二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~
セイルとユリアの大冒険 1
≪意外にヤバイ?≫
真っ先に有力な情報を掴んだセイル達。 だが、クラークもセイルも、役人が見張る場所と云うのではズカズカ入って行く訳にも行かぬと思う。 だから、斡旋所の主に相談する事にした。
東の空が白み、漸くどんより曇り空の朝と行った雰囲気の空模様。 屋内では、ランプでも点けないと暗くて人の顔が解らない。
雪を払い、斡旋所に戻った3人が見たのは、もうお手上げの様な雰囲気で黙る冒険者チーム数組が、斡旋所内のテーブルに暗く座っている光景だった。
ユリアは、仕事の形式が競い合いなので。 報告はセイルに任せた。
3人がカウンターに向かうと、俯いて憔悴し始めた老人の主が、紅茶の冷めたカップを手にボンヤリしている。
クラークが、先に。
「主殿、主殿!」
と、声を掛けると。
「あっ、ななんっ・・おっ・・・く・クラークか・・」
驚いた顔をして、クラークを見た主の気落ちする様子が良く解る。
「ああ、主殿。 子供達の行った先が解りましたぞ」
俯き掛けた主の顔が、ピタリと止まった。
周りの冒険者達も、テーブルの場所からカウンターを向く。
「ほ・・ホントかっ?!!!!」
クラークは、全てを話してから。
「その行った場所が問題だ。 許可無くして、我々がズケズケ入っては不味い場所かも知れぬと思うたまでに。 近くが、親善大使達が住み暮らす屋敷が有ると聞いたが・・・。 捜索に行って大丈夫だろうか? 周囲への迷惑は、なるべく最小にしたい」
言葉も発せられなかった主は、此処まで言われてから。
「あああっ!!。 あの森に行ったとな・・。 何て・・何て事だっ!!!」
と、勢い良く椅子を後ろに倒して腰を上げた。
主と同じくカウンター内の左奥で書類の整理をしていた手伝いの中年男性も、その音に驚いてクラークと主を見た程に、椅子を倒した音は斡旋所に響いた。
テーブルに着いていた冒険者達は、居場所を知ったからにはと我先に行く態度を見せながら。
「マスターっ、ど~するんだっ?!!!」
「そうだっ、モンスターが出るなら時間を置けないだろっ?!!」
などと、騒ぎ出す。
斡旋所の主は、一同を見て。
「国には・・・これから私が話す・・。 皆・・、先に救出に向かってくれ・・」
「よしっ!!!」
「了解っ!!!」
「手柄は俺達のモノだっ!!!」
20人近い冒険者達が立ち上がった。
ユリアは、情報は自分達なのに。 この変わり様は何だと思う。
しかし、其処に。
「だがっ!!!!!」
斡旋所の主の鋭い声が上がる。
飛び出そうとした一同が、各々動きを止めて主に向いた。
「・・・」
青い顔の主は、物凄い真剣な顔をして一同を見回すと。
「よいか・・。 あの森は、曰く憑きの危険な場所だ。 今までに、何度もモンスター排除で秘かに討伐仕事を出している。 ・・・噂通り、200年近く前からな。 結界が、森を包んでおるが。 この時期は、湖の水温と寒さの狭間で霧が立ち込める上に、陽が出ないからモンスターも凶暴だ。 亡霊・不死のアンデットが出る・・。 行くなら、気を付けてくれ・・・」
数チームの冒険者達20名程は、その話に理解を示して斡旋所を出て行った。
カウンター前のクラークは、幽かに震えながら外に出る支度をし始めた主に。
「そんなに危険な所だったのか・・」
「ああ・・・昔・・・少し有ったらしい・・。 では、至急に王宮に出向いて、許可を聞いてくる。 孫の命・・子供達の命が掛かってる。 クラーク・・お主も無理しない処までは行って欲しい」
「無論だ。 主殿のそんな顔を見るのは今日だけにしたい。 だが、そうなるなら救出の手は多い方がいい。 後から来る皆にも、知らせてやってくれ」
