★番外編・特別話 六★
番外編 【魔剣を拾った者と、棄てた男】
【二】
異名をキングとか、残存奴・・と云われる男、ルイ。 彼は魔剣を手にして、何故か逃れる様にこのアジュ・ソナヤに来た。
逃げる様な理由の一つは、“カタナ”と呼ばれる剣を狙って襲撃して来た盗賊を殺した御陰である。 だが、この街に来た本当の目的は、他に在る。
では、何故に此処まで来たのか…。 彼の今までの生い立ちと合わせて、振り返る。
彼は、マーケット・ハーナスで生まれた。 セイルの家と同等の大商人が、古き昔から財力を誇示する為に行なってきた慈善事業の一環で在る孤児院に引き取られた。 別の大店の跡取りが、娼婦にのめり込んで出来た子供であり。 娼婦もまた堕胎は偲びないが、育てるのも面倒と云う理由で出したのだ。
ルイは、無口な子供だった。
だが、それでも引き取り手が有り。 引き取られたのは、兵士を束ねる軍の幹部の家だ。
細かい話をするなら、彼の父親で在る大店の血筋と親戚に成り。 病気で一人娘を無くした夫婦が、慰めに身請けしたのである。
だが、これはルイの人生を変えた。 10歳に満たない頃から、剣術を習わせて貰えた事である。 筋の良いルイは、一生を掛けて縋るモノを見つけたのだった。
直に、彼の義理の親に新たな実の子供が出来た。 処が、両親は彼を粗末にする事は無く。 あくまでも家督を継ぐ長男として育てた。 17歳に成ったルイは、義父の跡を継いで軍人として生きる事を望んだ。 また、両親もそれを望んだ。
18歳に成り。 ルイは、正式に軍人の仕官学校に入った。
だが、此処に運命の岐路が用意されていたのである。
若くして入隊希望をする若者の中に、ルイの本当の父親が愛する息子が居た。 詰まりは、ルイとは異母兄弟に成る。
実力で仕官の道を掴み取ろうとするルイに比べ、向こうは金の力だった。
そして…。
ルイの実父がする不正が発覚する。 軍部の一部を巻き込んだ不正に、ルイの義父も容疑者として拘束されたのだ。
処が此処で、不思議な事が起こった。 ルイの実父は、何故か微罪と為って罰金刑に成った。 しかし、義父は、実刑を着せられて北に流される。
一方。
ルイの弟はエリートではないが、安定した出世の出来る部署に採り上げられた。 なのにルイは、義父の不正を理由に兵士にも成れず。 養成学校を途中退学させられたのである。
巷の噂では、何か汚い事が捜査する者に在ったと…。
だが、それも直ぐに聞こえなくなる。
ルイは、義母が義理の弟を連れ実家に戻ると云う事を受けて、家族と離れる事にした。 義母は無口なルイだが、実子の様に思ってくれていて。 一緒に来て欲しいと懇願したのだが。 ルイは、新たなる夢を見た。
どこの国でも、剣術等の優秀な者を仕官に採る制度が在る。 かなりの腕前を必要とされるが、その採用者の未来は明るい。 冒険者に成って、腕を磨き。 義父の無念を晴らすべく、その採用に受かる事を夢としたのだ。
処が。
運命は、ルイを冷たくあしらう。
最初に組んだ相手に翻弄され、冒険者と云う全てを信じられなく成ったルイであり。 二年後には、義母が病死し。 その一年後には、義理の弟が首を吊る。 どうやら、実家で虐められていたらしい。 自分の一家に付き従った従者が、ルイを探し回って弟の死より半年も遅れて、ルイはその事実を知った。
孤立化した中で剣の腕を磨こうと躍起に成り、遂には生き残る中では犠牲も必要と割り切ったルイ。 仲間意識と云う性格性に掛けた処の在る彼は、チームと云う団体に馴染めず。 斡旋所の主の提案で一時加入するチームの駆け出しは、足で纏いに成り助けるに値しないと割り切った。 自分を助ける者は誰も居ないと決めつけた事で、独りよがりの意思に固執して行ったのだ。
それでも、生き残って最低限の成功を収めれば、一人でも報酬が貰え。 そして、生還することで、周囲が自分を認め出す事に救いが見えた気に成った。
だが。
何時も何時も、ルイの闘いは孤独であり。 また、強く成る中で困るのが、武器だった。 壊れては新調し、より高い武器を求めては、捨て鉢の様な環境で仕事をこなす。 生活に不自由はしないが、決して高価な剣を買える訳では無い冒険者人生が、長く成った。
そんな半生を歩んできたルイだが、決して彼が思うほどに世知辛い認識は周囲に無かった。 時には、組む事でチームに居続けて欲しいと願ったリーダーも居たし。 不器用なルイの幼さを受け入れる素振りの女性も居た。
