二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~
セイルとユリアの大冒険 1
≪ヘルフォレストは、セメテリー(墓場)?≫
森の木々から、雫の冷たい雨が降る。 一本突き抜けた感じの、太い幹周りをした巨木の下に、助けた側と助けられた側が集まった。
「済まない。 助かったよ」
少し老いた感じのする、眼帯をした片目の剣士マガルが頭を下げた。
「ありがとう・・」
「クラークさんの居るチームだけある、流石だ。 恩に着るよ」
と、6人の男女が、助けたセイルやユリアやクラークに頭を下げる。
クラークは、その礼を受けてから、セイルに向いて。
「しかし、ゾンビやスケルトンが10体以上も・・。 此処は、一体何だろうか?」
ニコニコが消え、微笑みに変わるセイル。 クラークの話に頷き。
「ユリアちゃんが見たゾンビの姿が~、冒険者に近い服装だとか。 王城の背後で、北側に在る森を考えるに~。 此処は昔の墓地だったのかも~ですね」
その答えに、マガルのチームの大人びた女性僧侶がおかしいと思い。
「でも・・・、墓石も何も無いわよ・・・」
辺りを見回しながら自分の肩を両手で擦る彼女は、もう寒さに凍えているのだろう。 雨に近い霙が、段々と氷の粒の様な形状に変わり。 また、北風の影響か寒さが堪える。
ユリアも、霧に包まれた森を見回して。
「確かに・・雰囲気は“墓地”っぽいけど・・・。 墓石は見当たらないわ・・」
セイルは、正確に向かう北側を向いて。
「その昔、戦争時に出た無縁の遺体は、墓石を置けないので苗木を植えたと云いますよ~。 森の奥に行くに遵って、木々が~ドンドンお~きく成って行きます」
クラークとユリアは、周りを見て。
「確かに・・・、入り口の見えた木よりはデカイな」
「そうね。 それに、木の根元に何かが抜け出した様な穴が見えるわ・・。 ホラ、この木の根元にも・・」
と。
皆、ユリアの声に気付いて木の根元の古びた穴を見た。
片目の剣士マガルは、深い頷きと共に。
「元々、無縁の者を弔う墓地だった・・。 200年前、何かが起こってこの様なモンスターを生み出す切欠を作った。 そして、その力に支配された骸が、モンスターとなって上に這い出て来た・・。 なるほど、定期的に討伐が必要に成ったのも頷ける」
すると、腰に鞭を装備する若い男性がマガルに寄る。 かなり、不安な顔で。
「リーダーっ、どーする? この先、こんなバケモノばっかりじゃ死んじゃうぜ・・」
「そうだ・・。 流石に、腕に適わないぞ」
弓を背にする若く背の高い男も云う。
マガルは、自分以外の若い仲間を見た。 接近戦の鞭遣いの若者や剣士の子供の様に若い女性は、腕や足に怪我をしている。 僧侶の大人びた女性も、最近冒険者に成ったばかりの新人だ。 魔想魔法を扱う女性は、戦意喪失して俯いているし。 弓を使う若者では、この不死者の蠢く森は苦手だろう。
「・・・」
マガルは、大金を出して買った自身の白銀の剣を見てから。
「よし、俺以外は全員斡旋所に戻れ」
その言葉に、仲間の一同もクラークやユリアも驚いた。
「おっ、りっ・リーダーっ!!!」
鞭遣いの若者が、声を上げるが・・。
マガルは、真剣な顔を仲間に返して。
「俺は、あの斡旋所の主には“借り”が在る。 子供達を助けてもやりたい。 だが、新米の皆には、このモンスターは危険だ。 だから、モンスターが多い事を斡旋所に伝えに戻れ」
「で・でも・・・一人って」
魔想魔術師の少女の様に小柄な女性は、ズブ濡れの紫色したとんがり帽子を上げてマガルを心配した。
「大丈夫だ。 俺は、このクラーク殿の居るチームに着いて行く。 助けられた借りを還すのと、協力を考えてだ。 とにかく、先に進まなければ成らない中で、怪我人や戦意喪失した者を抱えては足手纏い。 ミイラ取りが、ミイラに成る。 別に、チームをバラす気は無いさ」
若いチームの一同は、マガルの話に黙る。
ユリアの両肩に、あの現れた精霊達が乗って居て。 その様子を見ながら雑談していた。