斡旋所の主は、カウンター内に居る中年の皮のジャンパーを着た目つきの鋭い男に目配せを送った。
「心得ております」
男は、頭を下げた。
セイルは、のほほ~んとした口調で。
「では~、行きますか~」
ユリアは、たった3人で大丈夫かどうか心配に成った・・。
セイルを先頭に、雪の舞う外にまた出た3人。
クラークは、白銀製の自分の槍を後ろに見て。
「さて、行くか」
だが、ユリアはセイルに。
「処で、アンタ。 剣も持ってないのに、ど~するのよ」
「あ~。 そう言えば」
今にして、クラークもそれに気付いた。
二人に挟まれて見られるセイルは、笑って。
「あははは、その辺で安いの買う~。 あははは」
あまりののんびりさに溜息を吐いて、通りに出たユリアとクラーク。
其処に。
「どうしたんだい。 もうお手上げか?」
聞き覚えのある女性の声がする。
3人が声の方に顔を動かせば。 青いマントのフードを浅く被ったカミーラが、マントにフードを被る曰く有り気怪しげな男3人を連れた姿で立っていた。
「はあ~・・・また変なの出た」
ユリアは、もう絡む気にも成らないらしい。
カミーラが、ムッとユリアを睨む時。 どうやら尾行され続けていたと思ったクラークは、これ以上は構いたく無いと思って。
「中に入って話を聞いたらどうだ? 進展があったみたいだぞ」
「な・何っ?!」
カミーラは、斡旋所の入り口を見て。 またクラークとユリアを睨んでから。
「行くぞ」
と、後に続く男達を連れて斡旋所の中に入って行った。
さて、カミーラに絡まれる前に雪の降る中歩き出した3人。
クラークは、何よりも不思議に思えたので。
「処で、セイル殿。 お主、何で剣を持たないのだ?」
セイルは、半笑いして繕う。 何やら、訳でも有りそうな顔である。
深々と降る雪を見ながら、呆れた顔のユリアが。
「“ソードクラッシャー”だから・・みたい」
クラークは、“ソードブレイカー”と呼ばれる特殊な武器を思い出し。
「? 剣が買えないのか?」
と。
だが、それを否定するユリアは、首を左右に。
「セイルは、使う剣を軒並み壊しちゃうの」
ユリアの話にその横で、ガックシとショげるセイルは。
「すみま~せんで~す」
これでクラークは、尚更訳が解らなく成った。 困惑した目を前に向け、道行く人などを見ながら。
「“壊す”・・・。 意味が解らないの~」
説明したユリアですら、呆れた顔でセイルを見て。
「アタシも、良く解らないわ。 ただ、セイルの家から近い所に、エルオレウ様は武術道場を作って有ってね。 冒険者とか、剣の腕を鍛えて旅する武芸者の人が、立ち寄って稽古出来る場所が在るの」
「おお、それなら知っておる。 ワシも、行った事があるな。 20・・そこそこの頃だ」
クラークの20歳そこそこと聞いてユリアは、セイルにニッと笑って。
「私達生まれてる?」
セイルは、首を傾げて。
「ギリ・・・手前?」
ユリアは笑って頷きながら。
「其処に来てた冒険者の人と、セイルは時折試合してたんだけど~」
クラークは、昔に見た広い土間の道場を思い出しながら。
「ほ~」
「でもね。 そこに在った練習用の剣を、全部壊しちゃったんだよ」
「それは・・・なんとも」
以外に不器用なのかとクラークは思い、笑いながらショげるセイルを見る。 “エルオレウの孫”と云う期待感が壊れる想いだ。
ユリアは、セイルを悪戯っぽく見て。
「何でも、すっごく達人の人が言うには~。 セイルは素早い動きと身体のバネ。 そして、エルオレウ様直伝の剣術の為か、才能かは解らないんだけど。 太刀筋の角度の鋭さや強さが先行し過ぎてるンだって。 まだ、その太刀筋を支える腕力や身体が出来てないし、その動きとバネから生まれる衝撃を剣に全て乗せちゃうから、剣自体が耐え切れなくて壊れちゃうんだって~」
