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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
142/222

ウィリアム編・Ⅳ

                     冒険者探偵ウィリアム


                  それは、街角の知らぬ間に潜む悪意 14



                     ≪ウィリアムの策意≫




陽が上がると、アリマ長官がこの施設に来て、正式に下級役人の大隊が編成されると聞いた。 それまで時間がまだ有ると思ったウィリアムは、何よりも先に集められた証言を見たいとラインレイド卿に申し出る。


ラインレイドは、一人の背の高い痩せた男の声を掛けた。


「ロダ、彼に聞き込みの詳細を」


それからジャンダムにも、


「ジャンダムよ、此方に来て権威代行のワッペンを付けるんだ」


と。


「えっ、あ・・」


大々抜擢な事で、ジャンダムも気が動転する。 副主任のみか着けられるワッペンは、役人にしてみれば軍人の勲章と同じ意味が有る。


スティールと並んで座るウィリアムへ、何十枚と云う紙を束にした物を差し出す中年の痩せた長身男性。 色黒の顔を引き締め、顔は仲良く成りそうな様子が微塵も浮かんでいない。


「これが証言の内容だ」


受け取るウィリアムは、その男性の着る制服の上着に光る突き刺した剣のエンブレムワッペンを見て。


「ありがとう御座います。 貴方が、マッジオス様の他の捜査副主任ですか」


頭髪を短くして、左右の側面を刈り上げた格好にしている人物は頷く。


「そうだ」


資料を読み始めながらウィリアムは、


「では、宜しくお願いします。 どうか、ジャンダムさんを支えて下さい」


と、刺にも聞こえそうな事をサラリと云う。


そのロダと云う人物は、ウィリアムの云った事に対して飲み込みなど出来て居ないし。 ジャンダムを支えろと云う意味も、全くを持って解らない。


「俺は、部外者の君が云う意味を理解出来ない」


年齢にしても、この部署に席を置く年数にしても古株の一人で在るロダは、蹴り返す様な冷めた声で云った。


すると、資料を見ながらウィリアムはこう云う。


「いいですか。 他の捜査陣が日和見を決め込んだ以上、彼等にもそれなりの意味が有ってでしょう。 何せ、市街統括ジョエル様と、国王の監視の代理人で有る裁判部の命令を無視しているのと同じですからね。 恐らく、何らかの携わるに悪い要因が今回の捜査に有って、日和見を決め込んでいるのは明らかだと思います」


此処までの話を聞いたロダは、それは確かにと腑に落ちて何も云えない。


ラインレイドも、二人の論戦の先行きを見守る様に正観する。


周囲に座る捜査員達は、どちらが論破するのかを固唾を飲んで見ていた。


何の言い返しも無い間が流れた後。 ウィリアムは、更に紙を捲り上げて読み進めながら。


「裁判部のマリューノ様の情報に因れば、街の住人や一般の役人がキキル元刑事官を庇うのは、ジョエル様の人望や人柄を思ってだそうですが…。 旧貴族や昔ながらの商人の一族は、それとは少し違う関係からしていると…。 貴族なども多く関わる捜査陣から別の捜査陣への妨害は、旧知の間柄に対する様々な接触も含まれます。 もし、このラインレイド卿の捜査陣から情報が漏れ、捜査妨害の手助けにでも成ったと成ったら…」


此処まで云ったウィリアムが、顔を上げてロダと云う人物を見る。


「…」


叩き上げの捜査官で有るロダが、そのウィリアムの向けた鋭い慧眼たる眼差しに臆した瞬間だった。


ロダと云う人物が何も云えないのを見極めたからか、顔を資料へと下げるウィリアムは、


「では、現実な証拠を挙げて見ましょう。 そもそも、ラインレイド卿が殺された被害者で在る老婆から借金をした事を、キキル刑事官は何処で知り得たのでしょうか。 普通なら、あの家で発見された帳簿の後で有るべきですよね?」


この捜査陣の集まる一室の空気が、人の視線の流れが凝固した。


ラインレイドは、直ぐに。


「当然で有ろう」


と。


だが、其処にジャンダムが口を挟む。


「いや・・、それは少しおかしい事だと思います」


ロダは、新入りが何を言い出すのかと。


「おい、どうゆう意味だ? 嘘は云うなよ」


しかし、初動捜査に携わったジャンダムは、初動の記録を付ける事にも関わっていた手前から。


「それが…。 キキル捜査官が現場に到着したのは、昼頃で御座います。 殺された老婆の事などを逸早く警察居部に伝え、捜査陣指名を要請した第一報はもっと前。 確か、早朝の終わりだと思います」