結局、怯えてしまった若き皆は、森を引き返す事に成った。
霧に中、仲間を見送ったマガルは、セイルに向いて。
「さて、先を急ごうか。 モタモタしては、森の中で夕方・・夜に成る」
セイルは、ユリアに向いて。
「ユリアちゃん、人の生命波動には気を配ってね」
精霊を肩に笑うユリアは。
「解ってるよ」
クラークは、セイルが歩き出した後。 ユリアの脇に寄って、マジマジと精霊達を見る。
「むむむ・・・、精霊を初めて見た・・・」
すると、赤子の掌程の大きさで丸いトゲトゲの黒い球体が体内の中に、黒い顔をだけを見せる闇の精霊である“闇玉”(ヤミダマ)が。
「オッサン、精霊も見たこと無いのかよ。 おっくれってる~。 ま、ユリアと一緒に居れば、空気みたいに当たり前に成るゼ」
と、生意気な子供の声で言って来る。
「ほほう・・」
感心するクラーク。
目上のクラークに悪いとユリアは、困った顔をその精霊に向けて。
「口が悪いな~。 ヤミちゃんは」
ユリアの言葉に、“闇玉”の隣に居るテングが腕組みで頷き。
「最近生まれた精霊の割りに、口の利き方を知らん愚か者よ」
ユリアの左肩に浮く白い天馬は、おっとりとした女性の声で。
「反抗期かしらね」
その隣の、魚の姿をしたサハギニーは槍を持って。
「クラークとオイラは同じ“槍の仲”だな。 さっき、スケルトンを突き壊したのカッケーぜ」
クラークは、精霊に“カッケー”と褒められたのは嬉しい。
「うむ。 槍なら負けぬぞ」
と、笑うが。 ユリアが精霊達を使役したくない理由が、なんとなくだが深く理解出来た。 精霊達にも、心が在ると解ったからだ。
さて。
セイルやユリア達が森を進み。 寒さが厳しく成って、風が北風の強い吹き方に変わる頃。
封鎖区域の入り口では、後から事情を知って入って来た冒険者のチーム達と。 怪我人や戦意喪失をして戻ったチームの出入りが見えた。
「おいおい、そんなにモンスターが居るのかよ」
「気を付けろ。 不死系や亡霊系のモンスターばかりだ。 対処の出来ないチームは、命取りだぞ」
「なあ、こっちは戦力が足りない・・。 一緒に行かないか? 分け前は、半分ででいいよ」
入り口で、50人以上の各チームが情報交換をしている。
中には都市の斡旋所に戻って行く者在り。
中には入り口で、会話する者あり。
中にはチームで、先にと森に分け入る一団在り。
誰もが死にたくないし、仕事は成功させて金を貰いたい。
何より、此処まで来ると。 名声に大きく関わる事に繋がるだけに、それぞれ冒険者同士で色々な思惑と欲望が交錯していた・・。
≪あの時の・・・冒険者達≫
「フン。 ドイツもコイツも腑抜けだな・・」
森に入るチームの中で、セイル達よりもかなり遅れて昼過ぎに向かうチームの中にカミーラ達も居た。 赤い髪を濡らせて、幾分色っぽいカミーラ。 霧の中、森の前で躊躇して仲間を増やそうと画策するチームに侮蔑の視線を送って森に向かった。
さて、その後だ。
男女6人の冒険者達が、交渉したりしている冒険者達の後ろを越えて。 森に続く芝の草原の上を行く。
「流石に、凄い事に成りましたね。 イクシオさん」
落ち着いた声がまだ若い張りを思わせる青いローブを着た青年は杖を右手に、自分の横を歩くテンガロンハットを被る牛飼いの様な皮ジャンの中年に声を掛けた。
「ああ。 とにかく寒い・・、早く終わりてぇ~のがホンネ」
鞭を腰に、皮ジャンパーの下には皮製の胸当てを着込む中年男性は、霙が凍り背中に入るのを嫌って首元のボタンを填めた。
「ボンドス殿、エルキュール殿、不死者が出る時は魔法を掛けましょう」
野太い声を出すのは、緑の神官服を着て、更にその上から鎧を着たスキンヘッドの巨漢である。 その大柄の背中には、鋼鉄製で大振りの鉄槌を装備している。
巨漢にボンドスと呼ばれた初老の天辺禿げた頭にマントのフードを被した男性は、巨漢を見上げて。 自分の両脇の腰に下がった1対二振りの片手斧を指差しながら。
「直ぐに頼むぜ。 セレイド」