つまりは、独りの考えに固執した彼は、それが見えなかった。 それを感じられなかったのだ・・。
彼は、剣術の成長以外の成長を、自分から完全に止めた。 その時点で、本当に強く為る事を止めたと云っても良かった。 その未熟な心は、あの妖しげな魔剣に魅入られる隙を生んだ結果に繋がる。 彼からするなら、それは“遂に在る出逢いが…”と云う感覚であろう。
三ヵ月程前の事だ。
宗教王国クルスラーゲの辺境都市にて、或る事件が起こった事から始まる………。
冬の頃。
宗教王国クルスラーゲ。
慈愛・優愛(友愛)・母性などを司る女神・フィリアーナを信仰する教徒に因って治められる国だ。 他神信仰者も許容し、王都や地方の大都市にも、様々な神々を祀る寺院や神殿が存在する。
この国の北西で、賭博で国家の成り立つ国との国境付近に、領土と云う区切りでの最北限当たる土地が在る。 其処は、モンスターの多さから放置された場所で、古えの時代の頃に滅んだままの都市遺跡が在った。 “古都ロベラムス”と云う名前で、石像建築国家としては最古の部類に入る。 巨大神殿を始めに、モンスターの襲撃を逃れる意味で築かれた地下都市クノックラーは、地上部のロベラムスを凌ぐ広さを持っている。
このロベラムスは、不思議な都市だ。 初めて行く者は、その国家の領域に踏み込んだ瞬間、歩く地面が土から石に変わる事に驚く。 北の呪われた大地ダロダト平原とも近いこの場所は、嘗て“カオスゲート”(呼び名は様々な“悪魔の口・悪魔の道”とも)の開いた場所で有り。 その穴を地中深くまで掘り下げ、魔法で石を置いて封じた場所でも在るらしい。
その為。 封じて監視する意味で都市国家を築いたのだが、その穴から溢れる瘴気がモンスターを産み。 都市に住まう人々を追い出してしまった。
過去数千年・・それ以上に渡り。 この都市遺跡は、盗掘や遺品漁りをする盗賊の温床であり。 また、駆け出しの冒険者などが挑戦と称して挑み、無数の命が散らされている。
毎年、両国の斡旋所が、モンスターの全体数を減らすべく討伐の仕事を出して居るのだが。 意外にも、帰らぬチームが良く出る。
そんな場所に、雪が舞う冬の真下。 荷馬車を率いた一団がやって来た。 荒廃と云うか、荒涼とした雪景色が遠くまで見える。 所々に盛り上がる岩や、雪を被った低い木が有るだけ。 雪が敷き詰められた街道の遥か彼方には、滅びた跡と解る巨大建造物の姿がうっすらと見えて来ていた。
フードの縁に動物の毛が付くオーバーの様な防寒着を着た大柄の肥えた男が、冬の道に耐えられる足の太い他国産馬数頭で大きな荷馬車を引きながら。 白い雪に染まる廃墟の大遺跡へと近付いている。 馬車の行く街道とは、地面剥き出しの荒れ果てたモノで在り。 途中に大岩が転がっていたり、枯れ木が倒れていたりする。 荒野と境が曖昧に成っているので、その道幅と思える領域は広い。
荷馬車の中から。
「もうそろそろ~?」
と、少し低めで、大人びた女性の声がした。
肥えた中年の御者は、荷台車の方に顔を向け。
「後ちょっとだ。 遠目に、ロベラムスが見えてきた」
すると、荷馬車からトーンの高い別の女性の声で。
「しっかしさぁ、アンタも盗掘を冒険者に依頼するなんて、呆れた商売魂だね」
と。
寒さで顔が固まる御者の中年男性だが、これには苦笑いが出て。
「“盗掘”とは、聞こえが悪いなぁ。 死んだ冒険者の遺品集めだ。 大元の依頼主は、斡旋所なんだぜぇ」
「はぁ?」
「途中で合流した手前、良く事情を理解して無いらしいな」
「マジなの?」
「あぁ。 遺品回収は、時々行われるんだ。 ま、殆どが壊れてる上に、持ち主の解らない武器だからな。 回収後は鍛冶屋で鍛え直したりして、自由市場の商人に捌かれる」
荷台車の中に居るまた別の女性から。
「何で、遺品回収なんかするんだろう」
と、質問が湧いた。
風と共に雪がフードの中に入る。 御者の中年男性は、フードを深く被りながら。
「遺品をそのままにしておくと、盗賊なんかがそれを盗んでいく。 モンスターが居ないなら、それでもイイらしいがなぁ。 生じモンスターの巣窟なだけに、盗賊が殺されてモンスターに変わるらしい。 その量が増えると、溢れ出る様に近くの国境都市に向かうみたいだ」
やや間延びした若い女性の声で。
「それは、チョ~不味いじゃんよ」
「んだ。 しかも、冒険者が腕試しと観光を目的に、興味だけでロベラムスに向かう。 その冒険者を目当てにした追い剥ぎや、騙して盗掘の手数に悪党が加えさせる事も珍しく無いらしい」
