ。 しかも、中心の島で一日を費やす程の逗留だから。 行きの二日で、野営拠点を基点に半分は回る筈ね」


「それは、厳しい日程ですの?」


「いえ、日程はさして厳しく無いの。 だけれど、護る護衛の方は大変だわ。 全ての護衛をしなければ・・・」


「あ、そうですわね」


「うん。 一応、アンデルが他に知人の冒険者三人も声掛けて、今回の護衛に付いてきて貰ってる。 だけどその内一人は、アンデルと同じ狩人だし。 もう一人は、自然魔術師よ。 私以外は、前に出れる者は居無いから、其方の戦士は大変だと思うわ」


このニュノニースは、アンディの名前を“アンデル”と呼ぶ。 アンディの幼少期の名前らしく、この二人が如何に幼い頃からの付き合いかが良く解る。


オリヴェッティは、地元の事に詳しく面識の在るニュノニースとアンディは大事な仲間だと認識した。 その上で。


「採取をされる方々は、幾つの塊に分かれるのでしょうか。 先程下へ聞きに行ったのですが、変な色眼鏡しか貰えなくて・・・」


「さぁ。 薬師の人は厳格だけど、ハンターの仲買人は気を付けて。 金に意地汚く、女性をモノみたいに思ってるヤツも居るから。 私が以前にも何年か前にアンディと護衛した時も、ハンターがわれ先と飛び出して何人も死人が出たしね。 一応は団体の行動を重視するようには言ったけど、金目の物に成ると行動が変わるから困るのよ」


「ですわね。 まぁ、ケイさんが居て下さる方は大丈夫だわ。 問題は、手分けした場合の片側ですね。 リュリュ君に着いて来て貰おうかしら」


ニュノニースは、船首の方で寝るKとリュリュをチラっと見てから。


「しかしあの二人、便りには成るけど何者なの? 普通の常識を超えた強さだわ」


オリヴェッティは、Kの事は良く解らないし、リュリュの事は言えない。


「あ・あの二人は、前々から知り合いみたいです。 ほんっ・ホント、正体が解らない方々ですわよね」


と、苦し紛れの言い訳をする。


だが、リュリュとオリヴェッティの仲は姉弟の様。


「まぁ、オリヴェッティ・・。 貴女、良くも解らないのに、あのリュリュって子と仲良くしてるの?」


オリヴェッティは、突っ込まれたと思い。 苦笑いながらに・・。


「えっ? あぁ・・、私って姉妹とか居無い身の上でして・・、それにリュリュ君って可愛いから・・つぃ」


まるで年下が好きと云わんばかりの説明を聞くニュノニース。


「あらぁ、貴女ってそうゆうのが好みなのね」


「あ・・えぇ」


しかし、それでもニュノニースの目は真面目で。


「でも、それでもおかしい。 あのリュリュと云う者からは、純粋な風のオーラを感じる。 精霊でも無いのに、こんな事が在っていいのかしら・・・」


流石にダークエルフの血を引く彼女だ。 魔法は遣えないとしても、精霊力を感じる力は備えている。


(嗚呼、バレるのは時間の問題かも知れませんわね)


オリヴェッティは、隠す事の難しさを痛感し始めた。 ま、Kとリュリュの戦い様は、大して隠している様には見えないが・・。


その頃。


船体の中央付近で、船の地下二階の甲板に、クラウザーとウォルターが居る。 上の甲板よりも低い位置で、海が近くに見下ろせる通路に居た。


「クラウザー殿」


徐にウォルターが口を開いた。 少し行けば最初に上陸する島に立ち寄れると云う事で、薬師や採取目的のハンターは上に上がって行った。 人気が無くなったのを見計らった様に、声が掛かった。