一緒に歩く、黒髪を背中で束ねた若い剣を佩びた女性は、巨漢のセレイドを見上げて。
「普通の剣でも、魔法でゾンビやゴーストを斬れるだなんて便利ね。 是非、お願いするわ」
切れ長い瞳から向く視線、口紅の塗られた赤い血の様な唇。 エルキュールと呼ばれた女性は、中々の美女である。 声も大人びていて、悪く無い。
青いローブを着た魔法遣いらしき若者の横に、小型のハープを脇に下げた目の細い穏やかな女性が寄る。 薄い赤のローブに、右手には杖を持っている。
「キーラ。 霧からも、森の中からも凄い闇の力を感じるわ。 気を引き締めて行った方が良いわよ」
魔法遣いの青年キーラは、森を見ながら頷く。
「エルザさん、承知しました」
この冒険者達。 中々の一団と視て取れる。
魔法遣いキーラは、嘗ては“風のポリア”率いるチームの面々などと一緒に、包帯で顔を覆面する男の組織した合同チームで“魔の森マニュエル”や“悪魔の蔓延る山アンダルラルクル”へ赴いた一人である。 今、同じチームに居るボンドス・セレイド・イクシオはその時に一緒だった仲間だ。
実は、その嘗ての合同チームに加わった一人で、弓遣いレックを含めて別の大陸に移動した後に。 キーラには色々有った。
去年だ。 キーラをリーダーとしたチームで、レックとキーラは有る大変な仕事を請けた。 二人と一緒に居たチーム仲間と最善を尽くし仕事を達成したが。 強力なモンスターとの戦いで、レックが片足・片腕・片目を失い、数日後に死亡した。 キーラやレックが劣っていたのでは無い。 相手にしたモンスターが凶悪過ぎたのだ。
レックの死で、キーラはチームを解散した。 失意の底に堕ちたキーラだが、今年の初めにイクシオ・セレイド・ボンドスが改めて作ったチームに拾われる形で、今に至る。
美女剣士エルキュールは、23歳の美女。 別のチーム内のセクハラに怒り、飛び出した先でイクシオに拾われた。
僧侶で、自然の神を信仰するエルザは、吟遊詩人として気ままな旅していたが。 冒険の一大叙事詩的な歌を作ろうと冒険者に成った矢先。 入ったチームのリーダーのいい加減さで、チームメンバーの大半を死亡して失うハメに陥る。 解散と同時に、そのリーダーだった男に“使えない”とレッテルを貼られてしまって孤立していた所を、イクシオに拾われた30歳。
このチームのリーダーは、少しやさぐれた感じのする学者イクシオで。 チーム名は“成れの果て”の意味を持つ“イムハリスサンサーラ”。
森に入って、先に入った別の冒険者チームを助けながらのイクシオのチームだが。 森の中でスケルトンやゴースト数体に襲われても。 返り討ちの瞬殺である。
更に、その先で。 死者の死肉が怨念で集まった、身の丈3メートル近いゾンビですら。 キーラの魔法で、直ぐに灰と変わる。
各々が、修羅場を潜り。 一角の冒険者に成っていた。 一人一人は曰く有りだが、信頼の結束が強い実力揃いのチームである。
キーラが首からぶら下げるのは、レックの形見の短剣であり。 背中の背負い袋には、レックの使っていた弓矢の矢が入っている。 モンスターに襲われた農民の子供を守る為に死んだレックを思うキーラは。 戦いの後は必ずレックに感謝を持って、短剣を握って黙祷するのが習慣になったのだ。
「凄いわね。 キーラ」
黙祷を終えた時に、濡れた髪のエルキュールに褒められたキラーだが、微笑む顔で。
「ありがとう」
と、云うが。 再度瞑目してレックの短剣を握る。
(必ず、子供達は助けますよ)
キーラは、あの頃から変わらず・・・変わっていた。
≪森の奥での死闘≫
霧に包まれたままに、セイルとマガルが並び木々の間を行く。
(持っているのは、安物ではないか・・・)
マガルは、セイルの腰と背中に有る剣が不思議で仕方無い。 先程の戦いの中で、確かにスケルトン2体とゾンビをセイルは相手にした。 スケルトンは、五体を壊せば倒せるが。 ゾンビはそうも行かない。 死体を動かす暗黒のエネルギー核を壊さないと駄目だ。