「マジなのぉ?」
「マジもマジ。 オイが今回の手伝いを請ける前までは、別の商人がこの仕事を請けてた。 所がその商人は、盗掘に来ていた盗賊の集団に襲われてよ。 冒険者が迎え撃ってる間に、奇襲を仕掛けてきた別の賊に殺されちまった」
「うわっ、生々しい」
「おう。 戻った冒険者の話では、相手方に腕の達つ奴が居たらしいよ。 盗賊達とは少し違う雰囲気で、冒険者と思える感じだったってさ」
「うはぁ。 同業者なのに、何か感じ悪ぅい」
間延びした若い女性の声で感想が出た後。 今度は、少し低い声の男の声で。
「何で、冒険者って云えたんだろうな」
御者の中年男性は、一度だけ聞いた話を思い返し。
「確か・・、背中に珍しい剣を背負ってたってさ。 弓形に反った剣とか」
「おいおいっ、そりゃ~“カタナ”じゃないか? 凄い高価な剣だぞっ?!」
すると、最初に会話をし始めた女性の声で。
「でも、何で背負ってるのよ。 んじゃ、戦ってた時に使った武器は、別物って事?」
「さぁ~、其処まではオイにも解らんよ~」
荷馬車の中と外でこんな会話が続けられていた時だ。 一面雪景色の荒涼とした平原の様な所々に有る低い木々や、盛り上がった岩場の影から何かが飛び出して来た。
「あぁっ?! 何だァっ?!!」
遠目だが、御者の男も何か動く黒いものがハッキリ見えた。
馬車の中に居る冒険者達は、急に御者が大声を上げた事で一気に緊張し。 最初に喋った女性の声で。
「どうしたのっ?!」
別の男の声で。
「何が有ったっ?!」
轡を引き絞る御者は、
「何だか解んねぇーがっ、来るどぉぉぉーーっ!!!!」
と、馬を強引に止める。
白銀の世界の中で蠢く黒い何かが、馬車の行く手を塞ぐ様に街道の上に出て来た。
「野郎どもっ!! 武器を奪えっ、女は拐えっ!! 死ぬ事にビビるんじゃねぇぞぉぉぉぉーーーっ!!!」
「うらぁーーーっ!!!」
二十人ぐらいの大人数の声が上がった。 盗賊の襲撃が起こったのだ。 街道の先に、雪を黒く染める様な盗賊の姿が浮かんだ。 御者は運転を止め、逃げる様に荷台の方に向かった。
盗賊たちは、冒険者が一緒に居るのを見越して襲撃を仕掛けた。 これは、金目の物を旅人などより、冒険者の方が多く持っている事を知っていての事だ。 大抵チームなどと云うのは、2・3人から、5・6人。 多くても7人位。 盗賊達は、数で押し切ろうと云う魂胆である。 武器に毒を塗り、相手に女が居れば拐って犯し、売り飛ばす。 それぐらいしか、もう頭をを掠めない輩達。
だが。
「よしっ、早速出番だよっ」
「解ってるゼっ」
「前の奴らの敵討ちだっ」
盗賊達が馬車に近付く頃。 馬車の前には、武装した冒険者が壁を作って待ち構えて居た。 紅い髪に片目の眼帯をした剣士風の女性が、白いマントを風に吹かれながら。
「みんなっ、とっ捕まえろっ!!! 打ち首の奴らでも、生きて突き出せばずっと金に成るっ」
「おーーーっ!!!」
「やったるでぇっ」
その掛け声に反応する者は、10に届いて居た。
ファランクスチーム“レネイデロ・エルフェナイン”。 クルスラーゲ国内を中心に、博打王国にも顔を出し。 “根下ろし”の冒険者を絶えず数名加えている多人数チームだった。 今は、冬で畑も出来ない季節。 賞金稼ぎや出稼ぎかてらで仲間が増え、18人と云う大所帯に成った一団が彼等である。
「ミュィール。 周囲は任せろ。 奇襲は、全てこっちが潰す」
魔法を扱える4名の男女の一人が、荷馬車の脇や後方に散って行く仲間を見ながら言った。
この遺跡周辺に出る盗賊は、無条件で賞金首だ。 奪った物を売り捌く所から、もう大体の面は割れている。 この遺品回収では、腕が有るなら盗賊を捕まえた方が金になる。 しかも、人。 しかも、同業者を食い物にする盗賊など、普通の冒険者からするなら敵でしかない。
雪が舞う白銀の世界で、大激戦が巻き起こった。
…。 それから、10日後。
凶悪な盗賊集団が処刑に成った。
ミュィールと云う女性が率いる冒険者のチームに、盗賊の集団が捕まった。 御者と彼等の話に出た事を、観念間際に誇張して語る賊が数人居た。 どうやら、彼等に殺された商人を護衛していた冒険者達は、命からがらで逃げた訳だが。 更にその前にも、別の冒険者2・3人が、やはり違う仕事を請けてロベライムへと向かっていた。