「ほう、それが?」


「捜査陣の全てを実質管理するのは、アリマ長官の右腕で在る任命部長です。 事件の初動捜査の情報を受けて、捜査陣に割り振るのも部長の担当ですが。 最初、任命部長は事件を聞いて、ラインレイド様に任せようと為さったとか。 ですが、その命令が出た後に、キキル刑事官が何故かアリマ長官に直訴し。 ラインレイド様の借金の事を盾にして、部長の指示命令の白紙撤回を求めたと…」


キキル元刑事官が直訴してきて、老婆の事件を自分に担当させた事は誰もが知る。 だが、この至る流れを捜査陣の皆が聞いて、違和感を覚えたのは当然だ。


ロダは、ジャンダムへ。


「では…、キキル様は現場に行くより先に、ラインレイド様の借金の事を知っていた?」


「あ、そう・・成りますでしょうか」


ウィリアムは、此処でラインレイド本人へ。


「ラインレイド様。 その時の流れは、ジャンダムさんの話と食い違いますか?」


と、話を振る。


すると、ラインレイドは思い出す事に集中し始めながら。


「いや・・、あまり違いは無い。 確かに、出勤した朝に任命部長の遣いが来ていて。 老婆の殺害された事件を担当して欲しいと言われた。 だが、その後に詳細説明を初動捜査を知らせに来た者に聞こうとした処で、アリマ長官から出頭命令を受けて…。 うん。 何故かキキル殿が同席した長官室で、借金の事を聞かれた。 前日にも、捜査で下町の方に行った事などもほじくられる様に聞かれ、そこで死んだのが金を借りたコリン殿と知った」


此処で、この場に居る皆が“あっ”と思った。 その疑問を、ウィリアムが代弁する様に口にする。


「そうです。 先ず、被害者から金を借りていた者の名簿の情報が入って居たなら、捜査陣を割り振る方もラインレイド様を最初指名しなかった筈ですよね? つまり、その第一報の時点で、ラインレイド様が金を借りていた事実は入って居なかった…。 ジャンダムさん、そうゆう事ですよね?」


「はい。 その後、現場品検めの方が名簿を見つけ、その中にラインレイド様の名前を見つけまして。 第二報の伝達係を飛ばしたのです」


資料を読みながらのウィリアムは、淀みないサラサラと流れる水の様な口調で続け。


「ラインレイド様が金を借りていた情報が到達する前に、キキ刑事官は知り得ていた。 キキル刑事官は不思議な事に、現場に行く前にそのことをアリマ長官殿に密告している。 普通、そんな情報は誰彼とペラペラ言い触らす事で無いでしょうから。 知っている事が不自然です。 現に、現場に踏み込んだキキル刑事官は、部屋を荒らす事に終始して。 まっ先に確かめなければ成らない筈の帳簿には、差し出されたにも関わらず眼を通さなかったと、別の役人の方がジャンダムさんに言いましたとか」


初動捜査に加わっていたジャンダムは、


「そっそうです。 それは、確かな事です」


と、肯定した。


ウィリアムは、資料を見ながら続け。


「では、何故にラインレイド様が借金をした事を、彼(キキル氏)は知っていたのか。 何故に、あの老婆の住まう区域近くに前日ラインレイド様が向かったと云うだけで、殺人を仄めかす様な言い掛かりを仕掛けたのか。 何方もその内情を知るには、ラインレイド様の身辺を知る・・誰かの証言が必要だと思いませんか?」


スティールでも、その矛盾が指し示す意味が解るだけに驚いた。 当然この場に居る皆は、


“誰かがキキルと繋がる密告者と云う裏切り者なのではないか”


