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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
140/222

ウィリアム編・Ⅳ

                     冒険者探偵ウィリアム


                  それは、街角の知らぬ間に潜む悪意 12




兵士に対し、揺るぎない命令巡視を重ねて言い渡し。 今後の命令を終えたハイドゥン卿とフラックターと一緒に、遂に裁判部へと向かう事にしたウィリアムとスティール。 警察局部の施設の最上階とその下が、彼等の施設だった。


アリマ長官と年齢は変わらなそうだが、その屈強な肉体を衣服の下に隠す老人が案内役であり。 マリューノ裁判官の右腕を勤めて居る人物だった。 名前は、サリバン。 エントランスロビーで命令を下すハイドゥン卿を待ちながら、ウィリアムとスティールの仕草に眼を光らせる隙の見えない人物で。 何を聞こが、全く口を開かずだった。


4人が揃ってからは、ハイドゥン卿にのみ口を利くサリバン。


「では、此方へ」


と、エントランスを上に昇る大階段を、彼が先頭で上がって行く。


最上階の廊下に入ると、屋根裏に上がる様に最上階の踊り場へと入り。 真っ暗に近い暗い闇の中へと廊下が伸びていて。 其処から、アクトルに似た大男が最後尾に着く。 ウィリアムとスティールには、それが大して怖い者に見えなかったが。 フラックターは、随分と怯えた様子で在った。


その廊下を行くスティールが。


「曲がり角以外に灯りも入れないなんざ、辛気臭い廊下だの」


と、小言を云うと。


「多分、廊下の造りなどをを覚えられない為じゃないですか? この廊下も、縦横無尽の迷路を想定して作られている様ですしね」


「ほう」


暗い中なのに、ウィリアムの鋭い指摘にサリバンが動きを止め。


「若者、無用な分析をするな」


と、忠告をする。


だが、ウィリアムは、逆に。


「分析を必要としそうな構造をするから、逆に気を遣うと思いますがね。 それなら、我々の様な部外者を、こんな重要施設に入れるべきでは無い。 アリマ長官の元でも、十分に話は出来ると思いますが?」


サリバンは、グっと視線を鋭くした。


だが、ウィリアムにそんな脅しが通用する訳も無い。


「早く前へ。 次の曲がり角を、曲がるのでしょう?」


「っ!!!」


サリバンは、自分の行く道が読まれた事に驚いた。


何故かサリバンの行く曲がり角が解るウィリアムは、隠す気が無かったので。


「先程の女性が行った道を、貴方も追っている。 その順序は、女性の付けていた香水の香りと。 各曲がり角に置かれた観葉植物の葉っぱが、奇妙に不自然な形で曲げられ結ばれている角を曲がって行く事。 古典的な遣り方なんでね、知識が有る者なら誰でも読めます」


指摘されたサリバンは、暗い中でウィリアムを見る。


(何者だ? 気配がこんなに薄く、しかも足音がしない。 まるで、暗殺のプロの様だ…)


このままマリューノの居る所へ、この者を連れていって良いか迷う程に不思議だった。 


ウィリアムは、自分達は不必要だと思っていた。 寧ろ、フラックターに話を付けさせて、その下で必要な情報だけを貰って捜査をする方が良いと考える。 無用に関わる程に、次に多く関わる必要を生むのを警戒してだ。 そして何より、老婆の殺害にこの一件はあまり関係が無い事も、ウィリアムが気に入らない事だった。


疑るサリバンだが、彼等も連れてこいとの命令だった。 仕方なく、歩みをまた。


ウィリアムは、もう何も言わずに居た。 スティールも、ウィリアムが気に入らない事で黙る事に成る。 4人が連れて行かれた部屋は、横引きに開く変わった入口の部屋だった。