「ふむう・・・」
クラークは自分の経験を踏まえて、なんだか凄そうなセイルを見て。
「詰り、未完の大器と云う処かな?」
クラークの大そうな言い方にニヤついた顔で細めた目のユリアは、セイルを肘でゲシゲシ突き。
「おい、そんなに凄いの?」
セイルは、恥ずかしがって俯いたままだった。
途中の店にて、大量生産で作られる安物の長剣を二振り買ったセイル。 2本で、700シフォン。
やはり、流れ作業で大量に作られる剣と、一本一本手作りで名匠が作る剣は耐久度も、切れ味も違う。 だが、名匠などが作る個人生産の武器は、世界に出回らない。 しかも、値段が高い。 良い物を手に入れられるのは、限られた者か。 金が必要なのだ。
意外に、武芸に秀でぬ貴族や官僚が驚くべき名品を見得で持っているが。 やはり、全ては金の力である。 一般の冒険者に、そんな名品を最初から持てる者など1割と居ないだろう。
クラークは今の話で、セイルとユリアが隠れて冒険者に成ったと云うのが、現実だったと理解した。 あのエルオレウの孫であるセイルだ。 名品を買う金など有り余る家に縋れば、稀代の名剣ぐらいは持てそうに思える。
さて、雪化粧した白い王城を左に望み。 3人は、王城の裏手、北東の封鎖区域にやって来た。 随分暗さが取れて、感覚としてはどんよりとした曇天の遅い朝ぐらいだろうか。 もう、近寄らなくても人の顔が確認出来る明るさである。
王城の裏側に回れば、其処は整備された林の中。 雪も薄っすらと地面を隠す程の中を行くと・・。 高さ1.5メートル程の石の壁に、頑丈な鉄の有刺格子柵が高き壁の如く伸びている。 入り口のアーチ状のゲートを、役人が立正警備し。 人の賑わいも無いので、雰囲気がガラリと変わった場所だ。
格子柵の向こうには、鬱蒼とした森が雪化粧して見えている。
ゲートに近付けば、鉄の兜に、帯剣し。 頑丈なスケイルメイル(鱗状の金属鎧)を着た装備のしっかり整えた役人が警戒に当っているのが見える。 頭の兜には、雪が引っかかって居る様に着いていた。
クラークは、セイルとユリアでは舐められると思って先頭に立って話し掛ける。
「お勤めご苦労さん」
声を掛けると、背の高い役人がクラークとセイル・ユリアを見てから。
「冒険者か?」
「ああ」
「もしや、昨夜の侵入者の一件か?」
クラークは、セイルを見て頷いてから。 話が早く進みそうだと思いながら。
「その侵入者とは、封鎖されている森に入った者達の事だな?」
「うむ。 人が入ったらしいと報告を受けている」
「そうか。 実はな・・・」
理由を説明したクラーク。
「なるほど。 それなら、此処から左に真っ直ぐ行った所に、閉じられた鉄門から在るから。 其処から入られると良い。 我々の護るのは、親善大使区域に行く門だ」
そこに、ユリアがクラークの脇から顔を出して。
「ねえ。 何で、森は封印されたの? モンスターが出るって聞いたけど・・・。 “ヘイトスポット”(自縛念温床)や、“カオスゲート”(悪魔の門)とか出来たの?」
役人は、少し不安げな顔で。
「嫌、レベルの高い機密情報で、我々にも知らされていないのだ」
ユリアは、役人に同情する。
「うはっ、モンスターの出る理由も解らないで警護しなきゃ成らないの大変だわ・・。 子供達の事は冒険者達が何とかすると思うけど・・。 警備頑張ってね・・」
黙っていたもう一人の年配の役人が、此処で口を開き。
「仕事だからな。 それより、子供が忍び込んだと成るなら事態は深刻だ。 その方達だけで大丈夫か?」
クラークは、公募依頼で100人以上の冒険者達がそれぞれのチームで参加している事を告げてから。