これは、裏を斡旋所で取りハッキリした事なのだが。 3人の男だけのチームが、確かに雪が降り始める頃に請けていた。 その依頼が少し変わっていて、遺品回収では無く、何かの目的で遺跡に向かった骨董屋が居て。 その老人が、もうひと月も戻らない。 遺体だけでも回収して欲しいと云う特別な依頼だった。
先ず。 その消えた骨董品店の主である老人は、何かを人伝に買ったらしい。 その後、立て続けに家族へ不幸が襲ったとか。 周囲へ詳細を勿体ぶって話さなかった老人だが、不幸続きからか何かに怯え出したと云う。 そして、いきなり…。
“ロベライムに行く…。”
と、家族に残し。 店を放り出して消えたのだ。
この行方捜査に、その3人のチームが選ばれた。 たった3人だったが、腕に覚え在る者達で、主も安心していたらしい。 機転の利く魔法遣いをリーダーに、怪力の戦女神を信仰する神官戦士に、傭兵の腕も確かな背の高い無口と云う3人。 下手な数だけ多い駆け出しより、頼りに成る者達だった。
が。
遺品回収の仕事を請けて、途中で盗賊に殺された商人。 彼は、先に行って消えた老人が、何を買ったか知っている話しぶりだったと云う。 しかも、遺品回収の時。 遺跡で、先に行った3人の冒険者の容姿をそれとなく語り。 まだ錆び古していない武器も在ると、目の色を変えて遺骨や遺体を探し回ったとか。
しかも。
盗賊の狙いは、商人が掻き集めた遺品だったが。 奇襲を仕掛けた目的は、寧ろ商人だった思えると云う。
また、処罰を受けた盗賊も、独りで旅する剣士が“カタナ”を持ち。 何故か、遺品の強奪に力を貸すと言ってきた事に、ある種の違和感を持った事は確かだった。 だがその剣士は、盗賊の心を読み。 神懸かり的な要素を見せたので、彼らも戦って勝てる気がしなかったと。 覆面で顔を隠し、上等な長剣を腰に佩いていたのが印象的だったと言った。
結局、その異国の武器である“カタナ”を持った何者かは、賭博で成り立つ王国に消えたと云う報告で、消息は追えなかった。
これが、事件の表舞台である。
では、裏はどうだったのか。 此処で出てくるのが、ルイだった。
ルイは、賭博で成り立つ国に入り、名剣を探していた。 稀代の名剣。 揺るぎない剣。 他の有名な冒険者や有名人が持つ様な剣が欲しかった。 自分には、もうそれを持つ腕が在る。 持てば、高みに突き抜けられると思うように成り始めていた。
だが。 こんな彼に、多くの知人が居る訳でも無い。 そこで、賭博で有り立つ王国に入ると、遺品回収を行う商人を訪ね回った。
ルイはこの国で、数多くの遺品回収の助太刀に加わった経緯が在った。 その伝で、ルイ自身がが手を掛ける事に成る商人と会った。
晩秋の夜。 木枯らしも吹く中で、ボロい店の裏でその中年の商人と会ったルイは。
「久しぶりだな。 こんな夜更けに訪ねてきて、済まないと思っている」
と、その商人に言った。
商人の名は、トルバン=グラントス。 店の名前も、“トルバン商店”。 盗掘品から、正規の遺品回収で払い下げられた中古の武器や防具を扱う商人で。 その意地汚さから、ヴェルゼィバーブ(死蝿)のトルバンと裏で云われる男だった。 遺品回収から死体探しまで引き受ける男で、飲み屋の女に対しては金をチラつかせての強権。 冒険者に対しては、面従腹背の姿勢でヘコヘコする人物だったとか。
遺品回収を請け負う商人の中でも、クルスラーゲと賭博で成り立つ王国の両国に跨って依頼を請ける商人は、この男唯一人。 大都市の斡旋所では、不正もしずらいのだが。 地方都市に成れば、金の力が効いてくるのを知り得た彼だった。 俗に言う“裏金”・“袖の下”と云う金を遣い。 遺品回収の仕事を率先して請けていた。
が。
その意地汚い一面を知るのは、同業者のみ。 冒険者に対しては、至れり尽くせりに近い好意で本性を隠していた。 意外に、それを知らずに訪ねてくる冒険者も多いらしい。
さて。
このトルバンを、剣を探し求めるルイが訪ねた。 これが、一つの起点に成る。 トルバンは、半年程前から売り手を探さない名剣の持ち主を知っていた。 賭博で成り立つ国の中でも、10指には入る大店の若い娘で。 自分の操を奪った或る男が持ってたと云う黒塗りの鞘をした異国の剣を持っていた。 別の国で投げ売りの様に売られたその剣は、誰も抜く事が出来ず。 その剣を目にした娘が発狂的に欲しがり、父親に自殺すらすると云う様な我儘を言って買い取らせたらしい。
処が。