「ウォルター様、随分とお顔が優れませぬな」


「う~む。 実は、私も貴殿と境遇は同じだ」


「同じ境遇?」


「そうだとも。 もう、身体にシコリが出来ていましてな。 あのケイから貰っている薬の一部は、痛みを散らす麻薬に近い物・・」


「な・なんと?」


すると、ウォルターは細く笑み。


「不思議な男ですなぁ・・、私が余命幾ばかりも無いのは知ったはずなのに。 この私に、冒険者に成れなど・・、フフフ」


「ウォルター様、大丈夫なのですか?」


「えぇ。 医者も、ケイも、4・5年は保つと・・・」


「そうですか」


ウォルターは、海の上を飛ぶ冬の渡り鳥を見て。


「実は・・、な。 クラウザー殿」


「は?」


「年甲斐にも無く、私もまた恋をしました」


普段のウォルターとは思えない紳士ぶりの口調に、クラウザーは目を見張りながら。


「ほう・・、誰に?」


「あの僧侶です。 ライラ・・でしたかな?」


「・・・」


クラウザーの耳が可笑しくなったのか・・。 いや、目の前でウォルターが告白している。 どうゆう事か・・、これは戯言なのか。 クラウザーの思考が、少し鈍く成る。


が。


白いシルクハットを取ったウォルターは、海風にコートを靡かせながら。


「私の両親は、退廃的な者でしてな。 役目もせず、地位や名誉に溺れて遊び葺ける毎夜だったと」


「本当ですか?」


「えぇ。 両親の祖父母が、それを見限りましてなぁ・・。 私を早々をと当主に据えるとして、両親を何処かにやってしまいました」


「・・、そういえば、ウォルター様は12かそこらで当主に成られたとか?」


「うむ。 私の記憶には、もう両親は居無い。 有るのは、異常に厳しく恐ろしい祖父母と、まだ弱かった私を包んでくれた乳母の事しか・・知らんのですよ」


「そうでしたか」


「芸術に己を見出した頃、その祖父母から乳母まで取り上げられました。 私は周囲に心を開かず、また寄って来る女性を次々と食い散らかした・・・。 全ては、失ったものに似通ったものだけを欲しくて、その他のものを蹴散らかしたかったのかも知れん」


クラウザーは、そこまで聞くと。


「あのライラと云う僧侶は、その乳母に似てますか?」


「流石に・・敏いな、クラウザー殿」


「いえ、流れから推理したまでで」


「そうか・・、そうですな。 ですが・・、クラウザー殿。 私は、生まれつき子種を持たない身体なんです」


「・・真で御座いますか?」


ウォルターは、下を俯き。


「この旅に出る前、ケイに言われた。 子供の世話をしてみろ・・と。 何度か疑わしいと子供を連れて来る愛人が居た。 ・・が、どれも違った。 月日を調べたり、男関係を調べれば解りますな。 一人ぐらいは居ても良いと思うのだが、居なかった・・・」


「そうなのですか・・」


「あぁ。 久しぶりに、あのライラと云う僧侶が赤子を連れてきて、驚く程に心が震えた。 私と使用人しか住まないあの屋敷が、久しぶりに人の居る空間と成ったのを見た」


「ウォルター様、一体どう為さるおつもりですか? まさか、あの赤子を見受けするつもりでは?」


「・・・、さぁ。 だが、それも構わぬ。 どうせ、ワシの親戚など我が家を継ぐに値する者等居らん。 いっそ、あの赤子を育てて跡取りにするのも悪くない」


クラウザーは、流石にその後の言葉が見つからなかった。 こんな事が他の仲間に知られたら・・。


(面倒の種は、何処にでも有るものだ・・)


と、呆れてしまった。


だがしかし、ウォルターの心情も解らない訳では無い。 クラウザーとて、今の妻とあの経緯が無かったらどうだったか。 男などと云う生き物は、その辺が非常にいい加減な一面を持つ。 落ち着ける身の寄せ所を見つけなければ、フラフラと漂うばかりの難破船の様な生き物だ。 寂しさばかりを紛らわせる為に、夢を追い。 時には女、金に狂う。 何かを極めても、情欲の炎の暴走を止められぬ者も居る。