「一応、斡旋所の主殿が国の役人に交渉に行ったが、そなたらも警戒はしておいていいと思う。 お互い、助け合えるならその方が良いしな。 ま、では行かせて貰う。 後から冒険者達が来るやも知れん。 手数だが、同じく教えてやってくれ」
背の高い役人も、年配の役人も、クラークやセイルには気品を感じ。 ユリアには、何かこう親しみを含んだ優しさを感じたのだ。
背の高い役人は、3人を見て。
「解った」
クラークも、向きを変えて。
「もし、怪我無く救い出せたなら。 情報が伝わり易い様に門の見張りの役人には報告する故な」
「済まぬ」
と、云った年配の役人は、内心に。
(随分と人の出来た冒険者だな・・。 さぞ、名の売れた者なのかも知れぬ・・・)
と、クラークに感心してしまった。
≪霙の森で≫
3人は、封鎖された森を前にする門の前に来た。
「ウヒャ~~~、霧が掛かってモヤモヤしてる~」
ユリアは、外見からして、霧に森が包まれて居る様な森に驚いた。 不思議と霧の所為か、雪が霙の様な状態で降っている。 門を潜った先から、霧で見え隠れする森までの間は、伸び放題の芝が赤い実の様な物を付けて、霙の中で濡れている。
寒そうに白い息を吐いて門を護る役人は、門を片方だけ開いて護っていた。
「済まぬが・・・」
クラークが事を話せば、もう数組のチームが森に入って行ったらしい。 どうやら、森の中に入る許可は下りている様だった。
浅くマントのフードを被ったユリアは、森に歩きながら。
「ヤッバイな~。 凄い闇の力が強いよ・・。 これじゃ~光の精霊を呼ぶのは無理。 霧と自然のバランスから見ても、火の精霊も辛いカモ・・」
3人で、門を潜って霧の立ち込める森に近付きながら。 クラークは、ユリアの話に疑問を抱いた。
「ユリア殿」
「ん? なあに?」
「ワシは、今まで精霊遣いには出会った事が無いのだが。 精霊遣いとは、好きな精霊を自由に呼び出せる者では無いのかね?」
聞くと・・。 ユリアは黙った。
「?」
何も返事が返って来ない事で、クラークは、自分が何か悪い事でも言ったかと思うので、ユリアを見ると・・・。 俯いている。
フードを被るセイルが、クラークに説明をし始めた。
“精霊遣い”とは、世界を構成する始祖元素とか大元素と呼ばれる10の属性。 地・水・火・風・光・闇・流・功・星・魔の内、自然の属性の地・水・火・風・光・闇の6属性に宿る“精霊”と云うエネルギーの妖精とも云える者を召喚して魔法を遣う特殊な魔法遣いなのである。
さて、この“精霊遣い”。 ほぼ、99%の精霊遣いとは、精霊を古き言葉の詠唱で強引に契約を結ばせて呼び出す使役型と括られる呼び出し方なのだとか。
クラークは、“使役”とは穏やかでは無いと思いながら。
「随分と強引なんじゃの~」
「はい・・」
精霊は、火と水、地と風、光と闇と云う反属性の法則が在り。 それぞれに自然条件や、地場の影響に因っては、精霊の力を十分に発揮出来ない関係に置かれる。 そんな中で、強引に精霊を呼び出して魔法を遣うと、精霊の体力や意思を無視して使う為に、精霊は死んでしまったりする。 実は、大抵の精霊遣いにとっては、呼び出す精霊とは道具に過ぎないのだ。
精霊は、各自然属性の強い影響下で、まだどの属性にも染まらない生命エネルギーと結び付いて新たに生まれる。 つまり、殆どの精霊遣いにとって、精霊は資源の様な物である。
だが、ユリアや“エルフ”と呼ばれる妖精族の亜種人の中には、この精霊の存在を感じられるだけでは無く。 交信や意思疎通が出来る者が居る。 実にユリアは、特に稀な力の持ち主で、精霊と産まれた時からの友情を育んで来た。 今でも、呼べば精霊がヒョッコリ顔を見せる。
“自然の誠意”と呼ばれるこの才能は、人やエルフ族でも極めて稀な才能である。