と、云う疑心暗鬼を生じさせる。


一番驚いているラインレイドは、ウィリアムへ踏み込み。


「君は・・、もう誰か解っているのか?」


何の鈍りも無く頷くウィリアムだが…。


「ですが、それはキキル氏から直に聞くべきでしょう。 此処で聞いては、混乱するだけです。 …ねぇ?」


そう云ったウィリアムは、俯き固まる一人の人物を脇目に見る。 顔見知りで在るのに、一度も口を開かない人物だ。


身体を微かに震わせ、只下を見るマッジオスは…。


「あぁ、その方がいい」


と、呟くしかしない。


視線を戻したウィリアムは、もう後は任せると言わんばかりに。


「ま、御察しの通りにこんな状況なんです。 正直、柵の無い人物が指揮権を持って頂けた方がいい。 キキル氏は、老婆の殺害に関しては無実を主張して居ますでしょ?」


ラインレイドは、受け答えるままに。


「あ、あぁ。 その頃合いは、部下と酒場の下で開かれる裏賭博の片隅で賭け事をしていたと…」  


「そうですか。 ま、腹心の部下と賭け事とは、俄に信じられないかも知れませんがね。 裏を取れば、事実だと思います。 老婆を殺害した犯人は、キキル氏では無いと思います。 ですから、この一件にキキル氏の捜査から派生しうる面倒は、本当に只々に邪魔なだけなんです。 今回だけは特例と思って、ジャンダムさんを助けて下さい。 自分は、速やかに事件を解決したいだけなんですから」


ラインレイドは、まだ誰が密告者か解っていない。


「マッジオス、カルバンター、デレイン、再度キキル殿に質問を行う。 ロダとジャンダムに預ける者以外を引き連れ、捕らえた者達を取り調べ室に出して準備をして欲しい」


「はっ」


「畏まりました」


「………」


三人の腹心が動き出す中で、全く返事をしないままに動く者在り。


スティールは、ウィリアムの腕を肘で小突き。


(おい、まさか密告者って・・)


と小声で云えば。


(えぇ。 その通りですよ)


と、ウィリアムは返す。


ジャンダムにワッペンを渡すラインレイドは、素早い動きで自身も出てゆく。 非常に重要な質問をするので、裁判部の者にも立会いを求めようと向かう為だった。 


アリマ長官が朝に為って出勤して来る時、ラインレイドは密告者を知って愕然とするのであった。


が。 それを描くまでには、もう少し待って貰う。



先ずは………。



証言を集めた資料を読むウィリアムは、一気に人が出払った部屋の中で。


「ロメイロ通りとは、何処ですか?」


ウィリアムが突然に近い間合いで聞いた。


「…」


ウィリアムの進言からラインレイドが忙しく動き出した。 しかも、その内容は仲間内を疑う事でも在り、かなり切羽詰った様子である。 この場に残った四人は、その流れからのウィリアムの今の質問に気持ちが繋がらない。


その中で、何とかジャンダムが。


「・・その通りなら、初めて老婆の家に貴方方を連れた夜。 馬車を停めた街灯も無い通りです」


と、説明を入れた。


すると、ウィリアムは直ぐに。


「ガロッゾ通りとは?」


何で通りの質問をするか解らない役人達は、互いに見合ってしまう。 一人は、少し怒り出しそうな雰囲気だ。


だが、ジャンダムがまだ。


「その前に出た通りから、南門の有る通りに向かう通りと交わる通りです」


ウィリアムは、次々と資料を読みながら通りの名を挙げる。


ジャンダムは、街中の細かい通りの名前まで把握しているので、それに答えていった。


質問を終えるウィリアム。


それを見計らってスティールが。


「ど~したぁ?」


資料を読むウィリアムは、そのままに。


「いえね。 老婆が殺される前日、行方を眩ませた日に何処を行ったのか気になりまして。 今聞いた通りで、杖を着いて・・少し腰の曲った・・年寄りの女性・・被害者の格好に似た人物の証言らしき物が有るんです」


資料を横から見るスティールで。


「なる程、被害者の婆さんの足取りを追うってか」


「えぇ。 今だに殺害現場が解ってないですからね。 被害者の目撃情報を追う先に、その現場が在ると思うんですよ」


此処で、漸く役人達は自分達は殺人事件を追うのだと思い直す。


ロダと呼ばれる男性は、


「最後の通りは、新入りの話だと旧商店街に抜けてゆく通りの一つだ。 被害者は、そんな所を?」


ウィリアムは、役人がやっと本腰を入れ始めたので。


「理由は、解りませんね。 只、被害者には理由が有りますね」


ロダは、ウィリアムの前に立ち。


「意味が解らんよ」


するとウィリアムは、手に持つ資料を皆に見せて。


「呼び出されてから、眼を通しましたか?」


すると、ロダ以下全員が首を左右に振る。


眼を細めるウィリアムで在り。


「すみませんがね。 今回のこの殺人事件が、この施設内部を中心とした騒動の発端に成っているんですよ? この事件を解決して、早くラインレイド様の助けをしたいと。 キキル氏の関与が有るのかどうかを明らかにしたいと思わないのですか? 急激な展開で混乱するのも仕方無いですが、役人の貴方方がしっかりして貰わないと。 我々は、助言や犯人を突き止める事は出来ても、一般世間で云う“解決”は出来ないんです。 与えられた業務や仕事には、しっかり取り組まないと」