強く在れば在る程に、溺れる魂は暴れる。


クラウザーからするなら、Kがどうして落ち着いたのかが解らないぐらいだった・・・。




                       ★




ーギャっ!!!-


ーギュゲェェェェェェェーーーーっ!!!!-


海上で、モンスターの断末魔の声が上がる。


「おーい、リュリュ。 向こうにエルキュレプラが来てる。 風の道を作れ」


船首の先っぽで、片足を縁に掛けて短剣を抜いているKが云った。


空中に飛び出し、浮きながら船に向かってくる小型のモンスターを尽く撃墜するリュリュが居て。


「はぁぁぁ~~~い」


と、左手を船首の前に翳す。


「おぉっ?!!!! な、何だこの力はっ?!!」


船を動かす者は、皆が魔法を遣える。 風そのものが道を作り、蒼翠の道が海面に向かって出来れば、凝縮された強い風の力を否応なしに感じさせられる。


オリヴェッティは、その風の力にうっとりとしてしまい。


「はぁ・・」


と、恍惚の表情を浮かべた。 正しく、神々しい力の片鱗である。


Kは、モンスターの襲来に驚いて甲板に出て来た船団長に。


「海のモンスターは、全てこっちに任せろ。 今のうちに、島の防御結界に護られた船着場に急げ。 採取に上陸するのは、俺とリュリュが戻ってからか、残りの冒険者全員を同行させろ。 現場のでの指示は、オリヴェッティがする」


一気に言われた船団の長は、顔を上下にさせるだけ。


Kは、オリヴェッティに。


「オリヴェッティ。 船着場まで、周囲に気を配れ。 着いたら、島の中から来るモンスターに警戒しろ」


パッと気が戻るオリヴェッティで。


「えっ? あっ、はいはい」


この時、船首近くに居るアンディが。


「早く島に舵をーーーーーっ!!! デカいモンスターが出て来たぁぁぁぁっ!!!!!!!」


と、大慌てで云う。


リュリュの周りには、空を飛ぶ蛇のモンスターや、鮫の顔をした鷹。 少量の酸を吹く蛾のモンスターなどが集まっている。 だが、船首の前方には、急に海面が壁の様に盛り上がる。 真っ黒い何かが、海から現れたのだ。


ーグオオオオオオオオオオオーーーーーーっ!!!!!-


空気を震わせる大音量の唸り声に。


「うわぁ~~~~っ、やっぱり来るんじゃなかった~~」


「おかぁ~ちゃ~んっ!!!」


仲買の傍ら、採取を基本にハンター家業をする者の連れた手下が大慌てで逃げ惑う。 人間相手には荒くれた素振りを見せる力自慢の無頼達だが、モンスター相手では情けない姿を晒すばかり。


船の縁に手を着いて、その姿を確かめようとする冒険者や魔法遣いの船員達。


「あれが噂に聞く“船殺し”。 そう渾名されるエルキュレブラかっ?」


云うクラウザーでも初めて見たその生物は、真っ黒いヘドロの塊で出来た巨人だった。 身体と顔の区別は無く、ドデカイ眼が歪んだ身体の真ん中に在る。 その眼の大きさたるや、見上げる太陽に匹敵。 真っ黒い身体の四方八方からは、船を一撃で叩き潰せそうな手が生えている。 腕は人の腕らしいが、手は只の丸い石くれの様な、拳の様な。 海面に出ている身体からだけで、それが6・7本確認出来るのだ。


「わわわ・・、大きさが船以上だぁ・・」


ただ驚くしかないアンディは、ニュノニースと一緒に見ているぐらいしか出来ない。


が。


風の道に飛び乗り、そのバケモノに向かうKが。


「大きさに惑わされるなっ!!! ゴミと死肉を魔力で引き寄せるコイツの姿はっ、作られた擬態だっ!!!」


振る手を見せずして、Kの剣が烈風派を生み出す。 白く回転する烈風の衝撃波は、船に向かって振り込まれ様としていた黒い拳の様な塊に激突。 ぶつかった瞬間に周囲へ解けて、斬り飛ばした大岩の様な拳と腕をバラバラにしてゆく。 その強烈な一撃に、大きなモンスターがヨロめいて進撃が押し留められたほど。