だが、その親密な親交故に、ユリアは精霊を使役する詠唱言語は遣わない。 使えないのでは無い。 絶対に遣わないのである。 自分の応呼に精霊が答えるか否かは、任せている。
一般に、精霊遣いでこんな者は居ないに等しいのだ。 だから、同じ精霊遣いすらユリアは嫌う。 精霊達をユリアは信頼している。 精霊達も、ユリアを愛している。 ユリアの、心の誓いであった。
「フム・・。 なるほど」
人間味の深いクラークは、返ってユリアの意思を知る。 同じ友人を、使役したいとは思わない。
さて。 話ながら踏み込んだ森の中は、非常に濃い霧の影響で視界が悪い。 密集した森と云うよりは、整えられていた森の様であり。 木々の間隔は保たれた感じが見受けられる。 寒い霙が降り、森の中では葉っぱが凍って。 霙の水分を雨の如く地面に落としていた。
「あ・・・」
突如ユリアは、ハッと顔を上げた。
セイルも、目を細めた。 にこやかな顔は残すが、やや丹精な顔に変わった。
「何か居るか?」
髪の毛が濡れて、体温との差でモヤを上げるクラークは、前の先から人の声らしきものを聞いた様な感じがしたのだ。
ユリアは、顔を険しくして。
「この気配が・・モンスター? 凄い、禍々しい不気味な魔の力と、死の雰囲気を宿した闇のエネルギー
が固まってるよ・・・」
セイルは、後ろを振り向いて。
「どうやら、あの森の手前に結界が張ってあるみたいですね。 霧に紛れた闇や魔の波動を封鎖区域内に封じる役目をしているようです。 だから、壁際にモンスターが来ないだけなんだ・・。 森の全体には、モンスターを生み出す力が堆積して蟠っています」
そこまで感じられないクラークは、肌に不穏な気配を感じるくらいだ。 魔法遣いでも無いのに、結界の波動を感じられるなど凄い事なのだ。
「セイル殿、お主・・・」
セイルは、自分に驚きの目を向けているクラークに笑って。
「僕は、魔法剣士なんです」
クラークは、一瞬固まった。
「な・・何と」
セイルは、前を向いて。
「エンチャンターであり、剣士ですから。 魔法自体は扱えません。 ですが、剣に魔法を宿す事が出来ます」
エンチャンターが剣士をするのは異例だとクラークは思う。
「本当か? き・・聞いた事が・・・無い」
魔力を飛び道具に宿すエンチャンターだが。 至近武器で使用する者など聞いた事が無かった。
セイルは、前に歩み出して。
「誰か戦っています。 助けが必要なら、加勢しましょう」
「おっ・・おおお・・」
クラークは、セイルに驚きながら返す。
ユリアも、杖を構えて。
「行こうっ」
と、走り出した。
(エンチャンターでも、魔法を武器に纏わせるのには集中が必要だ・・。 その集中を欠かさずして、魔法を剣に宿すなど・・。 出来るのか?)
クラークは、今までの自分の培った知識と情報が、一気に新しく塗り替えられるべく崩壊する様な衝撃を受けたのである。
ユリアも不思議な者なら、セイルも不思議な者だった。
≪モリノナカハ・・・・≫
3人が霧の中を走って行けば。 霧の篭る森の先から戦いの気合の声を発すのが聴こえてきたり、仲間の名前らしきを叫ぶ声がしたりして来た。
「逃げろっ!! リーダーっ、コレは不味いぜっ!!!!」
「ヤバイっ、囲まれたっ!!! モンスターが多いぞっ!!!!!」
男二人の声が、霧の立ち込める前方から次々上がり、
「落ち着いてっ!! 傷は治しますっ!!!」
と、大人びた女性の声が。
ユリアは、セイルの右側から声に近付いたと思った時。
「あ゛っ」
白い霧の中から、突然に数体の骸骨の顔が見えて驚きながら止まった。
クラークは、背中のランスに右手を回して、
「助太刀するぞっ!! どりゃああーーーーっ!!!!」
掛け声を吼えて、走る勢いのままに槍を取り構えて肋骨だけ見えたモンスターの方に槍先を突き出した。
“カシャーーーンっ!!!!”