捜査員の皆が俯き、悔しそうに拳を握り締めている、 部外者もいいところの冒険者風情に叱られるなど、役人からするなら怒り心頭の極みだろう。


だが、ロダは…。


「うむむ…、腹は立つが現実にそうだな。 で? 何が解ったんだ?」


ロダが聞く気を見せた事で、他の捜査員達も顔を上げた。 それ以上に余計な事を言わず、資料に戻るウィリアム。


「此処に書いて在ります。 殺された被害者は、不定期ですが度々にこの道を通っている。 目撃が一度では無いと云う証言が多数有ります」


「つまり、時々通う何処かの、その途中で殺された・・か」


「はい。 ジャンダムさんが初動捜査で捕まえた被害者の雇う二人を取り調べてみれば。 殺された被害者が金貸しの査定の際に、貸す相手と必ず何処かで会っていたと言いました。 表立っては、生き残るもう一人の男性らしいですが、陰ながら被害者も店に居たと。 先ず、その店の特定が先決ですね」


直ぐにロダは、


“只の借りる相手を査定する為だけに利用していたのではないか?”


と、問うのだが。


ウィリアムは、此処で初めてマリューノに云った事実を伝える。 被害者の髪などに付着していた、家畜と思わしき少量の排泄物の事などである。


「何だとっ?! その様な排泄物が付着するなど・・、う~ん」


ロダは、捜査をする目印に為る証拠なだけに、腕組みして唸る。


ジャンダムは、初めて聞く情報に。


「確かなんですか?」


ウィリアムは、淡々と。


「えぇ。 ある程度は犯人が絞り込めた後に、現場を特定する手掛かりとして云う気でしたが…。 もうキキル氏も捕まりましたし、遺体をどうこうする妨害は少ないと思うので、今云いました」


この今此処に居る面々も、昨日の朝方に起こった騒乱は聞いていた。 確かに、そんな事も起こるなら、何の妨害が有っても不思議では無かった。


ロダは、ウィリアムを見て。


(この若者、そこまで考えて色々やっとるのか…。 マッジオス様が先程に、“憎たらしいが逸材”と云ったのも頷けて来た)


と、気持ちを引き締める事にした。


ジャンダムがウィリアムに寄り。


「では、街の地図を用意して、足取りの証言の有った場所を解りやすくしましょうか?」


名案だと思うウィリアムは、指を彼に向け。


「それ、いいですね」


ロダは、立っているままの二人の部下に。


「何をボヤボヤしとるっ、さっさと朝までに遣れる事を遣るぞっ!! 地図を用意せんかっ」


二人の捜査員が大慌てで地図を取りに出る。


ウィリアムは、資料をジャンダムに渡し。


「証言の内容を読むに、真新しい目撃と、少し前の目撃が在り。 それから、途中から証言が別れてますから、何通りか通った道が有りますね。 ジャンダムさんが詳しそうなので、地図でその通った道を証言を元にして分けて見て下さい」


「はいはい、解りました。 遣ってみます」


こうして。 ウィリアムは、あくまでもロダとジャンダムに実行の手を委ねた。 事件を解決出来る役人こそ、自分たちで事件を追うべきである。


地下から複製された地図が到着し。 資料に書かれた証言を元に、新しい被害者の目撃証言と古い目撃証言を分ける。 また、証言によっては、同じ方向に向かう違う道に別れる為。 その事も気を付けてみた。


大分に空が白み。 他の捜査陣の者達などが、少しずつ出勤してくる足音が廊下に聴こえる様に成った頃。 地図を置いたテーブルを囲む様に椅子に座った面々。 部屋中央を独占して、作業に集中していた皆が背を戻し。