黒い絨毯が敷かれた部屋は、落ち着いた内装で纏められていた。 時期外れで使われない暖炉は、低い格子がカバーに掛かり。 必要最低限の応接家具と、どんな相手を迎えるにしても見劣りの無いティーテーブル。 食器棚は細く、紅茶の用意の出来る一式と、少ない他の器が在るのみ。 青と黒と赤で模様が作られる壁、赤と黒の複雑な模様で彩られる天井。 奥一面に広がる窓の前には、幅広で重厚な机が置かれていた。


その机に据わり、皆を待っていたマリューノが出迎える。


「いらっしゃい、ようこそ裁判部へ」


黒一色の衣服から、顔や手足など少ない肌が露出して艷やかさを生む。 長い髪が彼女の身に螺旋を描き、不思議な雰囲気をかもし出していた。


ウィリアムは、態とハイドゥン卿から離れた。 壁際に移動し、持たされた一枚のタオルで衣服を拭う事に。


フラックターは、ハイドゥン卿にソファーを持ち寄る。


だが。


「ロファンソマ駐屯軍、設問・監査部のハイドゥンです。 地方裁判部副司令マリューノ殿、これを提示致します」


正しい一礼の後、礼節を守ってキキルが欲しがった物を差し出したハイドゥン卿。


それを受け取るマリューノは、大人びた女性の顔を困らせる。


「コレって・・。 はぁ~、ヤダヤダ。 ど~して貴族のバカって、こう使えないにも程が在る訳ぇ? 選りによって、こんな物を金を借りる身代にしたの?」


マリューノの云う意味が一番解るハイドゥン卿は、深く項垂れる。


「は。 見ての通り、封蝋には破られた形跡が有りません。 恐らく、中身をジョエル様は知らない…。 いや、この存在自体を知らない可能性が在ります」


右手の人差し指と中指で書簡を持つマリューノは、左手を頬に当て。


「あの可愛くてキレ者のジョエル様でも、使えない兄を持つと大変だわねぇ。 でも、運が良かったわ。 お金を貸してたお婆さんって、随分と出来た人だったのね」


「は。 書簡の様相で、重要な物だとは理解したのでしょう。 これを悪い事に使わず、中身を見ず、正しく保管して有りましたから」


「そうね。 この上質紙って、随分と湿気や誇りに弱い物だもの。 ハイドゥン卿が持つ以外に汚れが見当たらないし、色の変化も少ない。 保管の良さが窺えるわ」


マリューノは、此処でウィリアムに。


「キミ。 アリマ長官から聞いたけど、キミが推理して色々と手助けしてくれたみたいね」


ウィリアムは、頷くのみ。


すると、マリューノの背後に控えたサリバンが。


「貴殿、無礼をするなよ」


と。


処が。 少し横顔に成ったマリューノは…。


「サリバン。 そうゆうのは面倒だからいいわ。 彼等は、云わば旅人。 住人じゃないんだから、階級や役人の仕来りで縛っても無駄よ」


「・・は」


そう言って貰っても、ウィリアムは何も言わない。


その横に付いたスティールが。


「んで、俺達まで呼んで、これからどうしようと?」


先程とは少し雰囲気が変わったマリューノなので、スティールも一応と聞いてみる事に。


重要書簡を机に置いたマリューノは、両手を後ろに着いて胸を張らせると。


「正直な処、先ず知りたいのは事件の結合性なの。 殺された老婆と、キキルの関連性よ」


すると、ウィリアムが。


「それは、逃げてるご本人を捕まえる以外に無いと思います」


マリューノは、そう云ったウィリアムに眼を細めながら。


「う・そ・つ・き」


スティールは、その艷やかな物言いに。


(ウィリアム君、下半身がギンギンしそう)


と、小声で。


物好きだと思うウィリアムは、“アホ”とだけ。


フラックターは、裁判部の人間と初めて法廷以外で対峙したので、ガチンガチンに緊張しながら。


「あああのっ、嘘はぁ・・言って無いと思いますが」


マリューノの視線は、少しだけフラックターに動き。 また、ウィリアムに戻る。


「実質的な証拠が無いのはそうだけれど・・ねぇ。 キキルが逃げた以上、一つの事実は浮かび上がった。 そして、此処に一つの重要な証拠も出た。 今まで捜査して、キキルの行動からして、ある程度の想定的な事件の概要は解ってるんじゃない?」