小気味良い乾いた破壊音が霧の中に響く。
「誰か解らないが助かるっ!!!!!」
霧の中で、少ししゃがれた声をした男性の声が返って来た。
セイルも、ユリアが立ち止まったので霧の正面に剣を抜いて飛び込んだ。
「いきなり~?」
困惑のユリアの肩、腰、足元の左右に小型の浮遊する何かが姿を現した。
「ユ~リ~ア~、や~っちゃえ~」
「ユ~ちゃん、ゴ~ゴ~」
「ユリアは、私が護る」
「フン、ザコだな~」
子供の様な、老人の様な・・・それぞれの声を出すその何か・・・。
ユリアは、その現れた者達を見回した。
「うん、みんなっ。 いっくよ~!!」
笑顔で云うユリアは、杖を構えた。
「水の精霊・“サハギニー”君っ!!!」
と、ユリアが呼べば、
「おいさ~」
ユリアの右足の脇に出た、体長10センチくらいの魚が、二股の槍を構える。 背中は綺麗な緑色の鱗、お腹周りは白い鱗の魚なのだが・・。 鰓と尾びれの近くに蜥蜴の様な手足が生えて居て。 二足歩行で立ち、何と槍を構える見た目愛らしいモンスターの様な生物である。 しかも、顔は何処か鯰っぽい雰囲気で、声がオッサン染みた男の声だった。
ユリアは、杖を構えて天を指し。
「“ウォーターシュート”いっちゃうよっ」
右足の横に出た小型のモンスターも、ユリアに応呼して槍を構えては。
「任せとけっ」
と。
その瞬間、ユリアの頭上にいきなり渦を巻く水が拳大で現れた。
「いっけーっ!!!!」
ユリアと魚のモンスターが、同時に骸骨に向かって杖を振り込んだ。
すると。 人骨の頭部に、短い一本角を持った骸骨のモンスター目掛けて、ユリアの頭上に現れた水の渦から、鏃の様な水の短剣が5・6本飛び出した。 凄いスピードで骸骨のモンスターに向かった水の短剣は、ぶつかる一撃で頭部の骸骨を破壊した。 肋骨、大腿骨、背骨、左足、骨盤を破壊し。 粉々に骸骨のモンスターを粉砕してしまったのである。
すると今度は、ユリアの右直ぐ近くで。
「キャアーーっ!!!!」
絹を裂くような女性の悲鳴が上がる。
ユリアが見れば、霧の中に顔や手の肉が腐って爛れているおぞましい顔の男が。 開きっ放しの口からドロドロした蛆の蠢く唾液の様な黒ずんだものを垂れ流しながら、霧で見え難い白い法衣の様なローブを纏う女性にノソノソと襲い掛かって居た。
「テング君っ!!!」
鋭くユリアが、名前を呼べば。
「お呼びか」
老人の声をした小型の生物が、ユリアの腰の横に出た。
「“ウィンドプリズナー”お願いねっ」
「ウム、承知っ」
ユリアの声に応呼する腰の横に浮いた生物もまた、奇怪だが愛らしいモンスターの様である。 小さい真っ黒な烏の顔が、赤子より小さな身体に乗っている。 右手には、5枚に枝分かれした葉っぱの団扇、左手は素手らしき鋭い爪を鳥の様な手に生やす。 背中には、黒い2対で4枚の羽根が羽ばたき、胴には古代語らしきルーンが刻まれた修行僧侶の様な衣服まで纏う。
しかし、その“テング”と呼ばれたモンスターが団扇を構えると、ユリアの周りにヒュ~っと音がして風のサークルが出来上がった。
ユリアに気付かず、ゾンビから逃げる女性。 グッショリ濡れたローブの背中には、穏やかに微笑む女神が刺繍されている。
「ああっ」