「お・・おわぁぁ~~」


驚きの余りに、鈍い声を上げたアンディ。


ニュノニースは、剣士なだけに。


「凄い、今まで遣えた人が数少ないソニックウェーヴ・・。 剣圧烈波を扱えるなんて・・、しかもあんなに大きく」


アンディは、ニュノニースに振り向き。


「そんなに凄いの?」


「当たり前でしょ? 誰が剣を振るって、あんな烈風の刃を出せるのよ。 剣撃の速さと鋭さに、己の覇気を乗せて迸らせる秘技の中の秘技。 凄いわ、剣神だわ・・・」


風の道に乗り、ニヤリと不気味な笑みを浮かべるK。


「おい、小汚い塊で現れやがって。 本性を見せてみろ、お前の服をこれから残らず剥いでやるからよ」


と、いきなり手にした剣を下に投げつけた。


「へぇ?」


「あ」


その意表を突かれた行為び驚くのは、船で見ている者達。 Kが乗る流れる風の道が、剣が刺さった瞬間に動きを鈍くさせる。


モンスターを一気になぎ払ったリュリュだが、動くエネルギーを堰き止めたKに驚き。


「わぁ~~~~~~っ、ケイさんなにするのぉ~~~!!」


リュリュが慌てる意味は、Kの足元で起こっている。 流れた風が堰き止められ、剣に纏わるKの覇気とぶつかってしまったのだから。 風の力の一部は、その場で風に変わって噴出してゆく。 Kの全身も風に吹かれ、衣服が激しく揺らめいていた。


が、Kが右足で剣の柄を軽く蹴ると・・。


間近に降りてきたリュリュは、剣に風のエネルギーが巻き取られ始めているのを見る。


「ケイさぁ~んっ、どうするのさぁ~」


Kの刺した剣は、風の力を巻き取る様に回りながら、徐々に上に競上がり始めた。


Kは、態勢を戻して、大きく舵を切った船に踏み込み始めるモンスターを見上げながら。


「リュリュ、俺の合図でこの風の力を切れ」


「え? あ、いいけどぉ」


Kは、右側でクルっ、クルっと、風を巻き取りながら押し上がって来る剣を見ず。


「切れ、リュリュ」


云われたリュリュは、一瞬だけ躊躇った。 この風の力を切れば、均衡は壊れて一気に剣の巻き込む回転が上がる。 そうなったら、一体どうなるか解らなくて怖い。


が。


「リュリュ、俺が信じられないか?」


Kの催促が来た。


「解ったよぉ~。 えいっ」


近場で、その風の流れを切った。


その瞬間、力の後押しを失う風の力は、一気に回って上りだす剣に巻き取られる。 Kは、この時に高く跳躍へと移った。


弾け上がる剣が風のエネルギーを纏って、またKに握られたのは・・・。


Kの包帯の間から見える眼と、巨大なモンスターの眼が、一定の隔たりを開いて同じ線上に在った。


「さぁ、消し飛べっ!!」


左手に握られたKの剣は、振り込まれる時に空気を切って異常な唸りを上げた。


「・・・」


剣がKの左頭上に振り上げられた時に合わせ、蒼翠のエネルギーがモンスターに向かって爆発した時だった。


それを見ていたリュリュは、


「ヤッバ~~~いっ!!!!!」


と、船の行く手に立ち塞がり、思いっきり風の力で壁を張ろとした。


Kの剣に絡め取られた風の力は、瞬時に膨張して爆発し。 その巨大なモンスターの全身を消し飛ばす。 いや、それだけでは収まりきらず、周囲の海面に山の様な水柱を立てて吹き抜けて行く。


だが、吹き抜ける力の一部は、ぶつかった瞬間に四方へと広がる。 この飛び散ったエネルギーの欠片ですら、吹き荒れる暴風雨の風と同じ。 舵を切って横向きに成った船にぶつかれば、転覆させる力には十分過ぎる。


が。


「静まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!!!!!!!!!」


裂帛の気合を以って、空中に漂うKが声を張り上げる。 途端、跳ね返った風の力と、Kの気合の一声がぶつかった。


辺りに、耳をつんざく空気の振動だけが広がった。 ・・だが、それ以上の風の力は広がらない。


「え゛っ、ウゾぉ~」


リュリュは、風の壁を張ろうとした処で目を丸くした。 気合いの掛け声で跳ね返る衝撃波を掻き消したKに。


落ちるKは、海に漂うモンスターの死体に降りる。 海に浮く浮島にも例えられないモンスターの身体を踏み台に、リュリュの下を島へと向かう。


「・・ヤッパ、すげぇ~ッス」


自分の母親が、神竜を殺せる唯一のバケモノと云った男。 リュリュは、益々Kをカッコイイと思う。


さて。


島に先んじて着いた調査船。 モンスターが寄り付かない様に、結界石の力が施される船着場。


年に一度は、船着場の結界に危険を冒してでも魔力を注がなければならない。 100以上も島が点在すると云われるサニーオクボー諸島だが。 結界の張られた船着場を持つ島は、10に満たない。 張られて無い島は、立ち寄るには小さ過ぎる島か、モンスターの脅威が強すぎて上陸が継続出来ない島だ。