そう言われたウィリアムは、早くしたくて。


「想像でいいのなら、云える事は一つ」


「何?」


「キキル刑事官は、恐らく殺人とは全く無関係かと」


「そう思える根拠は?」


「彼は感情的で、尚且つ怠惰的な人間です。 もし今回の殺しを彼がしたなら、意気って現場に乗り込み、現場を荒らす様な真似はしない。 彼が犯人なら、老婆の遺体など取り巻きの手下に片付けさせるかどうにかするでしょう。 彼が犯人なら、殺害の仕方はもっと短絡的で、あんな変な殺害現場を創らない。 もっと別に、有耶無耶にする力を持ち合わせて居ますから。 彼が犯人なら、なんの理由で老婆を呼び出したのか。 どうして遺体を戻したのか。 その辺の理由が全く見えない」


「なる程ねぇ」


「彼は、突然に老婆の死を知った。 金の身代に預けた物を取り返すしか無いと思った時。 ラインレイド卿の名前が帳簿に在り、前日に近場に捜査に出ていた事を知って。 彼を犯人に仕立てあげようとする強引な行動を取った…。 こう考えるのが、一番すんなりと行く気がします」


「じゃ、老婆を殺したのは誰?」


「先ず考えられるのは、金貸しの元手を狙った強盗。 ですが、これはもっと前から起こっても良い気がするので、可能性は薄いと思います」


「ふぅん」


「注目すべきは、老婆が金を貸す査定で子供の特に女児が居ると甘くなる処。 更には、時折不定期に、何処かへ出向いて行っていたと云う事実。 更には、殺害に使われた凶器の形状が、とても特殊な事。 以上を踏まえると、老婆が金貸しの際に使っていた幾つかの飲食店から洗うのが、何よりも早い捜査行動ですね」


マリューノは、その分析に眼を丸くして。


「って云う事は・・犯人は、屠殺人か・・料理人?」


「可能性が在ります。 あの内蔵器を抉った物は、もう少し幅広だと暗殺者が好む武器なんですがね。 傷口の形状から見て、屠殺や調理の際に、肉・臓器の処理に遣う先の弓形に成った特殊な調理ナイフの形状とも似てるんです。 しかも、血をお湯で再度に溶かしたり、血の多く固形化して残る心臓を抉った知識。 老婆が後ろから殴られているのも、知り合いか・・心許せる間柄の可能性も強い。 殺害の現状が此処まで特定出来ないのも、何事も無かったと装える場所が在るかも知れないですし。 何より、検死をしていて不自然な事に、遺体の髪の毛に牛豚の糞の乾燥した粉が着いていました。 様々な証拠を照らし合わせるに、キキル刑事官と云う人物の性格・行動・環境に適さない物証が多い」


ハイドゥン卿も、フラックターも驚きの事実である。 マリューノが代表し。


「本当なの?」


「えぇ。 昨日の夕方に、地下の保管庫で見せてもらったので、間違い有りません。 犯人は洗い落としたと思ってるんでしょうが。 飼料のグラス(草)の食べ滓に付着した物なので、完全に排泄物ですね」


マリューノは、話す毎に目が澄み切りながら鋭さを増し、雰囲気が知的で切れ者の分析官を思わせるウィリアムに瞳を奪われた。


「ねぇ。 キミは、この事件を解ける?」


ウィリアムは、こうゆう質問が好きでは無い。


「それより、最善を尽くせる環境を整えるべきではないですか?」


「環境?」


「えぇ。 キキル刑事官が捕まるまで、事の真相は解りませんがね。 キキル刑事官の騒動に関してある程度政治的な配慮が必要な事なら、殺人事件とキキル刑事官に纏わる混乱騒動を離して遣るべきかと。 あの証拠の書簡が関わると、事が大き過ぎて混乱し殺人事件が霞みます。 早くキキル刑事官を捕まえると共に、事件と騒動を切り離してしまった方がいい。 殺人事件の捜査は、確実に解っている物証だけを元にして捜査すべきかと。 もし、キキル刑事官が犯人で無いなら、殺人事件の方は長引いて解明に繋がる痕跡が薄れたり、消えてしまうかも知れない」