だが、暗黒のエネルギー核は普通の剣で斬っても壊れない。 剣で倒すなら、細切れに成るまで斬らないと倒すのは難しいだろう。 細切れにしても、黒い暗黒の核が残るなら、何れは亡者系のモンスターに変わる。 動かなくなるのは、一時の事だけなのだ。
だが、霧の中マガルの見たセイルは、其処までゾンビに時間を掛けて居ない。 一体、どう倒したのだろうか・・。 ゾンビの遺体は、確かに灰に変わっていたのである。
明るかった空が、また暗く成り出し掛ける。 寒く吐く息白い中でセイルは前を見ながら。
「雪だ~。 森が終わって、雪が降り出してますよ~」
ユリアも、クラークも、ハッとして雪に気付いた。 静けさが広がり、森も無く。 地面は、何時の間にか雪化粧し始めている。
クラークは、森が消えたのに違和感を覚え。
「ふむう・・。 太い巨木がいきなり途絶えた・・・。 もしや、封鎖区域の一番奥へ来てしまったかな?」
セイルは、頷いて。
「みたいですね~。 ホラ、壁が見えました」
セイルの指差す先には、この区域に入る時に潜った門の左右に伸びていた石壁と鉄柵の仕切り壁と同じ物が見えた。
ユリアは、壁際には霧が及んでないと思いきや。 思いっきり壁間際やその向こうに闇と魔の力を含む霧が広がるのを感じ見て。
「でも、結界は張ってないみたい・・。 ううん。 壁の向こうも、結界の中みたいだわ・・。 どうしてだろう?」
そこでセイルは、ユリアに確かめるべくこう聞いた。
「ねえ、ユリアちゃん」
「ん?」
「水の力は、もう間近に近い? この北の先には、湖まで繋がっているハズなんだけど」
クラークの聞くセイルの声が、間延びしなくなっていた。
ユリアは、壁の向こう側を見て。
「霧の力で、水の精霊力は何処までも続いてるよ。 ただ・・・、湖とか川って云うのは独特の精霊の力の蟠りや、流れを感じるんだけど。 その感覚は無いなぁ~」
セイルは、ユリアの見る北側を見て。
「多分、まだ続きが有りそうだね。 もし子供達が、そっちに行ってたら大変だ」
クラークは、マガルと見合ってから。
「では、壁伝いに西に行ってみようか?」
セイルは、頷く。
ユリアの顔は、不安を匂わす顔に成った。
さて、其処から森を左に、壁を右にして。 雑草じみた芝の上を歩いて少し行った所で異変は始まった。 壁沿いに歩けば、人の呻き声が・・・。 声を辿って森に近付けば、冒険者の男性が血を流して倒れていた。
「おいっ!!! しっかりしろっ!!!!」
驚いたクラークが、その男性に走り寄って抱き起こせば・・全身血だらけの瀕死であった。
「あ・・こっ・・此処は・・やば・・い・・・」
男性冒険者は、深い噛み傷を全身に負っていて。 声を出してから直ぐに死亡してしまったのである。
遺体と成った男性を診るセイルは、全身の傷口が異常に脹れ上がって衣服と肉の一部を引き千切られている上に。 患部が青紫色に変色している所から、ゾンビに噛まれたのだと推察した。 遺体が蘇ってモンスターに成るゾンビは、その腐乱の進行度によって爪や歯に独特の雑菌や黴菌を持っている。 噛まれたりしたら、素早い処置が求められる。 さもないと、モンスターから逃げれたとしても、傷が化膿して病気を引き起こして命取りになるのだ。
案の定。 その男性の周囲を探してみれば、冒険者風の姿をした3人の男女の遺体が放置されていた。
マガルは、剣で切り刻まれた女性魔法遣いの遺体や、内蔵が溢れ出る程に噛み千切られた弓遣いの腹を目にし。
「なんて事だ・・。 若い奴等が・・・経験の無い奴等が犠牲に成ってる」
と、自分のチームの仲間を戻した事が良かったと思えた。
「セイル殿、遺体を燃やそうか? 放置すれば、夜にはモンスターに変わるやも知れんぞ」
クラークは、経験上から提案する。
ユリアは、壮絶な遺体を目の前にしてもう失神しそうな思いだ。
「うっ嘘・・も・・燃やすの?」
急に“燃やす”と聞いて、驚きである。
だが、悲しい顔をしているセイルは、冷静にクラークに頷いた。
「ですね。 この状況では、時間を置かずしてアンデットモンスターに成り変わる可能性は非常に強いです」