さて、生い茂る森を目の前にして、岩場が目立つ島の入り口に降り立った皆。 ビハインツやアンディなどが周囲を警戒する中で、ハンターの元締め達がルヴィアやオリヴェッティに駆け寄っていた。


「なぁっ、あの冒険者は誰の護衛に付くっ?!!」


「俺の護衛にしてくれっ!! 追加で500払うっ」


「バカ云うなっ、俺の護衛だっ!!! 700・・いや、1000払う。 5日間、バッチリ守ってくれっ。 なっ? なぁっ?!!」


金で安全を買おうと云う者達。 そんな金も無く不満の憤りすら滲ませているが、何も言えない薬師など。


「ちょっと、あのっ」


「おいっ、落ち着けっ」


言い訳も言えない程に押し迫るハンター達に、クラウザーが堪らず。


「黙れバカ共っ、騒いで他のモンスターを呼び寄せる気かっ?」


叱る気力も失せたウォルターは、脇目にその男達を見て。


「我々は、仕事を請けるに当って、船に乗る全員と云われた。 特定の誰かを守っては、仕事に為らんだろうに。 ・・、醜いのぉ」


実に嘆かわしいとばかりに、右手を面前に持って来て呆れ果てる格好を見せた。


其処にKとリュリュが戻る。


「ケイさんっ、あの気合いってど~やるの? ねぇっ、おせ~て」


「アホウ。 お前が出来るか」


「どうしてよぉ~。 ねぇねぇ、おせ~てよぉ~」


皆が、人智を超えた強者を見る。


仲間に合流したKは、


「どうした? 大方、護衛の優劣でも金で決めようってバカ騒ぎか?」


ルヴィアは、眼を丸くして。


「解るのか?」


「おいおい、こんな護衛の類なんざ~どれだけ請けたか。 金の在るバカほど、安全を金で買いたがる」


心理的に人を良く把握しているKに、こんな事は予測済みならしい。


Kは、怪我した時の為の僧侶が、船着場の結界を強めようと魔力を注ぐのを見て。


「オリヴェッティ、島の奥に入るのに二手に分かれる」


「え?」


「薬草などは、比較的海に面した草原地帯や、果実の成り易い森の外周だそうだ。 鉱石や宝石や薬石は、陽の当らない中側に落ちている事が多いらしい。 手早く二手に分かれて行けば、島が小さいから昼過ぎで離れられる」


「あ・はい」


Kは、更に。


「俺とリュリュ。 君とアンディは分けろ。 アンディは何度も島に来てる。 君か、アンディがリーダーに為れ。 俺とリュリュは、どちらかの要に為ればいい。 急げ」


オリヴェッティは、直ぐにチームを分けた。 リュリュには御守も必要なので、女性3人にクラウザーとビハインツを加えて、見晴らしの良い外周に。 一方で、アンディと彼が引っ張った3人の冒険者。 それとKとウォルターに、加えて調査団長の行く方を中側とした。


薬師達とハンターは、どちら側も半々なので。 文句が出ても安全を盾に押し切った。


K自体も。


「悪いが、独りで暴走するアホウを助けるほど優しくない。 俺を甘く見ると、海の藻屑に消えたモンスターと行き先は一緒だと思え」


と、言い切った。 巨大モンスターすらも倒したK冷淡な言葉には、誰も口答えをしたいと思わない。 此処で、全てが決まった。


二手に分かれるに当って、


「ケイさん、本当に大丈夫でしょうか」


と、オリヴェッティが弱気に為る。


「大丈夫だろう。 最初に襲い来る飛行モンスターは、殆どリュリュが撃退した。 急ぎで回るなら、脅威は島に潜むモンスターや、病気ぐらいだ。 不安は伝染する、時化た顔するな」