ハイドゥン卿も、フラックターも、それはいいと思った。 事件を解明するのに、キキルを庇う力が入って有耶無耶に成るのが怖い。 しかも、キキルがどう関わっているか、誰もハッキリ解っていない。 今の時点では、役人や兵士の大半が、キキルが人f殺しをしたと思い込んでさえいる。 しかもキキルが参考人を暴行し、その数人は重体に至っている。


ハイドゥン卿は、確かに政治的な面や貴族社会の残滓とも云える恩恵・忠誠心が残る今だから、これはウィリアムの云う通りに切り離すべきと思い。


「キキルが犯人で無いなら、実質の罪は変わる。 殺人と関係が照明されない限り、切り離すのは当然かも知れぬ」


ウィリアムは、少しだけ冷笑を浮かべて。


「それだけでは無いと思いますが?」


ハイドゥン卿が。


「ん?」


と、云った直後にマリューノも、


「どうゆう意味かしら?」


と、繋いだ。


ウィリアムの頭脳は、もう鮮やかなまでに先を見通している。


「良く考えて下さいよ。 もし、キキル刑事官が捕まったとしたら、今までの彼の汚点や違法捜査に冤罪の事実解明もするのでしょ?」


こう云われると、マリューノは敏く気付き。


「そうねぇ。 この際だからと、役人内部の規律を正すバルム副裁判官は、徹底的な解明捜査を命令する筈だわ。 キキル個人の裁判は特殊な裁判に成って、普通の略式裁判では無いから、継続捜査を裁判部から刑事部に言い渡すと思う。 殺人の捜査云々では済まない結果に行くのは、間違い無いわ」


「ですから、別にすべきです。 もしキキル刑事官が犯人でないなら、殺人事件を一緒にしていると宙に浮く。 我々は、フラックターさんの義兄様であるラインレイド様の疑いを晴らす為に、フラックターさんから依頼を請けています。 そうして頂かないと、こっちも困るんですよね」


マリューノは、身を前に戻し腕組みすると。


「あら・・、そうだったの。 ま、でも先を見据えてもそれが一番だわね」


と、言った後。 彼女は続ける様に。


「でも、一つだけ困った事が有るわぁ~」


と。


ウィリアムは、それは自分たちの踏み込める領域では無いと思って何も言わない。


でも、スティールが。


「まだ何か有るのか?」


「えぇ。 今回の事で貴方方にもお解りの事だと思うけど、キキルの弟は優秀で人気が高いの。 何よりも彼を皆が守ろうとするのには、それなりの現実に付随した理由も存在してるわ」


「貴族とか・・忠義以外でか?」


「えぇ。 今、この街に居る有力な貴族の中で、王家に強い忠誠を誓って帰属しているのは、実は半数なの。  新興勢力と言っていい新しい貴族って、貴族社会から市場の開放を謳いながらも、裏ではマーケット・ハーナスの商人などから多額の賄賂を受け取ってる。 もし、ロチェスター家を統括から引き摺り下ろしちゃうと、後後面倒に成るわ。 裁判部でも、私は街の治世に責任を持たされてる。 正直、住民や街の為にも、この一件でジョエル様を下ろしたくないのよねぇ」


すると、ウィリアムは直ぐ様。


「なら、手立ては一つしか無いのでは?」


皆の眼がウィリアムに向き。 スティールが。


「何かいい考え有るのか?」


「と、言いますかね。 その弟ジョエル様から、兄のキキル刑事官を訴えて貰うんです。 どうせ、もう家は分家されている訳ですし、その見つかった証拠を上手く使えばいい」


これを聞いたマリューノは、“あっ”と声を出した。


ハイドゥン卿は、何事かと。


「どうゆう意味ですか?」


マリューノは、渡された書簡を手にして。


「そうよ、その手が在るわっ。 この書簡を盗んだのが、現実的にキキルで在るのだから。 盗まれたとジョエル様が訴え出れば、これは別件で片付けられる。 裁判部で遺憾意見書を出して、ジョエル様を叱るだけで事が済むわ」