この娘の父親は、美しい娘を早く一人前の妻にしてやりたいと願い。 邪魔なその剣を、そっと誰かに売ろうと売り手を捜して居た。
トルバンは、その剣が喉から手が出る程に欲しかった。 絶対に、桁外れの値段で売れると思ったからだ。 しかし、トルバンはその大店の主に毛嫌いされている。 商人の中でも、意地汚さに掛けては指折りのトルバンである。 格式の有る大店の主からするなら、一番付き合いたく無い人物がトルバンだったからだ。
結局、トルバンは指をくわえ、剣が誰かに譲渡されるのを見ているしか無いと諦め掛けていた。
そして、ルイが訪ねた頃。 既に剣は、クルスラーゲとの国境に有る都市の骨董品店の老人店主へと譲渡されていた。 あまり大店の主と親し過ぎる大きな店の商人に売れば、娘がまた買い戻すと思い。 隣国の面識が有る程度の者に売ったのである。 条件は、娘に二度と売り渡さない様にする事であった。
トルバンは、金で盗賊上がりの者を雇い入れ、その剣の行き先だけは探った。 剣を欲して居る欲望が強すぎたからだ。 そしてひと月経たないそこに、ルイが来たのである。
トルバンは酒を呷りながら、店の裏手の倉庫の中でルイに。
「ダンナ、イイ剣なら知ってますゼ。 ただ、バカみたいに金が無いと、到底買えませんよ」
ルイは、“イイ剣”と聞いては、聞捨て為らない。
「それは、如何なる剣だ?」
「へい。 東方の国で造られる“カタナ”と呼ばれる名剣だそうです。 ただ、今まで誰も鞘から抜いた事の無い剣だそうで。 相当な腕前の誰かじゃ無い限り、無理なんじゃないかと云う噂でさぁ」
その話を聞いた時、ルイは電撃に撃たれる様な衝撃を受けた。
(相当な腕前の剣士………、俺の事ではないか)
この国に来る前。 西の大陸の北に有る国で、凶暴なモンスターを次々と倒したばかりだった。 組まされたチームが、見捨てる程に弱いチームでもなく。 一緒に斡旋所へと戻った彼等から、“キングの剣は無敵”と云われ、上機嫌でこの国に来た。
ルイは、自分ならその剣を抜けると思う。
「店主よ、その剣の持ち主を教えてくれないか?」
酔い始めたトルバンは、眼を坐らせ。
「無理ですよ。 ダンナが世界有数の冒険者ってなら、話は別ですがね。 一匹狼の剣士なんざ、異名が広がっても斡旋所止まり。 チームの名前も付随して有名に成らないと、商人ってのは腕を信用しません」
「うむっ」
力んで唸るルイ。
そんな彼を、細めた横目で見るトルバンは…。
「そんなに欲しいんですかい?」
と、低く探る様に聞いて来る。
「欲しいっ」
小さく拳を握り、声を吐き出したルイで。 それを見てまた呑むトルバンは…。
「なら・・そうですね。 2・3日ほど待って貰えませんか? 宿は、ワタシが手配しますから」
ルイは、そう言ったトルバンをハッと見て。
「手立てが有るのかっ?!」
邪気の無い顔をして、酒を呷るトルバンで。
「・・うぃ~。 さぁ、一応……考えて見まさぁ」
「おぉっ、そうかっ」
人を信じれずに、一人で動いて思い上がる彼なれど。 こうゆう所では、まるで子供騙しに引っ掛かりそうな純粋さを見せる。 それが、彼の人生を狂わせている事も知らずに。
この直後。 剣を売られた骨董品店の老人店主が、言動をおかしくさせて行く。 それを聞いたトルバンは、ルイを引き連れてクルスラーゲの方に移動した。
老人店主を見晴らせるトルバンは、彼が一人で雪が舞い出す中を、何故か逃げる様に旅出す事に付け入る隙を見出した。 ルイも、トルバンも、老人店主がどうしてしまったのかは解らない。 だが、これはまたとない機会だった。
トルバンは、ルイへ。
「ダンナ。 一人で追い掛けて、剣を奪ってはどうでしょう。 なぁに、相手は老人。 遠くまで行かせて、雪の中に放り出せば何れ死にますよ。 ダンナはジジィに手傷でも負わせて、放り出せば宜しいんでさぁ」
と、誘惑を掛けた。
剣に目の色を変え、欲望の拗れから焦れて来ていたルイは、その口車に乗った。
処が、だ。
トルバンは、裏で別の一計を実行した。 盗賊上がりの者を遣って、地方の遺跡に潜伏する盗賊集団と連絡を取り。 老人とルイの始末を依頼したのである。 自分の名前が全く出ない様に偽名を遣い。 その盗賊上がりの者も、繋ぎが出来上がると悪徳冒険者を雇って始末する。
そして、半月後。 何も知らないトルバンは、老人の始末は出来たと云う話を受け。 遺品回収で、老人を探しに行った冒険者達の持ち物。 ルイの装備品。 そして、老人の持ち出した剣。 全てを回収すべく、何も素知らぬ顔で回収依頼を請けたのだった。