「終わりました、ウィリアムさん」


と、ジャンダムが。


「えぇ。 これはもう立派な一つの証拠ですね」


と、地図を見て云うウィリアム。


腕組みしながら地図をまじまじと見つめるロダが。


「つまり。 殺された被害者は、目的の方面に都度都度と道を変えて行っていた訳だな。 そして事件に遭う日の足取りは、鍛冶屋や下請けで装飾などを施す専門業者が犇めく、南側の商業区域を抜けて行こうとしていた訳か」


スティールは、嵐と混乱で聞き込みが途中で中断している事も踏まえ。


「んなら、先ずはこの途中から先の足取りを追うってか」


すると此処でウィリアムは、


「それは、地元の調査に長ける役人さんに任せましょう。 ロダさんと他の方が当たるのが確実です」


と、云うのだ。


ジャンダムは、自分も含めたウィリアムは、一体その間に何をするのかと思い。


「ウィリアムさん。 我々は・・どうしますか?」


「実はですね。 もうキキル元刑事官に暴行された方々の中で、眼を覚ましている方がいらっしゃいます。 それから、被害者へ借金をした貴族や商人の方々を、今日に此処へ呼んで在るんです。 内々に事情聴取する為に、関係者に被害者の事を聞きましょう」


「へぇ?」


首を傾げるジャンダムは、老婆の殺される前の足取りを追う方が先だと思う。


だが、ロダが。


「そう言や、まだ被害者の過去も素性も良く解って無かったな」


ウィリアムは、それに即反応し。


「えぇ。 昨日に命令を受けた兵士の方々が、被害者の預かっていた担保の物品を回収して貰えましたし。 やはり、借りた方々にも事情を聞きませんとね。 それから、先ずは我々だけでこっそりと、その被害者が金貸しの相談に使っていた店を見て来ようと思います。 手数が限られるので、手分けしてどんどん進まなければ。 この事件は、要所の事実が解れば、さほどに難しい事件でも無いと思えます」


ウィリアムの先々を考える計画的な邁進力を見るロダ。 若い者でも、こうは中々出来る事では無いと感心した。


「ウチの若いヤツに欲しい馬力だ。 ウィリアム・・だったか。 今回は命令も在るからよ、何か出来る事は全部言ってくれ。 これだけするべき事がボンボン決まるのは、初めてだ」


スティールは、遣るのはウィリアムなのに。


「俺のリーダーを舐めるなよ」


と、キザに格好を付ける。


苦笑いのロダだが。


「そろそろ下の食堂が開く。 先ずは、腹ごしらえをしちまうか?」


と、部屋の奥に在る窓から外の明るさを確かめて云う。


一番下っ端と理解するジャンダムは、その役回りをしようと。


「では、自分が下に行きます。 目立つと面倒なので、ワッペンは外した方がいいですね」


と、云うのだが。


ロダは、直ぐにそれを止めさせる。


「おいおい、ラインレイド様から与えられた役を隠すな。 お前は、事件解決のその時までは、俺にも命令出来る身なんだ。 胸張ってやれ」


「あ・・、はい」


ジャンダムの返事を聞くロダは、中年とまだ若い部下へ。


「一緒に行って、手伝ってやれ。 俺はもう少し地図を見て、聞き込みの起点とその先の絞込みをする」


「はい」


「了解」


二人の捜査官は、ジャンダムが立ったのに合わせて立ち上がった。




                           ★





さて。 後は事件に邁進するだけだと云う意気込みを持って、殺人事件担当の面々は朝食を取っていた。 そんな中で何故か時折、部屋の入口のドアが勝手に少し空いて。


「おいっ、誰だっ?!」


と、ロダが云えば、慌てて廊下を逃げる誰かが居る。


スティールは、穀物を柔らかく煮込んだスープ皿を片手に。


「おいおい、勝手に物色しようとするバカが居るのかよ」


上手に黄色い果肉の果物の皮を剥くウィリアムが。


「多分、日和見を決め込んだ方々の密偵では?」


と、態とらしく云う。


ロダは、自分の身も含めて。


「これでは、雑談も他の配下の者とは出来んな。 我々の誰かが、あちこちで情報漏洩する要因に成る可能性も有る。 全く、何という事件だ」


と、苦虫を噛み潰す様な面持ちと成った。


処が。 その直後に、カツカツと靴音が足早に聴こえて来る。


耳の敏いスティールが。


「おっ、この音は女物の靴かぁ? 踵の支えが細いヤツ」


ジャンダムは、そんなに詳細が音だけで解るのかと。


「本当ですか?」


すると、ウィリアムが。


「あぁ・・、漸く来ましたね」


と、ドアを見た。


六人がドアを見た瞬間、勢い良くドアが開かれた。


「お・・」


また誰かが侵入しようとして来たと思い。 ロダが何か言おうとしたのだが、其処には髪の長い女性が立っていた。 見たことの無い女性で、一瞬見る方が先に成り。 ロダは、言葉をそれ以上発せられなかった。