ある意味の逆転の発想だ。 身内の不手際を知り得ず、重大な犯罪に繋がる場合には連座の罪に問われる。 が。 発覚前に知り得て、当該機関(警察や国の捜査機関)に訴え出るなら、それは個人の犯罪として連座は殆ど問われない風習が在るのだ。


ハイドゥン卿は、一介の冒険者で在るウィリアムが其処まで知恵の巡る者かと見張って。


「御主、どんな知性をしておるのだ?」


衣服の水分を取るウィリアムは、淡々と。


「コンコース島では、暗黙の了解と成っている通例が有りまして。 商人が身内を訴えて、自分の家の取り潰しを回避する方法がこの遣り方んです。 ま、裏の抜け道のひとつで、裁きの場で認められるかどうかがカギなんですよ。 自分は、こっちの国の法は良く解りませんが。 裁判を司る方が手心を加えたいと云うなら、意外に簡単なのではと思いまして言ってみました。 ですが、そのジョエル様を誰が口説くか…。 真面目な方には、この手口は穢い遣り方とも受け止められます。 第一、皆さんの肩入れを見ていると、当のご本人を抜いて遣ってますんでね。 上手く行くかどうかは、其方次第だと思います」


マリューノのウィリアムを見る瞳が、随分と柔らかく女らしく成った。 打てば、答えが返る知恵の太鼓と云う昔の逸話が在るのだが。 正しくウィリアムの返しは、それに当て嵌る。 知性や教養を好む人間からするなら、このウィリアムはまさしくカリスマだ。


(頭のイイ坊やだこと・・、顔も悪くないしねぇ~)


雨に濡れてクセっ毛の髪が崩れるウィリアムは、確かに見目の良い若さと切れ者の様相が同居していた。


マリューノの視線がおかしく成るのを、逸早く気付くのはスティール。


(ぬっ、ぬぁ~んか嫌なヨーカン。 こんな状況は・・マーケット・ハーナスでも在った様な…)


そんな事などどうでもいいウィリアムへ、マリューノは…。


「朧気ながら、ジョエル様の気性を理解してるみたいね」


「さぁ。 皆さんの行動から、人物像を推理しているに過ぎません」


「んふ、そうゆうクールな返答好きよ」


ウィリアムは、今の状況にそれが必要かと、それ以上喋らない。


スティールがウィリアムに噛み付く様に迫る中で、マリューノは決断を下した。 




                        ★



キキル刑事官の捜査は、正式な捜査陣を裁判部が決めるまでもう1日兵士が継続する事に成った。


裁判部から早朝の終わりに早馬が出され、マリューノ直々にジョエルに面会しに行った事は、ごく一部の者だけが知りえる出来事。


ハイドゥン卿は、捜査・警戒警備の指揮に戻され。 フラックターは、明けた1日のこの件に関する捜査行動の禁止を言い渡された。


ハイドゥン卿の部下が、老婆の家の地下に居るマッジオスと縛られた者達を早々に迎えに行ったのは当然で。 スミニクやラディオン以下、捕まった兵士も上官反抗の罪で兵士牢の方に入れられた。 だが、その取り扱いは、不思議と配慮が在ったらしい。


さて。


朝も大分過ぎても、嵐の強い風雨が強弱を付けて街を通る。 大型の嵐で、ウィリアム達が馬車で戻る頃に嵐の目に入っていた。 裁判部から軍部の馬車を遣わされて、一旦宿に戻るウィリアムとスティールなのだが・・。


「ウィリアムちゃんっ、抜け駆けは狡いぞっ!!」


偉く元気なスティールに、少し陰りの見えるウィリアムが絡まれている。 前日に濡れてしまった自前の上着に着替えたウィリアムは、女性の事に為ると目の色の変わる仲間をウザったく思い。