だが、トルバンの誤算は大きかった。 あの剣が、意思を持った“インテリジェンスウェポン”だと云う事を知らなかったのだ。
それ故に、口封じに返り討ちにされたのである。
★
ルイの剣を手に入れた詳細を綴ろう。
北の大陸は、世界でも雪が降り始めるのが早く。 そして、その期間も長いのは当然だ。
まだ、晩秋の魔の月。 その中旬。
(雪の中をあの馬で行くと為ると、そうは早く行けないな)
地方都市を出た老人を追うルイは、脚の細い馬で出た馬車を見てそう思った。 だが、雪はまだ降り始め。 交易路として主要街道の間で襲えば、何かと自分に不利益が生じると読んだ。
そこで。
老人が馬を休める為に、野営所で休憩している時を狙って声を掛けたルイ。 老人は一人で孤独な旅立ちをした上に、従者すら雇わないままだった。 少ない語りだが気遣いを見せたルイに、老人はロベラムスまでの護衛を頼んできたのだ。
(やはり、話し掛けて正解だった)
渡りに舟と思うルイは、態と自身の懐の寒さを露呈し。 多くない金を要求した。
冒険者にものを頼む以上、金無しで頼むのも悪い。 しかも、金と云う物が絡めば、一つの契約が成り立つ様に思える。 老人は、戻ったら大金を払う事を約束する。
この契約は、互いに手を握った一つの証で在り。 達成すべき目的が出来た共同体に成ったと云う事に近い意味を生む。 疑い深い者は、疑うだろうが。 助けが出来たと思う者は、安心を得る。 剣を隠し持って出た老人は、安心を得た。
馬車を一人で動かす老人の脇にルイは座り、街道を行く日々を過ごす。 行商人や輸送する馬車が行き交う街道で老人を殺せば、ルイがこれから生きる上で大きな重荷を背負う。 老人が死んだ事を、出来うる限り表沙汰に成らない様にしなければ成らない。 古代遺跡ロベラムスには、街道の途中から別の街道に入る必要が有り。 其処までは、素直に付き従うままに居る方が良いとルイは思った。
老人は、馬車の何処かに剣を隠していると思えた。 だが、野営をする時でも、老人は剣らしき物を見せず。 また、ルイを荷馬車の中には入れなかった。
さて。
一緒に旅をし始めて2日目。
小雪が時々チラつく街道を行く馬車の上で。 猫背で、衣服に埋もれている様な厚着の老人は、毛糸で編まれた耳当ても有る帽子を被り。
「しかし、御宅さんも若いね。 鎧なんかの武装はしてるが、マントだけでこの寒さを何とも思わないなんて」
と、老人が云う。
ルイは、朝に霜で凍る道端の草が、雪をうっすら被る景色を見ながら。
「故郷を捨ててから、もう10年ではきかない。 幾度も寒い冬は越したからな、冬の入りでは寒いとも思わない」
頭に着いた雪が溶け掛けたままに凍る氷を拭くルイは、通り過ぎる馬車に眼を移す。
「そうかい。 流石に、若い」
雪が街道に落ちるので、車輪を滑らせない様に馬の走る速度を遅くした老人。 のんびり旅の様で。
“死にに行く”
と、老人が云ったのが嘘に思えた。 大体、死にに行くなら、払う約束の報酬がどうなるのか。
あまり人と話さないルイだが。
「御老人。 所で、何の用でロベラムスに? 彼処は、盗掘を目的に来る賊と、腕試しや観光に来る冒険者しか用しか無い場所だと思ったが」
すると、手綱を握る老人は、徐に俯き。
「ある物を棄てに行きます」
と、か細い声で云った。
「? “棄てに行く”? それなら、死にに行くのとは違うではないか」
ルイは、用向きが依頼の名目と食い違うと思う。
所が、老人はルイを見て。
「もう巻き込んでしまったから、余計な隠し事はしない事にしよう」
「ふむ」
ルイは、剣の事で何か曰くが在るのかと思った。
老人は、時折擦れ違う馬車や旅人などを気にしながら、旅立つまでの経緯を軽く語った。
老人は、或る知人筋から素晴らしい武器を払い下げられた。 値段からするなら、恐らく数十分の一ぐらいの価格だと思われる。 その知人は、剣を何処か遠くに売り払って欲しいと云う要望が有った。 その要望の真意は、近々結婚する娘が探しても、決して見つからない様にとの事ならしい。
ルイは、質問は控えてくれと言われてしまったので、質問はしなかった。 だが、内心で。
(トルバン殿の云う事と同じだな)
と、認識した。
だが。
話続ける老人の様子が、此処から暗く成る。