「うむ。 被害者がモンスターに変わって被害者を増やす・・。 闇と魔の混じる力は、非常に恐ろしい」
マガルは、遺体を引っ張って来た。
「燃やすなら、早くしよう。 ランタン用の固形燃料ならある」
ユリアは、それが当たり前の様にするマガルやクラークを見て。
(コレが・・・普通なんだ・・)
冒険者としての経験を見せ付けられた気がした。
クラークは、遺品の武器や金品を纏めて誰かの背負い袋に押し込んで縛った。 燃やすのに邪魔な上に、他に逃げ帰った仲間が居れば、その者がどうにかするだろう。 冒険者の遺体からは、金品を始めに武器や防具など金目の物が出るので。 遺体荒しや金の無い冒険者の荒しに遭う事も珍しく無い。
犯罪や性根を曲げる原因に成るので、心有る者は遺品を斡旋所に送り届ける。 斡旋所は、然るべき手順でそれを始末し。 余ったお金は運営に回される。 運営資金が豊かなら、斡旋所の主の判断で仕事の危険手当なども付けられる訳だ。
さて、火を熾したクラークとマガルだが。 雪と変わる前に降っていた霙と、木から降り注ぐ冷たい雫に濡れた遺体を焼くのは苦労が要る。
ユリアは、中々火の付かない素振りで困るマガルに近付くと。
「ねえ、その火・・・貸して」
湿った木の棒に、燃える固形の油を付けて熾した松明の様な火。 ユリアは、現れていた精霊を一度隠れさせて。 フードを被った顔をマガルに俯かせた。
「・・・」
マガルは、黙ってユリアに松明を渡す。
ユリアは、遺体を前に松明を見つめる。 そして・・・。
「火に宿る精霊・・“火喰い鳥”・・力を貸して頂戴」
セイルを始めに、3人がユリアを見ていた。
ユリアが、松明にお願いをして、俯き目を閉じていると・・。 急にユリアの目が開いて顔を前にし。
「聴こえたっ、来るよっ」
と、松明を見る。
全員の目が、松明に注がれた時。 瞬間的に松明の火が異常に燃え上がった。 ユリアの頭上のず~っと上の木々の葉っぱが、その松明から燃え上がる火の熱風で揺らめいた程だ。
そして、全員の目の中に。 赤々と燃え上がる鳥が姿を現した。 赤い鶏冠、孔雀の様な燃える紅蓮の翼、鶴の様な嘴をしていながら、身体の大きさは鶏ほどだろうか。
「ユリア、私を呼んだか?」
老人の声をした火喰い鳥は、ユリアを見て云う。
「うん。 モンスターに殺されちゃった人を燃やしたいの。 水の力が強い中で、居心地悪いかも知れないけど。 少し、力を貸して」
木々の葉から堕ちる雫が、火喰い鳥の間近に落ちると瞬時に蒸発する。
「いいだろう。 モンスターに変わっては、無駄に心配を増やすだけだ。 火の力は、破壊ではなく浄化が本位。 ユリア、我を使え」
「うん。 ありがとう・・・」
セイルが、クラークとマガルを少し後ろに下げさせた。
ユリアと火喰い鳥は、炎の魔法で4体の遺体を土に還した。
燃やし終わって、火喰い鳥を帰したユリアは少し疲れた顔をして雪を見る。
「も~嫌だな~」
頷くクラークも、霧に包まれて雪化粧し出す森を見ながら。
「無理をこれ以上は見たく無いの」
と、燃えた遺体に向いた。
その時、セイルが森と壁際の狭間の先を鋭く見た。
「向こうで戦闘が始まりました。 魔法の波動が・・」
気付いたユリアも、セイルの見ている霧の彼方を見て。
「す・・凄い闇と魔の力が蠢き出してる・・・。 これ・・全部モンスター?」
クラークもマガルも、セイルの見ている方向に急いで顔を向けた。
その頃、霙から変わって雪が舞い出した森と壁の狭間では。 あのカミーラとその仲間3人が、20体を超えるゾンビやスケルトンに囲まれていた。
「なんて数だよっ!!」
焦る声のカミーラは、鞭を振り回して取り囲まれたスケルトンの群れの中で奮闘している。 カミーラを包む様に撓う鞭が、7体ほどのスケルトンの顔や肋骨に当って骨を削り砕く。 だが、スケルトンに痛みなどと云う生命感覚は無い。 手足などを壊して動きを封じるかバラバラにでもしない限りは、その手に持つ骨の剣を武器に動いて人を襲うのだ。