「だから、スティールさんが口説けばイイじゃないですか。 俺に言わないで下さいよ。 俺は、何にもしてないんですよ?」


だが、スティールは、それでは怒りが収まらない。


「うるせぇいっ!!! お前のあの推理する語りはなぁっ、女にしたら口説くと一緒なんだよっ!!!」


云われるウィリアムからするなら、どうしてそうなるのかが解らない。


「そんなの、向こうの勝手だと思いますが・・」


スティールは、完全に癇癪を起こすみたいに怒り。


「羨ましいっ、俺もそうしてみたいっ!!」


と、喚き上げる。


「はぁ?」


話がおかしな方向に向い始めたと思ったウィリアム。 だが、それは更におかしく成り・・。


「おっ、そうだゼっ!!」


スティールが何かを思い付くと、ウィリアムは下らない事だと思い。


「自分はイヤですよ」


と。


ウィリアムの顔に自分の顔を擦りつけんばかりのスティールで。


「ぬぅわぁ~んで、何も言ってぬぁわ~いのにイヤがるのぉぉぉ~」


「嫌だと思ったからです」


車内で立ち上がったスティールは、ウィリアムに指を向け。


「えぇぇぇいっ喧しいっ!!」


窓に顔を向けるウィリアムは、


(どっちがですか)


と、思うのだが…。


「うぉいっ、ウィリアムっ!! これからは俺に推理を教えろっ!!!! 俺が代弁するっ」


言われたウィリアムは、窓に顔を擦り付けてガクリと項垂れ。 言ったスティールは、さも妙案を思いつたとばかりに威勢を張る。 ウィリアムは、女性が絡むと全ての事が自分中心じゃないと気が済まなく成るスティールに疲れた。


(ハァァァ…、誰か助けて)


この今のウィリアムの疲労は、某一名の暴走に因るらしい。


そんなスティールだが、頭痛に頭を傾けるウィリアムへ。


「処で。 ウィリアムよ」


話す気力が消えかけるウィリアムで。


「なんですか?」


と、やや毛嫌い気味に云うと…。


「お前、あの裁判部のネーサンの手下に案内される時に、奴等が行く迷路みたいな廊下を先読み出来たよな?」


「えぇ。 まぁ」


あの廊下の曲がり角を間違ったら、どう成るんだ?」


「さぁ」


「“さぁ”って、解らんのかよ」


ウィリアムは、煩いスティールをチラ見してから。


「本で読んだモノだと、上から鳥籠みたいな物が落ちてきて捕まったり。 踏み込んだ廊下の逃げ口を塞がれたり・・みたいな?」


「そんなのかよ。 何だか古風な罠だの」


「ま、詳しい話を聴きたいんであれば、あのマリューノさんだかを口説いたら如何です?」


すると、スティールはムッとした顔に戻り。


「うるへぇーーーっ!!! お前に目が行ってるから無理だろうがぁぁぁぁーーーーっ」


ウィリアムは、余計な事を言ったと思った。


宿に戻れば、今日一日は宿で軟禁状態の待機をしに戻ったとだけ説明。 内容が内容なだけに、今は仲間にも云えない。


処が、ロイムとリネットは、どうしても詳細を聴きたがる。 そんなカリカリしたリネットへ、眠気も何のそので言い寄るスティールで。 眠りたいウィリアムの周りで、喧しいワイワイ騒ぎが巻き起こるのだった。


ベットで布団を被るウィリアムは、自分の周りでワイワイ・ガヤガヤと騒ぐ仲間に嫌に為りかける。


(・・だから、事件に関わるのはイヤなんですよ。 もう少し、配慮とか無いんですかねぇ・・。 はぁ~あ)





だが。


この後の劇的な展開は、ウィリアムでも全く予想だにして居なかった。 その展開に向かう出発点は、次の日の夜も明けきらない暗い朝方に出来る。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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