老人は、その剣を一目で気に入った。 異国の珍しい武器で、噂に聞く処にこの武器を扱うには、剣術に特に秀でた腕前が必要だと聞くのだが。 正しく、その噂に似合う妖しい魅力を湛えた武器だと思った。 密かに保管し、世界に羽ばたく冒険者に進呈し。 商人として、一生に一度の名誉を求めてみたいと思ったらしい。
聞いているルイも、その話が馬鹿らしいとは思えなかった。 昔から語られる冒険者の伝説には、時として武器を譲る商人や鍛冶屋の話も多い。 運命に引き寄せられた様に脚色されて伝わる話だが、世界に名を馳せる冒険者に武器を譲れる名声は、武器を扱う商人には誇れるものと言われていた。
処が、だ。
老人がその武器を保管しようと仕舞う時、声が聞こえたらしい。
“我ヲ何処ニ隠スノダ? 我ニハ、確カナ主ガ居ルノダ”
不気味な声だった。 何も無い宙を這い蹲る様な声の聞こえ方で、老人は地下の保管庫で腰を抜かしてしまった。 剣を地下に隠した老人だが、不気味な声は夜な夜な老人を悩ませた。 呪い殺すと言われたり、剣を誰か人の手に渡せと聴こえたり。
そして。 武器を手に入れ、声が聴こえる様に成ってから、直ぐに不幸が立て続けに起こった。
老人の妻が、保管庫で死んだ。 足を滑らせる様な所では無いのに、頭を強く打ち付けてで有る。 息子夫婦の二人が、暴れ馬に蹴られて大怪我をするし。 孫が原因不明の高熱を出す。
たった半月足らずの間にだった。
老人は、方々に不気味な武器の事をそれとなく聞きまわる。 大店の事も、武器の詳細も語らず。 只、喋る武器が在るのかと聞きまわる訳で。 周りの商人や知人からするなら、老人が立て続けに起こる不幸で、気がおかしく成ったのではないかと噂した。
此処まで聞いたルイは、インテリジェンス・ウェポンの事を少しだけ知っていたので。
(なる程、噂に聞く意思を持った武器と云う奴か。 持ち手を選び、気に入られなければ何百年でも扱われ無いままに在ると云う物だ…)
ルイは、愈々まだ見ぬ武器を思って身震いをした。 その武器を扱える様に成り、世界で自分が有名に為る。 …その姿が、瞑る瞼の裏で見える様だ。 自分が今まで受けた仕打ちが、全て報われると思える。
この間も、老人の語りは続く。
老人は、武器を誰かに売ってしまいたかった。 だが、人に仇を成す武器なら、おいそれと誰でもイイと云う訳に行かない。 この老人店主は、流石に大店の主が認めた人物だけ有り。 人を犠牲にしてでも、自分が助かろうと云う心を拭い棄てた。 信用を保ちながら、この武器がもう誰も祟らない様にするには、何処かに棄てるしか無いと思ったらしい。
ルイは、もう途中から老人の話を聞いてなかったが。 老人は、危険な武器だと云う事を、懇懇と話続けた。 武器は、自分を棄てるなら、老人を呪い殺すと脅しを掛けてきた事にも触れた。
街道に望める景色が、冬景色と変わる頃合いの中。 老人の話は、終わり。 ルイの妄想は続いた…。
ルイと云う狼と、死を受け入れた老人の旅は、更に数日続く。
老人の決意を聞いたルイは、老人が剣を棄てた時を見計らう事にした。 トルバンは、殺して奪えと云ったが。 今まで足手纏いを切り捨てて来たルイも、幼い頃から叩き込まれた教えの断片がプライドとして残る。
“見捨てるのと、手を掛けるのは違う”
された側からするなら、どちらも同じ様な事なのだが。 それでも、本人からするなら、守るべき掟が有る。 自分を育てた両親の事などを考えると、最後の一線を超える事は出来ないと思い続けたルイだった。
人には、それが綺麗事でも、個人的で勝手な理由でも必要な物が在る。 それが弱いながらも、最後の一線を超えさせないモノならば、確かに必要なモノなのだ。
現に。
「御老人。 ロベラムスまで、もう少しだ。 馬車を扱う意味でも、体調を壊されるな」
ルイは、老人を殺す必要は無いと思ってから、奇妙な緊張が解れた。 旅に慣れぬ老人へ、細かい世話を焼く。 凍った干し野菜や肉を、慣れた経験から少ない水で食べ易い様にしたり。 雪が積もり始める中で、馬車の停める場所を夕暮れに探したり。
今までのルイなら、此処までしなかっただろう。 だが老人を殺さずに家へ返し。 こっそりと剣を奪い。 何事も無かったかの如くこの国から逃げる算段を考える内に、老人の世話を自然としていた。
恐らく、老人の気質が育ての親である義父と似ていた部分も在るだろうし。 この老人に疑われては、殺すしか無くなる事が嫌だと思う処も在る。 剣を棄てる者と、拾い奪う者の間に、不思議な関係が出来上がった。