「カミーラっ!!! モルカだけじゃゾンビを倒し切れないぞっ!!!! 一旦逃げようっ!!!」
カミーラからスケルトンの囲みをを隔てた外側で、マントを着て剣を構える男が言う。 無精髭に、褐色の肌をした30代と思える顔だが。 歪んだ左目、額の凄い傷を見る限り。 少し間を置きたい雰囲気を持っている男性だ。
カミーラは、蛇の様に鞭を降るってスケルトンの1匹の両足を打ち砕いた。
「ジャガンっ、逃げ切れるのかいっ?!!!」
剣士ジャガンは、スケルトンの頭蓋骨を切り砕き。 霧の中に見え隠れしているゾンビが、魔想魔術の飛礫の魔法で地に滅ぶのを見届けながら。
「とにかく森に退いて体勢を整えないとマズイぞっ!!! ダッガが大きく見えない所に引き離されてるっ!!!!」
森の途中途中で遭遇したモンスターを振りきって進んできたカミーラ達だが、数体の群れに当って、戦う事を余儀なくされている内に、後ろからモンスターの群れが追い付いて挟み撃ちを喰らう事に成ったのである。
歯軋りするカミーラは、足を砕いたスケルトンの肋骨に鞭を絡ませ、回りのモンスターにぶち当てる為に大きく振り回した。
スケルトン同士がぶつかって、倒れたり、身体の一部を砕いたり。
「クソっ!!! 此処まで来てっ!!!」
スケルトンから鞭を解いて、霧に薄っすらと見える巨木の幹に飛ばしながらカミーラはモンスターを睨む。 幹に打ち付けられて、砕ける骨の乾いた音が聞こえた。
カミーラから西に少し離れた場所で。
「飛礫よっ、我が敵を撃ち倒せっ!!!」
黒いローブを着た男の声が、雪の舞う霧の中で響き。 男の周りに現れた小石程の飛礫が、魔法遣いの男を取り囲むゾンビ3体程に飛び掛る。 ゾンビの身体に魔法の飛礫が当る度に、小さな衝撃波を起こして炸裂し。 ゾンビの肉体を削り飛ばす。
だが、何分にも数が多過ぎる。 霧に隠れて、思うように弱点を狙えない魔法遣いの男は、カミーラから離れて行く形で追い詰められて巨木の幹に後退した。
魔想魔術師モルカは、汗をフードの中の額に流しながら。 全ての方向に気を配って気配を感じた。
(な・・なんて数だ。 俺を取り巻いてるゾンビの数だけで、15・・17体。 カミーラやダッカの相手にしているモンスターを含めたら、50近いぞ・・。 このままじゃぁ・・全滅する・・・)
危ない橋をカミーラと一緒に渡って来たモルカだが。 流石にこんなに多いモンスターと渡り合うのは初めてだ。 脳裏に、“全滅”の二文字が浮んだ。
戦うカミーラの耳に、遠くから戦士ダッカの声が聞こえたのは、この時だ。
「カミーラっ、俺に構わず逃げろっ!!!! 相手は俺がするっ!!!!」
聴こえたモルカは、この瘴気を含む霧で間近の仲間の気配すら感じ難い中で。
(とにかく・・・カミーラだけは逃がさないと・・・)
杖を構えて、威力の高い剣の魔法を唱えようと考えた。
一方。 カミーラは、どんどん狭められるスケルトンの包囲網の中で焦りながら。
「お前達を見捨てれるかっ!!!!! 最後ならっ、全員一緒だっ!!!」
セイル達に心無い無礼な態度を見せたカミーラだが、仲間との信頼関係は確かな様だった。
「カミっ・・う゛っ・退けっ!!!!」
剣士ジャガンは、カミーラに助太刀しようとして、スケルトンとゾンビに阻まれてしまい。 焦って形振り構わず斬り掛かる。
戦うしか無いカミーラ達に、侵入者達を探してうろつき回っていたモンスター達がどんどん集まって来るのだった。 森で死んだ冒険者達と同じ道に、彼女のチームも迷い込んだのである。
次話、予告。
カミーラ達を救うセイル達。 命に危険が及ぶ仲間を連れて、森を戻るカミーラの目の前には、子供達の痕跡を見つけて先に進む事を決めるセイル達が居た。 森に踏み込んだ冒険者チームは、森にうろつくモンスターで実力の淘汰を受ける。
次号、数日後に掲載予定^^
どうも、騎龍です^^
セイル編の後のお話は、ウィリアム編へ続きますが。 その後は、少しスペシャルなお話をして、ポリア編に繋げて行こうかと計画しています^^
ご愛読、ありがとうございます^人^