ウィリアムは、その人物を知っているので。


「まだ何か? 裁判部のマリューノ様」


と、云う。


ジャンダムは、あの大騒動の直後に現れた女性と解って。


「あっ」


と、その場に立って敬礼をする。


ロダや他の役人も、“裁判部の最高3判事の一人マリューノ”と解り、同じく大慌てで立ち上がって敬礼を…。


慌てたと云うか、焦って来た様子のマリューノは、背後に立つサリバンと大男の僕に。


「此処を見張りなさいっ。 私が出るまで、ラインレイド卿以外は通さないでっ」


と、云うと、ドアを閉めて入ってきた。


何が有ったかと思うスティールは、ニコッとして。


「おいおい、こわぁ~い顔してるなぁ」


と、軽口を。


ロダの前に来たマリューノは、


「お退きっ」


と、細剣を振って退けさせた。


ウィリアムとマリューノが対峙して見合う形に為って。 先にウィリアムが。


「キキル氏から、裏切り者の話を聞きましたか?」


すると、顔を赤くするマリューノが。


「えぇっ。 君、こうなるって解ってたみたいね」


果実を皿の上で切るウィリアムは、淡々とした口調で。


「キキル氏がいい加減な捜査を部下にさせて、冤罪を当たり前の様に出していたのは周知の事実だと。 キキル氏の遣り方から生まれ出る冤罪など、提示された証拠を事細かく吟味して、矛盾点を突けば直ぐに露呈しそうな物です。 それが、冤罪と認められるのは“時々”? 少し良く考えれば、吟味が為されてない可能性が強い訳ですから、裁決を下す方にも原因が在ると判断しても然るべきでは?」


すると、細剣を握り潰さんばかりに持つマリューノは、


「だからってっ!!!!! 何で朝方の馬車の中かっ、昨日の時点で言わないのよっ!!!」


と、大声で憤慨した。 その顔を怒りに染めるマリューノの威圧感に役人達は驚き。 間近に居たロダは、大きく後ろに退いた程だ。 ジャンダムも、怖くて部屋の片隅に退きたい気持ちで在る。


処が…。 当の云われるウィリアム本人は、そんな怒りも関係無いとばかりにシレ~っと。


「いえ、もうご存知だと思ってましたから…。 ま、他の捜査陣の方々が日和見を決め込む理由を突き詰めて考えれば、想像は出来そうな感じですがねぇ」


この言い草。 マリューノの神経を更に逆撫でしようなモノだ。 自分が必死に為って考え、アレコレと動いて無難な形に収めようとしているのに。 この目の前の若者は、それを更に大事にしようとしていると思える。 マリューノは、もう普段の冷静な様子をかなぐり捨て、感情を露にしながら。


「バカっ!! ラインレイド卿の手下でっ、貴族の分家のマッジオスが情報漏洩してた事を認めたっ!!! これ以上キキルの家に加担する役人が炙り出ればっ、王国の中央監査が来て大変な事態に成るわよっ!!!!」


これには、ロダやジャンダムなども度胆を抜かれる衝撃に襲われ。


「え゛っ?!!」


「なっ、何だとぉっ?!!!」


驚く皆は、それでも涼やかなウィリアムに向く。


見られるウィリアムは、


「さぁ。 キキル氏の事では、不可解な事が多い。 公にすることで、これから聞きに行けば色々と解る事も在ると思いますがねぇ」


と、他人事の様に云う。


怒れるマリューノは、食事の乗るテーブルに掴み掛り。


「これ以上っ、何をっ?!!!」


キキルだけをロチェスター家から切り離し、穏便に事を収めようとしたマリューノ。 彼女にとってこの事態を予測しながら言わなかったウィリアムには、正に憤慨以外のなにものでも無かった。