ゾンビに襲われて、必死で逃げる女性僧侶は、霧に見えずにいきなり視界に現れた木に驚き。 左に避けたが土から出ていた木の根に蹴躓いて地面に倒れた。 その時、手に持っていた杖を衝撃で手放してしまう。
「い・・いけないっ」
杖を放して攻撃の手段を失った女性の僧侶は、恐怖に引き攣った顔を倒れ込んだ姿勢から後ろに向けると・・。
“あ゛あ゛あ゛・・・”
不気味な間延びした声を吐いて、死人の目を光らせたゾンビが木の間近に迫っていた。
「あああ・・い・嫌っ・・こっ来ないでっ!!」
魔物にまだ慣れていないのだろうか・・。 女性の僧侶は、腰を抜かした様に地面を這って逃げ出した。
その時だ。
“ヒュ~”っと、女性の顔を撫でて風が走る。
「?!!」
女性僧侶は、目に見える風に驚き。 ハッと後ろのゾンビに振り返る。
「あ・・」
自分の背後に迫ろうとしていたゾンビが、動きを止めて足をもたつかせていた。 その原因は・・・、ゾンビの足元に包み込むような円を画いて疾走する風である。
「あ・・ああ・・かっ・風がっ」
驚く女性。
その女性にも見える位置に、霧の中を歩いてきたユリアが、杖を構えて。
「もう大丈夫よっ」
と、杖を振り上げる。
ゾンビの足元を取り巻いていた風の円が、カーテンの様に包みながら上に伸び上がる。 女性は、その様子に驚くばかりだ。
ユリアの腰の脇に浮く、“テング”と呼ばれた団扇を持つモンスターの様な生物が、ユリアの左足元に控える人形の様に小さな白馬に云う。
「“ウィニーコーン”、手を貸してくれるか?」
青い宝石の様な瞳、純白の翼と身体。 水晶の様な鬣をして、まるで普通の子馬が親馬に思える様な小さき白馬が、純白の翼を動かし頷く様に前に出る。
ユリアは、テングを一度見て頷くと。
「よ~し、一気にモンスターをやっちゃうぞっ」
その声に応呼して、小さき天馬の目が光り。 テングが葉っぱの団扇をゾンビに振り向ける。
刹那。
“あ゛・・う゛・・・”
風に包まれて動けないゾンビの周りを動いていた風のカーテンが、ピタリと時間が止まるが如く回転を止めた。
瞬間。
霧の中で、淡く黄色に光る風の所々から、いきなり対角線を引くように突き出す薄い風の膜がゾンビを貫いてしまう。 外から見れば、風の透明な筒に、直線の罅か亀裂が何十と走った様な印象だろうか。 または、この風の筒を剣で何十回と切り刻んだ様でもある。
そして、一気に風は淡く光出しながら回転し始めてゾンビをバラバラにして灰に還してしまった。 対角線状に伸びた風の膜のいずれかが、ゾンビの弱点を貫いていたのだろう。
「・・・・」
腰を地に着けた女性僧侶は、風が消えて行きながら。 灰と変わるゾンビの残骸をその場に纏めるのを見つめていた。 それは丸で、地面に落ちた枯葉を風が集める様であった。
次話、予告
森の中で、助けたチームのリーダーである男と共に森の中を捜索する3人。 後から来たチームには、カミーラも居れば、試練を乗り越えてきた冒険者達も居た。 霧と寒さが、凍える恐怖を胎動させる。 子供達は? セイル達は、無事に仕事を達成出来るだろうか・・・。
次話、数日後に掲載予定
どうも、騎龍です^^
次回は、ちまっと何処に出ていたキャラを登場させる予定です^^
お楽しみ下さいね^^
感想・ご意見・レビューなど、ありがとうございます^人^
ご愛読、ありがとうございます^人^