しかし、この関係も長いものでは無い。 その終焉は、突然に襲ってきた。
それは、二人が一緒に成ってから、8日目の夕方である。
ロベラムスへ向かう街道は、もう何処の国の管轄でも無い。 モンスターの巣窟で在る広大なダロダト平原や、その周辺の山間部に分け入る玄関口で在る為に、この街道は石造りだったのだが、今となっては石も殆ど壊れて剥げ荒れ果てている。 街道の一部には、丘から雪崩て来た土が盛り上がっていたり。 岩が街道のど真ん中に在ったりして、所々で街道の道幅を狭める。 偶に見掛ける丘以外では、街道の周囲に見られるのは荒野の様な周囲の草原地帯。 背の高い枯れ草が残り、其処に雪が降って白い壁を作っていた。
さて、夕方に成ったので、寝泊りする場所を探し始めるルイと老人。 老人が馬車の馬に餌を遣りながら、街道沿いに落ちている枯れ木などを探し。 ルイは、ポツンポツンと街道沿いに生える低い木を見たり。 何処かに馬車を隠せる場所はないかと歩く。
もう薄暗い中で、ルイは奇妙な感覚を覚えた。 強いて云うなれば、危険を察知したと云えば良いか。
「御老人、周囲には気を配られよ」
注意を促す意味で、そう云った。 もう、街道を警備する兵士なども居ない領域だ。 何が起こっても不思議では無い。
「はいよ。 此処で死にたくは無いですからな」
老人は、薪と為る木を拾い上げながらそう云った。
しかし、それは突然に起こる。
(強者ヨ。 我ガ声ガ聴コエルカ?)
枯れ草の茂みや、右手に見える丘の上を見回すルイの耳に、不気味な声が聴こえて来た。
「ん?」
声に気が向いたルイ。
だが、この時に右手側の丘から、人影が飛び出して来る。
「あぁっ!」
老人が、その蠢く人影を見て驚く。
そう、野党の襲撃が起こったのだ。
しかし、ルイの耳には、また声が聞こえ。
(強者ヨ、我ニ従エ。 賊ヲ、殺セ)
その声を聴いた時だ。
「………」
ルイは、何かがとり付く様な違和感を覚えた。 別の何かが、自分の中に入って来る様な…。
野党の襲撃に驚いた老人は、大慌てで馬車の下に潜り込む。
一方のルイは、野党の襲撃の先陣を切って丘を駆け下りてきた長身の者に向かう。 彼に、夕暮れの暗がりで、その野党の姿が見えていたのだろうか。 走り寄り、抜き打ちで掬い上げた剣は、長身の賊の喉笛を斬り裂いていた。
(見える…感じるぞっ)
ルイの全身は、一気に興奮した。 今までに無い感覚だった。 夕方の暗がりに紛れて襲ってくる賊が、何処に居るのかが解るのだ。 しかも、夜目に慣れ切ったかの如く、シルエットとして人の形まで解る。
そして、何よりも。
(何という手応えっ、これが人を斬る感触っ?!)
今までにモンスターを斬って来た充実感を凌駕する、人を斬る事に対して感じる充実感。 剣の一部が肉体を斬る瞬間、電撃に撃たれたかの様な手応えを得る。
「野党共っ、俺が相手だぁぁっ!!!!!」
大声で吼えたルイは、半無心の様な状態で野党を倒した。 その斬って倒した数は、15人。 初めて人を斬る事に成ったルイで在り。 また、斬る快感を覚えた瞬間でも在った。
全身に返り血を浴びて黒く成ったルイは、野党が居なく成った処で老人を探した。 が…。
「あっ、御老人っ」
馬車の下から、ダラリと伸びる皺枯れた手が有る。 馬車に飛び付こうとした野党の一味が、二人ほどその近くでルイに斬られて死んでいるのだが。 その片方が持っていたと思われる手製のボロ槍が、馬車の車輪の間から馬車の下に突き刺さって居た。
「御老人っ、しっか…」
老人の腕を頼りに、体を引っ張り出そうとしたのだが。 既に、老人は死んでいた。 腹部に槍を受け、ルイが野党を斬っている間に息絶えたのだろう。
処が。
(強者ヨ。 我ハ、此処ダ)
また、声が聴こえる。
「…」
ルイは、老人に謝罪を内心で述べ。 それから、馬車の下に手を伸ばした。 馬車の荷台の裏に、何かが在った。 皮のずた袋と思われる物に何か硬く長い物が入っている感触で、ルイがその一端を握った時、その硬いものは剣の柄と思われた。
その何か剣と思われる物を引き摺り出したルイは、死体の転がる場所で皮の袋を剥ぎ取る。
すると。
「お・・おぉっ」
真っ黒の鞘に納まり、弓形の反りを見せる剣が在った。 しかも、やや淡い漆黒のオーラに包まれながら。
(やったっ、俺は遂にっ?!!)
ルイが思う時。 剣から、声が聴こえたのだった…。
どうも、騎龍です^^
ご愛読、ありがとう御座います^人^