が。


冷ややかな視線をマリューノに向けるウィリアムは、まるで本当の断罪の使徒の様な口調で。


「キキル氏兄弟のお父上は、まだ御存命なのでしょう? 恐らく、裏で実権を握っておいでなのは、その方だ。 今回のキキル氏を擁護するバカ騒ぎの大元は、その父親に在るとお見受けします。 穏便に、内々に処理するにしても、其処に切り込まずカタを付けようなど甘ったるい。 さぁ、貴女なら出来る筈です。 さっさとその大元に掛け合って、今だにチマチマと蠢く妨害の動きを潰して下さい」


ウィリアムの提案を聞いたマリューノは、眼を大きく見開いて驚き。


「あ゛ぁ………」


それ以上の言葉を失うマリューノ。 ウィリアムを上手く扱う気で居たのだが、上手く扱われたのは自分だったと思った。


(この子・・、あのジョエル様を助くる策を云ったのも引っ掛け…。 こうするまでの囮にしたのねっ?! キキルを確実に罰に問う為に、隠然たる影の火種を消させる為に…。 嗚呼っ、私よりこの子の方が上手だわっ!!!!!!)


マリューノが裏で手を回して全てを収拾すれば、キキルを庇う影が今だに残る原因を全ては明るみに出来ないだろう。 キキルを捜査するラインレイド卿に、これからも妨害の魔手が及ぶ事をウィリアムは考えていた。 敢えてこうして取り調べで白日の元に晒す事で、もう有耶無耶に出来ない領域へと動かす気のウィリアムだと解った。


今にその魂胆を知り得たマリューノだが、もうキキルがペラペラとその事について喋り出している。 キキル等から金をなどの賄賂を受け取った裁判部の下層の者の事が出れば、裁判部は裁判部でそのことを捜査しなければ為らず。 もう隠しきる事は不可能だ。 王国へ報告もしなければ為らない事態で、ある程度の事実を白日の元に晒して行かねば、裁判部を唯一監督する王家内部の捜査部などへの理解も難しい。


このままでは裁判部までもが弾劾を受けかねないと思うマリューノは、残りの出来る事を考える。 一番の最良な事は、裁判部が全ての事件をキッチリと解決して、全ての悪い要因をキキルに塗ったくるしかない。 その為には・・そうまでに至る権力を動かせた者まで捜査の手に掛けなければ…。


焦るままにウィリアムを睨むマリューノは、身を後退りさせて。


「んっ、もうっ!!!! 後で捕まえて、思いっきり毒を吐いてやるんだからっ!!!!!」


と、踵を返した。


勢い良くマリューノが出てゆくと、其処には六人が取り残された様に為る。


席に戻る一番のロダは、ウィリアムに。


「本当に…マッジオス殿がみ・密告者?」


果物を食べるウィリアムは、食べる合間に。


「本人から自供して、キキル氏も言ったならそうなのでは?」


すると、中年の捜査員が。


「だがっ、マッジオス様はこの捜査陣一番の古株っ。 ラインレイド主任の右腕だったんだぞ・・」


最後に席に戻るジャンダムは、緊張に強ばった顔を撫でて…。


「ですが。 一番親しい方でないと、借金の事は知らないと思いますが? 皆さんは、知っていたのですか?」


辛い質問に成り、ロダが。


「隠し子の娘殿の事も、借金の事も知らなかった…。 貴族のマッジオス様は、家族ぐるみに近い付き合いだったからな。 ・・思ってみれば、一番頷けて来るが…」


すると、ウィリアムが此処で。


「でも、なぁ~んでなんでしょうかね」


と、波紋を打つ。


スティールが、受ける様に。


「何がぁ?」


「いえ。 出来の悪い・・と言いましょうか。 護るに値しないキキル氏を、護る方々の本音って?」


「さぁ~」


と、スティールは云うだけ。


だが、ロダは。


「恐らく、ウィリアムの云う通り、その根っこは先代のマクバ様だろう」


と。


ウィリアムは、


「知っておいでで?」


と、ロダに聞くのだが。


「いや。 深くは何も…。 聞いた事が有るのは、ジョエル様よりキキル様の方が可愛がられたと云う噂だけだ」


ジャンダムは、初耳の話に。


「なるほど、そうだったんですか」


だが、ウィリアムは思う。


(奇妙なエコヒイキは、禍の元って云いますがね。 ここまで至る禍も、中々有りませんぜ?)


この動きが、どんな真相を炙り出すのだろうか…。

どうも、騎龍です^^


寒さの厳しさにPCがついて行けないのか、起動が怪しい最近です。 一応、予定通りに進めます。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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