云われたオリヴェッティは、強張らせた顔をそのままにして。 もう出発の様子を窺わせる外周を選んだ者達の方に向かった。


さて。


「では、先に出発します。 個人的な行動に突っ走って、モンスターに狙われない様に願います」


オリヴェッティの掛け声に、


「その通りだぞ。 我儘な者を守る事ほど、難しい事は無いからな」


と、強い口調で言ったルヴィア。


その様子を見ていたKに、リュリュが手を振る。


「怪我をさすな。 島を沈めるなよ」


と、Kは云った。


さて、Kの元にアンディが知り合いを引っ張ってきた。


「ケイさんっ、一応の挨拶ですっ!!」


朴訥とした少し見上げる必要が在る大男は、皮製のベルトメイルにでっかい棍棒を持ち。 髪の毛と髭の区別が付かない程に毛深く伸び放題にさせている。 擦り切れた部分を継ぎ接ぎに着る厚手の衣服は、着古した感の強いヨレヨレのものだ。


「ボ・ボボ・・ボルグ。 よろ・・」


たどたどしい言葉で、ボソボソと云って来た。


「あぁ」


しかし、その後に。


「全く、大の男が面と向かって挨拶も出来やしないのかいっ」


と、女性の声がボルグに怒ってから。 ボルグの前に誰かが現れた。


「さっきの戦い、しっかり見せて貰った。 生きてる間に、凄腕と逢えるなんて光栄だね。 アタシは、メルリーフ。 アンディやニュノニースの姉代わりだけど、薬師やレンジャー家業で生きてる。 一応、格闘術を使える」


スラリとした体つきに、必要最低限な具足、胸当て、小手などだけで武装し。 衣服は動き易い厚手ながらタイトなモノを選ぶ女性は、顔が少し変わっていた。 三つ編みのお下げを左右に、黒髪を纏めている。 目鼻立ちも悪くない、気の強そうな30どうかと云う女性だが・・。


Kは、その女性の顔の肌が、スッキリとした薄紫色で。 しかも、瞳がネコ眼。 口の左右に特徴的な対象の髭を数本伸ばしているのに、眼を軽く開き。


「ほう、ライカンスロープか。 紫の肌を見るに、狼ではなくキツネか、レミュースだな」


女性は、腰に手をやり。


「さっすが、見ただけで全部解るなんて。 ご名答、ライカン・レミュース」


「そうか。 新月なら、本領が見れるのにな」


Kがそう言えば、メルリーフも手を上げ。


「まぁ、ね。 でも、ここいらで夜の戦いに耐えられる戦力は、アタシ以外に御宅とあの風を操る若いのぐらいだわ。 此処の島は、夜は本当にヤバイ」


「だろうな」


と合いの手だけを返したKは、アンディの脇に立つ初老の完全武装した人物を見てから。


「とにかく、もう出発しよう。 自己紹介は、歩きながらで十分だ」


と、してから。


「アンディ、俺と先頭に来い。 お前は地元の人間で人当たりがいいから、リーダーに丁度いい」


云われたアンディは、非常に困った顔で。


「ケイさん、俺が一番の若手だよぉ~」


「だからどうした。 リーダーの資質は、年功序列じゃねぇ」


「うほ」


年配の知り合いの前に出たアンディに、Kは歩き出しながら。


「時間が無い。 もう一つ島を回るんだろう?」


其処に、やっと降りて来た調査団の長が着た。


「スマンスマン、遅くなった」


綺麗に髪をオールバックに撫で付け。 木製の杖を片手に、刺繍艶やかな法衣と青いローブに身を包むその男性だった。 小柄だが、威厳の在る風貌でも有るから立派に見える。


Kとアンディの前に着て、


「調査団の長のガウ=シンだ。 一応、採取に同行したい」


アンディは、遅いとばかりりに。


「ガウさんきったねぇ。 強いケイさんが居るって解ったら来るの決めたし」


「喧しいっ。 アンディ、今回は強引に頼みを聞いたんだぞっ。 少しは儲けも欲しいわいっ!!」


ガウ=シンとアンディは、どうやら知人らしい。


此処で、待っていたハンターや薬師が痺れを切らし、文句が出始めた。 アンディとKが先頭で、左右と後方を他が固める形で守りながら、森の中に分け入ったのであった。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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